ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

69 / 119
今回のお話について。


人によっては、閲覧中に「えっ?(・・;)」やら「はぁ?(°Д°)」となるかもしれません……


第14話「宮藤博士の危険な実験」

約1周間前、扶桑皇国横須賀――

 

大きな港で栄える横須賀港。そこから三浦半島を挟んだ反対側の入江に、第501統合戦闘航空団の宮藤芳佳軍曹が通う――本人はブリタニアにいるため、現在は休学中――横須賀第四女子中学校がある。

そして、その裏山に小さな診療所が一件。宮藤軍曹と彼女の兄――宮藤優人大尉の実家であり、様々な疾患や怪我の治療を行っている――“宮藤診療所”がある。

 

「おばさん!おばさん!」

 

陽が顔を出したばかりの朝早く、宮藤診療所に1人の少女が飛び込んできた。

和風美人を連想させる長く、艶のある黒髪と可愛らしくも澄んだ声が印象的な彼女の名は、山川美千子。芳佳や学校の友達等、親しい間柄からは“みっちゃん”というアダ名呼ばれている。横須賀第四女子中学校に通う女学生で、宮藤兄妹の再従姉妹であり幼馴染み。海軍兵の兄が1人いる。実家は農家をしていて、優人と芳佳もよく手伝っていた。

おとなしくて世話焼きで家庭的だが、やや心配性。人の気持ちを読み取る観察力に長けており、思い込みの激しい芳佳とは良いコンビである。また、優人にとってはもう1人の妹のような存在で、美千子も実兄よりも優人の方に懐いている。

芳佳とは違って勉強が得意で、文系科目は特に優秀。合唱部に所属しており、独唱パートも任せられるほど歌が上手い。

 

「あら?みっちゃん」

 

長い茶髪を低い位置で結び、首元に緋色のスカーフを巻いた白衣姿の女性が、声を聞きつけて居間から顔を出した。

彼女の名は宮藤清佳。優人と芳佳の母親で、宮藤一郎の妻でもある。旧姓は“秋元清佳”。診療所の経営者で、年老いて尚強大な魔法力を維持している希代のウィッチ――秋元芳子の娘である。

この診療所は宮藤兄妹の母方の一族――秋元家が、代々治癒魔法と共に受け継いできたもので、十数年前までは“秋元診療所”という名称で経営していた。ひとり娘の清佳が宮藤一郎と結婚したのを機に宮藤診療所に改名していた。

清佳は母の芳子同様、強大な魔法力と治癒魔法を有している。20歳を過ぎ、尚且つ結婚しても魔法力は衰えることなく維持し続けている希有なウィッチである。

物静かでおとなしく見えるが芯は強く、強情で直情的な部分も持ち合わせている。その性格は魔法力と共に芳佳に受け継がれている。

料理の腕は芳佳や優人よりも遥かに優れており、扶桑料理以外の各国料理も得意とし、レパートリーも幅広い。

清佳との出会いがきっかけとなり、一郎はストライカーユニットの研究に邁進した。

 

「いらっしゃい。そんなに慌てて、一体どうしたの?」

 

「こ、これを見てください!」

 

なにやら興奮気味の美千子。家からずっと握り締めていた朝刊を清佳に手渡し、清佳と芳子に見て欲しい2つの記事のうち一つを指差す。

 

「――っ!?」

 

記事に視線を落とした清佳は呼吸するのもを忘れ、驚愕に目を見開く。

それは第501統合戦闘航空団“ストライクウィッチーズ”によるガリア解放に関する記事で、タイトルには『大殊勲!坂本少佐、宮藤兄妹!』とあり、欧州へ派遣されている航空歩兵の活動を遠く離れた扶桑本国へ伝えるものであった。

掲載された写真には、正面を向いた坂本美緒少佐が彼女らしい豪快な高笑を飛ばし、その隣では坂本同様カメラへ向かって微笑む宮藤優人大尉。兄に肩を抱かれ、照れ臭そうにはにかむ宮藤芳佳軍曹が写っていた。

 

「芳佳……優人……」

 

愛する娘と息子の名を呟き、清佳は嬉しそうに頬を赤らめた。写真ではあるが、二人の元気そうな姿を見ることができた。

 

「芳佳ちゃんと優人さん、ネウロイをやっちけてガリアを救ったんですよ!誰にも出来なかった巣の破壊を成し遂げたんですよ!兄妹揃って世界的英雄になってますよ!」

 

と、友達の大活躍を知ってテンションの上がっている美千子は、やや早口な口調で熱弁する。

ネウロイや欧州の戦況について詳しくない清佳にとって敵勢力の拠点を破壊し、ガリアを解放した501の一大戦果はいまいちピンとこないものであった。しかし、戦地へ赴いている我が子の安否と活躍を報せてくれたこの記事は、母親には何よりの便りなのだ。

 

(二人とも、元気にしてるのね。頑張ったのね……)

 

自然と目頭が熱くなる。両目から涙が溢れ、視界が霞んでよく見えない。それでも清佳は記事から目線を外さず、朝刊を握り締めた。

いつの間にか母の芳子が斜め後ろに立っており、娘の右肩に己の手を置いて清佳に微笑んでいた。彼女も孫達の息災と活躍を嬉しく思ってある。

 

「あっ、それと。これも見てください!」

 

そう言って、美千子はまた別の記事を指し示した。清佳は指で双眸の涙を拭い、促されるままに視線を走らせる。

 

「…………えっ!?」

 

記事を見た瞬間、清佳は衝撃に胸を詰まらせた。目を見張り、彫像のように身を硬直させる。

それもそのはず。彼女にとって記事の内容は嬉しくも信じ難いものであり、驚愕を禁じ得なかった。記事のタイトルは以下の通りである。

 

『“ストライカーユニットの父”宮藤一郎博士、ブリタニアにて生存を確認!』

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

“ストライカーユニットの父”と称される扶桑の高名な技術者――宮藤一郎。彼の生存が、1944年9月ブリタニアにて確認された。

1939年8月。同国のストライカーユニット共同開発研究所において、原因不明の爆発事故――実際は石威紫郎の策略によるもの――に巻き込まれた。研究所に残っていた数名の研究者のうち宮藤博士のみ奇跡的に生還しており、昏睡状態に陥ったところを事情を知らない旅行者によってロンドンの病院へ担ぎ込まれた。

病院側は治療を終えた後、ブリタニア政府を通して現地の扶桑皇国大使館へ身元の照会を依頼するつもりでいた。しかし、博士の容態が安定した直後に大量のネウロイが黒海より出現、人類は異形の存在と戦争状態に入った。

圧倒的戦力を誇るネウロイの対応や各国との連携、ネウロイの侵略行為、亡命を希望してきた欧州各国の政府・国民の受け入れ等に追われてしまい、ブリタニア政府が博士の身元を突き止めるまで数年の時間を有した。

そして5年後。身元の判明と同時に昏睡状態から回復した宮藤博士は、愛する娘と息子のいる第501統合戦闘航空団“ストライクウィッチーズ”の駐留する基地を訪れていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

現在、第501統合戦闘航空団ブリタニア基地――

 

「ふぅ……準備完了だ」

 

作業を終えた宮藤一郎は、格納庫の天井を仰ぎながら短く息を吐いた。

時期は9月初頭。炎天下と言うほどではないが、残暑の厳しい中でストライカーユニット関連の作業をしていた彼は汗を大量に掻き、顔や服のあちこちにオイルが付着している。

額から流れ出た一筋の汗が頬を伝い、一郎は鬱陶しそうに服の袖で拭った。すると、カールスラント空軍より501へ派遣されている航空ウィッチ――ゲルトルート・バルクホルン大尉が一郎の元へ歩み寄り、二枚用意したタオルのうちを一枚手渡した。

 

「宮藤博士、こちらをお使いください。ほらリベリアン、お前にも」

 

そう言ってバルクホルンは、博士と共に作業をしていたリベリオン国籍の少女に、二枚目のタオルを与える。

 

「おっ?サンキュー!」

 

タオルを受け取り、快活な声で礼を述べる彼女はリベリオン陸軍第8航空軍より派遣されている航空ウィッチ――“シャーリー”ことシャーロット・エルウィン・イェーガー大尉である。

作業を手伝ったため、彼女の顔はオイル塗れになってしまっているが、それでも彼女の笑顔はまるで真夏の太陽のように眩しく、キラキラと輝いて美しかった。

ちなみに、“リベリアン”とはリベリオン国民のことを指す用語であるが、バルクホルンの場合は自由主義かつ大らかな気質のイメージが強いリベリオン人に対する蔑称として使っている。

 

「ありがとう、バルクホルン大尉。イェーガー大尉も手伝ってくれて助かったよ」

 

タオルを用意してくれたバルクホルンと、作業を手伝ってくれたシャーリー。二人の顔を交互に見ながら、一郎は爽やかな笑顔で礼を言う。

 

「いえ、そんな……」

 

「これくらいお安いご用意ですから……」

 

微笑み掛けられた2名の航空ウィッチは、少々照れ臭そうに頬を染める。

既に40を越えた年齢で、バルクホルン達とは親子ほど歳が離れている一郎。目元に皺が寄っているものの、本人の端正な顔立ち故か。外見上は、青年期と思春期の子どもがひとりずついるとは思えないほど若々しい。

 

「お疲れ様」

 

「お茶持ってきたよぉ!」

 

ふと入り口の方から声がした。声の主は2人、1人は一郎の息子である扶桑皇国海軍の航空ウィザード――宮藤優人大尉。もう1人は、ロマーニャ空軍より派遣されている501部隊最年少の航空歩兵――フランチェスカ・ルッキーニ少尉だ。

3人が振り返ると、麦茶が注がれた人数分のコップ乗せたトレイ。それを抱えた優人と、両手を頭の後ろで組んだルッキーニの姿があった。

作業中の一郎とシャーリーにバルクホルンはタオルを、優人とルッキーニの二人は麦茶を用意するため厨房へ行っていたのだ。

 

「優人、ちょうど良かった!」

 

お茶を運んできた息子に向かって、一郎は待ってましたと言わんばかりに声を掛ける。

 

「ストライカーの組み立てが終わったんだ。さっそくだが、回してみてくれないか?」

 

「はいはい、人使い荒いね」

 

優人は一言ぼやくと、ルッキーニにトレイを預けてストライカーユニットの元へ移動する。

一郎とシャーリーが行っていたのは、予備パーツ用に解体されていたストライカーユニットの組み立て作業だった。

使われているパーツの殆んどは、連盟空軍に参加している各国軍から支給されたものだが、魔導エンジン及びいくつかの搭載機械は一郎が新たに試作したものを使っている。試作型の魔導エンジンをストライカーユニットに搭載し、今からテストする。

一つ目の魔導エンジンは、あくまで出力チェックと動作確認を目的としているため、飛行はせずに発進ユニットに固定した状態で始動させる。実験の経過如何で、飛行試験も実施する予定だ。

一応付け加えておくと、これは連合軍総司令の許可と基地及び501の司令であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の了承を得た上での実験である。

 

「父さん、こっちはいつでもいいよ」

 

試作魔導エンジン“タイプA”を搭載した零式艦上戦闘脚二二型甲を履いた優人が、計測器を手にした父に声を掛ける。

宮菱重工業製の零式は扶桑皇国海軍を代表的するストライカーユニットであり、かつて宮藤一郎がブリアニアの共同研究所で設計・開発した試作型の十二試艦上戦闘脚は、零式艦上戦闘脚一一型として制式採用された。航空母艦用の二一型も本格量産され始め、大戦初期はこのタイプが主力であった。

三二型は、欧州での運用実績を元に活動時間を低下させ、代わりに攻撃力、防御力、機動力を向上させたタイプで、これに次いで空母用に開発されたのが501の扶桑組が使用しているこの二二型である。

ちなみに、今タイプAを搭載している二二型甲は、紫電二一型の支給以前に優人が使っていた機体だ。

 

「わかった」

 

息子の言葉に頷くと、一郎は自分の背後に立っている3人のウィッチに振り返った。

ルッキーニとひと仕事終えたシャーリーが麦茶を呷りながら、バルクホルンは眉一つ動かさない真剣な表情で優人の方へ目を向けていた。

 

「まずはタイプAのテストを行う。あまりの出力に腰を抜かさないように……」

 

「もぉ~……いいから早く始めてよぉ……」

 

勿体振る一郎に対して、ルッキーニが焦れたように言う。子どもの我慢は長く続かない。

 

「よし!優人、エンジン始動だ!」

 

「了解!」

 

父に促され、優人は試作エンジンに魔法力を流し込んだ。エンジンは問題無く動き始めた。格納庫内に轟音が響き渡り、空気を揺るがす。

 

「「「おお~!」」」

 

見学していた3人の航空ウィッチが、揃って感嘆の声を漏らす。

まるで野生動物の雄叫びのような力強いエンジン音。回転数の上昇もスムーズで、尚且つ安定している。

さらには優人の足元を中心に展開され、格納庫の外まで広がっている巨大な魔法陣。試し感覚で少量の魔法力を流しただけだというのに、これほどまでの出力を見せつけていた。

 

「スゴい!出力計が振り切れそうだ!」

 

と、ややオーバーリアクション気味に感激するバルクホルン。

従来の魔導エンジンを上回る出力を誇り、専用の機体に搭載すれば他国のストライカーユニットを上回る性能を発揮する。一郎はそう言っていたが納得である。

 

(スゴいッ!魔導力の立ち上がりが半端じゃないっ…………あれ?)

 

父が試作した魔導エンジンの予想以上の出力に、優人もまた歓喜していた……のだが、途中からある違和感に気が付く。

いつの間にか、魔導エンジンのコントロールが利かなくなっていた。本人の意思とは関係なく、回転数と出力が上がているのだ。

 

「父さん、このエンジンなんか勝手に回転数が上がっている気がするんだけど?」

 

「気にするな」

 

不安気な息子の問いに、一郎は冷静な口調で応じる。彼は優人の方を見ておらず、計測器に釘付けとなっていた。

このやり取りの直後からストライカーユニット――いや、正確に言えば試作魔導エンジン“タイプA”の暴走はますます激しくなっていった。

 

「なんか、ストライカーが熱いんだけど……」

 

「気にするな」

 

「それに焦げ臭いし……」

 

「気にするな」

 

「うわっ!?父さん、火がっ!火が出た!」

 

「気にするな」

 

「あ、あの宮藤博士!止めるべきでは!?」

 

明らかな異常事態を前にして、バルクホルンが実験の中止を進言する。

一郎は計測器と優人の履いたストライカーユニットを交互に見つめ、なにやら分析した後にフゥと軽く息を吐いた。

 

「優人、すまない」

 

“ストライカーユニットの父”は、息子と視線を交わすと、優人に笑顔を向けた。それは幼い子どもが、イタズラや失敗を誤魔化す時の作り笑顔そのものだった。

 

「そのエンジンは爆発する」

 

「………………えっ?」

 

父が何を言っているのか、優人はすぐには理解出来なかった。聞き返そうとする優人を他所に、試作魔導エンジン“タイプA”は眩い閃光を放ったのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「ふぅ……タイプAには少々問題があったようだ」

 

一郎は顎に手を当てながら、冷静な口調で実験結果を分析する。結論から言って、試作魔導エンジン“タイプA”は失敗作であった。

優人の魔法力によってエンジンが始動し、レシプロ機用としては圧倒的な高出力を見せつけた。

そこまでは良かったのだが、増幅された魔法力は足首部分に相当する位置にある呪符発生機に送られることなくエンジン内部とその周辺機械に停滞、そのまま増幅し続けた。

膨れ上がった魔法力により試作魔導エンジンは暴発し、搭載していた零式も過負荷に耐えられず爆散……するところだった。エンジンが暴発する直前に、優人が咄嗟に固有魔法『凍結』を発動し、ストライカーユニットを凍結させた。

強引なやり方ではあったが、これによって試作魔導エンジン“タイプA”をストライカーユニットごと冷凍封印して、最悪の事態を回避することができた。

 

「こんのっ!クソ親父いいいいぃ~っ!」

 

怒りに満ちた叫びが格納庫内に響き渡る。声の主はもちろん、試作魔導エンジンのテストを引き受けた優人である。

怒号を飛ばすのとほぼ同時に、試作魔導エンジンの開発者である父親の首に両手をかけていた。

 

「ぐっ!……ゆ、うと……苦し……」

 

「可愛い息子を殺す気かぁ!?いやっ!気分的に一回死んだわ!あんな危険極まりないもの作りやがって!このマッドサイエンティストがぁああああ~!!」

 

首を絞められ、顔面蒼白となっている一郎に向かって、優人は罵声罵倒を吐き続ける。いつになく怒り心頭な様子だが、危うく死ぬところだったのだから無理もない。

魔導エンジンの権威が新たに開発したエンジンは、魔力爆弾と形容しても差し支えない危険物、欠陥品だった。

もし“タイプA”が爆発していたら、この基地は疎か島が丸ごと消滅していただろう。

 

「優人、止めろって!」

 

「博士が死んでしまうぞ!」

 

このままでは、せっかく再会した父親を殺してしまいかねない。シャーリーとバルクホルンが慌てて止めに入る。

優人の怒りが完全に収まるまでしばらくかかったが、怒り狂った息子から本気の――魔法力は使っていない――首絞めを受けたにも関わらず、一郎が会話可能な状態に回復するまで然程時間はかからなかった。

 

「さてさて、次はの実験だが――」

 

「また爆発すんの?」

 

何事も無かったかのように次の実験を始めようとする父親に対し、息子が毒突く。しかし、“ストライカーユニットの父”と渾名される一郎にとって、そんなものは何処吹く風。口調に刺がついた息子の発言をスルーし、一郎は次の試作エンジンを右手で指した。

 

「お次は、試作魔導エンジン“タイプB”のテストを行う」

 

「ふ~ん」

 

常日頃から音速突破を目指しているスピードマニアであり、機械への造詣が深いエンジニア系女子でもあるシャーリー。試作魔導エンジン“タイプB”をしげしげと、興味深そうに見つめている。

 

「さっきのとおんなじに見えるよ?」

 

と、怪訝そうなルッキーニ。尤もシャーリーの整備姿をよく眺めているだけで、機械系に疎い彼女にエンジンの違いはわからないが……。

 

「見た目ね。でも、このエンジンには従来型の魔導エンジンに存在しない画期的なシステムが備わっているんだよ」

 

「……と言いますと?」

 

バルクホルンが詳しい説明を求めると、一郎は自信ありげな笑みを浮かべて話を続けた。

 

「念動系加速固有魔法をユニット側で擬似的に発現するシステムさ」

 

「加速魔法って……あたしの『超加速』みたいな?」

 

確認するようにシャーリーが訊くと、一郎は満足そうに頷いた。

シャーリーの固有魔法『超加速』。念動力を使い、自分を周囲に張り巡らされているシールドごと望む方向へ引っ張る魔法で、これによって高速移動が可能となる。

ボンネヴィル・ソフトフラッツにて、シャーリーはこの魔法を無意識に使用し、バイクの世界記録を樹立していた。

 

「その通り!このエンジンをストライカーユニットに搭載すれば、どの機体でもすべての航空歩兵が高速戦闘に対応出来るようになるんだ!」

 

「じゃあ、アタシもシャーリーみたいなスピードマニアになれるの!?」

 

ルッキーニが、緑が掛かった蒼色の瞳をキラキラさせながら訊ねる。

やはりというか。精神年齢が実年齢よりも幼いロマーニャウィッチは、グラマラス・シャーリーのスピード狂なところに憧れているらしい。

 

「もちろん!加速力は乗り手の魔法力に比例するから、ルッキーニ少尉の魔法力なら音速到達だって夢じゃないさ!」

 

「やったぁ~!」

 

一郎の話を聞いて、無邪気に喜ぶルッキーニ。試したわけではないが、彼女は既に音速を叩き出した気になっている。

 

「しかし、単に速ければいいと言うわけではないのでは?」

 

ルッキーニに続いて、バルクホルンが疑問を投げ掛ける。

 

「ふむ。確かに……」

 

バルクホルンの言葉に説得を感じる一郎。より実用的なシステムを構築するため、“タイプB”実験内容を変更することにした。

 

「優人」

 

「ん?」

 

「すまないが、お前の紫電改を準備してくれないか?あの機体に“タイプB”を積ん――」

 

「イヤだ」

 

「……………“タイプB”を積んで、より実戦的なデータを――」

 

「イヤだ」

 

「…………どうしてだ?」

 

父親が言い終えるよりも先に、要請を拒否する息子。一郎はあからさまに不満気な顔をして理由を訊ねる。

 

「せっかく届いた新型にあんな危険物載せられるか!紫電改がぶっ壊れたらどうするんだよ!?紫電改はもちろん、他の機体も使わせない!」

 

「そこを何とか……」

 

「イヤだ」

 

「実験に失敗は付き物なんだ。それに失敗は成功の母の友達と言うだろう?」

 

「ほぼ赤の他人じゃないか!ていうか、失敗することを前提に頼むな!」

 

「なぁ、頼む」

 

「イ・ヤ・だ!」

 

押し問答を続ける宮藤親子。バルクホルン達はしばらくの間、そのやり取りを見つめていたが、ふとシャーリーが何か閃いて一郎に耳打ちする。

 

「宮藤博士。ちょっと向こうで話が……」

 

「ん?何だ?」

 

「いいからいいから♪」

 

一郎の腕を取ったシャーリーは、そのまま彼を引っ張って格納庫の隅まで連れていき、話を切り出す。

 

「博士♪実験がしたいんでしたら、あたしと取引しませんか?」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

数分後――

 

501基地滑走路上空に、ストライカーユニットやインカムを装備した優人とシャーリーが横一列に並んでホバリングしている。

優人は先程の模擬戦で使用していた紫電改を、シャーリーはP-51Dを履いている。しかし、シャーリーはいつも機体ではなく、試作魔導エンジン“タイプB”を搭載した予備の機体を使っていた。

間も無く、“タイプB”の性能実験が開始される。シャーリーがエンジンのテストを引き受け、優人はテスト飛行中彼女と並走し、もしもの時の救助と目視による観測を担当する。ちなみに、テスト機の組み立ては一郎が行った。

 

「シャーリー、父さんとどんな取引をしたんだ?」

 

優人がそう問うと、シャーリーはニヒッと口角を吊り上げて答えた。

 

「へへ~ん♪テストを引き受ける代わりにエンジンを貰うんだよ♪」

 

「物好きだな。音速を突破する前に木っ端微塵になっても知らないぞ?」

 

「あんな事故早々起こらないよ。それにリスクを恐れてちゃ、音速突破なんて出来ないさ」

 

そう言って、シャーリーは“タイプB”が搭載されたストライカーユニットを軽く撫でる。

自分の『超加速』に試作エンジンの擬似加速魔法が加われば、今度こそ音速を突破出来るかもしれない。シャーリーの胸は期待と興奮でいっぱいだ。

 

『準備はいいかな?』

 

インカムから、地上にいる一郎の声が聞こえる。そろそろ始めるようだ。

 

「いつでもどうぞ!」

 

『優人、イェーガー大尉の飛行状況は逐一報告してくれ』

 

「了解」

 

『よろしい。では、ルッキーニ少尉の合図で実験開始だ!』

 

一郎が指示すると、二人はスタート位置についてルッキーニの合図を待った。すぐにルッキーニの声がインカム越しに聞こえてくる。

 

『位置についてぇ……よぉ~い、ドォン!』

 

合図と共に扶桑海軍ウィザードとリベリオン陸軍ウィッチは、まるでカタパルトから射出されたかのように加速していった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、基地滑走路――

 

「始まったな」

 

「いっけぇええええ!シャーリー!」

 

と、地上から二人の様子を眺めているバルクホルンとルッキーニ。

ルッキーニは、シャーリーと優人が空に引く白い軌跡を遠目で見ながら、拳を突き出して快哉を叫んだ!

 

――ガシャン!

 

「うじゅ?」

 

ふと何か落っこちたような物音が聞こえた。頭上にクエスチョンマークを浮かべたルッキーニは、音がした方へ目線を移す。

機械の部品らしきものが、視線の先にいくつか落ちていた。おそらく、という間違いなくストライカーユニットの部品だ。

 

「ねぇ、イチローパーパ!」

 

背後へ振り返るルッキーニ。“イチローパーパ”とは、もちろん一郎のことだ。彼はルッキーニの数歩後ろで計測器を見ていた。

 

「シャーリー、なんか落っことしていったよ?」

 

「気にしない、大丈夫」

 

そう応じる一郎は最初の実験と同じく、取り憑かれたように計測器を凝視している。ルッキーニの声がちゃんと聞こえ、理解しているかどうか怪しいものだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

再び、上空――

 

(加速が止まらない……いける!これならいける!)

 

魔導エンジン最大出力で風を切り裂きながら、シャーリーは心の中で歓喜していた。擬似加速魔法発現システム(仮称)は、彼女の期待以上の性能を見せていたのだ。

速度は既に時速850記録を超え、同時にスタートした優人を引き離している。その後も加速は一向に衰えず、速度は860……870……880と上がっていく。

 

「880……890……900超えたぁああああっ!」

 

興奮を湛えた歓喜の叫び。今のシャーリーには、己の声すら耳に入らない。自分を平伏させようとする音の壁との対峙に集中していた。

視界を遮るものは何もない。雲さえ存在しない、一面の蒼。それがシャーリーの視界を一色に染めていた。

 

(もう少し!もう少しで、夢に手が!)

 

以前、偶然の産物ながら静寂が支配する超音速の世界に到達したシャーリー。

心地好い孤独が支配するマッハの世界への扉が、彼女の手で再び開かれようとしている。

 

『シャーリー!すごい加速だけど、大丈夫なのか?何か異常はないか!?』

 

ふとインカムから優人の声が聞こえてきた。シャーリーの身を案じている。

 

「大丈夫、何も心配無い!このまま、一気にマッハを超えるよ!」

 

『ならいいけど、無理だけはしないでくれよ!』

 

「ここで決めなきゃ女が廃る!」

 

『おいおい!なんかキャラが違うぞ!』

 

ストライカー共々、絶好調な様子のシャーリー。テンションが上がっているのか、分かる人には分かるネタ台詞を口にする。優人がツッコミを入れた、その直後だった。

 

――ボンッ!

 

「…………えっ?」

 

試作魔導エンジンから、小規模な爆発音のようなものが聞こえてきた。さらに次の瞬間。

 

――ガッシャ~ン!

 

シャーリーが履いていたテスト用のストライカーユニットは、細かなパーツとなって四散した。

ストライカーを失い、美しい放物線を描きながら海へと落下していくシャーリーを、優人が慌てて追いかけていった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

またまた、滑走路――

 

「……宮藤博士?」

 

事故の件は、優人がすぐさま地上の3人へ報告していた。

バルクホルンは一郎へ振り返り、「これはどういうことですか?」と言わんばかりに細めた両目で試作魔導のエンジンの開発者を見据える。

 

「ふむ……原因は、スタート時に落としていった部品だな」

 

計測器から顔を上げた一郎は、冷静な口調でそう分析していた。




みっちゃんに兄がいるというのは原作アニメにおける公式設定ですが、海軍兵という設定は本作オリジナルです。

シャーリーの声優ネタ、分かる方いらっしゃいますか?

感想、誤字脱字報告をお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。