とある冒険者のキセキ 「元題名 とある「えこ民」の物語」 作:想いの力のその先へ
今後の更新についてですので、よろしければご一読宜しくお願いします。
とある「えこ民」の物語 十話
無限回廊から帰ってきた翌日、今日はアミス先生の教室で最後の勉強になるらしい。 登校してきた時にアミス先生自身からその言葉を聞いた。
なんでも私は既にクエストもこなしているし、大丈夫だろうという判断のようだ。
今日の授業は憑依システムとたま入れに関してとの事。
憑依システム、これは自分の右手、左手、胸アクセ、胴体の装備か、相手の同じ部分の装備に文字通り憑依することで、憑依アイテムを持つ宿主のステータスを強化できるシステムだ。
また憑依中は中からスキルを使うことで宿主の援護や、本来自分自身にしか掛けられないタイプのバフを宿主に使ったりと他の人の支援に特化しているともいえる。
たま入れは運動会によくあるあの競技の事ではなく、自身の魂の一部、心の一部と言うべき部分を相手に貸すことで自身は経験を得られ、借りた相手は心の職業のグループによって違うが、一部のステータスが強化できるというシステムだった。
「それじゃローキーちゃん、憑依は全員で何人まで出来るか分かるかしら」
「はいなのじゃ、一般的な人たちは4人。 世界を救った彼らは何故か3人だったそうじゃ」
「はい正解よ、良くできました♪」
まさかの、そしてある意味においては久しぶりの差異だった。
一般人は4人、アバターは3人、この違いは一体どこにあるのだろうか……
そうやって思考の渦に嵌っていると、アミス先生に声を掛けられていた。
「ナナシちゃん? ナナシちゃん、大丈夫?」
「あ、はい大丈夫です。 すみませんちょっと考え込んでました」
「何か質問があるなら言ってね、答えられる範囲でなら答えるから」
「では、質問ですが一般の人と彼らで何故憑依できる数が違うんでしょうか?」
「う~ん…… それは先生も良く分からないの」
アミス先生にも分からないのか、一般的には知られていない何かか、もしくは法則が変わっているのかもしれない。
それに何かを忘れているような気がするので、それを思い出すことが出来れば、憑依については何かがわかるかもしれないな。
そう漠然と思ってしまう。
「それは兎も角、ナナシちゃん。 今回の憑依について何か知っていることはあるかしら?」
…………一応あるにはあるのだがこれは言ったらダメな奴だよなぁ。
「ある事はあるのですが…… 一部だけ、今でこそ憑依は問題なく出来るようになっていますが、技術が確立した当時は、憑依者が自身の身体の再構築に失敗して死亡する例もあったそうです」
「そ、そうなの。 でも今は大丈夫なのよね?」
「ええ、今は完全に技術が成熟してるので何の問題もありません」
その言葉を聞いて皆ほっとしているようだ、流石に自分がいつも使っている技術が、実は死と隣り合わせだったなんて思いたくないだろう。
それじゃ気を取り直して、たま入れについて………… とアミス先生の授業は続いていった。
そして放課後アミス先生に呼び出された、何も悪いことはしてないはずだが…… それとも卒業証書授与という奴だろうか。
とにかくアミス先生の所に顔を出すと先生に席に着くように促される。
「ナナシちゃんが此処に来てまだ一月も経ってないのにもう卒業なんて速いわね…… 元々あの子達の知識もあったんだし当然なのかもしれないけど」
「でも先生には本当お世話になりました、ありがとうございました」
プレイヤーの時と言い、今回と言い本当にお世話になりっぱなしだった、今はこの世界にいるし制約もないから恩返しも出来るだろう。
そう思っていると先生から紙を二つ渡される、一つは手紙、もう一つこれは……
「はいナナシちゃん、これは一応卒業証書よ。 こういうのを渡した事はないのだけど、改めてすると少し恥ずかしいものがあるわね。 それとこの手紙はファーイースト街道にいる飛行庭職人さんに渡して。 ナナシちゃん用の飛行庭を造ってもらっているからこの手紙を渡してもらえれば分かるわ、これが前から言ってたプレゼントよ♪」
「わざわざここまで…… 本当にありがとうございます」
「いいのよ、それに材料なんかは私じゃなくて冒険者の事が大好きな商人さんが、寄付してくださってるものだから」
そういえばゲームの方でも似たような説明があったな。
しかし職人さんとのコネは先生の物だし、先生が何もしてないなんて事はないだろう。
確か先生はその職人さんの師匠である、トンカにある有名な飛行庭工房のご息女だったはずだ。
「それじゃ改めて、卒業おめでとう。 でも、時々は顔を出してね、冒険のお話をしてくれると嬉しいわ」
「はい、また何れ寄らせていただきますね。 それまでお元気で」
私はアミス先生にそう挨拶をし、学校を卒業した。
いつか、今度こそ彼女に恩返しをしたいものだ。
なんでもクエストカウンターに戻ると受付嬢から話しかけられる。
「おお、そなたか。 待っておったぞ」
「うん? ああ、何かお仕事がありましたか?」
私がそう答えると彼女は、うむ、そうだ。 と答えてくる。
そして、少し長い話になるから座って話そうと言い、談話室の方に歩いていく。
私もそれに倣い、移動を開始する。
談話室に到着すると、二人対面するように座り話を始める。
「それで、そなたに対する依頼なのだが、この前の運搬クエストと同じなのだが、今回は荷物の量が量なので飛行庭では運べないそうなのだ。 なので陸路で護衛することになるのだが、手すきがドラッキーとネクロアーマーしかいないのでな、協力してほしい」
「ああ、後衛が一人もいない状況ですか。 前衛二人だけではもしもの時のカバーが効きませんからね」
流石に二人が普通の人間より強いと言っても、挟み撃ちや物量で来られた場合限界がある。
頼める人がいる場合頼った方が無難だろう、彼女に対する恩返しにもなる、私が反対する理由はどこにもないな。
「わかりました、お引き受けします。 丁度学校も卒業したし、ある程度時間にも自由が利くようになりましたし」
「おお! 受けてくれるか、助かる。 しかしアミスの所を卒業か、という事は飛行庭の受け取りも終わっているのかね?」
「それはまだですね、このクエストが終わったら受け取りに行く予定ですよ」
そう言うと、彼女は丁度良かったかも知れんな、と呟く。
何が丁度良かったのだろうか?
「ああ、いや、今回の運搬の輸送先がファーイーストなのだよ。 だから行きは流石に護衛途中だから受け取りは行えんだろうが、帰り道だから手間は少ないだろうと思ってな」
「成程、確かに丁度いいかも知れませんね」
「うむ、しかし飛行庭を貰えるという事はやはりそちらに引っ越すのか?」
「そうですね、多分そうなると思います」
実際今後は混成騎士団にも依頼されている、アバターたちに関する調査もすることになるだろうから、あちこち飛び回る事になるはずだ。
そうなると、ダンジョン以外ならほぼどこにでも持っていける飛行庭に、居を移すのが合理的だろう。
「そうか、寂しくなるな…… まぁ今生の別れともいう訳でもないし、今後も依頼をする可能性はあるからな。 そうでなくともいつでも顔を見せるといい」
アミス先生もそうだったが、そう言ってもらえると嬉しいものがあるな。
そう思っていると、談話室のドアがノックされる。
「おお、来たな。 二人とも入ってくれ」
そう受付嬢が言うとドアが開き、アルマが二人入ってくる。
一人はドラッキー・アルマ、もう一人は、黒色の鎧とドレスが合体したような服、バトルドレスとでも言うべきか、と頭に金属製の角付きカチューシャのようなものを付けた黒髪のロングヘアーの少女、ネクロアーマー・アルマだ。
因みに彼女もブーフと同じで人間部分は擬態であり、バトルドレスの部分が本体だ。
明日クエストを共にするから、一緒に打ち合わせという事だろう。
「今晩は二人とも」
「ああナナシ、明日は宜しく頼むよ。 僕たちだけでやれるだろうけど、騎士として失敗は許されないからね」
「今晩はナナシさん。 明日は宜しくお願いしますです」
…………そういえば、ネクロアーマーはバトルジャンキーの気がなかったか?
そんなことを思い出しながら、4人でこの後軽く打ち合わせをして、部屋に戻り休む事となった。
そして翌日、依頼主との待ち合わせ場所である東稼働橋に移動し、合流してファーイーストに向けて出発する事となった。
途中ピンク色の鶏をスーパーディフォルメしたようなモンスター「コッコー」に絡まれることはあったが、ネクロアーマーが一刀の下に斬り捨てていた。
もっとも彼女は、戦闘らしい戦闘が出来ないことに不満だったようだが、やはり人選ミスだったんじゃないだろうか……?
その後何事も問題なくファーイーストとの国境である、イストー岬まで到着して、一度此処で休憩を取る事となった。
「しかし、全く歯ごたえがないまま此処まで来てしまったな。 これから歯ごたえのあるモンスターが出ると、僕としては嬉しいんだけどね」
「いやいや、護衛の場合歯ごたえないほうがいいから」
「そうです、ネクロアーマー。 あんまりモンスターが強すぎると、今度は一般の人たちが気軽に旅行できなくなってしまいます」
「それもまた違うと思うんだが…… まぁ怪我した場合、この編成じゃすぐに治療というのは厳しいからね。 私達はどうとでもなるが、依頼主さんとかがね」
その言葉にネクロアーマーは詰まらなさそうにはしながらも、理解は出来るらしく微妙そうな顔で頷いていた。
「そういえばナナシ、君はこのクエストの後、飛行庭を貰えるんだろう? いいなぁ、僕も欲しいもんだ」
「小生たちは、厳密には冒険者になれませんからね。 飛行庭を使える資格を取る必要があるのが痛いです」
彼女たちアルマ・モンスターや他のパートナーたちは、厳密には人ではないため一般的には冒険者にはなれない。
一部例外で、元人間だった者たちなどはなる事は出来るが、それでも少数であることには変わりない。
そして冒険者以外は飛行庭を所有するために資格がいるが、そもそも一般の人は態々飛行庭を持つ必要もないので、飛行庭はそこまで普及はしていない。
パートナーの中には、飛行庭が欲しいために資格を取った者や、元々所有していた者も少数いる事はいるのだが。
「それでナナシは飛行庭に引っ越しした後は、どこに行くんだい?」
「とりあえずは混成騎士団に依頼された、消えた英雄たちの捜索の為に、各国を飛び回る事になるでしょうね」
「彼らの捜索か…… 本当に見つかるといいね………」
そうして暫く3人で雑談をした後に国境の橋を渡って、先に進むことにした。
しばらく進むと何やら横の丘の方から凄く視線を感じる……
そちらを向くと、猪型のモンスター「ワイルドボア」と「ウメボア」の姿が一匹ずつ見える、あの二匹はもしかして……
その姿を視認したネクロアーマーが、剣を抜き放ち駆け寄ろうとするが。
「ネクロアーマー! ちょっとすと――ぷ!!」
「っとと! どうしたんだいナナシ?」
「ちょっと確認したいことがね」
彼女の頭の上に?マークが出てる気がするが、構わずにあの二匹に軽く会釈をすると、あちらも挨拶代わりだろうか、少し鳴いた後にそのまま帰っていった。
「…………一体何だったんだ?」
「……もしかして、ネクロアーマー気付いてなかったです? あの二匹、多分エコの両親ですよ?」
「なんだって?!」
「本当に気付いてなかったんですね……」
先程ドラッキーが言ったように、あの二匹はエコちゃんの両親だったんだと思う。
多分私達に少しついてたであろう、あの子の残り香と言うか、気配のようなものを察知したんだろう。
それで私たちが、彼女の同居人と判り挨拶に来た、と言ったところか。
「しかし、そうなるとエコのやつにいい土産話になるな。 僕たちが君の両親に会ったと」
「そしてネクロアーマーが気付かずに、攻撃しようとしてた事もですね」
「…………なぁ、ドラッキー? その事はエコにはナイショにしてくれないかなっ」
「えぇ~、ど~しよっかな~」
そうドラッキーはネクロアーマーの言葉にすっとぼける、揶揄ってるんだろうなぁ…… そしてそれに気付かないネクロアーマーは、彼女に拝み倒してる。
ちゃんと彼女の顔を見れば、笑っているから揶揄ってるのが分かるだろうに、なんと言うか真面目と言うか、間が抜けてると言うか。
これは暫く彼女に揶揄われ続けるんだろうなぁ、と思いつつあと少しの道筋を進んでいった。
此処までくればファーイーストは目の前だ。
そして私達は目的地であるファーイーストに到着し、無事護衛並びに運搬任務を終わらせることに成功した。
依頼人と別れた後、3人でこれからどうするかと話していると、女性に声を掛けられる。
「もし、其処の騎士様とお連れ様。 ちょっといいかしら?」
その声に皆が聞こえた方向に顔を向けると、ネクロアーマーが思わずと言った感じで声を出す。
「ああ! 魔女じゃないか! この頃見かけなかったが、ファーイーストにいたのか?」
ネクロアーマーに魔女と呼ばれたこの女性、格好は蒼色のチュニックに羽衣を纏い左手にはリンゴの入った篭を持ち、金髪の髪に花の髪飾りを付けている。
名をル・フェイ・ロアと言い、先程言われたように魔女の物語から生まれ、そしてかつて悪い魔女として描かれ最後には討たれる事で物語が終わる事から、彼女自身何度も死んでは蘇ってを繰り返していたらしく、その結末を書き換えるために独自に動いていた時にプレイヤー達と遭遇。
結果プレイヤー達の協力でその運命を打ち破り、その後プレイヤーを主と仰ぎ行動を共にすることになる。
その時プレイヤーと共に行動していた相棒がネクロアーマーであり、それが理由で彼女たち二人は親しくなった経緯がある。
「あら、あなたは……? 初めまして、私はル・フェイよ」
そう言い彼女は此方に微笑みかける。
「初めまして、私はナナシと申します」
そう返答すると彼女は何故か少し残念そうな、そして悲しそうな顔をするが、すぐに顔に笑顔を作り此方に語り掛けてくる。
一体何だったんだろうか?
「それで、あなたたちに声を掛けたのはちょっとお願いがあるからなのよ」
「お願い? 何かあるのかい? 魔女が手に負えないほどの何かが」
如何やらこのまま、すぐに飛行庭を受け取りに行く訳にはいけないようだ。
一体どのようなお願いがあるのやら……
「憑依」
過去、とある研究者が基礎部分を持ち込み、タイタニア種族との共同研究で開発した技術。
後にヴェルデガルド女王もその研究に参加し、最終的に三種族にその技術が広まった。
「ル・フェイ・ロア」
実は彼女は語られた悪い魔女の物語の他にも影響を受けており、善き魔女としての側面も持つ。
イリス博士は夢で見た原典の物語を元に、改変したものを紙芝居にしたためと思われる。
その原典はアーサー王伝説のモルガン・ル・フェイ、元々は王を導く存在であったが、後に王に仇なす存在として描かれたために、善き魔女と悪い魔女の二面性を持つに至った。