記憶の無い僕と黒い刃の彼女   作:丸いの

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32. 王女と騎士

「一介の町娘に何の用だよ、クーベルト卿」

 

 頭や肩口を雨で濡らしたその壮年の男は、どうやら殿下と関係がある人物であるみたいだ。彼が一歩ずつこちらに近付くと同時に、その周辺の喧騒が鳴り止んでいく。周辺の傭兵たちとは対照的に軍衣を身にまとい、そして街中だというのに腰元へ目立つように剣を差した姿。それは明らかに、この酒場においては異質な様相だった。

 

 クーベルト、そう殿下が呼んだ彼の表情は、控えめにいっても機嫌が良さそうには見えない。細められたまぶたの奥から、殿下に向けて鋭い視線が向けられている。そして対するカタリナ殿下自身が、どうみてもそこらの町娘とは思えぬほどに肝が据わった態度で彼を待ち受けていた。

 

「お言葉ですが、ただの町娘達が貴女様のような力を持っていれば、この城下町は向こう千年難攻不落の聖域となるでしょう」

 

 そして彼は間違いなく座ったまま剣呑さを身に帯びた自称ただの町娘であるフードの人物を、この国の第三王女カタリナ・フォン・アストランテと認識している。だからといって彼もまた始祖族なのかと言われれば、特段尖りもしていない耳のかたちからして間違いなく人間族だ。その格好や知識から考えて、このクーベルトという男の正体がおぼろげながらに掴めてきた。

 

 この都には、近衛隊と呼ばれるアストランテ王国軍の中で最強と名高い精鋭部隊が存在している。実物は未だかつて見たこともなく、噂話の中でそんな強力な兵隊たちがいると聞いたことしかない。そしておそらく、目の前のこの男はその近衛隊の一員だという確信があった。

 

「質問に答えろよ。何の用があって、こんな傭兵の酒場にまで足を伸ばしてきたんだ」

「お戯れを。私が王都に到着された殿下を探す理由など、一つしかございません」

 

 ギルドの受け付けという傭兵にとっては実質的な縄張りの中心にいる異物を前にして、彼ら傭兵達はそれを排斥するどころか遠巻きに眺めるだけ。いつの間にか酒場の喧騒は鳴りを潜め、二人の会話は決してうるさくないにもかかわらずいやに目立って聞こえていた。

 

 傭兵たちの様子から考えて、クーベルトが城門の兵士のようなただの正規兵であるわけがない。近衛隊、それもかなりの地位にいるような将校なのではないだろうか。

 

「カタリナ殿下、至急宮殿へとお向かいください。陛下がお待ちです」

 

 彼がその名前を口にした直後、わずかな間だけ喧騒に再び火が灯った。王都から遠く離れたヴァローナでさえ、殿下の名前と偉業は兵と名のつく人全てが知っているようなものだった。ならばこの城下町であれば、もはや知らないはずがない。

 

 それらをただうるさそうに一瞥した彼女が、もはや隠す意味も無いとばかりに頭を隠していたフードを乱雑に取り払う。露になる黒紅色の髪と始祖族であることを主張する尖った耳。再び静まり返る周囲を尻目に、カタリナ殿下の視線は鋭さを増した。

 

「……ふぅん。もうすぐ日が沈むというのに、そんな時間から御前会議か。確かに各地に散らばった面々を呼び寄せる事態は急ぎの用だということは知っている――」

 

 音も無く立ち上がった殿下が彼の前に並び立つ。いつの間にか、この酒場は二人が放つ威圧感に押されて静まりかえっていた。傭兵の集うはずの場所に放り込まれた異物、そのすぐとなりで僕はただ黙って推移を眺める他はない。

 

「だがボクは反対だ。指定された時間は明日のはずだ。この時間から急く必要は無いだろう」

「これは私などではなく陛下のご意志です。ご理解頂きたい」

 

 すぐとなりから聞こえるカタリナ殿下の寒気がするほどに冷たい声に、クーベルトという男は一歩も引かずに言葉を返す。将官どころか王族たる存在にここまで立ち向かうあたり、やはり彼は近衛隊のただの兵であるわけがない。

 

「クーベルト、まさかボクがただ予定の時間前だからと駄々を捏ねているだけと思ってはないだろうな。この中途半端な時間から御前会議をやったところで、規定路線の話を聞くだけの中途半端なものにしかならない。ボクは、そんなことを望んじゃいないんだよ」

 

 嘲るように口の端を上げる彼女とは対照的に、クーベルトの顔は微動だもしない。それがまた、彼の放つ不気味さに拍車をかける。

 

 御前会議、それは言葉の通りこのアストランテ王国を収める国王の前で行われる重鎮たちの話し合いだ。ヴァローナにまで派遣されていた殿下を呼び戻した理由など、それが行われるからに違いないとカタリナ殿下自身が断言をしていた。そんな重要な場において彼女がやろうと企てていることは、ひとつだけ心当たりがある。

 

「この王都のどこかに、このボクに対して害意を企てている者がいる。それもそこらの有象無象じゃなくて、ある程度の力を持った輩だ」

 

 そこにきて、初めてクーベルトの表情に変化が見られた。僅かにまぶたが見開き、きっと少なからずとも驚きを感じているのだ。

 

 殿下がこの王都に向けた伝書の内容を知り得て、なおかつ刺客として始祖族の戦士を差し向けられるほどの存在。疑わしいのは要人を付け狙うような小悪党などではなく、もしかしたら御前会議に参加をするほどの立場の存在だ。だからこそ、きっと殿下は一歩も引きやしない。

 

「刺客に背中を向けながら戦えなど、冗談にすらならない。だからボクは譲れないよ。この夕暮れ時から御前会議を開いてみろ。色狂いに傲慢、会議そのものはまだしもボクの話をあの連中がまともに聞くかよ」

 

 彼女の口から飛び出した貶めるような言葉が一体誰に向けたものなのかは僕が知る由もない。しかし彼女の表情はたしかにその誰かへの侮蔑を浮かべて、嘲るように口角をあげていた。

 

 殿下の言わんとしていることをまとめると、こんな日が沈みかけの時間からではなく、明日に時間的な余裕をもって話し合いに臨みたいということだろう。多分に穏健的な脚色をしているけど、ただのわがままではないというのは事実だ。

 

「……そうならば、なおさら早急に向かうべきです。殿下の身を狙う者の存在は、すぐに陛下へお伝えするべき――」

「――ボクはあの伝書を知り得た全員を疑ってるんだ。たとえ誰が相手であろうと、そこに例外はない」

 

 

 その言葉に目を見開いたのはクーベルトだけじゃない。ざっと見回した限りの傭兵達どころか、副官という地位に身を置いた僕でさえも驚きを隠せないでいた。それはつまり、この国を治める王でさえも疑いを向ける対象であるということ。たとえ明言を避けたとは言えども紛れもない背信発言だ。

 

 対照的に表情を欠片も崩さない殿下からは、言い表しようのない異様さが漂っていた。この人と初めて顔をあわせたその時から、自身の知る始祖族という規範にとらわれない存在として記憶に刻み込まれた。しかしその第一印象さえも、殿下の全容を知るには不足をしていたらしい。こんな衆人環視において王への疑念を口にするなど、一市民の僕から見ても普通とは言い難い。

 

「……殿下、いたずらに立場を悪くするような発言は控えたほうが……」

「黙れよ。余計な口出しはするな。これはボクが決める問題だ」

 

 思わず口をついた言葉も、彼女はいとも容易く遮った。向けられたのはまるで人が違うかのようなゾッとするほどの鋭い視線。人間族の僕やナインと気さくに言葉をかわしている時のそれとはほど遠い、立場の違いを隠そうともしない始祖族のそれだ。

 

「……なんだよ。ツカサだけじゃなくてナイン、君もボクに異を唱えるのか?」

 

 しかし横で推移を伺っていたナインは、それでも尚険しい視線を殿下に向けていた。釘を指すような言葉にもまるで怯んだ様子はなく、それどころか殿下とは対照的に感情を見せない冷徹な雰囲気を醸し出している。

 

「私とツカサは数日前までただの庶民に過ぎなかった。だから殿下の発言の如何についてはおそらく理解が及ばない。しかし少なくとも、あなたが今冷静さを欠いていることはわかる」

「……あまり調子に乗るなよ。いくら庶民だろうと、言って良いことと悪いことの分別くらいはあるだろう。まさかボクの身分を忘れたとでも言うのか?」

 

 明確な剣呑としたプレッシャーが両者から放たれる。それは先ほど殿下が国王への疑念を呈して生まれた雰囲気を飲み込んで、周囲の空気が重くなったような錯覚すらも感じさせる。

 

 元々が苛烈な性格であると知ってはいた殿下の様子は元より、物静かな性格だと思っていたナインの変貌に目を見張る。今や一歩たりとも引く姿勢を見せず、それどころか宥めようとする僕を手で制するほど。

 

「私は、この主張を変える気は一切無い。それでも尚考えを変えないというのならば……外の雨にうたれてでも頭を冷やすべき」

「……よくもまぁ、そこまで言い切ったものだ。良いだろう、教育してやるよ。即刻外へ出ろ」

 

 彼女が机に押しあてた手から紅炎が舞い上がる。教育、それが言葉通りの意味であるなどとは到底思えない。ただの人間が束になってかかっても勝ち目がない苛烈な始祖族の戦士であるこの人のたがが外れたら、僕たちに命の保証はない。それだというのに、ナインは殿下につられて席を立った。

 

「な、ナインが出過ぎた真似をしてしまい――」

「――ツカサ、ここは私に任せて」

 

「カタリナ殿下!! たとえ無礼が過ぎようと、ここで手を下すのはっ」

「彼らは仮にもボクの副官とした存在だ。その処断にとやかく口を出されるいわれは無い」

 

 根拠など無いにもかかわらず任せろと言うナインに押され、そしてクーベルトもまた殿下を止めることなど到底叶わず。気が付けば僕はナインに腕を引かれて酒場の出口へと大股で向かっていた。出口までの空間を遮る者は一人とてなく、一瞬のどよめきは殿下が後ろを振り返った途端に立ち消えた。

 

 寸分の迷いなく殿下に続いて、ナインは僕の手を引いて出口へと歩く。それが一体どのようなことを意味しているのかを分からないはずもないのに、気が付けば周囲は湿った雨のにおいで満たされていた。酒場のなかからは何人かの視線だけが向けられている。こんなことに誰も巻き込まれたくなんてないはずで、当然の判断だ。

 

 

 小雨が頭を濡らすなか、酒場の前の小さなスペースで殿下がこちらを向いた。ナインがあそこまで焚き付けてしまった以上、もはや後戻りは出来ない。それでも尚一抹の希望にかけて地面に手を付けようとした瞬間に、カタリナ殿下の表情が変化していた――冷徹で激情な無表情から、憤怒どころか満面の笑みへと。

 

 そして直後に、あろうことか彼女は僕たちに背中を向けて全力で走り出した。

 

「ナイン、良くやった。さっさと逃げるよ」

 

 先ほどまでの殺気は何処へやら、酒場に背中を向けて日が暮れていく大通りへと彼女が駆け出し、ナインもまた僕の手を掴んだままそれに続いた。何がどうして、あの私刑一歩手前の状況から集団逃亡へと変化したのか。唯一僕だけが、この状況を理解できてはいなかった。

 

「殿下、いったいこれはっ」

「……もしかしてツカサは気が付いていないのかな? あそこから離れるために、ナインが一芝居うってくれたのさ」

 

 その一言に、大通りを駆け抜けながらも思わずあんぐりと口を開けてしまう。つまりあの険悪だった雰囲気は全てが作り物で、その立役者が今僕の手を引いているこの少女だというのか。

 

 肝心の彼女はどこ吹く風とばかりに表情ひとつ変えずにいる。あの空間で、一人だけ本気で殿下の制裁に覚悟を決めようとしていたのが、まるで馬鹿らしい。これもまた、僕自身がカタリナ殿下の人となりを掴めていないからだろうか。

 

「配下への制裁に見せ掛けでもしなきゃ、アイツからは逃げ切れないよ。クーベルトも、伊達に人間の身で上級佐官をやっちゃいない」

 

 人々をかき分けた先に見えた小さな路地の入り口、人けが途端に薄れる空間を仕切る壁に手をついた。戦姫ともうたわれるカタリナ殿下がそうとまで断言するほどの存在とは、果たしてあのクーベルトという武人は想像もつかない実力者なのだろう。

 

 そんな人と対峙し、しかも不意をついて逃げ出した。今更になって、とんでもないことを仕出かしたのかと身震いが沸き起こる。

 

「本当に、彼に着いていかなくとも良かったのですか?」

「さっきも言った通りさ。元々の予定は明日だし、きちんと朝から余裕をもって話したい。それに前もって相談した相手が悪の親玉なんて笑えないだろ。みんなひっくるめての、明日の朝に行きましょうってことさ」

 

 再び言外に、この国の王だろうが誰だろうと疑念は消さないと彼女は言い含めた。だがふとした違和感が頭をよぎる。誰も信用はしないと言うわりには、殿下はその理由をクーベルトには普通に話していた。彼が何かを企てるほとの地位にいるかは分からないけども、あっさりと内容を知らせるには疑問も残る。

 

 

 

「彼は信用しても大丈夫なのですか」

「……しまった、無意識でアイツを疑うのを忘れてた。与えられた権限から言って、上級佐官の地位にいる奴も完全な白じゃない。ただまぁ、本音を言えばアイツは無いと思いたいね。なんたって――」

 

 その瞬間、体が後ろへと思い切り引っ張られた。同時に目の前を通りすぎる、まるで黒い暴風。中途半端なところで区切られた言葉、それを上書きするかのような風の過ぎ去る音。それがなんなのかを理解するよりも先に、しのぎを削る耳障りな響きが聞こえた。

 

「……なんの、真似だッ、クーベルト!!」

 

 瞬きをした先にいたのはつむじ風などではなかった。カタリナ殿下が咄嗟に構えた鉾槍と剣を重ねた、日暮の路地裏に溶け込む軍衣を纏った男。気配ひとつなくこの場へと現れたクーベルトの姿が、そこにはあった。

 

 一瞬の間をおいて、助けなきゃと不釣り合いな思考を浮かべた僕の体が再び後ろから引かれた。ただ無言で首をふるナイン、それが意味することは――

 

「勅令につき、貴女を拘束します。ご覚悟を――」

 

 再び聞こえたのは、剣檄の音ではなく人体を殴打する鈍い音。振り抜かれた足は殿下の腹部を捉え、巨大な鉾槍ごとその体は吹き飛ばされて壁へと叩きつけられた。顕現していた霊剣が霧散し、糸が切れた人形のように殿下が地面へと投げ出される。その呆気ない結末に、目を見開く。

 

 異常、ただその言葉しか出てこない。完全な不意討ちとはいえども、ろくに反抗する間もなくカタリナ殿下がやられたというのか。始祖族の戦士として名を馳せて相当の戦力を誇っていたはずの、あの殿下が。

 

 ただ地面に投げ出されてピクリとも動かない彼女を一瞥したクーベルトが、まるで次の獲物を見つめるようにして視線をよこす。その瞬間に、僕はほぼ無意識の中で姿勢を低く構えていた、

 

「……あなたが、カタリナ殿下と僕たちに刺客を向けた黒幕ですか」

 

 示しあわせたわけでもなく、ナインもまた投てきナイフを構えてクーベルトの様子を伺っていた。あれは小手先の戦いかたでどうにかなる相手じゃない。それどころか、仮にナインを黒剣として顕現させたところでどうにかなるかも怪しい。

 

 でも最悪なのは、ただ背中を向けて逃げ出すと言うこと。足場が無いために屋根に駆け上がることはまず不可能。そして路地の中に入ってしまった以上、人混みに紛れる前に追い付かれるのは目に見えている。

 

「君たちはカタリナ殿下の副官、それで間違いないか?」

「こちらの質問に答えろ。お前が刺客を差し向けたのか。何故私たちを狙う」

 

 警戒心と殺気が込められたナインの声が響こうと、クーベルトは表情を変えることなく淡々とした視線をこちらに向けていた。

 

 一撃とは言えどもカタリナ殿下の霊剣とやりあった剣へと目をやる。光沢の無い、この暗い路地裏と同化したかのような異様な見た目。その剣をあろうことか鞘にしまい、クーベルトが言葉を発した。戦う意志が無いのか、それとも剣すらも要らないと言うのか。しかしたとえどちらであっても、警戒が消えるわけがない。

 

 本当にこの男が刺客を差し向けたのならば――僕たちの命すらも狙っていると言うのならば、もはや一刻の猶予もない。何かの行動を起こそうとした瞬間をねらい、この場を離脱するしかない。しかし路地の奥へはこの男が立ちふさがり、大通りに行くには追い付かれる。そして上に逃げることも敵わない。ならば、たとえ勝ち目など欠片もなくとも僅かな隙を作るがために挑むしかない。

 

 伸ばされたナインの手を掴む。あの異常な敵に挑むのならば、こちらも最善の刃を手に取るしかない。逆の手に握りしめた片割れの剣は撒き餌さにして、ナインを黒剣とする他は――

 

 

「君らをどうこうするつもりは無い。それに俺はその刺客などとは関係ない。信じるかどうかは君たち次第だがな」

 

 張りつめていたはずの緊張感は、向こうの側から無理矢理に霧散をさせられた。臨戦態勢で構えるこちらとは対照的に、淡々とした話口のまま背中を向けたクーベルトは、地面に倒れたまま動かないカタリナ殿下へと手を伸ばした。

 

「まさか本当に殿下が副官を得たとはな。それもヴァローナでのたったの数日間での出来事とは、どんな心境の変化があったのか想像もつかん」

 

 ぐったりと気絶をしたままの殿下を両腕に抱えて振り返ったクーベルトの姿は、確かに僕たちへ更に害意を及ぼそうと考えているようには到底見えない。しかし、ならば何故この人はついさっき僕たちを急襲したのか――ふと、一つの可能性が頭に浮かび上がる。

 

「……ならば、僕たちを――いや、殿下を攻撃したのは」

「先程も言った通りだ。こうでもしなければ殿下を捉えることは叶わん。このお方には御前会議に参加をしてもらわなければならない。他の重鎮に召集をかけてしまった以上、たとえ殿下であろうとその一存で明日には移せまい」

 

 完全に想像した通りじゃないか。その言葉を聞いて、思わず深いため息が口をついた。この人の言うことを完全に信じるのは危険かもしれないけど、それ以上にカタリナ殿下の体を大事そうに抱えた人物を前にして臨戦態勢を続けるのも馬鹿らしい。

 

 未だに何か動きがあればすぐさまナイフを投げつけんとばかりに警戒心を露にするナインの肩に手をおく。すくなくとも、今この瞬間にクーベルトは僕たちには危害を与えることはないだろう。それさえわかれば、とりあえずは十分だ。

 

「副官という立場ならば、君たちもまた殿下に付き添い御前会議の場に赴くことも可能だ。ただ付いてくるかは好きにしろ――と言いたいところだが、殿下が目覚めた時に君たちがいないとひと悶着がありそうだな」

「……ぜひ、同伴させてもらえます」

 

 仮にも副官を拝命したという立場上、仕えるべき存在を放置したまま立ち去るのはいただけない。それに、その御前会議という場において、もしかしたら僕たちをつけ狙う存在の一端が知れるかもしれない。結局僅かな間の思考でたどり着いた結論は、彼の後について行こうというものだった。

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