関係ないけど、もっとRTA小説増えろ。
謎のロボット軍団によるIS学園襲撃のニュースは、世界にそこそこの衝撃を走らせた。
戦闘機よりも素早くて高火力のISが多数配備された学園で、所属不明の戦闘ロボットが多数暴れまわったのだ。
以前からセキュリティがゆるゆるだと一部から突っつかれており、鎮圧したのがタダ者ではないとはいえ学生だったこともあって世間からの風当たりも強まりつつある。
という背景もあり、学園の顔である千冬は怪我を押してメディアへの対応を引き受けていた。
(一夏、お姉ちゃんは頑張ってるぞ!)
などと張り切っている千冬だが、実際のところは全身包帯まみれの千冬が日本刀片手に睨みを効かせた状態でずけずけとインタビュー出来る記者なんていないという、束や一夏からのアドバイスを真に受けた学園によって人柱にされただけなのだった。
「あやや。世界最強のIS乗りである、かのブリュンヒリデですら重傷を負うほどの相手とは。いやはや恐ろしいですな」
それでも個人レベルで体当たり取材を敢行してくる命知らずの記者が相当数いるので、そういった輩はくじ引きで選別した上で時間を区切って、やっぱり千冬が相対していた。
今回は業界でも有名な悪質パパラッチこと、鴉天狗の新聞記者・射命丸文である。
ISの出現以降、世界最速の座を返上した天狗一族はやたらとIS界隈を敵視しており、その執念から学園のセキュリティを突破してきたことが何度かあった。
そんな相手なので、千冬も普段の三割増しに気合いを入れた化粧(学園が手配したメイク班によるもの)で臨んでいる。
人外の異形を相手にして生身のまま渡り合える人材が千冬しかいないとはいえ、そろそろまとまった休みが欲しくなる千冬であった。
「して、敵の正体は一切が謎。背後関係も洗い出し中で何もかもが不透明、と日本政府からの発表ですが、実際のところはどこまで分かってるんです?」
「残念ですが、我々からも答えられることがありません。学園も独自に専門機関への調査を依頼しているところですが、これといった進展もまだありません」
「むう」
ペン尻で頭を掻く射命丸は、千冬の返答に納得していない様子だ。嘘ではないが、本当の事を隠している。それ事態は予想の内だが、これではせっかくブリュンヒルデと一対一で対談した意味がない。
だが、ここにきて射命丸はまだ、自分の犯した失態に気付いていない。そのことに思い至るのは、取材時間が残り五分に差し迫った頃になる。
「良かったのか、束。千冬ねえに何も伝えなくて」
「いーのいーの。ちーちゃんは馬鹿じゃないけど単純だから、下手に情報伝えるぐらいなら何も知らない方が腹芸が出来るってね」
「あ~……嘘吐くと丸分かりだもんな~、千冬ねえ」
学園に増設したラボラトリで一夏と束がそんな会話を交わしているとは露知らず、射命丸は何も知らない千冬から情報を聞き出すため躍起になっているのだった。
その間に、束は各国の重要機関などへハッキングを繰り返し、ワイリーの居場所を探っている。
残念ながら破壊した無人ISからはこれといった情報は得られなかった。パーツの製造表記がことごとく消され、自壊したコアの修復も束やライト博士ですら不可能なのだ。
今出来ることといえば、持ちえる情報をフルに使った草の根作戦ぐらいしかない。
なお、一夏は怪我を理由にトレーニングを禁止され、することが無いので束の隣にいるだけで捜査の役には立っていない。代わりに衣食住の世話を一手に引き受けている。
「束様、Dr.ライトより連絡が入っております」
「いっくん、出といて」
「あ、うん。クロエ、いいか?」
束の専属メイド、この世界にもちゃんといたクロエは、古式ゆかしい黒電話風の受話器を一夏へ手渡す。
クロエは一歩引き下がると、電話に出る一夏と50近いモニターに向かった束の背中をじっと見つめていた。
コスプレめいたゴスロリ調のメイド服に身を包むクロエだが、家事の腕前に褒められる要素がまったくない。料理にいたっては食材を炭化させたりゲル化させたりと散々で、一夏直々に指導しても全く改善しなかった。
それでも普段ならクロエの壊滅料理を美味しそうに食べてくれるのが束なのだが、一夏がいるとなると彼女の世話を全て先回りしてやられてしまい、手持ち無沙汰になってしまうのだ。
二人に悪気がない、というか二人の世界に入ってしまって周りが見えていないというのは分かるのだが、やはり寂しいと思ってしまう。
また学園内の散歩でもしていようか。そう考えていると、ドカドカとやかましい足音が近づいてきた。
一人二人ではなく、結構な人数だ。それらはドアの前で止まることなく、体当たりで突き破って内部に雪崩れ込んできた。
無表情が常のクロエだが、真っ先に乗り込んできた銀髪の狂犬に思わず目を見開いた。
「いちかちゃん、み~っけ!」
「ちょっと、ラウラ! 勢いつけすぎ、ドア壊してどうするの!?」
「さすが姉さんのラボ。校庭に勝手に作ったにしては本格的だ」
「お邪魔いたします、篠ノ之博士。あ、キッチンもありますのね。お茶飲んでいいですか?」
「帰れ、箒ちゃん以外」
騒がしく入場してきたラウラ、鈴、箒、セシリアマスクに、束の冷たい視線が突き刺さる。
しかしそんなことを気にする情緒の持ち主などこの場にはおらず、鈴がほんのちょっぴり「悪いかな~」という表情になっただけだった。
わざわざモニターから振り返った束は、額に青筋を浮かべて闖入者たちを睨みつける。
「何しに来たんだよ、ここは部外者立ち入り禁止だ。つー金髪マスク、勝手に茶箪笥開けるな。狂犬も冷蔵庫漁るな。チビ、当たり前のように座布団出してんじゃない。箒ちゃんはくつろいでていいけど、近い!! なんでそんなに寄ってくるのかな、嬉しいけど怖い!」
ずんずんと鼻先が擦れるぐらいに箒が束に詰め寄っていた。
妹のあまりの迫力に束は助けを求めて一夏を見るが、残念なことに一夏はライト博士と「波動~」やら「昇竜~」やらで議論を白熱させており、恋人のSOSを全く気に留めていないのだった。
「姉さん、実は折り入って頼みがあるんだ」
「箒ちゃんがお姉ちゃんに? 珍しい……てか初めてじゃない?」
妹からの意外な提案に、嬉しさよりも戸惑いが勝る束であった。
何しろ過去を振り返っても、箒の方から束に歩み寄ってくる事など数えるほどしか記憶にないのだ。年齢の離れた姉妹などそんなものなのだろうが、特に近年では一夏との交際を言い出せなくて自分から距離を置いていたため、むしろ嫌われているとまで思っていた。
「うんうん♪ いいよいいよ、何でも言ってよ! お姉ちゃん、箒ちゃんのお願いだったら何でも叶えちゃう♪」
これを機会に姉妹の溝を埋めようと、内容も聞かずに快諾する束だったが、
「そうか。じゃあ来週の臨海学校までに私と鈴、あとセシリアマスク用に戦闘用のISを組み上げておいてくれ。これ要望書な」
「え””””」
ある意味予想通りでありながら遥かに斜め上の提案に、天災は言葉を詰まらせた。
箒から手渡されたIS設計における要望書も何の冗談かと訊ねたくなる数十センチにも上る紙の山だが、箒の目は真剣そのものだ。
「ああ、パイロットの保護とか考えなくていい。乗るのは私たちだからな。あのドクロのロボットや黄色い一つ目と真正面から渡り合える機体でなければ意味がない」
「いや~、悪いっすね、束さん。競技用のアルトロンだとどうしても動きに限界があって」
「武装については簪さんが張り切って図面を引いていますから、お二人で力を合わせて頑張ってくださいまし。わたくしたちのために」
「ちょっと待てこら! 勝手に話を進めるな!」
すでに自分が承諾する前提で盛り上がる三人娘に、束の語気も強まった。
「一万歩譲って箒ちゃんの機体は構わないけど、チビと金髪の分までどうして私が用意しなきゃいけないのさ! つーか要望多すぎだルォ!?」
「そう固いこと言わないでくださいよ~、束さん。あたしだって篠ノ之家とは浅くない付き合いなんですし」
「うぐっ……そ、そりゃそうなんだけど……」
鈴にそう言われては否定できない。一夏がいなくなった直後の情緒不安定だった箒を立ち直らせてくれた恩人なのだ。箒の中の変な扉を開きはしたが、そもそも自分が一夏の近況を知っていながら後ろめたくて話せなかったのも箒が塞ぎ混んだ一因だったのだ。束から文句など言えるはずもない。
「じゃ、ついでにわたくしの機体もお願いしますわ」
「何でだよ! お前に至っては縁もゆかりも無いじゃないか! 自国に帰れ金髪マスク!」
「本国でISの軍事利用は禁止されてますから、戦闘用のISは造れませんの。そうでなくても、この間壊されたブルーの修復だけで手一杯ですので。このままではわたくし、見せ場のないまま出番が終わってしまいますわ」
「知るか!」
こっちの鉄仮面は100パーセントわがままだった。
「あ、うちのことは気にせんといてええよ。ゲッシーはまだ使いこなせてへんだけで天下無敵の機体やし」
「誰も聞いてねーよ、真島ぁ!? クーちゃんから離れろ、産業廃棄物! クーちゃんもそんなのにお茶なんか出さなくていいから!」
「え、ええ。でもこの方、何だが他人のような気がしなくて。顔もどことなく似てるし、もしかして生き別れた姉妹なんじゃないかなって?」
「似てないよ!? 全っ然似てない! クーちゃんはこんなSAN値ゼロな笑顔なんてしてないから!!」
「電話、終わったぞ~。ずいぶん楽しそうだな、束。せっかくだし、みんなで昼にするか」
「いっくんんんんんんんんーっ!?」
全方面への見事なツッコミで、天災と呼ばれる所以を存分に発揮した束であった。
なお、結局ISの開発は一夏の口添えもあって渋々了承するハメになった。
束は「もしかして私って妹にも恋人にも便利に使われてるだけなんじゃないかな」と疑念を抱いたが、一夏の自分にだけ昼食のデザートを付けてくれたのですぐに疑念を捨てた。
「そや。忘れるとこやった」
昼食後もクロエが淹れたお茶(薄い)を飲みつつ、無造作に散乱していた漫画雑誌を読み漁っていたラウラが、突然立ち上がった。
一夏は「用なんてあったんだ」と思いながらも、三人娘を連れて学園の工業区画へ行ってしまった束に代わって応対することにした。
「シェリーちゃん、男の子やったんやな。びっくらこいたわ」
「あぁ~、それね」
先日の事件の際、イエローデビルを破壊するために限界近い波紋を放出したシャルルは、今も意識不明で学園の病院で入院中だ。
そしてラウラもシャルルの波紋疾走に巻き込まれて死にかけた。その日の夜には目を覚ましたが、同じ部屋で寝かせていたせいでシャルルの秘密に気が付いたのだった。
「あの立派なお胸は詰め物かいな~って思ったら、まさかな~」
「そうだな。世間では『男の娘』っていうらしい」
「ほ~ん」
へ~そうなの、とラウラは自分から振っておいて興味を失ったのか、そのまま漫画雑誌に視線を戻すのだった。
「え、そんだけ?」
あまりにも淡白なラウラに、一夏の方から聞き返してしまう。
ラウラは雑誌に目を落としたまま、
「ま、趣味や事情は人それぞれにあるやろ。ウチも脛に傷ある身やし」
「着替えとかシャワーとかメチャクチャ覗きまくってるぞ、あいつ」
「ウチは構へんよ? 他の子は知らんけど、わざわざ教えな誰も傷つかん。千冬センセからも口止めされたけど、ウチはそもそもとやかく言うつもり無いわ」
「う~ん、器が大きいと言うか何と言うか」
一夏は苦笑しながらクロエに見ると、クロエも苦笑で答えたのだった。
こうしてIS学園では事件の処理を進め、その裏で新たな脅威に対する準備が行われていた。
決戦の日は刻一刻と近づいている。
「わたくしたちの戦いはこれからですわ!」
「と、突然どうしたのよ、セシリアマスク!?」
ラウラとのやり取りをどうにか原作に近づけようと思ったけど、無理。
私に真島の扱いは十年早かったかもしれない……!
射命丸文
東方Projectより。清く正しい射命丸、を標語に掲げた幻想郷最速のパパラッチ。
シリーズでの人気も高く、彼女を主人公とした外伝作品も存在するぐらい。
実は彼女ではなくフランク・ウェストを登場させる予定でしたが、もうCAPCOMはお腹一杯な気がして彼女にしました。
波動、昇竜
ストリートファイターシリーズにて代表的な必殺技。
波動拳は飛び道具、昇竜拳は対空技、これに正面への突進技である「竜巻旋風脚」が加わって、格闘ゲーム三種の神器などと呼ばれている。
竜巻~以外はロックマンXシリーズの隠し武器として登場している。