いんふぃにっと・亀仙流   作:サイデリア

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 一夏の戦闘回。
 原作における鈴との試合になります。

※対戦相手を別キャラにした理由
 →DB対幽白ならクライマックスに入れたいから。


第七話 雲のマシンでふらいあうぇい

 観客席の一画で陣取った箒が、セシリアマスクの試合の時と同じ、本格的な撮影機材を広げていた。

 

「う~ん……」

 

 カメラとケーブルで接続されたノートPCには、ついさっきまで行われていた鈴と簪の試合が映し出されており、それを見ながら箒が唸っていた。

 

「なにを渋い顔してますの、箒さん」

 

 隣の席からセシリアマスクが尋ねた。

 セシリアマスクは右手にLLサイズのバターポップコーン、左手にダイエットコーラを抱え、観戦を楽しんでいるようだ。

 包帯はとれていないが、行動に不自由している様子はない。

 なお、セシリアマスクは鉄仮面を着けたまま飲み食いしており、見慣れてしまった1ー1のクラスメイト以外からは不気味がられて遠巻きにされていた。

 

「いや、試合の時間が短くてな。もっと鈴の活躍が見たかったな、と」

「それは二回戦に持ち越しですわ。それより、ボチボチお義兄様の試合が始まりますわよ」

「そうだった。映りが悪いと姉さんにドやされる」

 

 そういって、箒はカメラとPCに繋げていたバッテリーを、新しいものと取り替えた。

 元のままでも充分だったが、撮影途中に電源が切れるリスクを少しでも減らすのは、クルーとしての基本的な心構えだ。

 

 箒の細やかな心遣いに、セシリアマスクも感心した。

 

「箒さん、お姉様と仲がよろしいのですわね」

「ん……良いのだろうか。歳も離れているし……よく話はするが……」

 

 箒の手が止まった。

 

「どうなさいまして?」

「よく話すのに、姉さんは一夏のことを何も教えてくれなかったな、と……」

 

 しかし思い返せば、束が箒に対して妙に余所余所しい時や、何かを言いかけて口を紡ぐ時があった。

 あれは自分と一夏のことを話そうとしていたのかもしれない、と今になって考える。

 

「鈴さんにお熱かと思いきや、織斑さんにも未練タラタラとは。面倒くさい女ですわ」

「う、うるさい! 仕方ないだろ、性格なんだから!」

「あ! しののんとセッシー、みっけ!」

 

 箒たちの元へトコトコと本音がやって来た。

 

「布仏さん? 生徒会役員には専用の観戦席があると伺いましたが、こちらに来てよろしいのでして?」

「いや~、向こうにいるとはくのんを応援しないといけないからね」

「はくのん……とは、対戦相手の岸波さんでしょうか?」

「うん。はくのんも生徒会役員なんだよ。雑用兼書記。けど、個人的にはおりむーを応援したくって。機体のセッティング、手伝ってきたし」

 

 本音がセシリアマスクの隣にちょこんと座る。

 セシリアマスクは本音にポップコーンの容器を差し出した。

 本音はありがたくいただいた。

 

「一夏の専用機か。どんな機体なんだ?」

 箒が尋ねると、本音は得意気に腕組をした。

 

「色々とすごいよ。人間が乗るって前提じゃ、あの仕様にはしない、絶対」

「さらっと化け物扱いされてますわね、織斑さん」

「だけどすごいって意味じゃはくのんもだよ。はくのんのIS、他じゃ見ない特性があるから」

「その特性とは?」

 

 セシリアマスクの質問に、含み笑いを返す本音。試合を見てのお楽しみ、というつもりらしいが。

 

「実は来賓用のパンフレットがここにありますの」

 

 セシリアマスクは鞄から小冊子を取り出した。

 

「じ、準備がいいな、セシリアマスク」

「とは言いましても、大まかなスペックぐらいしかわかりませんけど。名前は『セブンスフィール』、特性……サーヴァントモデル?」

「サーヴァント……従者? セシリアマスクの移動砲台のようなものか?」

「ど~だろ~ね~」

 

 本音はイタズラの行方を見守る子供のような含み笑いを浮かべていた。

 

 

 

 ISを身に纏った一夏は、カタパルトで目を閉じ、出撃の時を待っていた。

 

 この一週間、放課後はライト博士の元で機体の調整に費やしてきた。

 ISを用いた戦い方も考案し、千冬を練習相手に試せるだけ試した。

 何度も千冬を本気にさせ、ISを解除してのガチバトルに発展した。

 ライト博士は何故か、生身の二人の戦闘データを熱心に採取していた。

 

『一夏』

 

 千冬から通信が入った。

 一夏は目を開き、回線を開く。

 

「学校では教師として振る舞うんじゃなかったのか、千冬先生?」

『これはプライベートチャンネルだ。我々以外には聞いていない』

「そっか」

『……お前は強くなったな』

「千冬ねえもな。まさか一度に9ヶ所同時攻撃されるとは思わなかった」

『それを捌ききったお前もお前だ。……私の後ろに付いて回っていた頃とは別人だ』

「別人ってことないだろ。俺は今でも織斑一夏だよ」

『ふっ。そういう意味ではない』

「けど、そのうち『篠ノ之一夏』にはなるかもしれない」

『ちょっと待て、今その話するんじゃない! いまだにあれが妹になるというのが受け止めきれていないんだ! というか婿養子なのか!?』

「ひょっとすると、千冬ねえが伯母ちゃんになる方が先かも」

『真面目にやめろ‼ ダメだぞ、せめて卒業まで待て‼』

『織斑選手、入場してください』

 

 カタパルトのハッチが開いた。

 一夏はゆっくりと機体を上昇させる。

 

『……最後に一つ言っておく。上手くやれよ』

「全力は尽くすさ。半端したら、ライト博士やのほほんさんに申し訳ない」

 

 一夏は徐々に速度を上げながら、アリーナへ飛び込んだ。

 

 

 

 本邦初公開となる、世界初の男性IS操縦者・織斑一夏の専用機。

 それはISと呼ぶにはかなり特異だった。

 

 なんと言っても装甲が無いのだ。

 軽量化という次元ではない。

 一夏は腰と両足に姿勢制御ユニットを装着しただけで、その他はいつもの武道着だった。

 武器らしいものといえば、右手に持った飾り気の無い赤い棒切れだけだ。

 

 もう一つの特徴が、一夏が乗った飛行ユニットだ。

 実態の無い雲や霞の集合体のようにふわふわしていながら、一夏は地上にいるのと遜色無い安定感で立つことが出来た。

 飛行ユニットは一夏の意識とリンクしており、考えた通り自由自在に操ることが出来た。

 

 機体名、セイテンタイセイ。

 飛行ユニットはキントウン。

 

 一夏たっての希望により、トーマス・ライト研究所が総力を結集して開発した逸品であった。

 

 

 

「ぶっちゃけ、本体はキントウンなんだけどね」

 

 身も蓋もない本音の本音であった。

 

「整備手伝ったりしたから知ってるんだけど、姿勢制御ユニットってほぼオマケなんだ。おりむーが生身でもちょっぴり飛べるから、空中で制止していられるだけ。普通の人だとカッコつけながら墜ちるだけだもん」

「布仏さん、もしかして墜ちましたの?」

「ノーコメント」

 

 

 

 アリーナの中央まで来た一夏は、相手コーナーのピットを見据えた。

 雲に乗って空中を滑るように移動する姿は、さながら仙人である。

 

 対戦相手の岸波も、静かにこちらへ向かってくる。

 

 岸波の機体は、打鉄のメインフレームをそのまま、茶色の装甲とスカート状のスラスターが増設されたカスタム機だ。

 見方によってはブレザーの学生服にも見える。

 

 搭乗者の岸波は、試合開始位置まで来ると、一夏に対して軽く会釈した。

 

 顔立ちは、例えるなら小動物系――リスのような小型のげっ歯目を彷彿とさせる。美形だが愛想がなく、地味な印象の少女だった。

 

「こんなときになんだけど、織斑一夏だ。よろしく、岸波」

 

 一夏が名乗ると、途端に岸波の眼が無表情のままキラリと光った。

 

 下半身を半身に捻り、左腕を胸の前で水平に保つと、左手首に右肘を乗せた。

 右手で顔を覆い隠すように軽く広げる。

 

「我が名は……フランシスコ・ザビエル!」

 

 最後にオープンチャンネルで、戦国時代に来日した宣教師の名を高らかに謳った。

 

 

 

 静まり返ったアリーナ。

 観客中が絶句した中で、セシリアマスクだけが大爆笑していた。

 

「あっはははは! なんですのあれ! なんなんですのあれぇ!? 持ちネタですの!? なんでザビエル!? あはははははっ‼」

 

 腹を抱えて悶えるセシリアマスクは、普段の淑女然とした態度が完全に剥がれていた。

 

「せっしー、人が見てる見てる!」

「足を上げるな! スカート捲れてるぞ!」

「へあ? ああ、これは失敬。お見苦しいところをぶっふぉっ‼」

 

 笑いの第2波が来たセシリアマスク。

 本音と箒は「ダメだ、こりゃ」と肩を竦めた。

 

 

 

 岸波の奇行に呆気にとられていた一夏は、ブザーの音で我に返った。

 気付けば赤いシグナルが点灯している。試合開始は十数秒まで迫っていた。

 

「…………」

 

 岸波は心なしかやりきったような面持ちだ。無表情にもどことなく充足感が見てとれる気がする。

 

(束と同レベルのマイペースだな……)

 

 赤いシグナルが消えた。

 

 岸波は軽く握った左手を一夏へ差し向けた。

 見る限り武装は無さそうだが、油断は出来ない。量子化させている武器を瞬時に展開できるのが、ISが持つ他の兵器にはない強みだ。

 

 しかしこの技術、世間に公表した時には「ホイポイカプセルのパクりじゃん」と酷評され、束はおおいに荒れていた。

 

 一夏は手持ちの棒――セイテンタイセイ唯一の武装であるキンコボウを、手先で器用に高速回転させる。マシンガン程度の弾速ならば苦もなく叩き落とせる防御技だ。

 なお、この技に必要なのはテクニックのみ。ISの機能はまったく関係ない。

 

 緑のシグナルが灯り、試合開始のブザーが鳴った。

 

 先制攻撃を仕掛けたのは一夏だ。

 初速からほぼ音速に達したキントウンで、岸波へ突撃した。

 

 対する岸波は、一夏の動きを読んでいたかのように開幕バックダッシュで間合いを離す。

 

 回転させたキンコボウによる牽制の初撃をかわされたものの、一夏はすぐさま次に来るであろう反撃に備える。

 

 しかし岸波は一夏から離れるばかりで、攻撃してこなかった。

 左手を差し向けたままアリーナの外周まで逃れると、そのまま観客席のシールドに沿って空中をスライド移動している。

 

 ふと、一夏は岸波の左手が微かに紅く発光していることに気付く。

 

 岸波がすでに何か仕掛けていたと察した一夏は、次の瞬間。

 背後から恐ろしい太刀筋の斬撃に襲われた。

 

 咄嗟にキントウンから飛び降りて奇襲をかわした。

 

 前方へ逃れた勢いで天地逆となり、岸波へ背中を向ける形となったが、不意討ちの一発でシールドをゼロにされるよりマシだ。

 

 続けざまに放たれた二撃目の剣をキンコボウで受け止め、一夏はようやく相手の姿を確認した。

 

 真紅のドレスを来た少女を思わせる、華やかなISだ。

 五指を備えたその手には、焼けた鉄の色をした実体剣が握られている。

 

 サイズは一般的なISよりも一回りほど小さい。

 上半身は金色が縁取られた、古代ローマの舞踏着を彷彿とさせるデザイン。下半身は裾が大きく広がったスカート状だ。

 人間と遜色無い機能性の両手と比べ、両足は先端が細く、鋭いトゲのようだ。

 頭部は紅いバイザーが浮かんでいるだけのがらんどう(・・・・・)であった。

 

 

 

「乱入!?」

「違うよ」

 

 本音が上空の闘技者二人を見つめたまま、箒に教授する。

「あれが、はくのんのサーヴァント。本体と独立した自律型戦闘ビットだよ」

 

「自律……戦闘……」

 

 セシリアマスクもコーラのストローをくわえたまま、飲むことも忘れて3体のISを見上げていた。

 

 

 

 赤と金に彩られたIS、サーヴァント。その猛攻は続く。

 次から次に放たれる剣戟を、一夏は空中で逆さまになったまま受け止めた。

 

 間髪入れずに次々繰り出される超音速の剣技。

 

 一夏はその全てを迎え撃つ。

 

 キントウンが無くても、一夏は持ち前の舞空術と姿勢制御ユニットによって空中浮遊が可能だ。

 しかし、それはただ浮かんでいるだけである。

 

 嵐のようなサーヴァントの猛攻を凌ぐうち、一夏は徐々にアリーナの外周近くまで追いやられていた。

 

(これは……まずいか!)

 

 頭で理解しながら、戦況を変えられない。

 

 その時、岸波が左手を自分へ向ける姿が視界の隅を掠めた。

 

「hack(16)」

 

 岸波が呟き、彼女の左手がチカリと光る。

 一夏の体に衝撃が走った。

 

「ちぃっ‼」

 

 痛みを伴うものではなかった(一夏基準)が、電送系統がほんの僅かの間寸断させられた。

 つまり、姿勢制御が崩れる。

 

 サーヴァントがその隙を見逃すはずもなく。

 袈裟懸けに一夏を斬りつけた。

 

 その刹那。

 

 横合いから割り込んだキントウンがサーヴァントを撥ね飛ばす。

 

 一夏はキントウンに足を引っ掻けるように掴まり、逆さ吊りで引きずられるようにサーヴァントから距離を取った。

 

 必殺の一撃を空振りさせた赤いISは、今度は自らが隙をさらす。

 

「かめはめ!」

 

 無論、見逃すつもりはない。

 逆さまの格好で構えを取る。

 

「波ーッ‼」

 

 特大の気功波がサーヴァントを捉えた。

 

 直撃すればISをシールドごと粉砕するエネルギー。

 それを前にして。

 

 サーヴァントの姿が変わった。

 

 真紅の舞踏着のようだったボディは、青と黒を基調とした和服のような形状へ。

 スカートも太股の中間程度の長さとなり、トゲのような両足が完全に露出した。

 後腰部からはアクチュエーターが展開し、動物の尾のようにひと纏めとなる。一見するとモフモフしてそうだが、細い金属の塊だ。

 最後にバイザーの位置と構造が変化し、人間でいえばキツネミミのカチューシャを着けたような格好となった。

 

 変形完了まで0.05秒。

 一夏や一部の人間以外には、瞬時に変身したように見えたことだろう。

 

 姿を変えたサーヴァントは、迫るかめはめ波へ両手をかざしていた。

 

 実体剣は量子化され、代わりに太陽を象った円盤が、掌の前で滞空している。

 

 円盤が、かめはめ波を受け止め、軌道を逸らす。

 流れ弾がアリーナのシールドを貫き、天井の一部が消滅した。

 

 

 

 

「……とんでもないですね、二人とも」

 

 教員用の観戦席で、山田教諭が息を呑む。

 

 かつては日本代表候補生に選ばれた山田教諭だが、あの二人とまともに戦える気がしない。

 

 アリーナでは、かめはめ波を防ぎきったサーヴァントが岸波を守る位置につき、一定の距離を保って一夏と睨み合っていた。

 

 互いの残りシールドエネルギーは、一夏が9割以上、岸波が7割といったところだ。円盤での防御したさいにごっそり削れたところを見ると、攻撃を無効化できるものではないらしい。

 

 山田教諭の隣では、千冬もポーカーフェイスを装いながら試合に見いっていた。

 

 千冬が見る限り、ダメージに反して戦況は岸波がやや優勢であった。

 

 セイテンタイセイの性能は一夏に依存しており、武装などついていない。キンコボウにしても本来の役割は、敵の攻撃を防ぐ楯代りである。

 つまり、今見えているのがセイテンタイセイの全てだ。

 

 対して岸波も、本体がほぼ非武装という点では一夏と大差ない。

 だが彼女はまだ、複数形態持つサーヴァントのうち、2つの姿しか披露していない。

 持っている手札の数が違うのだ。

 

「この試合、お前が勝つには地力で凌ぐしかないぞ」

 

 岸波のサーヴァントが動いた。




 長くなったので一旦割ります。
 一夏のISは初期の悟空のイメージにしたくてこうなりました。のほほんさんがいう通り、本体はキントウンです。白式ぇ……。

 あと岸波さん、こっちの予定よりも強キャラに仕上がってしまいました。
 え、簪? いや、彼女は技術力にブースト掛かってるじゃないっすか。やだなー、もう。


今回のネタ

セイテンタイセイ
 ドラゴンボールの原点『西遊記』より、孫悟空の渾名。


フランシスコ・ザビエル
 ゲーム『Fate/EXTRA』で主人公が放った迷言。
 元のセリフでは「ザビ……」で正気に戻っており、最後まで発言していない。


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岸波のISについて
 セブンスフィール。
 本体には電子戦用装備と護身用のナイフ一本しか搭載されておらず、戦闘力は皆無。その代わり随伴する無人IS型戦闘支援ビット『サーヴァント』が戦闘を行う。
 サーヴァントは近接、遠距離、防御、広域殲滅用の四形態に変形することができ、状況を選ばずに戦える。ある程度の自律思考能力も持つが、岸波の卓越した指揮能力によってカタログスペック以上の能力を発揮する。
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