ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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資料や作中の会話で連合軍だったり、統合軍だったり、連盟軍だったりする……

何故?(´・ω・`)←細かいことを気にする作者


第14話「ストライクウィッチーズvsインペリアルウィッチーズ」

1944年9月、欧州・北海方面洋上――

 

「くっ!」

 

インペリアルウィッチーズ第1飛行隊所属の航空歩兵――アンナ・ターレス親衛隊中尉は、悔しさのあまり奥歯をギリッと噛み締めていた。

カールスラント製艦上航空ストライカーユニット“Bf109T型”の改良型――“Bf109T型親衛隊仕様”を両足に纏い、外見がMP43に酷似した模擬銃――橙色のペイント弾が装填された訓練用の銃――を握り締め、後方から迫る仮想敵機を睨み付ける。

現在、2隻の航空母艦――天城とドクトル・エッケナーが航行中の海上にて、ストライクウィッチーとインペリアルウィッチーズが模擬格闘戦を繰り広げていた。

とは言っても、さすがにフルメンバーで実施というわけではない。双方から参加者を6名選抜し、空母2隻のほぼ直上で空中戦を展開している。

インペリアルウィッチーズからは、ターレス中尉を含め6名の親衛隊ウィッチが参加。親衛隊大尉のグレーテル・ホフマンが、第1飛行隊と第3飛行隊から3人ずつ指名したのだ。携行火器もユニットも、全員がターレスと同じものを装備している。

501部隊からはベテラン勢の優人、バルクホルン、ハルトマン。天才肌故、この3人に劣らぬ実力を備えるシャーリーとエイラ。さらに、戦闘隊長として504部隊へ着任予定の竹井も加わっている。彼女は優人や坂本に並ぶ大ベテランだ。

豪華過ぎるほどに豪華な顔触れに、飛行甲板へ集まった野次馬――天城の乗員達――は湧き上がっていた。どちらが勝つかで賭けをする者もちらほらいる。

 

「引き離せない!」

 

ターレスを追撃しているのは、501が誇るWエース――カールスラント空軍のエーリカ・ハルトマン中尉とゲルトルート・バルクホルン大尉。ロッテを組み、螺旋を描くようにして親衛隊中尉へと接近する。

 

(よりによって、この2人……)

 

否応なしに強敵の相手をすることとなり、ターレスは内心で毒つく。

模擬戦が開始されて間も無く、彼女の2番機を担当していた親衛隊少尉が、相手側の指揮者である優人の手により早々に撃墜されてしまった。

第501統合戦闘航空団戦闘隊長代理――宮藤優人扶桑海軍大尉。噂に違わぬ正確無比であった。

精鋭集団たるストライクウィッチーズは、ターレスをはじめとする親衛隊ウィッチに感嘆の声を上げる暇すら与えず、すぐさま行動を起こしたのだった。

 

「速い!」

 

「当たらない!」

 

2名の親衛隊ウィッチが模擬銃を乱射し、高速で飛び回るシャーリーへ多数のペイント弾を浴びせる。

しかし、そんなことで501部隊最速を誇るリベリオン陸軍航空軍のウィッチ――“グラマラス・シャーリー”ことシャーロット・エルウィン・イェーガー大尉を捉えること叶わない。

オレンジ色の尾を引いて殺到する自らに無数のペイント弾をものともせず軽やかなに躱す。それもP-51の最高速度を一切緩めずにだ。

 

「あぁ!もうっ!ちょこまかと!」

 

「あいつ、背中にも目が付いているのか」

 

一方、別の親衛隊ロッテもまた焦っていた。こちらの2人は敵機の背後を取り、圧倒的に優位な状況だ。

しかし、やはりペイント弾は全く当たらない。スオムスウィッチの神業的な回避行動に翻弄されしまい、攻撃は悉く無駄弾と化す。

 

「雨が降っても気にしない~♪風が吹いても気にしない~♪槍が降っても気にしない~♪吹雪が降っても気にしない~♪」

 

固有魔法『未来予知』による絶対回避。スオムス空軍が誇る“ダイヤのエース”――エイラ・イルタマル・ユーティライネン少尉は、鼻歌交じりにペイント弾の雨に軽々避ける。

 

「舐めやがってぇ!」

 

歌の片手間に相手をしている、と言わんばかりのエイラの様に、親衛隊ウィッチは苛立つ。それ故、自分達が敵側の策に嵌まっている事実に気付けなかった。

シャーリーを追撃していたロッテとエイラを追撃していたロッテは、それぞれ敵機を追って降下。図らずも海面付近で合流を果たす。

直後、海面スレスレに飛ぶシャーリーのストライカーが巻き上げた海水によって、親衛隊ウィッチ4名の視界が遮られる。

さらに、そんな彼女達の目掛け、無数のペイント弾の雨が頭上より降り注いだ。

 

「うわっ!?」

 

「何だ!?」

 

2つのロッテで各々1番機を務めていた親衛隊ウィッチが、突然の奇襲に悲鳴を上げる。

これで親衛隊側は戦闘隊長のターレス中尉を除いた全てのウィッチが撃墜となったわけだ。

 

「あんたらの相手はシャーリーとエイラだけじゃないぞ?」

 

「チーム戦では、もっと周りに気を配りなさい」

 

ペイント弾に続いて、叱責の言葉が2人分を飛んで来た。親衛隊ウィッチ達は声につられて顔を上げる。

彼女等の瞳に映ったのは、最速のリベリアンとスオムスのトップエースに気を取られ、一時的に存在を失念していた扶桑海軍大ベテラン――501部隊戦闘隊長代理と、504部隊戦闘隊長の地位が内定済みの竹井醇子扶桑皇国海軍大尉だった。

模擬銃――扶桑海軍航空歩兵主力兵装の九九式二号二型改13mm機関銃に酷似したもの――を射撃位置に構え、銃口を親衛隊ウィッチに向けている。

上空からの射撃を仕掛けたのは、言うまでもなくこの2人である。

 

「――っ!?クソッ!」

 

悔しげに声を張り上げたのは、撃墜判定を受けた4名の親衛隊ウィッチの中で最先任のゲルダ・テニッセン少尉。

彼女は自分達が敵の術中にまんまと嵌まっていたことを位置早く理解したのだ。

シャーリーとエイラが挑発等して自分達の気を引きつつ、海面まで誘導。水飛沫を上げて一瞬視界を奪い、動きが止まったところを扶桑の2人が狙撃する。そういう戦術だ。

少し考えれば予測と対処可能だった。しかし、2人がかりで1人に手こずる焦燥感が視界を狭めてしまっていたのだ。

それに僚機との連携も十分とは言えず、シンプルな戦術ながら碌な打ち合わせも無しに実行・成功させた501側と比べてチームワークにやや難があったのも敗因であった。

 

「残るはお前だけだ!」

 

「くっ!」

 

バルクホルンに指摘され、ターレスは「くっ!」と屈辱に表情を歪ませる。501が誇るWエースの攻勢に防戦一方となっている上、孤軍奮闘状態に陥ってしまっている。

だが、厳しい状況下においても、親衛隊中尉はまだ勝負を捨てていない。ペイント弾を散撒き、弾幕を張ることで近付けんとする。

 

(ほぉ……中々骨があるじゃないか!)

 

親衛隊を快く思わないバルクホルンではあるが、それでもターレス個人のことは正当に評価している。

もちろん、この程度で止められるほど彼女もハルトマンも甘くない。Wエースは容易に弾幕をすり抜け、ターレスへと迫った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

模擬戦を終えた12名の航空歩兵は天城へ順次着艦し、各々上官の元へ向かう。

インペリアルウィッチーズを圧倒した501から参加したメンバーは、仲間より凱旋さながらに迎えられ、勝利の余韻に浸っていた。

 

「シャーリー、おっかえりぃ~♪」

 

飛行甲板へ降りてきたシャーリーにルッキーニが抱き着きついた。

“グラマラス・シャーリー”の由縁たる爆乳に顔を埋めて、スリスリと頬擦りする。

 

「おう!ただいま!」

 

「やったね!大勝利だよ!」

 

と、胸から顔を上げたルッキーニが、改めて称賛の言葉を贈った。

対してシャーリーは、自慢の胸を強調するように反らし、豪快に笑いながら嘯く。

 

「あっはははは!あたしにかかればこんなもんさ!」

 

「何ダヨ。ワタシだって活躍したんダゾ」

 

自分1人の手柄のように振る舞う――シャーリー本人にそんなつもりはないが――リベリオンウィッチを横目で睨みつつ、エイラは不平を漏らす。

そんなスオムスウィッチの元に、オラーシャ陸軍のナイトウォッチがトコトコと小走りで駆け寄って来る。

 

「エイラ、お疲れ様」

 

そう労いつつ、サーニャは準備していた汗拭き用タオルを訓練終わりのスオムスウィッチに差し出した。

 

「ありがとナ、サーニャ♪」

 

ムスッとしていたエイラだったが、親友の天使のような微笑と声楽家を連想させる心地好い声色に相好を崩す。

 

「エイラ、今日も絶好調ね♪」

 

「見てたのカ?部屋で寝てても良かったんダゾ?」

 

サーニャからの賛辞が照れ臭いのか。エイラは白雪のような頬を紅潮させつつ、気恥ずかしそうに後頭部を掻く。

 

「だって、エイラの活躍が見たかったから……」

 

「ナ、ナンダヨ~♪そう言わると照れるじゃんかヨ~♪」

 

先程の不機嫌さは何処へ行ったのか。エイラの表情に締まりが無くなり、一目でデレデレしているのが分かる。

 

「あなた達もお疲れ様」

 

「これくらいなんでもないさ」

 

「へへ~ん♪」

 

ミーナもまた、同郷の2人に労いの言葉を掛ける。バルクホルンは生真面目な表情で、ハルトマンは得意げに笑って応じた。

 

「竹井さんと……その、優人も……お疲れ様」

 

扶桑海軍のベテラン2名にも視線を向けるミーナだが、竹井とはしっかり目を合わせたのに対し、優人の場合は目線をやや横に流していた。頬も軽く染まっている。

今朝の一件がまだ尾を引いているらしい。まぁ、異性に臀部や背中を散々撫で回されたのだ。

その日のうちに立ち直ったり、ましてや忘れて無かったことにする等出来るはずもない。

ぎこちないながらも平静を装えるあたりは、さすが個性的なメンバーを統括してきた501の指揮官だと賞賛したいところだ。

 

「ミーナ、どうしたんだ?」

 

「へ?な、何のことかしら?」

 

優人から突然の問い掛けに、ミーナはやや間の抜けた口調で応じる。

やはりというか。彼女の瞳の動きは不自然だった。焦点が定まらず、目線が上下左右へ泳いでいる。

 

「顔が赤いけど、熱でもあるのか?」

 

そう言って優人はミーナに顔を寄せる。途端、501司令の脳裏に今朝ベッド上で目にした風景――超至近距離まで迫った扶桑海軍ウィザードの寝顔がフラッシュバックする。

 

「な、なななな!何でも無いわよ!」

 

分かりやすい動揺を見せつつ、ミーナは反射的に優人と間合いを取る。頬に射した紅も、一瞬のうちに顔のほぼ全体まで広がった。

 

「わ、私は……その……ちょっと、電信室へ用事があるから!優人にトゥルーデ!後はお願いね!」

 

戦闘隊長代理扶桑海軍大尉と副官役のカールスラント空軍大尉にそれだけ告げると、ミーナは脱兎の如きスピードで場を後にした。

 

「ミーナのやつ、一体どうしたんだ?」

 

「私にも分からん。今朝から様子が変だった」

 

ミーナの後ろ姿を見送りながら、優人とバルクホルンがかような会話を交わす。2人の頭の中ではクエスチョンマークが踊っていた。

2人のさらに背後では、501司令御乱心の原因におおよその見当を付けている竹井が、呆れの湛えた眼差しを優人へと注いでいる。

同じく事情に察しが付いているらしいハルトマンも、にひひと口角を吊り上げて悪戯っぽく笑う。

 

「皆さ~ん!お疲れ様で~す!」

 

「冷たい物をどうぞ!」

 

不意にミーナと入れ替わる形で芳佳とリーネ。そして、ペリーヌの3人が甲板へ姿を見せる。

2人共、模擬戦を観戦していたというのに優人等が着艦した時には何故かいなくなっていた。

どうやら、気を利かせて海軍ラムネを用意してくれたらしい。501全員と竹井、天城に乗艦中のインペリアルウィッチーズ第1飛行隊――合計18本のラムネ瓶をそれぞれ6本ずつ、胸元で抱き締めるように運んでいる。

仲間達に向かって大きく右手を振ったため、芳佳は危うくラムネ瓶を落としかけていた。

 

「お?ラムネか」

 

「ありがとう頂くわ」

 

まず優人と竹井が芳佳から瓶を順に受け取る。次いでバルクホルン等にも渡していく。

しかし、個性的なウィッチばかりな統合戦闘航空団だけに趣向も様々。

シャーリーやハルトマンはともかく、堅物大尉殿はリベリオンのコーラに似た扶桑の飲料水を訝しがり、中々口を付けようとしない。

インペリアルウィッチーズ側にも人数分提供したのだが、グレーテル・ホフマン大尉に「結構だ」と冷たくあしらわれてしまう。

親衛隊大尉の対応に、芳佳とリーネは僅かながら沈んだ表情を見せ、ペリーヌは「何なんですの!あの態度は!」と御冠であった。

 

「にしても。カールスラントの皇室親衛隊って、空母まで持ってたんだな……」

 

ラムネで喉を潤したリベリオンウィッチが、天城と並走するドクトル・エッケナーへ怪訝そうな眼差しを向ける。

数の少ない航空ウィッチに独自仕様のストライカーユニットや艦上機。挙げ句は、大型空母の所有まで許される親衛隊――或いは後ろ楯であるカールスラント宰相――の権威には驚愕を通り越して呆れ果てる。

 

「あの空母、なんだか何処かで見たような?」

 

天城と並んで航行中する親衛隊麾下の空母――ドクトル・エッケナーを威容を目に据え、芳佳は小首を傾げた。

 

「そう言えば、船体が赤城や天城に少し似てないかな?」

 

同じく芳佳の隣でドクトル・エッケナーを観察していたリーネも疑問を口にする。さらに、そこへルッキーニまでもが割り込んできた。

 

「そっかなぁ?アタシにはみんな同じに見えるけど、空母の空似なんじゃない?」

 

中々上手いことを言うルッキーニに対し、優人の心の中で(ルッキーニに座布団1枚!)と喝采の声を上げた。

それと同時に「みんな同じに見える」という彼女の発言についても、同意までいかないが尤もなことだと思った。

ルッキーニは、あくまでロマーニャ空軍の士官だ。扶桑海軍航空隊やリベリオン海軍空母航空団ないし海兵隊に属する航空歩兵ならいざ知らず、空陸軍の関係者に同じ艦種の軍艦の見分けなどつかない。

優人も新兵時代は、同艦種の軍艦は皆同じに見えていた。それらの違いが分かるようになったのは、扶桑海事変中盤あらだったろうか。

しかし、ルッキーニの言うことも間違いではない。扶桑海軍の赤城及び天城と、親衛隊で運用されているグラーフ・ツェッペリンとドクトル・エッケナーは同型艦なのだから……。

 

「親衛隊で運用されているドクトル・エッケナー。そしてグラーフ・ツェッペリンは、本来はカールスラント海軍所属の艦艇なんだよ」

 

と、不思議そうにドクトル・エッケナーを見つめついるウィッチ等に、優人が簡単に解説する。

 

「そうなのか?リベリオンの他に空母を持ってるのって、扶桑とブリタニアの海軍ぐらいだと思ってたけど……」

 

「あら、失礼ですわね!ガリアにも空母ぐらいありますわよ!」

 

シャーリーの聞き捨てならない発言に対し、ペリーヌがすかさず反論する。

何も腹を立てるようなことでもないだろうが、彼女はホフマンから邪険に扱われて少々気が立っているのだ。

 

「まぁ、サイズは少々小さめですけど…………」

 

「あ、やっぱりガリアの空母って小さいんだ?」

 

自国の空母に対する自信の無さから尻窄みとなったペリーヌの言葉を、ルッキーニが耳聡く聞き付ける。

 

「ペリーヌと同じ~♪にゃはは!」

 

「なっ!何が私と一緒だとおっしゃいますの!?」

 

「わかってるクセにぃ~♪にゃはは!」

 

ガリア貴族令嬢の慎ましやかな胸元へ視線を送りながら、ルッキーニは快活に笑う。

ペリーヌは「ぐぬぬ!」と奥歯を噛み締め、自分を小馬鹿にするロマーニャウィッチを悔しげに睨み付ける。

 

「でも、天城や赤城にそっくりなのは……どうして?」

 

兄へ歩み寄った芳佳が上目遣いで訊くと、優人はさらに詳しく説明を始めた。

 

「グラーフ・ツェッペリンとドクトル・エッケナーは、元々扶桑海軍の空母。赤城型の三番艦と四番艦で、それぞれ“愛宕”“愛鷹”と呼ばれてたんだ」

 

「扶桑からカールスラントに譲渡・改装の後、海軍で運用されていたのよ。同型艦だから外見が酷似している、というわけ」

 

もう1人の扶桑海軍大尉が補足を加える。2人の説明を聞いたリーネは「そうだったんですね」と、納得した様子だ。

 

「まぁ、この2隻についてはミーナの方が詳しいだろうな。ウィッチ用設備搭載の為に、1時期協力してたらしいから……」

 

「ミーナ中佐、遅いわね。ちょっと見てくるわ」

 

そう告げると、竹井はミーナを追って電信室へと向かう。

そろそろ遣欧艦隊総司令部へ定時報告の時間なので、そのついでだろう。

 

「ハイハーイ。でも、それが何で親衛隊の連中に使われてるんダ?」

 

竹井を見送った後、素朴な疑問を抱いたエイラが手を上げて質問する。

他のメンバーも多少は関心があるのか。答えを催促するように優人へ視線を集中する。

 

「親衛隊の長官が、当時の海軍総司令官に取引を持ち掛けたんだ」

 

スオムスウィッチの質問に答えたのは、優人ではなくバルクホルンだった。

憮然と胸の前で腕を組み、不機嫌さを醸し出した口調で説明する。

 

「空母発着艦が可能な航空ウィッチとストライカーユニットを提供する。その代わり、必要に応じて2隻を親衛隊の指揮下で運用させろ、と……」

 

「カールスラントの海軍には、ウィッチがいなかったからさぁ……空軍もウィッチが必要だったし……」

 

バルクホルンの言葉を継ぐようにして、ハルトマンが説明を付け足す。

本大戦初期、カールスラント国防海軍総司令官の地位にあったエルヴィン・レーダー元帥は、空母運用に必要な艦上ウィッチを確保するため、空軍に協力を求めていた。

しかし、国防空軍総司令官の元帥――ヘルムート・ゲーリング元帥とは犬猿の仲であり、さらに海軍は三軍の中で最も発言力が低い。空軍との対等な交渉など臨めるはずもなかった。

それに航空ウィッチの提供と口に出すのは簡単だが、ただでさえウィッチは数の少ない。1人でも多くの航空歩兵を自軍の指揮下に置きたい空軍上層部は難色を示すだろう。

そこへ皇室親衛隊長官にして親衛隊元帥のライナルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒが、幾つかの条件を提示した上で航空ウィッチと艦上ストライカーユニットを提供したのだ。

航空ウィッチで編成されたグラーフ・ツェッペリンとドクトル・エッケナー所属の飛行隊が、皇室親衛隊第1独立航空団『インペリアルウィッチーズ』の前身である。

 

「あ、ごめん。ちょっとトイレ行ってくる」

 

飲み終えたラムネ瓶を芳佳に預け、優人もまた艦内へ向かう。会話中ずっと我慢していたらしい。小走り気味で歩いていく。

 

「おう!ゆっくりブリブリして来なよ!」

 

「シャーリーさん、下品ですわよ!」

 

ケラケラと笑って見送るシャーリーの発言に、ペリーヌが顔を顰める。

そして、ウィッチーズがウィザードを見送って間も無くのことだった。

 

――パァン!パァン!パァン!

 

ふと乾いた音が甲板上に響き渡った。正規軍所属の航空歩兵達の視線が音のした方へ集中する。

どうやら音の発生源は噂の親衛隊――インペリアルウィッチーズらしい。第1飛行隊長のホフマンが、模擬戦に参加したターレス中尉以下3名の部下と向かっている。

よく見ると、ターレス達の頬が赤く腫れ上がっているのが確認できる。

 

「何だ、あの有り様は!?」

 

周囲の目も憚らず、ホフマンが吼える。なるほど。先程の乾いた音の正体は、平手打ちの殴打音。模擬戦の体たらくを見て憤慨した飛行隊長殿が、部下達に体罰を働いたものらしい。

 

「スコアは6対0!完敗だぞ!貴様等、それでもアインツベルン大佐の親衛隊員か!」

 

ホフマンは続け様に怒声を張り上げる。顔を歪ませ、表情が険しいものへと変わってしまっていては、せっかくの美貌が台無しだ。

 

「言い訳はしません」

 

そう返したテニッセン少尉は平手打ちを受けた際に唇を切ったらしく、少量の出血が見られた。

目付きもやや反抗的で、上官に対する不満と怒りがありありと現れている。

 

「何だ、その態度は!」

 

「怒っちゃヤ~ヨ♪」

 

「「「「………………は?」」」」

 

ギスギスとした雰囲気の中に場違いなほど能天気な声色が混じり、親衛隊ウィッチ等は唖然とする。

 

「うりゃ!」

 

「ひゃあぁ!?」

 

その直後、背後から伸びた2つの手がホフマンの胸を捉えた。

憤然としていた飛行隊の口から、なんとも可愛らしい声が漏れ出る。

 

「う~ん?シャーリーよりは小さいけど、中々良いおっぱい♪」

 

楽しげな掛け声と共に無遠慮でホフマンの胸を鷲掴みにした何者かが、ぶつぶつと批評する。

空気を読まずに、このような狼藉を働く輩は限られている。

 

「フランチェスカ・ルッキーニ少尉」

 

と、タレースが呆然と呟く。彼女の上官たる親衛隊大尉にちょっかいを出したのは言うまでもない。501メンバーの妹分――ロマーニャ空軍少尉のフランチェスカ・ルッキーニである。

無邪気な笑顔を見せつつ、慣れた手つきで豊かな双丘を堪能している。501ではお馴染みの風景だ。

 

「――っ!?触るな!」

 

「うじゅ!?」

 

怒号を轟かせながら、ホフマンは乱暴な動作でロマーニャウィッチを払い除ける。相手の反応に目を丸くするルッキーニだが、ホフマンは驚く暇すら与えなかった。

親衛隊大尉は、部下達にそうしたようにロマーニャ空軍少尉へ容赦無い平手打ちを見舞う。

 

――バチン!

 

「ルッキーニ!」

 

「ルッキーニちゃん!」

 

頬を強く殴打され、ルッキーニは甲板に倒れ込む。血相変えたシャーリーと芳佳が彼女の元へ駆け出し、他のメンバーも2人に続く。

 

「ルッキーニ!大丈夫か!?」

 

シャーリーが慌てて抱き起こす。直後、ルッキーニは糸が切れたように泣き出した。

 

「うじゅあああああん!いったいぃいいいいい!」

 

声を張り上げて大泣きするルッキーニ。強打された左頬は大きく腫れ上がっていた。

 

「待ってて、ルッキーニちゃん。今治すから」

 

シャーリーと向かう合う形で両膝をつくと、芳佳は固有魔法の『治癒魔法』で治療を始めた。

さすがは母方の一族に代々受け継がれし癒しの魔法。頬の腫れがみるみる引いていく。

 

「あんたなぁ!何も叩くことないだろ!?」

 

可愛い妹分を庇うように胸元へ抱き寄せたシャーリーは、乱暴を働いた親衛隊大尉にキッと睨みを利かせる。

ルッキーニはシャーリーの胸へ顔を埋め、涙目でホフマンの様子をチラチラと窺っている。

彼女の瞳には恐怖が滲んでいた。ミーナや坂本、実家やロマーニャ空軍の原隊ですら受けたことのない。理不尽暴力に対する恐怖だ。

 

「イェーガー大尉か。見ていただろう?そのロマーニャウィッチは上官である私に無礼を働いたのだ」

 

しかし、当のホフマンはリベリオンウィッチの鋭い視線を風と受け流し、平然と言って退ける。

 

「け、けど。暴力はいけないと思います!」

 

芳佳がシャーリーに続く形で抗議するも、ホフマンはフンと鼻で嗤う。

 

「体罰が何だ?軍隊において暴言暴力による罰則は当たり前のこと。いちいち騒がないで貰いたいな」

 

先程見せた激情は何処へ行ったのか。ホフマンは淡々とした口調で告げる。

そんな親衛隊ウィッチの対応に、シャーリーは思わず声を張り上げた。

 

「ルッキーニはまだ子どもだぞ!理由がどうであれ、手を上げるのは――」

 

「バルクホルン大尉!」

 

さすがの堅物大尉も得心がいかなかったらしい。すぐさま芳佳に変わって反論するが、ホフマンの怒声に遮られてしまう。

 

「規律を重んじるあなたらしくもない。我がカールスラントの誇る大エースも、501基地で無為な日々を過ごすうちに堕落してしまったようだ!」

 

大仰に肩を竦め、ホフマンは嘲るように言う。だが、これで引く501ではない。

 

「暴力はいけないと思います。ルッキーニちゃんだって、悪気があったわけじゃ……」

 

バルクホルンに次いで、リーネも意見する。気弱で争いが苦手なリーネだが、意外と芯は強い。

 

「何だ貴様は?」

 

「リネット・ビショップ軍曹です」

 

「ビショップ?ああ、聞いたことがある。確か前大戦で活躍したブリタニアNo.1エース、かのミニービショップ女子の息女だったなぁ」

 

皮肉に口元を歪めると、ホフマンは侮蔑を孕んだ声音で言葉を続けた。

 

「母親はダウディング元大将と親しいと聞く、愛人関係との噂も……」

 

「――っ!?」

 

あからさまに母親を侮辱され、リーネは我知らず表情を険しくする。

 

「デタラメを言うな!」

 

「そうです!あ、愛人……だなんて、そんなの嘘っぱちです!」

 

あまりに配慮の欠けた言動。バルクホルンと芳佳がすかさず反論するも、ホフマンは無視する。

 

「ウィッチ養成学校からいきなり統合戦闘航空団へ配属、1年も満たないうちにエース級の活躍をしているとも聞いた。どうせ母親のコネで手柄立てさせてもらっているのだろう?何の後ろ楯も無い身には羨ましい限りだな」

 

「ちょっと、いい加減にしなよ。それ以上言うなら、ただじゃおかないよ?」

 

仲間に手を上げ、さらには侮辱までする親衛隊大尉にハルトマンが食って掛かる。

 

「模擬戦で負けたからって、見苦しいゾ!」

 

「ホフマン大尉、私はあなたの品性を疑いますわ!」

 

エイラとペリーヌもまた、射るような視線をホフマンへ投げ掛ける。エイラの隣にいるサーニャも言葉にこそ出さなかったが、彼女らしからぬ険しい面持ちで親衛隊大尉を見据えていた。

ペリーヌもハルトマンも北欧出身の2人も、501ウィッチの例に漏れずかなりの仲間想い。殊にハルトマンに至っては、戦友の為に軍上層部への反抗も辞さないほどである。

4名の中で特に強い怒りを抱いているのは、やはりペリーヌか。リーネはネウロイの支配から解放された故郷――ガリアの復興を目指す自分を手伝うと言ってくれた。

そんな戦友の気持ちが何より嬉しかっただけに、リーネを侮辱した目の前の親衛隊ウィッチを許すことができない。ガリア貴族の令嬢――パ・ド・カレーの領主様は、今までに無いほど業腹であった。

そもそも親衛隊大尉の言い分は、2つの点で言い掛かりだ。

まずリーネの母親――ミニー・ビショップとダウディング元ブリタニア大将に親交があり、ミニーがブリタニア空軍に対してある程度の影響力を保持しているのも事実だが、2人の関係はホフマンが言うようなふしだらなものでは断じてない。

2つ目の言い掛かりは、リーネが親のコネで501に配属された、母親の後ろ楯で手柄を立てさせてもらっている、という点だ。彼女がウィッチ養成学校卒後、間を置かずに501へ配属されたのは、トレヴァー・マロニー元大将をはじめとするブリタニア空軍上層部の意向であり、戦果を上げたのも、本人の努力と才能によるもの。即ちリーネの実力であり、ミニーもダウディングも一切関与していない。

 

「こんな狭量な方が皇室親衛隊の士官だなんて、カールスラントの皇帝陛下が気の毒でなりませんわ!」

 

「貴様!上官に向かって何を!」

 

気色ばむホフマンであったが、その程度で怯むペリーヌではない。

 

「上官だから言葉で済ませたのよ!同階級以下の相手だったら、この程度で許したりませんわ!」

 

ペリーヌの迫力に気圧され、親衛隊大尉は思わず口を噤む。負けじと言い返そうとするホフマンだったが、彼女の声は敵襲の報せに遮られた。




この作品において、グラーフ・ツェッペリンはカールスラント撤退戦で沈んでおりません。今のところ健在です。

あと、エルヴィン・レーダーはエーリヒ・レーダーの誤字ではありません。アニメに倣ってファーストネームを変えています。
エルヴィン・ロンメル→エルンスト・ロンメルやジョージ・S・パットン→ジェラルド・S・パットン、みたいに……

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