ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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『オリ主及び本作に置けるウィザードの設定』にイラストを追加しました!

先輩ユーザーの『疾風海軍陸戦隊』様より提供頂いたものです!作者がイメージしていた優人がほぼそのまま描かれて、とても気に入っております♪

改めまして、疾風海軍陸戦隊様!ありがとうございます!


第19話「グラーフ・ツェッペリン」

1944年9月、西欧ブリタニア首都ロンドン――

 

ロンドン市内には、ブリタニア政府より連合軍へ貸与された軍事施設が存在する。

当施設は現在、西部方面統合軍総司令部として機能している。各国より派遣された軍高官達が一同に介するこの場所は、国家間の思惑が交差する政争の場でもあった。

 

「あ~……漸く終わったわぁ~」

 

総司令部内の通路にて。かような発言と共に両腕を上げて大きく背伸びするのは、扶桑皇国から欧州へ派遣されている航空ウィッチ――角丸美佐扶桑陸軍中尉。

今年の初めより、西部方面統合軍総司令部の隷下にある二線級の多国籍航空ウィッチ部隊――ワイト島分遣隊の指揮官を務めていた。

同じく西部方面総司令部に所属する航空ウィッチ部隊――第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』の活動により、ガリア上空に存在していたネウロイの巣が消滅。ブリタニアへの圧力は大幅に低下した。

それに伴い、501を含む幾つかのウィッチ部隊が他の戦線へ異動・もしくは解散となった。ワイト島分遣隊も、それら部隊の1つだった。

総司令部隊より正式に解散命令が下り、角丸は後任への引き継ぎを行うためロンドンを訪れていた。

尤も、ワイト島分遣隊はブリタニア南部防衛の為に編成・配備された小規模の部隊。そしてワイト島基地は、主戦場から外れた場所に存在する戦略的価値が低い軍事施設。

基地の周辺は平原で何もないが、気候は温暖で温泉も湧いている。基地施設内には、角丸の依頼で露天風呂の岩風呂が造られている。

グレートブリテン島に対するネウロイの脅威がほぼ無くなった今。わざわざ別の部隊をワイト島基地へ駐留させる必要もない。

元々が軍用地ではなく、有名なリゾート地だったワイト島。1921年以降、退役軍事やウィッチの向けの保養施設として利用されていた。

後に扶桑人によって温泉が発見され、負傷した兵士の休養施設兼リハビリ施設として、各国のウィッチが訪れるようにもなった。

ガリアが解放され、ネウロイの襲撃が無くなった。半閉鎖状態となっていた保養施設は再開。ワイト島は再び保養地に戻ることだろう。

統合軍総司令部は、各地で戦闘に従事する航空歩兵や将兵。被害にあった民間人の為、施設の拡充を決定。ワイト島分遣隊と入れ替わりに、扶桑皇国海軍遣欧艦隊旗下の設営隊派遣を実施することにしたのだった。

 

「付き合わせちゃってごめんなさいね」

 

角丸は自分の隣にいるオストマルク空軍ウィッチ――ラウラ・トート少尉へ声を掛ける。

ラウラは、銀色のショートヘアに深い緑色の瞳、雪を想わせる色白の肌を持つ美少女だ。

角丸やウィルマに負けず劣らずスタイルが良く、青い制服越しでも起伏がハッキリと分かる。

 

「別に平気」

 

上官と視線を合わせることもなく、ラウラは素っ気無い口調で短く返す。

基本的に無口無表情で感情が読み難く、取っ付きにくい印象を周りに与えるラウラだが、仲間達との交流を経たおかげで最近は随分と話し易くなってきた。

今の対応も一見無愛想そうに見えるが、オストマルクウィルマの声音には以前は無かった感情の色が確かに滲んでいる。

 

「お腹空いちゃったわね~……早く皆と合流してカフェで夕食を頂きたいわ」

 

角丸の言葉にラウラは無言で、しかし強く頷いた。当初の予定では、引き継ぎを終わらせ次第カフェで席を取っているであろうワイト島分遣隊の仲間達――ウィルマ、アメリー、フランの3名と合流するはずだった。

しかし、扶桑海軍側への連絡ミス等が原因で、想定していたよりも時間が押してしまい、気が付けば夕食の予定時刻は疾うに過ぎてしまっていた。

もう何時間も前から凄まじい空腹感に襲われている。角丸はともかく、クールな性格に反して部隊内で1番食い意地が張っているラウラには耐え難いことだった。

両手を添えた腹部からグゥ~ッと虫の鳴き声を響かせている彼女を見て、角丸は思わずクスリと笑みを零す。

そのまま通路を進んで行くと、先にある会議室へ入っていく2つの人影を捉えた。

リベリオン陸軍欧州派遣軍総司令官――ドナルド・D・アイゼンハワー元帥と、北アフリカで活躍した元ブリタニア陸軍第8軍総司令官――バーンハード・モントゴメリー大将だ。

見るからに温厚そうなアイゼンハワーに少々……いや、かなり気難しそうな印象のモントゴメリー。印象は違えど、2人はリベリオンとブリタニアの陸軍が誇る戦時下の名将だ。

見ると、彼等の他にも各国の高官達が次々と廊下の奥から歩いて来る。

 

(なるほど、御前会議なのね)

 

豪華過ぎる顔触を遠目で見ていた角丸は、心中で納得する。

今日は各国軍の御偉方が近いうちに実行される予定の大規模反攻作戦や新たに編成される統合戦闘航空団――ガリア防衛を担当する506部隊や欧州上陸作戦を支援する508部隊等――について協議する日だった。

総司令部付扶桑海軍士官等が同僚と話していたのを小耳に挟んでいたが、なるほど議題に相応しい大物ばかりが集まっている。

リベリオン陸軍第8航空軍司令官――ジェイミー・H・ドーリットル中将。

同海軍太平洋艦隊より派遣されている欧州支援艦隊司令長官――レジナルド・スプルーアンス大将。

統合戦闘航空団に派遣されている坂本美緒少佐、竹井醇子大尉、宮藤兄妹等の原隊における上官にして扶桑海軍遣欧艦隊司令長官――赤坂伊知郎大将。

ブリタニア海軍重鎮で、1943年に実施されたガリア上陸作戦にて海上戦力の総指揮官を務めたバートランド・ラムゼー大将。

トレヴァー・マロニー元大将失脚後、同空軍の実質的最高指導者の地位に収まったブリタニア空軍大将――アーチボルト・デッター。

同空軍の新たな戦闘機軍団司令官兼ブリタニア航空ウィッチ隊総監――キース・パーク中将。

ブリタニア空軍戦闘機軍団や第501統合戦闘航空団等と共にグレートブリテン島の防空を担当していたカールスラント空軍第3航空艦隊司令官――フーベルトゥス・シュペルレ元帥。

同空軍ウィッチ隊総監――アドルフィーネ・ガランド少将。自国軍のみならず、連盟空軍内の各国ウィッチ部隊との調整と作戦指導を行っていいる優秀なウィッチで、また教育・開発・作戦立案等多方面で能力を惜しみ無く発揮する才女でもある。

同陸軍のゲアハルト・フォン・ルントシュテット元帥は、カールスラント皇帝――フリードリヒ4世に直言できる数少ない将軍の1人で、43年のガリア上陸作戦において総司令官を務めていた。だが、良くも悪くも保守的な人物だったがために制空権を軽視し、作戦を失敗させている。

その他に自由ガリア軍のトップであるシャルル・ド・ゴール将軍。ガリア派遣予定の扶桑皇国陸軍第2軍司令官。ブリタニアへ亡命していたネーデルラント及びヘルギガ軍代表が1名ずつ出席するようだ。

これだけの面子が一同に介する光景はあまりに壮観で、角丸は我知らず感嘆の声を漏らした。一方で、ちょっとした問題も発生していた。

1階へ向かうには廊下の先にあるエレベーターを使うことが一番手っ取り早いが、そこへ向かうとなるといちいち足を止めて将軍ひとりひとりに挙手敬礼で挨拶をしなければならない。それは少しばかり面倒だ。

また、これ以上の遅刻は散々カフェで待たせているウィルマ達に申し訳ない。

角丸は仕方なく来た道を引き返し、戻ったところにある貨物用のエレベーターを利用することにした。

2人が扉の前に立ったのとほぼ同じタイミングでエレベーターが到着する。

ゆっくりと扉が開かれ、エレベーター内ですし詰めにされた10名程の集団が姿を現した。士官用の制服を着た男性ばかりだが、それぞれが違う服を着用しており、同じ制服はひとりもいなかった。

こんなに大人数が乗っているとは思わなかった。ウィッチでもない男性士官が、他国の軍人とつるんで行動するのも大変珍しい。

角丸は一瞬面食らうも、脇避けて彼等に道を開ける。ラウラと共に挙手敬礼して、相手からの返礼を待つ。

しかし、男性士官等は返礼どころか角丸達と視線を交わすこともなく、足早に去って行った。

 

「感じ悪……」

 

男性達の礼を失した振る舞い。彼等の後ろ姿を睨み付けながらラウラはボソリと毒突く。

角丸といえば。同じく男性達に目を据えているが、ラウラとは異なり訝しがっている様子だ。

 

「隊長?」

 

「…………何であの人達。司令部内で短機関銃なんて持ってるのかしら?」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、グラーフ・ツェッペリン艦内――

 

――聞こえる。

 

遠い意識の中で、“彼”は知覚していた。自分が大型空母と呼ばれる敵の兵器に囚われていることを……。

戦闘のダメージで一時期な機能不全に陥っているものの、意識は保たれたまま。人間が見るという夢の中でさらに夢を見ているように薄ぼんやりとしている。

その感覚があまりに心地好く、眠ってしまおうかとさえ考えてしまう。

格納庫に拘束されている身体に数名の人間が取り付いている。周辺には短機関銃で武装した兵士が数十名。緊張した主もで“彼”の様子を警戒していた。

どうやら完全に動きを封じようと、特殊な術式が施された聖銀製の槍で突き刺す腹積もりらしい。

 

――甘い。

 

もし“彼”に表情があれば、愉悦に塗れた凶暴極まりない笑みを浮かべていたことだろう。

人間達は完全に油断していて気付けなかった。沈黙している様に見える“彼”は、秘かに自己修復を行っていたのだ。

 

――触るな!虫ケラ共!

 

次の瞬間。“彼”は頭部のバイザーから妖しい光を放った。緩慢な動きで身体を動かし、自分を拘束しているワイヤーネットを引き千切ろうとする。

突然のことに、人間達はたじろぐように身体を硬直させる。兵士達が反射的に銃口を構える。だが、そんなものでは“彼”を止めることは叶わない。

ワイヤーがプツンと音を立てて次々と千切れていき、やがて“彼”は拘束から完全に抜け出した。

“彼”は己の両腕を拡げるように掲げ、恐怖で慄く人間達――“彼”が言うところの虫ケラ達――へ複数のビーム砲を向ける。眩い閃光が一斉に放たれ、瞬く間に格納庫を焼き尽くした。

帝政カールスラント皇室親衛隊旗下の大型航空母艦グラーフ・ツェッペリンは、内部が破壊から大爆発を起こして大破・炎上。黒鉄の船体が北海へ沈むのに長い時間はかからなかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

紆余曲折を経て北海洋上に集結していた連盟空軍第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』及び帝政カールスラント皇室親衛隊第1独立戦闘航空団『インペリアルウィッチーズ』。

これらに属する総勢21名のウィッチ・ウィザードは、空中に佇んだまま眼前に広がる光景のある一点を呆然と見据えている。

航空歩兵達の双眸に映るのは、黒煙を噴きながら燃え盛る赤城型航空母艦“グラーフ・ツェッペリン”の艦影。

炎上しながらも、しばらくは海上に浮かんでいたグラーフ・ツェッペリンだったが、やがて力尽きたかのように海中へ沈んでいった。

乗員等が脱出した様子もない。おそらく艦長をはじめ誰1人として助かってはいまい。

501メンバーは、司令のミーナを含める全員が混乱していた。負傷者を収容したと説明された親衛隊旗下の空母から突然爆音と火柱が上がり、海中へ没していったのだ。無理もない。

一方、インペリアルウィッチーズ司令の悠貴・フォン・アインツベルン。そして、彼女旗下の親衛隊ウィッチ隊は空母沈没の原因を理解していた。

一度は捕獲に成功したと思っていたネウロックが意識を取り戻し、中からグラーフ・ツェッペリンを破壊したのだろう。

もっと徹底的に痛めつけた上で拘束するべきだった。あと一歩のところで獲物を逃がしてしまった。作戦は失敗したのだ。

間も無く檻から逃げ出した獣が、牙を剥いて復讐しにくるだろう。凶暴性を一層増して……。

親衛隊ウィッチの何人かが顔面蒼白となり、カタカタと身体を震わせた。

彼女等とは対照的に喜色に満ちた笑み浮かべるウィッチが1人――悠貴である。

インペリアルウィッチーズの司令は、想定外を通り越して危機とも形容出来るこの事態を心から楽しんでいるのだ。

容易く手に入るような三流品には興味がない。人材も物もネウロイも、相応の難易度があってこそ手にする価値がある。それが悠貴・フォン・アインツベルンの持論だ。

それは逆に言えば、簡単に入手出来るものには然して魅力を感じないということであり、一定の刺激を求めているとも受け取れる。

悠貴は艶やかな唇を軽く舐めずりし、いつでも抜刀可能な状態で白木拵えの扶桑刀を構え、ネウロックの襲撃に備える。だが予想に反し、洋上に姿を現したのはネウロックではなかった。

より巨大で、より重々しく、より禍々しく、より凶暴で恐ろしげな怪物。それは歪な唸り声で大気を振動させながら海原を割るようにして姿を現した。

 

「そんな、まさかっ!?」

 

予期せぬ異形の出現にミーナは目を見開きながら、震える声で呟く。

海面から浮上する巨大な鯨を連想させるそれはまさしく、ネウロイと化した大型航空母艦。かつての赤城と同様ネウロイに侵食され、船体を取り込まれたグラーフ・ツェッペリンの変わり果てた姿であった。

 

「な、何ですの!?あれは……」

 

「まさかグラーフ・ツェッペリンが……」

 

ペリーヌとバルクホルンも動揺を禁じ得ない。人類側の兵器がネウロイに乗っ取られ、敵の手に渡ってしまった。最悪の事例が自分達501の眼前で二度繰り返されたのだ。

 

「赤城の時と、同じだ……」

 

再び相見えた強敵を見据え、芳佳は恐怖で凍り付きながら漫然と呟く。

彼女の言葉通りなら、ネウロイ――インペリアルウィッチーズの手で北海へ没したネウロックが、報復として海中よりグラーフ・ツェッペリンを攻撃・撃沈。同艦と合体したことになる。

 

「……いや、同じじゃない」

 

501メンバーの中で比較的動揺の少なかった優人が独り言ちる。

目の前の敵は、確かに赤城と同じくグラーフ・ツェッペリンがネウロイ化したものだ。しかし、武装面で差異が存在した。

砲台の数が明らかにネウロイ化以前よりも多い。対空砲に単装砲も数割り増しとなっており、それらとは別にサーニャのフリーガーハマーを巨大化させた多連装ロケット砲らしきまで追加させていた。当然、ネウロイの主兵装――ビーム砲として機能する赤い装甲も多数見られる。

特に目を引くのが、艦首部分に1門のみ搭載された大型固定砲台。赤城の時はコアが抜け――巨大化したコアがウォーロックから赤城の艦内へ移動したため――て、文字通り脱け殻となったウォーロックが鎮座していたが、グラーフ・ツェッペリンにはカールスラント製の列車砲と見間違うほど巨大且つ大口径な砲台が屹立している。

砲台類の増設で、グラーフ・ツェッペリンが従来の大型空母……いや、戦艦クラスのとは比較にならない火力を得ているであろうことは想像に難くない。

これらが一斉に火を噴けばハリネズミの如き弾幕が形成され、近付くことすら困難になる。

大型砲台に至っては、大口径に見合うだけの凄まじい破壊力を備えているに違いない。そう思うと、全身に戦慄が走った。

 

「あっ、ネウロイが!」

 

リーネの叫び声に耳朶を打たれ、ハッと我に還った優人は改めてグラーフ・ツェッペリンへと目を向ける。

ネウロイ化した大型航空母艦の艦首部分先端にコアから送られたエネルギーが集中し、砲台が煌々と輝いていた。

艦首に固定されている砲台を、砲塔のように旋回させることは出来ない。目標に狙いを定めて砲撃・破壊するならば、砲台を船体ごと向ける必要がある。

しかし、赤い光が漏れ出でいる砲口は優人達501にも、インペリアルウィッチーズ等親衛隊にも向いていなかった。

 

「――っ!?あの方角は!?」

 

ネウロックに支配されたグラーフ・ツェッペリンが何を狙っているのか。優人がその意図に気付いて間を置かず、大型砲台から巨大な光芒が迸る。

今まで一度も目にしたことが無い大出力の光軸が彼方へと飛来していく。その様を目にして、扶桑海軍ウィザードの表情は一気に青ざめた。

圧倒的な破壊力を持った眩い光の濁流が尾を引きながら向かう先には、洋上を遊弋する二隻の大型航空母艦。

そしてリベリオン、ロマーニャ、北欧から501へ派遣されている4名の航空ウィッチ――母艦直掩組の仲間達がいるのだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、天城及びドクトル・エッケナー――

 

「みんなぁ!逃げろぉおおお!」

 

迫り来る脅威に一足早く気づいたのは、『未来予知』の固有魔法を駆使するスオムス空軍トップエース――エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉だった。

声を張り上げ、同じ母艦直掩組に割り当てられた3人の仲間と自分が護衛する2隻の空母へ危機を報せる。

 

「え?」

 

「エイラ?」

 

「うじゅ?」

 

直掩組の実質的指揮官であるリベリオン陸軍大尉――“シャーリー”ことシャーロット・E・イェーガーをはじめとする3名――他2名はロマーニャ空軍少尉のフランチェスカ・ルッキーニとオラーシャ陸軍中尉の“サーニャ”ことアレクサンドラ・ウラジミーロヴナ・リトヴャク――のウィッチは、何事かとエイラを振り返る。だが、彼女達がエイラの言った意味を理解するのに時間はかからなかった。

インペリアルウィッチーズの支援に向かった仲間がいるであろう遠方の主戦場に突如光点が生じた。それは瞬く間に光の大河へと成長し、凄まじい衝撃と圧迫感を伴って直掩のウィッチ達と臨時編成の空母機動部隊に襲いかかる。

彼方より飛来した光芒は直撃こそしなかったものの、まるで海面を抉るかのように着弾し、洋上を並走する天城とドクトル・エッケナーの間に中性の城壁を想わせる巨大な水柱を起こした。

穏やかだった海原が荒れ出し、発生した大波が着弾時の衝撃と共に二隻の航空母艦を煽り立てる。

天城及びドクトル・エッケナーの乗員達からすれば晴天の霹靂と呼ぶ以外にない事態だった。艦長が指示を出す間も無く、膨大な熱量の光が船窓を埋め、轟音と激震が船体を揺さぶった。

固定されてない物は全て弾け飛び、片舷から反対側まで突き抜けた衝撃があらゆる艤装を軋ませる。

艦内のあちこちで物品が乱舞し、通路や扉がみしみしと不気味な音を立て、割れ残った蛍光灯が明滅する。

乗員達のうち移動中だった者は通路の壁に叩きつけられ、格納庫内で整備作業を行っていた整備兵達や機械工具・部品が飛び交い、砲術要員は砲座から放り出され、飛行甲板で待機していた者達は海へと投げ出される。

乗員約2000名の悲鳴と怒号が混乱錯綜する各艦内だったが、ミーナ中佐から二隻の直掩を任されていたウィッチ達にも艦に劣らぬ被害が出ていた。

シールドの展開も叶わなかったシャーリー達4名のウィッチは直撃こそ免れたものの、ビームの余波を諸に受け、空中でバランスを崩してしまう。

このままでは墜落する。立て直そうにもストライカーユニットが故障してしまったらしく、思うようにいかない。

不幸中の幸いか。4人が落ちた先は海面ではなく天城もしくはしドクトル・エッケナーの飛行甲板だった。

まともな着艦が不可能な状態ではあったが、接触する直前にシールドを展開して――ルッキーニのみ先に落ちたシャーリーの豊満な乳房をクッション代わりにして――墜落時の衝撃を緩和したため、直掩組のウィッチに怪我人はいなかった。

 

「う~……シャーリー、ありがと~」

 

「ど、どういた……うわっ!?」

 

辛うじて天城へ着艦したロマーニャの仔猫と爆乳リベリアンだったが、波に揺さぶられる空母の船体は彼女等に息吐く暇を与えない。

それはドクトル・エッケナーへ着艦した北欧組の2人も同様だ。

状況が落ち着くまでの数分間。4人のウィッチは波に煽られる空母から振り落とされまいと、必死に甲板にしがみ付いていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

ネウロックに取り込まれ、超大型ネウロイと化したグラーフ・ツェッペリン。

人類の元を離れ、ネウロイ側の新たな戦力として生まれ変わった大型航空母艦は、総勢20名を越える航空歩兵を己に近付けまいと、弾幕射撃を展開する。

それはまさに豪雨だった。無数砲台が明滅する度、夥しい数の光矢が、ウィザードとウィッチーズ目掛けて降り注ぐ。

群れを成して押し寄せる雨滴の一粒一粒が凶暴な破壊力を有しており、周囲を飛翔するストライクウィッチーズ及びインペリアルウィッチーズを翻弄していた。

精鋭を揃えているはずの両者が防戦一方。光の豪雨の中に安全圏を求め、必死に逃げ惑っている。

 

「クソっ!」

 

優人は悪態を吐きつつ歯噛みする。規格外の大口径砲で臨時空母部隊を砲撃したかと思えば、今度は厚い弾幕を形成。隙の無い対空防御で自分達を近付けまいとしている。

今のところは501にも親衛隊にも死傷者は出ていなかった。全員が魔力シールドを展開し、己に群がってくる光条から懸命に身を守っている。

もしくは、他の航空機には無いストライカーユニットの強み――高い運動性能を駆使し、回避行動を繰り返していた。

航空歩兵等を仕留め損ねた光槍の群れが、次々と海面へ突き刺さり、多数の水柱を立てている。

 

(芳佳は!?)

 

厳しい状況下において。扶桑海軍ウィザードが真っ先に考えたのは、やはりというか最愛の妹のことだった。シールドで身を守りながら周囲を見渡し、芳佳の姿を探す。

西の空へ傾いていた陽は殆んど沈み掛けており、北海洋上に夜の帳が下り始めている。その上、水飛沫と光条のせいで視界が利かない。

それでも優人は必死に視線を走らせ、芳佳の姿を必死に探し求めた。

 

(何処だ!何処にいるんだ!?)

 

胸中に不安と焦燥が滲んでいるが故、優人の視野は急速に狭まってしまっていた。

落ち着いて探せばすぐに見つかるはずの妹の姿を中々捉えられずにいる。

 

『戦闘中の501各員へ!』

 

ふと声楽家を想わせる澄んだ、それでいて凛々しい声音がインカム越しに伝わってくる。501部隊司令――ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の声だ。

 

『全員無事ね?501はこれより撤退!殿は私と宮藤大尉務めます!ペリーヌ隊より順に戦闘空域を離脱してください!』

 

『撤退だと!?』

 

ミーナの命令に続いて、異を唱えるかのような怒声が響いてきた。ミーナより若干低めな印象を受ける声の持ち主はゲルトルート・バルクホルン大尉だ。

 

『たった今、インペリアルウィッチーズのアインツベルン大佐から指示が来たのよ!戦況は不利!現状の戦力で対処出来ない以上、撤退も已む無し……と!』

 

『ちょっと待て!何だそれは!?』

 

バルクホルンの苛立たしげな口調から、優人は彼女の心中を察していた。

確かに501も親衛隊も、これまでの戦闘で魔力や弾薬、ストライカーの燃料を著しく消耗していた。

現状で超大型ネウロイと化したグラーフ・ツェッペリンに応戦したところで全滅は必至。ならば一度引き上げて態勢を立て直した上で、再度挑むべきだろう。

悠貴の下した判断は、戦況に即した妥当なものであった。政治屋嫌いのバルクホルンとて従うことだろう。インペリアルウィッチーズ司令を含む親衛隊が、501部隊と竹井醇子扶桑海軍大尉を置いて、一足早く離脱していなければ……。

そう。インペリアルウィッチーズの面々は、501がグラーフ・ツェッペリンの気を引いているうちに逃げ果せていたのだ。

 

『文句なら後いくらでも聞くわ!今は撤退よ!さぁ急いで!』

 

有無を言わせぬミーナの語勢に気圧され、バルクホルンは『ぐっ!』と悔しげに呻くも、命令には従って後退を開始する。

彼女と彼女の2番機であるハルトマンの傍らに、優人は見失っていた芳佳の姿を漸く認めた。

猛攻に晒されてグッタリしていたものの、怪我やストライカーの損傷等は見受けられず、飛行にも支障は無さそうだった。扶桑海軍ウィザードはホッと安堵する。

 

「優人!」

 

いつの間にか。ミーナがインカム無しで会話が可能なほど近くまで来ていた。

グラーフ・ツェッペリンを正面に見据え、愛用するMG42を射撃位置に保持する。

 

「あの娘達が安全圏へ離脱するまでネウロイを食い止めるわよ!ただのスケベじゃないってところを見せなさい!」

 

「あ、ああ……」

 

出撃前のブリーフィング時辺りから、ミーナはなにやら不機嫌になっていた。

やっと口を聞いて貰えたかと思えば、激励とも嫌味とも分からない言葉を掛けられ、優人は少しばかり当惑する。

しかし、優人はその感情をすぐさま心の隅へと追いやると、ミーナに倣ってS-18対物ライフルを構える。

グラーフ・ツェッペリンは不気味な唸り声を上げ、全ての砲門を2人に向けていた。

 

「申し訳ないけれど、ここを通す訳にはいかないのよ」

 

「怪物が!お前に501の長男役と母親役の底力を見せてやる!」

 

グラーフ・ツェッペリンを睨め付けながら、カールスラント空軍中佐が独り言ちる。

扶桑海軍大尉も彼女に続いてネウロイと化した空母へ啖呵を切った。

 

「…………私は、あんなに大きな子どもがいる年齢じゃないわ」

 

「………………」

 

射るような鋭い視線を横から向けられ、優人は冷や汗を掻く。

ミーナの眼差しは「次そんなこと言ったら、後ろから撃つわよ」と言外で忠告――もしくは脅迫――しているように思えた。

 

「…………なぁ」

 

横目で睨まれる状況に耐えかね、優人は強引に話題を変える。

 

「何で俺を残したんだ?バルクホルンやハルトマン、竹井でも良かったんじゃないか?」

 

「あら、不服?」

 

「素朴な疑問だよ」

 

「504部隊に着任予定の竹井大尉に無茶はさせられないわ。トゥルーデとエーリカには、芳佳さん達を天城まで送り届けて貰いたかったのよ」

 

ミーナの簡潔な説明を受け、得心がいったらしい。優人は「なるほどな」と呟く。

 

「おしゃべりは終わりよ。来るわ」

 

「みたいだな……」

 

端的な会話を挟み、2人はチラッと背後を振り返る。仲間達の戦域離脱を見届け、再び視線をグラーフ・ツェッペリンへ戻した。

間も無く、紅蓮の光芒と魔法力の蒼い光を帯びた銃弾が飛び交い始める。そして、その日。優人とミーナが天城へ帰還することはなかった。




各国の将軍達を出しましたが、実在の人物をモデルにしているキャラクターは、原作アニメに倣ってファーストネームを変えております。

一部(ド・ゴール将軍やパーク中将)はいらん子中隊とノーベルウィッチーズに倣ってそのままですが……


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