とある冒険者のキセキ 「元題名 とある「えこ民」の物語」 作:想いの力のその先へ
お姉ちゃんと共に飛行庭から降りて、アップタウンに移動する。
初めて降り立ったアップタウンは、多くの人達が道を行き交っていた。
その中には家族連れだろうか、女性に連れられた子供や、他にも冒険者らしい武器や旅用の道具を持った人達も多く見かけられる。
そしてその冒険者の人達は、よくよく見てみると女の子が多く見受けられるけど、なんで男の子が少ないのかお姉ちゃんに聞いてみると。
「うーん、女の子が多い訳ねぇ? それについてはよく分からないわねぇ。 昔から何故か冒険者志望の子は男の子よりも女の子が多かったから……」
「そうなんだ。 何でだろうね?」
そう二人で疑問に思いながらも、歩みを進めていく。
道中では威勢の良い客引きの声や、人々の雑談なども聞こえてくる。
そして暫く二人で他愛もない雑談をしながら進むと、何か建物の前で人集りが出来ていた。
何だろうとその建物をのぞき込んでみると、其処はどうやらケーキ屋さんのようで、家族連れで買いに来ていたようだった。
中ではこの店の制服を着た栗色の髪に頭上には光輪、そして背中に光り輝く羽根を持つ女の子が、お客さんに笑顔を見せながら、テキパキと動いて応対をしていた。
「そう言えば此処のケーキ屋さん、美味しいって評判だったわね」
「そうなの? なら今度食べてみたいな」
「そうね、そうしましょうか。 あら、あの子は……?」
話しながら店の中を見ていたお姉ちゃんは、店員の女の子を見て何かに気付いたといった感じの声を出す。
「あの子がどうかしたの?」
「彼女はステラさん? ……彼女は多分デスちゃんが昨日言っていた、リオちゃんの事をお願いしていた子だと思うわ」
あの子が? つまり彼女に聞けば私の事について何か判るかもしれないという事?
そして以前感じたあの罪悪感、その事も気になるし是が非でも話を聞いておきたいところだけど……
「流石にあそこまで忙しそうだと、話を聞きに行くわけにもいかないよね……」
「そうね、それに私もステラさんの事をよく知ってる訳ではないから、もしかしたら彼女は人違いの可能性もあるかもしれないから」
私が小さく呟いた独り言が如何やら聞こえたようで、お姉ちゃんはそう私に返してくる。
「それにステラさんは色々なお仕事を掛け持ちしてるって聞いてるから暇な時間が少なそうではあるわね」
その言葉にびっくりして思わず私はお姉ちゃんの方に振り向き問いかける。
「それってあの子は何か凄い借金でも背負ってるの? そうじゃなくても働きすぎな気がするんだけど」
「お金に不自由してるって話は聞いたことはないわね。 又聞きだけど、彼女は働くことが好きで色々なことを経験したいから幅広く働いているって事だったかしら?」
……成程、つまり彼女は働くこと自体が趣味みたいなものなのかな? それは凄い事だとは思うけど、でもその所為で話を聞くに聞けないというのはなんともはや。
しかし本当にどうしたものか、話を聞きたいけどそもそも彼女に暇な時間はない可能性が高く、そして私が直接面識がある訳でもないから、聞きにも行けないとなるとなぁ……
私が悶々と悩んでいるとお姉ちゃんが助け舟を出してくれる。
「もしステラさんと話してみたいのだったら、デスちゃんにお願いしてみてはどうかしら? 元々ステラさんと面識もあるし彼女が暇な時を知っているんじゃないかしら?」
「……そうだね。 それが最善で最短だよね、きっと」
「それじゃあ、それで決まりにして先に進みましょうか」
「……うん」
そう私は返事をして、あと少しで到着する目的地であるギルド元宮に二人で向かっていった。
後ろで忙しなく動きながらお客さんを捌いていた筈の彼女が此方に視線を向けていたことに気付かずに。
「あれはアミスさん。 という事は隣の子はリオさん……? そっか、ちゃんと目覚めることが出来たんですね。 という事はとりあえず今の所は大丈夫という事かな、後でイリスさんにも話しておかないと……」
「ステラちゃん如何したの。 大丈夫?」
「あ、はーい。 大丈夫でーす!」
ケーキ屋さんを後にして、暫く進んでいくと前方に大きな建物が見えてくる。
「あれがギルド元宮なの?」
「ええ、そうよ。 あそこに色々な職業ギルドがあるの」
そのまま進んでいくと改めて建物の大きさが分かってくる、外見は白亜の塔でこの建物よりも高い建物は少なくとも今まで見た景色の中では存在していなかった。
入り口近くまで移動すると、其処でお姉ちゃんは足を止め、あらぬ方向を見る。
どうかしたのかなとその視線を追うとソコには4人の少年少女が何やら話し合っている様子だった。
「あの子達は……。 リオちゃん、ちょっと待っててね」
そう言いお姉ちゃんはその4人の下に歩み寄り、微笑みながら声を掛ける。
「こんにちはユスティ君。 皆も如何したの? 何やら相談してたみたいだけど」
その声に、お姉ちゃんにユスティと呼ばれた、髪を短く整えたどこか芯の強そうな顔立ちのエミル種族の少年が反応する。
「あ、アミス先生こんにちは」
他の子達、タイタニア種族の少女、ドミニオン種族の少年と少女も、口々にこんにちはと挨拶をしていく。
そして私の事に気付いたのか、タイタニアの少女が此方に声を掛けてくる。
「こんにちは、私はアム。 貴女は?」
「私はリオ、宜しくねアム!」
そう挨拶を交わすと、他の子達からも話しかけられる。
「おいらはフィロ、こっちは妹のリザ、宜しくな」
そうドミニオンの少年が言葉を発し、少女は紹介されたときに小さくお辞儀をする。
「俺は聞こえてたかも知れないけどユスティ。 宜しく、リオ」
「うん、私はリオだよ。 みんな宜しく!」
全員と挨拶を交わしつつ、改めて4人の格好を見るとみんな同じ格好、おそらくは学校の制服に身を包み、胸元には手作りであろう折り紙のペンダントが付けられていた。
そのペンダントを見てお姉ちゃんは4人に改めて声を掛ける。
「そのペンダントは……。 アクロニア学院を卒業したのね、皆おめでとう」
その言葉に皆恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに微笑み、ありがとうございますと感謝の言葉を零す。
「で、卒業して此処に居るという事は皆冒険者になろうとしてるって事よね?」
そのお姉ちゃんの質問に、さっきまで話し合っていたことを思い出したのか、皆一様に困ったような顔をするが意を決したようにユスティはアムに声を掛ける。
「なあ、アム。 俺たちだけじゃ決められないだろうし、アミス先生にも相談してみようぜ」
「うん、そうだね。 アミス先生、実は……」
アムがお姉ちゃんに相談として持ちかけた内容は、アム自身は植物が好きでファーマーになりたいとの事だったが、在学時に担任の教師から種族の高い魔力を生かしてスペルユーザー職、ウィザード辺りになった方が良いのではないか、と言われどうすればいいか悩んでいて、皆冒険者に詳しい訳でもなく、また知り合いに冒険者がいればアドバイスを貰えたかもしれないが、そういった知り合いもいないので、皆途方に暮れていたところに私達が通り掛かったので、もしもよければ多くの冒険者を送り出したお姉ちゃんにアドバイスを貰いたいという事だった。
「なるほど、そういう事だったのね。 確かに一度決めた職は変更できないし、悩んでしまうわよね」
そうお姉ちゃんは、アムの悩みに理解を示す。
その時私は他の事、具体的に言うとタイタニア種族にはファーマーは不向きなのかな、と私なりに考えていたが頭が急に痛み出し、思わず頭を押さえて蹲りそうになると同時に、頭の中に唐突に何らかの単語、人名か何かだろうか? が、複数
「リオちゃん、ちょっと大丈夫なの!?」
お姉ちゃんが慌てた雰囲気で駆け寄ってくる。
それで気付いた他の子達も私を心配して次々に集まってくる。
口々に大丈夫かと、私の事を心配しながら身体を支えてくれる。
私はそれに大丈夫と返しながら、ふらつく身体を何とか立て直しお姉ちゃんのほうを向く。
私のその様子に、お姉ちゃんも何かあるのだと理解して心配した顔をしながらも、身体を屈めながら私に視線を合わせてくる。
「お姉ちゃん、ちょっと聞きたいことがあるのだけど」
「……どうしたのかしら? 私が知っている事なら何でも答えるわよ」
私の真剣な表情に、お姉ちゃんもまた神妙な顔をして返事をする。
そこで私は、先程アムの相談を考えた時に思い浮かんだ名前らしきものを知っているかを問いかけてみると、お姉ちゃんは驚いた顔をして、そしてどこか懐かしそうに笑顔を見せて答えてくれる。
「ええ、よく知っているわ。 でも懐かしいわね、一部の人は私が冒険者の学校を開く前からあった、東アクロニア平原の初心者学校の卒業者の人だけど、その他の子は学校を卒業した子達なのよ」
その言葉にお姉ちゃん以外の全員が驚く。
そのお姉ちゃんは、本当に懐かしいわぁ、と言いながら恐らく過去の生徒達との思い出に浸っているんだろう、終始ニコニコとしていた。
そのままにしておいても良かったかも知れないけども、まだ私の質問が終わってないから現実に戻ってもらうためにも声を掛ける。
「お姉ちゃん、まだ質問が残ってるから、戻ってきてもらっていい?」
その言葉に、ハッとして少し恥ずかしかったのか、少し顔を赤くしながらも此方を向いてくれる。
「え、えぇ、ごめんなさいね。 それであの子達についての質問? それよりもあの子達が有名とは言っても、名前を知っているって事はリオちゃん少し記憶が?」
その言葉に、私とお姉ちゃん以外の4人が私について気にしていたが、その事については後で話すからと止めて改めて質問をする。
「その人達に何か共通点はなかった?」
「そうねぇ……。 そう言えばその子達は全員、タイタニアの子でファーマー職になった子達だったわね」
その言葉に、びくりとアムが反応し、思わずといった感じでお姉ちゃんに詰め寄る。
「今の話本当ですか!」
「ええ、本当よ。 その子達は全員ファーマーになって、冒険者として巣立っていったの。 間違いないわ」
「その人達は、今は何処に?!」
「最期にあったのは結構前で元気だったわ、後の事はあくまで風の噂でしかないけど、冒険者として皆の憧れになってるのは確かなようね」
その返答を聞いたアムは、まるで力が抜けたようにペタリと座り込むと呆然とお姉ちゃんを見上げる。
私を含めて全員が大丈夫かと心配していると、頭の中で理解が追い付いたのか、そして感情の制御が出来なくなったのか、どこか安心したように笑いながら泣き始めた。
その様子に最初は皆吃驚していたが、ユスティがアムの背中をさすりながら一言、良かったな、と声を掛けるとアムは、うん、と小さい声で返事をしながらユスティに抱き着き頷いていた。
そして暫くして、アムが泣き止むと今の自信の状況に気付き、流石に恥ずかしかったのかユスティから離れながら、ユスティとそしてお姉ちゃんに礼を言っていた。
その後に今度は私の方に振り向いて。
「リオちゃんもありがとう。 貴女のお陰で私は夢を諦めないで済むから、本当にありがとう」
そう微笑みかけながら私にも礼を言ってきた。
「……ううん、私は只切っ掛けを作っただけ。 それにアムにはユスティ達がいるから私達が居なくても、きっと夢を叶えてたと思うよ」
「そうかも知れないけど、それでも今の私はリオちゃんに対して感謝でいっぱいだから、だからありがとう!」
そう満面の笑顔で言われて更に謙遜すると、これ以上は嫌味にしかならないと思い、その感謝を素直に受けてることにした。
「どういたしまして、それで次はさっき待ってもらった私の事かな」
「そういやさっきアミス先生が、記憶がって言ってたよな。 リオ、アミス先生頭を強く打ったとかか?」
そうユスティが私に聞いてくるが、それに違うと首を横に振り否定すると今までの事について話す。
即ち、ついこの間目が覚めたばかりであり、それ以前の記憶がない事、そして今回のように何かの拍子でかっこの記憶と思わしき単語や感情が出てくることがある事を。
更にお姉ちゃんにも先程の授業で出てきたジョーカーの時も知らないはずなのに知識が出てきたことを話すと。
「……成程ね、それがリオちゃんが飛行庭で相談したいって言ってた事だったのね」
「うん、もしかしたらだけど、忘れる前の私は冒険者と何らかの関わりがあったのかも知れないなって」
私の言葉にお姉ちゃんは、そうなのかもしれないわね、と返す。
「でも、私の知る中の冒険者ではリオちゃんは見た事がないわね……」
「そっか、さっき言ってたけど東アクロニア平原にも冒険者の学校があるんだよね?」
「確かにある事はあるのだけど……」
少し迷いながらもお姉ちゃんはその学校についての話をする。
曰く、その学校は本当に最低限の知識に関してだけしか教えないらしく、お姉ちゃんの青空教室が開校した後はほぼ利用する人達がいなかったらしい。
また、実際に其処の卒業生の人達も一部は改めてお姉ちゃんの学校に短期間だけ入学して、教えられていない部分の知識を得た後に卒業という事もあったそうだ。
なので大部分の冒険者については、お姉ちゃんは面識があるとの事だった。
その言葉に私を含めて皆驚きながらも、それでアミス先生はアクロポリスで有名なんだ、と言って納得していた。
「とりあえず今はリオちゃんに関しては、冒険者と何か関わりがあったのかも知れないという事と、今後冒険をすることで記憶が戻るかもしれないという事しかわからないと言った所になるわね」
「……そうだね」
少しでも何かが分かればいいと思ったのだけど、現状ほぼ進展なしという事なのかな……。
私が落ち込んでいると思ったのだろう、お姉ちゃんは少しでも場の空気を変える為に少し焦った感じでユスティに話し掛けていた。
「そ、そう言えばユスティ君。 貴方達が卒業したという事は、エコちゃんも卒業したのよね? それにしては姿が見えないのだけどどうしたのかしら?」
その質問を聞いたユスティはそのエコちゃん? を思い出したのだろう、どこか呆れた風な雰囲気を出しながら言葉を出していた。
「ああ、エコのやつなら、卒業式が終わった後にウキウキしながら『パピーとマミーに卒業したって報告してくる!』って言って、即荷物纏めて走って行きましたよ。 一応なんでもクエストカウンターには挨拶しに行ったとは思うんですが、あいつの事だから挨拶の事、抜け落ちてそのままファーイーストまで行ってるかもしれないですけど」
「そ、そうだったの」
お姉ちゃんはそう返すのが精一杯のリアクションだったようだ。
アム達もその事を思い出したのか、何処か微妙そうな顔をしている。
しかしエコちゃんか、この子の名前も何処かで聞いたような気がしなくもない。
もしかして知り合いだったのかな、と首を傾げていると、それを不思議に思ったのかアムが話し掛けてくる。
「? リオちゃん首を傾げてどうしたの?」
「あ、うん。 そのエコちゃんって名前にも聞き覚えがある気がして、もしかして知り合いだったのかな、って」
「そうなんだ、でもエコちゃんが冒険者さん達と一緒にお出かけしてたのは何度か見た事はあるけど、リオちゃんを見かけた事はないかなぁ?」
二人して悩んでいると、お姉ちゃん達も此方の事に気付いたようで、今の話をすると同じように頭を捻る事となった。
そうしてしばらく考えても結論が出ることはなかったので、これもまた先程の質問と同じようにもしかしたら何かしらの関係があったのかも知れないという事で決着をつけることとした。
「何だかんだで結構長話をしてしまったわね。 ユスティ君達もこれからギルド元宮で冒険者としての職業に就くのよね?」
そのお姉ちゃんの質問に4人は、ハイと元気よく答える。
「アムちゃんも結論が出たという事でいいのよね?」
「はい、私の他にもタイタニアでファーマを選んで頑張ってる人がいるって事も知れたし、やっぱり私植物が好きだから、ファーマーを目指そうと思います」
「そう、そう決めたのなら頑張ってね。 私も応援しているわ」
そう言ってお姉ちゃんはアムに微笑みかける、アムもまたその言葉を聞いて満面の笑みを浮かべて、頑張ります! と、返事をしていた。
「それじゃ、まずは皆元宮の中に入って職業に就いちゃいましょう? その後にユスティ君達時間あるかしら?」
「大丈夫とは思いますけど……」
少し不思議そうにしながらも、4人を代表してそう答えるユスティ。
その返答を聞いて、嬉しそうにしながらお姉ちゃんは建物に入る事を促す。
そうして全員でギルド元宮に入っていくのだった。