いんふぃにっと・亀仙流   作:サイデリア

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 漫画を読み直したら、ラウラって初登場からVTシステムまでの間って結構なメンヘラ女子でしたね。
 そして一夏の鈴ちゃんへの態度を改めて読むと……。

 よし(邪悪な笑い)。


第15話 対立、修羅場、戦争

 ラウラ・ボーデヴィッヒ・真島は、ドイツ軍が誇る鼻摘み物の特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの一員だった。

 

 だった、と表現したが、今でも彼女は形式上は同部隊に所属したままになっている。

 

 シュヴァルツェ・ハーゼ、日本語で『黒い兎』という愛嬌のある名前に反してこの部隊の主任務は『ゴミ処理』、いわば反社会的存在を暴力によって抹殺することであった。

 

 隊員のほとんどが重犯罪者や戦闘中毒の傭兵、人外の怪物によって構成された鉄砲玉同然の消耗品部隊。だが、ラウラはその中でも取り分けて異常であった。

 

 気に食わない命令を下した上官を再起不能にした協調性の無さと反し、玉砕前提の任務を平然と生還する戦闘能力が合わさり、ドイツ軍はいつ爆発するかも分からない爆弾を抱えている状態であったのだ。

 もはや任務とは呼べないような死地に送り込んでも鼻唄混じりに舞い戻り、挙げ句の果てに日本との合同演習に乱入したラウラは、あろうことか生身でブリュンヒルデにケンカを売り、撃墜寸前まで追い詰めたのだ。

 

 この一件がドイツ軍に最後の決定を下させ、ラウラは仲間であるシュヴァルツェ・ハーゼから抹殺指令を下されたのだ。

 結果、黒兎はラウラ一人を残して壊滅することとなったのだった。

 

 

 

「じゃあラウラは自分を殺しに来た仲間を逆に?」

「ああ。その後、壊滅した黒兎は名前だけ残してIS乗りの特殊部隊として再編成されたらしい。今でもラウラは書類の上ではそこのメンバーだが、事実上部隊を放逐されている状態だ」

 

 放課後、一夏は千冬の自室に呼び出され、ラウラの来歴を聞かされた。彼の膝の上では束が猫のように丸まっているが、普段の甘えっぷりはどこへやら、ギラついた眼で毛を逆立てている。

 束もまた、アタッシュケースぐらいの大きさのモバイルPCで集められるだけのラウラの情報を集めているようだ。当然、非合法な手段も含めて。

 

「チッ。ドイツ軍の奴ら、日本政府に相当な金を掴ませてあの核廃棄物を引き取らせたみたいだね。ドイツ軍が新開発したISの技術交流って名目だけど、事実上の国外追放だ、これ」

「向こうとしても手元に置いておきたくはない、かといって軍をクビにしたらそれこそ何を仕出かすか分かったものじゃない。首輪だけつけて遠くへやってしまうのが一番だったのだろう」

「よくよく自国の恥部を曝せるもんだ。あんな生ゴミ、宇宙にでもバラ撒いてしまえ」

 

 束の中でのラウラの評価は散々なようだ。基本的に身近な極一部の相手への愛情、父親への絶対的恐怖心を別として、他人に対して無関心な彼女は、プラスにしろマイナスにしろ誰かに極端な評価を下すというのも珍しい。

 昼間の乱闘で自分のISを撃墜されたのが、よほど腹に据えかねているようだ。

 

「それで、こいつの処分はどうするの、ちーちゃん? 仕止めるなら反射衛星砲でもBC兵器でも何だって用意するよ。核ミサイルはちょっと難しいけど」

「そんなので死ぬ奴じゃないぞ、多分。それに……なんというか所感だけどさ、ラウラは確かに凶悪だけど、心から腐った奴じゃないと思うんだ」

「はぁぁっ!? 何を言ってるの、いっくん!!」

 

 一夏の言葉が完全に理解の範疇外だった束が、勢いよく上体を起こした。顎に彼女の頭頂部が当たりそうになるのをひょいと避けて、一夏は続ける。

 

「ラウラはなんというか、純粋に戦いを楽しんでる。強い奴と喧嘩するのが何よりも好きなだけだ。だからきちんと最低限の分別は持っていると思うんだ」

「いや、純粋なら善良ってもんじゃないよね!! いっくん金属バットとかヌンチャクとかカリスティックとか日本刀でボコボコにされてたよね!? 普通に殺意MAXだったじゃん、あのイカれポンチ!」

「こっちもグーで殴ってんだから、お相子だろ」

「どこがだー! いっくん素手、あっち凶器持ち! 完全にアンフェアでしょ、常識的に考えて!! 特に日本刀!!」

「束が常識って……」

「はいはい、ごめんなさいねー、束さんは社会常識に欠如した放蕩者ですよって馬鹿ー!」

 

 一夏の胸板を叩く束の拳は、駄々っ子のような動作でいて一発一発が大の男を昏倒させるぐらいには重い。モーションは「ポカポカ」だが、実際の音は「ドカドカ」だ。

 一夏はそれを、困ったような笑顔で受け止める。最近馴れてきたと思っていたさすがの千冬も引き気味だ。

 

「まったく、鉄仮面といい狂犬といい、束さんの一頭独走状態だったいっくんの周りが途端に色気付いてきた」

「いや、色気は無いだろう。なんだ、やけにラウラに突っ掛かるかと思ったら、妬いてたのか」

「妬~い~て~ま~せ~ん~! 完璧超人の束さんは嫉妬なんて感情は知らないし、いっくんが世界一愛しているのは束さんなんだから、妬く必要なんてないのだよ」

 

 一夏の胸へ至近距離から激突していった束は、そのまま背中に腕を回して抱き付き、グリグリと頭を押し付けた。甘え方が完全に猫だ。一夏が、そうした束の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 見ているだけで千冬は胸焼けしそうになった。

 

「も~。どうして私というものがありながら、他の女のこと気に掛けるかな~」

「そんなんじゃないって、俺はただ──」

「そうだよね~。これはもう入れ込んでるってレベルだよね~、この女たらしは。ちーちゃん知ってる? いっくんってば鈍感なくせに女の子の心を掴むのが上手くって。天性のタラシっていうか~、天然のナンパ野郎って言うか~」

「……やっぱ妬いてるだろ、お前」

「妬~い~て~ま~せ~ん~!」

 

 亀仙人も一夏に対して『ナンパの腕は若い頃のワシ以上じゃワイ。束ちゃんも苦労するな~』と感心していたぐらいだった。兄弟子の牛魔王の娘を初め、ひょんなことから求婚してきた相手は一人二人ではない。

 その度に束が火消しに走り回っていたのだが、彼女の苦労を知ってか知らずか、一夏の事あるごとに厄介な女を助けたり関わったりして無作為にフラグを乱立させる体質は年々悪化の一途を辿っていた。

 

「いっそのこと予定を前倒して子供作っちゃおっかな~」

「束と俺の子供か……」

「おい、駄目だぞ。結婚も出産も卒業してからだ」

「だけどね~。父親の自覚が出来れば他の女にうつつを抜かしたりしなくなると思うんだよ、流石に」

 

 束は一夏の顔をじっと見上げる。その目は一夏に向けるものとしては珍しい、周囲から『天災』と呼ばれる時のものだ。

 

「誰でも彼でも受け入れようとする癖は、いい加減に直してほしいかな。あの狂犬女に関してはもう、同情の余地だってないよ」

「どういうことだ?」

「鈍感」

 

 聞き返した一夏に、束は口を尖らせた。すでに恋人に甘える時の、リラックスした束に戻っている。

 

「ほんっと女の子の気持ちに鈍いよね。もしも束さんがいっくんのハートを射止めてなかったらさ、きっと何人もの女の子から言い寄られてるのに、相手の好意にまったく気付かないでヤキモキさせてたんだろーな~」

「何言ってんだよ?」

「ああ、珍しく同感だな」

「千冬姉まで!」

 

 束と千冬は愉快そうに笑うが、意味が分からない一夏は一人で困惑するしかなかった。

 

 

 

 場所は移って、ここは学園の外れ。第三体育館の裏手である。

 今日の乱闘騒ぎの最中、一夏が放ったかめはめ波の流れ弾によって体育館が一棟全壊したものの、むやみに広いIS学園にはまだまだ複数の屋内運動場が残っている。

 この第三体育館は学舎からもっとも遠くて人気がなく、その裏手ともなればもう誰も寄り付かないような辺境であった。

 

 それを幸いとセシリアマスクはここにプロレス用のリングを持ち込み、人知れず自主連に励んでいた。一応、学園側の許可は取っているらしい。

 今日は珍しく、箒からの隠れ場所を探していた鈴を匿っており、二人でスパーリングの真っ最中った。

 

「シュッ」

 

 セシリアマスクが強烈な踏み込みから、プロボクサーも裸足で逃げ出す超速のマシンガンジャブを放つ。並の人間であれば前に立つだけで衝撃波にぶっ飛ばされる威力だが、鈴はその隙間を縫うように相手の懐へ飛び込む。

 間合いのない密着状態で放たれる寸勁は、一見地味だが人間一人ぐらい容易く昏倒させる。

 

「くっ……!!」

 

 直撃を受けたセシリアマスクは、よろけながらロープまで後退させられた。

 倒れないよう踏ん張るのが精一杯だった。

 

「ふぅー……参りましたわ。小さな体躯で凄いパワーですのね」

 

 セシリアマスクは両手を上げて降参の意を示す。が、鈴は構えを解かずにセシリアマスクへにじり寄っていく。

 

「……あの、鈴さん? わたくし、もう参りましたのだけれども」

「いや、でもあんたヒールじゃない? 降参した振りして不意打ちとかするかもって思って」

「練習でそこまでしません、試合ならともかく」

「いや、試合でこそするなよ」

 

 その後も数分の説得の末、そこでようやく構えを解いた鈴であった。

 

「案外と疑り深いですわ。鈴ちゃんはもっと竹を割ったような女の子だと思ってましたのに」

「誰が鈴ちゃんよ。そりゃ、一夏とのあんな試合を観てれば警戒もしたくなるわ」

「そういう割には、怪我の具合を確かめたいというわたくしの頼みは聞き届けてくださいましたわね」

 

 セシリアマスクは一夏との試合で負った全治三ヶ月の怪我を三週間あまりで完治させ、今は鈍った体の感覚を取り戻そうとしている。本人いわく、体調はともかく戦闘力はまだ五割程度らしい。

 勘を取り戻すには誰かと試合するのが一番と適当な相手を探していたところ、鈴の方からたまたまこの場所に逃げ込んで来たのだった。

 セシリアマスクの頼みを、鈴は少し考えつつも引き受けた。

 

「何か思うところでも? まあ、どうせラウラさん絡みでしょうけど」

「いっ!? な、なんで……!?」

「他にありませんでしょう? 風の噂によれば、後頭部にいいの喰らってノックダウンさせられたそうですわね」

「うっ……く、うるさいわね……! あんなの事故よ、事故!」

 

 正確にはラウラの攻撃ではなく、ラウラにISを破壊された束が勢いよく後頭部にぶつ当たったのだ。

 それでも気を失ったことは事実なので、鈴は食べられない草でも噛み潰したような表情でセシリアマスクから顔を背けた。

 

「そしてリベンジを果たすべく、同じようにラフファイトスタイルの私から対策を見出だそうとした。あわよくば月末のタッグマッチトーナメントのパートナーにでも勧誘するつもりだったとか、そのようなところでしょうか」

「エスパーか、あんたは!?」

「初歩的な推理ですわ」

 

 えっへん、と胸を張るセシリアマスク。篠ノ之姉妹や本音まではいかないが、立派なおむねがたゆんと揺れる。鈴の眉毛が僅かにつり上がった。

 

「と、とにかく理解しているなら話は早いわ。セシリアマスク、あたしのパートナーになって」

「おっけーですわ」

「そうよね、簡単に頷いてくれるとは思っていなかったわ。だけど、今は腕ずくでもYESと言わせて何ですって!?」

 

 もうちょっと渋られると思っていたのだが、セシリアマスクは意外にもあっさりと鈴の提案を了承してしまった。

 

「くっそ、色々と条件出してくるかもって身構えてたのに」

「こうして練習に付き合ってくれているだけでも感謝していますわ。……あの人は自分の目的が最優先のようですし」

「え?」

「何でもありませんわ~。さ、ぼちぼち続きを始めましょう」

 

 一瞬、ほんの僅かにセシリアマスクが憂いを帯びたように見えた鈴だったが、すぐいつもの飄々とした雰囲気に戻ったので気のせいだと思うことにした。

 二人はある程度の間合いを置いて向き合い、鈴は軽く一礼してから、セシリアマスクは無礼のまま四つに構えた。

 

「なんや、おもろそうなことやっとるやないけ。ウチも混ぜて~」

 

 しかし組み合おうとする直前、横合いから不意打ちに聞こえたコテコテの大阪訛りに、二人同時にその場から大きく飛び退いた。

 

「なんやねん、そんなビビらんでもええやろ。傷付くのう」

 

 コーナーポストに座り、スカートなのも気にせず大股開いた制服姿のラウラは、口許に亀裂が走ったような顔で楽しそうに笑っていた。




 ちょっと長めの会話パート。セシリアマスクが元のケビン並みに便利なキャラとなりつつある。

※一応、束と付き合って三年以上なのである程度は恋愛やら女心も実感として理解しているここでの一夏ですが、根っからのお人好し+フラグ体質はそのままなようです。


今回のネタ枠
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初歩的な事ですわ
 シャーロック・ホームズの決め台詞。主に助手のワトソンぐらいにしか言っていなかった気がする。
 某スマホゲーでもホームズは活躍中なので、知ってる人も多いのでは?
 
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