いんふぃにっと・亀仙流   作:サイデリア

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 前回までのあらすじ。
 セシリアマスクが大ピンチ。


第19話 W

 大気そのものが弾け飛ぶような衝撃だった。

 

 セシリアマスクが放つ渾身の二刀X斬り、ISを絶対防御もろとも両断する為、試合では使えない必殺技だ。

 

 それが片手一本で無造作に受け止められ、セシリアマスクは仮面の下で表情を凍りつかせた。

 

「手緩いな」

 

 男は二本のブレードを交差点でまとめて掴んで受け止めており、そのままクッキーでも砕くように握り潰してしまった。

 セシリアマスクは破壊されるブレードを手放して距離を取り、銃身を畳んだ連射モードのライフル二丁を両手に呼び出す。さらに、移動砲台で自分の周囲を取り囲んだ。

 

「守りを固めればどうにかなるとでも?」

「うふふ、確かにわたくし一人では勝ち目がありませんわ。けれどもすでに助けは呼んでありますので、到着まで粘れば良いだけです」

 

 半分は救援が来ることを知った敵が撤退してくれる事を期待して、セシリアマスクは挑発的に嗤う。もう半分はやせ我慢だ。

 

「それと、もう一つ分かった事がありますわ。貴方、その見た目ですけれど中身はISですわね。むしろアンドロイドにISの機能を持たせた、といったところでしょうか」

「フン。それが分かったところで何だというのだ?」

「重要ですわ。だってわたくしの仲間は、普段の言動はともかくお人好しばかりですもの。けれど人形と知れていれば遠慮は不要ですわ」

 

 不敵な笑みのセシリアマスクに、男はオールバックを両手で撫で付けながら、つまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「苦しいときは仲間頼りか。英国貴族の誇りはどうした?」

「一人でいくら意地を張っても仕方ありませんもの。それに、誰かに助けられたらその分まで誰かの助けになればよろしいのではなくて? まあ、わたくし、あまり人に頼られる事が無いのですけれども」

「食えないお嬢さんだ」

 

 話している最中に、セシリアマスクは三基の移動砲台のジェネレーターを暴走させて射出させていた。同時に、最高速で後ろ向きに飛びながら手持ちのライフルと残りの砲台で一斉に弾幕を張る。

 特攻をさせた移動砲台は男の手刀であっさり切り払われ、四散する。

 

(動かない?)

 

 そのまま追い掛けてくるかと思われた男は、襲い来る荷電粒子のシャワーを前に空中で棒立ちのままであった。

 ところが直撃コースだったビームは男の体をすり抜け、いくら銃撃しても傷一つ負わせられない。

 特殊な防御フィールドを疑ったが、すぐに違うと気付く。何てことはない、ただビームを最小限の動きで避けているだけだった。

 

(なるほど、あまりに動きが素早く精密なせいで、止まっているように見えているだけですわ! そしてこちらをわざわざ追わないのは──)

 

 さらに六基の砲台を特攻させたセシリアマスクは、体を反転させると同時に全身のブースターを背面へ集約させ、IS学園へ向かって自らを射ち出した。

 あまりの急加速に骨が軋み、食道から鉄錆た臭いが込み上げる。だが気にしてはいる余裕などない。こちらはまだ敵の射程内(・・・・・・・・・・・)なのだ。

 

(鈴さん……っ)

 

 ふと、小さくても元気いっぱいな少女の姿が掠めていった。

 

(ごめんなさい、せっかくパートナーになってくださったのに……)

 

 ハイパーセンサーが背後の様子を映し出す。

 サングラスの男がセシリアマスクへ向ける人差し指の先端が、微かに光るのが見えた。

 

(わたくし、試合には出られそうにありませんわ……)

 

「うぐっ……!?」

 

 背中から左胸に掛けて、針で刺されたような鋭い痛みが走る。それはすぐに胸全体を内側から焼き尽くすような激痛に変わった。

 ブースターの半分が爆発し、残りの半分からも火花が散る。急激に失速した機体がバランスを失い、きりもみ回転しながら目前まで迫った学園の校舎へ墜落していく。

 

 口から血の塊を吐き出しながら、セシリアマスクは機首の向きをどうにか無人のグラウンドへ変えた。

 が、そこが限界だった。

 

(墜落の衝撃でブルーはバラバラ、胸に受けた一撃のせいで受け身も取れず、このまま地面に叩き付けられるでしょうね……うふふ、でもまあ……)

 

 ハイパーセンサー越しに、再度自分を指差す男が見える。

 最後の力を振り絞り、セシリアマスクはISのアームを動かす。握り混んだ拳から、中指一本を中天へ衝き出した。

 

(このセシリアマスク、タダではやられませんわ!)

 

 直後、男の直上にステルス状態で待機させていた移動砲台が射出された。

 臨界に達したジェネレーター出力による機体耐久力を遥かに上回る速度での特攻、攻撃直後の隙を突いた奇襲、しかし男は即座に反応してみせた。

 

「くだらんな」

 

 左腕一本で砲台を受け止め、爆発する前に放り捨てた。

 地上で窓ガラスが割れるぐらいの爆発に曝されながら、男は墜ちていくセシリアマスクへトドメの一撃を放つ。

 

「何やってんだ、お前」

 

 が、指先から放たれたエネルギービームはシャボン玉(・・・・・)に阻まれ、玉の内部で幾度となく乱反射して男の方へ撃ち返された。

 

「むっ!?」

 

 男は反射してきた自分のビームを拳で弾く。

 その背後、砲台の爆炎の中から飛び出したシャルルが殴り掛かった。

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 第一回織斑一夏の舞空術講座(命名者・簪)は、参加者の九割以上が第一段階である体の内に眠るエネルギー……すなわち『気』を感じる段階で挫折していた。

 

 そもそもISの操縦技術と『気』の操作とは一切無関係だ。普段から『霊気』の扱いに精通している鈴、剣に闘気を乗せるアバン流を習得した箒が人類の範疇から見ても例外なのだった。学内で本格的に武術の修練を積んでいる者すら珍しい。

 結局、今日一日で多少なりとも舞空術の基礎まで辿り着けたのは、鈴と箒を除くとシャルルだけであった。

 

「くっ……なんでや! なんで飛ばれへんのや!」

 

 が、飛べないだけでラウラは本能的な部分で『闘気』の扱いを心得ており、精神を統一する彼女の全身からは毒々しい紫の炎のような(ヴィジョン)が浮かび上がっていた。

 

「そう慌てるなって、ラウラ。俺だって一朝一夕に飛べるようになってないんだ」

「そうは言うてもな。あれ見てると悔しくならへん?」

 

 ラウラが指差す先には、アリーナの天井の吹き抜けから大空へ飛び出し、激しい空中戦を繰り広げる箒と千冬がいた。二人とも、当然生身だ。

 

「ウォォォォォッ!!」

「ハァァァァァッ!!」

 

 お互いに一進一退の攻防を繰り広げ、一見すると互角に見える。

 

「手数も威力も千冬先生が勝っているわ。あれだと篠ノ之はどうしても防御に回らざるを得ないから、仮にISの試合だったらシールドを削り取られているところね」

「そうなんだ。篠ノ之さん、結構頑張ってると思ってたけど、やっぱりブリュンヒルドには敵わないか~」

「そうとも限らないわ。あの剣を逆手に持ってから放つ技。あれが決まればISどころか千冬先生の身だって危うい。何よりも篠ノ之の闘志は打ち合うたびにどんどん激しくなってる。勝負はまだ続くわ」

 

 脱落した生徒たちは、岸波による上空の戦いの解説に聞き入っていた。

 

「ところで一夏? どうしてあの二人が戦ってるの? それもかなり真面目に」

「いや、実は俺にも分からないんだ。ちょっと余所見してたら、いつの間にか切り結んでた」

「あ、ウチ知っとるで。箒ちゃん、千冬ちゃんに何やら『私も混ぜろ』やら『姉さんと何を企んでる』やら『未練タラタラなのはお互い様だ、ブラコン』やら喚いとったんや。で、そのうち千冬ちゃんがキレた」

「そこまで見ていたなら止めなさいよ、あんた!」

「嫌や、メンドクサ。どっちも体育会系みたいなノリやのに、メッチャ粘着しいなんやもん。触らぬ神になんとやら、っちゅうこっちゃ」

「転入早々に大暴れした奴が言うことか!?」

 

 鈴のツッコミも何処吹く風と言わんばかりに、ラウラは上空の喧嘩を囃し立てていた。

 

「はあ。今日はここまでか……ん?」

 

 不意に、携帯電話と連動させているISに着信が入った。相手は本音だ。

 

「はい、もしも──」

『おりむー!? お願い、すぐに来て! せっしーが!!』

「お、落ち着いて、のほほんさん! セシリアマスクが何だって!?」

 

 普段ののんびりした本音とはうって変わり、切羽詰まったような声色だ。一夏はすぐにただ事でないと悟る。

 

『せっしーがグラサンの変な男に襲われて、でもそいつ凄い強くて……今もISで戦ってるの!』

「一夏ッ!!」

 

 今度はシャルルが血相変えて掴み掛かってきた。

 

「せ、セシリアマスクから救援信号が……あと、ライブ映像で!!」

「おおお落ち着け! 頭を揺らすな~っ!」

「ご、ごめん!! とにかく、これ観て!」

 

 シャルルはヅダのモニターを外部展開し、送られてきた映像をエアスクリーンに投影した。

 映像は二振りの大型ブレードを構えてサングラスの男へ突進するセシリアマスクを、俯瞰視点で撮られている。

 男はセシリアマスク渾身の一撃を、涼しい顔で受け止めた。

 

「!! ……一夏、僕先に行くから!」

「シャル!?」

 

 言うが早いか、ヅダを完全展開させてシャルルは飛び去っていった。途中で箒と千冬の間を通りすぎたので、二人も非常事態に気付いたようだ。

 一夏も慌ててシャルルを追おうとしたが、さすがに飛行速度ではISに敵わない。

 

『おりむー!』

「分かってる、のほほんさん! すぐに向かう!」

『じゃなくってね、せっしーからメッセージが届いてた。読むよ?』

 

 メッセージは短く一言。

 

『花火に紛れろ』

 

 

 

 メッセージの通り、花火と言うには派手過ぎる砲台の爆発に紛れて、シャルルは拳に波紋を込めて男に殴り掛かった。

 

銀色の波紋疾走(メタルシルバーオーバードライブ)ッ!!」

「むぐおっ!? あの女、爆発は目眩ましか……ッ!」

 

 男はガードこそ間に合ったものの、防いだ拳から波紋を流されて苦痛に顔を歪めた。

 怯んだ隙を見逃すハズもなく、シャルルはISを解除して──というより自分のISが強制解除されるぐらいの波紋エネルギーで追撃を喰らわす。

 

 攻撃を加える度に男の動きから精細さが消えていくので、シャルルはさらに調子に乗って波紋疾走を叩き込み続ける。

 その傍ら、ハイパーセンサーでセシリアマスクを確認する。地面に激突する寸前に鈴が優しくキャッチし、霊波動による治療を受けているようだ。

 

「貴様、何だこの力は!? 私の機能を狂わせるな!」

「ここでぶっ壊れる奴が知る必要ないよなァ~! 妙チクリンなISがよォ!!」

「……そうか貴様、波紋使いか!」

「ついでによォ! お前をぶっ壊したがってるのは!」

「シャルだけじゃないぜ!!」

 

 生身で男の真後ろに回り込んでいた一夏が、振り下ろした手刀で男の右肩から左の腰部までを切り裂く。

 

「アンドロイドとISのハイブリッドか。恐ろしく趣味が悪いな」

 

 同じく生身で飛んできた千冬が、IS用の大型ブレードで男首を刎ねた。

 

「成る程。セシリアマスクからの情報だから半信半疑だったが、本当にただの人形か」

 

 首の切断面やら裂けた人工皮膚の隙間から金属部品が覗き、水銀のような液体金属が滴ってくる。

 千冬は切り落とした男の頭部を掴み取り、そのあまりに精巧な造りに眉を潜めた。

 

「……随分と遠慮のない攻撃だな」

 

 首だけになっても会話に支障はないようだが、男の声にはややノイズの乗っている。

 

「セシリアマスクが俺達にリアルタイムで情報を送信してたんだよ。砲台を自爆させるタイミングも含めて、な」

「我が教え子ながら根性の据わった娘だ。勝てないとみるやこちらに丸投げしてくるとは恐れ入った」

「そうじゃないよ、千冬姉」

 

 一夏は突き刺していた手刀が抜けないので、面倒になって男のボディをバラバラに解体してしまった。人工皮膚と金属部品、銀色の液体が飛散し、学園の敷地内にバラ撒かれる。

 

「セシリアマスクは俺達を信頼して託したんだ。救援養成と一緒に戦闘状況を送信してたのもその為だろうぜ」

「良いこと言っているつもりだが、そんなのの破片をバラ撒くんじゃない。回収するのも一苦労だろうが」

「わ、悪い! で、でもコアはほら、ちゃんと抜き出したから!」

「ねえ、そいつもう再起不能だったら、僕もセシリアマスクのところに行っていいかな?」

 

 先程からシャルルがハイパーセンサーを確認しながらそわそわしている。頭とコアだけになったアンドロイドの事など、もはやどうでもいいようだ。

 

「……君達、もう終わった気でいるのか。呑気なものだな」

 

 首だけの身で大きな溜め息を吐く男。負け惜しみを、と切って捨てようとしたところで、シャルルのハイパーセンサーが上方向から高速で飛来する物体を複数キャッチした。

 

「!! 一夏、先生!」

 

 シャルルの声に姉弟は空を降り仰ぐ。

 飛来物から次々とエネルギー波が放たれ、三人を襲った。

 回避が間に合わないと判断したシャルルは姉弟を突き飛ばし、ISを解除して波紋防御。当たる面積を最小にして受け止めた。

 

「うわああああっ!!」

「シャル!!」

「余所見をしている場合か、来るぞ!」

 

 千冬の一喝に、一夏は墜ちていくシャルルを追い掛けるのをぐっと堪えて襲撃者を鋭く見据えた。

 

(シャルも相当頑丈なタイプだから、あれぐらい大丈夫だろうけど……こいつらは!!)

 

 一目で人外と分かるシルエットが三つ、冷たい瞳で一夏達を見下ろしていた。

 内二体は同型のロボットで、頭部がドクロ、重厚なボディアーマー、背面や各部位には一目で分かる程過剰な武器を搭載している。特撮やロボットアニメにおける、分かりやすい悪役のようなデザインだ。

 もう一体は常人の四、五倍もの体格だが、頭部がなく、大きな球体の胴体に巨大な単眼という完全な異形だ。一応手足は持っているので、かろうじて人型ではある。

 

「最後に二つ教えよう」

 

 男の声が、一夏と千冬が持つ頭部とISコアの両方から同時にした。

 

「私の名は『アルバート・ウェスカー・ワイリー・ジュニア』。Dr.ワイリーによって造られた自立稼働式のISだ。そして彼らは『ドクロボットK-176』と『イエローデビル』。私と同様にワイリーが開発した新機軸のISだ」

「あれがISだと!?」

「そうだ。同時に篠ノ之束の目指した理想系でもある」

「どういうことだ!」

「彼女本人に尋ねるがいい。さて、次までに波紋対策をしておくか」

 

 ワイリージュニアを名乗った男は機密保持プログラムでも起動させたのか、頭部もろとも一瞬のうちに燃え尽きる。

 

「千冬姉!」

「……分かってる!」

 

 疑問は尽きないところだが、姉弟はいまだ沈黙している異形のロボットを鋭く見据えた。




 もうトーナメントどころじゃない気がする。

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今回のネタ解説

アルバート・ウェスカー・ワイリー・ジュニア
 CAPCOMの大人気ホラーゲームシリーズ『バイオハザード』の主要キャラクター。続編を考えていなかった一作目では普通に死んだが、その後に超人と化して復活。決着となる5では銃弾を避けたりロケット弾を受け止めたりと人間を完全に辞めていた。
 ちなみに原作ゲームではウイルスで肉体を強化していただけでサイボーグ手術などはしていない。
 ワイリーのフルネームを調べたら、字面からピンと来て出したキャラ。

ドクロボット
 ロックマン3に登場したボスキャラ。最初の8ボスを撃破後に出現するさらなる強敵っぽいボス。前作『2』のボスの動きをトレースして襲ってくる。
 クイックマンモードのドクロボットに勝てなくて泣いた当時の子供は私だけではないと思う。

イエローデビル
 初代ロックマンの鬼畜ボス。8ボス撃破後の最終ステージ、ワイリーステージ1のボスなのだが、ぶっちゃけラスボスよりも苦労した。ネットで検索するとたまに出てくる「あんなのパターンじゃねえか」という意見を書いてるやつは多分プレイしてない。

機密保持プログラム
 元ネタはいくつかあるが、一番有名なのは1966年から放送されていたアメリカのテレビドラマ『スパイ大作戦』より。
 謎の人物(当局の人間と呼ばれており、一切顔出しされない。たまに登場人物と同じ声だったりするけど無関係)が主人公チームに指令を下す音声テープが「なお、このテープは自動的に消滅する」のセリフと共に爆発するシーンは世代じゃなくても知ってる人は多いと思う。
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