モモンガの命令により、玉座の間から出たアルベドとセバスの二人。後ろ姿からではわからないが前から見ると、互いに視線で牽制しあっているというのがよくわかる。
二人が玉座の間から充分に離れた場所まで来ると、セバスが口を開く。
「アルベド、私には貴方が考えていることが理解できません。貴方は先程モモンガ様を偽物と言いましたが、それでは何故モモンガ様の命令を素直に聞いておられるのですかな?」
未だに何故アルベドがあのような愚かなことを言ったのか、そして、何故モモンガ様はお許しになったのかが理解できないでいた。
この質問で何かわかるかもしれない。そんな期待も込めて、セバスはアルベドの返答を聞く。
「その理由は簡単よ。私は確かに今のモモンガ様を本物のモモンガ様と思ってはいないわ。けれども、あの人が質問には答えるといった言葉を嘘とは思えないの。だから私はひとまずこの命令を聞くことにしたのよ」
噓だと思えない。モモンガ様が偽物だと思ったのも噓だと思えないも全ては感情からくる憶測。正直に言って納得はできない。けれども、理解することはできた。
「…そうでしたか。ですが、アルベド!先ほどはモモンガ様にお止めになられたからこそ攻撃をやめましたが、今でも貴方の行いは許すことはできません。それほどまでに、先の貴方の行動は守護者統括という地位に就く者として適切ではなかった!」
守護者統括としての行動ではなかった。アルベドはそのことに深く落ち込む。
「そうね。確かに反省はしているわ。…でもね、後悔はしていないの」
セバスはアルベドの言葉に確固たる決意のようなものが感じた。ならば、これ以上何かを言うのは無粋でろう。
「承知しました。それでは、アルベド様。私はモモンガ様の命により地表に行きますが、くれぐれも暴走しないようにお気をつけください」
「ええ分かったわ。それじゃあ、私もモモンガ様の命令通り各階層守護者の者たちを呼んでくるとするわ」
セバスがアルベドのことを様付けで呼ぶようになったということは、ひとまずはアルベドの行動を許したということなのだろうか?
どちらにせよ、これで表面上はいつも通りの関係に戻ったといえるだろう。
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闘技場の中心にゲートの門が開かれる。
そして、そこから第一、第二、第三階層守護者の守護者であるヴァンパイアのシャルティアが現れる。
「――おや、わたしが一番でありんすか?」
闘技場内を見渡し、自分以外――――アウラとマーレを除く――――の守護者がいないのを確認し、余裕綽々といった様子で近づいてくる。
「ああ、愛しの我が……?」
すぐに抱き着いてくるかと思えば、何故か目の前で戸惑ったような様子を見せるシャルティア。
「ん?どうしたんだシャルティア?」
「いえ、その…何でもございませんわ」
やはり、モモンガに忠誠心だけでなく恋愛的感情を持った守護者には、何らかの違和感を感じ取ってしまうのだろうか?
チラチラと俺の顔を見てくるシャルティアに、アウラが不敬ではないかとつっかっかるも、シャルティアはそれに反抗せずに大人しく「そうでありんすね」と返す。
アウラもいつもと様子の違うシャルティアの様子にもどかしさを感じるも、そのことを深く追求はしなかった。
シーンと息苦しさすら覚えるようなこの空間を1人の…いや、一匹の守護者が打ち破ってくれた。
「ヌ?マダ全員ハ揃っテイナイノカ?」
「おぉぉ!コキュートスか!よく来てくれた!」
「コレハ、モモンガ様!如何ナルゴ用デアロウト、絶対ナル御方ニ呼バレタナラバ、馳セ参ズルノガ守護者ノ役目デゴザイマス!」
片膝をついて重たい忠誠を誓うコキュートスに少し戸惑うが、すぐさま支配者としての姿を演じる。
「流石は第五階層守護者コキュートス!その忠誠心に私は感動したぞ!」
「オォォ!ソノヨウナオ言葉ヲ貰エルトハ!」
感動したというように全身をわなわなと震わせる。
「おやおや、これは一体どういう状況なんだい?」
コツコツと足音を立てながら、デミウルゴスとアルベドが並んでやって来る。
とうとう、この場に第四、第八を除く全ての守護者が今ここに終結した。
その意味する事はつまり、俺がモモンガではなく偽物だということ打ち明けねばならないということだ。
もしも、俺が偽物だということを知れば、どうなるのだろうか?
八つ裂きにされる?それとも骸骨だから粉砕なんかされちゃったりして!
考えれば考えるほどに胃や頭が痛くなってきた。
「モモンガ様!守護者各員が集結致しました!」
うわぁ!妙にアルベドの声が大きい気がする。いや、気がするじゃなくて本当に大きい。きっとこれは、全員集まったんだから話すこと話しちまえよ!みたなパターンだよ!
「アルベドよ暫し待て!」
やばい!全然喋る覚悟決まっていなかったから口が滑って待てと言ってしまったが、これってどう考えても話しづらくなっただけだよね!
「…っく!モモンガ様!!!」
ホラ!いい加減待ちくたびれたアルベドも怒っちゃたしさ!マジでどうしよう?
「アルベド!貴方は何をそんなに興奮しているんだ!?」
「そ、そうでありんす!至高の御方が待てと言われたならば、それを待つのが守護者の務めでありんすよ!」
俺がモタモタしている間に、デミウルゴスとシャルティアが割って入る。
よし!今この流れに乗って俺がモモンガではないことを伝えよう。
「じ…実は私はモモ「失礼しますモモンガ様!仰せつかった通り地表の調査をした結果!ナザリック地下大墳墓周辺が沼地ではなく草原になっておりました!」
俺の言葉を遮って地表を調査させていたセバスが現れた。
なんでこのタイミングで来るんだよ!折角俺が覚悟を決めて話そうとしたのにさ!…いや待てよ!?今この瞬間こそがベストタイミングなんじゃないのか!
そうと決まれば早速このビックウェーブに乗っかるしかない!
「やはりそうか、ご苦労だったセバスよ!お前も守護者たちと並び聞くがよい!今より何がこのナザリックに起きたのかを説明する」
全員がどよめきかけたが、俺の言葉を聞き漏らさまいと口を閉じ静かに耳を傾ける。
「今のセバスからの報告通り、このナザリックは未知の場所へ転移した!だが驚く必要はない。これは今この場にいない至高の41人が行ったものだからである!」
守護者たち全員が閉じていた口を開き、驚きの声を上げる。
「「「「「「「なあ゛ぁ!!?」」」」」」」
「お前たちが驚くのも無理はない。そして、お前たちをここに呼んだ理由はこの事だけではない。実はお前たちには酷な話なのだが…」
どうしてもこの口から俺は偽物だと言うことは出来ない。暗い未来ばかり想像しちまって、一歩も前に進めずにいる。こうして、守護者たちのことを心配するふりをして、結局は自分の身が心配だから話せないでいる。
自分でもヘタレ野郎だって思うさ!ここで立ち止まっていたからってどうにもならないってことぐらい。
そんな俺の背中を後押しするように、アルベドが悲痛の声を上げる。。
「…モモンガ様が何を抱え込んでいるのかは存じ上げません!ですが、たとえいかなる内容と言えど、われら守護者一同は決して御方をご不快な思いをさせはしません!」
「アルベド様の仰る通りですモモンガ様!」
「アルベドの言う通り我らはもう覚悟はできております」
「「私たちも、いかなるお言葉にも動じたりは致しません!」」
「我ラハタダ伏シテ御方ノオ言葉ヲ聞クノミ」
「そうでありんす!我らは頼りないかもありんすが、皆至高の御方に忠誠を尽くす身でありんす!」
そこまで…そこまで言ってくれるのか。偽物でしかないこの俺にだ!
ははは…、さっきまで悩んでいた俺がバカみたいじゃないか。目の前にこいつらは俺の話を聞いてすぐに覚悟を決めたというのに、騒ぎの中心である俺がグダグダと覚悟を決めないなんてバカな話だろ。
「…そうか。お前たちの覚悟はしかと響いた。私はお前たちに謝らなければならない。…すまなかったな。」
俺は迷わず守護者達に対して頭を下げた。
当然そんな行為に守護者たちは慌てていたし、皆口々に勿体無いやそんな必要はないと叫ぶ。
「実を言うと、私が話さなかったのはお前たちを心配していたからではない。私の覚悟がなかっただけなのだ。今より本当の事を話そう。今ここにいる私は…お前たちの主であるモモンガではない!」
「「「「「「「…!!!!」」」」」」」
全員が声をだそうとはしなかった。歯を食いしばりながら、動揺を見せまいと歯や拳に力を込めて我慢していた。
アルベドやシャルティアは薄々感ずいていたから大した驚きではなかったようだが、その他の者達は表情が崩れんばかりの顔を俺に向けている。
「正確に言うのならば、この体は先代ギルドマスターモモンガ様の体ではあるが、その体に宿る精神はお前たちと同じ至高の御方に創造されたNPCのものだ!」
俺の言葉に、アルベドとデミウルゴスは思案の表情を浮かべ、シャルティアとマーレは絶望したかのように、セバスとアウラは困惑気味に顔をしかめ、コキュートスの表情は読めなかった。
「何故こうなったかの順に説明をしていこう。まず、何故モモンガ様を残し至高の御方々が姿を消したのか?それはユグドラシルが消滅の危機にあったからだ!」
「しょ!消滅でありんすか!?」
ユグドラシル消滅というワードにシャルティアが真っ先に反応する。
「そうだシャルティアよ。ユグドラシルという世界はGMと呼ばれる者たちの手によって創造された世界なのだ。GMとはお前たちも知ってるリアルと呼ばれる世界の住人だ。彼らは数年前にユグドラシルという名の世界を創り出し、その世界にプレイヤーと呼ばれる者達――つまり、至高の御方々を招いたのだ。GMが創り出したユグドラシルの世界にはやがて幾多のプレイヤーがやって来た。しかし、始まりがあれば終わりがある。やがて、ユグドラシルを堪能したプレイヤー達は次第に数を減らしてゆき、いつしかユグドラシルからはプレイヤーの姿が消えていった。そんな事態を見たGM達は、ユグドラシルの世界を消してしまうことに決めたのだ」
「そ、それはなぜなのでしょうか?」
今度はマーレが疑問の声を上げる。
「理由は簡単だ。ユグドラシルの世界を維持するにはギルドと同じようにコストが掛かる。プレイヤーが消えてゆき維持するための収入も減ってきたのなら、いつまでも残しておくはずもない。そして、つい今しがたユグドラシルの世界は完全に消滅した。このナザリックを除いてな」
ここまでは一応矛盾やおかしな点はなかった筈だ。咄嗟に考えたにしては中々のストーリーではないか?デミウルゴスやアルベドに変に質問されるよりも前にとっとと話を終わらせてしまおう。
「ここまでは皆は理解してくれたかな?それでは、続きを話そう。ユグドラシルが消滅するということに気づいた至高の御方々は、リアル世界に戻り対策を講じていたのだ。その結果がナザリックのみを別の世界に飛ばしてしまおうということになった!」
まだ問題はない。このまま乗り切ってしまえ!そう考えるも現実は非常である。
俺が最も警戒していた智将であるデミウルゴスが挙手をしてきたのだ。
「ん?どうしたデミウルゴス?」
「ええ、一つ質問なのですが。ユグドラシルが消滅し、ナザリックが至高の御方々によって転移した。そこまでは理解できました。では何故その役目を終えた至高の御方々がここにいらっしゃられないのでしょうか?それに何故モモンガ様の精神と貴方が入れ替わっているのですか?」
やはりか、この手の質問が来ることは既に想定内だ。下手な事を言えばすぐに見破られる。かと言って黙秘なんて手段は決して使えない。ここから先はデミウルゴスとの頭脳戦だ。
失敗は決して許されない。ミス=ゲームオーバーの難易度ルナティックの話し合いが始まる。
「まあ、当たり前の疑問だな。それにはやむを得ない事情というのがあるのだよデミウルゴス」
「っと、言いますと?」
「まず1つ目の質問に答えよう。この世界にはユグドラシルの世界を通して転移した。つまり、リアルの世界から直接この世界に来ることはできないのだ。肝心のユグドラシルもつい先ほど消滅したために、リアルからこの世界に来る手段はなくなったのだ」
なるほど、と一応は納得したデミウルゴス。他の守護者たちも全員納得している表情だ。
「そして2つ目の質問の答えだ。私がモモンガ様の精神と入れ替わったのは、モモンガ様を死なせないためだ。リアルからユグドラシルに来るには、ユグドラシルに仮想の肉体を用意し、その肉体に精神を移すという行為が必要だ。つまり、モモンガ様がこの世界に来てしまえば精神はリアルの肉体に戻ることができず、やがて肉体は衰弱し死んでしまうからだ」
「そうですか。つまり、モモンガ様は消えてはおらず、至高の御方々も全員リアルで生きているということですね?」
「そういうことだデミウルゴス。理解が早くて助かるよ」
「ですが、少々疑問なのですが、何故入れ替わる必要なのがあったのでしょうか?ユグドラシルが消滅するというのなら、消滅する前にリアルへお戻りになればよいだけのこと。入れ替わる理由が見当たらないように思えますが?」
っく!流石はデミウルゴスだな。見事に先の話の穴をついてくるとは、ナザリックの智将とモモンガから呼ばれるだけのことはある。
だが、俺は既にその穴を埋めるストーリーを用意している。そして、それこそが今回のメインイベントであり、今後の俺の命運を左右する重大なシーンだ。
「…それは、モモンガ様の愛なのだデミウルゴスよ」
愛――――その言葉に闘技場内に衝撃が走る。
「慈悲深きモモンガ様は、このナザリックが転移した後の事を常に考えていらっしゃった。もしも、ユグドラシルが消滅し、NPCのお前たちが尽くすべき者がいなくなればどうなってしまうのかとな。その為にモモンガ様は最後の最後までユグドラシルの世界にとどまり続けた。それを見かねた他の至高の御方々が、モモンガ様の影武者として私を生み出したのだ。だが、アルベドには一瞬でバレてしまったがな」
はははは、と自嘲気味に笑う。
「おそらくモモンガ様はそれでは納得しないだろうと結論付けた至高の御方々はユグドラシル消滅直前に私とモモンガ様の精神を入れ替えたのだ。結果入れ替えはうまく成功し、転移も無事に終わった。本来ならば、ここで私の役目は終わるはずだった――――」
「だった、とはつまり他にまだ何かあると?」
キラリと目を光らせながらデミウルゴスが疑問を投げかける。
「その通りだ。アルベドにセバスよ、お前達ならばわかるよな?」
あの瞬間、モモンガの傍にいたこの二人ならば知っているはずだ。モモンガの鈴木悟の最後の願いを!
「はい。恐らくモモンガ様の目的は、この世界にナザリックの栄光を見せつけることと愚考します」
「我らがナザリックの名をこの世界に生きる知性ありし者たちに知らしめる。それが我らが主人モモンガ様の願いでございます」
「そうだ。モモンガ様は入れ替われる直前にこうおっしゃった。悪の組織でも正義の味方でも何でもいい。また再びこのナザリックを…アインズ・ウール・ゴウンを世界に轟かせてくれ!と、この願いを我らは叶えなければならない!!!」
俺の声がビリビリと空気を震わせる。守護者たちの顔もより一層引き締まる。
そして、守護者たちに俺は自分の胸にあった疑問を問うてみる。
「そして、お前たちに問う。こんな偽物の主だが、それでも私に命を預けてくれるか?力を貸してくれるか?私に……忠義を尽くしてくれるか?」
NPCにとって忠義を尽くすことが生きる目的なのだ、俺はそんなNPCたちにとって忠義を尽くすに相応しい存在として見られているのだろうか?
例えようがない不安を胸に、守護者たちの様子を見守る。
そして、一番初めに口を開いたのはデミウルゴスだった。
「ふっ、何をおしゃいますやら。我ら守護者一同はもとより、このナザリックに住まう者達は皆すべて至高の御方々に忠義を尽くしております。そして、その御方々が生み出した新たなる主人に忠義を尽くさぬ者などおりはしません」
何をそんな当然のことを?といった顔で返す。
「ソノ通リデス。例エ偽物デアロウト、至高ノ御方々ガ忠義ヲ尽クセト言ウノナレバ、我ラハソノ言葉ニ従ウノミ!」
忠義溢れるコキュートスらしい返答だ。
「貴方様を我らが主と認めろと、我らを創造された至高の御方々の命令ならば、認めぬ訳にはいかぬでしょう。我らが命も!力も!忠義も全て捧げる事を誓いましょう!」
流石はワールド・チャンピオンであるたっち・みーが創り出したNPCだ、執事なのにまるで騎士のようだ。
「私達も御方の為にこの身と全力を尽くし、絶対の忠義をここに誓います!」
「ぼ…ボクも、至らぬ身ですが、至高なる御方にこの身と全力を尽くし、絶対の忠義をここに誓います!」
双子は息を合わせて、真っ直ぐに噓をついてるとは思えない純粋な目を向けてくる。
「わらわにとっては、偽物であろうとモモンガ様はモモンガ様でありんす!」
シャルティアはとても嬉しいことを言ってくれた。
「……私は未だ納得はできてはいません。ですが、ひとまずは貴方様を我らが主と認め行動することをここに誓うことを約束致します」
納得はできない…か、それでもアルベド…お前は俺のことをひとまずは認めてくれるんだろ?
…なら、今はそれだけで満足だ。
「感謝しよう守護者たちよ!お前達の忠誠を私は快く受け取らせてもらう」
俺が頭を下げると守護者たちはおやめくださいと騒ぎ立つ。
まったく、支配者というのは気軽に頭も下げられん難儀な立場だ。
「早速だが、私は名前を変える。お前たちには既に正体がバレているからな。これからは私のことをモモンガではなく、アインズ!アインズ・ウール・ゴウンと呼ぶようにせよ!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
ここに新たな支配者アインズ・ウール・ゴウンが誕生した。