ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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第6話「無力な妹」

「くそっ!」

 

優人はビームを回避しながら13mm機関銃で報復を見舞う。しかし、ネウロイは優人がダメージを与える度に自己修復を行う。

 

「こんなデカイだけのエイ……コアさえ潰せば……」

 

優人は坂本をチラッと見た。彼女もビームの猛攻に圧され、コアを探すことが出来ない。

先程、赤城の艦橋から二人に連絡があった。ブリタニアの基地から第501統合戦闘航空団の仲間達が発進したとのこと。ひとりひとりがエース級の実力を持つ、仲間くればネウロイも倒せるだろう。それまで自分達が、艦隊が保つか。

 

「いや、保たせる!」

 

優人は首を横に振り、弱気な考えを振り払う。仲間がくるまでなんとしても艦隊を守らなければらない。旗艦の赤城には自分の妹が、芳佳がいる。妹を、艦隊を絶対に守るんだ。優人はそう決意すると13mm機関銃を再び構える。その時だった。

 

「お兄ちゃん!坂本さん!」

 

「えっ?」

 

聞き覚えのある声がインカムに入り、優人は間の抜けた声を出す。その声に優人より赤城に近い位置にいる坂本も反応し、甲板を見下ろした。そこには大量の薬瓶や包帯を詰め込んだ救護袋を持った芳佳がいた。坂本は芳佳に向かって怒鳴った。

 

「そこで何をしている!?」

 

「坂本?どうした?」

 

「お前の妹が甲板にいるんだ!」

 

「なに!?」

 

医務室にいるように言ったはずの芳佳が甲板にいることを知り、当惑する優人。彼は甲板にいる芳佳の姿を自分の目で確認するとすぐに芳佳のインカムへ通信を入れる。

 

「芳佳!部屋から出るなと言っただろ!戻れ!」

 

「お兄ちゃん、よかった。坂本さんも無事ですね」

 

普段温厚な兄の怒鳴り声に芳佳はびくっとするが、二人が無事だと知ると安堵する。

 

「芳佳!戻れって言ってるだろ!」

 

「わ、私も……私に出来ることがしたいの!」

 

再度怒鳴る優人に自分の想いを訴える芳佳。

 

「今はお前に出来ることなんてない!言うこと聞け!」

 

優人は一層強く怒鳴る、まるで親が子どもを叱りつけるような言い方だ。優人が芳佳に気を取られているとネウロイが彼に向かってビームの雨を降らす。優人は咄嗟にシールドを張るが、防ぐことが出来なかった一発が右腕を霞めた。

 

「ぐっ!」

 

腕に痛みが走り、優人は顔を歪める。

 

「お兄ちゃん?お兄ちゃん!!」

 

「大丈夫だよ!いいからお前は医務室に戻ってろ!」

 

それだけ言うと、優人は芳佳との通信を切った。

 

「大丈夫か?」

 

再びインカムから声が聞こえてきた。今度は優人の身を案じる坂本の声だ。

 

「ああ、問題ない」

 

戦友に心配を掛けまいとする優人。実際、戦闘継続に支障はなさそうだ。

 

「それにしても、お前の妹は無茶なやつだ」

 

「ホントだよ!」

 

苛立った声で返す優人。彼は芳佳に対して怒っているというよりは心配で仕方ないなのだ。今いるのは死と隣り合わせの戦場、妹には自分で自分の身を守る術がない。芳佳にもしものことがあれば――。

 

「だが、あの勇気は大したことものだ。やはり兄妹だな、ああいうところは誰かにそっくりだ」

 

坂本は笑みを浮かべながら言う。彼女の言葉に優人は眉をひそめた。下では轟音と共に大きな水柱が上がっていた。駆逐艦が『浜風』がネウロイの攻撃で撃沈したのだ。

 

「お前の相手は、こっちだ!」

 

坂本は叫ぶ。連続発砲により銃身が赤熱化していた13mm機関銃を捨て、扶桑刀を抜くとネウロイに斬りかかる。一閃、ネウロイの右翼が切り裂かれる。

 

「坂本さん……すごい……」

 

坂本の戦いに圧倒され、甲板の芳佳は呟いた。ネウロイは坂本の攻撃に一瞬怯みながらもずくに再生していく。

 

「今だ!」

 

その一瞬を逃す坂本ではない。彼女は反転しながら、魔眼を開いてネウロイを見る。

 

「見つけた!」

 

とうとうコアの位置を掴んだ坂本。すぐに優人に知らせる。

 

「優人!奴らのコアは上部中央付近だ!」

 

「了解!」

 

優人はコアの位置に照準を合わせる。ネウロイはそうはさせまいと言わんばかりに、優人へ向かってビームを連射した。

 

「お兄ちゃん!」

 

兄の危機に芳佳は思わず叫ぶ。直後、彼女の背後で爆発が起きた。振り返ると、機銃のひとつが煙を上げていた。消火器を抱えた乗員が走り回っている。

 

「怪我人だ!衛生兵!」

 

衛生兵を呼ぶ声にハッとなり、芳佳は負傷者の元へと駆け寄った。負傷者は腹部から出血していた。甲板に仰向けで横たわり、左手で傷口を押さえ、苦しそうに唸っている。

 

「しっかりしてください!私が助けますから!」

 

そう言うと芳佳は両手を傷口にかざし、治癒魔法を使った。傷口が光に包まれる。

 芳佳は優人と再会した日のことを思い出していた。あの日、事故で重傷を負った親友、美千子。彼女のことを自分の力で救うことが出来なかった。その場に居合わせた優人、坂本によってどうにか美千子は助かった。

 

(今度こそ……今度こそ……)

 

芳佳は今度こそ自分の力で救いたかった。しかし、美千子の時同様、力をうまく制御出来ず、治癒魔法はまともに働いていない。

 

「何してる!やめろ!」

 

衛生兵が芳佳と負傷者の間に入ってきた。

 

「私、治癒魔法が使えるんです!」

 

「あんたウィッチか?だが、これだったら俺が治療した方がマシだ!余計なことするな!」

 

そう言われ、芳佳の手から治癒魔法の光が消える。芳佳は必死の表情で衛生兵に訴えた。

 

「でも、私にも何か手伝わせてください!」

 

「無茶言うな!ここはお前みたいな子どもの居る場所じゃないんだ!部屋で大人しくしていろ!」

 

衛生兵はキツイ言い方をする。だが、それは負傷者を助けたい、子どもを危険な場所に居させたくないという想いゆえの言葉だ。

 

「嫌です!そんなの嫌なんです!」

 

涙目になりながら、激しく首を振る芳佳。自分だって誰かを救いたい、それが芳佳の思いだ。

衛生兵は少し迷ったものの、芳佳の気持ちを汲んで彼女に手伝いをさせることにした。

 

「……だったら、包帯が足りない……あるだけかき集めて持ってきてくれ」

 

「は、はい!」

 

芳佳は救護袋を持ち、医務室へ走った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

空では優人や坂本の奮戦もむなしく遣欧艦隊の被害は拡大していく。既に艦隊は赤城と駆逐艦『谷風』『雪風』『天津風』の4隻、ネウロイ襲撃前の半数となっている。

 

「戦闘機隊!坂本少佐と宮藤大尉を残して全滅!」

 

赤城の艦橋に新たな被害報告が入る。迎撃に出た九九式戦闘機が全機撃墜されたのだ。

 

「くそっ!」

 

杉田は悔しさのあまり拳をパネルに叩きつける。杉田のすぐ後に立っていた赤坂も額から冷や汗を流している。

 

「援軍はどうした!?ブリタニアのウィッチ隊はまだ来んのか!?」

 

杉田がそう叫んだ直後、赤城が大きく揺れた。

 

「至近弾!このままでは航行不能になります!」

 

「――っ!援軍の到着まで、なんとしても保たせるんだ!」

 

厳しい戦況の中、杉田は祈るように命じた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

ネウロイの攻撃で赤城は激しく揺れ、艦内各所の絶叫が伝声管から伝わってくる。芳佳はあまりの揺れに立ち上がることが出来ず、艦内の通路にペタリと座り込んでしまっている。先程の至近弾を受けた時の大きな揺れで、集めた大量の包帯が救護袋から零れ落ち、転がって通路に多数の白いラインを描いていた。

衛生兵や優人に言われた言葉が芳佳の脳裏に浮かんでくる。

 

――ここはお前みたいな子どもの居る場所じゃないんだ!

 

――今はお前に出来ることなんてない!

 

芳佳は壁に手をついてゆっくり立ち上がる。

 

「私に出来ることなんて……何もないのかな?」

 

芳佳は俯き、力なく呟く。その時、ネウロイのビームが赤城を直撃した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

ネウロイのビームが赤城に直撃した。甲板には穴が空き、内部で誘爆が起きる。凄まじい衝撃が、赤城全体に伝わる。

 

「しまった!」

 

「芳佳!?」

 

坂本と優人は赤城を見下ろす。妹がいる艦がネウロイの攻撃を受け、黒煙を上げている。優人の顔は一気に青ざめた。

 

「芳佳!芳佳!聞こえるか?芳佳!」

 

インカムで芳佳に呼び掛ける。しかし、返事がない。優人は再度呼び掛ける。

 

「芳佳!芳佳!頼む、返事してくれ!芳佳」

 

そうしている間にも、目の前のネウロイはビームを撃ってくる。

 

「今はお前に構ってる暇は無いんだよ!」

 

優人はシールドでビームを弾き、怒鳴りながら13mm機関銃を乱射する。彼の剣幕に圧されでもしたのだろうか?ネウロイは一旦、優人と距離をとった。

 

「芳佳!芳佳!」

 

優人は最愛の妹の名を呼び続けた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

赤城の格納庫、通路へ続く扉が先程の衝撃で開いている。その扉の側に芳佳は倒れていた。

 

「芳佳!芳佳!芳佳!」

 

(……お兄ちゃん……?……)

 

芳佳はインカムから聞こえてくる声が兄のものだと理解した。しかし、今の芳佳には返事をするどころか、瞼を開ける気力もなかった。

 

「芳佳!芳佳!」

 

朦朧としている意識の中、自分を呼ぶ声が兄とは別の人間ものに変わっていく。

 

(この声……お父さん?)

 

「……しか……よしか……芳佳……芳佳」

 

(ごめんなさい、お父さん……私、何も出来ない……お兄ちゃんみたいに誰かを守れない)

 

自分の名を呼ぶ父の声に対し、自身の不甲斐なさを詫びる芳佳。すると、瞼の裏にある光景が浮かんできた、8年前に父を送り出した時のものだ。

 

――芳佳……お前にはお母さんやおばあちゃん、お兄ちゃんに負けない大きな力がある。その力でみんなを守れるような立派な人になりなさい。

 

あの日、父に言われた言葉が聞こえきた。

 

(お父さん……)

 

幻聴か何かだろうが、久々に聞いた父の声は芳佳にとって、とても心地良かった。

 

「芳佳!!」

 

「!」

 

再び優人の声が聞こえ、芳佳は大きく瞳を開いた。身体を起こして前を見ると、ストライカーユニットが置いてあった。それは横須賀を出航する前、優人が見せてくれた父の写真に写っていたものと同型のストライカーユニット、零式艦上戦闘脚だ。芳佳は立ち上がり、ユニットへ近づいた。

 

「私に……出来ること……」

 

芳佳は手でユニットを撫でながら呟いた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、赤城の艦橋。

 

「駆逐艦『谷風』に直撃!応答ありません!」

 

また被害報告が上がる。遣欧艦隊の被害は限界に近付いていた。

 

(この戦力差ではどうにもならんか……)

 

赤坂は奥歯を噛み締める。杉田は軍帽を深く被り直しながら、赤坂に進言する。

 

「長官、もうこの辺りでよろしいかと思います」

 

「……そうだな。総員退艦!雪風と天津風に乗員の救助を打電!」

 

赤坂が命じた時だった。

 

「どうした!?何が起きている!?」

 

樽宮が甲板の異変が起きていることに気付く。

 

「どうした?」

 

杉田が尋ねる。

 

「中央エレベーターが作動中!誰かいます!」

 

「何!?」

 

杉田が甲板に視線を落とす、赤坂も彼に続いて甲板に目をやる。何者かがエレベーターで上がってくるのが見えた。

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