エンリ姉妹を襲っていた相手はただの雑魚だったので、ナーベとリュシャンの二人が来る前に、少し殴って気絶させ、道端に無造作に寝かしつけておく。
「やれやれ、対して手応えは感じなかったな。ところでそこの君たち怪我とか大丈夫かい?」
「はっ、はい!助けてもらったおかげで、別に怪我はありません!」
大して戦闘という実感が得られずに、ガッカリといった感情が浮かび上がるが、これからの足掛かりになる姉妹を無事に保護できたのは御の字と言えるだろう。
「そうか、それは何よりだ。ところで、このような連中は他にもまだいるのかな?」
「えっ!?そっ!そうなんです!!!今村の人たちがあの兵士の仲間に襲われていて!皆…皆殺されて……お、お願いです騎士様!村の…村の人たちを救ってください!もしかしたら、もうみんな殺されてるかもしれないですけど。それでも、少しでも生き残った人がいるのなら助けてあげたいんです!どうか、どうかお願いします騎士様!」
「お、お願いします」
村が他の兵士に襲われているという事実を思い出したエンリは、無礼と承知しながらも、藁にも縋る気持ちで目の前の漆黒の騎士に頭を下げる。状況がよくわかっていない妹のネムも姉にならって一緒にお願いする。
「そうですか、村があの兵士の仲間に襲われていると。……分かりました。今すぐ村へ向かうので、場所はどっちか指差してくれないか?」
元々村を救うのは計画の内なのだが、こんなにも幼い姉妹が懇願しているのだ。少々計画よりも早く助けに向かおうと何ら問題は無いだろう。
「「ナイン様!!!」」
早速村へ向かおうとしたところ、置いてきぼりにしてきたナーベとリュシャンが大声をあげながらやって来た。っていうか半分くらい2人のことを忘れていた!支配者失格だよねぇ。2人共ごめんなさい。
「我々を置いて先に行くのはおやめください!もし御身に何かあれば、我々が盾になって死ぬことができません!」
ナーベの狂気的な発言に、エンリがいぶかしんだ表情で俺を見てくる。
正直言って心に傷を付けられた気分だった。
「こ、こら!ナーベよ!私のために死ぬなんて言うんじゃない。せめて、共に戦いますぐらいにしておけ!」
「も、申し訳ございません!」
何かナイン様を怒らせるようなことを言ったのだろう。私は慌てて頭を下げる。
「ところで、ナイン様。この子達は何者ですか?」
「ん?ああ、この子達は先程の悲鳴を上げていた村娘だ。どうやら、そこで私が気絶させた兵士に追われていたようだ」
「なるほど。それで、この雑種共は始末なさるのですか?」
極めて純粋そうにナーベが始末するのかと聞いてきた。これには、さすがの俺も「はぁ?」とつい口からアホみたいな声が自然にこぼれ出る。
え!?とビックリ顔を晒す姉妹に、俺はすぐさま後ろに回り込み手刀を当てて気絶させる。
「やはり、始末するのですね。それならば、わたくしにお任せを!」
まったくこいつは、ナーベラルのカルマ値はいくらだったかな?と考えながら、俺はナーベに少々強めのチョップを頭に叩きつける。そのことに驚きと困惑、そして、また主君を怒らせてしまったのかという絶望が入り混じった表情で、ナインを窺うナーベラル。
それを呆れたように見るナインとリュシャンに?マークをナーベは浮かべる。
「はぁ~、まったく、お前は何を考えているんだ!?今回の目的は何だったのか言ってみろ」
「はい、確か下等な人間共を支配する前準備として、仮初の英雄となる足掛かりを作るために、村を襲う兵士を八つ裂きにすることかと!」
え~!?確かに兵士共を仕留めるのは目的の一部なのだが、ナーベはそれが全てだと酷い勘違いをしてやがる。
リュシャンも姉妹の残念具合に申し訳ないという謝罪が視線と態度で俺にひしひしと伝えてくる。
「いいこと、ナーベ!確かに兵士を八つ裂きにすることは確定だけど、それを証明するために証人として村人を生かしておかなければならないのよ。だ・か・ら、始末なんてしちゃダメなのよ!」
リュシャンに細かい説明を受けて、ようやく理解したナーベは、先程までの自分の発言を思い出した。
すると、白かった肌が急激に青色に変わっていく。
今思い返してみれば、自分はなんという愚かな事を口に出していたのだろうか。
私は自身の犯した愚かなる罪を償うために、腰に携えた剣を抜き、己の首を切り落とす自害を決意する。
『よせ!』
剣が首を掻っ切る寸前で、ナイン様から静止の声が上がる。ピタリと剣は首の数センチ手前で停止する。
主君の命令は絶対である。例え、自害の最中であろうと、そのお言葉を違えることは、死よりも重いことである。
「よいかナーベよ、お前は深く考えることを覚えよ!軽はずみな行為は私が最も嫌う行為の一つだと知れ!今お前がしようとしていた行為も、私から見れば軽はずみな行為と言える。だがまあ、本来ナザリックの外へ出ないお前が失敗するというのは当たり前の話なのだ。だからこそ、この失敗を糧に、今後の活動に活かすことを深く考えて行動するように!」
「はっ!!!このナーベラル!この失敗を償えるように、今後更なる忠義をアインズ様に誓います!」
早速今の姿で使ってはいけない名前を使っているのだが、こんな小さなミスぐらいは目をつぶるとしよう。
「それでいい、ではさっそくお前に失敗を償う機会をやろう。今ここで気絶しているこの姉妹をこの先にある村まで運ぶのだ。ついでに、そこで伸びている兵士もな!一応言っておくが、絶対に殺すなよ!リュシャンは私と共に、村を襲っている兵士の制圧に向かうぞ!」
こうして、俺とリュシャンはナーベを置いて、カルネ村を目指して走る。1分も経たず村に着いた俺達は、村人達に被害が出ないように迅速に兵士共の意識を刈り取っていった。
刈り取り作業中に、お金あげます星人さんに出会いましたが、問答無用に意識のみを刈り取らせてもらいました。
ちょうど、兵士全員の意識を刈り取ったタイミングで、姉妹と兵士の4人を担ぎ上げたナーベが村に辿り着いた。具体的に言うと、姉妹は紐で抱っことおんぶの態勢で持ち運んでいたが、兵士は足をロープで結んで引きずっていた。
「んぅ……、ここどこ?」
「あれ…?私どうして村に戻って…?」
軽い気絶状態から目を覚ましたネムとエンリは今の状況がよくわかっていないようだ。俺はまくしたてながら、君たちは疲れて眠ってしまったんだと厳しい言い訳で誤魔化した。
2人は村を救ってくれた騎士様が嘘をつくはずないと信じ切って、俺の嘘を信じてくれた。
「おお!こんな辺鄙な村を救って頂いてなんといえばいいやら……」
「いえいえ、誰かの悲鳴が聞こえたのならば、それを助けに行くのは人として当然の行いですから」
ペコペコと頭を下げる村長に、村人から正義の騎士様と見られている俺は、ラノベで典型的な主人公が言いそうなセリフを口にして、徐々にこの村の人たちの信頼と好感度を上げている。
それと、捕まえた兵士の集団は、空き家になった家に無理矢理押し込んでそのままにしている。
ナーベとリュシャンは、常にナインの後ろに立っており、その美貌も併せてどこからどう見ても騎士様に仕えるメイドにしか見えなかった。
なにより、人を寄せ付けさせないナーベの雰囲気と人を喰らいそうな魔性の魅惑を放つリュシャンに、村人たちは遠巻きながらに、自分たちよりも上の人物なのだろうと思い至る。
「た、大変だぁ!!!村長!この村に向かって、別の装備を着こんだ兵士達が近づいてきている!」
「な、なんじゃと!?」
恐らくその兵士達は、王国戦士長が率いる者たちなのだろう。だが、万が一にも違う可能性も考慮して、あらかじめシャドウ・デーモンに偵察を頼んでおいた。
村長が不安げにこっちを見てくると同時に、シャドウ・デーモンが視界の端に映り込み。問題なしのジェスチャーを送ってきた。
「安心してください。村人の皆さんはなるべく壊れていない家に避難を!村長は念のため私と一緒に、村に近づいてきているという兵士に会ってください。勿論、敵であれば私が貴方に指一本触れさせはしませんので!」
「おぉぉ!それはありがたい。おい!お前は村のみんなにこの事を伝えろ!確か西側の家はあまり壊されていなかった筈だ!特に、女子供を優先的に避難させろ!」
「はい!」
村長は迅速な判断で、さっき報告に来た男に指示を出す。村といえど、人をまとめる人物だ。それなりに動ける人物なのだな。と俺は心の中で感心している。
「それでは、村長!行くとしようか。ナーベとリュシャンは万が一に備えて、村人達の近くで待機しておけ!」
「「はっ!」」
さて、見せてもらおうか。王国最強の男の風格とやらを!原作のアインズも認めた本物の漢を見せて欲しいものだ!
そして、俺と村長以外誰もいなくなった村の入口の前に、王国戦士長率いる騎士団が姿をみせる。俺は村長を守る形で、前に進み出る。
それに対して、戦士長も馬から降りて、こちらに向かって進み出てきた。
「――私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を退治するために王の御命を受け、村々を回っているものである!ところで、どこかの国に仕える騎士殿とお見受けしますが、貴方は何者ですかな?」
「なるほど、王国最強といわれる戦士長殿でしたか。おっと、失礼!私の名はナインといいます。南方からエ・ランテルへ行く途中で、この村が襲われている最中だったので、助けに来た次第です」
きわめて友好的に、自己紹介とこの村を救った経緯を始めた。それを聞いた戦士長は重々しく頭を下げ、感謝の言葉を口にする。
「村を救っていただき感謝の言葉も無い」
「顔をあげて下さい。誰かが悲鳴を上げて困っていた。ならば、それを助けるのが力を持つ者の役目ではないですか!」
『力を持つ者が助けるのは当たり前』この言葉に心がどれだけ揺らいだのだろう。本来この国の一部であるカルネ村を守るのは我らのはずだった。しかし、貴族派の妨害で王国の五宝物はおろか、部下もまともな数も揃えられずに出発するはめになってしまった。
「ありがたい!本当にありがたい!!!」
目から涙がこぼれ落ちそうになるのを、歯をくいしばって耐える。
俺は目の前の御仁にこれ以上の惨めな失態を見せまいと、落ち着いて息を整える。
「ともかく、貴方はエ・ランテルにいくというのであれば、これを持っていくがいい」
そう言って、ガゼフが渡してきたのは一枚の紙だった。
「…?ガゼフ殿。これは一体何でしょうか?」
「これは私の名前が記入された通行証だ。エ・ランテルの衛兵に渡せばすんなりと中に入れてもらえるはずだ」
「そうですか。ならば、ありがたく頂戴します。もしまた何かあれば、いつでも駆け付けますよ!」
「ハハハハハ!それは心強い!ならば、その時はまたこちらもそれ相応の礼をいたせねばならぬな!」
互いに、高笑いしながらどちらからともなく手を取り合って握手を酌み交わす。
まさに、友好的な関係というものを絵に描いたような光景である。そこに、村長が突然割って入る。
「――ナイン様、戦士長様」
ああ、そういえば忘れていた。今日はとことん物忘れがひどい日だ。
「戦士長殿!まずは、相談なのですが、この村は今襲われたばかりで酷い有様です。ですので、少しばかり人手を貸してもらってもよろしいでしょうか?それと、王国からはこの村に対してどのくらいの援助ができるのかを、ここにいる村長の自宅で話し合いたいのですが?」
「それもそうですな。おい!お前たちは村のこの村の手助けをせよ!私はこの御仁と村の村長を交え、今後の話し合いを行う!以上だ!全員速やかに行動を開始せよ!」
「「「「「「「はっ!!!!」」」」」」」
腐った王国の騎士といえど、流石はガゼフの部下達だ。指示を受けた瞬間、すぐさま各々が行動を始めた。
その間に、私達は村長の家で真剣な話し合いを始める。話の内容は今後の村の援助と捕らえた兵士の処遇についての二つだった。
「残念ながら村長殿、今の王国に近辺の村々を支援するほどの余力はないのです。精々が減った村人の人数分だけ税を減らすぐらいしかできないでしょう」
「そ、そんな!?今回の騒動で村の若い衆が大勢殺されてしまった!そんな中で、僅かばかり税を減らされるだけではとても今年の冬を乗り切ることはできません!」
「ですが、そこをなんとか乗り切って頂けませんか!?今の王国は、帝国と戦争の為に力を蓄えなければいけない時期でして……申し訳ないが、これ以上の支援は望めんのだ」
村長とガゼフは互いに顔を下に向け、絶望を絵に描いたような表情を顔に張り付けている。そんな中でも、余裕の態度は崩さずに、優雅な佇まいで現状を打ち崩すべく、ナインが動きをみせる。
「ならば、いい案が一つあるんですが……」
下を向いていた二人が、突然垂らされた救いの糸に顔を上げる。
「なに、簡単な話じゃないですか?王国は戦争の準備に金を使いたい。村は復興のための資金が必要。ならば、今この村で捉えている兵士の身柄と装備を王国に売ればいいだけじゃないですか?」
「な、なんと!?」
俺の話に村長は目を見開いて驚く。そんなに驚くことのものだろうか?
「ナイン殿本当によろしいのか?」
ガゼフも驚きを隠さずに、椅子を蹴飛ばして立ち上がる。
「よろしいとは?王国は新たな装備が買える。村は資金を手に入れられる。どちらも得をする話ではないですか?」
「確かに、その案は王国もこの村も互いに得はすれども、貴方には何のメリットもないではないですか!本来ならば、あの兵士の生殺与奪の権利は、倒した貴方にある。それをすべてお譲りして、本当によろしいのか!?」
ガゼフの説明にようやく、俺は理解した。何故この2人がここまで驚いていたのかを、この命が軽い世界で、自己犠牲で人助けをする者など皆無と言っていいだろう。
「別にかまいませんよ。私はただ困っている人の声が聞こえたからこの村に駆け付けた。そして、私が倒した兵士を譲り渡すことで、問題が解決できるのならば、何のためらいもございませんよ」
「な、ナイン様!ありがとう。ありがとうございます!」
さめざめと涙を流す村長に、そっと肩に手を当てて、ゆっくりとなだめる。
「……」
……なんという仁徳あふれた御仁なのだ。もし、もしこのような御仁が我が王国に仕えてくれたのならば……。
私は首を振って、その考えを振り払う。
もしこのまま考え続けていたら、思わず口からこぼれ出そうになるからだ。『私と共に、王国で一緒に剣を握って欲しい!』と……、だがいけない!このような汚れを知らぬ澄んだ泉のような御仁が、あの汚らしい貴族に食い散らかされるなどあってはならぬ。
俺はそう固い決意を胸に抱き、国へ帰ろうという答えが出たとき、騒々しく玄関の扉が開かれる。
「ガゼフ戦士長!大変です!カルネ村を囲むように、複数の人影を確認!そのままそのままこちらに接近しつつあります!」
「なに!?」
息を切らした部下の報告に、すぐさま窓を開けて周囲の確認を急ぐ。
窓から見える外の景色には、確かに複数の何者かがこちらに向かって歩いてきている。
(ついに、スレイン法国の陽光聖典のおでましか。奴らが持っている切り札で戦闘の実感ができるかどうか、とても楽しみだな!)
心の中で、これから先のことを考えるとワクワクしてくるが、そのことを面には出さず、やれやれといった態度で立ち上がる。
「また面倒ごとですか?この村を襲った兵士の仲間か?もしくは、偶然この村に駆け付けたどこかのお偉いさんの首にでも取りに来たのか?」
俺の一言にガゼフが目を見開いて反応する。
「そうか、クソッ!今回の一件は全て私を追い詰めるための策略だったのか!!!」
ガン!と家の柱を叩きつける。王国最強の戦士長程の強者が怒り任せに叩きつけた柱は、ギシギシと不安な音を立てながら左右に揺れ動く。
「…はぁ~、無様な真似を見せてすまなかった。そして、すまないがまた力を貸してくれぬだろうか?勿論、相応の礼はさせてもらうつもりだ!」
「かまいませんよ。それにしても、随分早く
「ハハハ、そうですな。……貴方は我が国の騎士ではない。だから、もし負けそうになったならば逃げてくれ!あなたのような御仁がこんな所で死んでいいはずはないのだから!」
ガゼフがそう力強く言い放つその姿に俺は漢を見た。