ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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無駄に連載を伸ばしたせいかな?


感想書いてくださった読者がイリスを覚えていない(T_T)


出来たら、第1章第44話をご覧下さいorz


第10話「ストライクウィッチーズとインペリアルウィッチーズ その1」

ガリア共和国パ・ド・カレー近海――

 

パ・ド・カレー近郊の海域に停泊する赤城型航空母艦“天城”の甲板では、乗員達が大わらわで駆け回っていた。

それもそのばす。天城に接舷されたカールスラント皇室親衛隊麾下の航空母艦“ドクトル・エッケナー”からありとあらゆる物資が次々に運び込まれているのだ。

ガリア・カールスラント国境方面より長距離を飛行・帰投とした宮藤隊――宮藤兄妹、竹井、シャーリーの4名――が、その様相に何事かと目を据える。

4名はホバリングからの垂直降下を行い、ゆったりとした動作で天城の飛行甲板へ降りていった。

甲板では、ひと足先に帰投したミーナ隊――ミーナ達カールスラント3人組とペリーヌ、リーネ、ルッキーニの6名――と、天城の直掩に回っていたサーニャ、エイラがストライカーユニットを履いたままの姿で立ち往生していた。

 

「一体何の騒ぎだこれは?」

 

宮藤隊の4人は帰投したばかりで状況が分からない。優人が詳しい説明を求めると、バルクホルンがそれに応じた。

 

「皇室親衛隊の連中が、突然押し掛けてきたんだ」

 

簡潔に仔細を説明するバルクホルンは、なにやら大層ムスッとしていた。

 

「作業が終わるまで甲板で待ってろ、って言われさ。時間を持て余してるんだよぉ……」

 

続いて、ハルトマンがうんざりした様子で補足する。どうやら親衛隊の意向で物資の積込作業が優先され、ウィッチーズやストライカーユニットの艦内収用は後回しとなっており、バルクホルン等は艦内には入らず……というよりは入れずにいたようだ。

 

「まったく政治被れ共が……こっちの都合もお構い無しだ」

 

バルクホルンは顔を顰め、不機嫌さを隠そうともしない。

なるほど。生粋の国防軍人である彼女にとって、政治色の強い皇室親衛隊は規律を軽んじる輩以上の天敵らしい。

 

「ミーナ中佐はどちらに?」

 

竹井が訊ねると、ハルトマンが「あっち」と艦橋の方を人差し指で示した。優人達4人はつられて視線を走らせる。

艦橋構造物の傍らでは、天城の艦長と501司令のミーナが、親衛隊の黒い制服を着用した金髪碧眼の美少女が話をしている……と言うよりは、少女の方が殆んど一方的に話しているように見えた。

乗艦する際にグレーテル・ホフマンと名乗った少女は、帝政カールスラント皇室親衛隊大尉で、同隊の戦闘航空団『インペリアルウィッチーズ』第1飛行隊隊長を務める航空ウィッチだ。

天城に乗り込んできた親衛隊は、彼女と彼女の指揮する第1飛行隊に一部の航空団幕僚・支援要員らしい。

 

「優人。あの人って……」

 

遠目にホフマンを据え、竹井は声に驚愕の色を滲ませる。優人は艦橋の方へ目を向けたまま「ああ」と短く応じた。

ホフマンには見覚えがあった。マジノ線で、優人達とネウロイないしウォーロック擬きの戦闘に介入した数名のインペリアルウィッチーズ。そのうちの1人がホフマンだったのだ。

優人達よりも先に引き上げ、目的は不明ながら母艦であろうドクトル・エッケナーと共に天城に接触していたらしい。

時間を持て余していたウィッチーズの面々は、優人を先頭に客人の元へ近付いていく。すると、気配を感じたのか。ホフマンは話を打ち切りミーナから離れていった。

去り際に冷たい眼差しで一瞥される。ホフマンのその行為はバルクホルンのムカッ腹を悪戯に刺激した。

 

「ミーナ!」

 

ホフマンをキッと睨み付けた後、バルクホルンは部隊司令に抗議の声を飛ばした。

既に疲労の色が表情に滲んでいるミーナはバルクホルンを見返すと、少々うんざりしたように肩を竦める。

 

「トゥルーデ、苛立たないで。私も被害者よ」

 

「親衛隊の連中、何しに来たんだ?」

 

親衛隊――殊にインペリアルウィッチーズの来訪目的について、優人が単刀直入に訊ねる。

対してミーナは「私が知りたいわ」と溜め息混じりに即答する。

 

「インペリアルウィッチーズが親衛隊の任務で天城に乗艦することや、私達501や竹井大尉が彼女を支援しなければならないことを一方的に告げられたわ」

 

「天城も私達も、連合軍総司令部の命令で動いてますのよ。一介の軍事組織が好き勝手使うなんて……」

 

ペリーヌが不愉快そうに眉を顰めるが、帝政カールスラント皇室親衛隊はとても一介の軍事組織の枠には収まりきらない。

政治色の強い帝政カールスラント皇室親衛隊は、カールスラント宰相――ハインリヒ・ルイトポルト・アインツベルンの権力の恩恵により。最新兵器が優先的に配備される他、独自の専用装備も保有している。

取り分けインペリアルウィッチーズは、他の親衛隊麾下部隊やカールスラント国防軍から資材や人材などを自由に引き抜ける等。極めて強大な権限及び優先指揮権も与えられている。

しかし、それらを行使出来るのはカールスラントの行政や国防軍――帝政カールスラント宰相の権力が及ぶ範囲内に限られている。

欧州に派遣されている扶桑皇国海軍の艦艇や連合軍総司令部直属部隊である統合戦闘航空団を自由に動かすほどの力はないはずだ。横暴にもほどがある。

 

「その総司令部が送り込んで来たのよ」

 

「なっ!?」

 

ミーナの言葉に、ペリーヌは思わず絶句する。唖然とするガリア貴族の令嬢に代わって、竹井がミーナへ質問を重ねる。

 

「支援というのは、具体的にどんな?」

 

「仔細はあちらの指揮官……インペリアルウィッチーズ司令の悠貴・フォン・アインツベルン大佐がいらしてから説明するそうよ」

 

「アインツベルン……あのカールスラント宰相の息女か?」

 

優人が訝しんだ表情を浮かべて念を押すと、ミーナは小さく頷いた。

帝政カールスラント皇室親衛隊第1独立戦闘航空団『インペリアルウィッチーズ』の司令――悠貴・フォン・アインツベルン親衛隊大佐。カールスラント宰相の息女――噂によると養女――にして、部隊運営・作戦指揮・管理調整能力の他。政治・外交・教育・兵器開発等々、多方面で敏腕を振るう才女。

優秀な航空ウィッチでもあり、司令職故に出撃回数が少ないため戦果こそ乏しいものの、航空歩兵としての実力は、かのカールスラント空軍第52戦闘航空団――通称“JG52”を原隊とする世界的エースの面々――バルクホルン、ハルトマン、ラル、ロスマン、クルピンスキー等――に匹敵し、政治的手腕に関しては同じ多方面で優秀なカールスラント空軍ウィッチ隊総監――アドルフィーネ・ガランド少将をも凌ぐとされる。

カールスラント国防軍及び連合軍上層部に強いパイプを持ち、大佐の身分でありながら親衛隊内で最大の派閥を率いている。

また、容姿に優れた者の多いウィッチの中でも、飛びっきりの美女だと専らの噂だった。

才色兼備なインペリアルウィッチーズ司令が、作戦行動中の他国の軍艦へ部隊ごと強引に乗り込み、直々に現場指揮を取る。異例というよりは異常な事態だ。

シャーリーの言った通り、少々面倒なことになりそうだ。そう考える優人の背後を、ふと魔導エンジンの駆動音が流れた。

振り返ってみると、優人達が先程そうしたようにホバリングからの垂直降下で甲板へ降り立つ人影――ウィッチが目に付いた。

ウィッチは目麗しい容姿を持った東洋系の女性だ。カールスラントのメッサーシャルフ社製の最新鋭ストライカーユニット――“Bf109 K-4”を両足に纏い、ホフマン等親衛隊員と同様に黒い制服・軍帽を着用した絶世の美女が、艶のある長く美しい黒髪を潮風に靡かせる。

甲板で作業をしていた天城乗員達の視線が、現れた何人目かのウィッチへ注がれる。

帝政カールスラント皇室親衛隊員でありながら、その顔立ちは紛れもなく東洋系。ファーストネームからして、扶桑系の血筋であることは想像が付く。

しかし、彼女のルックスは明らかに扶桑人離れしており、親衛隊の制服越しでも凹凸がハッキリと分かるほどスタイルが良い。プロポーションでは、シャーリーと良い勝負かもしれない。

だが、そんなことは甲板にいる天城の乗員達にとって些細なことだ。乗員等の誰もが新たに現れたウィッチの美しさに息を呑み、彼女を見入っていた。

 

「初めまして、扶桑皇国海軍遣欧艦隊の皆さん」

 

ウィッチは艶然と微笑むと、おもむろに口を開いた。甲板に出ている乗員達の向かって語り掛けているようで、実際は彼等ではなく真正面へ目を据えている。

 

「私は、帝政カールスラント皇室親衛隊第1独立戦闘航空団司令。悠貴・フォン・アインツベルン大佐です」

 

噂をすれば影が射す。ミーナと優人の会話に出ていたインペリアルウィッチーズの司令が、早くも姿を見せたのだ。

扶桑海軍将兵等は魔性の笑みを口元は湛える悠貴にすっかり心を奪われ、我知らず作業の手を止めてしまっている。

ふと悠貴がチラッと501メンバーや竹井がいる方へ視線を走らせる。視線先にいるウィッチーズは乗員達のように悠貴に見とれている者。怪訝そうな目付きで見据える者。横暴な親衛隊の親玉格ということで不快感から顔を顰める者と、各々が様々な反応を示していた。

ウィッチーズの視線に応じるかのように、悠貴は笑みを深める。だが、彼女が微笑み掛けているのはウィッチーズの誰でもなく、その中に混じっているただ1人のウィザード――扶桑皇国海軍大尉の宮藤優人に向けられていた。

 

「…………あぁ……」

 

悠貴の唇を微かに開き、そこから熱い吐息が漏れる。紅の灯った頬、とろんと潤んだ瞳に下げられた目尻。

甲板にいる天城の乗員をいとも容易く虜にしたインペリアルウィッチーズの司令は、本当に僅かな時間で扶桑海軍ウィザードに心を奪われてしまい、恍惚とした表情を浮かべている。

 

(やっと……会えた……)

 

歓喜のあまり全身が震える。次いで、身体の奥底――子宮辺りから疼きのような熱が湧き上がってくる。悠貴は熱の存在をすぐさまに知覚する。

それは瞬く間に全身へ広がり、頭頂部から足の爪先に至るまでが熱気を帯びる。

高熱は身体の表面を火照らせ、中身を焼き尽くさんばかりに暴れ回った。怜利な頭脳を持つ親衛隊大佐の思考を蕩させ、気持ちを昂らせる。

 

(ダメよ……我慢なさい……)

 

表向きは男を惑わす妖艷な美女を演じながらも、内面で理性を総動員させ、獣の欲に屈しようとする自らを懸命に押さえ付けていた。

熱に浮かされた身体を慰めたいところだが、まずは501司令のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中や天城の艦長と面談しなければならない。今は堪えなくては……。

 

(あの人との再会は、もっと劇的であるべきなんだから……)

 

どうにか平静を装い切った悠貴は、ストライカーユニットを滑走させる。天城の艦内へ入るため、エレベーターへの位置まで移動していく。

苦悶する身には、火照った身体を冷ましてくれる潮風という自然現象が有り難かった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

数時間後、天城艦内――

 

501メンバーと竹井には、それぞれ士官用の船室が貸し与えられている。ミーナと竹井のみが個室で、それ以外がペアを組んで2人部屋を宛がわれていた。

船室は生活するには十分なスペースが確保されていたが、さすがにグレートブリテン島の501基地で使用していた部屋と比べると、さすがに手狭である。

優人と芳佳が借り受けた船室は、2人部屋なので当然ベッドが2つ。小さな鏡の設置された洗面所が1つ。丸型の窓が1つと必要最低限のものだけ……。

 

「………………」

 

2つあるベッドの片方に横たわり、静寂に支配されている室内でジッと天井を眺めている。

四方を味も素っ気も無い金属の壁に囲まれ、小さな窓が1つだけという空間は、些か息苦しい気もする。

士官用の船室にも関わらず、独居房を連想さする無愛想な閉塞感があった。

リバウ時代までの優人ならば、こんな不満は抱かなかっただろう。それだけ501基地での生活が快適過ぎたとも言える。

彼は、ガリア・カールスラント国境線で遭遇したウォーロック擬きについて思考していた。

ウォーロック。前ブリタニア空軍戦闘機軍団兼ウィッチ部隊総監――トレヴァー・マロニー元大将と、彼やブリタニア空軍内の彼の派閥と合流した扶桑出身の技術者――石威紫郎が開発した対ネウロイ用遠隔操作式半自律型攻撃兵器。

捕獲したネウロイのコアを利用したこの兵器は、ウィッチ・ウィザードに代わる量産可能な新戦力として期待されていた。

ビーム兵器の搭載、シールド展開能力、変形機構、コアコントロールシステム等。異常なまでの高性能兵器として完成したウォーロックは、人類の技術を遥かに超えたオーバーテクノロジーの結晶である。

機能の多くはネウロイのコアが持つ能力で、開発責任者であった石威はどうか知らないが、マロニーと彼の小飼達はその原理は十分に理解していなかった。

だが、そのことで頭を悩ませるのは技術屋の仕事だ。優人等航空歩兵が気に掛けなければならないのは性能だろう。

既存のレシプロ式ストライカーユニットを遥かに上回る出力、速力。人類側で初めてビーム兵器とシールド展開機能を搭載し、殊に主兵装たる機首部分のビーム砲は一撃で300m級の大型ネウロイを葬り去る凄まじい威力を誇る。

さらにコアコントロールシステムによって大型ネウロイの大群すらも一度に操り、同士討ちを行うよう仕向けた。

優人は、ウォーロックの化物地味た戦闘能力には感嘆と畏怖の入り雑じった複雑な感情を抱いていた。しかし、性能そのものは、あくまで彼個人の意見ではあるが高く評価していた。

たらればの話をしても仕方がない。だが、仮にウォーロックが量産されていれば、瞬く間に欧州全てのネウロイを駆逐し、人類は異形の軍に雪辱を晴らしたことだろう。

だが、それは同時にウィッチ・ウィザードが軍内での立場や存在意義を失うことを意味している。人類の勝利は喜ばしいが、自分達が職を失うとなると手放しでは喜べない。

 

(また……ヤツと戦うことになるなんてな……)

 

扶桑海軍ウィザードは内心で舌打ちする。マジノ線で遭遇したウォーロック擬きが、少数ながら量産されていたウォーロックの別個体が暴走・ネウロイ化したものなのか。

それともウォーロックを模倣した特殊なタイプのネウロイなのか。今の時点では判然としない。

現時点で分かっているのは、ヤツが暴走時のウォーロックに違わぬ力を持った危険な存在であるということだ。

優人としては、一刻も早くウォーロック擬きについての詳細をミーナに報告し、仲間達と情報を共有したかった。

本来ならば、作戦終了直後にデブリーフィング――戦闘の報告と検証――を行うのだが、隊長のミーナが急遽アインツベルン大佐をはじめとする親衛隊員等と面談することになったため、やむを得ず後回しとなった。

ミーナだけではない。竹井や艦長をはじめとする天城の幹部乗員達も呼び出されているらしい。

作戦行動中の501や天城の事情も考えずに艦へ乗り込み、天城の艦内を我が物顔で闊歩。挙げ句、艦橋や機関室にまで武装した親衛隊兵士を常駐させている。

正直、優人も心中穏やかではなかった。原隊たる扶桑海軍遣欧艦隊所属の艦艇を、正規軍ですらない怪しげな武装組織に好き勝手されることが、ここまで不愉快だとは……。

天城の乗員達は、魅惑的な女性であるアインツベルン大佐に骨抜きにされながらも、身勝手な振る舞いをする親衛隊やインペリアルウィッチーズに戸惑いと嫌悪感を抱き始めていた。

 

「ただいまぁ~」

 

ふとドアが開かれる鈍い音と、間延びした口調の朗らかな声が優人の耳朶に触れる。身体を起こし、ドアの方へ目をやる。最愛の妹が入浴から戻ってきていた。

湯上がりに着替えたらしく、セーラー服と水練着の組み合わせから、扶桑ウィッチの間で寝間着として広く使われている丈の短い薄緑色の甚平に着替えている。

全身からホカホカと湯気を立たせ、頬を上気させている。その姿は相変わらず幼気ながら何処か色っぽい。戦闘の疲労がなければ、間違いなく飛び着いて頬擦りしていただろう。

 

「おかえり。湯加減はどうだった?」

 

「うん、良かったよ♪」

 

屈託の無い笑顔を見せ、芳佳は満足げに頷いた。思ったよりも元気なその様子を見て、優人はホッと胸を撫で下ろした。

マジノ線にて、インペリアルウィッチーズ第1飛行隊の介入により、ウォーロック擬きと合体した自走砲型ネウロイは撃破――ウォーロック擬きの逃亡を許してしまったが――された。

結果的に任務を成し遂げた優人の隊は、露払いとして小型ネウロイの相手に引き受けて繰れていた天城の飛行隊と合流し、天城へ帰投しようとした。

しかし、天城の飛行隊は優人達よりも一足早くウォーロック擬きと遭遇していた。

応戦するも、ベテランの航空歩兵ですら苦戦を強いられるような強敵に零式の戦闘機部隊が勝てるはずもなく、奮戦虚しく全滅。パイロット達の遺体すら残らなかった。

航空歩兵及び装甲歩兵は他兵科と比べて殉職率がかなり低い。それ故ウィッチ・ウィザード等は忘れがちになる。自分達が担当戦域で仲間を誰1人欠かすことなく勝利を収めても、他所の戦場では同じ勝利を手にする為に何百何千何万という将兵が犠牲になっている現実を……。

ウィッチとしての経験が浅い芳佳はシャーリーはもちろん、数年間ずっと501で戦っていた優人。本国で教官職に就いていた竹井も、この事実をすっかり失念していた。

優人、シャーリー、竹井の3名は航空歩兵として年長の部類である。例え苦々しい現実でも、受け止めて飲み下す程度は可能性だ。しかし、つい半年前まで平凡な女子中学生に過ぎなかった芳佳は、メンタル的にアマチュアの域を脱していない。

元々、人が傷付くことが嫌いな性分も相俟って、ほんの少し前まで言葉を交わしていたパイロット達の戦死が受け入れ難かったのだ。天城へ帰投後もしばらくは表情を曇らせ、口数も普段より少なくなっていた。

そんな芳佳を気遣ってか。シャーリーはいつかのように仲間内でのお風呂パーティーを企画し、芳佳を元気づけようとしてくれた。

リベリオンウィッチのおかげで、芳佳の表情に普段の明るさが戻っている。後でシャーリーに礼をしなければ、と優人は思う。

 

「よっこいしょ……」

 

芳佳は、兄が座っているベッドの端――優人の右隣のスペースに腰を下ろす。シャンプーとブレンドされた髪の柔らかい香りが、扶桑海軍ウィザードの鼻腔を擽る。

 

「ひゃっ!?」

 

突然、芳佳の身体が優人の方に傾いた。優人は芳佳の肩に右腕を回し、グイッと自分の方へと引き寄せたからだ。

 

「お、お兄ちゃん……急にどうしたの?」

 

兄からの唐突なスキンシップ。芳佳は戸惑い、赤面する。妹の問い掛けに対し、優人はニヤリと口角を吊り上げて答える。

 

「ん?妹分の補給だよ。いつもやってるだろ?」

 

そう告げると、優人は風呂上がりで艶感のある芳佳の濡れ艶へ鼻先を寄せた。

 

「う~ん……芳佳はいい匂いがするなぁ♪」

 

「か、嗅がないで。恥ずかしいよぉ……」

 

「良いではないかぁ♪良いではないかぁ~♪」

 

「うぅ……お兄ちゃん、最近ますます変態さんになってるよ……」

 

スキンシップからの軽いセクハラ行為。芳佳はモジモジと腰を動かし、頬の朱を一層鮮やかにする。

妹の可愛いらしい反応ひと目見れば、ウォーロック擬きや親衛隊の件で荒み掛けていた優人の心が癒されていく。これだから優人は芳佳が好きなのだ。

子どもの頃は、妹の愛くるしい仕草に何度も助けられた。嫌なことがあって落ち込んだ時も、芳佳の笑顔に元気付けられたものだ。妹の笑顔がもっと見たくて、気付けば優人も笑っていた。

 

「…………芳佳、ありがとう」

 

「えっ?」

 

ふと耳元で囁かれ、芳佳は反射的に聞き返す。突然謝意を述べられた理由が、彼女には分からなかった。

 

「マジノ線で、勇気付けてくれただろ?心強かったよ」

 

「あ、えへへ♪」

 

ポリポリと後頭部を掻き、芳佳は照れ臭そうにはにかんだ。その表情がこれまた可愛いらしく、眩しい。

ふと優人は、幼い日の芳佳におまじない感覚でやっていた“あること”を思い出す。今の芳佳に仕掛けてみたらどうなるかが気になり、悪戯半分に実行してみることにした。

 

「あ、今お風呂空いてるから。入ってきたら?」

 

「ああ、そうするよ。けど、その前に……」

 

扶桑海軍ウィザードは、愛してやまない妹の眼前まで顔を寄せると、その額に唇を落とす。

 

「ふぇっ!?」

 

何が起きたのかすぐに理解出来ず、芳佳は間の抜けた声を漏らす。扶桑海軍ウィッチの思考が一時的に停止し、表情も彫刻のように硬直する。

数瞬後。フリーズしていた芳佳は目を見開き、一瞬にして顔全体を熟れたトマトの如く真っ赤に染め上げた。

 

「な、な、な……何するのっ!?」

 

自分が何をされたのかハッキリ理解すると、芳佳は声を張り上げて兄に詰め寄ってきた。

剣幕に気圧されながらも、優人は詰問口調の妹に答える。

 

「な、何って……おデコにキスしたんだけど?」

 

「何でキスなんてしたの!?」

 

「いや。小さい頃、よくデコにしただろ?お前にねだられたことだって――」

 

「してない!してない!そんなことしてないよ!」

 

首を左右にブンブンと激しく振り、そんな事実は無かったと身振りで必死に否定する。妹の様を見て、優人は「あれ?」と不思議そうに小首を傾げる。

なにやら過去の記憶に関して、優人と芳佳の間に相違が生じているらしい。

 

「もう!お兄ちゃんのバカ!エッチ!変態!」

 

芳佳は罵声を飛ばし、プイッと優人に背を向けてしまう。扶桑海軍ウィザードは、またしてもやり過ぎて妹の機嫌を損ねてしまったようだ。

 

「す、すみません……」

 

深々と頭を垂れ、優人は悄然と謝罪する。謝意を示した態度を維持しつつ、頭を下げたままチラッと視線を走らせる。

背を向けているので、芳佳の表情を窺い知ることは出来ない。しかし、彼女が不機嫌且つ鮮やかな赤面状態であるのは理解出来る。

しばらくは頭を下げ続けていた優人だが、芳佳がひたすら無言を貫いたため段々と居たたまれなくなってきた。

 

「………………風呂いくわ……」

 

入浴セット――タオルや石鹸等が入った風呂桶――を小脇に抱え、優人は逃げるように部屋を後にする。

 

「………………」

 

1人船室に残された芳佳は、両手を重ねるように胸元へ添える。心臓がドキドキと早鐘を打っている。胸中で激しく乱打し、口から飛び出さんばかりに暴れ回っていた。

一方の優人は、浴場へと向かう間も何処か腑に落ちない様子だった。“妹”と認識している少女の額にせがまれ、その額へ軽いキスをした記憶が確かにあったのだ。

額に口付けをした相手は、501の年少組のような妹同然に思っている妹分的存在ではない。彼の記憶が朧気ながら、それは歴とした“妹”だと告げている。

 

「う~ん……」

 

優人は小さく唸り声を上げ、再度記憶を辿ってみた。記憶の中の“妹”自分に寄り添い、上目遣いでこちらを見つめる。

甘えるような口調と柔らかな声音でキスをねだる“妹”に対し、優人は望みを叶えてやる。唇が可愛いらしいおでこに触れると、“妹”はピョンピョンと嬉しそうに跳ね回った。三つ編みに結われた長い黒髪がフワリと舞い上がり……。

 

(…………黒髪?)

 

何故黒髪なのだろう。妹は特徴な跳ねのある短めの茶髪だというのに……。誰かと間違えているのか。自分の記憶違い、或いは混成しているだろうか。

浴場へ到着するまで何度も思考を巡らせてみたが、納得にたる答えは出なかった。




悠貴・フォン・アイツベルン親衛隊大佐。

ワールドウィッチーズには(今のところ)いないタイプの妖艶な雰囲気のウィッチでございます♪エロいです←


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