いんふぃにっと・亀仙流   作:サイデリア

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 ひとまずの区切りである10話目です。

 気づけば結構な数のお気に入り登録がありまして……ありがとうございます。


第10話 無断で

 IS学園、地下ドッグ。

 一般生徒の立ち入りが禁じられた区画で、数多くの研究設備が軒を連ねている。

 

 現在、ここではブラックオックスの解析が急ピッチで進められていた。

 

 研究主任として招かれたドクター・ライトは、助手の持ってきたデータを読んで眉を潜めた。

 

「その情報、間違いないのか?」

「はい。回収されたブラックオックスのISコア……これがISだということがまず驚きですが、ともかく。どの国でも登録されていない未知のものです」

「そうですか……」

 

 傍らで報告を聞いていた千冬も渋い顔をした。

 助手が話を続ける。

 

「知っての通り、作製したISコアは必ず申告しなければならないと国際条約で定められています。これは国家も民間も同様です。登録の際、コアにはIDが振られるのですが……」

「このコアにはそれが無い、と」

「構造も現在の主流とは異なります。後発のISコアは、篠ノ之博士が最初に開発したオリジナルを(無断で)解析し、複製したものが使われています」

 

 束はISコアの構造を秘匿しようと、特許申請をしなかった。セキュリティに絶対の自信があったからなのだが、その結果あちこちでコアは解体・解析されてしまい、束は物凄い額の特許料を棒に振ったのだ。

 彼女に匹敵する天才が、世界中にゴロゴロいたわけである。ライト博士もその一人だ。

 

「ですが、オックスに使われていたコアは違いました」

 

 助手の話の続きを、ライト博士が促した。

 

「ブラックオックスのコアは、束博士のオリジナル……ということか」

「はい」

 

 それを聞き、千冬は押し黙った。

 

 アリーナにブラックオックスが現れた同じ頃、鈴を誘拐しようとレッドリボン軍を名乗る者たちが学園に侵入していた。

 さらに、レッドリボンはブラックオックスを二機保有していた。状況からみて、アリーナに現れた機体も彼らの手先であろう。

 

(まさか、君なのか……)

 

 無軌道で常識はずれな親友の顔が脳裏に浮かぶ。

 

 

 

「単刀直入に訊くぞ。お前が犯人か?」

 

 居ても立ってもいられなくなった千冬は一夏の部屋へ押し掛け、束とのホットラインを繋がせた。

 世界中をフラフラして居場所も定かではない束だが、恋人の一夏とは頻繁に連絡を取り合っているのだ。というより、たまに遊びに来ることさえある。

 部屋には織斑姉弟だけが残り、ライブモニター越しの束に険しい表情を向ける千冬を、一夏が心配そうに見守っていた。

 

『ん~? 何のことかな~?』

「真面目に答えないと、師匠に『娘さんが会いたがってた』と伝える」

『待って‼ それだけは勘弁して‼』

 

 束が激しく狼狽える。

 いつでもおどけて飄々とした束が、心の底から恐れているのが父親であった。

 

 かつて束は、ISの有用性を実証するため、日本を攻撃可能な世界中の軍事基地にハッキングを仕掛けてミサイルを誤射させ、それを千冬にISで処理させるというマッチポンプを計画した事があった。

 

 だが、いざ実行に移そうとした段階で、父親がラボを訪ねてきたのだ。

 

 自分以外に誰も場所を知らない、海外の僻地に(無断で)建設したラボに顔を出した父は、大層ご立腹の様子で抜き身の刀を携えていた。

 

『楽しそうなことをしているな、束。お父さんも仲間に入れてくれないか』

 

 完膚なきまでにラボを破壊された束は、そろそろ大人と呼んでいい年齢で、父親に尻を泣くまでひっぱたかれることとなった。

 

 以来、束は「超人を倒せるのは超人だけ」と痛感し、多少の良識と謙虚さを身に付けたのだった。

 

『あの人にそんなこと言ったら、月の裏側にいても酒と肴持って遊びに来るから‼』

「いいお父さんじゃないか」

『いい迷惑だよ‼』

「そんなに清十郎さんって怖いかな。確かに厳しい人だけど」

『そうだよね、お父さんといっくんは気が合うからね! わーい、お姑さんと仲良しだ~!』

「ヤケクソになってないで、質問に答えろ」

 

 冷たい態度の千冬に、束は口を尖らせながらも話を始めた。

 

『まず、私は今回の事件には関わっていないし、あんな武骨なISも造っていない。ここまではオーケイ?』

「ああ」

『次にレッドリボン軍は、IS開発のパトロンのひとつだよ。完成した技術を欲しがって、その後もちょっかい出してきてた。まあ、ほとんどお父さんが撃退したけどね』

 

 そういえば、と千冬も、篠ノ之家を見張っていた怪しい連中が、篠ノ之家の父親に張り倒された光景を思い出した。

 

『でもある日、レッドリボンにお母さんと箒ちゃんが誘拐されたんだ』

「何だって!?」

『それで、お父さんが完全にぶちギレちゃった。友達のアバン先生と二人で、レッドリボンの基地に乗り込んでったんだ』

「馬鹿な‼」

 

 さすがの千冬も戦慄した。

 

「ひ、ひでえ……いくら悪党が相手だからって……」

 

 一夏も顔を青くして震えている。

 

『うん。核ミサイルで絨毯爆撃する方がまだ常識的な戦力差だと思う。レッドリボンはもちろん消滅、お母さんも箒ちゃんも無事に救出されました、ちゃんちゃん』

 

 篠ノ之家のお父さんとアバン=デ=ジニュアールⅢ世のコンビを前に、地球上で対抗できる軍事力など存在しない。

 なお、この時の縁で箒はアバンに師事するようになったのだが、この場にいる三人には預かり知らぬことであった。

 

「ちょっと待て。レッドリボンは師匠が壊滅させたんだろう? なら、ブラックオックスや侵入者はどこの誰の差し金なんだ?」

 

 束は、彼女にしては珍しく神妙な面持ちで続けた。

 

『三つ目。オックスに使われていたコアはコピーじゃなくて、オリジナルだったんだよね。それも未登録の』

「ああ。そしてそれを造れるのはお前だけだ」

『……私じゃないよ。いっくんとの愛に誓ってもいい。けど、造れる人に心当たりはある』

「本当か!?」

 

 束は千冬に頷く。

 

『私は自分で言うだけの天才だけど、世界一ってわけじゃない。オリジナルのコアと同じものを、誰かが独自に造るのだって可能だよ』

 

 千冬に代わり、一夏が疑問を投げた。

 

「オリジナルと複製って、やっぱり違うのか?」

『機能としては同じだよ。でも、中枢回路に使ってるフォトニック結晶の構造が違うんだ。束さん印のオリジナルはね、ある特殊な鉱石を元に精製しているから』

 

 そう言って、束は二人に大粒のルビーに似た宝石の画像を見せた。

 

「それが、特殊な鉱石?」

『そう。内部で何億回と光を反射増幅させる、地上でも非常に珍しい鉱石――エイジャの赤石だよ』

 

 そうして束は、IS誕生にまつわる話を始めた。

 

 

 

 それはまだ、束が学生だった頃。

 当時、学会で発表したISの基礎理論を一笑に伏され、柄にもなく荒れた日のことだった。

 

『素晴らしい理論だ。軍事にも応用が効く。これを自力で実証したのか? 若いのに大したものだ』

 

 その老人は、さまざまな負の感情でざわめく心を必死に落ち着けていた束の前に現れた。

 

『君のような若い才能が、学会(こんなところ)で燻ることはない。どうだね? ワシの元でこの技術を活かさないか? そうすれば、君は星の海をその身ひとつで旅立つことも出来る。どうだね?』

 

 束がその話に乗ったのは、老人が束の理論を完璧に理解していた――という理由と、もう一つ。

 老人は、ISの目指す先を言い当てていた。

 宇宙へ出ること、束の目標(ゆめ)――。

 

 そして何より、

 

『なに、頭の固い老害どもに、若い才能が潰されることが我慢ならない。それだけじゃよ』

 

 老人が、その時の束と同じ怒りを抱えていたからだ。

 

 その後、束は老人との共同研究でIS開発に着手した。

 もっとも老人は資金繰りや設備投資以上のことはせず、束が新たな発見を語るのを嬉しそうに聴くぐらいであった。

 

『君に必要なのは、理解者だ。友達の一人ぐらいいないのかね?』

 

 いらない、と言い切ると、老人は珍しく険しい表情をしてみせた。

 

『いかんな。友達はいいぞ。どんなに仲違いしようと、いけすかない奴だろうと、そいつにだけは負けたくないと思わせてくれる。挫けそうなときでも奮起出来るのだ』

 

 それは本当に友達なのか、思わず束は聞き返した。

 

『もちろんだとも! 強敵と書いて「とも」と読むのだ』

 

 なんのこっちゃ、と束は呆れた。

 

 しかし、それからすぐに束は千冬という生涯の親友と、さらに後の恋人との出会いを果たすこととなる。

 

 

 ある日のことだ。

 千冬というテストパイロットを手に入れ、開発も軌道に乗っていた束だったが、大型化する一方の中枢回路の構造でひどく悩んでいた。

 

 中枢回路を掌サイズまで小型化する理論は完成している。

 しかし、それを活かすための素材がない。

 

 束は世界中の研究機関へ(無断で)アクセスし、使えそうな情報を片っ端から読み漁った。

 

 意外にも、求めていた回答は歴史学の研究所からみつかった。

 

 

 

「それで、たどり着いたのが赤石ってわけか」

『実際にはもうちょっといろいろあったけど、だいたいその通り。第二次世界大戦で、旧ドイツ軍が総統親衛隊「聖槍騎士団」用に開発したパワードスーツに使われていたんだ』

「つい最近も聞いたな、その話。世界最初のパワードスーツだっけ、それ」

『いっくん、よく知ってたね。ともかく、私は赤石の現物を求めて、世界中を旅したんだ。色々な場所に行ったよ、現存が定かじゃないものを探したんだから。文献も古すぎてデジタル化されてなくって、世界中の図書館を(無断で)漁ったり。中でもミスカトニック大学の図書館は――』

「話が逸れてるぞ」

『おっと』

 

 束はSAN値が下がりそうな話題から話を戻した。

 

 

 

 純度の高い赤石は、古代において権威の象徴とされていた。

 様々な時代と場所を巡り、束がたどり着いたのはチベットの山奥にある集落だった。

 そのとき、束は険しい山を登る途中で足を怪我しており、素人目でも分かるほど酷い状態だった。

 

『君、どうかしたのかね?』

 

 そんな束に声を掛けたのは、キリストチックな服装をした、若い男だった。

 その男の奇妙だったのは、見た目にもそう見えないのに自分は医者だ、と名乗ったことだ。

 

 男は束の患部を(無断で)診察すると、掌を押し当てて意識を集中した。

 すると、男の手がにわかに輝き出した。

『あだだだだだっ‼ ちょっ、ストップストップぅ‼』

『がまんしろぉ! この治療が成功すれば、お前の脚力は二倍になる!』

『私現状でも常人よりずっと強いから遠慮しまギャアアアアアッ‼ 死ぬシヌシヌしぬぅ!?』

『ん? まちがったかな?』

 

 

 

『後にも先にも、お父さん以外の人間から死を覚悟するような激痛を受けたのはあれだけだよ……』

 

 トラウマが甦ったらしい束は、真っ青な顔で遠い目をしていた。

 

「また話が逸れたぞ」

『実は逸れてないんだな~、いっくん。なんと、その手が光った人が修行していた寺院こそ、束さんが求めていた赤石のありかだったのです!』

 

 

 

 束は弟子の不手際を盾に、大僧正に謁見した。

 大僧正は50歳過ぎに見えたが、実年齢は90歳を越えているとのことだった。

 

 束はエイジャの赤石を探していること、赤石をISコアのパーツに使いたいことを伝えた。

 しかし、赤石は旧ドイツ軍の手によってあらかた堀尽くされてしまい、寺院に現存するものも束の要求を満たさない欠片ばかりだった。

 

 だが、ご本尊の即身仏が明らかにそれっぽい首飾りをしてることに束は気付いていた。

 

 大僧正に「あれなに?」と訊いても「大粒のルビーだ」とはぐらかされたが、めげずに根気強く頼み込んだところ――。

 

『しつこいぞ! 波紋疾走(オーバードライブ)ッ‼』

 

 

 

『って、おもっくそぶん殴られてビリって来た』

「お前の頼み方が図々しかったんじゃないか?」

「俺もそう思う。束が謙虚に他人に頭下げるとは考えられない」

『二人とも酷いよ!? まあ、そのあとどうにか首飾りを貸してもらって、構造を解析することでISコアの中枢回路に使える、フォトニック結晶を創ることが出来たんだ。各国の研究機関が造った複製コアは、いわば赤石のコピーのコピーだね』

 

 自信満々に、妹以上に大きな胸を張った束。

 しかし、親友と恋人の反応は冷やかだ。

 

「よく貸してくれたな」

『誠心誠意頼んだからね~♪』

「きちんとお願いしたのか?」

『当然だよ』

「即身仏にか?」

 

 束の表情が固まった。

 千冬がさらに畳み掛ける。

「即身仏にだけ『貸してください』と頼み、寺の人間には一言も伝えずに持ち出したのか?」

『あ、あははは……』

「束?」

 

 一夏も声が冷たい。

 

「そういうのをな、世間じゃ『盗んだ』って言うんだ」

『だってだってだって~‼ あいつら、いくらお金積んでも首を縦に振らないし、機材を持ち込んでその場で解析するって言っても駄目だし!』

「束?」

『私は一刻も早くISを完成させたかったんだよ! それをしきたりだとか因習だとか、そんなくだらない理由で邪魔されたくなかったんだよ‼』

「た・ば・ね?」

『うわぁぁぁ~‼ そうだよ、盗んだよ! 無断で持ち出したよ! 黙ってくすねたよ~‼ 認めるからそんな目でみないでぇぇぇっ‼』

 

 とうとう束は、画面の向こうで大泣きしはじめた。

 千冬と一夏が同時に大きなため息を吐いた。

 

「……やってしまったことはいいとして、赤石はちゃんと返したのか?」

 

 千冬の言葉に、束がピタリと泣き止んだ。

 顔を白黒させた束は、おびただしい量の脂汗を掻き始める。

 

 まさか……と、顔を見合わせる織斑姉弟。

 

「失くした?」

 

 顔を伏せたまま首を振る束。

 

「壊した?」

 

 首を振る束。

 

『盗まれた……』

 

 絞り出すように束は言った。

 

『一緒に研究してたおじいちゃん、レッドリボンの科学者――ドクター・ワイリーに。ブラックオックスも、その人が関わってると思う……』




 たまに「きれいな束」が出てくるSSはあるけど、うちの場合はどうなんだ? セシリアマスクと並ぶキャラ崩壊具合だと思いますけど。

 束が単独でISを開発できなかった理由を補足すると、この物語中のISに求めた性能が、原作より遥かに高かったからです。
 そりゃあ、個人で宇宙船造れるカプセルコーポレーションとか則巻千兵衛、初期の悟空より強そうな比古清十郎とかアバン先生とかワイリーマシンとかに対抗しようと思ったら、ねえ……。
 他にも展開上の都合として、完全な味方サイドである束がチートスペック過ぎると話の展開が制限される、という理由もあります。

 そして次回予告。
 全国のシャルロッ党の皆様、ごめんなさい!
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今回のネタ。結構多いっすねえ

ドクター・ワイリー
 ロックマンシリーズの名物ラスボス。フルネームはアルバート・W・ワイリー。
 世界征服を企む悪の天才科学者で、この物語ではドクター・ゲロのポジションも兼任している。
 ライト博士とはかつての友人、今はライバルといった間柄。

アバン先生
 前回、箒がちらっと使った「アバン流刀殺法」の創始者。出展は「ダイの大冒険」より。
 控えめに表現して完璧超人で、人格的にも優れた指導者。茶目っ気も分かり、胸には熱い心を秘めた愛すべき眼鏡。
 ……はい、私、アバン先生大好きです。

エイジャの赤石
 読み方は「せきせき」。出展は「ジョジョの奇妙な冒険」より。究極生物に進化するべく闇の生物が狙っていた。
 原作漫画にも小石サイズのものが回想シーンに登場している。

フォトニック結晶
 現実でも研究されている、光を閉じ込める結晶……らしい。
 記憶媒体とか集積回路として優れた素材となる……らしい。
 エイジャの赤石がフォトニック結晶として使える、というのはオリジナル設定。

ミスカトニック大学
 出展はクトゥルー神話のいくつかのストーリーより。
 悪名高い図書館には、様々な魔術書が【禁側事項】。

聖槍騎士団
 ゲーム「ペルソナ2罪」より。
 原作では噂によって出現した混沌の化身。この物語では実在していた設定。

ん? まちがったかな?
 アミバの名台詞の一つ。束を治療したのはこの世界のアミバ。
 きっとここでもアミバは奥義を教えてもらえないのだろうな~。
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