臆病な彼と不器用な彼女 作:あるびー
唐突に湧いた不安に怯えていると、博士からお声がかかりました。
どうやらそろそろモンスターボールに入って準備をする模様です。
なんでもパートナーの一人が今日誕生日ということで、特別にその子の自宅で選ぶのだとか。
そんな特別な日に選んで貰えるなんて夢のようです。
……本当に選んで貰えれば良いのですが。
モンスターボールに入って博士を待ちます。
ボールの中は視覚的には不便だけれど、僕たちポケモンに居心地よく作られているので気になったことはありません。
寧ろ、僕は手のひらの温かさが伝わるのでボールの中が大好きです。
博士の温かい手に運ばれて柔らかなクッションの上で待ちます。
固定もされているのかボールが揺れることはなかったけれど、どこかに運ばれているのは分かります。
「さあ、いってらっしゃい。みんな良い子だからきっと良いパートナーになれるはずよ!」
博士の激励にボールの中でしっかり頷いて、僕らはアララギ研究所を出発しました。
がたん、ごとん。
車の振動に揺られ、どれくらい経ったのでしょうか。
揺れが止まったのを感じて僕はゆっくりと目を開けました。
どうやら少しだけ眠っていたようです。
ぼんやりとする頭を叩いて意識をはっきりさせると、何人かの声がします。
どうやらパートナーの家に着いたみたいです。
「うわぁ本当にポケモンだ!シロちゃん、早く早くー!」
「待ちなよベル……そんなに急かしちゃシロも困るだろ?」
女の子と男の子でしょうか。
よく通る声が響いてきます。いよいよパートナーと対面と考えると、一度はおさまった緊張が再び這い上がってきました。
暗闇の中では何が起きているのか分からないので尚更です。
ふと、ボールに触られる感触がしました。
とても優しい触り方で、温かい手です。
そしてボールのハッチが開く音がしてーー僕は、パートナーの顔を初めて見たのです。
「……」
「……」
……ファーストコンタクトは無言でした。
せめて、せめて登場だけでも元気なところを見せようと画策していたはずなのに、目が合っただけで僕の身体は麻痺状態にでもなったように動きを止めました。
僕、いいえ、僕たちを見つめているのは三人のヒトです。
黒い髪に眼鏡を掛けた男の子。
薄い金髪の短い髪の女の子。
そして長い茶色の髪をした女の子です。
現れた僕らの姿を見て目を丸くしているように見えます。
始めに動いたのは金髪の女の子でした。
「……かわいいー!!!」
どっかん。
とっしんのような凄まじい突撃が僕らを襲いました。
え、あれ?人間ってわざを使えるんでしょうか?
全く予想外の出来事に目が瞬きます。
女の子はとっしんの勢いのままミジュマルを捕まえては頬擦りしています。
流石の彼も困惑しているのが見て取れます。
どうしようとポカブに目を向けると、彼は彼で眼鏡の男の子に手を突き出していました。
物凄くいい笑顔です。
図らずしもパートナーが決まる瞬間を見てしまい、僕はおろおろと視線を揺らすばかりでした。
自分のことのように嬉しいのに嫉妬している。
そんな自分があんまりにも惨めに思えてしまって、僕は小さく震えました。
ぐ、と暗い気持ちを呑み込んで改めてミジュマルの方に目を向けると、彼は彼で金髪の女の子をパートナーに認めたみたいです。
やれやれと言いたげに肩を落としてますが、顔が嬉しそうなので流石に分かります。
……どうしましょう。これでは僕、完全に余り物ではないですか。
茶色の髪の女の子はどうなのでしょう。
いらないと、他の子が良かったと言われてしまったら……そんな最悪の想像が脳裏に浮かびます。
怖くて彼女の顔が見えません。
僕はせめて震えを隠そうと目を閉じ歯を食いしばりました。
「……わたし、この子がいい」
優しい声、でした。
見上げれば茶色の髪の女の子が青い目をじっと僕に向けています。
「あなたは、どうかな。わたしのパートナーに、なってくれる?」
「……!」
……それはこちらの台詞です。
いいの?
本当に僕でいいの?
ポケモンの言葉は人間には確かな意味として伝わらないけれど、僕はそう返しました。
すると彼女は小さな手を伸ばして言いました。
「わたしは、あなたが良い!よろしく、ツタージャ!」
パートナーの手は、とても柔らかくてあたたかいものでした。