とある冒険者のキセキ 「元題名 とある「えこ民」の物語」 作:想いの力のその先へ
プロローグ 夢の中で……?
――何かを感じる、此処はどこだろうか……
ふと見渡すと辺り一面の星空だった、今私は立っている? それとも座っている? 自身の身体の感覚が曖昧でまるで夢の中にいるようだ。
本当にまるで起きると総てを忘れてしまうような泡沫の夢、全くもって現実感がない幻想の世界、自身の感覚的に下を見てその考えがより強くなってくる。
その場には一面の
そしてそこで私自身が立っていることに気付く、足元が空であるにも関わらずまるで
そこで私は恐る恐る足を一歩踏み出してみる、すると歩くことが出来た、それはとても、そうとても新鮮な感覚だった。
そうして暫くこの景色を眺めながら歩くことを楽しんでいると、ふと何かの気配を感じることが出来た。
その方向に歩いていくと、其処にはまるでぼやけて見えないが人影のようなものが二つそこには浮かんでいる。
そのうちの一つ、全体的に白い人影が此方に語り掛けてくる。
――ようこそこの世界へ、今のこの世界はあなたが感じるように泡沫の夢のようなもの。
そう言い、白い人影は此方に身体全体を使い優雅なお辞儀をしてくる。
私もそれに倣い深々と頭を下げると、何か可笑しかったのかその人影は軽く笑いながら話しかけてくる。
――ふふ、貴女とこういう挨拶をすることになるとは正直思ってもいませんでした。 今の貴女には解らないかもしれませんが、そういうものなんだ、とでも思っておいてください。
そうその人影が楽しそうに話していると、もう一つの人影、栗色にまるで後光が差しているような人影が白い人影に催促する。
すると白い人影は、困ったような動きをしながら語り掛けてくる。
――あまりせっかちなのも困りものですが、この世界にいつまでも居ることが出来ないのもまた事実ですしね。 そういえば貴女は私達をうまく認識できてない様子、ではこうしちゃいましょう。
そう言うと、白い人影が腕らしきものを動かし振り払うような仕草をする。 するとその先端から何かの輝きがあふれ出し、この空間を包んでいく。
その眩しさに思わず目を覆い隠す、そしてその眩しさが過ぎ去った後に先程の白い人影がいた場所には一人の女性が立っていた。
その女性はパールゴールドとでも言うべき髪色に、白を基調としたアカデミックドレスと黒のスカート、長さが不揃いのブーツに、これもまた白を基調とした紙芝居台を自身のそばに置いていた。
「これでちゃんと此方を認識できるようになってると思いますがどうですか?」
そう問われてもう一つの人影も見てみるが、そちらは辛うじて女性であるのだろうというのが分かる程度のぼやけに留まっていた。
その事を女性に伝えると。
「あらら、まぁ彼女自身、本来は此処にいるような子じゃないから仕方ないのかな? まぁどの道、時間もないのでこのまま進めちゃいましょう」
彼女はそう言い話を進め始める、人影の方もそれで問題はない様だ。
「それじゃあ話を進めますが、貴女に此処に来てもらったのは簡単な説明のためですね。 っと、その前に私の事は紙芝居屋とでも呼んでください。 ……説明に戻りますが、まずはあなたの身体自体は別の場所にあって、今は意識体だけ此方に来てもらっています、身体自体は眠っているものと思ってください」
つまり幽体離脱しているとでも思えばいいのだろうか……?
そう私が思い悩んでいると、彼女が苦笑しながらこちら思っていることに肯定してくる。
「まぁ、そんな思い悩まずにあなたが思った通りだと思えばいいですよ。 それで、この後あなたは夢から覚め現実に還ることになりますが、そこにアミスという女性がいるはずです。 暫くはその女性と共に暮らし、学校で色々と勉強してください。 そしてその後あなたは冒険者として貴女の身体が今ある世界、エミル界のアクロニアで暮らし、数々の冒険をすることになるでしょう」
まるで本来私はそこにいる筈のない人物のように聞こえるのだが気のせいだろうか。
その事を紙芝居屋に聞いてみると、その通りだと言われる。
「本来貴女は、というよりも私もあの世界にはもう存在しないはずの者達です。 ですが今はそんなことを言っている状況ではなくなりはじめているのです、故に私と彼女の力を使い、貴女という存在を彼方に送り、世界を旅してもらう必要が出てきたと言ったところです」
だがそれが私である必要はどこにあるのだろうか、紙芝居屋自身では駄目なのか? そう彼女に問いかけると、彼女は悲しそうな顔をしながら首を横に振る。
「本来私達アクロニアの民が自身で解決しなければならないのですが、残念ながら今のあの世界の民たちにはそれを解決するだけの力がありません。 私も直接あの世界には干渉できませんし、仮に出来たとしてもやはり力が足りないのが事実なのです」
そう彼女は本当に無念そうに此方に語る、だがそれなら猶更何故私だと大丈夫なのだろうか。
私に何か秘められた力があるとでもいうのだろうか。
「そうですね、秘められた力という訳ではありませんが、貴女だからこそ成し遂げる事が出来ると私達は思っています」
私だからこそ? 何か理由が有りそうだけど、その事については紙芝居屋は話したくはないようだ。
「……さて、他にも色々と話すべき事はあるんですが、正直時間がないので最低限の事だけ話しておきましょう」
そう言うと、彼女は傍に置いておいた紙芝居台を使い何人かの人物が描かれた絵を見せてくる。
一人はそのまま只の人間のように見える、そしてその左右には天使のような存在と悪魔のような存在が描かれている。
「アクロニアの世界には四つの種族が存在しています、此方の絵には三つの種族しか描かれていませんがそれは四つ目の種族が特殊だと思ってください」
彼女はそう言い、それぞれの種族についての説明を始める。
「先ずは一つ目の種族、真ん中に描かれている人間の種族であるエミル種族です。 私もエミルに属しています、貴女の身体があるエミル界に住んでいる種族です。 これといって突出した才能がある訳ではないですがなんでもそつなくこなすことが出来、他の種族に比べれば誤差の範囲ですが打たれ強いと言ったところですね」
そう説明し、彼女は次の種族を指さす。
「次はこの天使の羽と輪っかを持つ種族です。 彼らはタイタニア、天界とも呼ばれているタイタニア界に本拠を置く種族です。 エミル界にも少なからずいますが、その大半は試練という名のもとに自身の記憶を封じて、己の為すべき事を為す為に行動しているそうです。 試練を越えた者達は大抵故郷のタイタニア界に帰りますが、中にはそのままエミル界に住み、子を生し暮らしていく者もいるようです。 彼らの種族としての特性は、魔法の適性が高く、また魔力も膨大なため魔法使いになるものが多いですね。 それと他種族と違い長命でもあるようです」
その説明の後、一呼吸おいて彼女は最後の種族を指さす。
「次が最後ですね、この悪魔の羽と尻尾を持つ種族はドミニオン、地獄とも呼ばれている世界ドミニオン界の住人です。 彼らは本来、戦いの強さを尊び、常に戦いに身を置くことを良しとする種族です。 ですが現在、ドミニオン界は戦禍に包まれ滅亡の危機に瀕しています。 その為、エミル界に子供達を疎開させることが多いようです。 そしてその疎開した子供達も故郷を守る力を付ける為、修行している子が多いです。 種族としての特性は物理魔法問わず攻撃するための才能は高いですが、逆に守りに関する能力は低いといったところでしょうか」
そう最期まで説明し終わると少し脱力し、ゆっくりと最後の話をし始める。
「と、まぁかなり駆け足でしたが、今あなたがいる世界に存在する種族の説明でした。 本当はもう一つの種族、DEMについても話したかったのですが、流石に時間が足りないようです」
彼女がそう言うと同時に私は意識が少し遠くなってくるように感じた、これはいったい……?
「それは現実世界の貴女が目覚めようとしているのです、危険なことではないので安心してください」
その言葉を聞くと同時にさらに視界がぼやけてくる、そして足にも力が入らず立っているのも辛くなってきた。
「名残惜しいですが此処までのようですね、これから先はアミスさんが貴女を導いてくれるでしょう。 そしてその後は貴女自身が望む事を為してください、それがきっと世界の為に繋がります。 ……さて、最後位は紙芝居屋として、らしい事をしてみましょうかね?」
そう言うと彼女は最初の挨拶の時と同じく、優雅なお辞儀をした後に語りだす。
「さあ、皆さん。 行く人、来る人、お暇な人、是非是非足を止めてお聞きになってくださいな。 此度始まるのは、かつて救われ、そしてまた新たに始まる、貴女が紡ぐ果てしなく続く物語、何てのはどうでしょう♪ ……それでは貴女の冒険に幸多からんことを、そして願わくば貴女にとっての愛するものが沢山出来ますように」
彼女のその言葉を最後に、私の意識は、深く、深く、沈んでいった。