ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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読み返したところ。18話、特にウィルマ達のやり取りの部分があまりに酷かったので、勝手ながら改訂版を投稿させて頂きます。


何卒、よろしくお願い致しますm(_ _)m


第18話「北海の緊張、ロンドンの平穏」

1944年9月、西欧・北海――

 

夕陽に照られ、茜色に染まった大西洋の付属海――北海。幻想的とさえ形容出来る情景の中、洋上を突き進む黒鉄の威容が認められた。

かつて赤城型航空母艦3番艦“愛宕”として扶桑皇国海軍所属していたそれは、帝政カールスラントへ売却されて以降“グラーフ・ツェッペリン”と名を変え、カールスラント国防海軍に身を置いていた。

そして、現在は国防海軍の手からも離れ、帝政カールスラント皇室親衛隊第1独立戦闘航空団『インペリアルウィッチーズ』の海上移動航空基地として運用されている。

人類連合軍西部方面統合軍が、ガリアへの逆上陸を実施するのと時同じくして。グラーフ・ツェッペリンもまた作戦行動中であった。

さらに別行動であったが、グラーフ・ツェッペリンと同じくカールスラントへ売却された“ドクトル・エッケナー”――元は赤城型航空母艦4番艦“愛鷹”及び同型艦の1番艦にして、扶桑海軍遣欧艦隊所属の航空母艦“天城”も北海方面に派遣されている。

指揮系統と毛色の異なる2つの航空ウィッチ部隊――インペリアルウィッチーズ及び連盟空軍第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』を支援することが、これら3隻の大型空母に下された命令だった。

数年前よりネウロイの占領下に置かれているカールスラント本国。その北西地域にて、現在501とインペリアルウィッチーズが飛行型ネウロイの群れと交戦状態に入っている。

魔女と異形が航空戦を展開している沿岸地域へ向かう途上にあるグラーフ・ツェッペリン。当艦は、インペリアルウィッチーズ司令――悠貴・フォン・アインツベルン親衛隊より、同じく皇室親衛隊所属のドクトル・エッケナーとは異なる命を受けていた。

艦には艦上航空ウィッチは乗り込んでおらず、艦上戦闘機等の航空機も搭載されていなかった。そればかりか、護衛役を請け負う随伴艦すら1隻も見当たらない。

ネウロイの勢力下が目と鼻の先まで迫ってる北海において、航空戦力も護衛艦も引き連れていないという空母運用にあるまじき愚策。

あまりに無防備、あまりに無用心。これでは「艦を狙ってください」と言わんばかりだ。

 

「見えました」

 

グラーフ・ツェッペリン艦橋。双眼鏡を用いて前方を確認していた航海長が、背後に立つ艦長へ報告する。

彼が双眼鏡越しに認めたのは、航空ウィッチらしき複数の小さな人影。そして、サイズがそれらの数倍はあろうかという巨大な影だった。

 

「アインツベルン大佐以下インペリアルウィッチーズの第2飛行隊所属のウィッチ。及び作戦目標のネウロイを視認!捕獲に成功したようです!」

 

「よし!回収作業を開始する!作業要員は甲板へ!対空監視を厳となせ!」

 

航空長の更なる報告に頷き、グラーフ・ツェッペリンの艦長は命令を出す。それを副長が復唱し、瞬く間に艦内各部署の責任者へ伝えられていく。

回収作業というのは、インペリアルウィッチーズが捕獲したネウロイ――ネウロックをグラーフ・ツェッペリンの艦内へ収用することだった。

報告によると、彼女達と共に捕獲作戦に参加していたはずの艦上戦闘機部隊――“Bf109T”で構成された2個艦上戦闘飛行隊16機――は、全滅してしまったらしい。

 

「しかし、ネウロイをどうやって……」

 

グラーフ・ツェッペリン艦長の瞳に、インペリアルウィッチーズの手で捕獲されたネウロックの姿が映る。

魔法繊維で構成されたワイヤーネットに絡め取られ、ネウロックは完全に沈黙している。

ハニカム状の模様が描かれた漆黒の装甲には、斬撃による損傷がほぼ全体に確認出来る。鋭く鮮やかな斬り傷を見るに、おそらく扶桑刀によって付けられたもの。

自然と艦長の視線は、白木拵えの扶桑刀を携えたインペリアルウィッチーズ司令へと向けられる。

世界広しと言えども、扶桑軍に属する航空歩兵以外で刀を愛用する者は悠貴・フォン・アインツベルン大佐ぐらいであろう。

長い黒髪を潮風に靡かせ、赤い瞳で虚空を見据える東洋系美女。プロの女優やモデルですら霞んでしまう美しさ、親衛隊の制服越しに見せ付ける凹凸がハッキリした素晴らしいまでのプロポーション。

飛行甲板で作業にあたっている乗員等は忽ち目を奪われ、神に贔屓されたとしか思えない美貌にただただ息を呑んだ。

自分を見つめる男達の視線に気付くと、悠貴は艶然と微笑み返した。それは前線で戦う数多の将兵達を救わんとする女神の慈悲に満ちた笑顔にも、男共を誑かし己が欲望の為に利用せんとする悪魔の黒い笑みにも見える。

腹の内が全く読めないインペリアルウィッチーズ司令に対し、グラーフ・ツェッペリン艦長は一抹の不安を覚えずにはいられなかった。

ともあれ、目的であるネウロイの捕獲は成功した。あとは新手のネウロイが現れる前にノイエ・カールスラトへの帰路に着くだけだ。

グラーフ・ツェッペリン艦長は、僅かにズレていた軍帽を直すと指示を飛ばした。

 

「ネウロイを艦内に収容後、安全圏まで離脱する。甲板員はウィッチを誘導せよ!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

扶桑皇国海軍遣欧艦隊から501部隊へ派遣されている宮藤優人大尉と、ブリタニア空軍610戦闘機中隊を原隊とするリネット・ビショップ軍曹。

両者はそれぞれS-18対物ライフル、ボーイズMk.I対装甲ライフルを射撃位置に保持し、広範囲に展開している敵小型ネウロイの群れを目で捉えていた。

各々の人差し指がライフルのトリガーを引く。1機、また1機と小型ネウロイは2つの銃口より放たれた魔法弾を受け、粉々に砕け散っていった。

本作戦において第501統合戦闘航空団は、ミーナが直率する親衛隊支援部隊8名と、シャーリーが指揮する空母直掩機部隊4名の2つの部隊に分けられた。

前者はミーナと竹井。バルクホルンとハルトマン。ペリーヌとリーネ。宮藤優人と芳佳の兄妹でロッテを組んでいた。

しかし、ある事情で不調に陥っていたリーネを見兼ねた優人の具申もあり、ミーナは当初の編成を変更。すぐさま優人とペリーヌの2番機を入れ替えた。

さらに、子機の大群に守られている親機の中型ネウロイ撃滅のため、優人隊・ペリーヌ隊の2個ロッテにシュヴァルムを組ませた。

大ベテランに励ましと助言を受け、不調状態から脱して好調となったリーネは普段以上の力を発揮していた。

高速で縦横無尽に動き回る小型ネウロイに対し、外すことも味方を誤射することもなく、確実に魔法弾を命中させる射撃技術はベテランウィッチ顔負けであり、経験豊富で同じく射撃を得意とする優人も舌を巻く。

前大戦の英雄である母親――ミニー・ビショップの名に恥じぬ戦いぶりと言えよう。

 

「リーネ!大物をやるぞ!芳佳!ペリーヌ!援護を頼む!」

 

「「はい!」」

 

「了解ですわ!」

 

優人が指示を飛ばし、3人の後輩が間髪入れず声を返す。大物とは、もちろん親機であり敵戦力の中核である2機の中型ネウロイのことだ。

その周辺を彷徨いていた多数の子機は、501との交戦によって著しく減少。残存個体3つに分かれ、内2つのグループはミーナ隊・バルクホルン隊とそれぞれ交戦中。もう1つのグループも、優人指揮するシュヴァルムとの戦闘でほぼ全滅していた。中型ネウロイへ攻撃を阻む者は最早存在しない。

ウィザードとウィッチに銃口を突き付けられた2体の中型ネウロイは、全身からビームを乱射して応戦する。

しかし、中型ネウロイの攻撃は、芳佳が展開する巨大な魔法シールドによって容易く防がれてしまう。

残存する小型子機等が後方から妨害しようとすれば、忽ちペリーヌのブレン軽機関銃Mk.Iや彼女の固有魔法『トネール』の餌食となる。

絶え間無く集中砲火を浴びせられている状況にも関わらず、優人もリーネも落ち着いていた。頼りになる仲間達に守られているからだ。

これまでの戦闘で剥き出しとなったコアへ狙点を定めつつ、ウィッチとウィザードは軽く息を吐く。

狙撃において、一番の敵はプレッシャー――つまり自分自身だ。2人の射撃技術を鑑みれば、この距離でコアを狙って外すことなどまず有り得ない。

如何なる状況に置かれようとも、普段通り。或いはそれ以上の力を発揮する。それが狙撃にとって最も重要なこと。

2人は、ほぼ同時に引き金を絞った。2発の魔法弾が銃口より射出される。螺旋状に回転しながら空気を切り裂き、真っ直ぐ虚空を突き進んでいった。

やがて魔法弾はコアへ到達。赤い輝きを放つ正十二面体の結晶は砕け散り、2機の中型ネウロイは白い破片となって霧散した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

インペリアルウィッチーズ第2飛行隊長――アリョーナ・クリューコフ親衛隊大尉は、グラーフ・ツェッペリンのエレベーターへネウロックを降ろした後、部下達も飛行甲板への着艦と小休止を命じていた。

化物染みた敵との戦闘。それも、ただ倒すのではなく捕獲を命じられていたのだ。如何にVT信管――“マジックヒューズ”を活用した戦術で終始優位に立っていたとはいえ、隊員等の疲労は相当なものだろう。

甲板を見下ろせば、マイヤ・アッカネン少尉以下5名の部下が、グラーフ・ツェッペリンの乗員達に飲料水を振る舞われ、軽い雑談を交わす者もいた。

それらの光景を微笑ましげに見守っていたアリョーナだが、彼女の視線はすぐに別のものへ向けられる。苦労して捕獲した特殊なネウロイ――ネウロックだ。

魔法力を帯びた白刃の斬撃。改良型マジックヒューズを組み込んだロケット弾による猛攻撃を受け、機能不全でも起こしたのだろう。

傷だらけのネウロックは完全に沈黙し、エレベーターによって艦内へと降ろされていく。

グラーフ・ツェッペリン収容の際、機能を取り戻したネウロックに抵抗されるかと思っていた。しかし、そのようなことは一切無く、艦内への収容作業は無事終了した。

作戦が完遂したこと自体は喜ばしいことだが、ここまで順調にいくと拍子抜けしてしまう。

 

「お疲れ様、アリョーナ」

 

何者かがアリョーナの肩をポンと叩き、労いの言葉を掛ける。

反射的に振り向くアリョーナの視界に絶世の美女が飛び込んでくる。アリョーナの上官であり、インペリアルウィッチーズの司令でもある親衛隊大佐の悠貴だ。

異性はもちろん、同性であっても惚れてしまいそうな美貌の持ち主である彼女は、いつも通りのコケティッシュな笑みを浮かべている。

いつも違うところがあるとすれば、制服の袖に微かな焦げが見られることぐらいか。

 

「あなた達第2飛行隊のおかげで、ネウロックを捕獲できたわ。私ひとりだったら、やられていたかも……」

 

軽く自嘲する悠貴の発言を受け、アリョーナな物思いに耽る。

悠貴が滅多に戦場に出ることはない。政治的工作や部隊指揮等に専念している。だが、指揮能力はもとより航空歩兵としての実力は、間違いなくインペリアルウィッチーズ最強。

501のWエース――バルクホルンやハルトマン。2人に次ぐ撃墜スコアを誇る第502統合戦闘航空団『ブレイブウィッチーズ』司令――グンドュラ・ラル少佐。“アフリカの星”と名高い、ハンナ・ユスティーナ・ヴァーリア・ロザリンド・ジークリンデ・マルセイユ大尉等の世界的エース級と比肩し得るほど。

しかし、然しもの彼女も化け物相手の近接戦闘とあっては、無傷とまではいかなかったらしい。

ネウロックのビームを掠めてできた焦げ跡で汚れた制服に目をやり、上官に大した怪我がないと判断したアリョーナは、「大佐の作戦に従ったまでです」と無難に応じた。

 

「大佐!御無事で!?」

 

突如、悠貴の身を案じる声がアリョーナの耳朶に触れる。それとほぼ同時に、1人のウィッチがアリョーナと悠貴の間に割り込んできた。

使い魔の尻尾を揺らめかせる後ろ姿は、第1飛行隊――グレーテル・ホフマン親衛隊大尉のものだった。

ホフマンのストライカーユニットが巻き上げた風をまともに浴びてしまい、アリョーナは小さく舌打ちする。

今のホフマンの視界にあるのは悠貴の存在だけ。他の人間など眼中にない。

かと思えば、「大佐の御召し物が焦げたのは貴様のせいだ」と、言わんばかりに陰湿な視線を寄越してくる。いかにも彼女らしい。

ネウロイを全滅して部下達と共に合流したようだが、ホフマンはアリョーナと異なり、隊員達をグラーフ・ツェッペリンの甲板で休ませるつもりはないらしい。

戦闘で疲弊した第1飛行隊のウィッチ達を気の毒に思いつつ、アリョーナは甲板で休んでいる己の部下達を空へ呼び戻した。

 

「あれ?こちらも終わったんですか?」

 

「――ッ!?」

 

ふと場違いなほど間の抜けた声が聞こえ、アリョーナを含めたインペリアルウィッチーズの面々は一斉に振り向く。

彼女等の視線の先にいたのは、第501統合戦闘航空団の一員である扶桑海軍ウィッチ――宮藤芳佳軍曹だった。

固有魔法『マリオネット』を駆使して悠貴が誘導したネウロイ群により、後方で足止めを食らっているはずのウィッチが目の前に現れた。

501部隊が追い付いてきたのか。予想よりもずっと早い。いや、それよりも……この扶桑ウィッチはいつからここにいたのだ。

まさかネウロック収容の一部始終を見られてしまったのか。インペリアルウィッチーズの心に動揺が生じる。

 

「皆さん、お怪我はありませんか?……って、あれ?また空母?赤城や天城と似てますけど、あれも皆さんの艦なんですか?」

 

相手方が内心で抱いている焦燥や動揺。それら知る由もない芳佳は、反転して帰路に着かんとするグラーフ・ツェッペリンを見下ろしながら、暢気な口調で続け様に問い掛ける。

親衛隊ウィッチ達は質問には一切応じず、視線を交わし合っている。どうするべきかを言外で協議しているのだ。

何も答えずに無言を貫く親衛隊ウィッチ達の様子を見て、芳佳は不思議そうに小首を傾げる。だが次の瞬間、扶桑海軍ウィッチは驚愕に目を見開くことになる。

第1飛行隊に身を置く親衛隊ウィッチの1人が、金メッキと彫刻の施された親衛隊仕様のPPKを取り出し、銃口を芳佳の鼻先に向けたのだ。

 

「…………えっ?」

 

何故、自分は拳銃を向けられているのか。それを理解するどころか考える暇も与えられず、PPKの銃口から銃弾が迸った。

だが、幸いなことに銃弾は芳佳には当たらなかった。直前で魔法シールドが展開され、銃撃から彼女を守り通したのだ。

 

「おい、何の真似だ?」

 

シールドを張ったのは芳佳の兄である優人だった。彼は聞いたものが身震いするような冷たく、ドスの利いた声色で発砲した親衛隊ウィッチを問い詰める。

 

「何故、妹を撃った?」

 

鬼気迫る表情の優人が再度問い掛けたのと、ほぼ同じタイミングで、彼の仲間――501のメンバーが合流する。

遠目で芳佳が射殺されかけたのを見ていたらしい。彼女達もまた、インペリアルウィッチーズへ射るような視線を投げかけている。

 

「も、申し訳ありません!ミーナ中佐!」

 

1人の親衛隊ウィッチが、発砲したウィッチを羽交い締めにする。

 

「こいつは新人なんです!初めての実戦で錯乱していただけで、他意はありません!」

 

「ここはどうか穏便に……」

 

と、ホフマンが言葉を継ぐ。仲間を撃ち殺されかけたにも関わらず、“穏便に”ときた。

当然ながら501のメンバー及び竹井は、誰ひとりとして親衛隊の対応に納得や理解を示さない。バルクホルンに至っては、すぐさま食って掛かろうとする。

 

「貴様ッ!」

 

「トゥルーデ!」

 

激情に駆られ、ホフマンに噛み付こうとするバルクホルンをミーナが声で制する。

不服そうな戦友を尻目に、ミーナはインペリアルウィッチーズ第1飛行隊長と険しい表情で向き合った。

 

「危うくウチの子を失うところでした。上層部には抗議として報告させて頂きますが、よろしいですね?」

 

「抗議なんかで済むの?」

 

「明らかな殺意がありましたわ……」

 

ミーナの発言を受け、ハルトマンは不満げに唇を尖らせ、ペリーヌは怒りに身を震わせる。

 

「悠貴・フォン・アインツベルン大佐」

 

次にミーナはインペリアルウィッチーズ司令へ視線を走らせる。

仲間達が憤然とする中、ミーナは努めて冷静であろうとするが、それもいつまで続くか。

 

「何故、グラーフ・ツェッペリンがこの海域に?合流するという報告は聞いていませんが?」

 

「そう言えば、あなた方と交戦中だったはずのネウロックも見当たりませんね?」

 

ミーナに続く形で、竹井も親衛隊ウィッチ達に己の疑問をぶつける。

対するインペリアルウィッチーズ側の反応は様々。ホフマンはアリョーナは沈黙を保ち、前者はミーナを睨み返している。

他を親衛隊ウィッチも飛行隊長達に倣ったが、何名かは言葉に詰まったかのように「うっ……」と呻き声を上げていた。

ただひとり。司令である悠貴のみが、余裕に満ちた笑みを浮かべている。美しい曲線を描く形の良い唇を動かし、ミーナ達の質問に応えた。

 

「まず一つの質問に。グラーフ・ツェッペリンには、先の戦闘で負傷したパイロットや艦上機を収容してもらうために来て頂きました。丁度バルトランドで待機中でしたので……」

 

「負傷者が出たのですか?」

 

「戦死者もいます。犠牲無くして勝利は得られないとはいえ、残念です」

 

瞳を伏せ、親衛隊員――Bf109Tのパイロット等の死を悼むような悠貴の口振りに、ミーナは訝しそうに片眉をヒクつかせる。

 

「次に竹井大尉の質問。ネウロックは我々の手で撃墜致しました。深手を負って飛行不能となり、そのまま海中へ水没しました」

 

「あの強敵を、こんな短時間で?」

 

「私達は対ネウロイ戦に特化した部隊です。詳しくはお話出来ませんが、国防軍とは異なる装備を有しておりますので……」

 

「…………そうですか?」

 

竹井もまた、悠貴の報告に怪訝そうな反応を示す。インペリアルウィッチーズのウィッチ達は、精鋭と呼べるだけの実力を備えており、カールスラント宰相の権限によって、最新の武器や機材が優先的に配備されている。

練度も連携も装備の性能も高く、強力なウィッチ部隊だ。それについては竹井やミーナも認めている。

しかし、501等の統合戦闘航空団に配属される世界的エース達に比べれば、総合値で数段劣る。

国防軍以上に対ネウロイ戦に特化した装備を駆使したとして、これほど容易くネウロックを撃破出来るものなのか。

グラーフ・ツェッペリンについても、当艦の所属がカールスラント国防海軍から、皇室親衛隊へ移っているのは理解している。

だが見たところ。グラーフ・ツェッペリンには航空戦力は艦載されていない。そればかりか、護衛を請け負う駆逐艦すら引き連れていないようだ。

艦載機や随伴艦に守られていない空母がどうなるか。そんなこと今さら説明するまでもない。

そんな危険を冒してまで、わざわざバルトランドから呼び寄せる必要があるのだろうか。

そもそも負傷者の回収が目的ならば、天城やドクトル・エッケナーに任せればいい話だろうに……。

 

「芳佳ちゃん、大丈夫?」

 

「う、うん。お兄ちゃんが助けてくれたから……」

 

自分の身を案ずるリーネを心配させまいと、芳佳は笑顔を見せる。しかし、それはどこかぎこちない。よく見ると身体も震えている。

元々芳佳は銃器の類いを人を傷付けるものとして嫌悪・敬遠し、また恐いものだと認識している。

対ネウロイ戦において、ストライカーユニットと同様頼りにしている反面。人の命を簡単に奪える銃器は恐怖の対象でもあった。

そして今回。銃口を至近距離で向けられ、危うく射殺されるところだったのだ。

優人が来てくれなければ確実に死んでいた。対ネウロイ戦とはまた違った形で命の危機に直面し、芳佳は銃という名の凶器や死というものの恐ろしさを再認識している。要するに怯えているのだ。

 

「芳佳…………」

 

小さな身体を震わせている妹をいじらしく思った優人は、子どもの頃からしてきたように芳佳を抱き締めて安心させようとする。

だが優人が行動に移ろうとしたその瞬間、洋上より爆音が轟いた。

場に居合わせた航空歩兵達が、音の聞こえた方向へ目を向けると、船体から巨大な火柱と爆煙を上げているグラーフ・ツェッペリンの艦影が見えた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、ブリタニア首都ロンドン――

 

郊外のとあるカフェのオープンテラスで、国籍の異なる3名の美女が食事をしている。

抜群のプロポーションを誇るブリタニア人の女性。そして、西洋系の小柄な美少女が2人。それぞれガリアとリベリオンの出身地だ。

 

「お待たせ致しました」

 

白と黒を基調とする制服を着こなした若いウェイターが、3人のテーブルへ歩み寄る。

トレイに乗せていた注文の品々を差し出すと、一礼して戻っていく。

 

「あ、このサンドイッチ美味しいです♪」

 

注文したサンドイッチを頬張り、満足げに喉を鳴らすのはアメリー・プランシャール。自由ガリア空軍に所属する航空ウィッチで、階級は軍曹。

つい最近まで原隊を離れ、ワイト島分遣隊に配属されていた彼女は、同じ部隊で寝食を共にした同僚2人とカフェを訪れている。

正確には、もう2人。ワイト島分遣隊の隊長を含めた同僚がいるのだが、理由あって合流が遅れていた。

 

「でしょ?あまり知られていないけど、このカフェは謂わば隠れた名店なのよ?」

 

ウインクしながら説明するのは、アメリーと同じくサンドイッチを注文したブリタニア出身のウィッチ――ウィルマ・ビショップ。

501部隊に身を置く“リーネ”ことリネット・ビショップ軍曹の姉で、王立ファラウェイランド空軍軍曹だ。

部隊内では最年長。まだまだ発展途上の身体つきのアメリーとは対象的に完成されたグラマラスボディの持ち主で、服の上からでもハッキリ存在が認識出来る爆乳は、他の客――特に男性――の目を引いてやまない。

 

「う~ん、郊外でやっている割にはまぁまぁね」

 

と、やや手厳しい評価を下したのは“フラン”ことフランシー・ジェラード。リベリオン陸軍第8空軍所属の少尉で、もちろん航空ウィッチである。

3人の中では最高階級者に当たるが、年齢はウィルマよりも歳下。アメリーと同様に成長途中の小柄な体躯のリベリアンだ。

フランはウィルマ達とは異なり、サンドイッチではなくハンバーガーとフライドポテトを注文していた。空腹が限界に近付きつつあった彼女は、大口開けてハンバーガーに噛りつく。

ミディアムで焼かれた赤身肉に、熱さで少し溶けたチーズが乗っている。ミチッとした肉の食感。シャキシャキと歯応えのあるピクルス、トマト、レタス。

前述の評価に反し、内心では(これぞハンバーガーた!)と感嘆していた。

 

「肉厚で食べ応えのありそうなハンバーガーね?フランにも、それくらいお肉が付いてたら良かったのに♪」

 

「ちょっと!何処見て言ってんのよ!?」

 

フランは両腕で胸元を隠し、セクハラ紛いの発言をするウィルマを睨んだ。

 

「だってフランってば、リベリアンの割にお胸が随分と慎ましやかだから♪ちゃんとご飯食べなきゃダメよ?」

 

「うっさいわね!あたしは成長期!これからなんだから!」

 

薄ら笑いを浮かべるウィルマ。フランはムキになって反論する。

 

「見てなさい!今にイェーガー大尉みたいなダイナマイトバディになってやるんだから!」

 

無い胸を張って高らかに宣言するフランだったが、悲しいかなウィルマの方が上手であった。

 

「うふふ♪そうなったら、きっと彼の視線もフランに釘付けね♪」

 

「な、何でそこで優人が出てくるのよ!?あたしは別に、あんな変態のことなんて何とも思ってないんだから!」

 

ブリタニア生まれの爆乳美人が次の一手を打つ。フランは「違う!」と必死に否定しながらも、あからさまな動揺を見せる。

さらに本人は自覚していないようだが、小柄なリベリアンは我知らず墓穴を掘ってしまっていた。

 

「あっら~?私は優人の名前なんて出してないんだけど?」

 

「……あっ!」

 

自らの失言に気付いたフランはしまった、と言わんばかりに両手で口元を覆う。

彼女の顔ら白く小さな2つの手で隠され、半分ほど見えなくなったが、白磁の肌に灯された紅がチラチラと覗いている。

 

「フランさん、そんな言い方は酷いです!優人さんは変態さんなんかじゃありません!」

 

と、抗議の目を向けるアメリー。彼女の発言を受け、ウィルマはすぐさま攻撃対象を強気なリベリアンから愛らしいガリア空軍ウィッチへ変更した。

 

「まぁフランにとって優人は変態さんかもだけど。アメリーにとっては憧れの王子様みたいな存在なのよねぇ♪」

 

「へっ!?」

 

アメリーもまた赤面する。ファラウェイランド空軍のウィッチは、さらに畳み掛けた。

 

「だって、優人がいる間ず~っと気に掛けたみたいだし。紅茶振る舞ったり、料理や射撃を教わったり……随分と仲が良ろしかったみたいですからぁ~♪」

 

「ち、違いますよ!ゆ、優人さんは……そのっ!お兄ちゃんみたいな存在ってだけで!そんなんじゃ――」

 

「じゃあアメリーは、何でもない男の人と2人で仲良く夜の浜辺を散歩してたのかしら?」

 

「そ、そそ!それは!ちょっと悩みを聞いてもらってただけで!」

 

「ふ~ん?」

 

これまた分かりやすい動揺を見せながら、アメリーは懸命に弁明する。

頭から湯気が出るのではないかと思うくらい真っ赤になった彼女を肴にウィルマは紅茶で喉を潤す。

一方のフランは、優人と夜の浜辺でデートしたらしい戦友に羨望と小さな嫉妬の入り混じった視線を注いでいた。




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