ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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なんかの漫画で、男の魔術師も魔女で一括りされるという旨の内容を読んだ記憶が……


第12話「父の新たな決意」

第501統合戦闘航空団基地ウィッチ宿舎・ミーティングルーム――

 

ウィッチーズを解散させた後。ミーナ、坂本、一郎の3人は基地本部のブリーフィングルームから宿舎内のミーティングルームへ移動していた。

本来ウィッチ宿舎は男子禁制。ウィザードである優人以外の男性の立ち入りは基本的に禁止している。

規則を曲げて、ウィッチ達の憩いの場でもあるミーティングルームに一郎を迎え入れたのは、まだ退院して日が浅い彼になるだけ負担をかけまい、という坂本やミーナの配慮だ。

501の正式な解散命令が下り、扶桑へ帰国するまでは基地の男性棟に部屋が用意され、宮藤兄妹を含むウィッチーズとの共同生活も許可された。

以前のミーナなら、過去の――幼馴染みであると同時に想い人でもあったクルト・フラッハフェルトをダイナモ作戦で失った――一件から、隊のウィッチ達と一郎が必要以上に関わることを良く思わなかっただろう。しかし、亡きクルトから贈られた深紅のドレスを身に纏い、ウィッチーズや他の基地要員、杉田大佐を筆頭とする空母赤城の乗員達へ歌声を披露したあの日を境に、彼女の心境にも変化が訪れた。

ウィッチとの接触に関する規則は大幅に緩和され、世間話やお菓子の差し入れ程度ならば許されるようになっている。

日頃からストライカーユニットの整備等で世話になっている基地兵站群戦闘脚整備中隊。彼らをはじめとする基地の男性陣へ、お礼のおはぎが渡せるようになった芳佳は欣喜雀躍としていたが、一方の優人は「妹に悪い虫がついてしまうのではないか」と気が気ではない。

 

「よっこいしょ……」

 

ミーティングルームに通された一郎。親父臭い独り言を呟き、部屋に2つあるソファーの片方に腰を下ろす。

彼は研究所の爆発に巻き込まれ以来、5年もの間昏睡状態に陥っていた。つい最近まで病院のベッドに横たわっていたため、以前と比べて体力が随分と落ちている。身体を元に戻すには、まだまだリハビリが必要なようだ。

 

「どうぞ」

 

茶托に乗せられた湯呑み茶碗が、目の前のテーブルに置かれる。ミーナが急須を使って扶桑茶を淹れてくれたのだ。

 

「ありがとう」

 

軽く会釈し、一郎は礼を述べる。さっそく撫子の花が描かれた湯呑み茶碗を持ち上げ、己の口元まで運んだ。

茶葉の芳醇な香りが湯気と共に立ち上り、一郎の鼻腔を擽る。口に含めば、扶桑茶特有の心地好い渋味が舌から伝わった。

 

「うん、美味しい。さすが美人に淹れてもらったお茶は一味違うよ」

 

「ふふ♪宮藤博士は、お上手なんですから♪」

 

ミーナは口元に手を当て、クスクスと小さな笑声を立てた。美人と言われて満更でもなさそうだ。

一郎は優れた技術者であることは間違いないが、反面上手いお世辞を言えるような気の利いた性格でない。美人と言ったのは社交辞令ではなく、彼の本心だ。だが、世辞であろうとなかろうと異性から容姿を褒められて悪い気はしない。

実際、ミーナは見目麗しい容姿の持ち主が大部分を占めるウィッチの例に漏れず、かなりの美女だ。ドレス姿でステージに立てば、その美しい容貌と歌声で大勢の観客達を魅了し、蕩けさせることだろう。

 

「宮藤博士」

 

一郎と同じく、ミーナの淹れたお茶に舌鼓を打っていた坂本が神妙な面持ちで口を開いた。茶托に湯呑み茶碗を戻し、斜め向かいのソファーから宮藤理論の提唱者を見据える。

坂本が口火を切ったのを皮切りに、ミーナの表情もウィッチーズの馴染み深い柔和な笑顔からやや曇り気味なものへと変化する。

 

「単刀直入にお訊き致します。何故ネウロイの研究を、イリスの開発を行ったのですか?」

 

(やっぱり、その話か……)

 

一郎の表情が自然と強張った。坂本が訊きたいのは、かつて一郎が零式艦上戦闘脚に次いで進行していた試作新兵器“イリス”についてだ。

ブリタニアのストライカーユニット協同研究所で極秘裏に行われていたネウロイのテクノロジーを研究・利用した、ストライカーユニットとはまったく違った新兵器の開発。一郎は責任者として開発計画に携わっていた。

魔導エンジンを核とした対ネウロイ戦の要であるストライカーユニットの開発者でありながら、何故ネウロイの技術を用いたイリスまで造り上げたのか。坂本はどうしてもそれが知りたかった。

また一郎も、遅かれ早かれイリスの件について息子や娘、501のウィッチ達から訊かれるであろうことは予想していた。具体的にどんな質問をされるかも想像出来るし、責めや追及も覚悟している。しかし、いざ切り出されると、どうしても尻込みしてしまう。だが黙っているわけにもいかない。

 

「ふぅ~……」

 

扶桑茶を飲み干した一郎は、のんびりとした所作で湯呑み茶碗を茶托に置いた。長い溜め息の後、ゆっくりと話を切り出した。

 

「君達は、イリスの一件に関してどこまで知ってる?」

 

「おそらく、全てかと……」

 

ミーナが重々しく応じる。優人を覗いた501メンバーの中で、最初にイリスの存在を知ったのはミーナだった。

反ウィッチ派の急先鋒であり、前ブリタニア空軍戦闘機軍団司令官――ブリタニア空軍におけるウィッチ隊総監――でもあったトレヴァー・マロニー大将。彼と彼の一派から押収した資料を調べるうちに、ミーナは全てを知った。ウォーロックの先代機に当たり、同じくコアを動力とした兵器――イリスの存在。開発に至った経緯、事の顛末。

特に暴走状態に陥ったイリスよる、一方的なウィッチの虐殺。当時の開発首脳陣による事実の隠蔽・改竄。イリスの無差別攻撃から唯一生き残った優人に敷かれた箝口令等は、ミーナにネウロイの恐ろしさと軍上層部の悪辣さを再認識させるものであった。

 

「……魔導エンジンとは別由来の兵器を開発してくれ。軍からその依頼が来たのは、十二試艦上戦闘脚開発中のことだった」

 

ソファーの背凭れに身体を預けた一郎が、ミーティングルームの高い天井を仰ぎながら話を続ける。当事者の口から真実を訊きたかった坂本とミーナは、真剣な面持ちで一郎の語りに耳を傾ける。

 

「初めは驚いたし、迷ったよ。当時の世界水準を遥かに上回る性能の新型ストライカーユニットと、人数の少ないウィッチ・ウィザードの量産可能な代替品として機能する新兵器の開発を同時に進行するなんて、とてもじゃないけど不可能だった」

 

「ウィッチやウィザードの……代替品、ですか?」

 

坂本が訝しそうに目を細める。確認するような彼女の問いに、一郎は深く頷くと自身の推測を述べた。

 

「おそらくは、扶桑海軍内で航空歩兵不要論を掲げる派閥によるものだろう」

 

航空歩兵不要論。簡単に言えば、ストライカーユニットを装備して戦うウィッチ・ウィザードの存在を無用視、軽視する理論である。扶桑皇国海軍における航空歩兵不要論は1933年頃から芽生え始め、1935~36年にピークを迎えていた。

第一次ネウロイ大戦以来、扶桑では長らく対ネウロイ戦がなかったことやウィッチやウィザードが皆年端もいかない少年少女だったこともあり、主に大本営や大艦巨砲主義者等から支持され、山本五十六扶桑海軍中将(当時)をはじめとする航空歩兵主兵論者等と対立していた。

扶桑海事変の戦訓や一郎の開発した零式艦上戦闘脚の登場により航空歩兵不要論は次第に薄れていった。しかし、年若いウィッチ・ウィザードの活躍が面白くないのか。一部の将兵達は未だに航空歩兵不要論を強く主張している。

 

「まぁ、その二つの難題もなんとかクリア出来たけどね。前者は君と優人の協力で、後者は石威博士が持ってきたコアのおかげで……」

 

「博士は何故ネウロイの技術を使ってまでイリスを?」

 

坂本が怒気を孕んだ声音で問い質す。彼女の脳裏には、かつて自分達ウィッチを「小娘」と嘲笑った大本営海軍部――扶桑海事変時の扶桑皇国海軍軍令部――の将官達の姿が浮かび上がっていた。

 

「まさか、不要論者のように我々を軽視して――」

 

「違う!」

 

一郎は即座に否定する。対する坂本は床を蹴って、憤然とソファーから立ち上がった。

 

「では何故あのようなものを!?私や優人の、航空歩兵の力を信じ切れなかったとでも――」

 

「坂本少佐!落ち着きなさい!」

 

感情的になった坂本をミーナが声と視線で制する。上目遣いに自分を見据える瞳と叱責に気勢を削がれたらしい。坂本は一郎へ険しい視線を投げつつ、再びソファーに腰を下ろす。

 

「優人にも、同じようなことを言われたよ」

 

口元に苦笑を湛えると、一郎はイリス開発に携わった理由を語り始めた。

 

「僕には魔法の力なんてない。軍人として共に戦うことも出来ない。だからせめて、より優れた性能を持つストライカーユニットを開発して、僕なりのやり方で君らの力になりたかった。小さな身体を奮い起たせてネウロイと戦う君達を守りたかった……」

 

一郎は両手を膝の上で組んで、そこへ視線を落とす。

 

「扶桑海事変にヒスパニア戦役。僕の提唱した理論を採用したストライカーユニットを履いて、多くのウィッチ・ウィザードがネウロイと戦った」

 

「宮藤博士のおかげで、私達はネウロイに対抗する術を得ることが出来ましたわ」

 

と、ミーナ。坂本も心の中で彼女に同意していた。欧州へ渡って以来、来る日も来る日も研究資料と機材を山のように積み上げ、人類側の進歩に合わせて成長するネウロイを倒す為の新たな魔法の箒――ストライカーユニットを完成させる。

そのことだけを考えて、研究に研究を重ね、寝食を忘れ、愛する家族と過ごす時間と幸せをすべてストライカーユニットに注ぎ込む。その執念が、他の技術者を凌駕して宮藤理論を完成させるに至ったことは誰もが理解していた。

もし一郎がいなかったら、新理論を採用したストライカーユニットの開発が遅れていたら、そもそも開発されなかったら、扶桑や欧州の国々は国民諸共世界から姿を消していたことだろう。

 

「最初は誇らしかったさ。僕が手塩にかけたストライカーを纏い、扶桑のウィッチ達が、ウィザード達、航空歩兵に志願した倅がネウロイの恐怖から人々を守る為戦っていた扶桑海事変のニュースを聞く度に嬉しくなった……」

 

そこまで言って、一郎は組んだ手を強く握り締めた。

 

「だが、死者は出た。まだ二十歳にもならないような子ども達が、未来ある少年少女が大勢……」

 

ウィッチと極少数のウィザードからなる航空歩ないし装甲歩兵は、稼働や損耗が激しいながらも他の兵科と比べて戦死者の数は少ない。しかし、無いわけではない。今日に至るまで、多くの少年少女が若い命を散らしている。

アジアで扶桑海事変、欧州でヒスパニア戦役が勃発した1930年代後半は、まだ対ネウロイ戦における有効な戦術が殆んど確立していなかった。加えて、扶桑皇国は地理的な要因から怪異との遭遇は極めて稀であり、扶桑皇国陸海軍のウィッチ・ウィザードはベテランから新兵に至るまでネウロイとの戦闘経験が無かった。

これらの事情が大きなマイナスとなり、多くの航空・装甲歩兵が戦いで傷付き、倒れ、死んでいった。

ネウロイさえ現れなければ、戦争さえ無ければ、軍に入隊さえしなければ、勉強にスポーツに恋と平凡でありふれてはいるが、それでいて幸せな日々を謳歌していたはずの少年少女が、消耗品のように戦地に送られては散華していった。

 

「いつしか恐くなったんだ。もし航空歩兵に志願した息子が、優人が戦死してしまったら……もし皇国がウィッチの徴兵に踏み切って、芳佳まで戦地に送られてしまったら、って……それと同時に他の親御さん達も同じ想いしてるはずだ、とも思ったんだ……」

 

「……宮藤博士は、ウィッチやウィザードを戦場から遠避けるためにネウロイの研究を、イリスの開発を引き受けた、と?」

 

ミーナが問い掛けると、一郎は肩を竦めた。

 

「そう言えば聞こえはいいけどね。一番の理由は誘惑に逆らえなかったからさ」

 

「誘惑?」

 

一郎の言葉を鸚鵡返ししつつ、坂本は怪訝そうに眉を顰める。

 

「我々にとってまったく未知の存在の、ネウロイの技術が石威博士によって研究所に持ち込まれ、自分の目の前にある。技術者として、研究者として。人類より遥かに進んだテクノロジーをすべて知り尽くしたいという想いがあった」

 

一郎はブリタニアに集められた技術者の中でも、並み外れた探究心と研究意欲の持ち主であった。

人類が持ち得ない未知のテクノロジーに心を奪われてしまった当時の彼には、ウィッチもウィザードも親ウィッチも反ウィッチも関係なかった。

同じくネウロイの持つテクノロジーの魅力に取り憑かれた石威紫郎との違いは、ギリギリのところでイリスは危険性に気付いたことだろう。

 

「その結果、手塩に掛けて造り上げたイリスはいとも容易く暴走。最愛の息子を危険に晒し、大勢のウィッチ達を死に追いやり、負の遺産はウォーロックという形で後の世に引き継がれた」

 

「「…………」」

 

「子ども達がウィッチとして、ウィザードとして人々を守るために戦ったいたというのに。父親である僕は……」

 

一郎の言葉が途切れる。顔を俯かせ、ワナワナと肩を震わせていた。慚愧の念に駆られているのだろう。

 

「…………」

 

自らの行いを恥じる一郎の姿を、坂本は無言のまま射るような眼で見つめていた。彼女の心境は複雑だった。

ウィッチ・ウィザードの両脚を異空間に収納する新理論――所謂、宮藤理論を提唱。それを採用した新式ストライカーユニットの開発に成功した一郎は、それ以降“魔導エンジンの権威”または“ストライカーユニットの父”と呼ばれるようになっていた。

宮藤理論の恩恵を受けている坂本にとって、軍に身を置く全ての航空・装甲歩兵にとって、そして彼女達に守られる世界中の人々にとって、宮藤一郎は恩人と言っても差し支えない存在だ。

そんな彼がストライカーユニットの研究所で秘密裏にネウロイの研究を行っていたこと。未知のテクノロジーに対する誘惑に負け、試作であるイリスを開発したことはどうしても許せなかった。

しかし、それが軍の命令でもあったことや、息子や娘・魔法力を有した10代の少年少女達を死と隣合わせの戦場から遠避けたい、という想いが一郎には少なからずあったこと。

なにより、一郎の素晴らしい人柄をよく理解している坂本に、彼を責めることが出来なかった。

 

「悪魔の研究を行ったこと、そのせいで10名のウィッチが命を落とした」

 

沈黙破るように、一郎が再び語り始めた。

 

「その罪は償わなくてはならない」

 

「まさか、技術畑から手を引かれるおつもりですか……」

 

ミーナが問い掛ける。一郎は顔を伏せたまま首を横に振った。

 

「それも考えた。だが、それでは逃げているようで……償いにはならない」

 

「ならば、どうするおつもりですか?」

 

と、今度は坂本が訊ねる。彼女らしからぬ刺々しい口調だった。一郎はゆっくりと顔を上げ、坂本と視線を交わしながら答えた。

 

「今、赤坂さんを通して“宮菱重工業”への復帰を申し出ているところなんだ」

 

かつて一郎が務めていた宮菱重工業。ストライカーユニット、航空機、艦艇、車輌等々。多くの兵器を製造している扶桑皇国の中心的な総合兵器メーカーだ。

武田家の末裔と称する竹田信太郎が設立した会社であり、創設当時は“竹田商会”という社名で海運業を中心としていた。商会は次第に多角経営化を進め、その一環として造船所を保有し、“竹田造船”となる。その後、造船部門以外にも航空機部門などが作られ、“竹田重工業”となった。

ストライカーユニット製造が主要産業の一つに拡大すると、社名の宮藤の「宮」と家紋の四つ割菱の「菱」を組み合わせ、宮藤重工業に改名した。

この改名については、表向き宮藤理論を生み出した一郎を設計主任として雇用していたため、彼に敬意を表してのことだと説明している。だが他の国内メーカーからは、宮藤博士の名前を有効活用して会社の宣伝を行ったと見られている。

生産しているストライカーユニットは、扶桑で初めて宮藤理論を採用した九六式艦上戦闘脚。本大戦初期より扶桑海軍の主力ストライカーとなった零式艦上戦闘脚が有名である。

また、九九式艦上戦闘脚や零式艦上戦闘脚からフィードバックして開発した最新鋭の零式艦上戦闘機等。一般戦闘機の開発・生産も積極的に行っている。

 

「さっきも言ったが、僕に出来るのは魔導エンジンやストライカーを造ることだけ。ならば、やはり優れた機体を造り上げることこそが、僕なりの償いだと思うんだ……」

 

曇っていた一郎の表情に光が射す。自己満足かもしれい。許されないかもしれない。それでも出来うる限りのことをやる。

成人前の息子が、中学生の娘が、世界中のウィッチ・ウィザードが戦っているんだ。大人の自分が立ち止まるわけにはいかない。一郎はそう思っていた。

 

「そうですか……」

 

と、ミーナは納得したように口元を綻ばせる。坂本もまたサバけた笑顔をしている。

どうやら、第501統合戦闘航空団の司令・副司令は、宮藤一郎という男の覚悟を理解し、尊重したようだ。

 

「君達と話せて良かったよ。さて……」

 

世界的エースウィッチ二人の笑顔を交互に見やると、一郎はソファーから立ち上がった。

 

「行くかな」

 

「どちらへ?」

 

ミーナの質問に、一郎は口角を吊り上げて答えた。

 

「ちょっと、息子のところまでね……」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、501基地格納庫――

 

第501統合戦闘航空団基地の格納庫内に、見慣れぬストライカーユニットが運び込まれていた。

基地に配備されているどの機材とも型の異なっているそのストライカーユニットは、零式艦上戦闘脚に代わる扶桑皇国海軍の主力機――紫電二一型。通称『紫電改』である。

発進ユニットに固定された機体の側面には、既に国籍マークとパーソナルマークとしてライフル弾を咥えた柴犬が記入されており、当基地に勤務している人間ならば一目で持ち主が誰なのかが理解できる。

 

「やれやれ、今頃来たか」

 

扶桑皇国海軍大尉――宮藤優人は、待ち望んでいた新型機の遅すぎる到着に肩を竦めた。

本来、この紫電改は今月中旬に実施されるガリア反抗作戦に合わせて支給されるはずだった。しかし、マロニー一派によるストライクウィッチーズへの介入及びマロニー元大将麾下のウォーロック隊による反抗作戦の前倒しにウォーロックの暴走。そして、501によって怪我の功名的にガリア解放が成されたため、せっかくの新型機も活躍の機会が無くなってしまった。

 

「お~!そいつがお前の新しいユニットかぁ?」

 

ふと耳朶を打った快活な声に振り返ると、水着姿のシャーリーとルッキーニ。そんな2人を呆れたように横目で見ているバルクホルンが立っていた。

シャーリーは優人の脇を通り過ぎると、戦友の新たな愛機の前で前屈みになる。新品同然の輝きを放つ紫電改を舐め回すように見て、嬉しそうな声を発する。

 

「へぇ~、中々良さそうじゃん♪」

 

「扶桑の新しいユニット?」

 

「艦上機ではないようだが?」

 

シャーリーの隣に来たルッキーニとバルクホルンもまた、興味津々と言った感じに紫電改を見る。

バルクホルンとシャーリーの見立て通り。紫電改は零式と異なり艦上戦闘脚ではない。また、既に一世代前のユニットとなった零式と比較して魔導エンジン出力、速度、急降下性能、防御力が向上し、欧州で主流となっている一撃離脱戦法に適したユニットとなっている。

 

「残念ながら、もう出番は無さそうだけど……って言うか。何だ、その格好は?」

 

シャーリーが歩を進める度にブルンと揺れるたわわな胸に目を奪われつつ、優人は彼女とルッキーニの水着姿に突っ込みを入れる。

 

「いやぁ、やること無くて暇だからさぁ。滑走路の脇で肌でも焼こうと思ってさ♪」

 

「……嘆かわしい」

 

ボソリと呟くバルクホルン。生真面目な彼女は、肌色の面積が多い格好で基地内を彷徨くことが許せないらしい。

 

「優人はこれから試運転か?」

 

と、優人へ向き直ったシャーリーが訊ねる。

 

「ああ、せっかくの新型だし。慣らし運転くらいはしておこうと思って……」

 

「ふ~ん♪」

 

シャーリーは目を細め、ニヒッと悪戯な笑みを浮かべた。

 

「どうせならさ。模擬戦しない?あたしと……」

 

「今から?」

 

「最近、お前とは勝負してなかったろ?」

 

「そう言えばそうだな」

 

このところ。優人はデスクワーク、シャーリーはストライカーの整備で訓練時間が合わなかった。久しぶりに手合わせするというのも悪くない。

 

「やるか?」

 

「ああ。けど、その前に……」

 

「……何だ?」

 

「目のやり場に困るから、服着てくれ……」

 

優人は気まずそうにシャーリーから視線を外す。

 

「お?あっはははは!わかったよ、ちょっと待ってな」

 

そう言うと、シャーリーは制服を取りに宿舎へ駆け足で引き返していった。




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