扶桑組とシャーリー以外は航続距離が足りない気がする。増槽とかも用意してないみたいだし……
※素人考えです
1944年9月、ガリア共和国沿岸地域――
扶桑皇国海軍遣欧艦隊所属艦――赤城型航空母艦“天城”は、ペリーヌの故郷であるパ・ド・カレー沿岸まで到達していた。
本来ならば、このままカレーへ入港するはずだったが、連合軍総司令部より第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』へ作戦命令が下ったため、天城は予定を大幅に変更することとなった。
作戦参加を決意したのメンバーは、自分達のストライカーユニットが格納されている艦内格納庫を訪れていた。
少々埃っぽい格納庫内に降りてきたウィッチーズを出迎えたのは、出撃前の喧騒と微かに漂ってくる機械オイルの臭い。そして、16機の零式艦上戦闘機で構成される天城飛行隊隊長だった。
連合軍西部方面総司令部は、501部隊や竹井はもちろん、天城及び艦載飛行隊にも作戦参加を要請していた。
これについては、扶桑皇国海軍遣欧艦隊司令長官にして、ガリア上陸作戦の海上戦力総司令官として総司令部に席を置いている赤坂伊知郎大将も了承している。
「今作戦の目標は2つ。1つはガリア・カールスラント国境線を拠点としている大型地上ネウロイの撃破、もう1つはヘルギガ方面に展開している連合軍地上部隊への航空支援です」
ストライクウィッチーズに竹井醇子大尉。そして、飛行隊長以下天城飛行隊のパイロットらは、支援要員や整備要員が出撃準備で右往左往する格納庫の一画を借り受け、出撃前のブリーフィングを行っていた。
扶桑海軍と統合戦闘航空団による合同部隊の臨時指揮官となったミーナが、壁に張り付けられた欧州の地図を指し示し、作戦内容を確認をしている。
「マジノ線に張りついている訳か。やっかいだな……」
「ねぇねぇ、マジノ線ってなにぃ~?」
地図で大型地上のネウロイの位置を確認したバルクホルンの言葉にルッキーニが食い付いた。
「あら、そんなことも知らないんですの?まったく、これだからロマーニャの田舎者は困りますわね」
素朴な疑問を口にするロマーニャウィッチに、ペリーヌが少々嫌味ったらしく応じる。
ペリーヌは知らずに言ったようだが、ルッキーニは田舎者ではない。普段の野生児ぶりからはとても想像出来ないが、意外なことに彼女はロマーニャの首都であるローマの生まれ、つまりは都会っ子である。
「マジノ線とは、我がガリアが誇る無敵の対ネウロイ一大要塞線ですわっ!カールスラント国境線に位置する、まさに無敵!アリの子一匹通さない鉄壁の要塞ですのよ!」
マジノ線について自慢気に語るペリーヌだが、間もなく天狗の鼻は黒い悪魔によってへし折られることとなる。
「でも、空を飛ぶネウロイには無力だったじゃん?上を通られたら要塞の意味無いし……」
「そ、それでもっ!地上の侵攻はずいぶんと防いだんですのよ!」
ハルトマンから手痛い指摘を受けてしまい、ペリーヌはムキになって反論する。しかし、やはり空戦と口論で黒い悪魔には勝てなかった。
「あんな大きいのが空から来るなんてズルいですわ!」
「大体、要塞で守るなんて……戦略が古いよぉ~」
「な、何ですって!?」
追い討ちをかけられ、ペリーヌはカッとなる。苦笑気味のミーナが「はいはいそこまで」と仲裁に入らなければ、作戦開始が大幅に伸びたことだろう。
「今回の作戦行動においては、三隊の編成とします」
指示棒で地図を軽く叩きながら、ミーナは編成について詳しく説明する。
ヘルギガ方面への航空支援にはミーナ達カールスラント組とペリーヌ、リーネ、ルッキーニの6名。ミーナが直々に指揮を取る。
大型地上ネウロイがいるマジノ線は、宮藤兄妹、竹井、シャーリー。501戦闘隊長代行である優人を指揮官とし、天城の飛行隊も同行する。
パ・ド・カレーから往復約1000kmという移動距離の長さを鑑み、航続能力に優れたストライカーユニットを使用する4名が選ばれた。
扶桑皇国海軍の零式艦上戦闘脚二二型甲、紫電二一――“紫電改”。そして、リベリオン陸軍のノースリベリオン P-51D――“ムスタング”ならば、増槽無しでパ・ド・カレー~マジノ線間を行き来することが可能だ。
そして、残る北欧組――サーニャとエイラは天城の直掩を命じられた。もしもの時のために、艦の護衛を担当する。
「国境沿いには多数の地上ネウロイが確認されているわ。各自、充分気を付けて攻撃を行うように!」
と、ミーナは念を押す。地上ネウロイの中には、ウィッチを含む航空戦力への対空攻撃に特化した個体も存在する。
それに人類側の対空火砲と異なり、殆んどのネウロイはビームを使用する。弾速、射程、貫通力等、ほぼすべて
の点においてこちら側を上回っている。
そうそう当たるものではないとはいえ、直撃すればウィッチといえどただでは済まない。
「それでは……ストライクウィッチーズ!出撃します!」
『了解!』
ブリーフィングが終わるなり、ウィザード及びウィッチーズは自らの愛機目指して駆け出す。
既に彼女達は、年頃の少年少女から空を駆ける航空歩兵のそれへと表情を一変させている。
出撃前にも関わらず、緊張感の無い者が見受けられた501部隊。その様を見た天城の飛行隊長は、作戦遂行に一抹の不安を抱いたものの、ストライカーユニットへ向かうウィッチーズがそれらしい目をしていたため、一転して頼もしいと感じるようになった。だが、しかし……。
「………………」
他の隊員達同様、リーネは自らのストライカーユニット――スピットファイアMk.IXが固定されている発進ユニットへ向かっていた。
その途中、嫌な視線を感じた彼女はハッと背後を振り返った。天城の若い乗員――おそらくは整備要員――が、リーネを注視していた。
彼女と目が合うなり、海軍兵は咄嗟に視線を逸らして何事もなかったかのように整備作業を再開した。
(な、何で……?)
天城に乗艦した時からだろうか。リーネはやたらと、視線を感じるようになった。そして、視線の主は決まって
天城の乗員――それも、リーネ達ウィッチーズと歳が近い若手ばかりだった。
最初は気のせいだと自分に言い聞かせていたリーネだが、こう何度も同じことが続いては不安を拭うのも容易ではない。
彼等は何故、ジロジロとこちらを凝視しているのか。自分が何か必要なことでもしてしまったのだろうか。或いは、トレヴァー・マロニー元大将のようにウィッチやウィザードを快く思っていない輩なのか。
「リーネ、どうしたんだ?」
「あ、シャーリーさん……」
顔色が優れないリーネを心配し、シャーリーが駆け寄ってきた。
シャーリーはリーネのことを妹のように思っており、芳佳がブリタニアへ来る以前、自信喪失気味だった彼女のことをずいぶん心配していた。
「早くしないと、置いてかれるぞ?」
「はい、すみません……」
「何かあったのか?」
俯くブリタニアウィッチの顔を覗き込み、シャーリーは訊ねる。
リーネは僅かに逡巡する素振りを見せるも、天城に乗艦してからずっと感じている視線のことを打ち明けた。
「見られてる?」
「はい、天城の人達に。自意識過剰だって、自分でも分かってるんですけど……」
「あっはははは!そんなことないさ!」
“グラマラス・シャーリー”の所以たる豊満な胸を張りながら、シャーリーはこの場にいない坂本に負けず劣らず豪快に笑った。
かと思えば急に神妙な顔つきとなり、リーネにそっと耳打ちする。
「実はあたしも……ね。艦に乗った時から、そんな感じがしてたんだ」
「え?シャーリーさんも、なんですか?」
「まったく、穴が空くほど見てくれちゃって……あたしら、何かしたのかな?」
少々困惑した様子のシャーリーは、後頭部を掻いて苦笑を浮かべる。
国が違えば当然、文化も違う。リベリアンのシャーリーやブリタニア人のリーネにとっては何気無いようなことでも、扶桑人にとっては失礼に当たるのかもしれない。
自分達が気付かぬうちに非礼をしたのであれば、悪気の無い誤解だと伝える必要がある。場合によっては謝罪もしなくてはならないか……。
「シャーリー!どうしたんだ!?」
「リーネさん!行きますわよ!」
自分達を呼ぶ優人とペリーヌの声が、別方向より聞こえる。どうやら、少しのんびりし過ぎたようだ。
「まぁ、とにかく……戻ってからもう一度考えてみようよ。今はネウロイだ」
「はい!シャーリーさん、どうか御無事で!」
「あぁ、リーネもね!」
リーネは軽く会釈し、シャーリーは軽く右手を上げて応じる。
言葉を交わして別れた2人は、501部隊一の爆乳とそれに次ぐ巨乳をユサユサと揺らしながら、愛機が固定されている発進ユニットへ走っていく。
格納庫で作業に追われている天城の乗員等は、そんな2人のウィッチ――正確には、彼女達の胸元で揺れているたわわな果実を目で追っていた。
(あの娘達、やっぱり胸デケェ……)
(まるで砲弾じゃないか!)
(本当に扶桑の女と同じ生き物かよ!?)
(何食ったらあんなに育つんだ!?)
(デカパイ最高!)
(西洋巨乳美女、バンザ~イ!)
(来世は是非とも、リベリオンかブリタニアの海軍に入隊を!)
扶桑皇国海軍の将兵はどうしようもないアホばかり。リーネとシャーリーの心配と苦悩は、とんだ徒労であった。
程無くして飛行甲板へ上がったウィッチーズ及び戦闘機隊は、天城より順次発艦。航空戦力各隊は、サーニャとエイラの2名を艦の直掩に残し、それぞれの担当戦域へ向かった。
◇ ◇ ◇
優人をはじめとする航空歩兵4名と、16機の零式艦上戦闘機で編成された天城の飛行隊が、ガリアの国境沿いを西から東へ飛行して行く。
ヘルギガ方面を担当するミーナ達とは既に別行動を取り、緑生い茂る森林地帯を眼下に最短距離でマジノ線を目指す。
連盟空軍と扶桑海軍航空隊からなる混成航空部隊の指揮官は、携行しているS-18対物ライフルを握り締めた。
そろそろ接敵する頃合いだ。優人は慣れた手つきで初弾を装填する。
その傍らには、九九式二号二型改13mm機関銃を背負い、足に零式艦上戦闘脚を装備した芳佳が、寄り添うかのように飛んでいた。
「~♪」
戦闘空域へ向かっているにも関わらず、芳佳はご機嫌そうに鼻唄を口ずさんでいた。
接敵直前とも言える状況下で意気揚々としている理由は、今彼女が履いているストライカーユニットにある。
よく見ると分かるが、零式に描かれてるパーソナルマークは軍帽を被った豆柴ではなく、ライフルマークを咥えた柴犬――つまり、機体の本来の持ち主は優人である。
元々は赤城の艦載ユニットだったものが優人の手に渡り、彼が紫電改へ機種転換を済ませた後は予備機として扱われ、現在はウォーロックとの戦いでストライカーを失った芳佳に貸し出されている。
世の弟妹等の大半は、年季の入った兄妹の御下がりに不満こそあれど喜びはしないだろう。しかし、芳佳は違っていた。嫌がるどころか、むしろ欣喜雀躍としている。
(えへへ♪お兄ちゃんのストライカーだぁ♪)
同じ零式でも、大好きな兄のパーソナルマークが入ったユニットは何処か特別に感じ、元気と勇気を貰っている気分になる。
作戦行動中に不謹慎だと思いつつも、芳佳は頬が緩むのを抑えることが出来なかった。
対して優人は、なにやら表情を硬くしている。ブリーフィングにて大型地上ネウロイ担当の隊に割り振られ、ミーナにこちらの指揮を任されてから、何処か様子がおかしかった。
自身の指揮能力に不安を抱いているのか。いや、優人は扶桑海軍事変時から航空ウィザードをやっている大ベテランだ。幾つも修羅場を潜り、扶桑ウィッチ部隊の指揮を執ったのも一度や二度ではない。今さら指揮官の立場にプレッシャーを感じているとは思えない。
「お兄ちゃん?」
「えっ?あ、ああ……何だ?」
「恐い顔して、どうしたの?」
「いや、どうもしてないけど……」
「指揮執るの久々だからなぁ……緊張してんだろ?」
下方から声がして、兄妹の会話に割り込んできた。目をやると、いつの間にかシャーリーが2人の真下を飛んでいた。
M1918BAR自動小銃を携えた背を地表に向け、両腕を後頭部で組んでいるので寝そべっているようにも見える。
天城の乗員等の視線を釘付けにした爆乳は、飛行中も圧倒的な存在感を放っていた。
「かもな……」
短く返しながらも、優人の目線はリベリオンウィッチの胸元へチラチラと泳いでいる。
扶桑海軍ウィザードの健全且つふしだらな視線を受けたシャーリーはニッと口元に悪戯な笑みを湛え、ロールしながら彼の左隣に移動する。
「なんなら、あたしの胸を貸してやろうか?」
優人の耳元へ顔を寄せ、シャーリーは囁く。それと同時に前で組み直した両腕を使い、自慢の胸を持ち上げるように見せつける。
「顔を埋めれば、緊張なんて一瞬で吹っ飛ぶぞ?」
と、誘惑するように艶かしい視線を投げ掛け、シャーリーは優人の耳にフゥ~ッと熱く甘い息を吹き掛けた。扶桑海軍大尉の身体がゾクゾクと震える。
「シャーリー、今は作戦行動中なんだ。からかわないでくれ」
そう言うと、優人はシャーリーから少しだけ離れた。相変わらずエロ攻撃を仕掛けてくるリベリアンを窘めながらも、彼は心の中では魅力的な申し出を受けてみたいと本気で思っていた。
そんな兄の心中を察したのか。或いは、仲間とはいえ優人に美女が近付く光景がおもしろくないのか。芳佳はムッとした表情で2人を見据えている。
(ホント、相変わらずね……)
一歩離れた距離から優人等のやり取りを見ていたもう1人の扶桑海軍大尉が、口元に苦笑を湛えていた。
竹井が内心で呟いた“相変わらず”には二重の意味が込められている。優人が相変わらずウィッチに好意を持たれやすいことと、相変わらず“あるもの”が嫌いで仕方がないことだ。
扶桑海軍屈指のエースたる優人だが、“あるもの”への苦手意識から対地攻撃任務を敬遠していた。無論、命令されれば従い、空戦と違わぬ戦果も上げている。しかしながら、苦手なものはやはり苦手である。
「戦闘隊長、そろそろマジノ線よ!ウィッチに甘えるのも結構だけれど、今は目の前の任務に集中して!」
「なっ!?甘える、って……俺は別に!」
からかわれた被害者にも関わらず、理不尽な言い掛かりを付けられしまった優人はすぐさま反論する。
竹井としては、あくまで場を和ます為の冗談を言ったつもりだが、大人びているようで意外と子どもっぽい性格の扶桑海軍ウィザードはムキになる。
「あっはははは!ちゃんと隊長出来たら、御褒美やるよ♪」
と、ウインクするリベリオンウィッチの笑顔がこれまた眩しい。
「…………お兄ちゃん、良かったねっ!シャーリーさんに甘えさせてもらえて!」
刺々しい口調で嫌味を発し、芳佳はプイッとそっぽ向く。
最愛の妹にキツくされたシスコン兄貴は、何も言わない。ただ、この世の終わりの如く生気を失った顔をしていた。
それでも墜落したり、戦意を喪失したりしなかったの、戦場に赴くウィザードの使命感や戦闘隊長としての責任感のおかげだろう。
やがて、航空部隊は目的地を視認する。ペリーヌが自慢気に語っていたカールスラント国境線沿いに存在するガリアの要塞線――マジノ線だ。
およそ160億フランという巨費を投じて建造された――維持費は140億フラン――この要塞線には、ガリアが持つ全ての技術と工夫が注ぎ込まれている。
全長140km。総延長は340kmにもなり、15kmごとに108の主要要塞群を設置。この長大な要塞線は、建造提唱者――アンドレ・マジノの名をとってマジノ線と名付けられた。
地下要塞部分には居住区、発電機、弾薬庫、医療室、兵器類の点検修理をするためのメンテナンスルーム、作戦司令室、食堂などを内包する。
また、迅速な物資補給を行うべく移動用の電気トロッコを用意された。それぞれの要塞は地下鉄で連結され、地上に出ずとも行き来が可能となっている。
地上にはマッシュルームと呼ばれる空気の取り込み口が点在し、要塞で勤務するガリア兵が快適に過ごせるよう映画館が用意された。
要所にはトーチカ・監視塔・旋回砲塔が置かれ、砲座を囲むトーチカは3.5m厚のコンクリートであり、堅牢な要塞線には常時大軍が駐留可能と至れり尽くせり。
多数配備された135mm榴弾砲、75mmカノン砲M1933、37mm対ネウロイ砲M1934等が、愚かにもガリアへ侵入しようとする異形の群れを撃滅する……はずだった。
実際のところマジノ線にネウロイに襲来しなかった。侵攻してきたネウロイの大群は、カールスラント中央を一挙に横断。ヘルギガを経由してガリア国内――パリへと雪崩れ込んできた。
マジノ線と、そこに常駐するガリア陸軍は期待された防衛能力を発揮できず、また自ら打って出る事も無かったため、丸ごと遊兵と化してしまった。
さらに悪いことに、アルデンヌの森上空より飛行型ネウロイが飛来。ライン川沿いに建造された要塞群の一部が爆撃に遭ってしまい、トーチカや陣地が破壊されていった。
有効な対空手段を持たないマジノ線にとって、飛行型ネウロイは天敵だったのだ。
現在はネウロイが自分達の塒として使っているのか。トーチカの幾つかが、砲台型のネウロイと掏り替わっていた。
「地上型ネウロイは……あそこかっ!」
報告にあった自走砲タイプのネウロイを、1時の方向に認める。S-18対物ライフルを射撃位置に保持し、2.5倍率のスコープ越しにネウロイを見据えた。
地上ネウロイは、主に“クモ”と呼称される多脚タイプ――多くは4本脚――を基本とし、今まで多くの派生型が確認されている。
43年にカールスラント及びリベリオン陸軍麾下の機甲部隊が交戦した戦車型は、上面に複数のビーム砲を装備し、胴体下部に大威力の巨大砲を携えたオーソドックスな四脚の中型ネウロイ。自走砲型も多くが四本脚で移動する。
しかし、今回の個体は特徴的な多脚は見られず、比較的人類側の自走砲に形状が近かった。
「よし!」
敵の姿を確認した優人は、微かにだが口元を緩める。対して、他のウィッチ達はいよいよ戦闘だと表情を引き締め、銃に初弾を装填した。
「警戒!9時方向!」
即ちに命令を出そうとする優人を先回りし、竹井が声を張り上げた。
航空歩兵と戦闘機パイロット等が、一斉に9時方向――左側面へ目をやる。中隊規模の小型飛行ネウロイが、編隊を組んで接近していた。
おそらくは、連合軍地上部隊に空襲を仕掛けた集団だろう。小規模の子機編隊でも、飛行できることに変わりはない。地上戦力にとっては十分脅威となる。
「12時!何か光った!」
と、今度はシャーリーが叫ぶ。彼女が前方に認めた発光の正体は、大型地上ネウロイが放ったビーム攻撃だった。向こうも敵の存在を察知し、牽制の砲撃を仕掛けてきたのだ。
膨大な熱量と圧倒的な破壊力を有する眩い閃光。巨大砲より解放されたそれは、亜光速で優人達の眼前へと迫る。かと思えば複数の光条に分裂し、4名の航空歩兵だけでなく天城の飛行隊にも襲い掛かった。
しかし、優人が咄嗟に巨大シールドを展開し、広範囲を防御したおかげで損害は0だった。
ネウロイの方も仕留めるつもりはなかったらしい。砲撃 で優人達の足が止まっている隙に、マジノ線内部へ後退していった。
「あ、逃げた!」
芳佳が素っ頓狂な声を上げる。大型地上ネウロイは、その図体からは考えられないようなスピードで、まるで地を滑るように移動していた。
『宮藤大尉!』
突如、優人のインカムに男性の声が飛び込んできた。天城飛行隊隊長だ。
『小型共の相手は我々が!大尉とウィッチの皆さんを自走砲型を!』
彼等が操縦する零式艦上戦闘機は、零式艦上戦闘脚の技術をフィードバックして造られた扶桑皇国海軍の主力艦上戦闘機。航続距離がやや不足で、武装も貧弱だった先代――九九式艦上戦闘機に変わる新型戦闘機だ。
航続力と運動性に優れ、20mm機銃の威力によって小型ネウロイ程度ならば十分駆逐可能となっている。
これからの扶桑海軍は、ストライカーユニットを装備した航空歩兵が中型以上のコア持ちの相手に専念出来るように、零式艦上戦闘機が露払い役として小型の子機を引き受けることになるかもしれない。
無論、ウィッチ・ウィザードの数が不足している以上、戦闘機隊が否応なしに中型や大型の相手をする可能性もあるが……。
「了解しました!小型はお任せします!御武運を!」
『お互いに!』
短く済ませた会話の後、天城の飛行隊は進路を変更。敵飛行中隊へ攻撃を仕掛けた。
機体の性能も然ることながら、ウィッチーズと肩を並べて戦えるということでパイロット達の士気も高いようだ。小型ネウロイの消滅編隊程度なら問題にならないだろう。
『優人さん、優人さん。聞こえますか?』
天城の飛行隊を見送った一向のインカムへ別の通信が入る。この涼やかで澄み切った声音はサーニャのものだ。
「ああ、聞こえるよ。どうした?」
『カールスラント方面より飛来したネウロイが、そちらに急速接近しています』
『みんな、気をつけロ。アイツは――』
サーニャに続いて、やや低めなエイラの声が割り込んでくる。直後、通信が途切れた。
「あ~……ダメだ。切れちゃったよ」
と、シャーリーは困ったように肩を竦める。次に竹井が優人に指示を仰いだ。
「どうするの?」
「……まずは目標を、大型地上ネウロイの撃破を優先する!各自、通信の内容を頭に入れておけ!」
優人はそこまで言って一拍置き、続けざまに指示を飛ばした。
「これより我々は敵追撃のため、マジノ線内部へ侵入する!全機続け!」
「「「了解!」」」
返事を受けると、優人は紫電改を加速させる。他の3人も彼の後に続いた。
(さすが紫電改!零式とは出力が段違いだ!)
実戦において新たな愛機の性能の高さを再認識し、優人は心中で快哉を叫んでいた。
優人と竹井が使用する紫電改は、魔導エンジンに長島飛行脚製『誉』を採用している。2000Mp級の最新型エンジンで、公称呪力は零式の約2倍を誇る。
只でさえ強大な優人の魔法力は誉によって増幅され、先程のように巨大なシールドを展開しても以前ほど消耗しなかった。
父が開発した機体だと強い思い入れがありながらも、諸外国のユニットに比べて性能不足が顕著だった零式に少なからず不満抱いていた。
零式系統やその後継機に関しては、優人よりも単騎戦闘での技量を至上とする坂本の方が強い拘りを見せている。
そんな扶桑海軍ウィザードにとって、紫電改との出会いは非常に喜ばしいことだった。この機体ならば、リベリオンのP-51やカールスラントのBf109シリーズにも負ける気がしない。
別に戦闘狂というわけではないが、早く紫電改の性能をフルに引き出したいと、気持ちが逸っていた。
「…………いないわね」
「なんて、逃げ足の速いやつなんだ」
竹井とシャーリーが順に呟く。マジノ線に侵入したものの、既に大型地上ネウロイの姿はない。
奥へ逃げたに違いないが、図体に似合わず随分と移動速度が速い。
「追うぞ!」
優人の号令の下、一向は追撃を続行する。程無くして、ウィッチ・ウィザード4名で編成された飛行隊は巨大な要塞線奥へと消えていった。
感想、誤字脱字報告をお願い致します。