ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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改訂版を書く度に固有魔法が変わる優人君(笑)


第7話「妹の決意」

「くそっ!何で返事が無いんだよ!」

 

空では優人が苛立っていた。芳佳から返事が返ってこない。優人はすぐにでも芳佳の元へ向かいたかったが坂本ひとりにネウロイ二体の相手をさせるわけにいかず、応戦しながらインカムで呼び掛けを続けていた。

 

「芳佳……無事でいてくれ……」

 

優人祈るように呟きながら、もう一度赤城を見下ろした。

 

「……なんだ?」

 

優人はあることに気付いた。赤城の中央エレベーターが作動している。甲板に何かが上がってくる。それはひとりの少女だった。使い魔と一体化した証である耳と尻尾、背中に13mm機関銃を背負い、足には零式艦上戦闘脚二二型甲を履いている。

 

「芳佳!?」

 

優人は驚きの声を上げる。エレベーターで上がって来たのはユニットを履き、決意の表情で空を見上げている芳佳だった。驚いているのは優人だけではない。艦橋の面々も同じだ。

 

「誰だあれは!?何故ストライカーを装備出来る!?」

 

驚く杉田に樽宮が説明する。

 

「坂本少佐が連れてきた少女です。名前は……」

 

「宮藤芳佳さん、宮藤優人大尉の妹さんだ」

 

と赤坂。艦隊司令官という立場故か、彼は二人よりも冷静である。

 

「大尉の!?では彼女も宮藤博士の!?」

 

芳佳の素性を知り、杉田は息を呑む。優人はインカムを使い、ストライカーを履いて甲板に上がってきた芳佳に呼び掛ける。

 

「芳佳!何やってる!?何でストライカーを履いてるんだ!?」

 

「お兄ちゃん、私も戦う!艦を……みんなを守るために!」

 

優人の問い掛けに答える芳佳。彼女は素人の身でネウロイと戦うつもりだ。戦争嫌いで坂本からの入隊も断り続けていた彼女が艦隊のみんなを守るために自ら戦場へ臨もうとしている。

 

「よせ!訓練もしたことがないお前じゃネウロイと戦えない!大人しく艦内に……」

 

「お願い、やらせてお兄ちゃん!私はみんなを守りたいの!お父さんとの約束を果たしたいの!」

 

止めようとする兄に自分の気持ちを訴える妹。決意のこもった力強い声。その声を聞き、優人は芳佳に昔の自分を重ねた。人々を守るため戦うと誓った昔の自分に――。

 

「わかった、やってみろ!俺とお前と坂本でみんなを守るぞ!」

 

「うん!」

 

芳佳は力強く頷くと、すぐにユニットへ魔法力を注ぎ込む。魔導エンジンが始動し、足元に巨大な魔法陣が現れる。

 

「あれは?」

 

坂本も芳佳の展開した魔方陣に気付き、赤城の甲板に目を向ける。

 

「危険だ!止めさせろ!」

 

杉田が芳佳の飛行を制止しようとする。芳佳はウィッチではあるが軍属ではなく、あくまで客人として赤城に乗り込んでいた。そんな少女をネウロイと戦わせる訳にはいかない。

 

「杉田艦長、甲板員に発艦を指示させろ」

 

「長官!?やらせるおつもりですか!?」

 

赤坂の言葉に耳を疑う杉田。しかし、このままではブリタニアのウィッチ隊が来る前に艦隊は壊滅してしまう。状況を打破するには芳佳のウィッチとしての才能に賭けるしかない。赤坂はそう考え、彼女にすべてを委ねるつもりだ。

 

「行きます!」

 

甲板員の合図を確認すると芳佳は発進し、滑走路を滑る。しかし、またもやネウロイのビームが赤城を襲う。それによって引き起こされた爆発、振動で芳佳の体勢が崩れる。

芳佳はどうにか持ち直すが甲板を出た瞬間、海面へと落下していく。

 

「飛んでぇええええ!!」

 

必死に飛ぼうとする芳佳。

 

「飛べぇええええええええ!!芳佳ぁあああああ!!」

 

優人が叫ぶ。それに応えるように芳佳は着水寸前で水飛沫をあげながら上昇を始めた。ぎゅっと瞑っていた目を開くと、芳佳は自分が飛べたことに気付いた。

 

「飛べた?飛べたぁああああああ!!」

 

芳佳は両手を振り、歓喜の声を上げる。

 

「本当に飛んだ、訓練もしないで……」

 

「なんてやつだ。初めてストライカーを履いたというのに……」

 

優人と坂本は感嘆の声を漏らす。芳佳はそのまま坂本の方へ飛んでいく。

 

「坂本さあああああん!!」

 

「おい!どこへいく?」

 

速度を落とせないのか、坂本の横を通過していく。

 

「私、手伝いま~す!」

 

離れたところから叫ぶ芳佳。すると、坂本と戦っていたネウロイが標的を芳佳に変え、集中放火を放つ。

 

「きゃああああぁ!」

 

芳佳は悲鳴をあげてながら巨大なシールドを張る。ネウロイの攻撃は完全に防がれた。

 

「あのシールド……さすが俺の妹だ」

 

妹が展開したシールド見て誇らしげな優人。坂本が芳佳へ近付いていく。どうやら、あちらのネウロイは坂本の指示の元、二人で倒すつもりらしい。

 

「頑張れ芳佳。坂本、芳佳を頼む!」

 

先程の初飛行、巨大なシールド、優人の心にあった心配は期待へと変わっていた。それに坂本ならば芳佳の力を上手く引き出せるはずだ。

優人は自分が相手をしていたネウロイに改めて向き直った。このネウロイは芳佳が飛び立つ際に赤城を攻撃していた。

 

「よくも妹の初飛行を邪魔してくれたな」

 

優人はネウロイを睨み付けた。妹を攻撃されたことで彼の怒りは頂点に達している。

優人は魔法力をありったけ込めた巨大なシールドを展開する。大きさは芳佳と同等だ。

 

「覚悟しろ!」

 

優人はそのままネウロイ目掛けて突撃した。ネウロイは巨大なビームを打ち込むも速度が僅かに落ちるだけで優人は止まらない。

さらに優人がネウロイの目の前まで近付くと突如装甲が凍りついた。魔法力を冷気として放出する優人の固有魔法『凍結』だ。冷却されたことによって強度の低下した装甲をシールドを活かした体当たりでぶち破り、コアを破壊した。ネウロイは白い破片となって四散する。

 

「はぁはぁ……撃墜……」

 

優人の呼吸は乱れていた。火力の高い敵との戦いと固有魔法の使用。優人はかなり消耗していた。

 

「芳佳……坂本……」

 

優人は妹と戦友のいる方へ向かっていった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

坂本は自らを囮にし、その隙に芳佳にコアを狙うように指示した。しかし、芳佳が銃を構え、照準を合わせているとネウロイの集中放火による妨害を受けてしまい、一旦下がる芳佳。

 

「大丈夫か?」

 

駆け寄ってきた坂本が芳佳の身を案じる。

 

「はい、すいません。でも大丈夫です」

 

とは言っているものの、芳佳の呼吸が乱れていた。初めての飛行と実戦で彼女の体力はそろそろ限界だ。

 

「もう一度、お願いします」

 

「わかった。気を引き締めろ、最後のチャンスだ!」

 

「はい!」

 

坂本はビームを引き付けるため、再びネウロイに接近していく。

 

(さっきと同じことしても、またやられちゃう。どうすれば……)

 

芳佳はビームを避ける方法を懸命に考える。すると、坂本の動きが目に入る。彼女はネウロイの表面スレスレを飛んでいた。

 

「そうか!」

 

芳佳はネウロイに接近し、坂本と同じく、表面スレスレを飛ぶ。ネウロイは芳佳を撃ち落とそうとするが、ビームの死角に入った彼女には当たらない。

 

(しっかりしろ、宮藤芳佳!私がやるんだ!私がみんなを守るんだ!)

 

芳佳は機関銃を構え、坂本に教えられたコアのある部分を撃った。装甲が剥がれ、コアが露出した。

 

「あれがコア!?」

 

芳佳は身体を反転させ、コアを狙おうとする。しかし、コアとの距離は開いていく。

 

(ダメ……もう……)

 

芳佳の身体は限界を迎え、引き金にかけた指にも力が入らない。

 

「お兄ちゃん……」

 

助けを求めるように優人を呼ぶ芳佳。

 

「よく頑張った!偉いぞ!」

 

直後、インカムから声が聞こえた。同時にコアへ十数発の銃弾が命中する。コアを失い、ネウロイは四散した。

 

「……終わった……のかな?」

 

降り注ぐネウロイの破片の中、芳佳は気を失う。ストライカーの魔導エンジンは止まり、海へ落下しそうなところを坂本に抱き止められる。

 

「芳佳!」

 

優人は慌てて妹へ駆け寄る。先程、コアを撃ったのは彼だ。

 

「落ち着け。疲れて気を失っているだけだ。」

 

「そうか。よかった」

 

坂本の言葉に胸を撫で下ろす優人。

 

「まったく、お前の妹は大したやつだ」

 

坂本は腕の中の芳佳は見て微笑む。

 

「芳佳。本当に頑張ったな」

 

優人は芳佳の健闘を称え、頭を撫でてやる。

 

「ん?あれ?」

 

「気がついたか?」

 

目を覚ました芳佳に坂本が声を掛ける。

 

「坂本さん……お兄ちゃんも……」

 

芳佳は二人の姿を確認する。

 

「みんなが助かった。お前が頑張ったからだよ」

 

優人は芳佳に優しく微笑む。

 

「でも、私……また最後に失敗したし」

 

「あそこまでやれたら上出来だ。見てみろ」

 

そう言って坂本は下を指差す。赤城の甲板、艦橋、そして海上の救命ボートから乗員たちが芳佳たちに手を振っている。

 

「お前が守った人達だよ」

 

優人の言葉を聞いて、嬉しさのあまり芳佳は涙を流した。

 

(お前の子どもたちは空が似合うな)

 

赤坂は盟友の顔を脳裏に浮かべながら空の宮藤兄妹に向かって微笑み、手を振る。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

雪風、天津風を除いた陽炎型駆逐艦5隻撃沈、空母赤城中破という甚大な被害を出しながらも遣欧艦隊はブリタニアへと辿り着いた。

幸いにも赤城の乗員と501への補給物資は無事であり、ブリタニアには食糧艦『間宮』と共に工作艦『明石』が派遣されている。扶桑から遠く離れた欧州でも艦艇の修理は十分可能だ。

優人と芳佳は坂本と共に軍手配の車で父からの手紙にあった住所へ向かった。やがて、車は田舎町に入る。のどかな風景は宮藤兄妹の故郷、横須賀とどこか似ている。しばらくして、優人と芳佳は石の土台だけ残して消失した廃墟は到着する。

 

「ここが……この手紙にあった場所?」

 

芳佳は父の手紙を大事そうに持ちながら呟く。

 

「ああ。宮藤博士は5年前までここでストライカーユニットの開発をしてたんだ……あの事故の日も」

 

坂本がそう説明すると手紙を握った芳佳の手が下がっていく。もし父が生きていて、今もブリタニアにいるなら優人や坂本が知らないはずがない。少し考えればわかることだった。

 

「芳佳」

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃんと坂本さんは知ってたの?」

 

芳佳は優人に尋ねる。顔は見えないが彼女がどんな表情をしているか、兄の優人には容易に想像できる。優人は強い罪悪感を覚えた。

父の手紙が今頃来たのは検閲によるトラブルであることは容易に想像できたものの、芳佳と同じく父を慕っていた優人は生存を期待した。その結果、妹にぬか喜びをさせ、父を失った悲しみを再び向き合わせることとなってしまった。

 

「ごめんな」

 

「済まん」

 

短い沈黙の後に二人が謝る。

 

「ううん、謝らないで。私の方こそ我儘言ってごめんなさい」

 

芳佳は振り返り、首を左右に振る。

 

「坂本さん、ここまで連れてきてくれてありがとうございます」

 

微笑みながら言う芳佳。二人には芳佳が無理をしているのだと、すぐにわかった。

三人は研究所の廃墟を去り、父の墓がある墓地を目指した。

 

「私達も、かつては博士とここで過ごしてたんだ。その手紙もやはり、その頃に出されたんだろう」

 

坂本は目的地に向かって歩きながら語った。

 

「お父さんって、いつも間が悪いんですよ」

 

父の墓の前に辿り着くと、芳佳が口を開いた。

 

「私の小学校の入学の日に出ていって、死んだ知らせが届いたのは10歳の誕生日。今頃になって突然手紙が届いて、もしかしたらって思ったけど……親子なのに縁がないのかな?」

 

墓標を撫でながら切なそうに言う芳佳。すると、扶桑語で文字が刻まれていることに気が付いた。

 

「その力を多くの人を守るために」

 

優人は墓標の文字を読み上げた。その言葉は父が自分達兄妹によく言い聞かせていた言葉だ。

 

「……父さんは欧州でも口癖の様に言っていたよ。ストライカーユニットもそんな父さんの想いから生まれたんだ」

 

優人が懐かしむように言う。すると、芳佳の肩が震えだした。

 

「……坂本、外してくれ」

 

「わかった」

 

優人に言われ、何かを察してた坂本は踵を返し、宮藤兄妹から離れていく。

 

「――っ!」

 

「ん!?芳佳?」

 

堪えきれなくなったらしい、坂本がいなくなると芳佳は優人の胸に飛び込んできた。

 

「ごめん……少しだけここのままでいさせて、お願い……」

 

芳佳は震える手で優人の服を握り締めながら言う。優人はそんな芳佳を優しく抱き締めた。

 

「う、うああああああああああああ!」

 

思いが溢れたように芳佳は声を上げて泣き出した。優人は芳佳がすべて吐き出すまで妹を抱き締め、頭を撫で続けた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「落ち着いた?」

 

「うん、ありがとう」

 

空が茜色に染まる頃になって、ようやく落ち着いた芳佳。いっぱい泣いてすっきりしたようだが、目が腫れてしまっている。

 

「そろそろ行くか?」

 

坂本が二人のところに戻ってきた。

 

「はい」

 

芳佳の返事を聞き、優人と坂本が車へ戻ろうとすると芳佳が声を掛けてきた。

 

「あ、あの。お兄ちゃん、坂本さん……私をストライクウィッチーズに入れてください!!」

 

「……何!?」

 

散々入隊を断られていた芳佳からの志願に坂本は面食らう。

 

「え?お前、入隊はしないって……」

 

優人も同様だ。

 

「ここに残って私の力を役立てたい、もっとたくさんの人達を守る為に……きっとお父さんもそう願ってると思うから」

 

芳佳はもう一度、父の墓標に目をやる。その目には決意の光が灯っていた。

 

「そうか」

 

芳佳の志願とその動機に感激し、坂本の表情が段々と笑顔になっていく。

 

「よーし!わかった!あとは私に任せろ!一人前のウィッチになれるようビシビシ鍛えてやるからな!覚悟していろよ!」

 

「はい!」

 

芳佳の返事を聞くと坂本は高笑いをする。その笑いはいつもより豪快かつ上機嫌だ。

 

「まったく……父さんを出すなんて卑怯だぞ」

 

反対出来ないじゃないか、と不満気を言いつつも優人は笑顔だ。

 

「じゃあ、一緒に頑張ろうか!」

 

「お兄ちゃん!……うん!!」

 

芳佳で笑顔で、そして力強く頷いた。




今回、優人がネウロイを倒すのに使った攻撃方法はルッキーニの放熱シールドアタックの凍結版みたいなものです。
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