偽りのオーバーロードの英雄譚   作:リーグロード

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漆黒の旅人

農民は朝早くに目覚め働きに出る。それは子供といえど例外ではない。妹であるネムを起こし、朝の寒い時間に村の井戸から冷たい水を家まで汲み上げる。それを何往復してから朝ご飯になる。

 今日もそんな日常と変わらない日のはずだった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「た、助けてぇ!!」

 

「みんな逃げるんだ!!!」

 

 だが、突如として武装した集団がこのカルネ村に襲撃してきたのだ。いつも挨拶していた村のみんなが殺され、悲鳴を上げている。私達家族も例外でもなく、数人の兵士達が我が家に押し入ってきた。

 

「うおぉ!!」

「ぬぉっ!?」

 

 父が家に押し入ってきた兵士にタックルをかけて、母がもう1人の兵士の足に必死になってしがみつく。父と母が兵士を足止めしている間に、姉である私は妹のネムの手を引っ張り、森へ逃げ込んだ。

 

「おら!待て!」

 

「逃げんじゃねぇ!」

 

 そんな私たちを追って2人の兵士が怒号を上げながら迫って来る。必死になって走っても子供が大人を振り切れるはずもなく、遂に妹が足をもつれさえ倒れてしまった。

 

「へっへっへ、ようやく追いついたぜ」

 

「手間かけさせやがって」

 

 下劣な笑みを浮かべながら兵士の1人がゆっくりとこっちに近づいてくる。

 

「わ、私のことは好きにしていいから、妹には手を出さないで!」

 

「お姉ちゃん!ダメだよ!」

 

 私は必死になって妹に手が出ないようにネムに覆いかぶさる。恐らく私はここで死ぬのだろう。そして、妹のネムも私が殺された後に死んでしまう。

 悔しくて涙が出るが、少しでもネムが生き長らえさすために最後まで抵抗してやろうと歯を食いしばりながら死を覚悟する。

 

「死ねぇ!」

 

 兵士が剣を振り上げる。私は次にくる痛みを覚悟して目をつむる。

 

 カキーン!

 

 いつまで経っても痛みは襲って来なかった。何が起こったのかを知るためにゆっくりと閉じた目を開く。

 

「ぐっ!な、なんだ貴様は!?」

 

 さっきまで私に対して剣を振り上げた兵士の剣を見知らぬ剣士が大剣で受け止めていた。

 

「私が誰かだと?ならば教えておいてやろう。私はナイン!ただの旅人のナインというものだよ」

 

 赤いマントをはためかせ、二振りの大剣を持つ漆黒の鎧の騎士がそう名乗りを上げる。

 

 

 

 ■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 ――――村が襲われる前日

 

「さて、これで話すことは話したが、一つ約束して欲しい。私は至高の御方々にお前たちの主人として作り出された存在だ。故に、今はここにいないメイドや他のNPC達には私の正体をバラさないでほしいのだよ」

 

 本人としては、死の支配者としてのRPGをしたいがために黙っていて欲しいだけなのだが。

 当然守護者たちも納得し、他言無用でいてくれる事を了承してくれた。

 

「了解しましたアインズ様。ですが――」

 

「ん?どうしたセバス?何か問題でもあるのか?」

 

「はい。玉座の間にいたプレアデス達にはどういう対処をすればよろしいでしょうか?」

 

 確かに、あの場にはアルベドとセバス以外にもプレアデス達がいたんだった。

 適当に嘘をついてごまかすか?いや、下手に不信感を持たれて他のNPC達に知られたらそれこそ厄介だ。

 ここは正直に話して口止めする方がいいのかもしれない。

 

「ふむ、プレアデス達には私の正体をバラしてもかまわんだろう。ただし、他のNPC達には話さないように口止めだけはしておけ」

 

「かしこまりました。それではそのように対処します」

 

 これで俺の正体を知るNPCは守護者とセバスとプレアデスたちとなった。

 それじゃあ、ここでようやくこの異世界での行動方針を決めていくとしようか。

 

「今後のナザリックの行動方針としては、この異世界に名を広める。それが大前提だが、どういう方法で広めるかを皆で決めていこうと思っている」

 

「そんなのナザリックの全軍で蹂躙すればいいだけでありんしょ?」

 

 流石はおバカなシャルティアだ。至極単純な方法を提案する。そこに、ため息を吐くのは知将であるデミウルゴスとアルベドだった。

 

「いいかねシャルティア、この異世界ではどのような強者が潜んでいるかは分からない状況なんだ。そんな中で下手に敵を作る行為は愚の骨頂なのだよ!」

 

「デミウルゴスの言う通りよ!いくら私たちが至高の御方々に創造された存在だとしても、油断や慢心は禁物ということを忘れてはダメよ!」

 

「シャルティアよ!確かに我らがナザリックが全軍をもってすれば世界を蹂躙するのもわけないだろう。だがしかし、我らは力だけの蛮族では無いのだ。そんな野蛮な方法はナザリックには似合わないだろ?」

 

 アルベドとデミウルゴスに正論で論破され、アインズにもナザリックのやり方では無いと言われたシャルティアは、若干涙目になりながら「理解しましたでありんす」とそっぽを向く。

 

「ははは、そうそっぽを向くなシャルティア!だが、お前が言った蹂躙というのは私も賛成だぞ!つけ加えるのなら武力と知力と権力をもって蹂躙する。それこそが我らがナザリックに相応しいやり方ではないかな?」

 

「まさしくおっしゃる通りでございます。私はもとより他の者たちもアインズ様のお言葉に賛成しております」

 

 俺は支配者らしい実に傲慢なことさらりと言ってのけてみた。守護者たちの反応を見ても間違いではないようだ。ただの一般人だったが分不相応な事を言っているのは分っている。

 けれど、現実問題として無理ではないと俺は判断している。原作でも普通に帝国と王国は支配しているし、ナザリックの守護者クラスならたった一人でも武力面では国の一つや二つは充分に支配できる。

 知力でもアルベドとデミウルゴスとパンドラズ・アクターの三人がいれば問題はない。権力も原作を忠実に再現すれば帝国が何とかしてくれるので問題はない。

 

 だがしかし!そんなつまらん真似は断じてしない!冒険とは前人未到の地を歩むからこそ冒険なのだ。危険(リスキー)を恐れて安全(セーフ)に走るなんて面白みのカケラもないのではないか?

 

「そうか、皆は私の意見に賛成ということなのだな。ならば、次の私の意見も聞いてくれるかな?」

 

「もちろんですとも!アインズ様の忌憚なき意見をぜひお聞かせください!」

 

「まあ、慌てるなデミウルゴスよ、え~ゴホン!私が提案するのは正義の味方を作りあげるというもので、その理由は3つある!」

 

 正義の味方を作り上げる、その提案にデミウルゴスはなるほどと眼鏡をクイッと上げ、アルベドも怪しい笑みを浮かべ、ほかの者は?を頭の上に浮かべており、セバスはなんとなく嬉しそうな雰囲気を漂わせているのは勘違いではないだろう。

 

「どうやら、私の言った意味を完全に理解できたのはデミウルゴスとアルベドのみのようだな」

 

 まあ、いきなり正義の味方を作り上げると言われても、悪の巣窟であるナザリックのNPC達が理解できるわけないよな。

 原作でもあったように、ここで正義の味方を作り出すということは必要不可欠なことだ。

 え?原作は再現しないはずじゃないかって?確かにそう言いました。ですが思い出してください。あくまで私が言ったのは忠実にと言っただけで完全に再現しないとは一言も言っていません!

 

「そ、それでモモン――っじゃなかったアインズ様!正義の味方を作り出すってどういうことですか?」

 

「うむ、それでは詳しく説明するとしよう」

 

 皆が俺の言葉に耳を傾ける。っていうか、デミウルゴスとアルベドの視線が怖い!アインズ様っていつもこんな怖い思いしていたの!?

 

「まず最初の狙いは、正義の味方になりすましながら、この世界の情報を集めていく。この世界での平均レベルや使われている通貨の相場などだな。正義の味方それも凄腕ともなれば、情報は向こうから勝手にやってきてくれるわけだ。無論、裏でしか流れないような情報は恐怖公の部下によって探らせる」

 

 デミウルゴスとアルベドを除く皆がなるほどといった風に首を縦に振っている。まあ、デミウルゴスとアルベドならばこのぐらいは読めているよね。

 

「次の狙いはある程度の地位を確立させること。高い地位があればできる行動が増えてくる。更に、同じあるいは少し下か上の地位の者とのつながりもできてくる。それによってナザリックが表舞台に介入したとしても、多少の事なら誤魔化しが効くようになる!」

 

 ほへぇ~!と関心したようにアウラとマーレとシャルティアがお間抜けな声を上げ、コキュートスとセバスは成る程と理解する。

 

「そして、最後の狙いは、私が作り上げた正義の味方を私自身が倒すことで、一気に名乗りを上げることにある!」

 

「あっ!そうか!そうすることで名乗りを上げると同時に希望を断ち切られた人間どもは絶望に落ちる!」

 

「そっ、そこを!僕達が一気に支配するってことですよね!?」

 

「うむ、その通りだアウラにマーレよ。よく気が付いたな」

 

「「えへへ」」

 

 褒められてうれしそうに顔を赤く染める。それを羨ましそうにシャルティアがキィーと唸りながらこっちを見てくる。

 

「つまり、ここで正義の味方を作り出せば、今後の活動をより円滑に進められるほかに、必要な情報は勿論、様々な人物とのつながりを作れるということだ!」

 

 皆がおぉぉ!と関心の目を向けてくる。そんな中デミウルゴスとアルベドは、はぁと小さく息を吐きだす。

 

「まさか、君たちは本当に今言った事が全てだと思っているのかい?」

 

「まったくもってその通りよ!至高の御方々が生み出したアインズ様がこの程度の策しか思いついてるはずないじゃない」

 

 え?何その無茶ぶりは!?この程度しか思いつかないよ!ほかに何があるっていうのさ!?

 どうする?ここで適当に言ってみるか?いやダメだ、下手なことを言えば自滅するのがオチだ!

 

「…あの」

 

「え~!じゃあデミウルゴスとアルベドは分かったていうの?」

 

 おお!ナイスだアウラ!そうだよ、原作でも困ったら「やはり二人には、気づかれていたか……、お前たちが理解した事を皆に話すことを許そう!」って言えばいいんだった!なんで俺はそんな大事なことを忘れていたんだ!?

 自分の記憶力に絶望していると、仕方ないねとデミウルゴスが口を開く。

 ここで聞き逃したら後で絶対後悔するから、しっかりと聞いておかなくては!と気合いを入れる。

 

「やれやれ、仕方ないね。それではアインズ様!この者たちにアインズ様の真の目的をお話してもよろしいでしょうか?」

 

「ふむ、いいだろう。私としても、お前がどこまで私の考えを読めているか知りたいしな」

 

 本当はただデミウルゴスの発案のおこぼれをもらいたいだけなんですけどね!

 

「なるほど、畏まりました。では、アインズ様がお隠しになっていた策を話すとしましょうか」

 

 さて、いったいデミウルゴスがどんな深読みをしたのか聞かせてもらおうか。

 それにしても、正義の味方を作り出すことで4つも策が生まれたのか!?正直凡人の俺じゃあ原作読んでなければ3つすらも思いつかなかったな。

 

「まずは、正義の味方ということは倒すべき悪が必要となる。しかし、アインズ様はそのことについて一切口に出さなかった。つまり、アインズ様は私達と違ってこの世界の事にはある程度詳しいはずですから、倒すべき悪役にも目星がついているんじゃないんですか?」

 

 うぉ!すげぇ!一応正義の味方に冒険者モモンを作り出して、悪役には八本指しておこうと考えていたけど、こうもあっさりバレるなんて!?

 

「流石だなデミウルゴスよ!ウルベルト様が創造されただけのことはあるな!」

 

「おおお!なんと勿体無きお言葉!このデミウルゴス感無量でございます」

 

 感激に打ち震えるデミウルゴスの背中から、アルベドが隣に並び立つ。

 

「感動に打ち震えるのはいいけどデミウルゴス。貴方まだ説明の途中でしょ?」

 

「おっと、そうでした。申し訳ございませんアインズ様。ゴホン!今回の話の重要点は、アインズ様が予定している悪役を倒すこと。私達が用意した正義の味方が悪役を倒している間に、その悪役が貯め込んだ資源を根こそぎ奪いつくす。私達はこの世界に来たばかり、我々が必要とする資源がどこにあるのかも不明とも言える。ならば、大量に資源を持っているといえる相手から奪うのは当然のこと!」

 

 ほへぇ~!そう言えば原作でも八本指の貯め込んだ財宝をエントマがナザリックに持ち運んでいくシーンがあったな。やっぱり頼りなるなデミウルゴスは、これからもどんどん頼っていこう!まさに他力本願乙!!!

 

 皆がデミウルゴスの説明に納得と感心の声を上げてるなか、俺はパチパチと惜しみない拍手をデミウルゴスに浴びせる。

 

「完璧だデミウルゴスよ!その通り、確かに私はこの世界にいる悪党共を利用することを計画していた。だが、まだ敵の戦力も資源も把握できていなかった為に話さなかったのだが、デミウルゴスにかかれば隠し事もできんな」

 

「ふふ、何をそんなにご謙遜を!これだけヒントを出されれば少し頭の切れる者ならば感づきますとも」

 

 フフフッと怪しげな笑みを浮かべるデミウルゴスがちょっと恐ろしく感じる。

 やはり、彼の頭脳は頼りになる。俺は偽物の王だ、守るべきプライドも地位もない。困ったのならばすぐに頼ろう。うん、そうしよう。

 

「さて、これで私の策は以上となる。何か意見がある者は……いないようだな」

 

 皆が納得と感心の入り混じった表情でこっちを見つめてくる。正直居心地が悪くなる。

 さっさと用件を済まして、一息つきたいという考えが頭の中で何回も往復する。

 

「それでは、この作戦には必須である正義の味方役を決めようと思うのだが――――「それならば、セバスがよろしいかと」」

 

 俺が最後まで口にする前に、デミウルゴスが食い気味に発案してきた。

 

「それならば、セバスがよろしいかと。セバスならば、人間どもに敵意を持たず、有効的に事を進めることが出来ると愚考します」

 

 セバスか、確かに設定上はいいかもしれない。だが、原作を知っている俺からすれば――――

 

「ふむ、確かにセバスならば正義の味方と言われても違和感は無いだろう。だがしかし、セバスは外見的に英雄と呼ばれる人物像とはかけ離れている。それに、セバスは正義感が強すぎる。下手をすれば正義感が暴走してしまい予想外の事態を引き起こしてしまいかねない。故にその案は却下する。よいなデミウルゴス」

 

「はっ!そこまでの事に考えが及ばず申し訳ございません!!!」

 

 口を食いしばり、先までの功績を帳消しにする程の失態を犯したと言わんばかりの態度だった。

 

「そう悲観するなデミウルゴス。確かに、このナザリックでセバス以上に正義の味方が似合う者はいないだろう。だからこそ、お前の提案もそう悪いものではなかったぞ。私は案を出す者よりも、出さない者にこそ罰を与えるべきだと考えている。だから、頭を上げろデミウルゴス!」

 

 なるべく傷つかない言葉を探りながら選び、お前は悪くないと遠回しに伝えてみる。

 

「おお、アインズ様!…失礼いたしました。これしきの事で少々取り乱していては、私の創造主であるウルベルト様に示しがつきませんね」

 

 ネクタイをキュッと締め直し、いつもの冷静沈着なデミウルゴスに戻ってきた。それにしても、いつも対立していると言っても過言ではないはずのセバスを正義の味方役に推薦するとは?ケンカするほど仲がいいってことかな?

 

「え~!ゴホン!実は、正義の味方役となる者は既に私の中で決まっている」

 

 守護者たち全員がゴクリと唾をのむ音が耳に響く。ほんの少しの間をおいて俺が口を開く。

 

「では、今作戦の主役である正義の味方役には――――この私が正義の味方役を演じよう!」

 

「「「「「「「!!!???」」」」」」」

 

 誰もが驚愕の顔で立ち上がって、こっちに詰め掛けてきた。

 俺は皆が口を開く前に、手で黙れ!とジェスチャーで鎮める。

 

「皆が心配に思うのは分かる。だが、この作戦は我らナザリックの最初の作戦で、今後のナザリックの動きを大きく左右する案件だ。その場その場で、臨機応変な対応が求められる非常に難しい役割である。なればこそ、この役を演じるのは私こそがふさわしいと思わんか?」

 

「そ、それは…」

 

「確かにそうですが…」

 

 デミウルゴスとアルベドは俺の説明に理解はできてはいるが、納得はできていないようだ。とデミウルゴスとアルベドが悩んでいる横からシャルティアが口を挟む。

 

「確かに、我らが主が前線に立つのは不本意でありんすけど、我らナザリックの者に匹敵するような敵がいるんでありんすの?」

 

 強者ゆえの疑問であり、傲慢さがにじみ出た質問であったが、アインズの背中を押し出すには充分な一言だった。

 

「そう!シャルティアの言うとおりだ。お前たちが私を心配するのは分っている。だが、ここに転移する前に多少は調べたが、このあたり周辺に脅威となる存在は発見されなかった。勿論、そういった存在が意図的に姿を隠しているという可能性も否定はせんが、そこまでいくと話が進まん。それにな、私はとても好奇心が強いのだ。この異世界の景色を私自身の目で見て回りたいのだ!それくらいの我が儘は許してくれるだろう?」

 

 最後まで納得していなかった2人がついに折れた。他の守護者たちはアインズ様なら何かお考えがあるのだろうと考えて否定的な態度は取らなかった。

 それが俺にとってはありがたい。デミウルゴスやアルベドみたいな配下は2人だけでいい、パンドラズ・アクターは頭がいいが、チョロイので問題外です。

 

「とりあえず、私1人で正義の味方を演じるのは流石に厳しいし、お前たちも納得はしないだろう。そこで、私の供を選ぼうと思う!今回は私がほとんど1人で決めてしまったので、明日以降にお前たちが選んだ者を供とする。ではこれにて解散とする!」

 

「…あっ!?あと今後の作戦の為に、今ここに居る者は連れていけん!そこだけを考慮して相談してくれ!」

 

 そう言い残して、俺はローブを翻しすぐさま転移魔法を使用して、この場を後にした。

 アインズがいなくなり、その場に残された者達は一斉に息を口から吐き出した。

 例え精神が変わっていたとしても、そのお姿はこのナザリックの主であるモモンガである。緊張しないなんて無理な話である。

 

「ふぅー…、そんで皆これからどうすんの?」

 

「ドウスルモナニモ、アインズ様ヲオ守リデキル者ヲ選ブダケノコト!」

 

「とはいえ、アインズ様をお守りできる実力と人間社会に溶け込める者となりますと、いささか人数が限られてきます」

 

「そうね、本来ならば守護者の何名かが護衛につかせたいところだけど、アインズ様が他にもお考えになられている計画に私達が参加している以上は、プレアデス達の中から選び出す以外はないわね」

 

「けれど、どうするんだい?アインズ様は連れていく人数を指定はしていなかったが、あまりにも多すぎるとアインズ様も管理しきれないかもしれないよ?」

 

「だ、だったら僕はシズさんをお供にすればいいと思います!はい!」

 

 いつも気弱なマーレが最初に提案を出してきた、そのことに多少は驚くがそれよりもマーレの提案を吟味する。

 

「確かにシズは大人しいですし、体の一部を覆い隠せば人間と大差はないでしょうが、却下です。彼女はこのナザリックのギミックとその解除法の全てを熟知している。故に、あまりナザリックを離れるのは好ましくない」

 

 確かにいい案だと認めはするが、彼女はこのナザリックにとって有能すぎる。だからこそ、アインズ様と同じくらいナザリックの外へは出ていってほしくない存在だ。折角のマーレの案だが、明確な却下の理由がある為、その案を認めることはできない。

 

「でもマーレ、君の案はそんなに悪くなかったよ。むしろ良いとすら言える。ただ、問題だったのが、彼女が有能過ぎた。この一言に尽きるね。だから、そんなに落ち込まなくていいんだよ。アインズ様が先ほどもおっしゃた通り、自分の意見を素直に発表するということが大事なのだよ。まあ、先ほどこうして慰められた私が言うセリフではないかもしれないがね」

 

 こうして、あれでもないこれでもないと守護者達が必死に考えをまとめ上げ、なんとかアインズ様がおっしゃった明日までに供となる者の選別を終えることができた。

 

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 あの後、ナザリック内をグルグル迷子になりながら、偶々発見したメイドに「今から自室に戻るのだが、案内を頼めるか?」と言うと、感激で涙を流したメイドがとても綺麗な姿勢で案内を引き受けてくれた。

 そして、眠る必要もないので、明日すべきことと今できる事の確認をしていると、デミウルゴスから伝言(メッセージ)で供が決まったから闘技場まで来てくれという内容が送られてきた。

 すぐさま転移魔法で闘技場に飛んでくると、デミウルゴスがしゃがれた声で待機していた。

 

「…どうしたデミウルゴス?随分としゃがれた声のようだが?」

 

「これはお恥ずかしい。少々他の守護者達とアインズ様の供となる者についての議論で白熱してしまいました」

 

 しゃがれた声でハハハハハと笑っているが、まさかこうまで真剣に考えてくれるとは!?本人的には適当に明日着ていく服選んでいてくれる?レベルの頼み事だったのだが。

 

「そ、そうか、ご苦労だったな。ところで、何故デミウルゴスだけなのだ?」

 

 他の守護者達がいないのは……まあ、よしとしよう。だが、お供となるはずのプレアデスの誰かがいないのはおかしいだろう。

 

「申し訳ありません。シャルティアは頭が会話についてこれず、知恵熱を出し自室にて休息を取っており、アウラとマーレは普段の睡眠時間を大幅に超えて夜更かししたために只今睡眠中で、コキュートスとセバスは暴走したアルベドとシャルティアを止めるために瀕死の重傷を負ってしまいペストーニャ・S・ワンコによって治療中の為に不参加となりました。そして、肝心の守護者統括アルベドはナザリック警備を担当していたコキュートスと、メイド達の管理をしていたセバスを瀕死の重傷を負わしたために、現在両方の仕事を片づけている最中でございます!」

 

 誠に申し訳ございません。と深々と頭を下げるデミウルゴスに慌てて頭を上げるように命令に近い形でお願いする。

 

「はあ、たかが供となる者を選ぶ話し合いで、デミウルゴス以外が全員参加不可となるとは、一体何が起きたのか詳しく知りたい物だ」

 

 呆れながら手で顔を覆い天を仰いぐも、ここで時間を食うわけにはいかない。イベント開始時間というのは待ってはくれないのだから。

 

「お前以外が全員参加できなかったのはこの際だ不問にしておく。だが、何故この場に私の供となる者がおらぬのか説明してもらおうか?」

 

 どんな理由にせよ、ここで供となる者がいないのは不味い。人間というものは、実力が高すぎると味方であろうと畏怖や人外の化け物の対象となってしまう。たった1人で数々の武勇を作れば、最初は好意の目で見られるかもしれないが、最終的には化け物を見る目になってしまうだろう。

 しかし、ここで仲間がいればどうだろうか?原作でもナーベという相棒がいたからこそ、冒険者モモンは人々から英雄とされているのではないか?

 つまり、相棒となる者がいるといないのとでは大きく異なってくるのだ。

 

「はっ!ご安心ください。供となる者は、ソリュシャン・イプシロンとナーベラル・ガンマの2人に決まりました。ただ、かなりギリギリまで選別を行っていたために、2人の仕事の引継ぎと下等な人間どもに合わせた服装の準備のため少々お時間をもらって――おや?噂をすればということですか。どうやら2人がやってきたようです」

 

 闘技場入口の方に視線を向けるデミウルゴスにつられ、俺も闘技場入口の方に視線を動かす。

 そこには茶色のローブを着たナーベラルと、毛皮のコートと短パンで胸元を強調する何とも派手な服装をしたソリュシャンがいた。

 

「遅くなり申し訳ございませんでしたアインズ様!ナーベラル・ガンマ到着いたしました!」

 

「同じくソリュシャン・イプシロン到着いたしました!」

 

 確かにナーベラルは当然のこと、ソリュシャンも人間として王都に潜入していたから納得したが、これほど簡単な人選に何故負傷が出るほど大騒ぎになるのか?やはり、ナザリックのNPCは良くも悪くも個性的だなぁ~!と楽観的解釈で済ます俺(笑)

 

「よくぞ来た!ナーベラルにソリュシャンよ!お前たちを私の供として歓迎しよう」

 

 格好つけて右手を2人に差し伸べる。2人とも器用に立ち上がらずに背筋だけを伸ばし、目をキラキラと輝かせる。よく見ると、目に涙が溜まりそれが光に反射していた。

 

「「なんと勿体無きお言葉!我らもアインズ様のお供になれ光栄の限りです!」」

 

 ほぉ!流石は姉妹というべきだろう。息ぴったしに言動に感心すら覚える。

 

「さて、堅苦しい挨拶は抜きにして、まずお前たちはセバスから私の正体は聞いたのか?」

 

「はい。正直信じられませんでしたが、至高の御方々が私たちのために新たな主を創造して下さったというのであれば、それに従うことこそが配下の務めでございますゆえ」

 

「ええ、ナーベラルの言うとおり。我らはアインズ様に絶対の忠義を誓わせてもらいます」

 

 ナーベラルとソリュシャンの様子から見て、どうやら反抗心とかは持たれていないようで一安心する。

 

「そうか、では早速お前たちに活躍の場を与えるとしようか!」

 

 アイテムボックスから一枚の鏡を取り出す。その鏡の名前は|遠隔視の鏡《ミラー・オブ・リモート・ビューイン

 グ》と言われる。いわゆる衛生カメラのようなものだ。

 俺はこれを使って、一つの集団を映し出した。その集団は鎧を着こんだ騎士で、何やら話し込んでいた。

 

「私が調べた結果、こいつらは周辺の村々を襲って虐殺を繰り広げている集団で、さらに、こいつらを追ってリ・セティーゼ王国・から王国最強と呼ばれるガゼフ・ストロノーフとその部下が追跡しているようだ。そこで、私は思いついた!ここで虐殺を繰り広げている集団を正義の味方となった私がひっ捕らえ王国に恩を売れば、今後の王国での活動もやりやすくなるのではないかと!?」

 

 デミウルゴスは啞然とする。自分たちがバカをしている間に、主人であるアインズがすでに計画を一歩も二歩も先に進めていたことに、驚きとともに羞恥心がこみ上げてくる。

 ああ、なんて愚かな(しもべ)なのだろうか。我々は創造主のお役に立つために創造された存在である。例え偽物の主といえど、至高の御方々が任命した新たな主人に忠義を尽くすのは当然のこと。

 だが、今のところまるでお役に立ててはいない。それどころか、主人の期待を裏切る始末だ。そんな者など、存在する必要すらない。

 だがしかし、このまま何のお役に立つこともなく自害すれば、それこそ主人に対する忠義に反するというものだ。

 

「なるほど、では万全を期して周囲に八肢の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)とシャドー・デーモンを配置させておきましょう!」

 

「ふむ、確かに万全を期すならばそれぐらいしなくてはな。やはり、私にはデミウルゴス!お前が必要だ。これからもよろしく頼むぞ!」

 

 よろしく頼む!その言葉が今の私にとってどれほどの救いだったのかは、……まあ、言わないでもおわかりでしょう。

 

「もちろんですとも!今後もこの私デミウルゴス!誠心誠意アインズ様のお役に立てるように努力いたします」

 

 ウンウン、よくわからんが、デミウルゴスが妙にやる気になってくれているようだし、問題はない。

 

「では、後はこの集団が次の村を襲いある程度の被害が出たところで、助太刀に入る。わかったな?」

 

「「「はっ!了解しました!!!」」」

 

「ではデミウルゴスよ!至急八肢の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)とシャドー・デーモンに集団の監視を命令させろ。ナーベラルとソリュシャンは連中の動きがあるまでここで私と共に待機とする」

 

 そう言うと、デミウルゴスはすぐさま行動を開始して、闘技場を後にする。その間に、俺はナーベラルとソリュシャンに考えておいた、正義の味方の設定を教え込む。

 

「よいか2人共、私たちはこのナザリックとはまったく無関係な人間を装わなければならない。故に、本来の名で呼び合うのは禁止とする。だがしかし、あまりに接点の無い名前で呼ばれても急には反応できまい。そこで、ニックネームといった形でお前たちに名を授ける」

 

 新たに名を授けると言われ、感動とこの使命にかける意気込みが更に強くなった。

 

「命名する前に、先に冒険者としての私の名前を教えておくとしようか」

 

 死ぬ前からずっと考えてきた。もしも、二次創作みたいに転生できたならば、冒険者としての名前はこれにしようと!

 

「私達は王国を滅ぼす一手だ!それをなぞって、かつてのアインズ・ウール・ゴウンの前の名前!九人の自殺点(ナインズ・オウン・ゴール)からとって、冒険者ナインと名乗ることにした!」

 

「それはとてもよいお名前だと思います!」

 

「私もナーベラルと同じく至高の御方の仮の姿にふさわしいと思いますわ!」

 

 そうだろそうだろ!アニメで王国動乱編の茶番を見ていた時から、この名前が一番いいと思っていたんだよ。

 ぶっちゃけ!モモンでも別にいいんだけど、折角だし自分だけのニックネームとか欲しいからね。

 

「ありがとう2人共!では、次はお前たちの名前だな。流石に、至高の御方々が名付けた名前を完全に変えるのはマズイだろう。そこで、少し簡単に、ナーベラルはナーベ、ソリュシャンはシャリュンと名付けようと思っているのだが、異論はないか?」

 

 ナーベラルは他の名前が思いつかず原作と同じ名前にしたから問題はないが、ソリュシャンはリュシャンってなんか舌が噛みそうな名前になっちゃったから、結構不安なんだよな。

 

「異論などございません」

 

「……私も、問題はありませんわ」

 

 ナーベラルは即答だったけど、ソリュシャンはなんかちょっと空白があったし、本当に大丈夫なのか?俺が相手だから変に遠慮していたりして。

 

「あ~、ソリュシャン?お前の名前だが、気に入らなければ別に自分の好きな名前に変更してもよいのだぞ!?」

 

「そんな必要はございませんわアインズ様。私の偽りの名にとてもふさわしいではないですか!」

 

 ニッコリと花が咲きそうな笑みを浮かべるソリュシャンの顔は、とても嘘を言っているようには見えなかった。

 

「そ、そうかそうか!それならば良かった。では……ん!?どうやら例の集団が動きを見せたようだ」

 

 コッソリと、俺の影からデミウルゴス配下のシャドウ・デーモンが例の集団が動き始めたと報告してきた。

 俺は魔法の鎧を生み出し、アインズから冒険者ナインへと姿を変える。

 

「それでは行こうか!冒険者ナインの伝説の第一歩をこの地に刻もうぞ!」

 

「「はっ!!!」」

 

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 いきなり、転移魔法で村の中央に現れるのは不自然すぎるだろうと思い、村から少し離れた場所に転移魔法で移動する。

 すると、次の瞬間汚い男共の怒号が森の奥から聞こえてきた。間違いなく例の集団の一部だろう。

 

「おら!待て!」

 

「逃げんじゃねぇ!」

 

 つまらんテンプレなセリフだが、雑魚にはとてもお似合いのセリフだな。っと心の中で冷笑する。

 

「やはり、俺には運があるようだな。こんなにも早く活躍の出番が回ってくるとは!」

 

「我らが主であるアイ―――ナイン様であるならば当然のことでございます」

 

「世界すら味方につける程の強者であるナイン様ならば、当たり前のことかと」

 

 非常に高い高評価をつけられ微妙に困るのだが、今更の事かと無理矢理納得して声の聞こえた方向に向かって走り出す。

 魔法職といえど、カンストプレイヤーのステータスと神様の特典と合わさったこの肉体のスピードは凄まじく、ナーベとリュシャンの2人を置いてきぼりにして、声の聞こえた場所まで一瞬にしてたどり着く。

 たどり着いた先では、幼い二人の姉妹に向けて、剣を振り下ろそうとする兵士がいた。

 

「ふむ、ベストタイミングだったといったところか」

 

 背中に背負った大剣を一本手に取り、兵士の剣が姉妹に当たる前に、素早く俺の大剣を割り込ませる。

 

 カキーン!と剣と剣がぶつかる音が森に響き渡る。上から振り下ろされた剣を片手で持った大剣が微動だにせず受け止める。それはつまり、兵士と俺の腕力に歴然とした差があるという証明だ。

 

「ぐっ!な、なんだ貴様は!?」

 

 当然の疑問だな。さっきまでいなかった者が、急に現れたのだから。だから、私は紳士に敵の質問に答える。

 

「私が誰かだと?ならば教えておいてやろう。私はナイン!ただの旅人のナインというものだよ」

 

 これが、王国最強となる冒険者ナインの伝説の始まりとなる。

 

 

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