記憶の無い僕と黒い刃の彼女   作:丸いの

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21. この空は何処へと通じてる

 全てを見透かそうとするようにこちらを見つめるカタリナ様に、初めて警戒感を抱く。彼女がそれを明かして何をするつもりなのかは分からない。しかし仮にも始祖族へ対抗できる手段、つまりはこの国の秩序を崩しうる存在であるナインのことを、始祖族であり王族でもあるカタリナ様が放っておくわけがない。

 

 おそらく露骨に警戒心が顔に出たのだろう。カタリナ様は「なにもとって食うつもりはないよ」と言いながら少しだけ表情を柔げたが、それでも彼女の本心への疑惑は拭えない。

 

「……始祖族の霊剣とまともに打ち合える代物なんてそう多くは無いさ。武器になんて到底ならないような堅牢な城壁とかを除けば、神器と呼ばれる古代のアーティファクト、それか同じ始祖族の霊剣くらいしかない」

 

 淡々と、しかしよどみなく彼女は言い切った。剣や斧と言った普通の人が手で運び扱えるような武器は、始祖族の霊剣に打ち勝つことはまず出来ない。幾多もの反乱兵たちがカタリナ様に各々の剣で挑みかかり、剣ごと両断されたのは、カタリナ様が卓越した戦闘能力を持っている以上にそれだけ霊剣と普通の武器には隔絶した差があるということだ。

 

 その逆立ちしてもひっくり返らないような理論は、前々から僕も知ってはいた。クアルスで暮らしていた頃、ことあるごとに始祖族には逆らってはいけないとアンナさんやフィンに聞かされていた。彼らの扱う霊剣の堅強さは、その理由の一つでもある。

 

 時折言われた、相当に腕の立つ剣の達人でも無ければ始祖族に対抗すらできないという話。その真実とは、単純な打ち合いになったらまず霊剣に対しては勝ち目がないということ。剣を極力打ち合わすことなく仕留めるような化け物染みた腕前でもない限り、勝負にもならないのだ。

 

「じゃあ、君の扱っていたあの黒い双剣は何だ。恐らくは古代の神器と考えるのが妥当――君と背中合わせで戦ってた時はそう思っていた」

「しん、き……?」

 

 その不思議な単語に思わず聞き返す。さっきも彼女が言っていた神器、それ自身に全く聞き覚えが無かったわけでは無いが、何故今この場で話に上るのかは分からなかった。曰く、忘れ去られた古の時代の遺産として出土する物品。文献にすらも残らない古代文明の存在を証明する、数少ない証拠品。しかし実物は当然見たことは無いし、それどころか神器というものの実態すらも良くは知らない。

 

「神器なんて君たち人間にとってみればただの遺産か何かだろうがね、そいつらの正体はボクたちの霊剣に対抗できるような強力な兵器だよ。そしてその情報は、一部を除けば隠匿された話さ」

 

 さも当然のことのようにカタリナ様が言った内容は、僕にとってみれば目を見張るようなものだった。ただの古代の遺産だと思っていたものが霊剣に対抗できるような代物だということも、そしてそれが敢えて一般市民には広まってはいないということも。そしてそれを平然と知ってしまった僕は、どうすればいいのか。

 

「でもボクは考えを改めた。君の扱っていたあれは神器でも、ましてや見た目通りのただの剣ですらない」

「……その根拠は何ですか?」

 

 正直、僕はナインの正体を全く知らない。そしてその正体について、今この瞬間まで何の違和感を抱かずに過ごしてきた。

 

 冷静になって考えれば変な話だ。始祖族の霊剣に対して打ち合えるというだけでも異常だというのに、その正体は僕と変わらないくらいの歳と思われる少女。どちらか一つを取っただけでも、到底普通とは思えないはずのことを、表層意識ではおかしなことと考えてはいたけど、それを受け入れている自分もいた。

 

「君も気が付いているくせに。神器は、言ってしまえば素材から製作者すらも不明な、それでもただの兵器だ。決してその子のように人の形なんて取りはしないんだ」

 

 あきれたような笑いと共に、彼女はナインへと視線を流した。やはりこの人は見ていたのだ。気を失った僕を護るために、無理やり剣から人の形へと変化したナインを。

 

「流石に王族のボクでも、人が剣に変身するなんて御伽噺でも無ければ知らないさ。でも、それによく似たものならば心当たりがある」

 

 軽く振ったカタリナ様の手には、次の瞬間に大きなハルバートが握られていた。黒紅色にゆらめく陽炎をまとい、彼女の身の丈に合わないほどの長さを誇る存在。何もない空間に突如顕現したそれは、カタリナ様が指を打ち鳴らした途端に再び蜃気楼のように消えて失せる。

 

「有機的なヒトの体と無機的な剣、どうしても重ならないはずの二つを橋渡しする存在、それが霊剣だ。ここ数日色々と考えたけど、この子の本質は霊剣であるという結論に達したよ」

 

 僕たちの会話などつゆも知らずにこうこうと眠り続けるナインを見た。確かにカタリナ様の言い分は分からなくもない。霊剣に対抗でき、そして人の身と剣を行き来する存在。それが霊剣に通じるというならばそうかもしれない。

 

「……でも、彼女は始祖族ではないですよ。そしてそれを扱った僕も、ただの人間です。霊剣が始祖族の魂の具現化した存在である以上、殿下の言うことは矛盾があります」

 

 いつの間にか、ナインのことをなんとかひた隠しにしようという意思は薄くなり、僕は自分が抱いた疑念をそのままに口へと出していた。

 

 霊剣はその成り立ちから考えて当然始祖族にしか扱えず、僕たち人間にとっては縁もゆかりもないはずのものに違いない。だからナインの正体が霊剣だと考えたら、その前提から崩れてしまう。

 

「単純な話さ。その子が霊剣であると仮定したほうが、そうでないとした時よりも矛盾が少ない。そしてその鍵は、ツカサだ」

 

 しかしその始祖族たる彼女自身が、その致命的な矛盾にすらも是と答える。何かを含ませるような笑顔を浮かべた彼女が、その細い指先を僕の額の前へと伸ばした。触れてすらいないのに、まるで押さえつけられたように動けない。カタリナ様の笑顔には、ただそれだけで否定をすることを禁じられたかのような強制さがあった。

 

「君の戦いかた、あれは見事なものだよ。敵を速度で翻弄し、そして隙を見つけたら力で一気に押しきる――でもそれは、決して天性のものだけじゃない。あの女に致命傷を負わせた時、君は常人の体ではおおよそ出来ない動きをしていた」

 

 見透かすような視線に耐えられず、だからと言ってそれを否定することも出来ず、彼女の視線から少しだけ目を背ける。今思い直しても、あの時の自分が普通ではなかったのは明白だ。足が動かないほどの傷を負いながら、世界が止まったかのように体が軽くなるなど、それは常人からは程遠い。

 

 あの瞬間に感じ取ったこと、それは自分自身を覆う不可視の膜のようなもの。ただ体を動かすのではなく、自身を構成する全てを連動させるという異様な感覚。

 

「おそらく魔素を用いた身体能力の強化。わかっちゃいるだろうけど、君たち人間には逆立ちしたって不可能なはずの、立派な魔術の行使だ」

「……は、はは。何を、言ってるんですか。僕が魔術だなんて――」

 

 乾いた声でそう返そうとしていた頭の中に何かが過る。それは、マオとの殺しあいの中で頭の中に聞こえたナインの囁き。僕の体に訪れた異変のことを魔素を用いた瞬間的な身体能力強化、確かに彼女はそう言っていた。あの時はそんなイレギュラーも切り抜けるための一要素でしか無かったけど、全力を投じて敵を打倒することにだけ専念できていた時とは違って冷静な頭でその言葉を反芻したら捉え方も大きく変わる。

 

「仮にこの子が霊剣そのものだとしたら、彼女が人としての体を持つことも、そして君が魔術を行使できることも無理やりにだけど説明は出来る。彼女は人の身でありながら霊剣を顕現させ、しかしそれは己の手では扱えず。そして霊剣として秘めた能力が、使用者に簡易的な魔術を使わせるというものかもしれない」

 

 それは結局のところ、カタリナ様が思いついた机上の空論でしかない。だというのにその口からすらすらと出てくる文言は、どこか僕の心をつかんで離してくれないような代物だ。妙な説得力、少なくとも彼女の話のなかには一本真っ直ぐ通った理論がある。

 

 ふと、心のなかにとある落胆が過った。もしかしたら、始祖族とも渡り合えた僕の能力は、その全てが自分のものではなくナインによって与えられた借り物に過ぎないのかもしれない。この黒い剣を手放したら、また僕はただの反射神経が良いだけの一般人に逆戻り。その未来を空見し、湿っぽいため息が漏れだす。

 

 一度その方向に考えが向いてしまえば、後に待っているのは終わりのない思考の迷路だ。結局今こうやって旅に出た自分を構成しているのは、その意思は無くしたはずの過去の記憶に引きずられ、そして力はきっと自分のものではない借りてきた物。

 

 今の自分自身を突き動かす過去を取り戻すという行動のなかに、どこまで今現在の自分の意思があるのだろうか?

 

「……とまあ好き勝手話してきたけど、どのみち彼女がイレギュラーな存在なのは変わりない。そしてボクも、そんな話を揚々と他人にバラす気はない。その上で、ツカサに忠告しておくよ」

 

 その迷路に僕が引き込まれるように促したのも、そして頭を引き上げさせたのも、この彼女だった。考えがまとまらないぼんやりとした頭を上げたその前で、真剣な顔を浮かべたカタリナ様が目に入る。

 

「自分自身について、一度よく考えるといいさ。普通ならば扱えない魔術を使えることの意味と、そして君と彼女のあり方を。君は果たしていつまで彼女を使い、そして――」

 

 言葉を一度切ったカタリナ様は、こうこうと寝息をたてて起きる様子のないナインを一瞥した。彼女が初めてその目に宿す、明確な懸念の眼差し。

 

「――いつまで彼女に使われ続けるのかな」

 

 露になった自分の脆弱性に、彼女の言葉は容赦なく突き立つ。高々顔を見知って一日の、それも立場としてかけ離れた王族にして始祖族である彼女に、何がわかるというんだ。そんな見透かしたような視線で、知ったような口を叩くな。そう声高に叫ぼうとする心のなかで、でも僅かなれど綻びは存在をしている。

 

 確かにこの僕には失われた記憶がある。そしてきっと、ナインはその過去の僕に面識がある。でも言えるのはそこまでだ。僕は、ナインが過去を取り戻すことに協力してくれているものだと信じている。どこか違和感を抱えた日常を捨てて、本当の自分を探す旅路に身を投げたのも、全ては彼女の存在ありきのこと。

 

「彼女の本心なんて全く知らない。でもボクは、君がいつの日か霊剣擬きに使い潰されないことを願ってるよ。せっかく見つけた面白い人間を、そんな不条理に潰されるのは面白くないからね」

 

 でももしナインが、彼女自身の別の目的のために僕を使っているのだとしたらどうなる。果たして今ここに、ナインを全面的に信じるに足る証拠はあるのか。

 

 僕はこの少女のことを、これからもずっと盲目的に信頼して良いのだろうか?

 

 「また明日も来るよ」と言い残してカタリナ様が部屋から去っていった後もそんな疑問がゆっくりと頭のなかを回り続けていた。部屋に聞こえるのは、ナインの小さな寝息と、時折窓の外から来る訓練している兵士たちの掛け声だけ。当然僕の疑問に答えてくれる人など、存在はしなかった。

 

 

* * *

 

 

 四日間という長さは、自分自身の歩くという感覚を鈍らせるには十分過ぎるものだったようだ。夕焼けで紅く染まったヴァローナの街並みを見下ろしながら、砦の外郭の屋根を廻る道を倒れないようにゆっくりと歩く。

 

 多分カタリナ様が知らせてくれたのだろう。軽めの食事を持ってきてくれた給士の人に無理を言って、こうして砦の内部という制限のもとで外の空気にふれることができている。どうやら完全にここを出るためには砦の将であるイーリスの許可がいるらしく、その上今日は彼の予定が全て埋まっているから、最低でも明日にならなければ街に戻ることはかなわない。

 

 この砦からでも見える、中央広場の姿。もう市民たちの姿は戻っているようだけど、つい数日前はあの場所はこの世の地獄へと化した。この背後にいくつも備えられた大型のバリスタから射出された大槍によって地面にいくつもの孔があき、そして流石に今は分かりやすい痕跡は残ってはいないだろうけど多くの市民があそこで殺された。

 

 今日一杯はずっと忙しいというイーリスは、あの武装蜂起の後処理に追われていることだろう。犠牲になった市民への対処だけでなく、要衝の地としての防衛力の建て直しもきっと急務に違いない。それを考えたら、確かに僕に割くような時間はそう簡単には出てこないのも納得だ。

 

 

 ふと、バリスタの脇に放置された木箱をみつける。朽ちてはおらず、座るにはちょうど良い大きさ。疲れた脚を休ませるために、そこへ腰かけた。ただでさえ人手が足りないだろうから周辺には見張りの兵の姿はなく、ここにいるのはただの僕一人。夢の世界に落ちたままのナインも、起こさないように部屋へと残してきた。

 

 思えばクアルスの街を飛び出してきてから今に至るで、一人きりになって物思いにふけるという時間は中々になかった。今くらいは、こうして誰もいない空間に身を置きたかった。

 

「……空、ね。山間の地から見えるだけの、ただの夕暮れじゃないか」

 

 砦から街の城門、さらにその外側へと目を向けると目にはいる、星が見え始めた夕暮れの空。方角から言って、その遥か先にはきっと海が続いているのだろう。心が奪われるほどではないが綺麗な光景。今感じているのは、そんなところに過ぎない。

 

 ヴァローナを護るために力を貸す、その決断を下したのも同じ場所でのことだった。ナインに言われた、過去の自分はこの空を眺めていたという話。この街に、過ぎ去りし日の中の僕は何を残したのだろうか。この空は、きっと今の自分とは異なる感情だって抱いていたのかもしれない。

 

 僕には、そんな過去の記憶に残された思念をなぞることしかできないだろう。

 

「馬鹿らしい。過去の自分に成り代わるだなんて、冗談にもならない」

 

 まるで、自分を納得させるがために自然とそんな言葉が口をついた。確かに僕は、過去の自分を取り戻すがために旅に出た。それは、本当の自分を知らなければ命が尽きるその日にきっと後悔をするから。自分自身すらもしらずに命の灯火が果てるのは、多分悔やみきれないのだろうから。

 

 でもそれは、いなくなった過去の自分を再び蘇らせることとは重ならない。これから取り戻そうとしている過去は僕にとってはあくまでも知識であり、決して経験などてはない。

 

 そして、多分ナインは僕を通して過去の自分を見ているのだろう。彼女の何気ないしぐさに言動を見てみればわかる。それはただ単に同じ目的を持った人間同士でのものに収まるものではないのだ。だからだろうか、彼女の言葉は僕を通した別人に向けての物に聞こえてしまう時がある。

 

 

 もともとナインに対して違和感を覚えるだけの土壌はあった。そしてさっきのカタリナ様の言葉によって、疑念という芽が出るにまで至ってしまった。

 

「使い潰される、か……」

 

 カタリナ様に言われた言葉を、そのまま反芻するようにして口にした。ただ利用されるよりもよほどひどい、まるで消耗品か何かのような言われよう。

 

 彼女のその言葉の根拠は、黒剣と化したナインの特性だ。本来であれば魔術を使えることの出来ない人間族がそれを行使する、そんな不条理は何かの代償があってもおかしくはない。ナイン単独では戦えず、だからそれを扱える人間が消耗品なのではないか。おそらくそれが、彼女が言わんとしていたことだろう。

 

 

 だけど結局のところ、それが本当かどうかなんて分からない。ナインの本心なんて、出会って高々数日の僕になんか分かりはしない。彼女はあくまで僕の目的に協力をしてくれてる同行者に過ぎず、少なくとも今の僕にとってはまだ日の浅い付き合いでしかないのだ。

 

 少なくとも今の段階では、彼女の本性を疑うも信用するも、それは自己満足の域を出ない。本当だったら、そんなものを抱くような段階にすら達してないのだから。

 

「……もし彼女に使い潰されそうになっても、そのときに考えれば良い。どちらに振れるでもなく、距離を保てばどうとでもなるさ」

 

 誰も聞き手がいない空間に、自分の声だけが響く。もし彼女が自分の目的のために僕を使おうというのならば、僕も自分の過去を知るために彼女を使えば良い。

 

「過去の自分、僕はお前の痕跡が残るこの街を救ってやったぞ。いつの日か、今度は僕の深層に巣くうお前を日の下に明かしてやる」

 

 何処へと続いてるかも分からない空、その果てに向かって吐き捨てた。この行動に然したる意味なんてない。見知らぬ過去を探すというこの旅路は、今この瞬間の僕の意思で行っているんだと自分に言い聞かせるだけだ。

 

 

* * *

 

 

 太陽が沈み行くと共に、冷たい外気が牙を向き始める。道を行く人々に寒さを感じさせる風が街の隅々を過ぎ、そして砦の外周にまで到達する。

 

 外郭通路に積もった塵が強めの風に吹き流される。その中、一人木箱に座ったまま街並みを眺めていた黒髪の青年ツカサは、肌寒さを覚えているのだろうがその場を動こうとはしなかった。

 

 一番星が瞬き始めた東の空を眺める彼の視線には、険しさが浮かんでいる。きっと同じ空を見上げていたであろう記憶から消えた自分に向けての宣戦布告。その決意を噛み締めるために、ツカサはじっとその空を見上げていた。

 

「……」

 

 そして夜の幕が上がり始めた外と壁一つを挟んだ砦の内部で、壁に寄りかかった少女はなるべく音をたてないよう静かに息を吐いた。ツカサがいる所からは死角になったその場所で、吹き込んできた冷たい風が彼女の薄桃色の髪を揺らす。

 

 眠りに落ちたままに"見えた"彼女を置いて砦の外郭へ向かったツカサを追うようにして、彼女もそっと彼の後をつけてここにたどり着いたのだ。彼女が立っている場所ならば、ツカサに気が付かれることも無く彼の独り言も十分に聞き取ることは出来る。だからツカサが過去の彼自身へ向けた独白だけでなく、少女へ抱く揺れ動く心から漏れ出た言葉も全てがナインの耳へと届いていた。

 

「……あの女……っ」

 

 彼女は小さく呟きながら険しい表情を浮かべる。でもそれは、ツカサのようにある種の決意に満ちたものなどではない。眉間に皺を寄せてそして唇を噛みしめた、何かへと憎悪を抱くかのような歪んだ貌。ツカサの前では決して浮かべはしないような表情を晒す、それほどまでに憎しみを抱かせる何かが彼女の内面に渦巻いていた。

 

 

 そして間もなく、ヴァローナの街並みからは太陽の明かりが姿を消した。ツカサが肌寒さに耐えられなくなり木箱から立ち上がるその頃には、砦の中へと戻る回廊には最初から誰もいなかったかのように人影一ついなくなっていた。




城塞の街ヴァローナ

アストランテ王国の北部に存在する、山間の中に開かれた城塞都市。
隣国であるフラントニアとの国境付近にあり、要衝の地としての役割も与えられている。
そのため北部に向けた大きな砦があり、街には兵士や傭兵の数が多い。
街そのものは王国北部の中核都市であることもあり広大で、南北に走る大通りや街の中心に位置する広場が特徴的。
なお食物の流通は外部交易でほぼ全てを賄っており、一般に手に入る食糧の質は港町のクアルスとは比べるまでもない。

その昔、ヴァローナは周辺の旧北部諸国連合に対するけん制として王国が整備したという経緯から、
現在でも北部人と現住民の間には隔たりが存在する。



始祖族 (2)

始祖族は二種類の特徴的な能力を使うことが出来る。
一つは始祖族自身が持つもので、戦闘力に長けた物には雷撃や火炎を生み出すもの、支援能力に長けた物として他者との聴覚の共有というもの等がある。
二つは彼らが保有する霊剣に宿るもので、霊剣の分離や錬成、一つ目の能力を強化するといったものがある。
二種類の能力を組み合わせることにより、彼らは人間族とは隔絶した戦力を誇る。


二つ目の街での戦乱を終わらせたところで二話目は終了です。次からは、恐らく主人公立身出世ルートに足を掛けるかと。

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