とある冒険者のキセキ 「元題名 とある「えこ民」の物語」 作:想いの力のその先へ
眠りから、夢から覚め、私という意識が浮かび上がる。
そしてまず感じたのが、気持ちいい、暖かいと言う感覚だった。
身体全体を包み込む暖かな感覚、このまま再び微睡んでしまいたいという欲望が出てくるが、夢の中でした彼女との遣り取りを思い出し、私自身の現状がどうなっているのかを把握するためにその欲望をしまい込んで瞼を徐々に開ける。
まず眼に入ったのが、全体的に可愛らしいと感じる部屋の天井、そして今私自身が潜り込んでいる、ファンシーなベッドであった。
それだけでは全てを把握できないため、上半身を起こし更に色々なことを把握しようとする。
そこで見えた物は、天井と同じく可愛らしいデザインの壁紙や箪笥等の家具、その上に置かれている縫いぐるみ達、そして額縁に飾られている女性と何かの生物が描かれた絵画、この女性が件のアミスさんなんだろうか?
そこで部屋の扉が開き一人の女性が入ってくる。
その女性は、赤いコートに黒のスーツ、同じく黒のタイトスカートを身に纏った金髪の眼鏡を架けた、先程の絵画に描かれていた女性だった。
そしてその女性は私が今いるベッドに近付くと、そのままそのベッドに腰掛け私に語り掛ける。
「……あら、目が覚めたのね。 大丈夫かしら? リオちゃん」
「……リオ、ちゃん?」
それはもしかして私の事なのだろうか?
そういえば先程の夢の中では名前を呼ばれることはなかったし、私も考えていなかったが私自身の名前は何だっただろうか? 思い出そうとしても何も思い浮かばないことに気付く。
如何して、何故思い出せないのか、頭の中が混乱し、今度は得体の知れない恐怖が全身を包み込む。
その私の様子に違和感を覚えたのだろう、女性が私を心配して声を掛ける。
「大丈夫リオちゃん?! 如何したの、何か怖いことがあったの?」
そう呼びかける彼女に、私は自身の恐怖心を抑えるために思わず抱き着き掠れた声で問いかける。
「リオ、……それ、が 私 の名前 なんですか? 解らないの、なにも、私は 自分の事が何も……」
流石におかしいと気付いたのだろう、彼女は私を抱き締め子供をあやす様に頭を撫で落ち着けようとしていた。
それから暫く私を抱き締め撫で続けた彼女は、私が多少落ち着いたと見て取れると私の顔を正面から見て、大丈夫? と笑いかけながら問いかけてきた。
彼女は少しでも私が安心できるように、と敢えて笑いかけることにより私の緊張感を解そうとしてくれていたのだろう、だかその時私は彼女に抱き着いた恥ずかしさやら、頭が少し落ち着いたことによるこれからどうしようという先程とは別種の混乱に因り、それどころではなかったが……
それでも頭の中の冷静な部分が取り敢えずは彼女に返事をするべきだ、と訴えてきていたので何とか言葉を絞り出す。
「……大丈夫、です。 それとすみません、貴女のお名前を聞いてもいいですか?」
「あらあら、そういえば言ってなかったわね、ごめんなさい。 私の名前はアミス、これでも学校の先生をしているのよ」
やはり彼女が夢の中で紙芝居屋が私を導いてくれると言ったアミスさんだったようだ、なら取り敢えずは安心していいのだろう、そして紙芝居屋が言う通りなら私が今ここに居ることについて何か知っている筈だ。 何かしら聞いておいた方が良いだろう。
「重ねてすみません、アミスさんは私の事について何か知っていますか? 私は何故此処にいるんですか? そして先程アミスさんが言ったリオというのが私の名前なんですか?」
そう矢継ぎ早に質問する私に彼女は嫌な顔もせずに落ち着いて答えてくれる。
「まずはそうね、私もリオちゃんの事についてはよく知らないの。 私の知り合いの子が暫くリオちゃんを預かって欲しいとお願いしてきて私が了承したから今此処に居るという事になるわ。 そしてその知り合いの子が貴女の事をリオちゃんと呼んでいたから、貴女の名前と思うんだけどまさか記憶がないとは思ってなかったの」
そうアミスさんは申し訳なさそうに言ってくる、彼女が悪いわけではないし寧ろ彼女が引き受けてくれたからこそ、こうやって安心して話すことが出来ているのだから、手を煩わせて逆に申し訳なくなってしまう。
そしてこの空気を変えるために、私は当たり障りのない質問をすることにした。
「そういえば私の事を頼んだという知り合いの子というのはどういう方なんですか?」
その質問にアミスさんは、とても食いつきよく答えてくれた。
これは只此方の考えに乗ってくれただけではなく、他に何か彼女自身思うところが有ったのだろうか?
「その子はデスちゃんって言うの。 何かと皆を助けてくれる優しい子で、今もお友達の皆が社会で勉強出来るように小さい何でも屋を開いてくれているのよ。 あ、でもその何でも屋で働いている時は受付嬢って呼んであげてね、彼女にも、とある事情があって外では名前を隠しているから。」
……デス、さん? 何故か頭の中にその名前がこびりついて離れない。 まるで昔から知っているような、そんな感覚に陥っている。 私自身、自分の名前を忘れているのだから、もしかしたら過去に出会っているのだろうか?
その時アミスさんが、思い出したようにベッドから立ち上がる。
「そういえばデスちゃんがもうそろそろ此処に来るんだったわ、ちょっとお迎えに行ってくるわね。 リオちゃんはちょっと待っててね」
そう言い残し部屋を出て行った、取り敢えずは彼女が言ったようにおとなしく待っていよう。 流石に暇だからと言って恩人の部屋漁り何て恥知らずな行動はしたくない。
そしてそう時を待たずにアミスさんは戻ってきた、その横には紫色のフード付きのローブを身に纏い、身体全体に紋様らしきものを施した色白というよりは最早青白いというべき肌をした少女を連れていた。
成程、
その私の視線に何かを感じたのだろう、少女は私に向かって声を掛ける。
「ふむ、そなたは余に興味津々のようだな。 まぁ、何にせよまずは自己紹介からだな、余の名はデス、デス・アルマだ」
「あ、はい不躾に失礼しました。 私はリオ、らしいです?」
「それはまた斬新な自己紹介の仕方だな。 まぁアミスから聴いておる、そなたは此処に来る以前の記憶がないそうだからな、それも仕方がないのだろう。 それでリオよ、そなたは何故余の顔をまじまじと見ていたのだ?」
「それは……」
……これは言っていい事なのだろうか? 然し彼女は早く言えとばかりにこちらの顔を近づけてくるので、流石に言わないという選択肢を取る訳にもいかず先程私が考えたことを正直に話した。
すると暫く彼女は茫然としていたが、少し間をおいて大笑いし始めた。
何か私は可笑しいことを言ったのだろうか、私が疑問に思っていると、顔に出ていたのだろう、デスさんは自身が笑っていた事に対する理由を語ってくれた。
「くく、いきなり笑ってすまんな。 そなたは余や他の者たちの知識はないのだからな、そう考えるのも無理はない。 まず、余のデスという名は正確には種族名なのだ、そうさな、詳しくはアミスが説明したほうが解りやすいだろう。 そういう訳でアミス、任せる」
「デスちゃん? いきなり人に話題を振るのはどうかと思うのだけど? 確かに私が説明したほうが良さそうではあるわね。 今後も他の子達と出会うでしょうから」
そうしてアミスさんは私にデスさん達、アルマ・モンスターについての説明をしてくれた。
アルマ・モンスター、それは本来人ならざる者たちが人という種に善悪の感情を問わずに執着を持ち、尚且つ自身も人間と同じような身体を持ちたいと強く思った時に、この世界に古くより存在し、あらゆるものに宿り、そのものの願いを叶える[想いの力]と呼ばれる力を使い人の身体を得た者達の事だと言う。
そしてアミスさんが個人で教えている学校は、そのアルマ・モンスター達が多く在籍しデスさんも生徒の内の一人だという、だからこそ私が質問した時に嬉々として話してくれたのだろう。 自身の誇るべき、そして愛すべき生徒の一人だったのだから。
「それはそうと、そなたもいつまでもベッドの上で寝間着のままという訳にもいかんだろう。 その寝間着姿も愛らしくはあるが、元が可愛らしい女子なのだ、着飾ってみるのもよいのではないのか?」
「そういえば起きてからずっと其の侭にしてしまっていたわね、ごめんなさい。 そうね、折角起きたのだし着替えて外を見てみるのもいいんじゃないかしら? それにお腹も減っているでしょう、その後ご飯にしましょうね」
「……おんなのこ?」
その言葉を発すると同時に、私は自身の頭が痛みだしたのを感じた。
私が急に頭を押さえて痛みを堪える様に二人が驚いて、大丈夫かと私に問いかけてくる。
「大丈夫、です。 それよりも、全身の姿を確認できる鏡はありますか?」
「……鏡? ええ、隣の部屋にあるわ。 其処に着替えもあるし、先ずは移動しましょうか」
そうアミスさんが答え、その部屋に移動し鏡の前に立って自身の姿を確認すると其処には、若緑色のセミショートの髪の長さでピンク色の可愛らしい寝間着姿の女の子が確かに立っていた。
歳は14歳くらいに見える、歳のせいか綺麗ではなく愛らしいという言葉が似合うかもしれない、そんな女の子だった。
然し実感がわかない、まるで他人の身体を見ているような感覚、一体どういう事なのだろうか?
私が内心困惑していると、アミスさんから声を掛けられる。
「それで、リオちゃん。 今貴女に渡せる服はこれしかないの、今の所はこれで我慢してもらえる?」
「ほぉ、この服は懐かしいな。 あやつらが着ていたのと同じ服か?」
そう言って彼女が渡してきた服は、ベージュ色のベストが付いた白色の半袖の服と、膝当てが付いたズボン、それに動きやすそうな靴の三点だった。
デスさんが懐かしいと言っていたが、私もなぜかこの服を見ていると懐かしいという思いが出てくる、以前の私はこの服を着たことがあるのだろうか?
私はアミスさんに礼を言い、寝間着から渡してもらった服に着替えてみる。
着たことがない筈なのに、何故かしっくりくる感覚、やはり以前私はこの服を着たことがあるのだろう。
改めて鏡で確認するが何処もおかしい所は見当たらない。
「アミスさん、ありがとうございます」
「良かった、ちゃんと着れたようね。 リオちゃん、よく似合ってるわよ」
「ふむ、本当に懐かしいな。 まるであやつらを見ているようだ」
先程からデスさんが言っているあやつらとはいったい誰なのだろうか? そう疑問に思うが、彼女が本当に懐かしく、そして慈しむ顔をしている事から悪い人達ではないのだろう。
「では、そろそろこの家から外に出てみるか? もう問題はないだろう」
「そうね、それじゃ行ってみましょうかリオちゃん」
そう二人に促され私も頷いて二人に続きこの部屋、そして家を出て外に向かう事とした。