とある冒険者のキセキ 「元題名 とある「えこ民」の物語」 作:想いの力のその先へ
とある「えこ民」の物語 五話
ギルド元宮を出て今後の行動をどうするか悩むがそういえば転職した後に実際に戦闘をしたことはないなと思い至り、その事をアミス先生に相談してみる。
先生はそうねと悩んだ後に学校に来てくれる? と言い移動し始める、私はそれについていき二人で学校に向かう。
そして学校に着くと先生はここでちょっと待っててね、と言い一人中に入っていく。
しばらく待つと先生は手にちょっとした大きさの箱と、手紙を持ってくる。
「はいナナシちゃん、これをつかって。 以前生徒にあげてたものの予備なんだけど死蔵しておくのも勿体ないし、それにナナシちゃんならこれも使えると思うから。 あとこの手紙をダウンタウンにいる酒屋のマスターさんに渡して。 紹介状だからクエストを斡旋してくれると思うわ」
先生に開けてみて? と言われ箱を開けてみる、中に入っているのは白を基調に若緑色の装飾がしてある装備品の数々…… これは若緑シリーズだ。
ゲームのにおいてこの装備群は所謂チュートリアル装備と呼ばれてその名の通りチュートリアル中にもらえる装備なのだが、実は性能自体はすさまじくほぼすべての装備が三次職に転生しその後専用装備群を入手するまでこの装備だけで問題ない程のポテンシャルを持っている。
思わずアミス先生を見てしまうが肝心の先生はきょとんとしている、それもそうかこの装備の真価を知っているのはプレイヤーのみであり先生は知る由もないのだから。
「これほどの物をありがとうございます先生。 頑張らせていただきます」
「??? ええ、頑張ってね」
「時に先生。 この装備群はどこかで販売されているんでしょうか?」
「え、これってもしかして凄い物なの? 私の友達が作ってる物なんだけど」
そう聞かれたので説明をしてみる、先生はそこまでの物とは思っていなかったようで終始びっくりしていた。
しかし販売はされておらずまたこの装備が最後のセットらしい、残念だ。
そして改めてアミス先生にお礼を言いダウンタウンにある酒屋さんに向かい、そして到着した後にマスターに手紙を見せてみる。
「手紙? ああ、アミスのお嬢ちゃんの紹介状か。 取りあえず簡単なクエストを受けさせてやってくれって書いてあるし、これがいいだろうな」
酒屋クエストには三種類がある、対象のモンスターを討伐するクエスト、指定のアイテム(ほぼモンスターからのドロップ品)をクエストカウンターに納品するクエスト、そしてアイテムを特定の人物に配達するクエストだ。
その中でマスターが提示してきたのは討伐クエストだ、冒険者である以上はどうあっても戦う必要性が出てくるので基本的なクエストと言える。
そしてマスターに話を聞くとその中でもこのクエストは初心者専用のクエストで、転職を済ませているのなら失敗するようなものじゃないから気楽にやってこいと言われ、何かを渡される。
これは何かと聞いてみると。
「それはクエストカード、冒険者にとっての必需品の一つで受注したクエストの詳細が表示される。 つまり討伐クエストの場合は目標の生息地域と残り討伐数、納品クエストの場合は今まで納品した数と残りの納品数、運搬クエストの場合は運搬してほしいものを持っている依頼者と運搬先の人物が表示される、大事に持っておけよ新入り」
そしてアミス先生に貰った若緑シリーズとハルバート型の武器『新生のハルムベルデ』を装備してみる、こうやって装備してみた自分自身を見てみるとゲームを始めたころのアバターを思い出し、懐かしく感じるがこの世界では間違いなく知識があるだけの初心者なので油断しないようにと気を引き締め目的地の東アクロニア平原に移動を開始する。
東アクロニア平原は東稼働橋を抜けたすぐ先にあり、冒険者用の初心者学校があったりとプレイヤーにも縁が深い場所だ、かつて一番最初チュートリアルがなかった頃はアバターはここに何の説明もなしに放り出されていたらしい。
東平原に到着し周りを見渡してみると行商人が行きかい或いは商人同士の商談、そして旅人らしき人達が移動する姿も見て取れる、とても平和な風景だった。
街道を外れるとモンスターの姿がちらほら見えるが特にこちらを気にする様子はなく思い思いに行動している、その中に今回の討伐対象の「プルル」も確認できた。
プルルは某有名RPGのスライムのような存在で、その容姿は全体的に青く、大きな目を持つ頭と体の部分が楕円形でそれを円柱状の部分で繋がっている感じで飛び跳ねながら移動している。
その辺にいる一匹を無造作に選び、魔法を行使すると身体の中から何かが放出される感覚と、身体の前方に紫色のエネルギー状の球体が形成される、カオスウィドウというウォーロックが初期で覚える攻撃魔法だ。
それを放ちプルルに直撃させるが倒しきれず、こちらに気付いたプルルが跳ねながらこちらに突進してくる、次の魔法の行使は間に合わないと悟ると咄嗟に右足を後ろに下げ身体を捻る。
すると先程まで身体があった所にプルルが頭をハンマー状の形に変えて振り下ろした、その隙に私は躱した時の勢いのまま一回転し腕に持っているハルムでプルルを薙ぎ払う。
その攻撃に当たったプルルは「きゅうぅぅん」という鳴き声と共に倒れ伏し身体を液体状の何かに変化させて消滅した、とりあえずは勝てたようだ。
あちらでは問題なく勝てるような存在だが現実となった今では勝手が違うので苦戦するかもしれないと思っていたが何事もなく勝ててよかった。
そして戦闘最初の魔法を行使した時に感じた感覚が魔力なのだろう、あの感覚を思い出しながら身体の内部を意識してみると感覚の大本を感知できた。
予想ではあるがこのクエストの討伐分ぐらいは問題なく魔法の行使が出来そうだ、その事を認識した私は次の獲物を求めてプルルを探しに走り出した。
そして次の獲物を見つける、今度は二匹が近くにおり私との距離は先程よりも遠くにいる、私はそういえばと思いついたことがあり実験の為に片方にカオスウィドウを放つ。
すると攻撃を受けたプルルと
だがもう一匹のプルルはかなり接近してきており攻撃を躱せそうにない、そのプルルは大きく飛び跳ねた後、身体を前方に出した状態で突進してくる、人間の身体だったら恐らくはドロップキックになっているのだろう。
攻撃が直撃してしまうが防具の性能のお陰か少々よろめく程度でそこまで痛みはない、攻撃後の隙を狙って私は大上段からハルムを振り下ろしプルルを一刀両断した。
その後も実験ついでに討伐を続けているといつの間にかクエストのノルマを達成していた。
その結果分かったことは、この世界のモンスターはあちらと違って同じ種族だと仲間意識があるらしく近くにいて仲間が攻撃された場合仲間を助けようと一緒に行動する事と、あちらでは魔法の詠唱中は行動できなかったがこちらでは慣れ次第で移動しながらの魔法の行使が可能だろうという事だ。
仲間意識があるのは少々面倒くさいが現実に即しているし当然のことだから問題はない、それ以上に魔法を移動中に問題なく使用できる可能性の方が重要だ。
こちらにとっても戦闘における行動の幅が広がるし、逆に魔法を使うモンスターたちの行動にも注視する必要が出てくるだろう。
クエストカウンターに完了報告をする為に移動していると頭の中に何か、メールが来たような感覚がある、それを見るように意識するとスキル一覧が表示された。
新しいスキルを習得できるようだ、そのスキルはパッシブスキルの最大MP上昇。
パッシブスキルの場合どういった感じになるのか気になったので習得してみると魔力の総量が増えたように感じる、これが効果でいいのだろう。
だがあくまで総量が増えただけでスキルを覚える前の総量との差分が増えた感じはしない、総量しか増えないと言ったところか、それでも増えることで継戦能力が高くなるからありがたいが。
クエストカウンターに着くとマスターが此方に気付き声を掛けてくる。
「戻ったか、早かったな。 クエストが終わった場合クエストカードを提示することで完了するから見せてみろ」
言われたようにクエストカードを提示するとマスターがそれを見て、カウンターにある何かを操作するとカードからクエストの表記が消える、達成したという事なのだろう。
このカードの中にはそれこそ高性能なコンピューターチップのようなものが埋め込まれているのかもしれない。
「よし、これで完了だ。 なかなか筋がいいようだなこれが今回の報酬だ、これからも頑張れよ。 ああ、後これに一度手を触れてくれ」
、報酬を受け取りそのあと出されたカードに手を触れてみると何かがカードに繋がるような感覚が一瞬だけ起こる。
「出来たぞ、これも持っていけ。 自分の今の能力が確認できる、それと今後はこの表示されている能力の少し上のランクまでのクエストが受注できるようになるからな、それも覚えておいてくれ」
そういうものがあるのに驚きつつありがたく頂戴しておく、そしてそのカードを見てみるとやはりどことなくゲームのUIと似たような表記がしてある、違いがあるとすればレベル表記がなくステータスのレベルアップ時に貰えるボーナスポイントが割り振れる機能もなさそうという処か。
だがステータス自体はレベル1の物ではない、恐らくは自身の経験で能力が自然と割り振られる形に変化しているのかもしれない。
「それでクエストは後ろの端末に今渡したカードを差し込むことで閲覧できる、また受けるかはお前の自由だから気になるなら見てみるといいだろう」
言われた方向を向いてみるとそこにはパソコンのようなものが複数台鎮座していた。
「もしもまたクエストを受ける場合はどうすればいいんですか?」
「その場合はステータスカードの差込口の下にもう一つカードの差込口があるだろう。 其処にクエストカードを差し込むと受領するかの選択肢が出るからそこで受領を選択すれば完了だ」
「この端末は混成騎士団やなんでもクエストカウンターでも使用してるんですか?」
「うん? なんでもクエストカウンター? ああ、アミスのお嬢ちゃんの生徒たちが経営してるところか。 いやあそこも騎士団も使用していない。 ここ酒屋は世界各地それこそタイタニアやドミニオンに出張所が存在してるからな。 それはその全部を管理するために作られたものだから酒屋でしか使われていない、騎士団とかは書類で管理してるはずだ」
道理でなんでもクエストカウンターでは見かけなかった訳だ。
その後まずは操作に慣れてみようと思い端末を動かしながら質問し、ある程度操作に慣れたら今日は初日なので気が付いてないだけで疲労がたまっている可能性も考慮してそのまま帰ることにした。
マスターからはまた明日からも頼むぞと言われたので少なくとも素質なしとは思われなかったようだ。
帰宅途中に一緒に暮らしているアルマの一人、鼠色のレオタードに腰にフリルのようなものと蝙蝠の羽、頭に小さい仮面を着け青色の髪に同色の獣耳を持つアルマ、ドラッキー・アルマを見かけたので一緒に帰ることにする。
「ナナシさんは初クエストの帰りだったですか。 小生は知り合いがバイトの人数が足りないと言っていたのでお手伝いに行っていたのですよ」
この知り合いはとは恐らくステラ・ロアともう一人彼女の同居人で家族でもあるルチフェロ・ロアの事なのだろう。
ルチフェロ・ロア、彼女もステラと同じくロアの一人でありその能力はあらゆる物語を終わらせるというもの。
生まれた当時はとある事情でプレイヤー陣営と敵対する陣営から魔王として生み出され自身より前に生まれたロアたちを相手取りそれを壊滅させるだけの強さを見せつけたが、その後ロアたちと敵対する必要がない理由が判明し敵対陣営と共にプレイヤーと行動することになる。
その中でプレイヤーを私の勇者と呼ぶようになり、もしも世界の全部にプレイヤーが絶望した時はこの世界を終わらせてあげるという物騒な約束を交わしていたりする。
そしてその騒動が終わった後は人間をもっと知るためにステラと共にアルバイトをはじめ、頑張り屋さんの女の子として街中の人々に親しまれている。
「でも酒屋でクエストを遂行できるという事は今後受付嬢にも何かクエストを頼まれるかもしれないです」
「私もあそこに住まわせてもらっているしね、それで恩返しになるなら是非とも働かせてもらうさ」
「そういう事なら受付嬢に話してみますか? 今は騎士団も忙しいから結構こちらにも仕事が回ってきてますよ?」
「それはいいな、なら帰ってから聞いてみようか」
そう二人で雑談しながらなんでもクエストカウンターへの帰路へと就いた。
「プルル」
アクロニア大陸のあらゆる所に生息するモンスター。
色や大きさ、戦闘能力にも違いがあり
とても強い個体はエンドコンテンツのダンジョンにも生息していた。
アミス先生とかつて家族として一緒に暮らしていた者もおり
その子は後にアルマ化している。
「酒屋」
クエストを主に受ける場所。
本来は酒場の方が情報収集などの意味でそれらしいのだが
アバターが子供の外見をしているため不味いだろうという意味で
酒屋という呼称になっている。