ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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「紫電改の部品・燃料の品質が良くて、しっかり整備されていればマスタングとも互角に戦える」や「旋回性能は零戦並み」という記事を、どこかの記事で読んだ気が……


※作者のミリタリー知識はにわか以下です。話になりません……


第13話「宮藤博士の実験」

501のウィッチ達が訓練場としている基地近隣の丘陵地帯上空を、4人の航空歩兵が突き進んでいた。連合軍に参加している各国軍より、501部隊に派遣されているウィッチとウィザードだ。

それぞれ型も国籍マークも異なるストライカーユニットを装備し、青々と緑の生い茂る地表に己の影を映しながら、高度2000m程の低空を飛行している。

 

「あたしから逃げ切れるなんて思うなよぉ?」

 

「さすがに速いな……」

 

先行する2つのシルエットが、インカムを通じて言葉を交わす。

1人は扶桑皇国海軍遣欧艦隊の宮藤優人大尉。零式艦上戦闘脚二二型甲に代わる新たな愛機――紫電二一型。通称“紫電改”を、その身に纏っている。

もう1人はリベリオン陸軍第8航空軍のシャーロット・エルウィン・イェーガー大尉。自らが改造したP-51Dを駆り、前方の優人へ追い縋っている。二人は一対一の模擬格闘戦の真っ最中だった。

それぞれ扶桑の九九式二号二型改13mm機関銃とリベリオンのBARに形状が酷似したオレンジ色の銃を手にしている。これは訓練で使用される模擬銃で、実弾ではなくオレンジ色のペイント弾が装填されている。

隊員達が普段愛用している銃にわざわざ似せているのは、可能な限り実戦に近い感覚で模擬戦に臨めるようにするためだろうか。

 

「いっけええええぇ~っ!シャーリー!」

 

「優人!後ろを取られているぞ、しっかりせんかっ!」

 

シャーリーに対するルッキーニの声援と、優人を叱責するバルクホルンの怒号がインカム越しに伝わる。

二人もストライカーを履き、模擬格闘戦を展開する優人達の後に続くようにして飛行しているが、模擬銃は装備していない。

あくまで優人とシャーリーの一騎討ちであり、彼女達は模擬戦には参加せず、観戦と審判を担当していた。

 

「そんなに怒鳴らなくても聞こえてるよ!」

 

インカムを着けた側の鼓膜がビリビリと痺れる感覚に襲われ、優人は苦悶に顔を歪める。そうしている間も、シャーリーはどんどん距離を詰めてくる。

航空歩兵の経験で言えば、航空ウィッチになって1年程のシャーリーより優人の方が遥かに上だ。しかし、彼がまだ慣らし運転の済んでいない新機種なのに対して、シャーリーは使い慣れている上に、彼女自身が自分に合わせて日々改良を施しているP-51D。さらに、優人との経験差をカバーするだけのウィッチとしての才能がシャーリーにはある。

この勝負、傍目から見れば明らかにシャーリーの方に分がある。

 

「頂くよ!」

 

シャーリーは模擬銃を構え、照準を優人に合わせる。彼女は自分の勝利を確信していたが、一つ大切なことを忘れていた。

ほんの数日前。まさにこの場所で、同じ条件の模擬戦を行った際に、優人と同じ扶桑出身の航空歩兵から手痛い反撃を受けたことを……。

 

「優人!」

 

「心配すんな!」

 

自分の身を案じるバルクホルンの叫び声に、優人はすぐさま応じる。

 

「新しい機体に慣れていないことを言い訳にしない、よっ!」

 

「へっ!?」

 

優人が言い終えた、その瞬間。前方を飛んでいた彼の姿がシャーリーの視界から消えた。

 

「なん――ッ!?」

 

突然の出来事にシャーリーは「何で?」と言い掛け、ハッとなって気付く。これは“左捻り込み”だ、と……。

旋回しつつ上昇した優人は、シャーリーの背後に回り込むと透かさず狙点を定め、トリガーを絞った。

 

「もらった!」

 

「うおっ!?」

 

優人の模擬銃から迸り出た数発のペイント弾が、シャーリーのユニットをオレンジ色に染め上げる。

それとほぼ同じタイミングで、審判役のバルクホルンがホイッスルを鳴らした。

 

「勝者、優人!」

 

「あちゃ~……やられたぁ……まさか、左捻り込みでくるなんて……」

 

撃墜判定を受けたシャーリーは、「油断したぁ」と言った感じに顔を左手で抑え、少々オーバーリアクションである。

“左捻り込み”は扶桑のゼロ・ファイターが得意とする高等テクニックで、501では坂本が訓練等でよく披露している。以前芳佳が、模擬戦でシャーリーとルッキーニを相手にした際に見よう見まねで決めたことがあった。

シャーリーとて、優人がゼロ・ファイターだということを失念していたわけではない。零式ならいざ知らず、まさか機種転換したての紫電改で仕掛けてくるとは思わなかった。

それにしても、さすが大ベテランと言ったところか。優人の左捻り込みは不恰好だった芳佳のものとは違って、かなり洗練されている。

 

「経験の差ってやつかな?」

 

「そりゃ俺だって、親の七光りやコネで501にいるわけじゃないからな」

 

シャーリーに追い付いた優人が得意気に言うと、バルクホルンとルッキーニがストライカーのエンジンを響かせながら近付いてきた。

 

「油断したな、リベリアン」

 

「ほぇ~……やっぱ優人って強いんだねぇ。射撃もアタシより上手いし」

 

と、感心したように言うルッキーニ。501で射撃能力と言えば、見越し射撃が得意な優人と固有魔法の恩恵を受けているリーネとサーニャ。そして「十発十中」と豪語する腕前を持つルッキーニの名が上がるだろう。だが、扶桑やカールスラントのベテラン組からしてみれば、まだまだ荒削りらしく、扶桑海事変より自分の戦闘スタイルを確立させ、日々精進してきた優人には及ばない。

 

「優人、次は私とだ。手合わせしてくれ」

 

と、バルクホルン。どうやら501Wエースの片割れも、二人のドックファイトを見て闘争心に火が点いたらしい。

 

「構わないけど、一旦基地に戻ってペイント弾を補充したいな。模擬戦やりなら、バルクホルンだって模擬銃を取ってこないといけないし」

 

「あたしも早く基地に戻ってペイント落としたいな」

 

ペイント塗れとなった愛機を見ながら、シャーリーが独り言ちる。ズボンや制服にも跳ねているのではないかと思って全身を確認すると、彼女はあることに気付いた。

 

「……優人」

 

「ん?」

 

シャーリーが遠慮がちな口調で声を掛けてきた。優人が振り向くと、彼女は何故か赤面していた。

左手の人差し指で朱の射した頬を掻きつつ、シャーリーは気まずそうに言葉を続けた。

 

「これって……わざと?悪戯?ブラックジョーク?」

 

そう問い掛け、シャーリーは頬に触れていた人差し指で己の胸元を指し示した。

 

「…………あっ……」

 

シャーリーが指差した先を見た優人は間の抜けた声を漏らした。

なんと優人が放ったペイント弾数発のうち二発が、見事シャーリーの両胸に命中していたのだ。左右の乳房に一発ずつ当たっており、下乳部分をオレンジ色に染め上げていた。

 

「なっ!?」

 

「にゃ?」

 

他の二人も気付いたらしい。バルクホルンはシャーリーと同様に頬を染めたまま硬直し、ルッキーニは不思議そうに両目を瞬かせている。

部隊最大を誇るシャーロット・E・イェーガー大尉の爆乳。軍の制服を押し上げるほど大きく育ったリベリオンウィッチのそれは、胸部が明るい色にペイントされたことで、より存在感が強調されていた。

 

「にひひ♪優人ってば、えっちぃ♪」

 

暫しの沈黙を挟んだ後、ルッキーニが白い歯を見せて悪戯っぽく笑った。隣では顔に戸惑いの色を浮かべたシャーリーが、両腕で自分の胸を庇うように抱いている。

 

「別に、わざとやったわけじゃ――」

 

「優人……」

 

ふと背後から抑揚のない声が聞こえた。淡々としていながらも何処か威圧を孕んだ声音に恐怖した優人は、その身をカタカタと震わせる。

恐る恐る振り返ってみれば、影が入ったように目元を暗くしたバルクホルンが射殺さんばかりの鋭い視線を優人に投げかけていた。

 

「な、な、何でしょうかバルクホルン大尉」

 

本能的にヤバさを察した優人は声まで震わせ、口調も自然と敬語になる。

バルクホルンは優人の顔をジーッと見据えた後、何処からか取り出した包帯を利き手に巻き始めた。

 

「バ、バルクホルン。何で包帯なんで……」

 

「模擬戦はまた後日にしよう。他にやらねばならぬことが出来てしまった」

 

優人の問い掛けを無視し、バルクホルンは包帯の巻き終えた拳を胸の位置で掲げる。

一方、優人を挟んでバルクホルンの反対側を飛んでいたシャーリーとルッキーニは、触らぬ神に祟り無しと言わんばかりに二人から距離を取っていた。

 

「まったく、お前と言うやつは……いつまで経っても自重する気配がない。どうやら、ミーナの説教では足りないらしいな」

 

バルクホルンは左手で扶桑ウィザードの胸倉を掴むと、包帯で覆われた右拳を構えて優人の顔面へ狙いを定めた。

 

「ちょっ、待ってくれバルクホルン。ぼ、暴力はいけな……どうか話を――」

 

「問答無用っ!」

 

――バキッ!

 

扶桑海軍ウィザードの懸命な命乞いは、カールスラント空軍ウィッチの怒声に掻き消され、周囲には鈍い殴打音が響き渡った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

30分後、501基地格納庫――

 

「お~……イテテ……」

 

赤く腫れ上がった左頬に濡れたハンカチを押し当て、優人は苦痛に呻いていた。

501基地では、優人のラッキースケベや宮藤兄妹のイチャつきぶりと同じくらいお馴染みとなったバルクホルンから優人への鉄拳制裁。例によって彼女の剛拳を顔面に受けた彼はその場で気を失い、墜落しかけたところをシャーリーとルッキーニに支えられていた。

そのまま二人に運ばれて基地へ戻ったわけなのだが、バルクホルンは優人が意識を取り戻した後もご立腹であった。さすがにもう殴られはしなかったが、その代わり模擬戦でシャーリーのP-51Dに付着したペイントの掃除を命じられた。これは本来、撃墜判定を受けた側が負うべきペナルティである。

ペイント弾が上手いこと命中し、制服の胸部が汚れてしまったシャーリーはルッキーニを伴い、着替えついでにひと風呂浴びに行っている。

彼女が用意してくれた濡れハンカチで腫れた頬を冷やしながら、優人は空いている右手に持った別のタオルでペイントを落としていく。

せっせとペイント掃除に勤しむ扶桑ウィザードの後ろでは、腕を組んで仁王立ちしたバルクホルンが優人に睨みを利かせている。

カールスラントウィッチが放つ扶桑刀の如く鋭い視線に怯え、必死に手を動かす優人の姿はまるで親や教師に叱られて、掃除当番の罰を言い渡された悪戯っ子のようだ。

 

「ふぅ~……今日もいい湯だったなぁ♪」

 

「サイコ~ッ!」

 

優人が全てのペイントを落とし終えると、風呂帰りのシャーリーとルッキーニが格納庫へ戻ってきた。ルッキーニはお馴染みの制服姿だが、シャーリーは制服の代えがなかったのか私服に着替えている。

 

「リベリアン!何だ、その格好は!?」

 

シャーリーの服務規定違反を目にして、バルクホルンが透かさず怒号を飛ばす。優人もつられてシャーリーの方へ振り返る。

シャーリーの服務は、上は胸元に“GLAMOROUS SHIRLE”の文字が描かれたオーダーメイドらしき薄手の白いTシャツ。ブラをしていないのか、シャーリーが歩く度に大きな乳房がユサユサと揺れている。

下はデニム柄の青いホットズボンだ。これはペリーヌ、サーニャ、エイラなどが普段ズボンの上に履いている重ね履ズボンの一種である。だが、3人が使っているストッキングタイプと違って股下が非常に短く、丈の長さはウィッチの多くが愛用しているローライズのズボンと同程度しかない。

二重履いているにも関わらず、ズボン1枚の時と同様に持ち主のヒップラインも強調し、何とも言えぬエロスを感じさせていた。

 

「勤務中だと言うのに、そんなチャラついた格好をっ!」

 

バルクホルンがワナワナと震えながらシャーリーを指差す。優人もまた、奔放なリベリオンウィッチの私服をシゲシゲと見つめていた。

動き易さを重視したラフなファッションスタイルがシャーリーらしい。また、肌の露出面積の広さがリベリオン人らしいオープンな性格と、グラマラス・シャーリーの健康的なセクシーさを醸し出していると言えるだろう。

しかし、リベリオン陸軍の制服よりも身体の線がずっと分かりやすくなっている彼女の出で立ちは、男である優人からすれば目のやり場に困ることこの上なかった。

大胆な深紅のセパレーツ水着姿や、より刺激的な下着姿。果ては、一切衣類を身につけていない生まれたままの状態となったシャーリーを双眸に焼き付けたこともあるが、まぁそれはそれである。

 

「他の制服はまだ洗濯中で、着れる服がこれしかなかったんだよ。これでもあたしが持ってる服の中じゃ一番地味なやつなんだけど……」

 

ブスッと不満気な表情で応じるシャーリーに、バルクホルンがさらに吼える。

 

「し、下着くらい着けろっ!胸なんぞを揺らして、はしたない!」

 

「あ~……胸の形が崩れるし。出来ればそうしたいんだけど……」

 

やはりノーブラだったらしい。シャーリーはポリポリと後頭部を掻きながら、歯切れ悪そうにブラをしなかった理由を説明する。

 

「なんか、今まで使ってたやつがキツくてさ。着けてると胸が苦しいんだよね」

 

何気無しに己の胸へ手を添えたシャーリーは、Tシャツ越しに乳房を持ち上げてみた。

自他共に認める爆乳をまじまじと見つめながら、頭上でクエスチョンマークを踊らせる。

 

「成長期は過ぎたと思ってたのに、またデカくなったのかな?」

 

(えっ!?嘘だろ、まだ成長するのか!?)

 

優人は言葉を失った。今のままでも十分過ぎるほどに大きいシャーリーの胸が、未だに成長過程にあるかもしれない。

単純な体格の差といい、扶桑人とリベリオン人の発育の違いを見せつけられた気分だ。反面、戦友のさらなる成長の可能性に少なからず期待と興奮を覚えていた。

 

「シャーリー、スゴーイ!」

 

と、歓喜の声を上げたのは、優人と同じくおっぱい好きのルッキーニだった。

瞳を爛々と輝かせ、幼いロマーニャウィッチはその小さな身体と声を弾ませて、シャーリーの胸へ飛び込んだ。

自分の頭ほどもある2つの胸に顔を埋め、いつものように乳房を揉み拉き始める。

 

「パフパフゥ~♪パフパフゥ~♪」

 

「こらこら、遊ぶんじゃない。私の胸はおもちゃじゃないっていつも言ってるだろ?」

 

やんわりとした口調で注意しながらも、シャーリーは口元に微笑を湛えていた。彼女は自分を姉のように慕い、甘えてくるルッキーニを愛らしく思っている。

501基地に配属されてまだ間もなかった頃のルッキーニは、母恋しさのあまり脱走を繰り返す問題児だった。そんな彼女が部隊の一員として機能するようになったのは、面倒見役であるシャーリーの功績だ。

何でも、シャーリーの大らかな性格と胸の大きなところがルッキーニの母親に似ているらしい。

 

「ルッキーニは本当にシャーリーが好きなんだな」

 

微笑ましくじゃれ合う二人に、優人が歩み寄る。

 

「うん!面白いし、おっぱい大きくてマーマみたい!」

 

ルッキーニは満面の笑みで応じる。部隊の妹分的な存在であるロマーニャ空軍ウィッチ――フランチェスカ・ルッキーニ少尉。彼女の純真無垢な笑顔には、いつも心洗われる。

 

「マ、マーマかぁ……」

 

シャーリーが苦笑気味に呟く。16歳の少女はちょっと複雑だった。

 

「あっ……優人のことも好きだよ!」

 

谷間から顔を離すと、ルッキーニは優人に振り返った。

 

「優しくて、イケメンで。パーパみたい!」

 

「パ、パーパ……?」

 

ルッキーニの発言に、優人は顔をひきつらせる。おそらくはシャーリーと同じ心境なのだろう。

彼はまだ二十歳手前で、こんなに大きな子どもを持つような年齢ではない。ルッキーニに他意はないのだが、遠回しに親父臭いと言われた気分だ。

 

「あっはははは!あたしと優人は夫婦ってことか?」

 

と、豪快に笑うシャーリー。ジョークのつもりで言ったはずだが、何故か心臓が高鳴る。

見知らぬ感覚に戸惑いこそしたが、いつもより熱めの湯に浸かったからだ、と結論付けて深くは考えなかった。

 

「ふ、夫婦?」

 

どうコメントしたらいいのか分からず、優人は当惑する。

扶桑ウィザードの反応を見て、何か悪戯を思いついたらしい。シャーリーはニヒッと口角を吊り上げると、ウサギが飛び跳ねるような軽快な動きで優人の隣に移動し、彼の腕を取った。

 

「な、何だ!?」

 

「あなた。今日もお仕事、お疲れ様♪」

 

突然、腕に抱き着ついてきたシャーリー。かと思えば、優人の耳元に唇を寄せて、普段と異なる甘ったるい声で囁いてきた。

 

「ご飯にする?お風呂にする?それとも……わ・た・し?」

 

熱い吐息と共に紡がれる新妻宛らな睦言。囁くシャーリーの頬は紅潮し、心無しか瞳もとろんと潤んでいるように見える。

 

「シャ、シャーリー……か、からかうなよ……」

 

一方、優人は全身をガチガチに硬直させていた。悪戯好きなリベリオンウィッチのペースに流されてはいけない。

そう思ったものの、耳を擽る熱々の吐息と薄いTシャツ越しに押し付けられる爆乳の感触が優人の思考を鈍らせ、正常な判断力を奪っている。抵抗出来ない。

 

「な、な、なっ!?……何を考えている!?リベリアン!!」

 

熟れたトマトのように顔を真っ赤にしたバルクホルンが、憤然と叫ぶ。

本日三度目となる堅物大尉の怒号は凄まじく、鼓膜までもが悲鳴を上げそうだった。

 

「そんな風に異性と密着して……ふ、夫婦の真似事をするなど!なんとふしだらなっ!嘆かわしい!」

 

「にゃ?ふしだら、ってナニ?」

 

面白いくらいに狼狽えているバルクホルン。一方のルッキーニは、自分の知らない言葉に首を傾げている。

 

「何だよ、バルクホルン」

 

シャーリーは優人に抱き着いたまま顔をバルクホルンへ向ける。

 

「しゃれだよ、しゃれ。ただのスキンシップでそんなに怒ることないだろ?」

 

「駄目だ駄目だ!優人が迷惑してるだろう!?そういう冗談は控えろ!」

 

「優人が迷惑してるって?バルクホルンの思い違いじゃないのか?だよな、優人?」

 

「えっ、ええと……」

 

シャーリーから同意を求められるが、優人は答えに詰まった。

それと同時にデジャヴを感じていた。以前も同じような体験をした気がしてならなかったのだが、優人が記憶を辿るよりも先にシャーリーが言葉を発した。

 

「ほら、ハッキリしないってことは別に迷惑だと思ってないってことさ」

 

ふふん、と勝ち誇ったよう鳴らすシャーリー。だが、バルクホルンは食い下がった。

 

「い~や!明らかに迷惑している!優人の顔をよく見ろ!」

 

「優人の顔?う~ん、グラマラスな美女に抱き着かれて嬉しそうじゃんか」

 

「お前の目は節穴か!勝って気ままなリベリアンめっ!優人を解放しろ!」

 

そう叫び、空いている左腕側へやってきたかと思えば、バルクホルンまでもが優人の腕を取った。

 

「バ、バルクホルン!?お前まで何だよ!?」

 

「うるさいっ!お前がハッキリしないからだ!それでも男か!情けない!」

 

優人を叱咤しながらも、バルクホルンは離すまいと腕に力を込める。

まるで宝物でも守るかのようにギュッと優人に抱き着き、身体――特に胸――をこれでもかと押し付ける。

 

「必死だなぁ、バルクホルン。独占欲の強い女は嫌われるぞ?」

 

「べ、別に独占したいわけではない!貴様の悪ふざけは振り回されている優人を助けてやっているだけだ!」

 

ムキになって否定するバルクホルンだが、端から見るとそれは何より肯定の証であった。

 

「だから、優人は別に困ってなんかないって……」

 

「お前達、少し落ち着――」

 

「優人は黙ってろ!ニヤニヤしおって!」

 

互いの息がかかるような超至近距離で、バルクホルンはギロリと優人を睨つける。

 

「ニヤついてなんて……は、はい。黙ります、はい」

 

「お~、恐い恐い。優人を怯えさせて、迷惑なのはどっちだよ?」

 

「やかましい!そもそもお前がだな!」

 

「あたしが何だよ?」

 

嫌味で煽るシャーリーに、憤慨して怒鳴り返すバルクホルン。501基地格納庫は、戦時下の最前線とは違った意味の修羅場と化してしまった。

 

(ルッキーニ……助けてくれ……)

 

心の中で懇願しつつ、優人はルッキーニへ視線を走らせる。だが、肝心のロマーニャウィッチはいつの間にか発進ユニットの上で寝入っていた。

ついさっきまではシャーリーとバルクホルンの舌戦を眺めていたのだが、二人の水掛け論ぶりに飽きてしまったらしい。鼻提灯まで作って、完全にお昼寝タイムだ。

 

(紫電改の試し運転にきただけなのに……)

 

理不尽な災難――世の男達からしてみれば、とてつもない幸運――に見舞われ、優人は泣きたくなった。

しかし、どうやら神は非情でも薄情でもなかったらしい。ちゃんと彼を助けるための救世主を遣わしてくださったのだから。

 

「なんだ、随分と賑やかだな」

 

「え?」

 

「お?」

 

「ん?」

 

ふと格納庫内に男性の声と革靴の足音が響き渡り、3人は気の抜けた声を漏らす。

声が聞こえてきた出入り口へ視線を移してみると、今朝顔を合わせたばかりの客人にして、宮藤兄妹の父君――宮藤一郎が歩いてくるのが確認できた。

 

「父さん、どうして?」

 

「可愛い息子の顔を見にくるのに理由が必要か?」

 

一郎は息子の問い掛けに対し、おどけたように応じると、優人の左右へ交互に視線を走らせた。

 

「それにしても、お前もやるな。両手に花で羨ましいよ」

 

「し、失礼しました!宮藤博士!」

 

自分が抱き着きっぱなしだったことに気が付くバルクホルン。慌てて優人から離れると、一郎に向かって直立不動の姿勢を取る。

顔がカァッと熱くなる。よりによって“ストライカーユニットの父”と称される宮藤博士に恥ずかしいところを見られてしまうなど、穴があったら入りたかった。

 

「優人君は結構モテますよ?イケメンだし、優しいし、頼りになるし」

 

一方シャーリーはバルクホルンと異なり、特に慌てる様子はなかった。ゆったりした動きで優人から離れると、世間話感覚で一郎に軽口を叩いた。

対照的な性格故によく衝突し、張り合うシャーリーとバルクホルンだが、心の余裕に関してはシャーリーの方が一枚上手なようだ。

 

「ありがとう、イェーガー大尉。それにしても……」

 

柔和な笑みを浮かべていた一郎の表情が、一転して生真面目なものへと変化する。シャーリーと合わせていた視線を彼女の胸元へ走らせると、顎に手を当てて何か考え始めた。

 

「ふむふむ……」

 

「あ、あの……宮藤博士?」

 

リベリオンウィッチの胸を凝視しながら思考に耽る一郎。彼の視線が擽ったかったシャーリーは、苦笑を禁じ得ない。

 

「これだけ胸が大きいと空気の抵抗を諸に受けるはずだ。なのに固有魔法無しで時速800キロを超えるとは……」

 

爆乳から目を離さぬまま、一郎はブツブツと独り言を呟き続ける。

どうやら空気抵抗の影響を強く受けるはずのダイナマイトバディの持ち主が、部隊最速を叩き出していることに疑問を抱いているらしい。決してセクハラをしているわけではない……はずだ。

それにしても、分析中に心の声を口に出してしまうのは彼の職業病だろうか。

 

「言われてみれば……」

 

一郎が口にした疑問に説得力を感じたのか。バルクホルンまでもが思考し始めた。真面目な性格故に、こんなことでも真剣に考えてしまうのだろう。

ふと一郎の視線がシャーリーの爆乳からバルクホルンの豊乳に移る。

 

「ん?バルクホルン大尉も中々大きいな。戦闘に支障はないのかい?」

 

「ふぇっ!?」

 

あまりにストレート過ぎる一郎の質問。バルクホルンはなんとも可愛らしい悲鳴と共に両腕を動かし、自分の胸を庇うように抱き締める。

一度は熱が引いた堅物大尉の顔が、またしても紅潮し始めた。

 

「ミーナ中佐といい、坂本少佐といい、リーネさんといい。胸が大きいと飛行時にハンデを背負うことなるんじゃ――」

 

「息子の戦友にセクハラすんなよ、エロ親父」

 

「おおっ……」

 

背広の後ろ襟を掴んだ優人によって、一郎はウィッチ二人――の胸部――と引き離される。

 

((間違いなく、優人と芳佳の父親だ))

 

シャーリーとバルクホルンは揃って同じことを思っていた。

動機こそ異なるものの、ついつい大きな胸へ視線と興味が行ってしまう一郎の様は、おっぱいが大好きな扶桑の兄妹――宮藤兄妹を連想させる。

 

「ていうか何しに来たんだよ?今日は相手出来ないって言ったろ?」

 

露骨に面倒臭そうな顔をする優人。せっかく父親がロンドンから遥々会いに来てくれたというのに、なんという塩対応。今朝の一件だけで、ここまで不機嫌になるものだろうか。

 

「そうだそうだ!お前とそちらのお嬢さん達に是非見て貰いたいものがあるんだよ!」

 

「見せたいもの?」

 

と、バルクホルンが鸚鵡返しする。

 

「もしかして、博士が試作した新型のストライカーユニットとかですか?」

 

音速突破を目指すスピードマニアであり、優れたエンジンでもあるシャーリー。

宮藤理論の提唱者が、既に新たなストライカーユニットを開発したのではないか、と期待に目を輝かせる。

 

「うじゅ?なぁに、もうご飯の時間?」

 

面白そうな雰囲気を感じ取ったのか。お昼寝中のルッキーニも目を覚ました。まるで顔を洗う仔猫のように、眠たい目を擦りながら身体を起こす。

 

「俄然興味が湧いてきたようだね、結構結構。では、宮藤一郎数年ぶりの作品をご覧頂こうか」

 

一郎は高らかに宣言すると、右手で格納庫の壁際を指し示した。

いつの間にか格納庫内には、一郎が持ち込んだと思しき魔導エンジンと搭載機械らしきものが3機分置かれていた。

 

「うはぁ~!これって、博士が造った新型の魔導エンジンですか!?」

 

真っ先に駆け寄ったのは、やはりシャーリーだった。瞳をキラキラさせて魔導エンジンを見つめる彼女の姿は、新しいオモチャを買い与えられた幼子のようだ。

 

「入院中、じっとしているのも退屈だからね。新しいタイプの魔導エンジンと搭載機械を試作してみたんだ」

 

察するに入院中も病院のスタッフや他の患者達に多大な迷惑を掛けていたらしい。父の話を聞いて、息子は軽い頭痛を覚えた。

 

「これらを搭載するストライカーユニット本体も造りたかったが、予算も部品も足りなくてね」

 

「部品は、どうやって調達したのですか?」

 

と、バルクホルンが素朴な疑問を投げ掛ける。

 

「知り合いのジャンク屋がロンドンの郊外に住んでるんだ。久しぶりに会いに行ったら、新品同然のパーツ類を格安で譲ってくれたんだ」

 

「…………大丈夫なんだよな?」

 

優人は念を押すように訊く。商品価値が極めて低く、大した利益が見込めない品々を多数扱っているジャンク屋が、大量のパーツを無償で提供した。そんな話を聞かされては嫌な予感しかしない。

 

「品質はちゃんと一つ一つチェックしてるよ。当然、エンジン回りのパーツもだ。問題ない」

 

そう断言すると、一郎は試作エンジンついて得意気に語り始めた。

 

「これら3つの魔導エンジンは、どれも性能面では従来のものを上回っている。宮菱重工業で開発が進められている十七試艦上戦闘機への搭載を、僕なりに念頭に入れたもので、これを搭載すればカールスラントのBf109シリーズやリベリオンのP-51すらも凌駕する……はずだ」

 

「なんだよ、はずって?」

 

「もしかして、テストはまだ?」

 

優人が怪訝そうに眉を顰め、バルクホルンが重ねて訊ねる。

 

「その通り!……と言うわけで、さっそくテストだ」

 

一郎は無駄に力強く頷いて肯定すると、テストの準備に取り掛かった。

 

(何か嫌な胸騒ぎがする……)

 

一抹の不安が、優人の胸を過る。シャーリー達には預かり知らぬことだが、父に関連する息子の嫌な予感が外れたことは、今まで一度もなかった。




シリアスな雰囲気から打って変わり、またギャグ風に(笑)


優人は物凄い腕前の世界的エースという設定なのに、作者の空戦描写力の無さ(空戦に限ったことではない)が祟って、ただのスケベでシスコンな中堅レベルの航空歩兵的な扱いになってしまっている気がしてならないorz

あっ……紫電改で左捻り込みをやった件や宮藤博士の試作エンジン・ストライカーについて触れる場合は、やんわりとお願いします。


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