とある冒険者のキセキ 「元題名 とある「えこ民」の物語」 作:想いの力のその先へ
とある「えこ民」の物語 二話
さて、どうやらウォーロックへの転職は成功したらしい、その時のことを思い返してみる。
あの話し合いの後駐屯所からそのまま黒の聖堂に向かうと思っていたが、アランの。
「そういえばもうそろそろお昼かな、先にご飯を済ませちゃおうか」
という言葉で私の身体も空腹を思い出したのだろう、タイミングよくお腹の虫がなりはじめた。
思わず二人、顔を見合わせる。
正直タイミングぴったりですごく恥ずかしいのだが。
「ああ、ナナシは起きてからすぐにこっちに来てもらってその後ずっとお話してたものね、ごめんごめん」
アランはそう言って笑みを浮かべる、そうしてこっちだよと声を掛け歩き出す。
案内してくれた先は食堂のようだ。
だが私はまだ北軍に入ったわけではないし利用できるのだろうか? そもあの話の流れだと後ろ盾にはなってくれそうだが、特定の軍に入るという流れではなくなっていたような気もするが。
「アラン、ここは軍の食堂だよね? 私は兵士ではないが利用できるのか?」
「ああその点なら大丈夫。食堂は一般開放されてるんだ、ここでまずは国の料理を知ってもらって興味がわいたらこの先にある資料館にも足を運んでもらおうって感じでね。 一種の勧誘施設なんだよ最終的に軍に入ってもらえれば儲けものってとこだね。 だからあえて食堂自体も入り口近くに設置してあるのさ」
そういえばゲームの方でも長官室に普通に出入りできたな。
メタ的な部分で言えばしょうがない部分があったがこういった風に改変されたのか。
そうして食堂の中に入っていくと確かに軍の制服を着ている人だけではなく、一般人らしき姿もちらほら見かける。
お昼時だからかあちこちから美味しそうな匂いが漂ってくる。
とりあえずアランと二人開いている席に座る。
メニューを見ると雪国の料理らしくグラタンのようなものや、肉まんのようなものが見える。
ECOにも料理システム実装されていたし現実と同じ料理も存在していたのだからおかしくはないのか。
名前自体がおかしい料理もあったが、チョコチップわさび寿司とか。
「あれ、君たちもきたのか。 それもそうか今お昼だものね」
そう後ろから声を掛けられ振り向くと先程別れたノールがいた。
「ええ、今日まだ何も食べてないことに気付きまして。 それでアランに此処まで連れてきてもらったんですよ」
「そうだったんだね、それは悪い事しちゃったね。所でなんだがナナシは今お金を持っているかい?」
そう言われて改めて自分自身の身体を調べてみると、可愛らしいタイニーの顔を模した財布を発見する。
中身は見た事のない銅色と銀色の硬貨が入っているようだ、それをノールに見せてみる。
「これがお金なんですかね?」
「うん、そうだけど? またなんでそんな確認を?」
「いえ、実はこれがお金なのか自信が持てなかったのと
今幾ら位持ってるのかがわからなくて……」
その言葉に二人が吃驚したような顔をする。
そしてノールがアランを手招きし二人で話を始めてしまう。
二人とも深刻な顔をしているのだが。
それにしても私自身も盲点だった下手をしたら無一文の可能性もあったのだから。
そして通貨単位も日本円ではなくこの世界はG(ゴールド)である点も失念していた。
そうこうしている間に二人の話は終わったようだ、ノールは食堂から足早に去っていく。
何か急いでるようだが。
そしてアランが再び席に座り私に問いかけてくる。
「財布を見せてもらってもいいかい?」
「ええ、どうぞ」
「うん、ありがとう。 それじゃあええとこの銅色の硬貨が1ゴールド硬貨でこの銀色の硬貨が100ゴールド硬貨になるよ。 後これ」
そう言ってアランは自分の財布から金色の硬貨を見せる。
「この金色が10000ゴールド硬貨になるよ。 しかしナナシは自分の名前を忘れちゃってる事といいやっぱり記憶喪失ってやつなのかな?」
「……そう、なのかも知れませんね」
正確には喪失というより、元々そういった記憶が存在しないだけなのだが、現状その二つに差異なんてあってないようなものなのだから訂正する意味もないだろう。
と、微妙な空気になりはじめるがアランの
「とりあえずお昼食べちゃおう。 お腹減ってる時なんてろくな考え思い浮かばないんだし、そうだ注文はそこの食券機で行うんだよ」
という言葉で食事を優先することになった。
そんなこんなで食事が終わり一服をしていると先程足早に去っていったノールが現れる。
手には何か書状のようなものを持っている。
その書状をアランに手渡し、アランに一言頼んだよと言い食券機の方に向かっていった。
その書状について聞いてみると。
「ちょっとしたものだよ、さあとりあえずは黒の聖堂に行って転職してこよう」
そう言ってはぐらかされる。
まぁ今更こちらに危害を加えるものではないだろうし様子見をしておくべきか。
そうして今度こそ黒の聖堂に二人で向かう。
そうしてしばらく二人で他愛もない話をしながら歩いていくと黒色の教会に辿り着く、黒の聖堂だ。
中に入ると黒い修道服を着たドミニオンの女性が応対してくれる。
ゲームではウォーロックマスターが転職など応対していたが流石に違うようだ。
その女性に転職したいと告げると別室に案内される。
「それでナナシ様はウォーロックに転職希望でよろしいですね」
「はい、お願いします」
「それじゃあ、まずはウォーロックについて説明させていただきますね。 ウォーロックは元々闇の力を行使するスペルユーザー職です。 昔は心を闇に染める必要があったそうなんですが技術の進歩でそこまで大掛かりなことをしなくても転職できるようになりました。 職の特徴としては闇魔法の他に斧系統の武器に適性があって物理攻撃もこなせちゃいます、意外とオールラウンダーな職なんですよ? 後は先の話なんですが力を高めていくと今度は状態異常系の魔法も使えるようになっていきます。 最終的にはアンデットモンスターの使役なんかも可能になっちゃいます。 説明はここで終わりですが改めて転職をなさりますか?」
「はい、大丈夫です。 お願いします」
「それでは上半身裸になってください。 衣服は近くのかごに入れてもらえれば大丈夫です」
ECOの転職イベントにおいては装備を全部外して裸になる必要があったが、此方では上半身だけでいいのだろうか?
どちらにしてもまずは服を脱いでみる。
そうすると普通に脱げた、本来着たことがない服なのに
内心疑問に思いながら次の指示を待つ。
「はい、それじゃあ身体を拝見させてもらいますね」
そう言ってドミニオン女性は私の上半身をくまなく見る。
「他ギルドの紋章はないですねこれなら転職は大丈夫です。 それじゃあ転職のための紋章付与作業に入りますね」
そうにこやかな笑みを浮かべながら、彼女は言ってくる。
その事を疑問に思い聞いてみると
「実はこの間までいた英雄さん達が自分の職業とは別の職業のスキルを使っていたのは知ってますか? それで一部の人達が紋章を複数付けることが出来ると勘違いしちゃって、それで確認するようになったんですよ。 本来二つも付ける事は出来ないし無理に付けようとすると、最悪命の危険が伴うのにあの人たちはどうやって付けてたんでしょうね?」
これはあちらでのデュアルジョブシステムの事だろう。
これは三次職をカンストさせ特定のイベントをこなすことによって、本職とは別の職のスキルを使用可能にするシステムだった。
さらにイベントを進めエンドコンテンツのダンジョンの進行をすることによって、複数の職を習得必要に応じてサブの職を切り替えるという事が可能になっていた。
元々三次職はゲーム内においては都市伝説のように語られていたから、その更に先にあるデュアルジョブは全く浸透してないのだろう。
まぁプレイヤーの中でもデュアルジョブはある意味伝説級だったが、主にレベルアップに必要な経験値の膨大さで。
「はい、紋章付与作業はこれで終わりです。 それと併せてギルドの登録も終わりました。 ギルドには特にノルマ等はありませんが、時々クエストを受けてもらえると助かります。 その力を人々の為に役立ててくださいね?」
自身の身体を見てみると左胸の部分に確かに紋章が刻まれている。
それと同時に身体の内から力が滾ってくるように感じる、これが職の補正なのかもしくは魔力なのかもしれない。
そして自分の頭の中にどうすれば魔法を使えるかという知識が入ってくる、これは何とも変な気分だ。
ここで話は冒頭の思案に戻る、そして彼女もおかしいと思ったのか此方に声を掛けてくる。
なので転職したという実感がわかないと正直に伝えると、こちらに笑いかけながら。
「そうですよね、私も最初はそうでした。 でもそのうち慣れますから大丈夫ですよ」
そう言葉を掛けてくれる、どうせならと疑問に思ったスキル習得法も聞いてみると。
「スキルですか、そうですね。 頭の中にスキルの事を想像してもらうと一覧みたいなものが思い浮かぶのでそれでこれを使ってみたいな、と思うとそのスキルを使えるようになりますよ。 でも最終的に
何それ初耳。
思わずマジですかと問いかけてしまうが、その顔がツボに入ったのか彼女に笑いながらマジですよと返される始末。
その返答にまたぽかんとしてしまう。
ゲームでのスキルは本職は40個デュアルジョブは10個と取得制限があった、こんな所でも差異があったのか。
事前に知っていたらシャーマンの方を選んでいたかもしれない、あの職はスキルポイントとスキル枠が足りなくて泣く泣くスキル習得を諦めることが多々あったからなぁ……
どちらにしても安全重視で此方を選んでいた可能性はあるが。
そして言われたとおりにスキルの事を思い浮かべてみる、すると彼女の言うようにスキル一覧が頭の中に浮かんでくる、しかも私がよく知るあのゲームのUIと同じ感じで。
その事にまた驚いてしまうが、彼女に声を掛けられすぐに戻る。
「それでは、ナナシさん。 入り口の方に戻りましょう、お連れさんもきっとお待ちですよ。あと先程も言ったようにその力、人々の為に使ってくださいね。間違っても犯罪などには使わないように!」
そう自分自身の顔の近くに指を立てながら茶目っ気たっぷりに言って彼女は歩き出す。
私はその後に慌ててついていくのであった。
そうして聖堂入り口に戻るとアランが此方を見つけて近寄ってくる。
「やぁ、転職は無事に終わったんだね。 アイナさんもありがとうございました」
「いえいえ、仕事をしているだけですから。 それじゃあナナシさん、私はここで失礼しますね。 ご活躍を期待しています」
そう言って彼女は離れていく。
それよりもだ。
「アラン、彼女とは知り合いだったのですか?」
「ああ、いや彼女は有名人でね。 なんでも力だけで言ったらギルドマスターよりも上って話もあるんだ。 まぁあの警備員さん達と比べるのは間違ってるけどね」
以前の戦いの時にも手伝ってもらっていたんだ、と彼は言う。
そんなに彼女は凄い人だったのか、もしかしたら二次職カンスト寸前かまさかとは思うけど三次職クロニクルジョブなのかもしれない。
かつてのゲームでも少数ではあるがNPCの三次職は存在していた。
何時か機会があれば聞いてみるのもいいかもしれない。
「それじゃあ、行こうか。 次はダウンタウンに行くよ」
ダウンタウン? ダウンタウンに宿舎があるのだろうか? その事を聞いてみると。
「ううん違うけど。 ちょっとした寄り道だよ、別に危ない事じゃないから安心して」
アランはそう言って移動を始める。
どの道分からない以上信用してついていくしかない。
そうして黒の聖堂から先に進んで西稼働橋からダウンタウンに降りていく、そして階段を下りた先の左手直ぐにある重厚な鉄の扉の前で立ち止まる。
此処はもしかしなくても……
その時後ろから声を掛けられる。
「おや、そなたたちは」
その言葉に振り返り声の主を見る。
その子は背が小さく紫色の柄でフリルの付いたドレスを着ており、左右の髪を上の方にリボンでまとめ、どこかミステリアスな瞳をたたえる少女であった。
私は彼女を知っている、無論ゲームの中の存在であったが。
彼女の名前はデス・アルマ、本来モンスターであるが人の心を持ち人の姿になることが出来る存在だ。
「ああ、受付嬢さん。 ちょうどよかったあなたに会いに来たんですよ。 ちょっと長期のクエストのお願いがあったので」
アランが言ったように彼女は人の世では仮の名で受付嬢と名乗っており、なんでもクエストカウンターと呼ばれる何でも屋を仲間と共に経営している。
しかし彼女に会うのが用事だったのか、長期クエストとも言っていたがあの書状と関係あるのだろうか。
「うむ、そうであったか。 そこのそなたは初見であったな。 余の事はそうだな彼が言ったように受付嬢と呼んでくれ」
「わかりました、私の事はナナシと呼んでください」
「それじゃあ受付嬢さんこれをお願いします」
そう言ってアランは受付嬢にノールから貰った書状を手渡す、書状を貰った受付嬢はそれをそのまま読み始める。
そしてしばらくすると顔を上げ私の事をじぃっと見てくる。
まるでこちらを見定めるように、そしてまた書状を読みだして少し考え込みはじめるなかなか難しい依頼なのかもしれない。
またしばらくすると顔を上げアランに問いかける。
「なぁ、騎士団員の、アランだったか。 この事はそこのナナシは承知しているのか?」
やはり私が関係する事らしい。
当然か、食堂の時の問答でノールが慌ててその文をしたためるに至ったのだから。
受付嬢に何が書いてあったのかを聞いてみる。
「そういう言葉が出てくる時点で何も知らぬという事だな。 これにはお主の寝床を用意してほしい事と、記憶がないようだから一般常識を教えてほしいと書いてあるのだよ。 一般常識に関しては正確には余ではなくアミス、あぁ個人の教室を開いている者に紹介してくれという話だがな」
その言葉に思わずアランの方を見る、どういうことなのだろうか。
そうすると彼はバツの悪そうな顔をして答える。
「流石に騎士団にもそういった常識を教えるほどの余裕はなくてね。 それで彼女がどんな小さい依頼でも受けてくれることを思い出して、ノール隊長に言ってクエストとしてお願いするのはどうかと言ったんだ。 彼女とアミス先生に親交があるのは知っていたしそれにここにはその教室の生徒さんもいっぱいいるからね、そういった意味でもちょうどいいと思ったんだ、隠しててごめんね」
まぁ、確かに一般常識がないのは本当だし彼女やアミス先生の人柄は(ゲーム内で一方的にだが)知っている。
安心して大丈夫だろう、だが此処やあの学校には少女や幼女しかいないのだが寧ろそっちが大丈夫なのだろうか。
こちらの考えを読んだのであろう受付嬢が。
「こちらは大丈夫ではあるがな、お主も面白い魂をしておるしアミスもお人好しだ。 断ることはあるまいよ、一応彼方に聞いてみなければならぬがな」
そう返してくる、なら大丈夫なのかな?
なら私は大丈夫ですと告げるとアランはあからさまにほっとした顔をした。
そんな顔をするなら最初の書状の時に告げておけばいいのに。
「よかった、それじゃあ僕は行くね。 あと今後騎士団との連絡役は基本僕がすることになるからよろしくね」
そう言ってアランは去っていく、ちょっと待てアミス先生の所にはいかないのか。
そう思っていると今度は受付嬢に声を掛けられる。
「まぁ、そんな顔をするな。 騎士団は今本当に人が足りない状態でな、あやつもすぐに戻るように申し付けられているのだろう。 アミスの所への案内は余が出来る、がしばし待て。 まずはナナシ、そなたの部屋を決めるべきだろう」
確かに、そうだなと思いこれからお世話になりますと彼女に告げる。
そうして二人で鉄の扉を潜り、中に入っていった。
「三次職クロニクルジョブ」
ゲーム内における一つの到達点。
一次職、二次職を極めさらにいくつかのイベントを乗り越えることで到達できる。
ゲーム内では転生者とも呼ばれるが、これはよくある小説の神様転生や転生トラックなどの事ではなく、上位転生という儀式で生物としての位階を一つ上げることで更なる力を獲得した者達の事を指す。
「アルマ・モンスター」
基本的にはアルマと呼ばれる、その意味は古代の言葉で魂。
この世界に存在する「想いの力」によって人間に何かしらの興味を持ったモンスターなど、人間以外の存在がなる場合がある。
呼び方は前半が種族名、後半にアルマと付く場合が殆ど。
デス・アルマの場合はデスが種族名である。