ほのぼのバトスピ伝   作:ヴァーチャル

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第4話 正面突破

少年はオトナになる。馬神トッパも、その例外ではない。彼はバトルスピリッツのチャンピオンになったことがある。高校生の頃だ。数々のライバルを倒し、勝利の栄光を手に入れた。彼は勝利に酔い、はしゃぎ回った。仲間たちからの称賛の言葉を、自らの成長の証として噛み締めていた。

 

しかし喜びは長く続かなかった。彼はいわゆる燃えつき症候群になった。バトスピをはじめてからずっと目指していた目標が、突然目の前から消えた喪失感。それは達成感と混ざりあい、今のバシンの中に虚しさとして残った。やがて大会に出なくなり、バトスピをすることも減った。

 

バシンはカードショップ『トアルカード』の店長になった。店ではバトスピをはじめとしたカードゲームを扱っており、バトスピと接することがまた増えた。それからは彼のバトスピに対する姿勢は変わった。自分が戦魂(バトル)することよりも、バトスピの楽しさを子供たちに伝えることに力を注いだ。結果としてかたちは変わったが、バトスピへの情熱は取り戻した。

 

しかし彼は分からなかった。自分は仕事の一環としてバトスピをしているのか。それとも……。

 

 

 

「よしっ、今日の仕事終わりっ!!」

 

斬は店内の掃除を終え、意気揚々とデッキを取り出す。そしてカードをテーブルに並べ、顎に手をあてる。

レジのお金の整理を終えたバシンも、テーブルの横の椅子に腰かける。

 

「なるほど、デッキ調整か」

「はいっ!!俺も強くなって、いつか大会とかで勝ちたいんですよね~。うへへへ~」

「気持ち悪ぃ笑い方すンなよ斬。でもまぁ、楽しそうでなによりだ」

「バシンさんは大会とか出ないんですか?」

「俺店員だし、お前らの戦魂を見てなきゃだからな~。ここの大会には出ねぇよ」

「じゃあ、大会に出ることになったら教えてくださいよ。俺も出ますから」

「あぁ、分かった。じゃ、そろそろ帰ろうぜ?」

 

バシンと斬は店から出て、しばらく歩いてから別れた。今は午後7時。外は真っ暗。バシンにとってのいつも風景が、彼の目の中で流れる。そして異変に気づいた。

 

「……なんで家に着かねぇンだ?」

 

足を止め、辺りを見渡す。空の色は黒。しかしよく見ると赤混じりの黒。

バシンは拳を振りかざし、走り出す。彼の視線の先には灰色のコンクリートの壁。

 

「ツウッ、ダァァァァッ!!!」

 

走った勢いそのまま、壁を全力で殴る。拳に痛みはなく、その変わりに手応えがあった。その事実がバシンに確信を与えたのだ。この空間は、今殴った()の持つなんらかの力によって作られた擬似空間であること、その()が自分に対して抱いているものが敵意であることを、バシンは即座に理解した。

 

「グワァァッ!?痛いィィッ!!酷いじゃないかァァァッ!!おじさん泣いちゃうよぉォォォッ!!?」

 

全身黒タイツの男が、叫びながらバシンの前に現れる。バシンが殴った壁の中から出てきたのだ。この登場と変態的な姿から、この男が普通でないことは明確であり、バシンは状況に相応しい警戒を持って、男をにらみつけていた。

 

「お前、なんなンだ?」

「私は終焉の王『全』の僕であり、君を抹消する者だ」

「意味分かンねぇな」

 

言葉のとおり、意味が分からなかった。しかし男から発せられている殺気が、男の言葉が真実だと告げていた。バシンは足に巻き付けているデッキケースから、自らのデッキを取り出す。

 

「ンッフッフ。ものわかりが良くて助かる。君は以前、輝石を所持していたのだろう?」

「あぁ」

 

一連の出来事に対してのバシンの理解の早さには理由があった。輝石(きせき)という、不思議な力を持つ石がある。彼は子供のとき、ひょんなことから輝石を手に入れた。それから彼は、数々の不思議な出来事に遭遇することになった。その経験が彼に素早い理解をもたらしたのだ。

 

「輝石の力が何なのかは知らないが、不確定要素は消しておかなければならない。

では、ゲートオープン界放」

 

男の手の指にはめられた指輪が、まばゆい輝きを放つ。次の瞬間、バシンと男は荒野に立っていた。空は昼のように明るく、地面は先程までのコンクリートとはうって変わり渇いた茶色い土。頬を叩く熱い風。広がる殺風景。

 

「ここは?」

「イセカイ界さ。そして君の墓場でもある。さぁ、行っくよォォッ!?」

「チィッ!!!」

 

バシンと男は同時にカードを引く。今、二人の戦魂が幕を開く。

先攻はバシン。

 

「俺のターン、『ゴラドン』と『ロクケラトプス』を召喚ッ!!!ターンエンドだ」

 

 

バシン 状況

 

[手札]3[ライフ]5[リザーブ]0

[場]《回復》

ゴラドンLV2(3)

ロクケラトプスLV1(1)

 

「私のターン。マジック、『エクストラドロー』を使用。デッキから2枚引き、デッキの一番上のカードを公開する。それが赤のスピリットなら手札に加える」

 

男はデッキの一番上のカードをバシンに見せる。それは白のマジックカード『ブリザードウォール』なので、手札に加えずデッキの一番上に置く。男はターンエンドする。

 

男 状況

 

[手札]6[ライフ]5[リザーブ]0

[場]なし

 

「俺のターン、『タウロスナイト』を召喚。そして、ゴラドンとロクケラトプスでアタックッ!!!」

 

2体の恐竜が突進し、男を大きな角で突く。男の前に現れたバリアによって攻撃は男自身には届かないが、バシンは自分の攻撃に、異様な破壊力を感じていた。

 

「……ターンエンドだ」

 

バシン 状況

 

[手札]3[ライフ]5[リザーブ]0

[場]《回復》

タウロスナイトLV1(1)

《疲労》

ゴラドンLV1(1)

ロクケラトプスLV1(1)

 

「私のターン、『イグアバギー』2体と、『翼刃竜スティラノドン』を召喚。そして、スティラノドンのアタック」

「ライフで受けるッ!!!」

 

鋭利な形の翼をはためかせ、灰色の巨大な竜が空を舞う。回転をはじめたその巨体はドリルのような見た目になり、バシンへ突進する。

 

「この、迫力は──ッ!!?」

 

衝突。ギリギリで発生したバリアによって直撃は防げたが、バシンは吹っ飛ばされ、しりもちをつく。過剰な臨場感。男だけではなく、男のスピリットたちからも発せられている生きた殺気。バシンは、この戦魂がただの戦魂ではないと確信した。

 

「ンッフッフ。どうやら理解したようだねぇ。そう、私のこの指輪の力によって、スピリットを実体化に近い状態で召喚できるッ!!」

「なん……だとッ!!?」

「スピリットは便利なアイテムやプラグラムだと思っていたかい?違うねぇ。奴らは正真正銘の生命体だ

……くくっ、怖じ気づいたかぁ!?」

「……誰が?お前をブッ倒すことに、変わりはねぇッ!!」

「ターンエンドだ」

 

男 状況

 

[手札]4[ライフ]3[リザーブ]0

[場]《回復》

イグアバギーLV1×2(1)

《疲労》

翼刃竜スティラノドンLV1(1)

 

「俺のターン!たたみかけるッ!!!猛ろォッ!!!「龍皇ジークフリード」召喚ンンァッ!!!」

 

空から大地に落ちる雷。電気と土の摩擦で生まれた衝撃が、バシンと男の体を震わせる。そして裂けた雲の間から、赤いうろこに覆われた龍が舞い降りる。

 

「行けぇッ、ジークフリードォォォッ!!!」

「ライフだ」

 

炎の吐息が男を包み、ライフを削る。男のライフは残り2となる。バシンはターンを終了する。

 

バシン 状況

 

[手札]3[ライフ]4[リザーブ]0

[場]《回復》

ゴラドンLV1(1)

ロクケラトプスLV1(1)

《疲労》

タウロスナイトLV1(1)

龍皇ジークフリードLV1(1)

 

「私の、ターンッ!!スティラノドンよ[転召」の糧となれ。地を叩く黒き怒号、封印されし禁断の力ァァッ!!今、汚れた世界へ!!『魔龍帝ジークフリード』召喚ッ!!」

 

スティラノドンのコアは全てボイドに置かれ、スティラノドンは消滅する。そして翼刃竜の消えた跡から、黒い炎が舞い踊る。炸裂した炎の中から這い出る影。次の瞬間、空で2体のジークフリードが対峙する。

 

「それは──ッ!!?」

「くくっ。私はこれでターンエンドだ」

「アタックしないだとっ!!?」

 

男 状況

 

[手札]4[ライフ]2[リザーブ]0

[場]《回復》

イグアバギーLV1×2(1)

魔龍帝ジークフリードLV1(1)

 

「……俺のターンッ!俺は『ダブルドロー』を使用。2枚ドローする。さらに結界(ネクサス)『燃えさかる戦場』を2枚配置。ジークフリードをLV2にし、バーストセット。ターンエンドだ」

 

バシン 状況

 

[手札]3[ライフ]4[リザーブ]0

[場]《回復》

龍皇ジークフリードLV2(2)

タウロスナイトLV1(1)

ゴラドンLV1(1)

ロクケラトプスLV1(1)

結界(ネクサス)

燃え盛る戦場LV1×2(0)

 

「……ふん、それで警戒しているつもりか?私のターン、マジック『ドリームリボン』を使用。ジークフリードよ、手札に還れ!!』

 

男の手から急に白いリボンが現れ、ジークフリードを包み込む。ジークフリードは苦しそうに喘ぐ。やがて、その巨体は消えた。

 

「魔龍帝をLV3にし、アタックステップ!!

魔龍帝の攻撃!!そして、フラッシュタイミング!!マジック『ホワイトポーション』を使用。魔龍帝は回復する」

「──ッ!!?」

「そしてぇ……『フレイムテンペスト』だ」

 

巻き起こる赤い竜巻。魔龍帝以外の全てのスピリットを飲み込んでいく。魔龍帝はダブルシンボル。よって、このアタックでバシンが受けるダメージは2。

 

「だが、これで私に残ったコアは魔龍帝に乗っている5つだけ。そこでこれを使う。マジック『ネイチャーフォース』により、トラッシュのコアを全て魔龍帝へ」

 

魔龍帝の体が緑の光を纏い、力がみなぎる。その腕が地面を削り取り、バシンに迫る。

 

「魔龍帝は回復している。よってこの攻撃の後も、もう一度攻撃できる。これで、君は終わりだッ!!」

「……あぁ、終わりだ。だがオッサン、お前の終わりだ」

「なにッ!?」

 

バシンの胸からコアが弾け、彼の頭上で白い輝きを放つ。バシンはそれを掴みとり、その手から、白い透明な壁が現れる。

 

「マジック『サイレントウォール』ッ!!!お前のアタックステップは、ここで終わりだッ!!!」

 

バシンのライフは砕ける。しかしサイレントウォールの効果によって、男の次の攻撃はない。男は歯軋りし、バシンをにらむ。

 

「貴様……ッ!!だ、だが、私の魔龍帝のBPは12000!!貴様のジークフリードなど、足元にも及ばん!!私はこれでターンエンド」

 

男 状況

 

[手札]1

[ライフ]2

[リザーブ]0

[場]

《回復》

魔龍帝ジークフリード

 

「俺のターン」

 

バシンはデッキに手をかける。目を閉じて、心を研ぎ澄ます。何かが起こることを、魂が理解(わか)っていた。

 

─究極を求めよ─

 

究極。それが何なのか、バシンは知らない。ただ、自らの胸の高揚を感じていた。今、彼の力の全てが、彼の魂の炎が、その手に宿る。

 

「ドローッ!!!……俺はジークフリードを再び召喚。そして……」

 

ドローカードを天にかざす。カードは炎になり、弾けて消えた。バシンは炎を握り潰し、その拳で大地を殴る。

──来いッ!!!

大地は裂け、空から雷が降り注ぐ。裂け目の上を炎の輪が舞い躍る。喜びの笑みを浮かべるバシンの頭に、再び声が響く。

 

─呼べ、我が名を。我が名は─

 

理解(わか)る、理解(わか)るぜ……魂で理解(わか)るッ!!!

お前の名はッ!!!」

 

炎がバシンの元に集う。バシンの叫びと共に、全ての闇が消え去る。今、彼の前に究極(アルティメット)が現れる。

 

「受け継がれし灼熱の魂!!!その熱い雄叫びでッ、閉ざされた(ゲート)を正面突破でブチ開けェェェッ!!!

『アルティメット・ジークフリード』LV4で召喚ッ!!!」

 

ちぎれた大地の隙間から、天へと差し込む炎の道しるべ。炎は形を変え、地の底から、炎を翼に持った赤い龍が舞い上がる。体にふちどられた金色のうろこ。他のジークフリードを凌ぐ神々しさ。その全てに、バシンは心を震わせる。

 

「……そうだ、そうだよ」

 

バシンの目が輝く。この興奮が、この喜びこそが、バシンの全ての迷いの答え。この喜びがある限り、彼は戦魂者(カードバトラー)として死んでいない。生きている喜びを胸に、今、バシンの指が男を指す。

 

「さぁ、行くぜ!!!アルティメット・ジークフリードのアタック。そして、究極の力呼び覚ます運命の結び目(アルティメットトリガー)……目標殲滅準備完了(ロックオン)!!!」

 

男のデッキの一番上のカードが弾けとび、男の目の前に浮かび上がる。男は明らかに狼狽した様子で、声を震わせる。

 

「こ、ここ、これは──ッ!?」

宣言(コール)しろ。コストはいくつだ?」

「ご、ゴラドン。コストは0……」

殲滅完了(ヒット)!!!」

 

男の手に握られたカードは弾けとび、トラッシュへ送られ、男のライフが砕ける。

 

「な、なんなンだァァッ!?」

「これが究極の力呼び覚ます運命の結び目(アルティメットトリガー)。お前のデッキの一番上のカードを確認し、それが究極(アルティメット)のコストより小さいコストだった場合、殲滅完了(ヒット)するッ!!!」

 

男は自らの手札を見て、舌打ちする。男の最後の切り札はマジック『ブリザードウォール』。発動ターン、相手のブロックされなかったスピリットのアタックでは自分のライフは1つまでしか減らされない、という効果を持つカード。しかし究極(アルティメット)の効果は防げない。

 

「さらに、究極の力呼び覚ます運命の結び目(アルティメットトリガー)殲滅完了(ヒット)したので、お前のスピリットは強制的に究極をブロックするッ!!!」

 

魔龍帝の体が赤い炎に包まれ、究極の元に吸い寄せられていく。究極が火を吹き、魔龍帝とぶつかり合う。鋭く突き出された魔龍帝の黒い腕が、炎の輪に突き刺さる。

──負けるな……ッ!!!

究極を纏う炎は金色の輝きを放ち、魔龍帝を弾き飛ばす。空中に投げ出された巨体に、今隙が生じた。

 

「薙ぎ払えェェェッ!!!」

 

撃たれる金色の吐息(ブレス)。魔龍帝は地に叩きつけられ、爆発と共に消える。

 

「ば、バカなァァッ!?」

「行け……ジークフリードォォォッ!!!」

「こいつはヤバいッ!!危険すぎ……」

 

炎の弾丸が、男のライフを吹き飛ばす。

 

「ギィヤァァァァッ!!」

 

 

 

戦魂(バトル)が終わった途端、バシンと男は白いカードの波に飲まれ、路地のど真ん中に投げ出された。

 

「……いつもの風景……」

 

帰ってきた。しかしバシンの心に喜びは素直に響かない。狼狽した様子で壁にもたれて荒い息を吐いていた男の体が薄くなっていく。

 

「はぁ、はぁ、はぁッ!!まさか、こんなことに……ッ!!覚悟したまえっ、オトナはしつこいぞ!!」

 

男は消えた。バシンは究極(アルティメット)を握る手に力を入れる。

 

─バシン─

 

空耳だろうか。バシンの耳に、さっきの声とは違う声が響く。辺りを見渡すと、足元に白いネズミがいた。

 

「まさか、いや、そんなことは……」

 

軽く笑う。しかし自嘲ぎみな笑みはすぐに消え、喜びの笑みに姿を変える。足元のネズミはただのネズミではない。自分にとってかけがえのないものであることに気づいた。いや、思い出した(・・・・・)のだ。

 

「……アイボウ?」

「へへっ、久しぶりだなバシン」

 

喋っている。ネズミが自分を見上げて、はっきりと喋っている。頭をかきむしり、また笑う。笑顔のまま、ネズミ、いやアイボウに手を差し出す。

 

「アイボウ……アイボウ!!!ははっ、アイボウ~!!!」

 

手に乗ってきたアイボウに頬を擦り付け、アイボウの表情を容赦なく不快に染める。もちろんバシンに自覚はない。

 

「ば、バシン、気持ち悪……」

「ははっ、なんだかよく分かんねぇけど、アイボウ、アイボウじゃねぇかぁ~ッ!!!」

「バシン、説明したいことが……」

「家で聞くよ!それよりアイボウ、家まで競争しようぜッ!!!おりゃ、抜け駆けスタートォ!!!」

「あ、ずるッ!!ていうか、ホントに今大変なことに……」

 

バシンは走る。脳のキャパ越えるほどの出来事がいっぺんに、あまりにも多く起きっても、迷うことなく突き進む。最高の輝きを取り戻した少年が、夜の闇を突き抜ける。

 

「どんな相手にも、どんな戦いにも、正面突破!!!馬神トッパだァァ───ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

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