あとは作者はにわか通り越して、バカです。頭が足りておりません。
501基地ウィッチ宿舎・シャーリーの部屋――
「う~ん、参ったなぁ……」
命懸けの試験飛行を終え、シャーリーは自室に戻って来ていた。バスタオル一枚だけ身体に巻き、なにやら考え込んでいる。
つい20分程前。彼女はストライカーユニットの開発者――宮藤一郎が数年ぶりに造り上げた試作魔導エンジン“タイプB”を予備機のP-51Dに搭載し、テスト飛行を行っていた。
しかし、エンジンに欠陥があったのか。それともストライカーユニットに搭載した際に、一郎の組み方に不備があったのか。今まさに音速を超えるというところで、機体は空中分解を起こしてしまった。
ストライカーユニットを失ったシャーリーはドーバーの海へ落下していったが、付近で目視による実験の観測を行っていた優人がすぐさま救助に入ったため、大事には至らなかった。
海に落ちたシャーリーはずぶ濡れとなってしまい、海水を洗い流そうと風呂に入った。その後、着替えるために一旦自室へ戻ってきた……のだが、生憎私服も含め彼女の衣類は殆んどがまだ洗濯中であった。
部屋に残されていたのは、深紅のセパレーツタイプの水着と、夏場に寝間着として使っているピンク色の下着のみだった。
「誰かに服を貸して貰うしかないか……」
シャーリーは右手で頭を押さえながら、フゥと軽い溜め息を吐いた。
普段のシャーリーならば、水着姿や下着姿でもお構い無しに基地内を彷徨いていたことだろう。しかし、今日は来客が――宮藤一郎が来ている。
基本的に奔放な性格のシャーリーだが、さすがに限度は弁えている。客人であり、戦友の父親でもある彼の目にだらしない姿を晒す気はない。
――コンコンッ!
不意に小気味良いノックが耳朶を打ち、何者かの来訪を知らせる。シャーリーはドアへと視線を走らせ、ドアは向こう側に声を返した。
「は~い?」
「シャーリー、俺だけど?」
「優人?ちょっと待って」
来訪者はバルクホルン達と格納庫にいるはずの優人だった。
格納庫で待っていればいいはずなのに、わざわざ迎えに来たのだろうか。怪訝に思いつつも、シャーリーはドアを開けて優人を出迎えた。
「どうしたんだ?」
「あっ、悪い。着替え中だったか……」
バスタオル姿のリベリオンウィッチと対面した優人は、ばつが悪そうに頭を掻いた。
セクシーな出で立ちのシャーリーから気まずそうに目を逸らしたかと思えば、彼女の胸元にチラチラと視線を走らせる。
「別にいいよ。それよりあたしに何か用か?」
と、シャーリーは繰り返し訊ねる。優人は彼女の豊かな谷間を2、3度チラ見した後、手に持っていた衣服――綺麗に畳まれた白色のワイシャツをシャーリーに渡した。
それは普段優人が第二種軍装の下に着ているシャツと同じものだった。
「これって……?」
「着替えが無いって言ってたろ?困ってるんじゃないかと思って」
言われてみれば、テストを行う前に格納庫でそんな話をしていた。
「貸してくれるのか?」
シャーリーは少々面食らったような表情で、受け取ったワイシャツと優人の顔を交互に見る。
「俺ので悪いけど。その、良かったら……」
そう言って、優人は照れ臭そうに目を泳がせる。そんな扶桑海軍ウィザードの様子を可愛らしく思ったのか、シャーリーはプッと小さく吹き出した。
「ありがとう。使わせて貰うよ」
右目を瞑ってウインクするシャーリー。リベリオンウィッチの笑顔は相変わらず眩しい。
「じゃあ、着替えるから。ちょっと待っててくれ」
「あ、ああ……」
優人の返事を聞き、シャーリーはドアを閉めようとする。が、途中で何か気が付いたよう手を止め、半開きのドア越しに優人へニヤけ顔を向けた。
「覗くならバレないようにやりなよ♪」
「なっ、何言って!?」
からかうように言われて狼狽える優人を尻目に、シャーリーはクスクスと笑声を立てながらドアを閉める。室内に戻ると、シャーリーはバスタオルを外し、下着類を手に取る。
レースで彩られたピンク色のブラと、小さなリボンが配われた同色のズボン。色気のあるアダルティなデザインの下着はグラマラス・シャーリーに良く似合う。
「んっ……やっぱ、胸がキツいな……」
ブラを付けた胸に圧迫感を覚え、両手で持ち上げてみる。ブラのサイズがやたら小さく感じる。シャーリーが自分で言っていた通り、たわわに実った果実は未だ成長過程らしい。
「新しいの買わなきゃな……売店に置いてあるかなぁ……」
シャーリーは溜め息混じりに呟く。501基地内にある売店では、様々な品物が売られている。
主に歯ブラシやタオル等の日用品、お菓子や飲料水等の嗜好品。そして、本やトランプ等の娯楽品。
航空歩兵部隊の基地ということで、ウィッチ用のズボンや女性用の寝間着、水着に下着類まで多く置かれており、基地内に設けられた小規模なスペースの店舗にあるまじき凄まじい品揃えを誇る。
それでも巨乳サイズの衣類は殆んど置かれていないため、水着や下着は店員に頼んで注文する必要がある。また値段も高いが、ウィッチの給料ならばさほど問題はない。
他にも“重量のせいで肩が凝る”、“下心あるナンパをされる”、“胸に汗を掻く”等。巨乳には巨乳なりの悩みがあるのだ。
シャーリーはともかく、リーネやミーナはこれらの問題で頭を抱えることが多々あるそうな。
「おっと……優人を待たせてるんだった……」
シャーリーは着替えを再開する。優人から貸し与えられたワイシャツを広げ、袖に腕を通した。
「ちょっと、大きいかな?」
シャツの第二ボタンまで留めると、シャーリーは鏡の前まで行って自分の姿を確認してみた。
やはりというか。男物ワイシャツなのでサイズがやや大きめだ。多少ブカブカ感がある。
「…………優人の匂いがする」
頬をほんのりと赤く染めながら、シャーリーはいとおしいそうに呟く。彼女の左胸にある心臓がドクドクと早鐘を打ち鳴らしていた。
◇ ◇ ◇
十数分後、同基地格納庫――
宮藤一郎が新たに試作魔導エンジン“タイプA”・“タイプB”のテストを行った結果、この2機のエンジンには重大な欠陥があることが判明した。
ジャンク屋から格安で購入したパーツを使用したためか、ついこの前まで昏睡状態だった技術者が病み上がりで設計を行ったためか。或いはその両方か。
少なくとも開発者の息子である宮藤優人は後者ないし両方だと考えていた。
「さてと……」
優人とシャーリーが戻ってきたところで、宮藤一郎は新たな実験の準備を始めていた。
自分が試作した魔導エンジンで息子と息子の友人を殺しかけているというのに、まったく懲りていないようだ。
「この“タイプC”が、タイプA・Bのノウハウから生まれた、一番まともなやつだ」
「おい、ちょっと待て!」
しれっと飛んでもない発言をする父親に、優人が食って掛かった。
「じゃあ、俺達にはまともじゃないヤツのテストをさせたってのか!?」
「何を怒ってるんだ?」
声を荒げて突っ掛かってくる息子に対し、一郎は頭上でクエスチョンマークを踊らせる。何故優人が怒っているのかが分かっていないらしい。
「実験に失敗は付き物なんだ。それに失敗は成功の母の友達の叔母と言うだろう?」
「さっきよりも遠くなってるじゃないかっ!て言うか、まず失敗しないことを優先しろ!」
どうやら“ストライカーユニットの父”の中では、『失敗=成功へ一歩前進』という方程式が成り立っているようだ。
失敗は成功の為の重要なプロセスだということは理解出来る。しかし、宮藤一郎の場合は避けて通れたはずの失敗をわざわざ経験しているようにも思える。
ハルトマン同様、天才故に少しズレた性格をしているのだろうか。でなければ、立派なサイコパスである。
元々、優秀な技術者であると同時に相当な変わり者でもあった一郎だが、その変人ぶりは以前よりも酷くなっている。少なくとも優人はそんな気がした。
研究所の爆発が原因で大事なところのネジを失くしてきてしまったのかもしれない。
「まぁ、とは言っても……」
額に青筋を浮かべる息子を他所に、一郎は実験に話を戻した。
「これからの実験結果から耐久性等の安全面を考慮して、“タイプC”の稼働時間は1分以内に制限する」
「んで、その“タイプC”はどこに?」
「ん……」
優人の問いに答える代わりに、一郎は格納庫の奥を指差した。
視線を移すと、キャットウォークの前でズラリと横一列に並べられた12基の発進ユニット――言うまでもなく、501メンバーのユニットが固定されている――が目についた。
いつもの間にか。ルッキーニが自分のストライカーユニット――G55“チェンタウロ”の固定された発進ユニットの上で猫ように丸くなっている。優人とシャーリーを待っているうちに眠くなってしまったのだろう。
そして、一郎の人差し指が示しているのは別の発進ユニット。そこに固定されているストライカーユニット――優人の新しい愛機である紫電二一型だった。
「ま、まさか……」
優人の顔が一気に青ざめる。父親の方へ向き直り、確かめるように訊くと、一郎は深く頷いてみせた。
「お前の紫電改を使わせてもらった」
試作魔導エンジンという名の危険物が、漸く届いた新型ストライカーユニットに載せられていた。それも無断でだ。
怒りにワナワナと震えながら優人は射殺さんばかりの鋭い視線で睨み付けた。
――このクソ親父がぁああああっ!
優人がそう叫ぼうするよりも一足早く、基地の警報がけたたましく鳴り響いた。ネウロイの出現を報せる警報だ。
「敵襲!?」
「まだガリアに残党がいたのか!?」
警報を聞いたバルクホルとシャーリーの表情が、一瞬で真剣なものへと変化する。
お昼中のルッキーニも目を覚まし、「ふぁあ」と可愛らしい欠伸を漏らしている。眠ってる状態でも神経を研ぎ澄ませている……というわけではなく、単に警報がうるさくて起きてしまったのだ。
「何だ?火事か?」
「……父さん、黙ってて」
空気を読まずに天然な発言をする父に優人が苛立っていると、警報に続いて航空団司令の凛とした声がスピーカーから流れた。
『緊急事態発生!ガリア国境付近に残存ネウロイが集結してブリタニアに接近中!ストライクウィッチーズは、直ちに戦闘態勢を整えて出撃してください!』
ミーナの指示がスピーカーに乗って届くなり、格納庫にいたウィザード1名を含む4名の航空歩兵はそれぞれの愛機へと駆け出した。
現在、基地にいる航空歩兵は外出中の芳佳、リーネを除いた10名。そのうちサーニャとエイラは夜間哨戒に備えて待機中で、サーニャに至っては昨晩の夜間哨戒で魔法力を使い果たしている。出撃は難しいだろう。
また、戦闘隊長の坂本は魔法力の減退――特にシールドの弱体化が顕著なことを理由に出撃を禁じられている。
以上のことを考慮すると、ネウロイの迎撃に出られるのは優人を含む7名となる。
「…………あっ!?」
バルクホルンと共にストライカーユニットのある発進ユニットへと向かっていた優人だが、ある重大な問題に気付き足を止める。
「?……優人、何をしている!?出撃だぞ!」
“Fw190D-6”の魔導エンジンを始動させたバルクホルンが、優人に向かって叫んだ。
「…………ない」
「ん?」
「…………ストライカーユニットがないんだよ」
「なにぃ!?」
今朝届いたばかりの紫電改こと紫電二一型は、愚父が息子に無断で信頼性の欠片もない試作エンジンを積んでしまっている。とてもじゃないが危険過ぎて飛ぶことなど出来ない。
予備機として保管さていた零式艦上戦闘脚二二型甲も、爆発しかけた“タイプA”ごと凍結封印してしまっているため使用不能になっている。
「おいおい、どうするんだ?」
シャーリーが訊ねると、優人は少し考えた後に答えた。
「とにかく、お前達は先に出撃してくれ!俺は……」
「優人。タイプCを搭載したお前の紫電改ならすぐにでも――」
一郎が口を挟んできたが、優人はそれを無視して言葉を続ける。
「坂本の零式を使わせてもらう。ミーナの許可が降り次第すぐに追い掛ける」
「……分かった。先に行くぞ!」
そう言うと、バルクホルンはシャーリーとルッキーニを引き連れて空へと上がっていった。
エンジン音を響かせながら蒼穹に消え行く戦友達を見送ると、優人は制服のポケットからインカムを取り出した。
「さて、さっそくミーナに……」
「優人!」
「うわっ!?」
数メートル程後ろにいたはずの一郎の顔が、目の前に突然現れた。驚いた優人は、危うく手からインカムを落としそうになった。
「何故、紫電改で出撃しない?」
「何故って……テストも済んでない試作段階のエンジンが載ってる機体なんて、危なくて使えないんだよ!」
「父さんが造ったエンジンだぞ!お前は父さんのことが信用できないとい――」
「うん、出来ない」
一郎が言い終える前に、優人はハッキリ「信用出来ない」言い放つ。息子の無慈悲な言葉は扶桑刀の切っ先よりも鋭く、父の心に突き刺さった。
「今度は大丈夫だ!爆発も空中分解もしない!まともに飛べることはもちろん、紫電改の性能も向上しているはずだ!」
「……本当?」
「本当だとも!」
「…………」
「…………」
「…………はぁ、分かった信じるよ」
懸命に訴え掛ける父親に根負けした優人は、溜め息混じりに了承する。
正直に言って信じたわけではない。しかし、一郎は身寄りのない自分を引き取り、実子違わぬ愛情を注いで育ててくれた大恩人だ。
そのことを考えると、優人はどうしても一郎に対して甘くなってしまう。無論、芳佳ほどではないが……。
「おお!それでこそだ!さぁ、早く始動してみてくれ!」
一郎に急かされ、優人はすぐさま紫電C型(仮称)を装備する。
(さすがに、始動した途端に爆発……何てことはないよな?)
一抹の不安を抱きながらも、優人は意を決して魔法力を発動し、試作魔導エンジン“タイプC”を始動する。すると、基地の3分1ほどはあろうかという巨大な魔方陣が展開され、同時に出現したプロペラ状の呪符が回転を始める。
「――ッ!?」
優人は目を見開いた。魔導エンジンによって増幅された魔法力に身体が震える。
それは歓喜の震えだった。零式シリーズや紫電二一型では得られなかった圧倒的な出力。優人はそれを全身全霊で感じていた。
(凄い……凄いぞ、このエンジン!)
501の中でも、スバ抜けて強大な魔法力を有する宮藤兄妹。一郎の試作した“タイプC”は、栄二一型や誉二一型では持て余し気味であったそれを存分に活かせるものだった。
(いける!)
凄まじい魔法が優人の周囲に旋風を巻き起こす。“タイプA”のように暴走する気配も、今のところはない。
「宮藤優人、出る!」
側面の武器コンテナからS-18対物ライフルを取り出すと、優人は仲間を追って飛び立った。
◇ ◇ ◇
同時刻、ドーバー海峡――
先行したバルクホルン、シャーリー、ルッキーニの3人は、ケッテを組んでドーバー上空を飛行していた。
「ミーナによると、敵は超低空から侵入してきた20機以上の編隊だ!小型らしいが、油断はするなよ!」
太陽の光を反射してキラキラ輝く洋上を進みながら、バルクホルンは僚機の2人に告げる。
シャーリーからは「りょうか~い」という気の抜けた返事が、ルッキーニからは「任せて~♪」とお気楽な返事が返ってきた。
緊張感の欠片もないリベリオンとロマーニャの仲良しコンビにバルクホルンは肩を竦めるも、特に小声を言うこともなく周囲に目を凝らしてネウロイを探し始めた。
敵ネウロイは、レーダーに引っ掛からない高度100m前後の超低空を飛行している。索敵は目視で行わなければならないので、かなり近づかなければ敵を視認できそうにない。
夜間じゃないだけまだマシだが、感知系の固有魔法が使える仲間が同行していないのは痛かった。
「いたっ!見つけたよ!」
一番視力の良いルッキーニが敵影を捉えた。彼女等から見て2時方向、高度はなんと予想よりも大部低い高度20メートル。
驚愕する3人だったが、即座に高度を下げて交戦状態に突入した。
(中型が4機だけ?子機を含めて20機以上、って聞いてたのに……)
降下しながらシャーリーが首を傾げる。レーダーに映らない超低空、というよりは海面を滑るように接近してきたネウロイは、直径4メートル程の円盤形小型ネウロイが4機。ミーナが報告してきた数よりも明らかに少ない。
良く見ると、上部表面に小さい柱のような突起物がいくつか確認できる。先端がビーム砲になっているらしく、赤い光を放っている。その様は、黒い蝋燭を立てた真っ黒なバースデーケーキにも見えた。
飛行方法も、他のネウロイや人類側の航空機や飛行脚とは違っている。空中停止した状態から直角の軌跡を描いて飛行していた。
「変わった動きをするネウロイだ」
ネウロイを観察しつつ、バルクホルンは呟く。その隣ではルッキーニがM1919A6を構え、ネウロイに照準を合わせていた。
M1919A6――正式名称はブラウニー・M1919A6――は、リベリオン陸軍で採用されていた水冷式の重機関銃M1917を改良し、空冷とした銃ものである。
ルッキーニが使っているウィッチ用改良版は歩兵用の三脚を取り外し、250発入りの箱形マガジンを固定。木製の銃床とグリップを装着し、銃口にはフラッシュサプレッサーを装着している。
その重量はかなりのもので発射速度は遅いが、単純な構造の上に部品点数も少なく、故障することが稀なために信頼性は高かった。
装弾数の多い他、カールスラント製のMG42よりも有効射程が1.3倍ほど長く、弾丸が比較的まっすぐ飛ぶことから中遠距離での精密射撃にも用いられる。
ちなみに、ロマーニャ空軍出身のルッキーニが何故M1919A6を使用しているのかというと、ロマーニャ本国から持ってきていた自分用の銃を失くしてしまい、 見兼ねたシャーリーが自分の予備銃を渡したためである。
「ニヒヒ~♪いっただき~!」
ネウロイの動きは奇妙なものだが、行動パターンは単純で速度も然程速くはない。射撃の腕が立つ自分ならば容易に撃ち落とせる。
そう確信したルッキーニは、狙点を定めてトリガーを絞ろうとする。その時だった。
4機中2機の小型ネウロイの表面から突起が分離し、超小型の子機と化して3人のウィッチ目掛けて躍りかかっていった。
「にゃ!?」
突然のことに、ルッキーニは悲鳴を上げて驚く。どうやら突起物の正体は、本体の小型ネウロイと分離・合体が可能な子機だったようだ。いや、子機に見せかけた新たな武器と言うべきか。
小型1機に超小型が6機。先端に砲口を備えた槍のような12機の子機は、航空ウィッチを凌駕する運動性を見せていた。
空気を切り裂きながら縦横無尽に飛び回り、四方八方からウィッチーズに襲いかかる。
「何だ、この武器は!?」
両手のMG42で応射しつつ、バルクホルンは回避行動に入る。
「ロケット弾、じゃない!?」
「うじゅあ!?何これぇ!」
今までに無い、ネウロイの新たな戦法。シールドで防御して攻撃を凌ぎながら、シャーリーは戸惑いを孕んだ声音で呟き、ルッキーニは狼狽えた。
高速で動き回る6つの短槍を躱し続け、切っ先から迸り出る赤い閃光を回避する。これは統合戦闘航空団のウィッチである彼女等だから出来ることだ。
並みの航空ウィッチでは槍の追撃を回避仕切れず、一瞬で身体とストライカーを抉られ、絶命することだろう。
「おのれ!」
バルクホルンはMG42を乱射し続けた。やがて、槍型子機はウィッチ達と距離を取り、本体である小型ネウロイに結合する。
爆発的な高速移動と、口径以上に強力なビーム攻撃に必要なエネルギーをコアを持った本体から供給されているらしい。
槍型子機は思った以上に厄介だった。バルクホルンが12機のうち4機を撃破したが、逆に言えばバルクホルンほどのウルトラエースであっても4機撃ち落とすのが精一杯だと言うことだ。
「うじゅ~、ナニアレェ……」
根っからのアウトドア派で、決して体力が無いわけではないルッキーニが早くも疲労困憊となっている。
「アタシ達の周りをぐるぐる……目が回るよぉ……」
「高速飛行する移動砲台、ってとこか」
「厄介だな」
ネウロイを分析するシャーリーに、バルクホルンが応じる。
再び分離される前に本体諸共撃葬ろうと、3人は攻撃を仕掛ける。しかし、敵は甘くない。後方に下がった先程の小型2機と入れ替わる形で、残りの2機が黒い槍を射出した。
「あぁ、もうっ!」
「くっ!?」
シャーリーがやや苛立った声を漏らす。バルクホルンも奥歯を噛み締め、ネウロイを睨み付けた。
ネウロイは航空ウィッチのようにロッテを組み、ローテーションで攻撃を行うことで隙を作らないつもりだ。
バルクホルン達3人は、最初の超小型子機迎撃で弾薬を大幅に消費してしまっている。また子機を飛ばされたら弾切れになるかもしれない。
(これほどのネウロイが残党だと!?)
バルクホルンの額に嫌な汗が滲んだのとほぼ同時に、何かが彼女の脇を高速で通り過ぎて行った。ネウロイの槍型子機だと思ったバルクホルンは、反射的に視線と左手のMG42を向ける。
「優人っ!?」
ネウロイへ向かっていく機影の正体に気付いたバルクホルンは、ハッと目を見開く。
純白の第二種軍装と、扶桑のストライカーユニット――紫電改を纏ったそれは、宮藤優人だった。
「あれが敵か」
ネウロイを視認した優人だったが、彼はスピードを緩めることなく突撃していく。
優人はS-18対物ライフルを構えると、後方で待機中だった小型ネウロイも子機を瞬く間に撃破した。が、残りの2機がすぐさま報復に出る。12本の黒い槍先をすべて優人に向けたのだ。
「うじゃ!?優人、危ない!」
「そいつらの武器は厄介だぞ!」
ルッキーニとシャーリーが順に叫ぶ。援護しようにも彼女等の位置から撃てば優人にも当たってしまう。
(さぁ、来い。もっと近くまで!)
念じた通り、4つの子機は優人に急接近。彼の周囲をグルグルと回り始めた。
一見ピンチなようだが、優人には策があった。彼が思うに新たなネウロイの武器は彼にとって相性の良い相手だ。父親が紫電改に載せた試作魔導エンジン“タイプC”の調子も良い。
優人は目を閉じて深呼吸した後、自身の固有魔法『凍結』を発動させる。魔法力から変換された冷気によって
、すべての子機は一瞬で凍結。飛行能力を失って海面へと落下していった。
「うっしゃああああ!」
「その手があったか!」
ルッキーニが感心したように声を上げ、シャーリーは優人の健闘をガッツポーズで称えていた。槍型子機がいなければ恐くない。優人は最後の仕上げにかかった。
S-18対物ライフルを構えて狙点を定めると、残る2機の小型ネウロイに20ミリ魔導弾を数発叩き込んだ。
円の中心にあったコアを装甲ごと粉々に砕き、ネウロイは白く輝く破片となって四散した。
「ふぅ……」
“タイプC”の稼働試験も兼ねた実戦は終了。滴る汗を制服の袖で拭いながら、優人は一息吐く。彼は高揚していた。父親が試作したエンジンは素晴らしいものだった。
諸外国の主力ユニットに比べて呪力不足な零式の魔導機に苛立つこともあったが、この“タイプC”には全く不満を感じない。まるで足枷から解放されて自由になった気分だ。
『優人!優人、聞こえるか!?』
インカム越しに一郎の声が消えてきた。優人はすぐさま“タイプC”の試験結果を父親に伝えようとする。
「父さん!今、“タイプC”のテストが終わった!素晴らしい性の――」
『すまない、お前に一つ言い忘れてたことがある』
興奮気味な口調で語ろうとする優人を遮り、一郎は冷静な声音で言葉を続ける。
『その“タイプC”なんだが、高出力と引き換えに燃費が凄まじく悪い。つまり……』
一郎は一拍置いてから、さらに続けた。
『全開戦闘を5分も行えば、燃料をすべて使い切る』
「…………………………え?…………」
◇ ◇ ◇
~おまけ『宮藤優人の思い出・父親編』~
一郎「優人!」
優人(6歳)「なに?」
一郎「ほら、新しい鉄砲のオモチャだぞ!」
優人(6歳)「あっ!ありがとう!」
数年後――
一郎「優人!新しい本買ってきたぞ!」
優人(10歳)「あ、ありがとう……」
さらに数年後、ブリタニアのストライカーユニット共同研究所――
一郎「お前のベッド温めておいたぞ!」←優人のベッドで寝ている
優人「……出てけ」
気付いた方もいるでしょうが、ネウロイが使った武器は、某ガン○ム作品に登場するフ○ングがモデル(て言うか、ほぼそのまんま)です。
次回はショッピングに出掛けた芳佳ちゃんの回(の予定)です。
感想、誤字脱字報告をお願い致します。