ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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ストパン世界の山本五十六、南雲忠一、山口多聞の3人ってどうなってんだろう(´・ω・`)?

あと、パットンはいつ頃アフリカから欧州へ移動した?


第20話「帝政カールスラント皇室親衛隊西方装甲軍」

1944年9月、西欧・ブリタニア連邦首都ロンドン――

 

ロンドンに置かれた人類連合軍西部方面統合軍総司令部。その会議室の1つでは、各国より連合軍へ派遣されている15名の将軍・提督が一同に介していた。

出席者の多くは西欧戦域を担当する連合軍部隊の司令官だった。左右に別れて会議用テーブルに着き、ギラリと鋭い光を宿した双眸で自分以外の出席者を睨むように見据えている。

何れも各国軍の重鎮であり、本大戦において多大な武勲を上げた名将ばかりだ。しかし、その優秀さの反面。一癖も二癖もある難儀な人物も少なくない。

北アフリカにて、ブリタニア陸軍第8軍を指揮していたバーンハード・モントゴメリー大将は激しやすい性格で知られ、カールスラント空軍航空ウィッチ隊総監のアドルフィーネ・ガランド少将も、現役時代は上官の言うことを中々聞かない跳ねっ返りだったそうな。

第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』の活躍によってガリア上空に浮遊していたネウロイの巣が消滅。同国は解放され、反攻の一大拠点であるブリタニアへの圧力も大幅に低下した。

これを機と見た西部方面統合軍は、すぐさまガリアへの逆上陸作戦を実施。リベリオン陸軍第1軍とブリタニア陸軍第2軍を中心とした陸軍の他。カールスラント軍や扶桑皇国海軍を沿岸地域へ展開させる。

余談だが、扶桑海軍の戦力はその殆んどが赤坂伊知郎大将麾下の遣欧艦隊。今次艦隊の編成は第二航空戦隊――蒼龍型航空母艦1番艦“蒼龍”と2番艦“飛龍”の2隻で構成される――を中核とし、高速戦艦筑波型4隻擁する第三戦隊。重巡洋艦“利根”及び“筑摩”属する第八戦隊。その他、多数の駆逐艦を動員した大艦隊である。

赤坂が会議に出席するため、現在の艦隊指揮は第二航空戦隊司令官の岾口多聞中将に一任されていた。

 

(やれやれ……)

 

張り詰めた雰囲気と煙草の紫煙で満たされた室内の空気に嫌気が差し、ガランドは心中で嘆息する。

政治的立ち回りに長けながらも、前線に出ていた頃から現在の地位に至るまで現場主義を貫いてきたガランドからすれば、このような場所はいるだけで耐え難かった。

ネウロイの活躍が鈍くなる冬の到来を待っての全面的な欧州反攻作戦を唱える連合最高司令部の意を受け、西部方面総司令部の赤坂達も西欧方面今後を話し合うために集まっている。

しかし、いつものことながら会議の進行状況は芳しいものではなかった。

反攻作戦の一環として第506及び508統合戦闘航空団の設立。各戦線の統合戦闘航空団を侵攻用部隊へ再整備等も議題として上がっているのだが、解放後のガリア防衛と西からのカールスラント奪回を担当する予定の506部隊設立については、以前から各国――特にブリタニア、リベリオン、ガリアの意見が折り合わず、設立が決定した時点で早くも前途の多難を思わせるものがあった。

ガリア首脳部が提示した『各国の貴族出身者のみで部隊を編成する』という条件が裏目に出てしまい、人員選定は難航。

人員の選定が遅々として進まない事に目を付けたリベリオン政府は、連合国内の発言権増強を計って自国のウィッチを参加させるよう要請。それに対し、ブリタニアが強硬に反対。結果、ブリタニア連邦とリベリオン合衆国の対立を表面化させることとなってしまい、連合軍内で新たな不協和音が生まれる。

眼前では、ブリタニア空軍の将官等とリベリオン陸軍の航空軍司令官が唾と怒号を飛ばし合い、祖国奪回の悲願に燃えるガランド達カールスラント軍将官一同を辟易させていた。

確実に本国をネウロイの支配から解放するには、統合戦闘航空団を含めた各方面の戦力を一斉に投入する必要がある。西側からの侵攻を担当する506部隊の設立で躓いている場合ではないのだ。

 

(ぎゃーぎゃーと、感情任せに喚き散らして。いい歳した大人がまるで子どもだな……)

 

大仰に肩を竦め、ガランドは呆れ果てた態度を隠そうともしないから

戦果はもちろんだが、こういった会議の行く末もまた自分や自分の指揮する軍の連合軍内における立場を左右し、愛する祖国が戦後に示せる影響力も違ってくる。

だからこそ自然と熱も入るのだろうが、ハッキリ言って子どもの喧嘩だ。子どもの喧嘩は大人がやると非常に質が悪い。

さらに北アフリカ戦線から西部戦線へ異動してきたモントゴメリー大将の存在が、会議の進行を余計に停滞させていた。

モントゴメリーはネウロイの活躍が以前に比べて沈静化している今こそ、総攻撃の準備としてライン川空挺突破作戦を実施するべきだと声高に主張している。

一方、リベリオン陸軍欧州派遣軍総司令官――ドナルド・D・アイゼンハワー元帥は、西部方面統合軍のみならず、東部方面統合軍や地中海方面統合軍の3個総軍を以て同時に攻勢をかけることこそが妥当であると主張し、双方の意見は平行線を辿っていた。

モントゴメリーの激しい性格は、過去に幾度も連合軍で亀裂を生じさせたが、今回に限っていえばこの会議室にリベリオン陸軍第3軍司令官のジェラルド・S・パットン中将やカールスラント陸軍アフリカ軍団長のエルンスト・ロンメル元帥の2人がいないだけマシだろうか……。

3人共、北アフリカ戦線で活躍した名将なのだが、場を弁えず喧嘩になる程仲が悪いことで有名だった。彼等がこの場に揃った状況など想像もしたくない。

順調とは言い難い会議はなんとか進み、上述の2つの議題――506の人員選抜とライン川空挺突破作戦については取り敢えず保留となり、次に赤坂が口火を切る形で508部隊に関する協議が始まった。

当部隊は欧州における上陸支援を主任務とする部隊で、扶桑皇国海軍の第五航空戦隊と、リベリオン海軍の第16任務部隊を中心として結成された。地上基地を持たず、空母を暫定的な基地とするウィッチ部隊である。

通常、統合戦闘航空団の設立には5箇国程度からウィッチないしウィザードが参加している必要がある。なので、五航戦と16任務部隊だけでは人員規定に達していないことになる。

しかし、世界三大海軍と名高い扶桑とリベリオン、ブリタニアの海軍以外の国において、海上航法が可能なウィッチは殆んどいなかった。

それでも、高い機動力を持つ新部隊の設立はなんとしても実現しなくてはならない。反攻作戦成功の為にも……。

起立して統合戦闘航空団を航空戦力とする空母機動部隊の運用思想を、涼やかな声音ながら熱く語る扶桑海軍大将へガランドは目を据える。

赤坂伊知郎は、扶桑皇国海軍遣欧艦隊の司令長官であり、扶桑海軍屈指の航空歩兵主兵論者でもある。508航空団設立に対する想いは、この会議に出席しているどの将官よりも強い。

それは、遥か遠方の太平洋方面総司令部から、同じくウィッチと空母機動部隊の有用性を理解しているスプルーアンス大将をわざわざ呼び寄せたことからも窺える。

ガランドは、連合軍及びカールスラント軍にて重要なポストについていながら上層部の人間達が好きではなかった。

上層部の大多数が頭が硬くて融通の利かず、時に利権絡みで足の引っ張り合いも辞さない上に、現場で戦うウィッチを含む兵達を省みない厄介な年寄り共で占めている。

連中ら、現場のいち航空歩兵から航空ウィッチ隊総監へと急速に成り上がったガランドが最も嫌悪するタイプだ。しかし、何名かの将官。特に赤坂伊知郎に関して言えば、少々印象が異なっている。

赤坂の名は、扶桑海軍事変に観戦武官として参加した折りには既に聞いていた。

事変当時、ガランドはまだまだ現役バリバリの航空歩兵で年齢16歳。階級は大尉。赤坂は海軍省勤務の大佐だった。

当時の扶桑海軍は航空歩兵の有用性が証明されておらず、ウィッチやウィザードへの風当たりは今以上に強かった。

そんな状況下。後に初代遣欧艦隊司令長官となる山本五十八――当時の階級は中将で、役職は海軍次官兼海軍航空本部長――と共にウィッチを含む航空戦隊の有用性にいち早く着目し、竹井少将等の助力を得て海軍ウィッチ部隊創設に尽力した。

当時から頑固で保守的な上層部に悩まされていたガランドには、ウィッチ・ウィザードに好意的で先進的な思想を持つ赤坂に対する印象は悪くなかった。

 

「508航空団設立に当たりましては。まず我が扶桑海軍第五航空戦隊とリベリオン海軍の第16任務部隊、そしてブリタニア海軍から大型空母と艦上ウィッチを提供。オラーシャ及びカールスラントより参加を希望するウィッチの教育をリベリオンにて実施し、将来的に部隊へ配属。その他の海軍からも、空母三隻護衛の役割を果たす艦艇を提供して頂きたく――」

 

――ドンッ!

 

本会議の為に用意した手元の資料を饒舌な口調で読み上げる赤坂の言葉は、乱暴な動作で扉を破る音により唐突に遮られた。

会議の終了まで扉の開閉は固く禁じてある。それがノックの代わりに扉を壊さんばかりの強さで開かられた。赤坂もガランドも、他の将官達も何事かと戸口に目をやる。

顔を振り向けた一同の視界に映ったのは、ぶち破った扉を潜って無遠慮に会議室内へ入ってきた青年士官らしき一団だった。

人数は10名前後。まだあどけなさが残る顔立ちに鋭さを湛えている。或いは各国軍の将軍・提督達と相対するが故に虚勢を張っているのか。

全員が小銃や機関銃より取り回しが利く短機関銃を手に携え、士官用の制服に身を包んでいる。だが、肩章等階級を示すものは見当たらない。

制服服や銃器も、それぞれが異なる軍ものを使用している。

カールスラント空軍の制服にリベリオン軍のM1A1トンプソン。カールスラント製のMP40短機関銃に扶桑海軍の第一種軍装。扶桑の陸海軍で採用されている一〇〇式機関短銃にリベリオン海軍の制服。スオミM1931短機関銃にヴェネツィア海軍の制服。ブリタニア軍で使用されいるステン短機関銃にスオムス陸軍の制服等々。制服と銃が国籍バラバラに組み合わされているのだ。

10名の内、2人が東洋系――おそらくは扶桑人――。その他全員が西洋系――北欧系1人、南欧系3名を含める――だった。

 

「な、何だ君達はっ!?」

 

モントゴメリーが床を蹴って立ち上がり、無礼な乱入者達を怒鳴り付ける。

 

「会議中に失礼」

 

自由ガリア空軍は制服を着たリーダー各らしき西洋系の女性――女は彼女のみ――が、憤慨して吼えるモントゴメリーを悠然と受け流し、己に突き刺さる複数の視線をひと声で振り払う。

また、彼女が右手を掲げて合図を送ると、青年達はすぐさま2手に別れた。

片方のグループは将官達の背後へ素早く移動し、短機関銃の銃口を突き付け、もう片方のグループは扉を閉ざし、そこへ椅子等の備品を積み上げてバリケードを構築する。出入口は塞がれてしまった。

 

「各国陸海軍の将軍並びに提督の皆々様方には、少々お時間を頂きたいのです。指示に従って頂けるのであれば、危害は加えません」

 

「時間?」

 

アイゼンハワー元帥が片眉を上げ、怪訝そうな声色で聞き返す。「ええ」と頷く女性は、親子程も歳の離れたリベリオン陸軍元帥へ艶然と微笑みかけた。

 

「ほんの数日程」

 

「………………」

 

ガランドは椅子に着席したまま、冷静に乱入者達を監察する。

ヒスパニア戦役、扶桑海事変、本世界大戦。数々の戦場を渡り歩いてきた彼女は、ちょっとやそっとのことでは動じない。

しかし、人間に銃を向けられている今の状況は青天の霹靂と言うべき出来事。困惑を覚える反面、会議で鬱屈していた心に刺激という名の潤滑油を与えられ、不謹慎ながら多少機嫌を良くしていた。

 

(被害者の立場で“籠城事件”を経験することになるとは……中々レアな体験だ)

 

そう心の中で呟き、ガランドは自嘲気味な笑みを口元に浮かべる。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

約20分後、グレートブリテン島のとある駐屯基地――

 

連合軍西部方面統合軍に参加しているのはリベリオン軍やカールスラント軍等の正規軍だけではない。帝政カールスラント皇室親衛隊も、西部戦線の主要戦力として数えられている。

ブリタニアに駐留する皇室親衛隊の主力は、ヨハンネス・ディートリヒ上級大将率いる親衛隊西方装甲軍。親衛隊第1装甲軍団及び第2装甲軍団から成り、陸戦ウィッチや最新鋭の装甲脚及び戦車を多数保有する“軍”単位の機甲部隊だ。

 

「籠城?」

 

西方装甲軍司令官執務室。執務机の椅子に深く腰掛けたディートリヒは、のんびりとした口調で報告を繰り返す。

執務室内には彼の他に親衛隊将校が3人。西部方面総司令部の状況を報告した女性秘書官がディートリヒの傍らに控え、マホガニー製の執務机の向こう側には2名の親衛隊将官――ゲラルト・ケプラーと、ヴィルフリート・ビットリヒが並んで立ち、カールスラント人男性らしからぬ小柄――身長158cm――な上級大将殿と向き合っている。

ケプラーとビットリヒは、それぞれ第1、2装甲軍団軍団長を務める親衛隊大将である。

余談であるが、ビットリヒは昇進の上ノイエ・カールスラント防衛軍集団司令官の任を命じられた前軍団長――パトリック・ハウサー上級大将の後任として、1ヵ月半程前に第2装甲軍団の新らたな軍団長となっていた。

 

「西部方面総司令部の会議室でかね?」

 

「現在、西部方面総司令部に参加している主立った将官が正体不明の武装集団に捕らわれており、ブリタニア軍と我がカールスラント軍の憲兵隊が合同で対処に当たっております」

 

「人質となった連合軍将官の中には、我が陸軍のゲアハルト・フォン・ルントシュテット元帥。空軍のフーベルトゥス・シュペルレ元帥。さらにガランド少将も含まれているようです」

 

他人事のような物言いで、ケプラーとビットリヒが順に告げる。

謎の武装集団が西部戦域の最重要拠点に侵入し、挙げ句各国から西部方面へ派遣されている将軍達を人質に立て籠っている。

迅速な対応が求められる緊急事態にして、誰もが予想し得なかった異常事態だ。或いは、予想出来ていたはずなのに見ないようにしていたか。

ネウロイばかりが武器と敵意を向けてくる思い、同じ人間から弓引かれるなどありえない。

そう結論づけ、今回のような事件が起こりうる可能性を否定し、結果足元を掬われたとの見方も出来る。

だが奇妙なことに。ディートリヒ、ケプラー、ビットリヒの3人からは驚愕や動揺、焦燥等は一切感じられない。

2人の親衛隊装甲軍団長は淡々とした口調で籠城事件発生の事実を告げ、上級大将は悠揚迫らぬ態度で彼等から報告を受けている。

まるで、西部方面総司令部で事が起きるのを“予め知っていた”かのように……。

 

「……となれば、今の西部方面総司令部に西部方面統合軍の指揮は執れないだろう。早急に指揮権を別の場へ移す必要があるな」

 

と、ディートリヒが本のページを一気に飛ばしたような話題を振る。

籠城事件の被害者――連合軍将官等の安否。総司令部会議室内に立て籠った武装集団の正体。籠城犯達の要求及び目的。西部方面総司令部付憲兵隊の対応等。

それらを脇に置き、早くも指揮権限の移譲については話を進める腹積もりなのだ。

 

「ええ」

 

ビットリヒが首肯すると、ディートリヒは左手の秘書官へ視線を走らせる。

落ち着きを払った親衛隊将官等とは異なり、女性秘書官は金髪慧眼の美貌に当惑の色を滲ませていた。

 

「すぐに西部方面統合軍全軍へ通達してくれ。西部方面総司令部に現在指揮能力無し、只今を以て我が皇室親衛隊西方装甲軍司令部が臨時方面総司令部として機能する、とな……」

 

「は、はぁ……」

 

将官の秘書官らしからぬ気の抜けた返事。彼女が呆けたような声を返したのは、ディートリヒの指示に疑問と戸惑いを抱いたからだ。

下士官上がりのディートリヒは、親衛隊上級大将という極めて高い地位にありながら、士官としての専門教育を受けていない。なので、軍人としての能力はお世辞にも高いとはいえない。

上官を見くびるようだが、秘書官には眼前の小男に西部方面統合軍を指揮出来るとは思えなかった。

以前、会談したリベリオン軍の将校も、作戦行動に関する極めて一般的な知識すら持ち合わせていないディートリヒに対し、呆れ返っていた。

そんな男が受章・昇進を受け続けたのは、部下の将兵達からの絶大な人気があり、尚且つカールスラント皇帝――フリードリヒ4世や行政指導部宰相――ハインリヒ・ルイトポルト・アインツベルンからの信頼が厚かったからだ。

だが、今回ばかり事情が異なる。今までは指揮していた部隊の殆んどが皇室親衛隊麾下の戦力――時折カールスラント国防軍の部隊も指揮下に入っていた――だったが、今回は西部方面統合軍へ派遣されている各国正規軍の部隊を一時的とはいえ隷下へ加えることになる。それも独断でだ。

各国から非難された場合、どのように対処するつもりなのか。皇室親衛隊隊を快く思わない一部のカールスラント国防軍将軍達に付け込まれたりしないか。組織の存続に関わるのではないか。

ディートリヒの能力面以外にも、様々な不安要素が浮かび上がり、秘書官の胸を押し潰さんとする。

 

「失礼ながら閣下。我が方の軍警察師団を憲兵隊の増援として派遣されてはいかがでしょう?」

 

秘書官が進言すると、ディートリヒ及び2人の軍団長が一斉に目を向けてきた。ナイフの如き鋭い視線が、威圧するように秘書官へ集中する。

 

「も、申し訳ありません!」

 

自重を促されたと思ったのか。秘書官はすぐさま頭を下げて謝意を述べる。

 

「いや、構わんよ。そのように手配してくれたまえ」

 

「は、はい!」

 

上級大将殿の柔和な笑顔を見て、秘書官はホッと安堵する。上官達に向けて挙手敬礼をした後、彼女は辞去していった。

秘書官を見送ったディートリヒは、椅子により楽な姿勢で座り直し、フゥと短く溜め息を吐く。

 

「……さぁて、お膳立てはした」

 

その言葉は、ケプラーに向けたものでもなければ、ビットリヒに向けたものでもなかった。

 

「あなたの目的を果たして頂こうか。アインツベルン大佐」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、北海洋上――

 

味方の殿を務める扶桑海軍航空ウィザード――宮藤優人大尉は、S-18対物ライフルを射撃位置に保持し、続けざまにトリガーを絞った。

対物ライフルの銃口より放たれた魔法弾が、ネウロイ化したカールスラントの大型航空母艦――グラーフ・ツェッペリンの砲台に着弾へ次々と命中する。

長年に渡り厳しい訓練と過酷な実戦を繰り返してきたベテランウィザードの射撃技術は一級品。正確且つ確実に砲の数を減らしていく。

同じく殿を買って出た第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』司令――ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐も、黙って見ているわけではない。

固有魔法『空間把握』を駆使し、敵砲台の位置を目視よりも迅速且つ正確に捕捉。そこをMG42Sで攻撃する。

MG42Sは、カールスラント製のMG42汎用機関銃を航空ウィッチ用に改修したもので、本体の軽量化と発射速度の向上。さらに75発弾倉が使用可能となっている。

各国で採用されている機関銃と比較して、発射速度が遥かに速く、軽量且つ取り扱いも容易で、信頼性も高かった。

7.92mm×57弾を使用するため、優人のS-18対物ライフルに比べると、1発の威力は劣っている。しかし、自慢の高い発射速度によって短時間に多数の銃弾を叩き込めるので、総合的な攻撃力はそこまで見劣りしない。

グラーフ・ツェッペリンとて、ただ的になっているだけではない。全砲門を以て亜高速のビームを放って反撃する。

20mm弾が飛翔、7.92mm×57弾が乱舞し、砲台を撃破していく。だが、向かってくる光条の数が目に見えて減少している様子は微塵も感じられなかった。

グラーフ・ツェッペリンは、ネウロイ化によって大幅に火力を向上させている。追加されたものを含め片舷数十門。両舷で100門近いビーム砲を備えた威容は、元々が空母であったことが信じられないほど武装を充実させている。

ハニカミ構造で彩られた船体から放たれる夥しい数の閃光。乱舞する光条の群れというよりは、紅い光の繊維で織られた布を想起させる。

 

「――っ!?ミーナ!限界だ!そろそろ後退しよう!」

 

離れた場所にいる戦友兼上官に対し、優人はインカムを使って呼び掛けた。しかし、何故かミーナから声が返ってこない。

優人はダメ元で船体を直接狙ってみたが、頑強な装甲によって20mmの魔法弾はたやすく弾かれてしまう。

予想はしていたが、やはり赤城の時と同様、内部に侵入するしか手は無さそうだ。

 

「ミーナ?」

 

グラーフ・ツェッペリンへの攻撃を一時中止した優人は、魔力シールドを展開して身を守りつつ、周囲に目を凝らす。

ミーナの姿はすぐに見つかった。安堵するのも束の間、優人は彼女の様子がおかしいことに気が付く。動きが明らかに普段より鈍いのだ。

大戦初期から戦ってきたミーナの撃墜スコアは160機を優に越え、501内においてはハルトマンやバルクホルンに次ぐ第3位の記録を保持している。

撃墜スコアに対し、飛行技術や戦闘技術は必ずしもイコールでは無いが、原則スコアが高ければ実力も技量も高いというのが通例である。

肩を並べて戦ってきた彼女の戦友達も、ミーナの実力を知っているし、認めている。無論、優人も……。

特にストライカーに負担を掛けない飛行はとてもしなやかで、芸術的と称しても差し支えないほど美しい。厳しい戦場でも、彼女は我知らずそれをやってのけてしまう。

だが、優人の双眸に映る現在のミーナはまるで病人のようにフラついている。グラーフ・ツェッペリンの攻撃を辛うじて回避しているようだが、機体の姿勢が安定していない。

不意に複数の光条をがミーナへと迫る。咄嗟にシールドを張って防御するも、展開が不完全だったのか着弾と同時に後方へ吹き飛ばされてしまう。

 

『きゃあああああっ!?』

 

「ミーナ!おい、ミーナ!聞こえるか!ミーナ!」

 

自らも猛攻に晒されながら、扶桑海軍ウィザードは必死に呼び掛ける。

しかし、優人とミーナ。或いは双方のインカムが故障しているらしく、声が届かない。

なんとか身を立て直したミーナだったが、グラーフ・ツェッペリンは手を緩めることなく紅の光槍を放ち続ける。

オリーブドラブの制服に身を包んだ少女は、多数の光条によって瞬く間に取り囲まれてしまう。

 

「クソッ!」

 

優人はビームの豪雨から脱出し、魔導エンジンの回転数を上げてミーナの元へ急いだ。

そんな彼をミスミス見逃すほど、グラーフ・ツェッペリン――ネウロイは甘くない。ビーム砲より幾重もの閃光を放ち、扶桑海軍ウィザードを撃ち墜とさんとする。

だが、仲間の元へ急迫する優人は先程まで身を守るだけでも四苦八苦していたビームの雨を軽々と回避していた。

まるでビームの軌道を予想して攻撃を回避しているかのような飛行技術は、固有魔法『未来予知』とハイレベルの空戦機動技倆を駆使したエイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉の完全回避に他ならない。

何故優人にエイラの真似が出来るのか。それはわからない。しかし、シールドで防御しながらよりも、こちらの方が早くミーナの元へ辿り着ける。優人からすれば好都合だった。

だが、後少しというところで紅き光条が優人の紫電改に直撃する。

 

「――っ!?」

 

愛機の損傷を知覚した優人は反射的に振り返ると、思わず顔を顰めた。

右側のユニットがビームに貫かれ、被害は内部の魔導エンジンにまで及んでいた。2基の魔導エンジンの内、片側が損傷・停止。優人は片肺状態へと追い込まれる。

ストライカーから立ち込める金属臭混じりの黒煙を振り払い、すぐ目の前にいる緋色の髪の少女を見やった。

猛攻に晒されて負傷したのか。ミーナは気を失い、今まさに落下しようとしていた。

 

「ミーナァ!」

 

優人は右手を伸ばす。その手はミーナの左腕をしっかりと捉え、彼女をグイッと引き寄せる。

自分の元へ持ってきたミーナの身体を、扶桑海軍ウィザードは両腕で強く抱き締めた。

そうしている間にも、グラーフ・ツェッペリンは多数の光条を撃ち込んでくる。ミーナに気を取られていた優人は防御の動作が遅れ、無事だったもう片側のユニットも損傷させてしまう。

 

「しまった!」

 

これで紫電改の魔導エンジンは完全に停止。ミーナが気を失っている。最早、空中に浮いていることが出来なくなった。

それでも優人は片足を使ってシールドを張ることで自分とミーナの身を守ろうとする。

意識の無いカールスラントウィッチを抱き抱えつつ、扶桑海軍ウィザードは戦闘空域から離れた地表へ向かって落下していった。




登場した筑波戦艦型は八八艦隊の十三号型巡洋戦艦です。
ストパン世界では八八艦隊が完成し、老朽艦を改装して運用することも無さそうなので、艦種が巡洋戦艦から高速戦艦となった十一三号型が第三戦隊を構成して、史実の金剛型ポジションで活躍するので?という妄想です。
筑波型については、近いうちに詳しい説明させて頂きます。

親衛隊西方装甲軍のモデルは言わずもがな第6SS装甲軍です。

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