本当に励みになるもので驚きました。
それと緒注意。
今回のエピソードは百合要素が強いです。
凰鈴音がその少女と出会ったのは、小学5年生の時だった。
その年に中国から編入した鈴は、言葉にこそ不自由しなかったが、環境が激変したことへの戸惑いから周囲に馴染めず、孤立していた。
クラスの男子から心無い言葉を浴びせられることもあり、学校へ行くこと事態が嫌になりだした頃。織斑一夏に声を掛けられた。
他の男子と同様に自分をからかうつもりだと考えた鈴は無視を決め込んでいたが、やがて根負けして彼とつるむようになった。
そして鈴は少女――篠ノ之箒と出会った。
彼女はだいたい一夏と一緒にいた。登下校も、休日に遊ぶ時も一夏に着いて回り、時々手を引いてつれ回す箒。
最初のうちは、鈴も一夏を「孤独を癒してくれた王子様」のように考えていたため、箒の存在を疎ましく思っていた。
だが、一夏の気を引こうといつも一生懸命なくせに、いざ一夏から意識されると心にもないことを言ってしまう――そんな箒の幼い恋を間近で見ているうちに、気付けば鈴は箒を応援する側になっていた。
さりげなく箒の想いを伝えたり、二人でいる時間が増えるように周りを遠ざけたり。
鈍感な一夏とツンデレの箒という、ラブコメの面倒くさい組み合わせを地で行く二人は、鈴のサポートをいつもいつも不意にしてくれたが、それでも。
気の置けない二人のやり取りを観るのが、鈴は好きだった。
だというのに。
全てが変わってしまったのは、小学校6年生の遠足の日だ。
うっかりハイキングコースから外れた山道で、一夏と鈴と箒はウミガメに出会った。
「わたくし、カメなんです……」
しかも喋った。
鈴と箒は腰を抜かしたが、何故か一夏は平然とウミガメの話に耳を傾けていた。
「こいつ、松茸狩りに来て仲間とはぐれて、もう1年も山をさ迷ってるんだって。可哀想だから、ちょっと海まで行ってくる」
一夏は二人に一方的にそう告げ、ウミガメを背負うと猛スピードで下山していった。
それが、鈴と一夏との最後の会話だった。
それから二日後。担任の先生から、一夏が転校したことを告げられた。
鈴は箒と千冬の元へ向かったが、彼女にも一夏がどこへ行ったのか分からず、電話も通じなくなってしまい、手紙すら送ることが出来なかった。
一応、近況報告は貰えるようだが……無責任が過ぎると、子供心に鈴も不満を抱いた。
今になって思い出しても、それからの箒はひどい落ち込み様だったと思う。
学校では一日中虚空を見つめ、何かの拍子に泣き出すことさえあった。
あまりの情緒不安定っぷりに、鈴ともう一人の男子以外はまともに会話が成立しない有り様だった。
一夏がそうしたように、鈴は根気強く箒を励まし、少し目を離すと部屋に引きこもってしまう彼女を外に連れ出した。
「上の馬鹿娘といい、箒も友達には恵まれているようだな」
黒髪ロングで筋肉ムキムキ、性格も束以上に偉そうな篠ノ之家のお父さんは、鈴を見てそんなことを言っていた。
ただ、鈴としては箒のための行動をしていたつもりはない。
自分が一夏と箒が一緒にいるところを見るのが好きだっただけだ。
一夏が戻ってきたとき、二人が以前のようにいられるように。そのために、箒には元気でいてほしい。
それだけだった。
「なおさら結構だ。自分の欲が結果的に他人のための行動に繋がるならな。胸を張れ、小娘。そしてこれからも、
馬鹿娘をよろしく頼む」
正直に気持ちを語った鈴に、篠ノ之家のお父さんは頭を下げた。
千冬の剣の師匠で、束でさえ頭が上がらない篠ノ之のお父さんの予想外な態度には、思わず鈴も恐縮した。
とりあえず、こちらこそよろしくお願いしますと返しておいた。
そんなことを言われたからだろうか。
一夏がいなくなって3ヶ月――夏休みになろうという時になっても、まだしょげている箒の部屋に押し掛けたときのことだ。
「君はどうして私を気に掛けてくれるんだ?」
不意にそんなことを聞かれた。
この頃、ようやく箒は自分から外に出るようになって、突然泣き出すことも無くなっていた。
心に余裕が出来たことで、ふといつも傍にいてくれた少女の事が気になったのだろう。
「そんなの、友達だからに決まってんでしょ」
「そっか……。なら、一夏も私を友達と思っているのかな……」
当たり前でしょ、と言おうとして、鈴は一旦口をつぐんだ。
箒の聞きたい答えはそうではない。彼女が一夏に望んでいるのは、友情よりも「先」だ。
この年頃の恋愛は、自分の感情が最優先だ。
「好き」という基準も曖昧で、一緒にいたい、一緒にいると楽しいと思えるから、その相手を好きだと思い込む。
仮にこの時の気持ちを抱えたまま成長した場合、相手と両想いならば幸せなことだろう。しかしそうでなければ、辛いことになる。
想いが伝わらない、自分以上に親しい異性が存在する、自分に自信が持てない。しかし好意の感情だけは人一倍強く、暴走して想いとは真逆の方向へ走ったりする。
鈴にも、それぐらい分かった。だから――、
「仕方ないわ。一夏、お子さまだもん」
鈴は箒に発破を掛けた。
「箒の気持ちにも気付かない、鈍感なお子さまだもん」
「き、気持ちって……!?」
「好きなんでしょ、一夏のこと」
みるみる顔から首まで真っ赤に染めた箒は、俯きながら「どうして知ってる」と呟いた。
「いや、丸分かりだから。多分、気付いてないのって一夏だけだと思う。つーか、あんだけいっつも一夏のこと見てりゃねえ」
「そんなにか……」
「そんなによ。そんなに好きなら、次に会ったときにでも伝えちゃいなさい、その想い」
「で、でも……」
「でもじゃない」
弱気になりそうな箒の手を握り、正面から目を見つめた。
「次に会うときまで女を磨いて、今度はあいつが目を離せなくなるぐらい綺麗になって。で、言ってやればいい。ずっとずっと好きでしたって」
「けど……」
「怖がらなくていい。それでもあいつがあんたの気持ちに気付かなかったり、その気持ちが叶わなかったら、その時は――」
そして鈴は、親友を勇気づけるつもりで――、
「あたしがあんたを嫁にもらってやる。だから、もっとシャキっとしなさい!」
――鈴が目を覚ますと、カーテンの隙間から昇りだしたばかりの朝日が射し込んでいた。
IS学園で迎えた最初の朝。懐かしい夢を見た。
(…………)
ベッドから上体を起こし、夢で見た内容を反芻する。
一夏がいなくなってしばらくの頃。
箒と交わした約束。
(あれだぁぁぁーっ‼)
思わず鈴は頭を抱えた。
(言ったよ! 言いましたよ、確かに‼ 一夏にフラれたら嫁にするって言っちゃってたよあたしー!?)
あの日以来、箒は以前にも増して明るくなり、様々なことに対して積極的になった。
それも一夏に振り向いてもらおうとする努力であったわけだが、それ以上に「鈴が一緒にいてくれる」という安心感が彼女に行動する勇気を与えていたのだと、鈴は今更ながらに気が付いた。
思い返せば中2の年に中国へ帰る際、それを知った箒は絶望のあまり自殺しそうな雰囲気だった。
週に2~3回、多いときには4~5回も電話を掛けてきたり、最近は鈴も箒を面倒くさい女と思い始めていたが、そもそもの原因は自分だった。
おそらく一夏との再会は切っ掛けに過ぎず、本心では相当以前より箒は鈴に乗り換えていたのかもしれない。
(ていうかあいつ、一夏のことだけじゃなくて、あたしとの約束もず~っと覚えてたってこと!? どんだけ一途なの!? ちょっと怖いんですけど!?)
「どうかしたのか?」
鈴の尋常でない様子に気付き、隣のベッドでルームメイトも目を覚ました。
「ごめんなさい、起こしちゃった?」
「いや、実は少し前から君の寝顔を見ていた」
「朝から飛ばすわね、箒――って箒!?」
勢いよく隣へ振り向くと、そこで寝ていたのはルームメイトではなく、インナーシャツとショーツスタイルの箒だった。
彼女の姉にも負けない抜群のスタイルは、男性であれば目が離せなくなるであろう色香が漂っているが、鈴は女であるしノンケだ。
「あ、あっ、あんた何でここにっ!?」
「君のルームメイトに頼んだら、快く部屋を替わってくれたぞ。寮監の千冬先生にも了承済みだ」
「はいぃぃぃっ!?」
突然の事態に頭が追い付かず、鈴は奇声を上げることしか出来なかった。
「なあ、鈴……」
気付くと箒が鈴のベッドの縁に座っていた。
今にも飛び掛かって来そうな箒。
鈴の冷たい汗が流れ落ちた。無意識に体一個分の間合いを空けて隣に座った。
「な、なにかな!?」
「その……約束のことなんだが」
「約束って、もしかして嫁にするって――」
「覚えていてくれたのか!?」
花が咲いたような笑顔になった箒。
今の今まで忘れていたとは言いづらい。
「箒、あれはその、何と言うか……」
「分かっている。私を勇気づけてくれたのだろう? 本気とは思っていないさ」
「そ、そっか……」
鈴は露骨にホッとしてしまい、慌てて箒の顔色を窺った。
箒は膝の上で組んだ自分の手に視線を落としており、鈴の様子に気付いていなかった。
「そうよね! 女同士じゃ結婚出来ないし」
「ああ。だから、せめて君の子供だけでも生ませてくれ」
「やっぱ何も分かってないじゃん!? 冗談にしてもタチ悪いわ!」
箒はずずいっと鈴との距離を詰めた。
「私は本気だし、大真面目だ!」
「なお悪いっての!」
「何故だ!? やっぱあれか!? 筋肉質だからか!? 背と胸ばっか大きいからか!?」
「むしろ羨ましいけど、そこじゃない‼ 女同士で子作りが出来るかい‼」
「いや、きっと大丈夫だ! ISとか、生身でビーム出すことよりかは現実的な技術だと思わないか?」
「そういわれればそうだけど、あたしはノーマルだっつうの‼ 恋愛は普通に男の子とがいーの‼」
「いや、男なんてロクなもんじゃないぞ? こっちがどんなに想っていても、身近なところから誘われたらコロッとイッてしまうからな」
「同情はするけど、あんたの面倒くさい性格が招いた自業自得だから!」
「今は素直になったじゃないか!」
「あたしに素直になってどうする!?」
鈴と箒は際限なくヒートアップしていく。
その時、鈴のケータイが鳴った。
言い争いを一旦止め、鈴はベッドの枕元で充電中のケータイを手に取った。
「誰よ、こんな時間に――え、一夏!?」
「なんだと!?」
『よう。お前ら、もう起きてたのか』
電話口の一夏には、普段と変わらない様子の一夏が出た。
『防音構造だからって、こんな朝から騒ぐなよ。隣の部屋まで声が聞こえるんだよ』
「ご、ごめん! もう静かにするから! ……ていうか、一夏の部屋って隣だったんだ」
『俺も今気付いたけどな。聞き覚えのある声だなーって思ってたら、集中できなくて』
「集中?」
『あ、いや。というか、箒も一緒にいるんだな。箒の部屋って別の階だった気がするけど』
「そのはずなんだけどねぇ……。実は――」
この面倒な状況を話そうとした瞬間。
『ひゃおうっ!?』
一夏の奇声に遮られた。
「え、今の何!?」
『いや、なんでもな――ひっ! ちょっ! 止めろ、束! 今電話中!』
「は? 束?」
電話の向こうから、一夏以外の女の声が聞こえてきた。
『いっく~ん? 恋人と迎える朝にいつまで他の女と話してるのかな~? ん~?』
『いや、のほほんさんと簪もいるだろ!?』
『わたしたちのことは気にしなくていいよ~。それより昨夜の続きシよ? まだ3回戦しかシてないよ』
『音を上げるのは早いぞ、織斑! どうせ今日は休日だ! 存分に楽しもうじゃないか‼』
「……いや、ナニしてんのあんた!?」
電話口から一夏の声が遠ざかり、代わりに鈴には馴染みの無い女性に替わった。
『箒ちゃんに、興味があるなら交ざる? って言っといて』
「は、はあ……」
女はそれだけ伝えて通話を切った。
「むしろあっちのが騒がしいぐらいじゃない……あはは~」
恐る恐る隣を見ると。
表情が消え、海底のクレバスを覗き込んだような一切の光が射さない瞳の箒がいた。
電話での会話を全て聞いていたらしい。
「鈴……」
「いや、落ち着いて、箒。その顔でにじりよって来ないで」
「向こうもお楽しみのようだし、私たちも濡れないか?」
「カッコつけんな! 違うって、どうせ桃鉄かスマブラだから! どうせならあたしらも隣の部屋行く?」
「眼を逸らすな」
「逸らしたくもなるわよ、そんなドブ川みたいな目!」
ジリジリと壁際まで追い詰められた鈴は、結局昨日に続いて2発目の霊光弾で箒をもう一度寝かし付けたのだった。
その際、勢い余った箒は隣室との壁を突き破り、鈴の予想通り桃鉄に興じていた一夏・束・本音・ピエロメイクの少女の度肝を抜いた。
これにより、鈴は千冬に罰を課せられ、続く土曜日曜を壁の修理に充てられることとなった。
なお、箒は鈴からの強い要望により、元の部屋へと帰された。
週明けの月曜日。
教室に入った一夏は、異様に悪目立ちするクラスメイトに声を掛けた。
「どうしてしれっと教室にいる、セシリアマスク?」
「あらあら。ずいぶんなご挨拶ですこと」
全治三ヶ月のセシリアマスクが普通に登校していた。
相変わらずの鉄仮面、全身あちこち包帯まみれだが、松葉杖もなければ腕も吊っていなかった。
「入院なんて退屈なだけですわ」
「そうかよ。まあ、無理するな」
「言われるまでもありませんわ。ところで、もうご覧になりまして?」
自分の席に向かおうとした一夏は、セシリアマスクの言葉に再び彼女へ振り返った。
「何の話だ?」
「今週末のクラス対抗試合ですわ。朝から廊下に貼り出されていましたの」
「まじか。気付かなかった」
「そんなことだと思いまして、わたくし、スマホで掲示板を撮影しておきましたの」
そう言ってスマホの画面を一夏に見せた。
第一試合
1ー2 凰 鈴音 対 1ー4 更識 簪
第二試合
1ー1 織斑 一夏 対 1ー3 岸波白野
幼い日に交わした約束、忘れられていても覚えられていても修羅場になっちゃう鈴ちゃんの明日はどっちだ!
ぶっちゃけラブコメのヒロインがこれぐらい積極的になると、あっさり少年誌およびライトノベルのK点を越えてしまいます。後発キャラにも不利だし。
今回のネタ
篠ノ之のお父さん
漫画「るろうに剣心」より、主人公の師匠・比古清十郎。
この物語では千冬に飛天御剣流を教えた設定。また、束が原作と違って付き合いが良かったり、篠ノ之一家が離散していないのも、この方がくそ強いから。
桃鉄
みんな大好きパーティ系モノポリー。古くはファミコン時代から存在する。
ピエロの格好の女子
簪。どう魔改造されたかは次回。
岸波白野
ゲーム「Fate/EXTRA」シリーズの主人公。名前は男女兼用で、この物語では女性。
メディアミックスで貧乏くじ引いてたので、カッとなって出した。