臆病な彼と不器用な彼女 作:あるびー
「この子が良い」
そう言って僕に手を差し出した女の子は、とても優しい目をしていました。
◇
僕はツタージャ。人間たちにそう呼ばれるポケモンです。
ここイッシュ地方では初心者向けとされるポケモンの一体で、僕もそのように育てられました。
そして今日この日は旅立つトレーナーにパートナーが贈られる日。
つまりは、僕の旅立ちの日でもあるのです。
同じ日に贈られるポカブとミジュマルもどこかそわそわしていて、パートナーに会えることを楽しみにしているのは明白です。
僕は思い切って二人に尋ねました。
二人はどんなパートナーに出会えると思う、と。
まず答えたのはポカブでした。
「俺は一緒に強くなれるパートナーが良い。いつか同胞達に誇れる、共に高め合うことのできるパートナーを望むよ」
その前に俺が気にいるかどうかだけどな、と一言付け加えると、ポカブは鼻から火の粉を散らしました。
彼は負けず嫌いな性格で、運動の時間ではいつも一番の成績を残しています。
ポケモンバトルの番組が流れれば文字通りテレビに飛びつく程バトルが好きな彼のパートナーは、確かに彼が言うような人が良いのでしょう。
短い手足で人間のいうシャドーボクシングのような動きをするポカブはやる気満々で、少しばかり熱いです。
草タイプの僕にとってその熱さは肌がぴりぴりとして痛いのです。
こっそりとポカブから距離を取り、僕はミジュマルの横に行きました。
ミジュマルは大きな黒い目をおっとりと細めて笑っています。
「ポカブ、熱くなっちゃったねえー」
そう言ってお腹のホタチで扇いでくれる彼はとても優しいポケモンだと思います。
僕がお礼にと頭を下げると、ミジュマルはにっこり笑って手を伸ばしました。
「パートナー、良い響きだよねえ。私はどんな人でもウェルカムだけど、やっぱり優しい人だったらとっても嬉しいなあ」
大らかなミジュマルらしい言葉でした。
穏やかな性格の彼ならきっと、どんなパートナーとも上手くやっていけそうです。
それはとても想像しやすくて、僕は思わず小さく笑ってしまいました。
ミジュマルの手が伸びます。
頬を引っ張られる感覚がして、僕は彼に頰を抓られていることに気づきました。
「そういうツタージャはどうなのー。私たちに聞くだけ聞いて、だんまりはダメだよー」
「そうだぞツタージャ。お前はどんなパートナーが良いんだ?」
「は、はわわ……笑わない?」
それなりに付き合いの長い二人です。きっと笑わないということは分かっていたけれど、僕は思わずそう聞いてしまいました。
勿論、と頷く二人に僕は覚悟を決めます。
何度か深呼吸を繰り返して、僕は手を祈るように重ねました。
「…………素でポケモンに勝てるくらい、強い子がいいなあって……」
「……」
「……初心者かなあそれ?」
ミジュマルの言葉はもっともです。
何より二人の呆れた視線が、効果抜群のわざを受けた時のように突き刺さりました。
違うんです。いえ違わないのだけど、言葉が抜けたんです。
「あ、あああのっちがくて!外の世界って危険でいっぱいっていうし!僕も頑張るけど万が一のことがないようにね!?」
「ヘタレ」
「流石名物おくびょうツタージャ」
「初耳なんですが!?」
名物とはなんでしょう名物とは。
……そう。僕は自分で言うのもなんですが、非常に臆病な性格をしています。
先輩であった同族には本当に同じツタージャか疑われるほどに。
ああ、けれど。
まだ見ぬパートナーが常通りの、誇り高くてプライドの高いツタージャを望んでいたらどうしよう。
パートナーに会うのは今日だと言うのに、どうしようもないほどの不安と緊張が襲いかかるのでした。