とある冒険者のキセキ  「元題名 とある「えこ民」の物語」   作:想いの力のその先へ

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場面はそこまで動かなかったような気もするけど、今回で序章は終了です。


二話 記憶のないリオ

 二人に続いてアミスさんの家から外に出ると、円形の大地、そしてその外周を回る木材で出来た巨大な帆、その先には一面の夕焼け空が広がっていた。

 私はいつの間にか紙芝居屋と出会った夢の世界に戻ってしまったのかと思い、瞬きした後に自身の頬を抓るが確かに痛みが走りこれが夢ではないと悟る。

 ならばこれは現実なのだろう、然し家から出るとそこは空でしたっていうのは聊か斬新すぎるのではないだろうか?

 

「如何したの、リオちゃん? 急に止まっちゃって。 何か思い出したの?」

「いやアミスよ。 どうもそういった類の事ではないだろうよ、大方家から出たら其処は空中でしたという事に戸惑っているのであろう」

 

 何故解るんですが、デスさん。 その通りではあるのですが。

 その意味を込めて私は首をコクコクと縦に振ると、デスさんはやはりかと言い、アミスさんは驚いた顔をした後に、記憶がないのだから飛行庭の事を知らないのも当然だったわね、と呟いていた。

 飛行庭? 私が頭の中でその事を反芻すると、少しの痛みが走り飛行庭の知識が湧き上がってくる。

 飛行庭、それはマイマイ島に存在する成長すると浮力が発生し自ら空を飛ぶと言う特殊な樹、バオバブの樹の根っこ部分を材料にして製作する、文字通り飛行する庭であり、冒険者達は庭の上に家を設置し自身の拠点とする事が多い。

 また、通常の帆以外に飛行帆と呼ばれる移動用パーツを設置する事により、遠隔地への移動手段としても普及し、国家間を移動するエクスプレス便も存在している。

 ……この知識の通りだとすると、アミスさんは元冒険者なのだろうか? 気になったので、この知識が出てきたことを話し、アミスさんが元冒険者なのかを質問してみると、彼女は驚いた顔をした後に記憶が戻ったの? と聞いてきたので他の記憶は全くないことを伝えると、彼女は少し残念そうにしながらも私の質問に答えてくれた。

 

「そうなのね。 リオちゃんの記憶が一部だけでも戻ったことを喜べばいいのかしらね。 質問についてだけど、私は冒険者になった事はないの。 小さい頃からの憧れではあったのだけどね」

 

 そう言うと、彼女は自分が何故飛行庭を持っているのか、そして小さい頃からの憧れである冒険者になれなかった理由を話してくれた。

 彼女は元々、飛行庭やマリオネットと呼ばれる特殊な人形、それにロボット等の科学技術の研究、開発を一手に引き受ける都市国家【トンカシティ】の生まれで、そのトンカシティにおいて謳われるほどの飛行庭職人の娘であり、この飛行庭は彼女が独り立ちする時にその父親から祝いの品として贈られたものだそうだ。

 そして彼女が冒険者になれなかった理由であるが、彼女は元々身体が非常に弱く体力仕事であり、衛生に悪い場所であろうとも活動しないといけない冒険者になった場合、遠からず命を落とす可能性が高かったため、皆に止められ冒険者になる夢を諦めたという事だった。

 だが、それでも冒険者が憧れである事には変わりなく、彼女自身が冒険者になれなくとも他に冒険者になりたいと思う子達を支援するために、冒険者としての知識を教えることが出来る教師を目指して勉強し、知識を蓄えた後に今この飛行庭が存在する、アクロニア大陸の中央に位置し商業が盛んで、多くの冒険者や冒険者志望が最初に目指す交易都市【アクロポリス】に単身赴いたのだという。

 尤も、当時のアクロポリスはよそものには排他的で、元々アクロポリス生まれの人か身元が保証されている各国の有力者が暮らす【アップタウン】には入れず、入国を認められるためには、当時一種貧民街的な扱いであった【ダウンタウン】で実績を上げる必要があり、それなりに苦労したらしい。

 だがそこで後の生徒であるアルマ・モンスターの子達と出会い、多くの絆を育む事となったそうだ。

 そしてその後は彼女とアルマの子達の頑張りが認められ、元々アクロポリス生まれではない人たちにも広く門戸が開かれ、彼女もアップタウンで改めて教室を開き多くの冒険者志望の子供達を教え、導き、そして送り出すに至ったようだ。

 そしてこれはデスさんからの話であるが、彼女が送り出した冒険者の子達の多くは、後に新たな土地の開拓等の冒険の最前線で活躍し、多大な功績を挙げている一級の冒険者を多く輩出している事から、アミスさんの事を冒険者の母として、そして彼女の開いている学校は冒険者志望にとっては名門校という認識になっているらしい。

 これを聞いたアミスさん本人は知らないことだったらしく、とても驚いているようだった。

 

「それでこの頃保護者連れの子が入学したいと言って此処に訪れていたのね、子供たち自身はあまり乗り気ではなさそうだったから断ってはいたのだけど……。 お父さん、お母さんは子供の箔付の為に通わせたかったんだろうけど、本人にその意思がない以上はね。 それに私はあくまでも基本的な事を教えただけで、その後評価されたのはあの子達の頑張りがあったからだもの、それを私の教えが良かったっていうのは、ちょっと困ってしまうわね」

 

 そういうアミスさんは本当に困った顔をしていて、謙遜とかそういうのではなく本心からその言葉を発しているのだな、彼女の人柄を感じる事が出来た。

 その顔を見たデスさんは、何処か揶揄う様な表情と声色で彼女に問いかける。

 

「だがアミスよ、その希望者を入学させてやってもよかったのではないか? そうすれば親御殿から謝礼もたんまり貰えたであろうに。 この学校もそなたの個人出資なのだから資金繰りには厳しいのだろう?」

「もうデスちゃん、分かって聞いてるでしょう。 この学校はあくまで本当に冒険者になりたい子に教える所なの。 それには自分自身の心から、冒険者になりたいと納得することがなりよりも必要なの。 ただ親に言われたから、なんとなくここに通えば大丈夫なんて気持ちだと、冒険者になっても確実にどこかで命を落とすことになるわ。 それは関わった全ての人を不幸にする選択だわ。 私は教師として、そしてなれなかったけど、憧れて冒険者を目指した嘗ての私に誓って取ってはいけない選択でもあるの」

 

 そう彼女は毅然とした態度で宣言する、それが当たり前で、私の心の中に存在する『こころざしのありか』なのだと。

 それに、と彼女は微笑みを湛えながら今度はデスさんに話しかける。

 

「今この学校には私以外にもお金を出してくれてる優しい子がいるもの。 ね、受付嬢さん?」

「……あ、いや、それはだな、その、な」

 

 デスさんはしどろもどろになって、恥ずかしくなってきたのかフードを深くかぶり俯いてしまう。

 だけどこれで、アミスさんがデスさんの事を聞いた時に嬉しそうに話したことに納得できた、確かにデスさんは人を揶揄う事もあるがとても優しい女の子なのだと。

 そこでふと疑問に思う、彼女が私を助けてくれたのは確かだけど、起きた後の問答で私との面識もなさそうだったのも確かだ。

 なら何故私をアミスさんに託したんだろう? 素性の知れない人間である以上、身体が弱く身体能力が低いアミスさんよりも、元々モンスターであるデスさんが直に面倒を見ていた方がもしもの時も安全な筈。

 それなのに現状は私を恩師であり、金を融通するほどに入れ込んでいるアミスさんに預けている。

 今までのデスさんを見ていると、短慮な人ではない筈だけど……

 私は助け舟ついでに、デスさんにその事について聞いてみることにした。

 

「あの、デスさん。 そういえば何故私をアミスさんに預けたんですか?」

「……ん、あぁ、その事か。 実は余もそなたをアミスの下に連れて行ってくれと頼まれていただけなのだよ。 それがなければ恐らく余の所で面倒を見ていたであろうがな」

「頼まれていた、ですか?」

 

 彼女はその質問に首肯し、簡単な説明をしてくれた。

 それによると、彼女自身に面識のあるステラという少女に私をアミスさんに預けてくれ、と頼まれたそうだ。

 そして私がもしも冒険者に興味を持ったなら、彼女の教室に入学させてくれとも合わせて頼まれていたそうだ。

 その件のステラさんに、私の事を質問しても危ない人ではないから安心してほしいと、それと彼女の事を宜しく頼むという事だけで詳しくは話してくれなかったらしい。

 デスさんは正直不安な気持ちがない訳ではなかったが、そのステラさんが悪戯をするような子でも、ましてや人を不幸にして楽しむような子でもない事は理解していた為、頼まれていた通りにアミスさんに預け、時々様子も見に来ていたそうだ。

 ……ステラ、その名前にもどこか聞き覚えがある、懐かしい感覚を覚えている、そしてそれと同時に僅かながらの罪悪感も。

 私はその子に何をしたのだろうか? ステラさんも私に何かをされている筈なのにデスさんに何故私を頼むと言えたのだろうか。

 何も判らないが、そのステラさんに会えたら聞いてみよう、そして謝ろう、私が記憶していない事でも私自身がした事には変わりはないのだから。

 そう私が決意していると不意に、くきゅるる、と言う音が鳴る。

 どこから鳴ったのかと見渡してみると音源は私のお腹からだった、俗に言う腹の虫と言うやつだ。

 思わず鳴ったこの音に恥ずかしさで顔が熱くなりながら、そういえば私起きてから何も食べてないよ、と思い返す。

 だからってこんなタイミングで鳴らなくても……

 そう私が恥ずかしがっていると、流石に不憫に思ったのかアミスさんが此方に助け舟を出してくれた。 デスさんはニマニマと笑っていたが……

 

「リオちゃんは起きてからまだ何も食べてなかったし、私もお腹が空いてきちゃったしちょっと早いけどお夕飯にしましょ。 デスちゃんは如何する? 一緒に食べていく?」

「いや、余は遠慮しておこう。 もうそろそろあの子らも帰ってくるだろうしな、それに今日の食事当番はテンタクルだ。 あ奴の料理は旨いから楽しみでもあるしな、なので今日の所はそろそろお暇するとしよう」

 

 彼女は、ではなと言うと木で出来た操舵輪に向かうとそれを操作して機械の箱を出し、それに乗り地上へと降りて行った。

 私達はそれを見送ると、アミスさんの家へと引き返した。

 然し今改めて見ると、これは家と言うよりも学校の校舎と言うのが正しい気がするのだけど……

 

 

 

 

 

 家に戻った後、そのまま待つのは流石に悪いと思ったのでアミスさんの料理の手伝いをして、その後二人で食卓を囲む。

 

「「いただきます」」

 

 私達はそう食材に感謝の挨拶をした後に、料理に箸をつけ食べ始め、る……?

 なん、だ! 何なんだ、この感覚は!?

 私は思わず無言となり、次々料理へ箸を進め、その悉くを口へと運ぶ!

 ある種異様な光景であっただろう、アミスさんは茫然として私へと問いかける。

 

「……リ、リオちゃん? 如何したの?」

 

 私はその言葉に返答する事もなく、只管に料理を口に運ぶ。

 野菜サラダのシャキシャキとした食感、そしてドレッシングのさっぱりとした味、肉を噛みしめた時に出る肉汁とブチブチと噛み千切る食感に肉本来の旨味、パンを口に運び噛み千切ると、口の中に広がる仄かな甘みと舌触りの良さ、コンソメスープを飲むとさっぱりとした感覚に仄かに味わえる具材たちの旨味!

 それらをもっと、もっと深く味わうために只管なまでに料理を口へと運んでいく!

 

 

 

 

 そうして暫く食べ続け、味を堪能した後に私は我に返った。

 そして先程の問いかけに返答しようとアミスさんを見ると、完全に顔が引き攣っているではないか。

 さらに言えばあれほど食卓を彩っていた料理たちが皿から完全に消え失せていた。

 ……まさか?

 私は恐る恐るアミスさんに質問する。

 

「私もしかして全部食べちゃいました……?」

 

 その言葉にアミスさんはコクコクと首肯する。

 なんてこった、完全に我を忘れてアミスさんの分を含めたすべての料理を平らげてしまったらしい。

 これは恥ずかしすぎる、先程の腹の虫の比ではなかった。

 これがフィクションであったのならば正しくボンッと言う音と共に顔が真っ赤になり湯気が出ている事だろう、少なくとも今だって顔がすごく暑いのは確かなのだから。

 その後、私はアミスさんに只管平謝りし、再び共に料理を作り改めて(アミスさんだけだが)夕食を取る事となった。

 私が平謝りしている時、アミスさんは只々苦笑いをしていたことを付け加えておく。

 

 夕食が終わった後に、私はアミスさんに冒険者になりたいと伝えることにした。

 その理由は、冒険者になれば各国津々浦々の旨いものを食べられるかも知れないという不純なものだったが……

 隠してもしょうがないので、その事も含めて伝えると、彼女は微妙そうな顔をしながらもそれなら明日からお勉強をしましょうかと言ってくれた。

 私がその言葉に頷くと、彼女もそれじゃあ明日の為にもう寝ましょうかと言い、私は今まで寝ていた部屋に案内されたのだった。

 此処は本来客室だが、暫く私の部屋として使っていいらしい。

 私は明日からの事を楽しみにしながら、ベッドに横になって眠る事にした。

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