とある冒険者のキセキ 「元題名 とある「えこ民」の物語」 作:想いの力のその先へ
とある「えこ民」の物語 十三話
東軍でイータと別れた後、飛行庭の家と家具を購入するために出かけたはいいが、店員の話では現在アクロポリスでは家の方は販売を行っていないらしい。
この間の戦いで破壊された家屋の修復や新築の為に、そちらが優先されているそうだ。
そしてさらに話を聞くと、トンカシティでは飛行庭マイスターたちが今も販売、設置を請け負っているらしく飛行庭の登録も併せてそちらで手配したほうがいいのではないか、と言うアドバイスを頂いた。
それを聞いた私はその店員に礼を言った後、アップタウン南にあるトンカエクスプレスに乗庭し、買い物と飛行庭登録を行うことにした。
トンカに到着した後、先ずは市庁舎の方へ飛行庭の登録の為に行く事にした。
市庁舎では複数の受付があり、飛行庭の受付では男性の職員が応対していた。
「こんにちは、何のご用事でしょうか?」
「はい、先程飛行庭を頂いたので、登録にきました」
「頂いた、ですか?」
その言葉に疑問を持ったのか職員がオウム返しをする。
確かに、それだけ聞くと完全に意味不明だろう。
なので私がアミス先生の生徒だったこと、その卒業のお祝いとして飛行庭を手配してもらっていたことを説明した。
するとその説明に納得するように職員は成程と頷いていた。
「アミスさんの所の生徒さんでしたか、彼女なら確かに飛行庭を用立てることも出来るかもしれませんね」
「やはり先生はそんなに有名なので?」
個人的に気になっていたので聞いてみると、職員は笑いながら。
「彼女は確かに有名ですが、今回の事に関しては違いますよ。 飛行庭に関しては彼女の人柄や、考えに共感した商人さんや我が国の技師たちが協力しているという形です。 勿論彼女が英雄たちの教師だったことや、我が国の有名な技師の娘だという事もありますが、それ以前からも飛行庭の贈与は行われていたことですので、やはり彼女の人徳が大きいでしょうね」
そういう彼の表情はどこか誇らしげだった。
アミス先生が英雄を育てたからとかそういう事ではなく、どことなく子供の成長を喜ぶ大人のように。
「彼女は冒険者志望でしたが病弱でしたから、何だかんだで皆心配をしていましたが、アクロポリスで立派に子供たちに教えていると聞きます。 彼女自身は冒険者にはなれませんでしたが、教え子たちが立派に冒険者になって各地で頑張っていましたから、本当に頑張ったのだなと思いまして」
そう話す彼は、本当に喜んでいて、先生もまたこれだけ愛されていたのだなと実感したのだった。
その後は滞りなく飛行庭の登録も終わり、職員に礼を告げ庭用の家屋と家具を揃える為に、飛行庭の建造所に向かう事にした。
向かった先の建造所では特に問題もなく買い揃えることが出来た。
なのでそのままこの場に飛行庭を呼び出して、最低限家屋のみを設置してもらい家具に関しては自分で設置しようかと思ったが、そちらの方もしてくれるという事なのでお願いすることにした。
飛行庭に設置してもらった後に改めて見てみると、家屋自体は赤い屋根の普通の一軒家で、内部は簡易型のキッチンと冷蔵庫に完全に仕切られて中の見えないようになっているバスルーム、大きめのタンスが2台にちゃぶ台が1台、それに布団をもしもの時の事も考えて複数枚置いている。
それなりに金額は掛かってしまったが、これまでのクエストの報奨金で何とか払えることが出来た。
とは言っても食料を買えるだけの金額は残しているので、やろうと思えば今日から飛行庭で暮らすことも可能になった訳だ。
とは言え世話になった受付嬢たちに挨拶もなしに出て行っては、それこそ薄情者と言われても仕方ないだろう。
幸いと言うべきか、今から飛行庭をアクロポリスに向かって飛ばせば夜までには着くだろう。
そうと決まれば善は急げだ、職人さんたちに挨拶した後に飛行庭を操作しアクロポリスに戻ることにした。
飛行庭を飛ばし急いでなんでもクエストカウンターに戻ると、丁度アルマの子達も帰って来ていたようで、これから夕食にしようかとしていた所だった。
その事を話しているときに私に気付いた受付嬢が、此方に向かって話し掛けてくる。
「おぉ、ナナシ。 よく戻ってきたな。 ネクロアーマーから話は聞いておるよ、どうやら本当に大変だったようだな」
「ただいまです、確かに大変でしたが、飛行庭関連は此方に取ってはありがたかったですよ。 正直飛行帆を貰えるとは思ってませんでしたからね」
「ほほう、飛行帆とはな。 かなりの高級品だが誰からの物だったのだ?」
「混成騎士団からですが、元々はあの子達から寄付されてたそうですよ。 今後の私の活動からすると、機動力が必要になる場面が多そうだからという事らしいです」
「成程な、そういえばそなたは彼らの捜索も依頼として受けていたのだったか」
「ええ、そうですよ。 とは言っても何もわかっていない状況だから、先ずは情報収集並びに私自身の戦闘能力アップからになりますが」
「情報収集は兎も角として、戦闘能力のアップ? そちらは必要なのか?」
彼女はそちらの方に疑問を持ったようで、私に何故かと聞いてくる。
そういえば彼女は元々かなりの実力者だったな、確か単独でDEMの討伐も出来たはずだ。
「私は確かに彼等や色々な場所に関する知識はありますが、今の状態では実際に行く場合途中で力尽きる可能性が高いですから、最低でも身を守るだけの力を付ける必要があるんですよ」
精々今の私ではアクロポリス近辺や各国の比較的簡単なダンジョンに挑むので精一杯だろう、正直な話DEMどころか本来はアンデッドの城のモンスターでもかなり厳しい状態だったはずだ。
あの時もしも三つ巴になっていた場合、此方とモンスター達の共倒れという結果になっていたと思う。
それをあのモンスター達も理解して、尚且つネクロアーマーという通訳が存在していたからこそ、彼らは戸惑いなく共闘という選択肢を取ったのだろう。
「成程な、確かに今のそなたでは遠出をするのは、ちと厳しいかも知れぬな」
私がそう説明すると、彼女はそう言って納得していた。
彼女のモンスターとしての種族であるデス自身が元々ボスモンスターであり、彼女自身もDEMに占領されているドミニオン界のアクロポリスで活動出来るだけの戦闘能力を有しているからこその、今回の認識だったのだろう。
そういった風に二人で会話していると、更に私に気付いた子が此方の会話に加わってくる、エコ坊・アルマだ。
「あ、ナナシおかえりー。 今日のお仕事どうだったの?」
「うん、仕事は特に問題なく終わったよ。 その後がちょっと大変だったけどね。 あとは道中に多分だけど、エコちゃんのご両親だと思うワイルドボアとウメボアを見かけたよ」
それを聞いたエコ坊は驚いた顔で此方に問いかけてくる。
「え! パピーとマミーを! 本当に2人だったの?」
「流石に言葉を交わせる訳ではないから、想像でしかないけどね。 でも此方に危害を加えるわけでもなく、ただ会釈をして森の方に帰っていったから、間違っていないとは思うよ」
「そうなんだぁ、エコも行けたらよかったんだけどなぁ。 今日は最後の学校があったし、しょうがないよね」
最後の学校?
という事は卒業式でもあっていたのだろうか?
「エコちゃん、最後という事は今日卒業式だったの?」
「うん、そだよー。 それでユスティ達が明日会えるなら会いたいって言ってたんだけど大丈夫?」
そうエコ坊は聞いてくる、緊急性の高い依頼は今は特に入っていないし、アンデッドの城に関しては今日報告したばかりだから、暫く動きはないだろう。
明日会うことに問題ないという事を告げると、エコ坊は笑顔になって此方に会う約束になっている場所を告げてくる。
「よかったぁ、それじゃ明日アップタウンのギルド元宮前に集合だよ!」
「良かったな、エコよ。 しかしそういった約束は出来るだけ早くに言っておいた方が良かったな、もしもナナシの都合が悪かった場合どうするつもりだったのだ?」
そう受付嬢に苦笑交じりに言われると、そこまで考えが及んでいなかったのかエコ坊はそういえばと思案顔になった後、そうなっていた場合を想像できたのだろう、危なかったという表情が出てきていた。
「そうだよね、ナナシも用事があったかもしれないし、今度からは早めに言わないとね。 うけつけじょーもありがとう!」
こうやってすぐに間違いを認められる純粋さこそ彼女の美点だろう。
受付嬢もそんな彼女が可愛かったからか、頭を撫でながらよく出来ましたと言っていた。
然しある意味においては都合がよかったのは確かかも知れない、今後は飛行庭に拠点を移すので気軽に連絡を取り合うというのは、難しくなるかもしれないから。
そういえばここに来た目的はそのことについての挨拶だったな、忘れないうちに言っておかないとな。
「受付嬢、ちょっといいですか?」
「どうしたのだ、ナナシよ」
そう言って彼女はエコ坊を撫でていた手を止めて此方の言葉を聞く体制を取る、エコ坊はずっと撫でられていたのが気持ちよかったのか、笑顔だったが手が止まったので、どうしたんだろうと此方を見てくる。
「先程も話題に上がりましたが、今後は彼らの捜索のために各地を飛び回る事になりますし、飛行庭という拠点も出来たので、これを機に住居を飛行庭の方に移そうかと思いまして。 それの挨拶と、今までありがとうと改めて礼を言うために此方に戻ってきてたんでした」
私がそう話すと受付嬢は、そういえばそんな話もあったなと思い出していたようで。
「そういえばそんなことも言っていたな。 確かにあちこち移動するという意味では、飛行庭に居を構えた方が良いか。 だが、アクロポリスに戻って来る時は此処で寝泊りしてもよいからな?」
私に対してそう言ってくれる。
何から何まで本当にありがたい話だ、そしてエコ坊にとっては寝耳に水だったのかその話を聞いて吃驚していた。
そして慌てた様子で此方に声を掛けてくる。
「ナナシ出て行っちゃうの?! せっかく仲良くなったのにやだ! それにユスティ達とPT組むんでしょ、それじゃあ、ユスティ達も一緒に行っちゃうの?」
「今後の活動を考えると、一か所に拠点を置いているとどうしても行動範囲が狭くなってしまうんだよ。 各地の調査をする場合は、その場に何日も留まる場合も出てくるから。 ユスティ君達に関しては、親御さんたちの心配もあるだろうから、最初の内はアクロポリス近辺で活動する時のみの、限定PTになると思う。 それからどうするかは、あの子達と相談しないとだけどね」
そう告げるも彼女としてはやっぱり納得し辛いのか、泣きそうになっている。
困ったな、そういうつもりではなかったのだが……
何とかエコ坊を宥めようとしていると、受付嬢が何かを思いついたようで彼女に話しかける。
「こらこらエコよ、あまりナナシを困らせてやるな。 それに今生の別れではないのだ、先程余が言ったようにアクロポリスに帰ってきた時は此処に帰ってくるさ。 そうであろうナナシよ」
「ええ、ちゃんと此処に帰ってくるよ。 約束だ」
それで少し落ち着いたのか泣くことはなかったが、まだ少し気落ちしているようだ。
さて如何したものかと考えていると、受付嬢がさらに何かを提案してくる。
「ふむ、エコよ。 お主はナナシと別れるのもそうだが、ユスティ達と別れるのではないかと心配しておるのか?」
そう彼女が聞くとエコ坊は少し間をおいて返答する。
「……………………うん」
成程、確かにあの子達はエコ坊にとってアルマ以外の初めての友達だ。
その子達と離れ離れになるかもしれない以上、寂しいと思うのは道理だろう。
一応解決方法はある事はあるが、実際にするとなると……
そう思い受付嬢を見ると、彼女も此方を見て頷き、そしてエコ坊に話しかける。
「エコよ、そなたも学校を卒業したのだ。 ならば彼らと思に冒険しても問題はあるまい。 確かにアルマは冒険者の職業には就けぬがパートナー申請をすれば問題あるまい」
この世界では彼女が言ったようにアルマ、というより三種族以外は職業に就くことが出来ない。
元々人間がモンスターに対抗するために作られた物の為に、人間以外の存在が習得することを想定されていないのだ。
しかし後に人間に味方する者たちが現れたために、如何にか出来ないかと考えられて作られたのがパートナー制度だ。
これは冒険者と人間以外の友好的な存在が共に冒険をする為に作られた制度だ。
かつて聞いた話ではアバター達も一時期この制度を利用していたようだが、自身が強くなりすぎたために冒険する場所によってはパートナーたちを危険にさらしてしまう為にそれを嫌い契約を解除していたそうだ。
それであの4人のうちの誰かと契約を結べば、問題はないはずだ。
「そうだね、それで一緒に冒険出来るだろうし私も問題はないと思うよ。 エコちゃんはどうしたいんだい?」
そう私が聞くと、彼女は小さい声で一緒に冒険に行きたいと言う。
彼女がそう答えて、此処での保護者である受付嬢が冒険に行って大丈夫と言っている以上何も問題はない。
「それじゃエコちゃん、明日皆と会う時にその事も聞いてみよっか?」
私がそう言うと彼女は小さくうん、と頷いていた。
その後他の子達が此方に気付き、エコ坊が泣きそうになっているのを見て何事かと駆け寄ってくるが、今までの事を説明すると納得したのか、私に対して何か言われることはなかった。
そしてその中で私が途中帰って来る事はあるが、基本飛行庭を拠点にするという事も知り、それならとお別れ会と言うか行ってらっしゃいパーティが開かれることとなり、その日の夜は大いに盛り上がってそのまま部屋に戻って休み、引っ越し等は明日改めてする事となった。
【トンカ】
元々は、アイアンサウスの属国のような立ち位置だった都市国家。
後に独立運動が起こっており、その関係でアイアンサウスとは仲が悪い。
マリオネットと呼ばれる人形を操作する技術を、冒険者以外で持っているところであり、それを使用した独自の軍「ドールズ」を有している。
飛行庭の製造の一切を仕切っており、ここを経由することによって飛行庭の材料の産地であるバオバブの森があるマイマイ島や、古代遺跡があるカーマインブリックに行くことが出来る。