基本的にお人好しばかりなストライク、ブレイブとは違ってかなり黒い人・組織が出てくる。
ストパン世界の闇部分を描いた作品って感じ……
カールスラントの政治形態は、カールスラント皇帝を頂点とした連邦制だった。連邦内の国家群は、国内に多数存在した王侯貴族の手で統治され、それぞれ高度な自治権を有していた。
1866年のカールスラント継承戦争をきっかけに皇帝を中心として纏まろうという気運が高まり、1871年にはカールスラント帝国として一つに纏った。
それでも各国家の自治は続き、皇帝は帝国の軍事、外交、警察権を有しているが、それ以外は各々の国家が独自に統治していた。
近年は徐々に中央集権化が進んでいき、かの撤退作戦『ビフレスト作戦』以降、政権が南リベリオンのノイエ・カールスラントへ移ったのきっかけにほぼ中央集権化された。
中央集権への道を歩み始めたカールスラントは、皇帝の政務を補佐する役職――『カールスラント宰相』を設け、行政の長とした。
初代カールスラント宰相――ハインリヒ・ルイトポルト・アインツベルンは、就任して間も無く皇帝をはじめとする皇室の護衛を目的とする武装組織――『皇室警護隊』が創設された。
皇室の護衛が任務であったため、初期は必要最低限の人員と装備のみを有した小規模な組織でしかなかったが、本大戦直前に中央集権化への反対を唱える保守派が台頭したことが警護隊の転機となった。
保守派内の実力行使も辞さない過激なグループを見事粛清した警護隊は、皇帝や中央集権派の政治家、貴族、国防軍高官等の信用を得ることに成功。軍事組織の保有を許可された警護隊は急速に勢力を拡大、『帝政カールスラント皇室親衛隊』に改名する。
名称からして、カールスラント皇帝の近衛部隊のような印象を受けるが、実質的にはカールスラント宰相の私兵部隊だった。
宰相の権力の恩恵により、最新兵器が優先的に配備される他、独自の専用装備も保有している。当然、それに見合う結果が隊員に要求された。
人類統合戦線の結成やカールスラントの崩壊後は、ウィッチ・ウィザード・一般兵士問わずさらに厳しい訓練が課せられるようになり、また採用基準も変更され、入隊条件は外国人にまで拡大された。
やがて、親衛隊は高い練度を誇る軍事組織として成長し、国内外から陸海空軍に次ぐカールスラント第4の軍隊と称されるまでに至った。
皇室の護衛やノイエ・カールスラントの防衛が主な任務だが、近年では欧州やアフリカにも派遣され、国防軍や連合軍総司令部の指揮下で戦う機会も増えている。
1944年現在。親衛隊の総戦力は、陸戦ウィッチを含む機甲部隊を主力とした1個軍集団。航空戦力の中核に航空ウィッチ部隊を添えた1個航空団。海空軍から引き抜いた艦艇や航空機も、僅かながら保有している。
◇ ◇ ◇
1944年9月、オラーシャ帝国――
人類連合軍東部方面総司令部はカールスラント、オラーシャ、オストマルクの国境線から東、ウラル山脈までのオラーシャ西部地域を担当している。
総司令部直属部隊――第502統合戦闘航空団『ブレイブウィッチーズ』他、オラーシャ軍とカールスラント軍を中心とした隷下部隊が、扶桑皇国とリベリオン合衆国の支援を受けて防衛線を維持している。所謂、“東部戦線”である。
あまりの広大な戦域故、連合軍総司令部やその隷下に置かれた各国軍司令部の目が行き届かず。また、オラーシャの過酷な環境や泥沼化する対ネウロイ防衛戦で、将兵達は身も心も磨り減らしていた。
やがて、それは軍規の乱れや軍人としてのモラル低下、部隊規模での腐敗を招き、一部の基地では不貞を働く輩も出始めていた。
東部方面総司令部に属する名も無き前線基地では、駐屯するカールスラント陸軍の1個連隊が、様々な不祥事を繰り返していた。
本日も基地に所属する青年士官が、連絡任務を帯びて基地を訪れていたカールスラント陸軍のウィッチを基地本部前で押し倒し、真っ昼間にも関わらず公然と服を引き剥がそうとしていた。
――ズガァン!
一発の銃声が響き渡り、それまで襲われていたウィッチの悲鳴と、青年士官の下卑た叫び声を掻き消した。
「…………クズが……」
ウィッチを暴行していた青年士官を有無を言わさず射殺したのは、帝政カールスラント皇室親衛隊隊員――メリッサ・ガンビーノ大尉だった。周囲に脳漿を飛び散らせて息絶えた青年士官に、メリッサは無感動な視線を注いでいる。
彼女はロマーニャ公国出身の航空ウィッチだが、ある理由から自国の空軍には入隊せず、親衛隊唯一の航空ウィッチ部隊――第1独立戦闘航空団『インペリアルウィッチーズ』に志願した。
健康的な褐色肌に、ポニーテールに纏めた濃い紫が掛かった黒髪。ロマーニャ人の血を引く情熱的な容姿の持ち主だが、見た目と不釣り合いなほど冷徹かつ酷薄な性格をしていると親衛隊では有名だった。
両の瞳は美しい空色の輝きを放っているが、どこか厭世的な色を映していた。
「貴様ぁ!一体何の真似だ!?」
部下を殺された基地司令が、気色ばんだ表情で親衛隊大尉の元に駆け寄って来た。
司令として、基地の将兵を律する立場にあるはずの彼は、この1年ですっかり悪徳軍人に成り果ててしまっていた。
憤然と声を荒げる司令を尻目に、メリッサは傍らの親衛隊員に目配せして犯されかけたウィッチを保護させる。
軍事訓練を受け、魔法力という特殊な能力を持つウィッチが一般士官相手に一方的に襲われるなど、本来なら有り得ない。
しかし、このウィッチの場合は子どもの頃に魔法力が発現したものの、質量共に水準よりもかなり低かった。 身体強化魔法や十分に機能したシールドを展開・持続させることが難しかったため、戦闘に不向きだった。
東部戦線にて、補給・連絡等の後方任務に就いていたのだが、今回は運悪く当基地に派遣されていた。
メリッサ達親衛隊が現れなければ、ケダモノと化した青年士官の慰み者にされていたことだろう。
「カールスラント軍人に相応しくない人物を処け……いえ、人に仇なすケダモノを駆逐しただけでありますよ。基地司令殿」
基地司令へ侮蔑を帯びた視線を投げかけると、形ばかりの儀礼を湛えた口調でメリッサは言って退ける。
その慇懃無礼な態度が、基地司令のムカッ腹を余計に刺激した。
「ふ、ふざけるな!貴様らは、何の権限があって――」
一段と興奮して声を張り上げる基地司令が、すべて言い終えるよりも先に、メリッサは彼の大口に拳銃を捩じ込んだ。
「権限ならありますよ、基地司令殿。あなたとあなたの兵達を皆殺しにする権限がね」
制服と並んで親衛隊士官のトレードマークとされる専用拳銃――金メッキと彫刻の施されたPPKを右手に握るメリッサは、美しくも恐ろしい微笑を浮かべている。
口内に拳銃を突っ込まれた基地司令は、恐怖で目を限界まで見開いていた。
いつの間にか、基地のあちこちで銃声と爆発音が上がっている。メリッサの指揮を執る『インペリアルウィッチーズ』第2飛行隊と、オラーシャ西部に駐留している親衛隊1個装甲師団から拝借した部隊が、味方であるはずのカールスラント陸軍基地制圧を行っているからだ。
戦いは一方的だった。指揮官を押さえられた基地所属部隊は組織立った反撃が出来ず、次々と惨殺されていった。
「軍の資金及び物資の横領、ウィッチを含む陸空軍に属する女性への婦女暴行、司令部への報告義務違反。よくもまぁ、ここまで……」
基地司令と彼の部下達の悪行を、メリッサは一つ一つ数えるように上げていく。
基地司令は反論しなかった。いや、出来なかった。黄金の拳銃を喉近くまで押し込まれているのだから当然だろう。
「私達インペリアルウィッチーズは親衛隊、延いては帝政カールスラントの高潔な精神を体現してこそよしとする。よって、あまりにもそれを汚すような振る舞いを国防軍兵がしているなら、見過ごすわけにはいかない」
抑揚のない声で語り掛けながら、メリッサはゆっくりと撃鉄を起こした。
「ああ、そうそう。もう間も無くこの基地はネウロイの襲撃を受けて壊滅します。何故なら、我々が奴らを誘導したからでありますなぁ……」
「――っ!?」
声を発することが出来ない基地司令は、表情と眼球の動きで驚愕の感情を現す。その様があまりに可笑しくて、メリッサは思わず吹き出しそうになった。
「基地司令以下、駐屯部隊の皆様方は奮戦虚しく全滅、ネウロイの攻勢を察知した我々がネウロイを撃退。そういう筋書きですよ。度重なる不祥事が原因で粛清されるよりもネウロイとの戦いで戦死、という方が格好が付くでしょう?」
そう結んでニッコリと微笑むと、メリッサはPPKのトリガーを引いた。銃口より迸り出た銃弾が、基地司令の顎から上が纏めて吹き飛ばした。
◇ ◇ ◇
同年同日同時刻、スカンジナビア半島沿岸部にある寂れた廃墟――
「いけませんなぁ、中佐殿」
突然耳朶を打った声に、背後を振り返った男性――カールスラント軍の諜報機関に所属するカールスラント陸軍中佐の表情が硬直した。
彼のすぐ後ろには、帝政カールスラント皇室親衛隊第1独立戦闘航空団『インペリアルウィッチーズ』に所属している航空ウィッチ――アリョーナ・クリューコフ親衛隊大尉が、いつの間にか部屋の入り口に手を掛け、塞ぐように立っていた。
「我が国にとって不利益な情報を手土産に、リベリオンへ亡命しようとは……」
ショートカットの銀髪に、白雪の如く美しい肌を持つ彼女は、スラリと伸びた脚で軽やかに歩を進め、中佐へにじり寄る。
アリョーナは、白い歯を見せて不敵に笑う。唐突に現れた彼女に中佐は思わず絶句する。
開いたドアの隙間から、サプレッサー付きのMP40を携えた親衛隊員――アリョーナが指揮官を務める『インペリアルウィッチーズ』第3飛行隊所属のウィッチ数名と、多数の銃弾を身体に受けて全身から血を流している自分の護衛達の姿が確認できた。
「き、貴様!?」
威厳も迫力も欠ける表情をアリョーナに向ける中佐は、数年前ビフトレス作戦のどさくさに紛れて情報文書を盗み出し、以後数年間スカンジナビアに潜伏していた。
彼はリベリオンの諜報部員に金で買収され、祖国の機密情報を売ろうとしていた。予定では、リベリオン側から派遣された護衛とこの廃墟で合流した後、彼らの案内で海を渡ってリベリオン政府に亡命する手筈だった。
しかし、中佐の裏切りは親衛隊によって察知されていた。後少しでスカンジナビアを脱出できるというところまできて、彼は追跡を命じられたアリョーナ達に追い詰められていた。
なんと取り繕えばいいのか。逡巡している中佐に、アリョーナは嘲笑の色を湛えた視線を注いでいた。
「一体、あなたの愛国心はどこへ消えてしまったのか?」
詰めよってくるアリョーナのアメジストのような瞳に見据えられ、中佐は後退りしつつも背中に納めた拳銃へ静かに手を伸ばした。
だが、彼がそれを抜くことはなかった。親衛隊の証である金メッキと彫刻の施されたPPKを素早く構えたアリョーナが、中佐の眉間に銃弾を叩き込んだからだ。
◇ ◇ ◇
帝政カールスラント皇室親衛隊において、唯一の航空戦力である第1独立戦闘航空団『インペリアルウィッチーズ』は、連盟空軍統合戦闘航空団と同様に、ウィッチ部隊指揮官が航空団司令を兼任している。
カールスラント宰相の養女――悠貴・フォン・アインツベルン親衛隊大佐が司令を務め、彼女の旗下には航空ウィッチで編成された3個飛行隊が置かれている。
他の親衛隊――場合によっては国防軍から、資材や人材などを自由に引き抜ける等。極めて強大な権限及び優先指揮権も与えられている。
一方で、記録に残せない極秘の任務やカールスラント宰相の政敵や不祥事を起こした国防軍将兵の粛清といった特殊部隊・秘密警察・綱紀粛正部隊のような側面も持っている。
こういった事情から、カールスラント軍上層部や宰相の敵対派閥にとって、『インペリアルウィッチーズ』はネウロイを差し置いて恐怖の代名詞となっている。
今回は短め。
カールスラント宰相は、作者が勝手に作った設定ですので悪しからず←
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