臆病な彼と不器用な彼女 作:あるびー
モンスターボールから出た彼女は開口一番こう言いました。
「納得がいきませんわ」
……あの、頭を踏むのはやめてください。
全く遠慮も優しげもない力強さで僕を踏みつけてくる彼女は、ヨーテリーと言われるポケモンです。
愛らしい顔をとてもとても不愉快そうに歪めながら、彼女は大きなため息をつきました。
「非力なわたくしにとても失礼なことを考えていますね?」
ギリギリギリギリ。
緩やかな回転まで加わって正直頭がかなり痛いです。
……どの辺りが非力なのでしょう、と脳裏に浮かんだ瞬間、横合いから鋭い一撃が飛んできました。
彼女はエスパータイプのように心が読めるようです。
「分かりやすいのですよ、貴方。全くなぜわたくしが貴方に負けたのでしょう……」
「あーうー……」
頭がぐわんぐわんします。多分もう一度わざを受けてしまえば戦闘不能どころかひんしでしょう。
ああシロ。マイパートナー。
どうしてはじめての仲間がこの子なのでしょうか!
◇
「ツタージャ、大丈夫?」
大丈夫ではないです。
シロ……つまりは僕のパートナーになってくれた女の子の腕の中で僕は目を回していました。
理由は簡単です。
ポカブ、ミジュマルとバトルをして連敗したからです。
正真正銘生まれて初めてのポケモンバトルはしょっぱい味がしました……。
「どうやらこのツタージャは臆病な性格みたいだねえ」
「バトル、苦手なのかなあ?」
それぞれパートナーを抱えた男の子と女の子が心配そうな目で見てきます。
ポカブは呆れたように、ミジュマルは困ったような表情でした。
うううシロごめんなさい……僕、不甲斐ないパートナーです……。
「あなたのせいじゃない。わたしがうまく指示できなかったせい」
そんなことはないのです!
僕自身、トレーナーとのバトルというものは初めてですがシロの指示はとても分かりやすかったと思います。
敗因はパートナーを信じて動けなかった僕なのです。
……決めました。
僕は強くなりたいです。
シロはとってもすごいトレーナーになれると思うのです。
だから、彼女に恥じない立派なパートナーになるために強くなる。
それが今の僕にできる唯一のことだと思うのです。
「うん。一緒に強くなろうツタージャ」
そういって彼女は小指を伸ばしました。その人間の仕草には覚えがあります。
それは確か……約束のしるしだったはずです。
「わたし、色々と不器用だから迷惑をかけるかもしれないけど……これからもずっと、一緒にいよう?」
「!」
もちろんだよ。
そう言葉で返して、僕は蔓でその指をとりました。とても小さな、暖かい指です。
……そういえば、ヒトにこんなに長く触れたのははじめてです。
でも全然嫌な気持ちはなくて、僕はただただ、幸せを感じていたのでした。
◇
「で。いきなり出会い話を語られても、わたくし困りますの」
「ご、ごめんね……なんか考えてたら誰かに話したくなっちゃって……」
「おどおどしないで下さいます?見苦しい。わたくしを負かしたのですからシャキッとしなさいシャキッと」
「あーうー……」
な、なんでこの子ひんし寸前なのにこんなに元気なのでしょう……。
あの後、僕とシロはたびに出ました。
ポケモン図鑑というすごいものを完成させる旅、だそうです。アララギ博士のお手伝いとも聞いています。
博士には本当にお世話になったのでお手伝いをすることに否なんてありません。
シロもやる気満々で、早速1番道路の草むらに飛び込んで戦ったのが、今目の前にいるヨーテリーの彼女なのです。
彼女はポケモン図鑑による分類分けだと勇敢な性格、らしいです。
確かにそんな雰囲気を醸し出しています。
「聞いているのかしらヘタレツタージャ。略してへタージャ」
「りゃ、略さないでくださいぃ……」
「悔しかったらさっさとヘタレを返上なさい。……ああもう仕方ありませんわ。貴方だけじゃ心配すぎるし、わたくしも力を貸して差し上げます」
シロはトレーナーとして十分素質がありそうですしね、と付け足して彼女は小さく笑いました。
……その表情がとっても眩しくて、なんだか僕まで嬉しくなってきます。
「うん!よろしくヨーテリー……はじめてのお仲間さん!」
「よろしくツタージャ。……いつかリベンジするので、精々強くなって下さいませね?」
そ、それは怖いなあ……。
でも、うん。
仲間ができるってこんなに素敵なことなのですね。