とある冒険者のキセキ 「元題名 とある「えこ民」の物語」 作:想いの力のその先へ
とある「えこ民」の物語 八話
今日はとても天気がいい、ポカポカ陽気で絶好の洗濯日和であろう。
此処は上空1000メートルに位置するアミス先生が所有する飛行庭、即ちアミス先生の青空教室。
今は丁度皆の登校が終わり授業が始まるところだ。
「はい皆おはよう、お寝坊さんはいないようね。 ナナシちゃんは昨日のお仕事ご苦労様、西軍の方も喜んでいらっしゃったわ。 先生はそれよりもナナシちゃんがちゃんと無事に帰ってきてくれて本当によかったと思ってるわ」
それじゃ、授業を始めましょうか。 と先生は言葉にし今日の授業が開始される。
今日の内容はイリスカードに関する事のようだ。
イリスカード、それはこの世界に存在する【想いの力】を利用し、世界に生きる人々の思い出や感情をカード状に封印したものだ。
名前の由来はかつて想いの力を人々の為に使うことが出来ないか、と初めて研究をした学者である【イリス博士】の研究記録、通称イリスレポートから取られている。
その力はこのカードの研究者をして、国に知られると軍事技術に転用されかねないと危惧されるほどであり、個人でひっそりと研究している状況だった。
まぁ現在は冒険者を中心に広く浸透し、公然の秘密状態となっているが国家での研究はされていない。
研究して軍事転用できても最悪
「それじゃあ、このイリスカードの使用方法ナナシちゃん以外で分かる子はいるかしら」
アミス先生の言葉に二つの手が上がる、一人はドラッキー・アルマ、もう一人は紅いロングヘアーに可動式のバイザー、同じく紅を基調としたスチームパンク調のワンピースに丸い飛行機械を引き連れた女の子、オートメディック・アルマだ。
「はい、それじゃオートメディックちゃん。 答えてみてね」
「ハイ、…………イリスカードを使用する為にはまず装備に格納させることが必要。 格納させるためには、特殊な素材を使い装備に専用のスペースを開けることで使用可能になる。 尚、格納した後にカードをロックしないと紛失する可能性があるので注意」
いま彼女が言ったように、カードを使う場合は装備に装着させる必要があるが装備品にはそもそも心が無いために装着させることが出来ない、なのでその入れ物である心の器とでも言うべきスロットを専用のアイテムで拡張する必要があるのだ。
そして装着させる事でカードは力を発揮し装備者のステータスが伸びたり、武器や防具に属性を付与できるようになったりする。
「オートメディックちゃん、正解よ。 よく覚えてたわね、偉いわ。 ナナシちゃんは冒険者として何かあるかしら」
「そうですね、余り気にする事ではないですが一応の補足として、使用するアイテムが初心者装備が想いの結晶、中級者が想いの大結晶、上級者が想いの真結晶に別れる位です。 ここ等辺りは実際に取り扱ってみないと解りにくいかも知れませんね」
私の言葉にオートメディック達は成程と頷きながら聞いていた。
「はいナナシちゃんもありがとう」
それじゃ次にこのイリスカードは…………とアミス先生の授業は続いていった。
放課後、ダウンタウンの酒屋に行くとマスターから声を掛けられる。
「おお、よく来たなナナシ。 お前に依頼が入ってるぞ」
「依頼ですか? 私に指名で?」
「そうだ。 それだけお前も有名になってきたって事だな」
そうマスターは笑いながら言ってくる。
まだ二次職にもなっていない身としては有名になる理由が良く分からないのだが……
何にしても依頼内容は聞いてみるべきだろう。
「それで依頼とは何でしょう。 早く終わるのであればいいのですが」
「ちょっと時間が掛かるかもな、依頼は此処からアイアンサウスまで食料の輸送護衛だそうだ」
……真面目に何故私に依頼しようと思ったのだ、この依頼主は。
少なくとも二次職の冒険者は何人も居るのだから戦力的にそちらに回すべきだろうに、とは言え此処で顔を覚えてもらいお得意様になってもらうと色々と捗りそうなのもまた事実。
「ナナシ、戦力的な事で悩んでるなら安心しろ。 移動に関してはその依頼人の飛行庭で行く事になっている、つまりはお前は荷物持ちのようなものだ」
「なら余計私はいらないのでは?」
「依頼ってのは名目で本当の目的は、将来有望そうな新人との顔繋ぎだろうさ。 大抵の有名どころは軍に所属したりお得意様がいるからな。 お前と混成騎士団の繋がりは一般には知られていない、それだけに有望株に見えるんだろう」
成程ならば納得だ。
しかしそれでも日帰りという訳にはいかないだろうし、アミス先生と受付嬢には話を通しておくべきだ、出発前には二人に話しておこう。
「依頼は受けるという事でいいんだな? なら先方には連絡しておく、後でアップタウンの飛行庭発着場に向かってくれ」
「わかりました」
まずはなんでもクエストカウンターに戻り受付嬢と話をするかと思いそちらに歩を進める。
そして彼女にそのことについて話をすると。
「うむ、そうか。 そなたの事については余から説明しておく。 気にせず行ってくるがいい」
と言われ、アミス先生からも。
「あら、またお仕事なのね。 今回は危ないことはないとは思うけどちゃんと無事に帰ってきてね」
と、快く送り出してもらった。
あと、例の贈り物はもう少しで渡せると思うから楽しみに待っててねとも、本当に一体何を貰えるのだろうか?
その後アップタウン南東にある飛行庭発着場に向かい依頼主と挨拶、共に飛行庭に乗って一路アイアンサウスへと向かうことになった。
此処はアイアンサウスに向かう途中のステップ砂漠上空、国境であるサウスリン岬の少し前と言ったところか。
しばらくすると前方地上部にとある建物が見えてきた、それを見ていると後ろから依頼人に声を掛けられる。
「ナナシ君如何したんだね。 ああ、無限回廊を見ていたのか、君も冒険者である以上はやはり興味があるか」
「ええ、あそこは色々な意味で有名な場所ですから」
無限回廊、かつてあった地深く潜る回廊を元に古代ハイエミル人に作られたと言われるあの場所は過去においてはハイエミル人たちの修練場だったそうだ。
その内約は1階から40階の上層、41階から71階までの中層、そして72階から101階までの下層と102階以降をどこまでも続くゲームにおいてはエンドコンテンツの一つであった奈落階層とその4層を起点としてまた一部ではさらに枝分かれをしている超大型の地底ダンジョンであった。
「かの英雄たちもあそこに足繁く通ったと聴いておるし、きっと彼らを引き付ける何かがあったのだろうな」
「はい、私もそう思います」
実際には奈落階層が一部の上級者たちのレベリングの場ととして使われていた事を指しているのだろう。
「さてもう少しすれば国境だ、あと半分でアイアンサウスシティに着く。 ついた後の事はよろしく頼むよ」
「了解しました」
そのまま飛行庭で進み国境で検問を受けた後アイアンサウスへと文字通り飛んでいった。
そのまましばらくしてアイアンサウスに着くと荷下ろしが始まるが、其処に白い髪と狐耳に九本の尻尾、肩がそのまま見える改造和服を着た女性が駆け寄ってくる。
すると依頼主はその女性を知っているようで親し気に声を掛ける。
「おや、たまちゃんではないか。 今日もお手伝いなのかね、無理はしないようにな」
「んふふ~、大丈夫よ。 すーぱーお手伝いさんであるお姉ちゃんには不可能はないのよ、だから安心してね商人さん♪」
そう笑いながら伝える依頼主にたまちゃんと呼ばれた女性、名を玉藻・ロアと言い、かつて【イリスと記憶の書架】で紙芝居において謀略を用い国を亡ぼす稀代の悪女として描かれ、それを元にアイアンサウスに顕現、あらゆるお手伝いをしていたがそれが彼女自身も知らず知らずに行っていた謀略であり、彼女にアイアンサウスの国民が依存したのちに忽然と姿を消し、その結果仕事をする人間がいなくなり緩やかに国を亡ぼすというものであった。
しかし彼女自身の温和で献身的そしてお節介焼きな性格と、アイアンサウスの職人気質で義理堅いという国民性が上手くかみ合い最終的には物語の結末が書き換わり、アイアンサウスは亡びずに彼女もまた悪女としての存在では無くなったと言う過去を持つ。
依頼人としばらく話していた彼女は私に気付いたのか
「ん~? あなたとは初対面よね? 私は玉藻、たまちゃんって呼んでね」
と此方に話しかけてくる。
私がわかりました、私はナナシと言います。 此方こそ宜しくお願いしますと言うと。
「うん、ナナシ君っていうのね。 宜しく♪」
そう私に微笑みかけながら答えていた。
そうして皆で荷下ろしをすると意外と早く終わり依頼人は上機嫌で私達を労いながら、私に一緒にアップタウンに帰るかね? と聞いてきたが、私は後で無限回廊に寄ってみたいこともありやんわりと断ると、そうかと言い一足先にアップタウンへと帰っていった。
「それでナナシ君はすぐに無限回廊に向かうの? 流石に今から行くと着くころには夜になっちゃうよ?」
とたまちゃんに言われ、とりあえずまずはアイアンサウスのクエストカウンターに依頼完了の方向をした後に、宿を手配して暇になったので彼女のお手伝いを手伝うことにした。
「うん? 私を手伝うの? それはありがたいんだけど、無理はしないでね」
…………正直私は彼女のお手伝いというものを甘く見ていたのだろう。
彼女はそれから精力的に、本当に精力的に活動し各地のお手伝いを行っていた。
北に行っては工房で製鉄を行い製品の検品をし、南に行けば商店の売り子をしながらお客さんの相談を聞き、迷子が見つかれば各地を走り回り親を探し、怪我人が見つかれば救急箱片手に怪我人の下に駆けていく。
時に私と一緒に行動し、人手が足りなければ別れて困っている人の下に駆け付ける、正にすーぱーお手伝いさんの名に偽り無しだ。
…………はっきりと言ってしまえば私は只の足手まとい状態だったと思う、だが彼女は嫌な顔一つせずに全てをこなして見せた。
それこそ彼女一人で全部出来たのではないだろうかと思わせる程に、それ程までに彼女は凄まじかったのだ。
そして全てのお手伝いが終わったのは、夕方。
もう少しで日が落ちるだろうという時間帯だった。
「んふふ~、ナナシ君お疲れ様♪」
彼女が此方に微笑みかけながら言葉を紡ぐ、私は疲労困憊の状態だったが何とか言葉を返す。
彼女はまだまだ余裕があるようだった。
「……お、疲れ、様……です………」
「はい、これでも飲んでまずは呼吸を整えて?」
そうして私に飲み物を渡してくれてそれを口に含む、それはどことなくスポーツ飲料を思い出させる味だった。
一口飲むごとに元気が湧いてくるように感じる、生き返るとはこんな状態の事なのかも知れない。
「ング、ング、ハァ、……ありがとうございます、助かりました。 たまちゃんはいつもこれだけの人助けを?」
そうすると彼女は首を横に振り答えを返す。
「んーん、今日はナナシ君が居たからいつもよりもいっぱいお手伝いできたかな。 ありがとうね♪ でも今日は疲れちゃったでしょう?」
「はは、正直お手伝いというものを甘く見ていましたよ」
「でもよく頑張りました♪ そんな頑張ったナナシ君には、お姉ちゃんからご褒美です♪」
そう言うと彼女は尻尾を此方に向け、ほ~らぁもふもふだよ~と言いモフらせてくる。
なんと言うか子ども扱いを受けているのは分かるのだが、この尻尾の感触を知るとどうでもよくなってくる。
しばらくその感触を堪能するも流石にずっとしているとそのまま色々な意味で堕ちてしまいそうなので尻尾を離す。
「ナナシ君もういいの?」
「ええ、これ以上触っているとたまちゃんに甘えて何もできなくなってしまいそうで……」
「そうなんだ、んふふ~。 自制出来るのはいい事だけど、きつい時はお姉ちゃんに頼っていいんだからね」
そう私に語り掛けてくれる、私はその言葉に礼を言い今日はもう遅いからという事で宿に戻る事とした。
そして翌日、私がアイアンサウスから無限回廊に向かおうと出発するときにたまちゃんは見送りに来てくれた。
「ナナシ君、もう行くんだね。 無限回廊はそれなりに危険な場所だから気をつけてね」
「わかりました、たまちゃんもお元気で」
その言葉に笑顔を見せまた会おうね、と答えを返してくれる。
私はそのままアイアンサウスを出発した、さぁ目的地はステップ砂漠にある無限回廊だ。
私がナナシ君を見送ったあと、後ろから声を掛けられる。
「玉藻さん、今の子が?」
その声を掛けてきた女の子に答えを返す。
「うん、あの子だよ。 どことなくご主人様たちに似てる感じだった」
「あの人たちに、……ですか」
「うん、もしかしたらご主人様たちと
「想いの力」
この世界全てに存在する特殊な力。
人々の想いが文字通りに力になり多くの奇跡を起こしたが、善き感情だけではなく悪い感情も具現化してしまう側面を持ちその結果世界が異常事態に陥ることもあった。
「イリス博士」
はるか昔、エミル界でのDEM戦争時に生きていた女性。
想いの力のをはじめ、ヴェルデガルド女王とも親交があり共同研究も行っていた可能性がある。
またイリスと記憶の書架において夢という形で見た物語群を書記として残した、ある意味においてはロアたちの生みの親と言うべき人物。