ツッコミキャラが増えます。
ボケがもっと増えます。
「ハーッハッハッハッハ!」
IS学園のアリーナ。
その中央に、異様なテンションで馬鹿笑いする少女がいる。
テンションだけでなく、風体も異様だ。
赤くて丸い付け鼻と、右目の回りを覆った金属製の仮面。素肌は首まで白塗りで、その顔は誰がどう見ても道化師だ。
装着したISも極彩色のパッチワークとでも言うべき悪趣味なカラーリングだ。着色が派手すぎてボディの形状がハッキリしないほどであった。
「私が1年4組のクラス代表、美しき戦闘妖精の更識簪! 美しき戦闘妖精の更識簪だ!」
「二回も言わなくたって聞こえてるよ、戦闘妖精の更識簪さん」
道化師と対峙しているのは、呆れ返った鈴だ。試合前だというのに、すでに疲れているようにすら見える。
せっかくのクラス対抗試合。
IS学園入学後、初の公式試合だというのに、どうしてこんなのとやり合わねばならんのだと、鈴は自らのくじ運を呪っていた。
『貴様! 私を呼ぶときは頭に「美しき」を付けろ! 「美しき戦闘妖精の更識簪」だ! リピートアフタミー!』
『知るか‼ てか何なの、そのふざけた格好は!?』
『フザケてなどいない! 私は大真面目だ!』
『なお悪いわ!』
対戦者二人による、オープンチャンネルでのコントのようなやり取りが続く。
生徒会役員用の観戦室で会話を聞いていたIS学園の現生徒会長が、両手で顔を覆って俯く。
隠していても分かるほど、生徒会長は耳から首から真っ赤だった。
「あ、あのバカ妹……!」
吐き捨てるような生徒会長。
肩が小刻みに震えており、極度の羞恥心によって身悶えしている。
「お嬢様、お気を確かに……くくっ!」
三つ編みに眼鏡の会計が、同じように口許を右手で押さえながら会長を励ました。
彼女の顔も耳まで真っ赤だが、こちらは笑いを堪えているようだ。
会長の名は更識楯無。
馬鹿笑いする道化師、簪の実の姉だ。
また、会計の三つ編みは本音の姉・虚である。
「今回も飛ばしていますね、妹様は」
「飛ばしすぎよ! 何あのメイク!? あと機体の色!? それから自称!? 戦闘妖精ぇ!?」
「良いセンスですね」
「本気で言ってないわよね!?」
一息にツッコミまくった楯無は、少し落ち着きを取り戻した。
「今回の試合、簪様はとても張り切っていましたからね。日本代表候補生から落ちた腹いせに大暴れしてやる、と本音に言っていたようです」
「いや、確かにはっちゃけてるけど……」
「言っちゃなんですが、技術と知能以外は大変残念な方ですから。パイロットとしても非才ではありませんが、今年の代表候補生と比べれば」
「それ以上言わないで、お願い」
沈痛な面持ちで妹を見つめる楯無。
一方の虚は、姉妹の双方を見てとても楽しそうにしていた。
(やっぱり更識って……オモシロ!)
日本政府の諜報組織を統括する更識家。
虚はそれに仕える立場である布仏家の人間だが、彼女が楯無の傍にいる最大の理由は、見ていて退屈しないからであった。
「はぁぁ……っ、また妙な噂が……実家からの嫌味が……」
「あ、試合が始まりますよ」
「別にいいわ。2組の子の勝ちよ」
『光栄に思うがいい、凰鈴音! 君との試合は私が創る、IS界の暗黒神話! その輝かしい1ページ目となるのだ!』
『暗黒神話ぁ? 黒歴史の間違いでしょ?』
『そう言っていられるのも今のうちだ!』
試合開始。
『喰らうがいい‼ レインボーサイクロン!』
開始の合図と同時に、簪のISは派手な動きと共に武装を展開。49本にも及ぶ色とりどりの偏光レーザーを一斉射撃した。
全てのレーザーが試合開始位置で溜息吐いて浮かんでいた鈴を直撃。
色とりどりの爆発を起こし、鈴をアリーナの地面へ叩きつけた。
『ハーッハッハッハッハ! 見たか! ホーミングレーザーによる上下左右からの一斉攻撃‼ 我がIS「ビューティフルドリーム」の中で、私が最も気に入っている技だ!』
「またド派手な武器を開発しましたね」
「ええ。技術者としては間違いなく天才なんだけどね……。あの馬鹿、モニターを見なさい。相手のシールドゲージが減っていないじゃない!」
煙が晴れると、そこには全くの無傷の鈴が、半目になって簪を見上げていた。
いや。
鈴は確かに無傷だが、姿を現した彼女はISをブレスレットに戻していた。
『ハーッハッハッハッハ! 絶対防御に救われたな! 一撃でISが強制解除されてしまうとは!』
『んなわけないでしょ。自分で解いたのよ。生身で受ければシールド減らないし』
『なんだとぅ!?』
心底自分をナメきった言い種に、簪が目を剥いた。
「生身でって……お嬢様じゃあるまいし」
「あなた、私を何だと……まあいいわ」
楯無の視線はじっと鈴へと向いている。
『いいだろう! その余裕に満ちた顔を、苦痛と絶望に染めてやる! このビューティフルドリームには、他にも一千の機能と技が詰め込まれているのだ!』
『ISにそこまで拡張領域ないでしょ?』
『普通はな! だが、このビューティフルドリームはそんじょそこらのISとは物が違う! なにしろ、この私自らの手で1から設計・開発したのだ!』
そう言うと、次々に武装を展開させる簪。
両肩から多連装ミサイルランチャー、両腕から3連装ガトリングガン、両足からもランチャー、胸の中心からプラズマ熱線砲、背中から先程のレインボーサイクロンが同時に出現した。
『どうだぁ! この程度は序の口! これら全てを使い切ってもまだまだ兵器はあるのだぞ!』
『はあ。おめでたいのは見た目だけじゃないのね』
何度目かの溜め息を吐く鈴。
『武器を出すのはいいけど、その前に自分の顔を確認したら?』
鈴が右手の人差し指を立てた。
赤いボールが吐いた細い輪っかを指先に引っ掛け、簪からよく見えるように振り回す。
簪が自分の顔を触る。道化師の赤い鼻が無いことに気づき、固まった。
鈴が指先で回しているのがそれだった。
「い、一体いつの間に!?」
「いや、見え見えだったでしょ」
驚く虚に、楯無は何でもないかのように返した。
「簪がレーザーを撃った時にはもう、ISを解除して掠め取っていたわよ。そのままノックアウトも出来たでしょうけど」
「ナメられてますね、簪様」
「そりゃあの格好じゃあね……」
鈴はつけ鼻を適当に放り投げると、まだ固まっていた簪に人差し指を突きつけた。
『あんたの機体、確かに強そうだけど全然使いこなせていないわね。殺気がダダ漏れだから、回避するのも簡単だし』
挑発的な鈴に、簪が我に帰った。
『な、なんだと!?』
『機体を1から作ったってのは確かにすごいけど、それだけ。機体の性能を自分の実力と勘違いしたのが、あんたの敗因ね』
『言わせておけば! ならば受けてみろ!! この一斉――』
会場から、鈴の姿が掻き消えた。
虚が驚いていたが、楯無は鈴の動きをしっかり目で追っている。
簪の目の前に現れた鈴が、彼女を豪快にぶん殴った。
さらに追撃を仕掛けた鈴。飛行ユニットだけを展開すると、地面に落下する前に簪に追い付き、背後に回り込んで豪快に蹴り飛ばす。
霊力の籠った攻撃をモロに受け、簪は仮面を砕かれながらアリーナの壁に激突した。
「うっわ、痛そ……」
他人事のような楯無の感想。
鈴の蹴りと、壁に激突したことで絶対防御が2回も作動し、簪のシールドエネルギーは尽きた。
加えて簪本人も白目を剥いて気を失っている。
対戦相手を文字通り一蹴した鈴が、高々と右拳を突き上げた。
わずかに遅れて、会場が大歓声に沸いた。
ピットに戻る鈴の、まるでキャットウォークを歩くモデルのような堂々とした歩き姿には、箒はもちろん観客席のそこかしこから黄色い悲鳴が上がった。
「残念でしたね」
「だから、結果見えてたって。それより、いよいよ次よ、本日のメーンエベント」
「ええ。織斑一夏に対して、我が生徒会が誇る雑用――もとい、書記がどこまで食らい付けるか。楽しみです」
「ふっふっふ。甘いわよ、虚」
楯無が、それまで畳んだまま懐に忍ばせていた扇子を取り出した。
「はくのんは強いわよ。戦術レベルの読み合いは、私よりもずっと上。試合の運び次第じゃ、充分に勝てる見込みもあるわ」
表面に書かれた『どどんぱ』の文字が虚に見えるように、扇子を開く。
「もっとも、一夏くんには是非とも勝って欲しいけどね。鶴仙流の門弟としては、ライバルが不甲斐ないと戦い甲斐がないもの」
そう言った楯無の顔に、笑みはない。
諜報員として、そして冷酷な殺し屋としての顔を覗かせる楯無に、虚は背筋をゾクゾクさせた。
簪が担架で運び出されていく。
一夏の試合まで、あとわずか。
原作にフライングする形で登場の更識姉妹でした。
なお、美しき戦闘妖精はただの出オチじゃありません。
でも前振り回とはいえ話が進んでませんね。
今回の解説
美しき戦闘妖精
漫画「幽☆遊☆白書」に登場した出オチ担当、美しい魔闘家鈴木。
道具作りの才能とか、鍛えたら普通に強いとか、ただのネタ要員では終わらない美味しいキャラ。
ちなみに戦闘妖精の部分は、小説とそれを原作にしたOVA作品「戦闘妖精 雪風」からなので幽白無関係です。語感以外には特に意味はありません。
虚のセリフ「オモシロ!」
こちらは「DEATH NOTE」より。死神りュークの「人間ってオモシロ!」から。