1944年9月、西欧・北海洋上――
西の水平線から射し込む夕陽が、海域全体を茜色に染めている。
空の蒼さを映し、太陽の鋭い光を反射させる昼間の海とはまた違った美しさ。情熱的でありながら、幻想的な様相を見せつける大西洋の付属海。
その洋上を遊弋する扶桑皇国海軍遣欧艦隊付属の空母――赤城型航空母艦“天城”の飛行甲板に、2人のウィッチが佇んでいた。
「もう陽が暮れる……」
帝政カールスラント空軍所属の航空ウィッチ――ゲルトルート・バルクホルン大尉は、完全に沈もうとする夕陽に目を据えつつ、悔しげな声で呟く。
後輩達を引き連れ、戦闘空域から天城及び“ドクトル・エッケナー”が待機する安全圏へ離脱した彼女は、目立った怪我こそなかったものの、制服のあちこちが切り裂かれ、焼け焦げてしまっている。
「…………ミーナと優人。帰って来なかったね」
と、傍らに立っているエーリカ・ハルトマン中尉が言葉を継ぐ。こちらも制服の傷みが激しい。
彼女はバルクホルンと同じくカールスラント空軍に所属する航空ウィッチだ。
胸の前で腕を組むバルクホルンに対し、後頭部で両手を組み、太陽の沈んでいった西に空を真っ直ぐ見つめている。
未帰還機――撤退の殿を務めたミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐、宮藤優人大尉を待っていたが、遂に日が落ちても2人は帰って来なかった。
インカムを使って呼び掛けも行っているが、梨の礫。全く応答が無いときている。
あの2人が簡単にやられるとは思えない。通信出来ないのはインカムの不調だろう。戻らないのは何らかの理由で合流が難しくなり、何処かに身を隠しているためだ。
(そうだ。そうに決まっている!アイツ等がネウロイごときにやられるものか!)
弱気な考えを起こさぬよう、バルクホルンは自らに強く言い聞かせる。しかし、彼女は理解していた。それが希望的観測でしかないことを……。
「ここまでズタボロにされたのって、いつ以来かな?」
そう言いつつ、ハルトマンは背後を振り返る。戦友につられ、バルクホルンも視線を走らせる。
彼女達の背後では、天城へ帰還した501ウィッチの半数が飛行甲板に身を投げ、スヤスヤと寝息を立てていた。
貴族の生まれでマナーに厳しいペリーヌでさえ、大の字になって寝転がっている。
バルクホルンと同様、魔法繊維でできていて丈夫なはずの衣類が――ズボンと下着を除いて――ボロボロになっており、周辺には彼女等が戦闘で使用したストライカーユニットや銃器類が無造作に散らばっている。
普段の堅物大尉殿ならば、装備を雑に扱った挙げ句。飛行甲板に寝っ転がる等というだらしがない真似を許したりはしないだろう。
だが、ウィッチ達は昨日の今日でネウロックや妙な知恵を身に付けた強力なネウロイと戦い、さらにはネウロイ化したグラーフ・ツェッペリンまでもが彼女達の前に立ち塞がった。
年端もいかない少女達は、ブリタニア防衛以上に過酷な戦いを連日強いられ、すっかり疲弊している。天城へ着艦した途端その場に倒れ伏し、寝入ってしまうほどまでに……。
規律を重んじる堅物大尉も、さすがに疲労困憊の仲間達に対して口煩く説教する気にはなれないらしい。
厳格なようで甘い面も持ち合わせている。それが部隊の長女役であるバルクホルンの長所との見方も出来る。
それでなくても、天城はネウロイと化したグラーフ・ツェッペリンの予期せぬ攻撃を受けていた。
目立った損傷こそないものの、現時点で天城もドクトル・エッケナーもまだ混乱から立ち直れておらず、エレベーター等の設備も復旧していない。これではストライカーユニットの収容はもちろん、整備や補給も儘ならない。
(優人!ミーナ!無事でいてくれ!)
心の中で祈るように呟き、バルクホルンは両拳を硬く握り締める。煩悶とする戦友を横目に据え、ハルトマンも歯痒そうに眉を顰めた。
燃料に補給を受けられない現状では、優人とミーナの捜索に向かえない。いや、それ以前に夜間飛行に必要な能力・経験が不足している彼女達に2人を見つけることは難しいだろう。
サーニャに頼みたいところだが、彼女も疲れている。グラーフ・ツェッペリンの長距離砲撃の余波を受け、ユニットを損傷している。
しかも、彼女達空母直掩組は砲撃に晒される前に何度か小型ネウロイの編隊に襲撃されており、度重なる戦闘と混乱で魔法等を激しく消耗していた。
「よぉ!戻ったぞ!」
「待たせてごめんなさい」
ふと聞きなれた朗らかな声と、何処かミーナに近い柔和な声音が501Wエースの耳朶に触れる。
諸用で仲間の元を離れていた“シャーリー”ことシャーロット・エルヴィン・イェーガー大尉と、第504統合戦闘航空団へ配属が内定している竹井醇子大尉だ。
「あ、2人共おかえり~♪」
ヒラヒラと手を振り、ハルトマンは笑顔で2人を出迎える。対してバルクホルンは、硬い表情のままシャーリー達と向き合う。
「リベリアン、どうなんだ?」
顔を見るなり単刀直入に訊いてくるバルクホルンに苦笑しつつ、シャーリーは質問に応えた。
「カールスラントと扶桑のユニット。あと損傷の少ないサーニャの機体は……まぁ、なんとかなりそうだよ」
「他のユニットはぁ~?」
と、ハルトマンが合いの手を入れる。シャーリーは「ダメだな」と頭を振った。
「部品が足りてない。カールスラント製の部品も、親衛隊の連中に頭を下げなきゃなんないし……」
シャーリーはポリポリと後頭部を掻き、ばつが悪そうに説明する。
ハルトマンは「そっか~」と能天気に受け止めていたが、日頃から親衛隊を政治被れと毛嫌いしているバルクホルンは見るからに苛ついていた。
インペリアルウィッチーズをはじめとする皇室親衛隊と彼等の物資を天城へ受け入れるに当たり、501から504航空団に引き継がれる予定だった人員全てと、機材の大部分をパ・ドク・カレーに置いてくる必要があった。
結果、501の手元には必要最低限の予備パーツしか残されておらず、それらの多くも前述の騒ぎで失う。もしくは使い物にならなくなってしまっている。
天城に乗艦している扶桑海軍の飛行脚整備兵も、統合戦闘航空団とは異なり自国の機体しか扱えない。
そこはエースウィッチであり、優秀なメカニックでもあるシャーリーの出番だろう。
「じゃあ、芳佳は~?」
「艦内のあちこちで負傷者を治療して回ってるよ。今は……親衛隊連中のところかな?」
「治療?」
「政治被れ共をか?」
不思議そうに首を傾げるハルトマンの言葉を継ぎ、バルクホルンが訊き返す。
親衛隊の名前が出てきたためか。堅物大尉殿は露骨に不機嫌そうな表情を見せる。
「芳佳だって、戦闘で疲れてるんじゃないの~?」
ハルトマンが重ねて訊ねる。口調を変えぬまま表情だけを曇らせる。強力な治癒魔法の使い手である芳佳は、このような事態において己の役割を理解し、生まれ持った力を遺憾無く発揮している。
芳佳の性格上、大勢の負傷者がいると知れば全力で助けようとする。例えそれが、自分501達を散々振り回し、心無い発言で親友を侮辱した皇室親衛隊の人間であっても……。
良く言えば純心で善良、悪く言えばお人好し。それが宮藤芳佳という少女だ。彼女はおそらく、自らの敵になりうる人物ですら心底憎み切ることが出来ない。
「苦しんでいる人間を見過ごさずに手を差し伸べる。その精神は称賛に値するが、それで自分が倒れてしまうようなことがあれば本末転倒だ」
苛立ちを湛えた声音で、バルクホルンは自らの意見を述べる。
芳佳も他のメンバー同様、疲労で身体が悲鳴を上げているはず。そんな状態で治癒魔法を多用しては彼女の身が保たない。バルクホルンの言う通り、倒れてしまうだろう。
「わかった。じゃあ、重症者の治療だけさせて……後は休ませるよ」
「芳佳に何かあったら、優人に殺されちゃいそうだしね~♪」
ニシシッと歯を見せて笑うハルトマンに、シャーリーもつられて相好を崩した。
「あっはははは!そりゃ言えてるな!アイツのシスコンぶりは筋金入りだし!」
「案外、芳佳がコケて怪我したら。全速力で戻ってくるんじゃない?ミーナも一緒だろうから、探す手間が省けるよ?」
「それなら、天城の乗員にナンパさせた方が効果あるんじゃないか?」
「お?いいねぇ♪今、甲板にいる誰かに頼んでみる?」
「貴様ら!いい加減にしないか!」
バルクホルンの激昂。談笑していたハルトマンとシャーリーはもちろん、甲板で復旧作業を進めていた天城乗員等も何事かと怒声の主を見やる。
己に集中する多数の視線に構うことなく、堅物大尉は言葉を続けた。
「今がどういう状況か分かっているのか!優人とミーナが戻らない上に、ウォーロックよりも遥かに強力な敵が現れたんだぞ!」
いつにも増して感情的なバルクホルン。しかし、無理もないだろう。苦楽を共にしてきた2人の戦友が行方不明となっているのだ。
このまま優人達が見つからず、西部方面統合軍総司令部からMIA――Missing In Actionの略で、戦闘中行方不明を意味する――認定でもされたら。死体で見つかる等の最悪な事態にでもなったら……。
そう考えると、内心激情家なバルクホルンは居ても立っても居られなかった。シャーリーやハルトマンのお気楽な態度も癪に触る。
「いや、そりゃ分かってるけどさ……」
「リベリアン!2人がいない今、私とお前が隊の指揮官と次席指揮官なんだぞ!もっと真剣にならんかっ!」
現在の第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』は、ブリタニアを発つ直前に副司令兼ウィッチ部隊戦闘隊長の坂本美緒扶桑海軍少佐が一足早く帰国の途に就き、司令のミーナと戦闘隊長代理を務める優人が行方不明となっている。
そのため、最先任のバルクホルンが501航空団の臨時司令に。それに次ぐ立場のシャーリーが、優人に代わって戦闘隊長代理を務めている。
「…………真剣に何をするんだよ?甲板に突っ立って夜の海をただ眺めるのか?」
「――っ!?それは…………」
バルクホルンを睨み返すシャーリーの嫌味とも受け取れる問い掛け。堅物大尉は言葉に詰まる。
シャーリーやハルトマンが鹿爪らしく振る舞ったところで、現状は何も変わらない。
たった1人で501の各ストライカーユニットの状態をチェックし、リベリオンとは規格も勝手も違う他国の機材を整備するつもりでいるのだ。
現状で自分のやるべきことを理解し、行動しているシャーリーは十分真剣と言える。
バルクホルンに付き合い、共に優人とミーナの帰りを持っていたハルトマンもまた然りである。
「2人共、止めなさい」
険悪な関係になりつつリベリアンと堅物大尉両者を見兼ねた竹井が、両者の間に割って入った。
部外者である自分が501の問題に深入りすべきではないと考え、竹井は必要以上に口を出さないつもりでいた。
だが、シャーリーとバルクホルンの喧嘩腰なやり取りを見せつけられてはそうもいくまい。
「バルクホルン大尉。あなたはとにかく落ち着きなさい」
「こんな時に落ち着けというのか!?」
「こんな時だからこそ落ち着くのよ!」
不意に声を張り上げる竹井。扶桑皇国海軍ベテランウィッチの剣幕に圧され、バルクホルンはものを言えなくなる。
「あなたが自分で言った通り。現在501部隊の実質的指揮官はバルクホルン大尉、あなたなのよ!指揮官の言動一つ一つが隊員達の士気に影響する!優人やミーナ中佐を助けることも、ネウロイを倒すことも出来なくなる!部隊を預かっている自覚があるのなら、もっと毅然としなさい!」
竹井の叱咤激励。厳しくも優しい言葉がバルクホルンの耳朶を打ち、鼓膜を刺激し、脳髄に響く。
「…………そうだな」
自省を促され、硬かったバルクホルンの表情は微かに緩む。涼やかな声音で呟くと、改めてリベリオンウィッチへ向き直る。
「リベリアン、すまない。その……八つ当たりした……」
「いや、あたしも真剣さが足りなかったし。嫌味なこと言って悪かったな」
互いに自分の非を認める2名のウィッチ。バルクホルンは頷いて応じると、次に彼女は竹井へ顔を向けた。
「おかげで目が覚めた。ありがとう竹井大尉」
「うふふ♪どういたしまして♪あっ、それと……」
慈愛に満ちた微笑を浮かべて応じると、竹井はバルクホルンの耳元へ己の唇を寄せる。
「ウォーロックの話を大声でしてはダメよ?それは大一級軍機でしょ?」
「ぐっ!……すまん…………」
竹井に指摘され、漸く自らの失言に気付いたバルクホルン。やや落ち込みに自省を重ねる。
すっかり大人しくなった戦友を見てハルトマンは悪戯っぽく笑い、バルクホルンを窘めた竹井を秘かに“扶桑のミーナ”と呼ぶことにしていた。
他者を慈しむ心を体現した優しげな微笑。貴族を想わせる優雅で柔らかな物腰。穏やかさを心情とし、慈愛に満ち溢れながら威厳も兼ね備えた様は、まさに扶桑版のミーナと称して間違いだろう。
尤も、竹井と付き合いの長い優人や坂本からすれば、ミーナの方が“カールスラントの竹井”かもしれないが……。
(普段は優しいけど、怒らせたらミーナ以上に恐いんだろうなぁ……)
他の3人に気付かれぬように、ハルトマンはクスクスと小さく笑声を立てる。
「それで竹井大尉、総司令部と連絡はついたのか?」
と、バルクホルンは話題を変える。竹井は親衛隊隊員の大半がドクトル・エッケナーに戻ったのをチャンスと見て、艦内にある電信室から西部方面統合軍総司令部へ連絡を試みようとしていた。
総司令部にいる501寄りの将軍達――カールスラント空軍航空ウィッチ部隊総監のアドルフィーネ・ガランド少将や扶桑海軍遣欧艦隊司令長官の赤坂伊知郎中将等――に手を回してもらう以外、親衛隊の横暴を止める方法は今のところ無い。
バルクホルンとしても、他者の権力に縋るようなやり方は不本意だが、何を考えている親衛隊に主導権を握られていては優人達の捜索やネウロイ化したグラーフ・ツェッペリンの撃破が難しいのも事実だ。
「連絡は取れたけど、状況は何一つ好転しそうにないわね」
「どういうことだ?」
バルクホルンは竹井へ向かって一歩前に踏み出し、詰め寄るように問い掛ける。
扶桑海軍ウィッチはフゥと息を吐いてから、仔細を説明し始めた。
「現在、西部方面総司令部に指揮能力無し。西部方面統合軍は全権、帝政カールスラント皇室親衛隊西方装甲軍に移行したわ」
「それって、連合軍が親衛隊の指揮下に入るってことか!?」
シャーリーが信じられないと言った表情で訊くと、竹井は「ええ」と小さく頷く。バルクホルンもまた、驚愕に目を見開いていた。
「バカな!いくらなんでも、そんなことがあり得るのか!?」
帝政カールスラント宰相皇室親衛隊の権限が、まさかそこまで強いはずがない。バルクホルンは自身の耳を疑う。
「どうも総司令部で非常事態が起きたみたいで、それで赤坂長官達は軍を指揮できる状態ではなくなってしまったというわけ……」
「非常事態ぃ?」
怪訝そうに繰り返すハルトマンに、竹井は簡潔に応える。
「総司令部内の会議室に謎の武装集団が立て籠り、主立った将官達は人質に取られてたわ」
扶桑海軍ウィッチの説明を受け、501航空団年長組の3人は思わず言葉を失った。
◇ ◇ ◇
同時刻、天城艦内――
親衛隊が借り受けている区画は負傷者で溢れていた。グラーフ・ツェッペリンの攻撃時に、艦内の壁や天井に叩きつけられた親衛隊の将兵。
ネウロック及びネウロイ化したグラーフ・ツェッペリンとの戦闘で負傷したインペリアルウィッチーズ所属の親衛隊ウィッチ。
インペリアルウィッチーズが501航空団より先に撤退したのは、国防軍のウィッチ達を囮にして自分達だけ助かろうとしたわけではなかった。
501部隊と合流した時点で、インペリアルウィッチーズはかなり消耗していた。
恐い上官――グレーテル・ホフマン親衛隊大尉がいたため、痩せ我慢をしていたようだが負傷者も出ており、501のウィッチと肩を並べて戦える状態ではなかったのだ。
このこと。そして、天城とグラーフ・ツェッペリンが攻撃されたことを知った芳佳は、居ても立っても居られず天城の艦内を駆け回り、あちこちで負傷者に治癒魔法をかけ続けた。
彼女は既に天城乗員の治療を終え、親衛隊員の治療に回っている。
突然現れて、治療をさせて欲しいと申し出た扶桑海軍ウィッチ。あどけない少女の真摯な思いに困惑しつつ、親衛隊員等はされるがまま治癒魔法による治療を受けていった。
「はい、もう大丈夫ですよ!」
屈託の無い笑顔で、芳佳は治癒の終わりを伝える。治療を受けた親衛隊ウィッチは依然当惑したままだったが、一言「ありがとう」と礼を述べ、持ち場へ戻っていった。
「おかげで助かったわ」
涼やかな声が芳佳の耳朶に触れる。インペリアルウィッチーズ第3飛行隊隊長――アリョーナ・クリューコフ親衛隊大尉だ。
何十人という負傷した仲間を治療してくれた恩人に対し、アリョーナは心からの謝意を口にする。芳佳は照れ臭そうに後頭部を掻く。
「いえ。私は私に出来ることをしただけで……他に怪我人は?」
「今のウィッチで最後よ。本当にありがとう」
「あ、でもドクトル・エッケナーに出掛けた人達は?」
「ここまでしてもらえれば十分よ。もう休みなさい」
そう言って、アリョーナは芳佳の頭を撫でる。初対面時は、何処か冷たく思えたインペリアルウィッチーズの第3飛行隊長。
ホフマンとの諍いもあり、芳佳も他の501ウィッチも親衛隊の面々に対し、良い印象を抱かなかった。
しかし、考え方が少々異なるだけで決して悪い人達ではない。
アリョーナも、話してみればフレンドリーな優しいお姉さんで、性格にはミーナやシャーリーに近いものがある。
「でも、あっ!……」
不意に足が縺れ、芳佳は前屈み転倒しそうになった。床へ倒れる前にアリョーナによって支えられ、事なきを得る。
「ほら!昼間の戦闘で疲れているのにこれ以上に無茶したら――」
「だ、大丈夫です。これくらいへっちゃらで――」
「とても大丈夫には見えないわよ!」
少しばかり語勢を強めたアリョーナの言葉に、芳佳は口を噤む。
「…………お兄さんのことが心配?」
「え?」
「戻って来ないお兄さんが果たしてどうなったのか。それを考えるのが不安だから、取り敢えず行動を起こして考えないようにしてる。そうでしょう?」
「………………」
「誤解しないで、責めてるわけじゃないわ。ただ、お兄さんが戻ってきた時に元気な姿で迎えられるために、今は休みなさい」
「…………はい、失礼します」
アリョーナに諭されて観念したのか。芳佳は寂しげな足取りで、トボトボと歩き去って行った。
「まったく……」
肩を落とす芳佳の背中を見送ったアリョーナは、独り溜め息を漏らす。
「むず痒くなるほど良い子ね。ホフマンも、あの子の爪の垢でも煎じて飲めばいいのに……」
性格に難を抱えた同僚の姿を思い浮かべ、アリョーナは苦笑する。
◇ ◇ ◇
翌朝、パ・ド・カレー沖――
東の水平線から差し込む曙光が、ガリア沿岸の海に停泊している扶桑皇国海軍遣欧艦隊を照らす。海に浮かぶ黒鉄の船体が群れを成し、パ・ド・カレー沖に蠢く姿が陽の光によってハッキリと現れる。
今次遣欧艦隊は、元々の反攻作戦に合わせて司令長官の赤坂伊知郎中将が扶桑本国より呼び寄せた艦艇で編成されていた。
蒼龍型航空母艦の“蒼龍”を旗艦とし、同型艦の“飛龍”と編成する第二航空戦隊が中核担う。
二隻の空母を囲むようにして、第八戦隊の巡洋艦“利根”及び“筑摩”以下。夕雲型や秋月型で編成された2個駆逐隊で輪形陣を形成している。
輪形陣とは海戦における艦隊陣形の一つで、基本的に中央に空母や戦艦などの主力艦を置き、その周りを駆逐艦や巡洋艦が円形に固める防御を重視した陣形である。
さらに、空母の護衛の他。ガリアへの逆上陸を果たした友軍を艦砲射撃で支援する為、筑波型戦艦“筑波”“生駒”“八海”“妙義”で構成された第3戦隊も動員していた。
いずれの艦艇も、扶桑皇国の為。人類の勝利の為に素晴らしい働きをしてきたものばかりだ。
第3戦隊に所属する筑波型は全て、従来の主砲を上回る打撃力を持つ45口径46cm連装砲を装備している。
それらが既に幾度も火を吹き、ヘルギガ方面より地上部隊の側面を突こうとした地上型ネウロイの群れを粉々に粉砕している。
夜が明け、今からは空母航空隊による航空支援を行う算段だ。
零式艦上戦闘機と、九七式艦上攻撃機の後継機として開発・配備された“天山”で編成された飛行隊がそれぞれ2個ずつ。
ウィッチ部隊もいるが、ただでさえ航空ウィッチは稀少な存在。艦上ウィッチともなると、さらに数が限られる。おいそれと揃えられるものではない。
だが今回は幸運な方だった。航空歩兵搭載時の蒼龍と飛龍は、ウィッチを4名乗艦させることになっている。
飛龍は半数を揃えるのが精一杯だったが、蒼龍は規定通りの4人を揃えることに成功していた。
「やれやれ、同窓会は開けそうにないか……」
「は?」
独り言が大きかったらしい。自ら長機を務めるロッテの2番機が聞き返してきた。
「いや、何でもない。若本上がるぞ!全機続け!」
若本徹子中尉率いる艦上ウィッチ飛行隊は、夜明けを迎えたばかりの空へと飛び立っていった。
次回は読者の皆さんお待ちかね!久しぶりのラッキースケベです!
感想、誤字脱字報告をお願い致します。
あと、オリジナルキャラクター紹介にカールスラントのキャラクターを追加しました!