ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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長らく音沙汰のなかったあの人が登場します。





第11話「バカと天才は紙一重」

第501統合戦闘航空団において、ただ一人のナイトウィッチであるオラーシャ陸軍航空――サーニャ・V・リトヴャク中尉。通常“サーニャ”は夜間哨戒を終えると、仲間達が目を覚ます時間帯よりも少し早い夜明け頃に基地へ帰投する。

格納庫内でフリーガーハマーとストライカーユニットを片付けてから宿舎へ向かう。

 

「ふわぁ~……」

 

自室を目指して歩を進めていたサーニャは、右手で口元を隠しながら欠伸を漏らす。大口を開けつつも美少女のイメージを壊さない可愛らしい欠伸だ。

上述の通り他の隊員達は隊員のミーナを含めてまだ熟睡中、起きているのは朝練が日課の坂本くらいだろう。

 

「う~ん……」

 

既に半分眠っているサーニャは、おぼつかない足取りで宿舎内の廊下を進んでいく。やがて部屋の前に辿り着き、ガチャッと音を立ててドアを開ける。が、そこはサーニャの部屋ではなかった。

その部屋は、他の501隊員の部屋とは少し趣が異なっていた。不気味な顔の像や怪しい本が並んだ本棚。部屋のほぼ中心には魔法陣を模したようなカーペットが敷かれ、その上に置かれたテーブルには水晶球がある。壁際には香炉、その左右にミステリアスな三叉の燭台が並んでいる。

占いの道具や黒魔術的な雰囲気を醸し出している品々がそこかしこに見られ、まるで童話に登場する悪役魔女のそれであった。これだけ特徴的な部屋の持ち主は個性派揃いの501でも一人しかいない。今にも眠ってしまいそうなサーニャはその持ち主が眠っているベッドへ忍び寄り、そのままドサッと倒れた。体重が強くのし掛かり、ベッドが大きく揺れる。

 

「うわっ!何ナニッ!?」

 

部屋の主であるスオムス空軍少尉――エイラ・イルマタル・ユーティライネンは、突然の揺れに驚き、声を上げて飛び起きた。

 

「サーニャ?」

 

エイラの隣では、下着姿のサーニャがスヤスヤと寝息を立てていた。寝惚けて部屋を間違えたらしい。

 

「ったく、ナニ部屋間違ってンダヨォ」

 

一瞬面食らったような顔をしたエイラだったが、その表情はすぐに呆れ顔へと変わり愚痴を零した。

 

「スゥ~……スゥ~……」

 

うつ伏せで顔を横に向け、サーニャは完全に熟睡状態に入っている。

 

「ちぇ~、今日だけダカンナァ~」

 

そう言ってエイラはサーニャに布団を掛け、ベッドから這い出る。彼女の足元には、サーニャが脱ぎ捨てた衣類が乱雑に散らかっていた。

 

「うぇ~……」

 

エイラはチラッとサーニャの方へ振り返ると、再び衣類に視線を移す。床に膝を着き、眠っている持ち主の代わりに服を畳み始めた。

 

「ホント、今日だけダカンナァ~」

 

と、不平な言いながらもエイラは嬉しそうな表情で服を畳んでいく。

 

――コンコン!

 

「ん?」

 

ふと窓の方から物音が聞こえてきた。エイラは一旦手を止め、窓へ視線を移してみる。カーテン越しにヒラヒラと手を振る人影が確認出来た。

 

「ナンダヨォ、朝っぱらからぁ。シャーリーなのカ?それともルッキーニなのカ?」

 

人影を見たエイラは、シャーリーかルッキーニが朝早くから自分に悪戯しをに来たと思い、不機嫌そうに眉を顰める。

窓の向こうにいる何者かに一言言ってやろうと、エイラはズケズケと床を踏みつけながら窓際に近付き、ガバッと勢い良くカーテンを開いた。

 

「オイッ!ナンダヨ、朝っぱらから!こっちはまだ寝て……」

 

エイラはカーテンが開くのと同時にエイラは大声で怒鳴り散らすが、途中で言葉を止めた。

 

「…………えっ?」

 

エイラは両目をパチクリさせる。てっきり悪戯好きシャーリーないしルッキーニがいると思っていたのだが、窓の向こうにいたのは見ず知らずの男性だった。

男性は梯子を使ってエイラの部屋の窓まで上がってきていた。顔立ちからして坂本や宮藤兄妹と同じ扶桑人。眼鏡を掛けた優男風の中年男性で、顔には火傷の跡らしきものがある。

 

「……えっ?」

 

カーテンが開かれるまでは笑顔で手を振っていた男性はエイラと対面した途端、呆気に取られたような表情を浮かべる。

 

「ウワァッ!?」

 

「うわぁああ!?」

 

思考を停止させた状態で見つめ合う二人が揃って叫び声を上げたのは、顔を合わせて数秒後だった。

 

「ナ、ナ、ナンダヨ!オマエ!」

 

使い魔である黒狐の耳と尻尾を出現させ、臨戦態勢に入ったエイラは目の前に現れた不審者に詰問する。

 

「えっ?あ、いや……これはその!」

 

慌てた様子の男性は両手を顔の前で振り、なんとか弁明しようする。

その時だった。窓に掛かっていた梯子がバランスを崩し、逆向きに傾き始めたのだ。

 

「あっ……ちょっ!そんなぁ~!」

 

男性の悲痛な叫びと共に、梯子は地面へと倒れていった。思い切り背中を地面に打ち付けてしまい、かなり痛そうだ。

程無くして501基地運用群警務隊が駆けつけ、軍事基地の敷地内へ不法に侵入した扶桑人――宮藤一郎は連行されていった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

約30分後、宮藤兄妹の部屋――

 

元々は、芳佳のひとり部屋だったウィッチーズ宿舎の一室。暴走したウォーロックの流れ弾で優人の部屋が半壊して以降は兄妹二人で使っている。

無論、兄妹とはいえ優人と芳佳はそれぞれ成人前の少年と思春期の少女なので、着替えはカーテンで簡単な仕切りを作った部屋の端っこで順番にする。しかし、ベッドや収納等は共同で使っている。

 

「あぁ~……可愛いなぁ♪」

 

ベッド上で、向かい合うようにして横向きに寝ている扶桑の兄妹。その片方――兄の優人は少し前に目を覚まし、起床してからずっと妹の寝顔を眺めて表情を綻ばせていた。

一方の芳佳は、まだスゥスゥと可愛らしい寝息を立てて、夢の世界に浸っている。

気持ち良さそうに眠っている妹を起こすのは簡単だが、まだ起床時間まで余裕がある。それに501部隊の活躍により、ガリアはネウロイの支配から解放され、ブリタニアへの圧力も大幅に低下してる。

第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』は1つの国を守り抜き、さらにもう1つの国を救ったのだ。そして、その一番手柄は、赤城に侵食していたウォーロックのコアを破壊した芳佳のもの。

それだけのことをしたんだ。多少のんびりしたところで罰は当たらないはずだ。

なにより、数日間ワイト島に出向していた優人には、久々に見る妹の寝顔があまりに可愛いくて起こすに起こせない。シスコン兄貴は本日も妹にメロメロであった。

 

「んぅ……」

 

優人が右の人差し指で頬っぺたを突っついてやれば、芳佳は小さく息を漏らす。

赤ん坊の時から変わらずにマシュマロのような柔らかさを保っている妹の頬っぺ。しばらくの間、兄は夢中で突っついていた。もちろん起こさないように優しくだ。

 

「……そうだ」

 

一旦ベッドから降りた優人は、収納から一台のカメラを取り出すと、再び芳佳の横になった。シャッターを押して写真を何枚か撮っておく。

 

「ふふっ……」

 

現像した写真を見せた時の芳佳の慌てた姿を想像すると、優人は自然と笑みを零してしまう。

ふと部屋の壁に掛かった時計に目をやると、時刻は5時50分。起床時間の6時まで、あと10分となっていた。

 

「先に着替えておくかな?」

 

そう独り言ち、優人は身体を起こそうとした。その時だった。

 

「優人!芳佳!大変だ!」

 

バァンと勢い良くドアが開かれ、既に制服姿となっているバルクホルンが部屋に飛び込んできた。

 

「お前達の御父上がっ!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

さらに約30分後、501基地運用群警務隊本部――

 

父親が警務隊に連行されたことは、バルクホルンによって宮藤兄妹に知らされた。

同じベッドで仲良く眠っていた二人を見て、顔を真っ赤にしたバルクホルンが「破廉恥だ!不潔だ!不純物異性交遊だ!」と何か誤解していたようだが、それはまた別の話である。

 

「それで……宮藤博士はどういった御用件で当基地へ?」

 

椅子の背もたれに背中を預けた男性は、愛用の万年筆でコンコンと小気味良くデスクを叩きながら訊ねる。

彼の名はヘンリー・ダグラス。年齢は一郎と同い歳か、少し下だろう。501基地警務隊の指揮官を務めるブリタニア空軍及び人類連合軍大尉である。

デスクを挟んで向かい側には、優人と一郎が警務隊員に用意された椅子に腰掛けている。 既に制服に着替え、身嗜みもキチンと整えている息子と対照的に、父親の方は寝癖で後ろ髪が跳ね、着ている黒スーツは年季が入ってヨレヨレになっている。

デスク越しに顔を突き合わせた相手から事情聴取を受ける宮藤親子の姿は、刑事の取り調べを受ける被疑者のそれだ。

 

「先日、入院していた病院を退院致しまして。ようやく子ども達に会えると思ったら居ても立ってもいられず――」

 

「父は私といも……宮藤軍曹に会うため基地を訪れたそうです」

 

父親の言葉を遮り、息子が代わりに説明する。その口調はやや早口で、朝から騒動を起こした父に内心苛立っていることが伺える。

どうやら一郎は、息子や娘と会いたいあまり朝っぱらから軍の基地に侵入した挙げ句、ちょっとした悪戯心で窓から二人に挨拶しようとしたらしい。

そして、息子達の部屋の場所を知らない一郎はエイラの部屋にサプライズを仕掛けてしまい、結果として騒ぎを聞き付けた警務隊の面々に取り押さえられ、今に至るというわけだ。

 

「それならば、不法侵入などなさらず正門付近にいる歩哨に声を掛けて頂きませんと……」

 

ダグラスは呆れと窘めを湛えた視線を一郎へ向ける。ガリアの解放が成されたとはいえ、ネウロイとの戦争は続いている。戦時下の軍事基地へ不法侵入などしてみれば、見つかり次第即発砲もあり得るのだ。

そもそも一郎は技術者であり、軍事訓練の類いは一切経験していない。決して警備の緩くない501基地に、どうやって誰にも気付かれずに侵入したのだろう。

 

「申し訳ありません。父には、私の方から強く言って聞かせます」

 

不肖の父に代わり、息子が頭を下げる。同時に横目で父親を捉え、睨みを利かせるのも忘れない。

数々の修羅場を潜り抜けてきた人間が見せる鋭い視線と怒気を孕んだ声音は、とても妹の寝顔を眺めてニヤニヤしていた少年のものとは思えない。

 

「ほら、息子さんの方がしっかりされてますよ?」

 

「ははは、面目ない」

 

ダグラスが溜め息混じりにやんわりと窘める。一郎はばつが悪そうに後頭部を掻き、乾いた笑い声を上げる。

 

「あの人が、優人と芳佳のパーパ?」

 

入口付近から室内を覗く影が3つ。ルッキーニ、シャーリー、エイラの三人だ。

 

「なんか、痩せっぽっちだね」

 

抱いていたイメージとギャップでもあったのか。一郎へ向ける目を細め、ルッキーニは訝しがる。

 

「そりゃ、軍属ってだけで軍人じゃないしな」

 

と、シャーリー。彼女の言う通り、根っからの技術屋である一郎は、軍属とはいっても正規の軍人ではない。

軍事訓練の類いを受けた経験はなく、プライベートで身体を鍛えてるわけでもない。

かといって痩せすぎという訳ではないが、体格の良い筋肉質な男性が多数派を占める軍で生活しているウィッチ達からすれば、かなり痩せて見えるのかもしれない。

 

「それにあのおじさん、優人とも、芳佳とも似てないよ?」

 

「優人は養子らしいからなぁ。芳佳は……母親似なんじゃないか?」

 

かような会話を交わしつつ、ルッキーニとシャーリーは一郎の観察する続ける。

 

「ナンデ、“アレ”がワタシ達の基地にいるんダヨ」

 

サーニャとの一時を邪魔されたエイラは優人に負けず劣らず、すこぶる機嫌が悪い。忌々しそうな視線で一郎を睨みつけ、彼を“アレ”呼ばわりする。

第一印象が最悪だったことを鑑みれば無理もないことだが、宮藤一郎は各国から『魔導エンジンの権威』、『ストライカーユニットの父』。そして『人類の大恩人』と評されている。

歴史に名を残してもおかしくない人物を“アレ”と呼ばわりするのは、宮藤理論の恩恵を受けているウィッチとしていかがなものか。

 

「では、宮藤大尉。お父様は……」

 

「ええ、父の身は私がお預かりします。本当に申し訳ありませんでした」

 

優人はもう一度ダグラスに深々と頭を下げる。ガリア解放の英雄たる第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』。その1人である宮藤優人大尉に、二度も頭を下げられることとなったダグラスは恐縮する。

 

「いえいえ……あっ、そうだ。おい、博士の持ち物を……」

 

ダグラスがそう指示を出すと、隣に立っていた警務隊員が綺麗に畳まれた一郎のスーツの上着と財布・手帳等の小物を運んできた。しかし、その中に一つだけ優人の注意を引くものがあった。

 

「ちょっと!なんだよこれっ!?」

 

すぐさま“それ”を取り上げた優人は、一郎を問い詰める。

“それ”の正体は、なんと小型のオートマチック拳銃『ポケットモデル M1906』。その名の通りポケットに収まるほどの小型サイズで護身用拳銃のベストセラーとなりつつある自動拳銃だ。設計したのはリベリオンの著名な銃器デザイナーにしてウィッチでもあるジェーン・ブラウニー。

父のジョナサン・ブラウニーの代から続く、ユタ州のガンスミスの家系に生まれた。ウィッチならではの視点から、多くの先進的な銃器のデザインを行ったことで有名でもある。

 

「何で銃なんて持ってんだよ!?」

 

「ああ。それは赤坂さんから護身用に、と渡されたんだ」

 

「渡された、って……父さんは使い方も分かってないんじゃ――」

 

「何だって?」

 

息子の物言いに少しだけムッとなった一郎は、優人の手からM1906を取り上げる。

 

「父さんをバカにするなよ。銃の使い方くら――」

 

――バァン!

 

「おっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「なっ!?」

 

「ひっ!?」

 

一郎の手に移った銃が突如暴発し、銃口から弾丸が飛び出す。銃弾は壁や天井にぶつかり、室内を数度跳ね回った。

優人は咄嗟にシールドを展開し、ダグラスと警務隊員は頭を抱えて姿勢を低くする。

 

「…………父さん」

 

「安全装置、忘れたな……」

 

父親の護身用拳銃は、その場で息子に没収された。さらに優人による入念なボディチェックの末、他にもカールスラントのM24柄付手榴弾や扶桑の短刀等が出てきたそうな。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

その後、ブリーフィングルーム――

 

聴取とボディチェックが終わり、彼と優人はブリーフィングルームにて芳佳やウィッチーズの面々と合流していた。

ただし、サーニャとエイラは夜間哨戒のシフトに入っているため、夜に備えて就寝中である。尤もサーニャはともかく、早朝の一件で一郎を良く思っていないエイラは、夜間哨戒がなくとも顔を出さなかっただろう。

 

「お父さんっ!」

 

数日前、夢にまでみた再会を果たした父の胸元に、芳佳が今一度飛び込んだ。一郎も口元に微笑を湛え、娘に抱擁を返す。

 

「芳佳、元気だったか?」

 

「うん!お父さんは?」

 

「ははは!もちろん元気だよ」

 

「…………」

 

仲睦まじい父娘のやり取りを前に、宮藤家の長男である優人は無言で眉を顰めていた。

なにやら不愉快そうな表情をしているが、父親が早朝からトラブルを持ち込み、息子の自分に恥を掻かせたとなれば不機嫌になるのも仕方ない。

だが、優人という男は妹に対する独占欲が非常に強いシスコンである。或いは、芳佳に抱き着かれている一郎に嫉妬しているのかもしれない。

 

「父さん。じゃれてないで、他の皆にも挨拶と謝罪を言いなよ」

 

横に目をやりながら言う優人につられ、一郎も左側に顔を向ける。501のウィッチ達が、一郎と向かい合うように横一列で整列していた。

 

「いや~、お騒がせして申し訳ないなかった」

 

芳佳が退かせると、一郎は苦笑気味に謝罪し、続いて自己紹介を始めた。

 

「改めまして。ウィッチーズの皆さん、初めまして。私は宮藤一郎、優人と芳佳の父親で技術者をやっている者だよ」

 

簡潔な自己紹介を終えると、ウィッチーズの中から2人のウィッチが一歩前に出て敬礼する。

 

「またお会い出来て光栄です、宮藤博士。第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』司令、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です」

 

まず501及び当基地司令のミーナが、ウィッチーズを代表して一郎に挨拶する。

一郎とは優人が負傷した際に顔を合わせている。しかし、あの時は緊急を要したため、ゆっくり話をすることが出来なかった。

 

「宮藤博士、お元気そうでなによりです!」

 

ミーナに続いて、副司令兼戦闘隊長の坂本も挨拶をする。彼女もミーナもストライカーユニットの開発者に心からの笑顔で応対した。

軍人でありながら代々音楽家を輩出した家系ゆえ、ミーナは気品溢れて物腰も優雅で柔らかい。対して、武人肌の坂本は気さくで豪放磊落、竹を割ったようなさっぱりした性格をしている。

柔和な笑顔が魅力のミーナと、サバサバとした笑顔が印象な坂本。本人達は気付いていないかもしれないが、それぞれの笑顔は過去何十人ものウィッチやウィザード、その他の将兵達を魅了してきたのだ。

 

「ミーナ中佐に坂本少佐。いつも子ども達がお世話になっているようだね、ありがとう」

 

「そんな、助けて貰っているのはむしろ私達の方で……」

 

軽く頭を下げ、一郎は礼を述べる。後の世に名を残すであろう偉大な人物が見せた裏表のない純粋な謝意。ミーナは思わず恐縮する。

坂本は何も言わなかったが、フッと口元に笑みを湛えて「まったくだ」と心中でミーナに同意していた。

 

「君達が、雷鳴轟く第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』のメンバーだね?」

 

一郎が他のウィッチへ視線を走らせると、まずハルトマンが声を上げた。

 

「どぉもどぉも♪」

 

「おい、ハルトマン。ちゃんと挨拶せんか」

 

気の抜けた挨拶をするハルトマンを、すかさずバルクホルンが叱りつける。

 

「申し訳ありません、宮藤博士。私はカールスラント空軍大尉ゲルトルート・バルクホルン大尉。こちらはエーリカ・ハルトマン中尉」

 

戦友の非礼を詫びつつ、バルクホルンは自分達二人の自己紹介を済ませる。

 

「バルクホルン大尉とハルトマン中尉だね。501のWエースにお会い出来るなんて、光栄だよ」

 

「そ、そんなっ!?滅相もありません!」

 

ニッコリと穏やかな微笑みを見せる一郎。その笑顔が眩しく感じ、バルクホルンの心臓がドキリと高鳴った。

 

「わ、わ、私こそ!ストライカーユニットの父と名高い宮藤博士にお会い出来て……こ、光栄でしゅ!」

 

「あ、トゥルーデ噛んだ」

 

「うるさいっ!!」

 

客人の前だというのに、ついいつもの感じでハルトマンを怒鳴ってしまう。

自分が醜態を晒してしまったことにすぐ気が付いたバルクホルンは羞恥心から頬を紅潮させ、「か、重ね重ね失礼しました」と僅かに目を伏せる。

 

「まったく、騒々しいですわね」

 

と、呆れた様子のペリーヌが溜め息を漏らす。Wエースを横目で見据えつつ、挨拶をするため一郎の正面へ移動する。

 

「初めまして宮藤博士。私は自由ガリア空軍中尉、ペリーヌ・クロステルマンと申します」

 

制服の裾を摘まみ、恭しい所作でお辞儀をする。俗人がやっても滑稽なだけだが、彼女がやると絵になる仕草だ。

ウィッチとしての才以上に、高貴な血を受け継ぐ者だけにある気高さと気品がペリーヌには備わっている。

 

「名前は以前から存じ上げておりましたわ。こうしてお会い出来るなんて、夢のようですわ」

 

「僕も知ってるよ。パ・ド・カレーを治める貴族、クロステルマン家の令嬢。噂通りの美人さんだ」

 

「い、いえ。そんな……」

 

美人と言われ、ペリーヌは恐縮したように白い頬をほんのりと赤く染める。

堅物なほど生真面目なバルクホルンと高飛車なところがあるペリーヌ。早くも二人の心を掴んでしまうとは、ひょっとすると優人の人たらしっぷりは一郎の影響なのかもしれない。

 

「じぃ~……」

 

「ん?」

 

ふと低い位置から視線を感じて、一郎は目を向けてみる。目線の先では、ルッキーニが一郎のことを上目遣いに注視していた。

 

「おや?お嬢さん、僕の顔に何かついているのかな?」

 

「その傷どしたの?」

 

「ああ、これか……」

 

ルッキーニが顔の火傷を指差して訊ねると、一郎はハハハと乾いた笑い声を上げながら応じる。

 

「爆発事故で火傷してしまってね」

 

実際のところ爆発は事故などではなく、かつて一郎の助手を務めた扶桑の技術者であり、ウォーロックの開発者でもある石威紫郎が引き起こしたもの。

ウォーロックの先代機『イリス』及びネウロイに関する研究資料とコアを持ち出すために仕掛けられた人為的な爆発だったのだ。

 

「ふ~ん……」

 

「歴戦の兵士みたいでカッコいいだろう?」

 

「ううん、変」

 

「あれ?」

 

褐色美少女のストレート過ぎる物言いに、思わず一郎はずっこけそうになる。

 

「あっはははは!そう言うなよ、ルッキーニ。男前でいいじゃんか」

 

豪快な笑い声と共に、シャーリーが会話に割って入った。

 

「扶桑じゃ、“傷は男の勲章”……なんですよね?」

 

「君は?」

 

「あたしは、リベリオン陸軍大尉のシャーロット・エルウィン・イェーガーです。こっちはロマーニャ空軍少尉のフランチェスカ・ルッキーニ」

 

ルッキーニの頭をポンポンと軽く撫でつつ、シャーリーは二人分の自己紹介をする。

 

「ボンネビル・ソルトフラッツで世界記録を樹立したかの“クイーン・オブ・スピード”まで……さすがに501は有名人揃いのようだね」

 

「宮藤博士こそ、世界的有名人じゃないですか」

 

「いやいや、僕はそれほどの者じゃないよ」

 

と、謙遜する一郎は、然り気無くシャーリーに訊ねた。

 

「今はストライカーユニットでの新記録を目指しているのかな?」

 

「はい、改造したP-51Dで音速突破を目指していて」

 

「ウィッチ自らストライカーのチューニングをするのか?」

 

「昔から機械いじりが好きで……」

 

周囲を置き去りにして、話を弾ませる一郎とシャーリー。技術者と航空ウィッチという立場の違いあれど、機械への造詣が深いという共通点を持つ二人はとても気が合うようだ。

自らの挑戦をバイクの世界記録樹立で終わらせず、空でも最速を目指すシャーリーと、新型の魔導エンジンやストライカーユニットの開発に情熱を燃やす一郎。

何かに挑戦し続ける者同士で通じるものがあるのかもしれない。

 

「芳佳ちゃんのお父さん、素敵な人だね」

 

501のウィッチ1人1人に対し、紳士的に接する一郎の姿を見つめながらリーネが言う。

 

「えへへ♪ありがとう、リーネちゃん」

 

芳佳は照れ臭そうにはにかむ。父のことを親友に褒められるのは中々にくすぐったいが、それでも彼女の笑顔は誇らしげだった。

 

「そして……君がリネット・ビショップ軍曹だね?」

 

シャーリーとの会話が一区切りついたところで、一郎はリーネに声を掛けた。

 

「ひゃっ、ひゃい!?」

 

リーネは軽く肩を跳ね上げ、裏返った声で応じる。突然話し掛けられて驚いたのだろう。

 

「この基地で芳佳の最初の友だちになってくれたみたいだね?本当にありがとう」

 

一郎はリーネの前まで歩み出ると、彼女の両手を握った。

 

「いえ、そんな……」

 

「コラッ!どさくさに紛れて触るなよ」

 

優人がすぐさま二人の間に割り込み、一郎をリーネから退かせる。

 

「なんだ優人。父さんはただ彼女に礼をだな」

 

「初対面の女の子に馴れ馴れしいだよ。リーネが困ってるじゃないか。女性には節度を持って接しなさい、って母さんも言ってたろ?」

 

「はいはい。優人、その辺で……」

 

普段より少しキツめな口調で父を叱責する優人を、ミーナが手を叩きながら宥める。さらに一郎と宮藤兄妹にある提案した。

 

「せっかくお父様がいらしたんですから……今日は親子3人水入らずで過ごしてみてはどうかしら?」

 

「それはありがたい。子ども達とゆっくり話がしたいと思っていたんだ。どうだお前達?」

 

「悪いけど、俺は今日届く新型ストライカーの試運転があるから……」

 

欣喜雀躍とする父親の誘いを、優人はやんわりと断る。

 

「ごめん、お父さん」

 

続いて、顔の前で拝み手を作った芳佳が謝罪する。

 

「今日はリーネちゃんと近くの街まで買い物に行くんだ」

 

「あ、ああ……そうか。それじゃ、仕方ないな」

 

「博士」

 

子ども達に誘いを断られて悄然と応じる一郎に、今度は坂本が声を掛ける。一郎が振り返ると、彼女はなにやら神妙な表情をしていた。

 

「お話があります。少し、お時間よろしいでしょうか?」




執筆を重ねる度に、クオリティが落ちていく気がする。


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