半年後。
アルティメット、ソウルコア、煌臨など、様々な新要素がバトスピに導入され、バトスピ界は混沌を極めていた。
「新要素に慣れてない今こそ、馬神トッパを倒すとき!」
「しかしヤツは強い」
「うむー。何度襲撃しても失敗しているからなぁ」
トロピカルドレッシング団アジトでは、新ナゾオゾナたちが会議をしていた。
「やはり、強いバトラーが必要だなぁ」
「あ、そういえば、半年間山にこもって修行しているナゾオトナがいるという噂を聞いたことが」
「な、なんだと!?」
「それはすごい! その人は今どこに?」
「ここだ!」
みんなが目を向けたその先には、なかなかの体臭を放つ男がいた。その場にいた誰もが感じざるを得なかった──頼むから風呂に入ってくれ──、と。しかし匂いを抜きにして語れば、その男は強者のオーラを放った、頼もしい男なのではあったのだ。
「いやー、バトスピって難しいなー」
斬はバトスピの奥深さとか戦略性的なあれにつまづいていた。デッキの方向性に悩んでいたのである。
「斬さんのデッキコンセプトは前聞いたけど、なんというか……」
「なんだとー!? へっ、見てろよ、来週の大会までにはデッキ仕上げて」
「たのもー!!」
斬が由希や鴉からデッキ構成の指南を受けていたところに、全身タイツの男、ナゾオトナがやってきた。
「いらっしゃいませー!」
「そういう正しい挨拶は要らぬ。私はナゾオトナだ」
「ナゾオトナ?なんでしたっけそれ?」
「馬神トッパはどこだ! 私がバトスピで叩き潰す!!」
ここで斬は思い出した。以前バシンから、怪しいバトラーに気をつけろ、と言われていたこと、そしてもうひとつ。
「そんなやつに会ったら、思いっきりブッ飛ばせってなァッ!!」
「っ!?」
「バシン店長は留守だ。今はバイトのこの俺、聖天斬が、この店を預かっている!」
「ヤツの代理というわけか」
「そうだ。話があるならまず俺を倒してからだ!」
「いいだろう。半年の修行で編み出した新戦法、とくと見るがいい! ホアタァー!!」
由希は思った。ここまでの展開の早さとかこのご時世でホアタァーとかキャラ付け雑すぎないかとか、いろいろである。しかしそんな彼女の胸中をよそに、闘いの火ぶたは切って落とされる。
「「ゲートオープン界放!!」」
ふたりがバトルフィールドに降り立ち、その間に火花がバチバチとなる。先攻は斬。
「ドロー、メインステップ! 煌炎の神剣を配置。そしてバーストをセットし、1枚ドロー。ターン終了」
「煌炎の神剣の効果で、斬さんはバーストをセットする度にカードを1枚引ける。効果はターンに一回しか使えないけど、バトルが長引けば手札を大きく増やせるね」
「ならば、速攻で片付けるまでだ! コア、ドロー、メインステップ。緑鳥童子を召喚、さらに転召の祭壇を配置。そしてマントラドローを使用。カードを3枚引き、2枚捨てる」
2枚捨てると言っておきながら、男はカードを1枚しか捨てない。
「おい、あと1枚捨てろよ」
「ククク、これがぁっ、目に入らぬかぁーっ!!!」
「な、なにぃ!?」
緑鳥童子の胸元で輝く、燦然たる輝き。真紅の輝きを放つそれは。
「……ソウルコアか……!」
「左様。山での修行は辛く厳しいものだった……。しかし拙者が命の危機を感じたその時、ソウルコアのあたたかい永遠の輝き、その力の凄まじさを感じ、修行を乗り越えることができたのだ」
「なるほど……ソウルコアは普通のコアと違ってボイドにも送られないからな……」
「それだけではない。ソウルコアを参照することで発動したり強化される効果も多数あるのだ。このマントラドローもそのひとつ。このカードは童子の名を持つスピリットの上にソウルコアが置かれていれば、捨てる手札の枚数がマイナス1される」
「くっ、ソウルコアを使いこなしているだと……!!」
「これが修行の成果でござる。さらにもう1度マントラドローを使用」
「手札が整っていく……!」
「ターンエンドでござる」
斬は戦慄する。目の前の男の気迫の凄まじさが、今になって全身を締め付ける。
「クソっ、負けるか! 俺のスタートコアドロー、そしてメインステップ! バーストをセットし、神剣の効果でドロー。ゴウジンをレベル2で召喚しターン終了」
「何かと思えばそれだけでござるか。緑鳥童子を活かしたマジックコンボをまた決めてやる!」
「それは無理だな。ゴウジンの効果、『一騎打』、発揮ッ!!」
ゴウジンと緑鳥童子が向かい合う。風が吹きすさび、いつしかふたり以外の全てが世界から消え去り、一対一の真剣勝負の火ぶたが切って落とされる。そして刹那、決着の一刀が緑鳥童子を切り裂いた。
──ゴァッ──
緑鳥が破壊され、爆風がナゾオトナを襲う。ゴウジンのBPは5000、緑鳥は1000なのでこの結果は妥当ではあったが、そもそもこの2体のバトルがなぜ発生したのかがナゾオトナにはナゾであった。ナゾオトナだけに。
「ぬぅぅ! な、なんだその効果は!?」
「相手のスタートステップに相手に自身のスピリットを1体選ばせ、それとバトルする。それが一騎打だ。そしてゴウジンがいれば、一騎打する相手スピリットを、俺が選ぶことができる」
「なるほど。毎ターン発動するとは厄介な効果だ」
「さらに、ゴウジンが相手スピリットだけを一騎打で破壊した時、カードを2枚ドローできる」
「……つくづく厄介でござるなぁ」
由希と鴉も実感を込めてゴウジンを評する。
「低いBPのカードを出せばゴウジンの餌食になるだけ。これであの人の動きはかなり牽制される」
「あのカードは……厄介だね。あれを超えるカードを出しても、ブレイヴとかでBPが上がることもある。異魔神ブレイヴなんかはコスト4以上が合体条件のが多いから、ゴウジンにはピッタリだし」
「ま、斬さんが異魔神ブレイヴ使ってるのは見たことないけど」
「裁定とか分かってなさそうだしね」
カードを褒められたり自身のオツムをディスられたりしていることに気づかないまま、斬はナゾオトナに威勢良く切り込む。
「どーよ! これで俺が一気に有利になったぜ!」
「……ネクサス、『芙蓉の五重塔』をレベル1で配置。そしてストロングドローを使用。3枚引き、2枚捨てる」
「だったら、ここでバースト発動、『巨神獣ファーゾルト』! このスピリットをノーコストで召喚する。そしてこのカードが場にいれば、俺はコアステップを2回続けて行う」
「……転召の祭壇をもう1枚配置し、ターンエンド」
バトルの流れは斬に向きつつあるが、斬は油断してはいない。この程度の流れなど簡単に覆る、強者は無理やりにでも覆してくる、それがバトスピというゲームだと、この半年間で身をもって理解してきたからだ。だからこそ。
「俺の、最大最強の力を見せる! 行くぜ、召喚ッ!!」
バトルフィールドを駆ける、真紅の情熱、炎をまといし翼。ナゾオトナの周りを包む大海の青を焼き尽くす、灼熱の嵐が巻き起こる。
「こ、これはっ!?」
「原初にして最強の力が、立ちはだかる全てを!正面突破でぶち破るッ!! さぁ来い!!」
嵐が晴れ、そこには。
「龍皇ジークフリードッ!!!」
雄々しきドラゴンが、戦場を睨み、敵を認め、荒々しく咆哮していた。
「……馬神トッパのキースピリット……貴様がなぜそのカードを!?」
「普通にパックで当てた」
「しかもあのカードはリバイバルバージョン。前のジークフリードと同じカードとして扱いながらも、効果は強化されている」
「その通り。その一つがこれだッ!」
龍皇の胸で赤い宝石が光を放つ。
「ソウルコアの力か!」
「その通り。このジークフリードはソウルコアが置かれていれば、最高レベルとして扱われる」
「そしてジークフリードはレベル3で破壊された時、自分のライフが5以下ならボイドからコア2個をライフに置いて場に回復状態で残る。つまり無敵!」
「なんというカードだ……!」
これで戦況は大きく斬に傾いたと言えた。
「……アタックはせずターン終了だ」
「えっ?」
「……ほう」
今は攻めるには好機だったはず。しかし斬の動物的勘は、攻めるべきではないと告げていた。
「良い勘をしている、と言っておくか」
「へっ。お前の番だぜ」
ナゾオトナのターン。その手から、白い閃光がはしる。
「行くぞ、ここで、異魔神ブレイヴを召喚するっ!」
「異魔神ブレイブだと!?」
「来い、『霊銀魔神』!!」
白銀の精霊が現れた。
「異魔神ブレイヴ、聞いたことがある」
「知っているのか鴉!?」
「うん。その昔、職人が1枚1枚磨き上げ、丹誠込めて生み出されたという伝説のカード。1枚のブレイヴでありながら2体のスピリットと合体でき、右合体と左合体で異なる効果を持っているという噂だよ」
「な、なんてすげぇカードなんだ!」
「でも、拙者はもうターンエンドだけどね。コア無いし」
「マジで!? なら、ここで一気に勝ちに行く! ネクサス、英雄皇の神剣を配置。このカードは煌炎の神剣と同じ効果を持っている。そしてバーストをセット! 2種の神剣の効果により、2枚ドロー!」
「神剣が2種揃ったことによって、斬さんはバーストを伏せる度に2ドローできる。これは強い」
「んでもって、もういっちょ行くぜぇっ!!」
炎がまた燃え上がり、そして現れる、古の世界より生まれしドラゴン。
「渦を巻け、地獄の炎! 永久不滅の魂よ、今こそ勝利をつかみとれ! 『焔竜魔皇マ・グー』、召喚!!」
「出た、斬さんのデッキの要!」
「今こそ勝機! アタックステップ、マグーの効果でトラッシュのコアを全てマグーへ置き、レベル3にアップ! そして、マグーのアタック!!」
マグーの突進。その足が進むたび、その全身に、更なる赤い力が宿る。
「マグー、レベル2、3の効果。系統『古竜』を持つ自分のスピリットのシンボルを1つ増やす!」
「なに!?」
「古竜なのはマグーとジークフリードの2体。この2体がダブルシンボルになり、さらにアタッカーとしてゴウジン、ファーゾルトがいる。このフルアタックが通れば!」
「斬さんの勝ち……だけど」
「では、フラッシュタイミング。五重塔の効果で、手札の青カードを破棄して2枚引き、そして1枚捨てる。拙者はグリズラッシュを捨てるが、グリズラッシュは自身の効果により、捨てられる代わりに場に召喚される」
「だが、BPは7000だ。マグーは13000だから、まだ勝てる!
「左様。ゆえに、マグーのアタックはライフで受ける」
魔皇のダブルシンボルの一撃をまともに受けるナゾオトナ。その足下にあるバーストは、開かない。
──ライフ減少時バーストじゃない?──
ナゾオトナのバーストを、ライフ減少時に発動する攻撃防止系のバーストだと読んでいた由希は、読みが外れたかと感じた。しかし。
「続けて、ファーゾルトのアタック! こいつはBP8000、グリズより上だ!」
「そのアタックはライフで受けよう。だが!」
ゴウジンの一撃がライフを砕いた瞬間、バーストカードが弾け飛ぶ。
「バースト発動! 『絶甲氷盾』!!」
最強の盾が、男の前で張り巡らされ、斬の追撃を阻む。絶甲氷盾はライフ減少をトリガーに発動するバーストであり、そのバースト効果は、ボイドからコア1個を自分のライフに置けるというもの。そしてバースト効果発揮後コストを払うことで発動するフラッシュ効果は、今行っているバトルが終わった時、アタックステップを終わらせるというもの。この2つの効果によって、斬の攻撃を難なく退けたのである。
「くぅ〜! やっぱ絶甲氷盾つえーぜ」
「左様。拙者が海賊に襲われた時、このカードにはいつも助けられた。まさに最高の盾よな」
「へっ。俺はこれでターン終了。さて、そろそろそっちの手のうちも見せてもらおーか」
「何の話だ?」
「とぼけんなよ。今のターン、マグーの攻撃の時に絶甲を使ってれば、ファーゾルトの攻撃は受けずに済んだ。なのにファーゾルトの攻撃をあえて受けたってことは、コアを増やしてやりたいことがあるってことだろ」
ライフを削られれば、そのライフのコアはリザーブに送られる。そしてそのコアは、次に使うカードの力になる。ライフを守るばかりが戦術ではなく、時にはライフをあえて削らせる勇気も必要。それこそがバトスピの醍醐味である。
「海での修行はスリルと危険の連続であった。そしてそんなピンチの時には、常にチャンスも見え隠れしていた。バトスピと同じだ。針のあれをあれするような、チャンスを掴む! 拙者のスタートコアドロー、そしてメインステップ!」
それまでは静かだった海が、荒ぶる波を立てる。何かの到来を祝うかのような光景であった。そしてその何かが、天の頂から産声を上げる。
「深海より天に投げられし光に導かれ、最強の超越者がここに君臨する! 『蓮華王センジュ』よ、レベル2で、蒼き無限の力を解き放て!!」
天より光り差し、荒波が砕ける。大きく開けた視界の先に現れたのは、その名の通りの蓮華を身につけた、数多の腕持つ、青の最強クラスのスピリットであった。
「こ、これがあのタイツの狙い……!」
「すごい!」
「……くっ!」
「霊銀をセンジュに右合体。さらに、バーストセット! そしてこれで仕上げだ、アビスアポカリプス召喚! グリズラッシュに、
アビスの召喚時効果でこのターン、ナゾオトナの場のスピリット全てのレベルは最高レベルになる。これで、センジュのフルパワーの攻撃が斬を襲うことが確定した。斬は地獄の大地の到来を実感しながらも、あがく。
「アビスの召喚時効果発揮により、バースト発動、双翼乱舞! カードを2枚ドローだ」
「だからどうした。行くでござる、アタックステップ!! センジュでアタック。そしてセンジュ上のソウルコアをトラッシュに送り、『起導』!!」
「起導!?」
「自分の場にセットされた特定のバーストカードを、発動条件を無視して発動させる効果だ。これにより発動、『
起導はソウルバーストと書かれたバーストカードを発動させる効果。バーストなら何でも良いというものではなく、加えて、自分ターンのアタックステップでバーストを使ってしまうことにより、次の相手ターンでの防御が脆くなってしまう点など、いくつかの弱点もある。それを承知でこの起導を使うということは。
「あのナゾオトナは、このターンの攻撃に全てを懸けている……?」
「鉄拳明王の効果により、トラッシュのオステアと旅団の摩天楼2枚を配置。さらに鉄拳を召喚。摩天楼の配置時効果はカードを1枚引くこと、2枚出たので2ドロー。そしてセンジュの効果。このカードが起導した時、コスト合計10まで相手スピリットアルティメットを破壊する。コスト8のファーゾルトを破壊!」
「くっ! ここでファーゾルトを狙ってきた理由は……」
「そいつがお主の場で唯一の白属性カードだったからだ。アビスの合体時効果。相手は自身の場にある色のシンボル以外の色のマジック、バーストを使えない!」
「これで、斬さんの赤以外のカウンターが封じられた!」
「さらに霊銀魔神の右合体時効果! この攻撃は、合体スピリット以外ではブロックできない! そしてセンジュは、自分のネクサスの数だけ、自身に青のシンボルを追加する!!」
センジュの元に青い光が集い、その力を増幅させる。ナゾオトナの場のネクサスは祭壇2枚、五重塔、摩天楼2枚、アステアで、合計6枚。
「霊銀と合体したことにシンボルは2つになり、効果で6個追加される。よって、センジュのシンボルは8!」
「まさに一撃必殺! しかもブロックもできない!」
「斬さんのマジックも赤以外封じられている。赤のマジックじゃ、この攻撃は止められない!」
センジュの拳が、斬に迫る。
「ネクサスの力で敵を止め、自らの攻撃力を増大させる。これが青の戦術だ! この流れは、もう止めることはできない!」
「たしかに、止めることはできない」
「ならば、これでトドメだ!!」
勝負あった、誰もがそう思ったその瞬間、ナゾオトナはセンジュの体をまとう力の減退に気付く。
「センジュのシンボルが……減っていく!?なぜだ!?」
「たしかに青の戦術はすげぇ。だが赤の戦術だって負けちゃいない。全ての破壊、それが赤の力! 俺はマジック、『エグゼフレイム』を使用するッ!!」
斬の背後から雄々しい馬が現れ、角から炎の嵐を起こす。
「このマジックの効果により、相手のスピリットをBP合計15000まで、好きなだけ破壊できる!」
「眠たいのか!? センジュのBPは21000、グリズラッシュは20000! 拙者のスピリットは一体たりとも破壊できんでござる!」
「エグゼフレイムのさらなる効果! 相手のネクサスカードを、全て破壊する!!」
「なに!?」
センジュを護っていた結界が、ひび割れ、やがて、爆発する。センジュのシンボルは2つになる。
「……この手があったか……!」
「アタックはライフで受けるぜ!」
センジュの攻撃が斬のライフを2削る。ライフは減ったが、被害は極力抑えた格好だ。
「ぬぅ。ターンエンドでござる」
ネクサスを活かすのが青の基本戦術。そのネクサスがまとめて破壊されてしまったダメージは大きい。
「俺のターン、バーストをセットし、2枚の神剣の効果でドロー。そして!」
その隙をつかんと、斬は勢いよくカードを引き、その手に熱い炎がまた燃え上がる。それはこれまでのような赤色ではなく、金色の光を放っていた。
「光と闇を導く龍よ! 新たな剣携え、究極を御する覇者となれ!!『究極輝神アルティメット・オーバーレイ』、天駆ける聖天より、レベル4で降臨ッッ!!!」
黄金の装甲、頑強な盾、スピリットのオーバーレイとはまた異なる武装をまとった新たなオーバーレイが、天から差し込む陽光を背に降臨する。その胸に輝くは、黄金のシンボル。そう、このカードは。
「アルティメット……だと……!?」
「スピリットに匹敵する、スピリッツワールドに現れた新たな力。それがアルティメット! その超パワーを見せてやる、『超抜刀』発揮ッ!!」
斬の手札から、ジュピターセイバー、エルナトがノーコストで現れ、それら二本の剣がオーバーレイの手に握られる。エルナトは斧だけど。
「超抜刀は、オーバーレイと合体可能な系統『剣刃』のブレイヴを2体までノーコスト召喚できる効果。ジュピターの召喚時効果でコアブースト。そしてそのままオーバーレイと、ダブル
「ダブルブレイヴだとぉ!?」
「さらに『煌星第十使徒デズデモーナ』を召喚。そして、アタックステップ!」
「来るか……!」
「オーバーレイ、攻撃だ! そして……アルティメットトリガー・ロックオンッ!!」
ナゾオトナのデッキの一番上のカードが弾け飛ぶ、このアルティメットトリガーこそがアルティメットの最大の特徴と言おうと思ったが別にそんなこともなかった。トリガーでめくれたカードのコストよりオーバーレイのコストの方が高ければ、トリガー効果が発動する。めくれたそのカードは。
「七海大名シロナガス! コストは12、オーバーレイは9だから、効果は不発でござる!」
「たしかに、オーバーレイひとりなら不発だ! だが!!」
オーバーレイの前に立ちはだかるシロナガス。オーバーレイよりも巨大なその姿の威圧感は凄まじい。しかしオーバーレイはひるまない。
「力を貸せ、エルナトォッ!!」
その手に握られた斧から炎が溢れ出し、それは全てを噛み砕く龍の姿になる。龍が海の中に潜り、そして、辺り一帯の海が爆発する。
「な、何が起こっている!?」
「エルナトはコスト4。ブレイヴは合体したスピリットに自身のコストを追加する。ジュピターは合体時コスト2になる効果があるので、オーバーレイのコストは15になり、シロナガスを超える! よってトリガーはヒットだ!」
「くっ! トリガーカウンターがあれば防げるが、そんなものは無い……!」
「なら、オーバーレイのトリガー効果! このアルティメットと合体しているブレイヴの数だけ、相手のスピリットを破壊する!」
「なんだとぉっ!!?」
爆発は止まらない。海は焼け、炎の龍がところかまわず、何もかもを焼き尽くす。
「海を焼くだとぉ……非常識なっ!!」
「何もかもが規格外! これがアルティメットの力だァッ!!」
センジュとグリズラッシュは龍を押し止めようとするが、世界は灰に溢れ、大気は黒く染まりゆく。黒く染まった空に究極輝神が浮かび上がり、その目が光る。次の瞬間、二本の刃がセンジュとグリズラッシュを切り裂いていた。
「ば、バカなっ!?」
「ジュピターはシンボルを持つブレイヴなので、この攻撃はダブルシンボルだ! さぁ、どう受ける!?」
「ならば、フラッシュタイミング! マジック、絶甲氷盾っ!! この攻撃の終了とともにアタックステップは終わる。そして攻撃は鉄拳でブロック!!」
純白の盾が、攻撃を阻む。
「ちっ、2枚目を引いてたか。ターンエンドだ」
「この引きの良さも修行の成果。さて、拙者のターンでござるなぁ」
ナゾオトナのターン、彼はまずマントラドローを使い、捨てるカードにグリズラッシュを指定し、そのまま召喚する。
「アビスをグリズと合体! そしてアタックステップ。グリズラッシュでアタック。そして、アタックステップ、ソウルコアをトラッシュに送ることで、発揮!」
「なに!?」
「とっておきの新効果だ。とくと見ろっ、『煌臨』っ!!」
ソウルコアが浮かび上がり、そこから時空が歪み、世界の向こう側から、新たな力、白い龍の腕が飛び出る。
「ソウルコアをコストに、特定の条件のスピリットの上に重ねて場に出す。それが煌臨。このカードの煌臨条件はコスト6以上のスピリット。グリズラッシュはコスト12なのでクリアしている。よって!」
「来る!」
「『秩序龍機νジークフリード』、レベル3で煌臨っっ!!!」
その正体は、煌臨に対応してパワーアップした、新しいジークフリード。白のスピリットになっている。炎の暴威によって破壊されていた秩序が、この世界に蘇ったような感じがした。
「νジークの煌臨時効果。系統をひとつ指定する。武装を選択。山札の上から指定した系統のブレイヴが出るまでめくり、最初に出たブレイヴを場に出す。それまでにめくったカードは全て破棄する」
「出たのは……?」
「こいつだ。ガンズ・バルムンク! そして山札から破棄されたソルダーアズール3体とグロリアスフリューゲル1体を、ノーコスト召喚!」
BP3000のソルダーアズール3体とBP3000のフリューゲルが、ナゾオトナを守る盾のように、立ちはだかる。
「こ、このタイミングで4体ものスピリットを並べるなんて……」
「ソルダーアズールとフリューゲルは山札から破棄されたとき、ノーコストで召喚できる。そしてバルムンクをそのままνジークに合体!」
「そ、そいつもダブルブレイブできるのか!?」
「νジークにそういった効果はないでござるが、ガンズバルムンクには『ジーク』スピリットに合体する時に合体可能なブレイヴに数えないという効果がある。理論上はダブルと言わずもっと合体することも可能でござるが、お主を倒すにはこれで十分」
「なに!?」
νジークが、斬のスピリットたちが届かないほどの高さまで駆け上がり、遥か天空の彼方から、その銃口を斬に向ける。
「νジークは合体アタック時相手の効果を受けず、ターンに1度回復する。そしてバルムンクの効果により、この攻撃はブロックされない!」
「またか!」
「だがその前に、ソルダーアズールの召喚時効果。相手のスピリット1体を手札に戻す。3体出たので3回発動するというわけで、そちらの場のスピリットは全て手札に」
「デズデモーナの効果。召喚時効果を発揮する場合、ライフのコア4個をボイドに送らなければその効果を使えない。ライフ3のお前には、効果を発揮させることはできない!」
「だからどうした。喰らえ、νジークの合体アタックをっ!!」
容赦なく放たれる、必殺の一撃。さらに青い呪縛が、斬の足を絡めとる。
「アビスの効果により、お主は赤以外のマジックとバーストを使えない。今度こそ、終わりだ!」
しかし斬の目の光は消えない。その手に煌めくのは白い光。
「この白のカードなら、ここを守り抜けることができる! 」
「何度言えば分かる! 白のマジックを使うことは……」
しかし斬の手から放たれたそのカードは、アビスの力に掻き消されることのない、強く、大きな輝きを放つ。驚きに見開かれたナゾオトナの眼前に現れたのは。
「スピリットカード、『己機人シェパードール』の、『アクセル』、発揮っ!!」
マジックでもバーストでもない、スピリットカード。その手から結晶のバリアが広がっていき、それは、斬の四方を完全に覆い、大いなる青の進行を完全に阻んでしまう。
「あ、アクセル……だと……!?」
「マジックと同じように、フラッシュタイミングやメインステップでコストを払って発動する効果だ。これはスピリットの効果として扱われるため、アビスの効果の妨害を受けない! そしてシェパードールのアクセル効果によってこのターン、コスト4以上のスピリットアルティメットの攻撃では俺のライフは減らない!」
「……くっ! そんなカードがあるとは……ターンエンド」
「修行してたのはお前だけじゃねぇ。俺たちバトラーはみんな、ジタバタやってずっと腕を磨いてきたんだ。まだまだ負けてはやらねーぜ!」
斬の目の輝き。それは強く、たくましかった。ナゾオトナはそれを見て、修行のさなかで出会った動物たちのたくましい生き様を思い出す。草原を駆ける獅子の猛々しさ、空を舞う鷹の自由さ、そして、自然という厳しい環境の中で仲間と友に生き抜く絆の強さ。目の前のバトラーにその強さに通づるものを感じ、感嘆の声を上げる。
「良いスピリッツを持っているな、ボーイ。強くなりたいという、熱い魂がある」
「あぁ。あんたみたいな強い人が相手だと、いっそう熱く燃え上がって、楽しくてしょうがなくなる。礼を言うぜ」
「それはお互い様だ。半年間、人間とバトルすることは無かったが、やはりバトルは面白い。心がたぎる」
視線が交わる。ナゾオトナ、斬ともに、不敵な笑みをたたえる。相手を讃える気持ちも強く持ってはいたが、その目は激しくギラついてもいる。
「勝つのは俺だ!って顔だね、ふたりとも。まぁ片方はタイツだけど」
「意外と気が合いそうだね、あのふたり」
剥き出しの勝利への執念がぶつかり、弾ける。全ては次の一瞬で決まる。斬は、山札の頂点、その一枚に手をかけ。
──おまえに、俺の魂をかける!──
燃える炎一閃、そのカードは。
「……来たぜ、召喚、『ダークナイト・ドラゴン』! 不足コストはデズデモーナから確保。その召喚時効果で、俺のライフを1つボイドへ送り、BP6000以下のスピリットを破壊。フリューゲルを破壊!」
「デズデモーナを消し、自分のライフをわざわざ削ってその程度か?まだまだ、この白のブロッカー軍団を突破することは……」
「俺がダークナイトを出した目的が、お前のスピリット一体を倒すためだけだと思うか?」
「な……?」
地獄の大地が、鳴動する。秩序が戻りつつあった世界で、再び炎が燃え上がる。天から降り注ぐ剣の雨が、ソルダーアズールを貫いてゆく。ここでナゾオトナは気付く。斬のライフがダークナイトの効果によって減少していること、つまり。
「ライフ減少時バーストの発動条件が満たされた……! これが狙いか!!」
「その通り。バースト効果により、俺の赤のスピリットの数だけ相手のBP6000以下のスピリットを破壊! よってソルダーアズール3体を破壊し、そして、このスピリットをノーコスト召喚!!」
「なにが来る!?」
「この半年の修行の果て、なんやかんやあって手に入れた、俺の新しい切り札だ!」
それは覇王。マグーが喜ばしげに咆哮している。かのジークヤマトフリードに匹敵するとされる伝説のスピリット。
「地の底より猛り立つ、熱き炎の龍よ!天より注ぎし剣を以て、戦場を赤く染め上げろ!! 『天剣の覇王ジーク・スサノ・フリード』、レベル3で召喚ッ!!!」
最強の覇王の一角が、地殻を突き破り、戦場に見参する。そのレベル3BPは15000。
「これが……」
「斬さんの新しい切り札か……!」
鴉と由希は戦慄する。ライバルの新たな切り札、それは黒く巨大で威風堂々、覇皇の名に恥じぬ威圧感と迫力を持っていた。そして戦慄していたのは当然ナゾオトナも同じ。νジークと天剣の覇王が、今ここに対峙する。
「バーストをセットし、英雄皇の神剣をレベル2へ。このコアの移動により、オーバーレイのレベルは3にダウン」
「えっ?」
「ほう」
オーバーレイのUトリガーはレベル4から発動する。つまり今、斬はオーバーレイのトリガー効果を捨てたことになる。由希は怪訝な顔をする。
「νジークが相手の効果を受けないのは自身の攻撃中だけ。オーバーレイのトリガーがヒットすればνジークは簡単に破壊できるはず。それに今のオーバーレイは合体でコストが上がってるから、トリガーが外れるとも思えない。ミスかな?」
「さて。でもこれもひとつの選択。この斬さんのプレイでバトルがどうなるか、興味あるね」
当の斬は、自信満々といった顔であった。ナゾオトナも、受けて立つという感じの顔であった。
「行くぜ、アタックステップ! ジークスサノフリードで、アタックッ!!」
数多の黒い剣が舞い、ナゾオトナを襲う。
「ジークスサノのアタック時効果。バーストをセットしている間、このスピリットに赤のシンボルを1つ追加する。そしてこのカードは『古竜』なので、マグーの効果でさらにシンボル1つ追加! BPプラス3000!」
「つまり、トリプルシンボル!?」
「ならば、νジークでブロック! そしてマジック、『光翼之太刀』っ!!」
νジークの背で眩い輝き放つ翼がはためき、黒剣の届かぬ天空へ舞い上がる。
「光翼之太刀は場の1体のBPを3000上げ、疲労状態でもブロックできるようにするカード」
「νジークレベル3のBPは18000。アビスは5000、バルムンクは6000だから、つまり」
「νジークのBP、32000っ!!」
青い飛沫、白い光線、ナゾオトナが振りかざす全ての力が集約し、νジークを奮い立たせる。その咆哮は大地を揺るがし、そして、全てを滅ぼす弾丸が、速く、静かに放たれた。
「これで、終わりだぁっ!!」
終局の一撃。しかし。
「あぁ、終わりだ。だがナゾオトナ、お前の終わりだッ!!」
「っ!?」
「燃え上がれ、英雄皇の神剣ッ!!」
空から顔を見せるのみだった神剣が、弾丸に突き刺さり、その勢いを削ぐ。
「神剣の効果。合体していない系統『覇皇』を持つ自分のスピリットのBPをプラス3000。さらに!」
斬の足下に伏せられたバーストが、その正体を隠しながらも、爆発し、それに呼応して神剣も炎に燃える。
「自分のバーストがあれば、さらにBPプラス5000!」
「だが、それでもBPは26000! 全然届かんでござる!」
しかし、バーストの爆発に呼応して燃え上がるものは他にもあった。それは、スサノの魂。
「スサノのアタック時効果! バーストがあれば、自身のBPをプラス10000する!」
「なっ!?ということは、BP36000!?」
光の弾丸を掻き消し、天剣の覇皇が鋼の龍の前に立ち、その剣を振りかざす。
「薙ぎ払えぇッ!!!」
圧倒的な刃が、νジークを切り裂く。決着は一瞬であった。迅雷のごとく、スサノの友である古竜たちが戦陣をきる。
「待たせたな、ジークフリード! アタック頼んだぜ!」
「ライフで受ける!」
ジークがライフを2つ削る。そして、これが真の終局。
「これがラストコールだ。行け、マグーで アタック!!」
竜が行く。その竜はこのバトル1度も場を退かず、斬を支え続けた。
──思えば、拙者の攻撃がことごとく防がれたのは、お前のコア回収能力があってこそだった、か──
ナゾオトナは笑い、そして、その結果を受け入れる。
「ライフで受けよう」
バトルは、斬の勝利に終わった。
ナゾオトナはデッキの一番上のカードを確認する。それは『ホソアカクワガー』。Uトリガーによってトラッシュに送られた時、そのトリガーをガードするというカード。つまり、オーバーレイで攻撃していればトリガーは不発になってνジークは倒せず、光翼之太刀によってナゾオトナは斬の攻撃を凌げていたということになる。そして。
「……ふん」
ナゾオトナは自らの手札に残った最後のカードを一瞥し、それを静かにデッキに戻した。そして、無邪気に喜んでいる斬たちの元へ歩み寄る。
「よっしゃぁぁぁつ!! イエェェェイッッ!!」
「でも、最後のプレイングってあれでよかったのかな?」
「オーバーレイのレベル下げたことか?ま、勘だよ勘。相手次第だけどさ」
「あれが最善でござるよ。拙者の完敗でござるな」
νジークのカードが、斬に差し出される。それを受け取りながら怪訝な顔をする斬に、ナゾオトナはマスクを脱いで微笑みかける。
「ナゾオトナは負けたとき勝者にXレアカードを渡す決まりがある。バシンに渡す予定のものだったが、ヤツの代理に渡すのならば同じことだろう。バトルの礼として受け取れ」
「ま、マジで?いいの?」
「我が名は
「いいや、次も俺が勝つぜ青嵐!」
「……また会おう、斬」
青嵐は笑い、去っていった。
「変な人だったね」
「あぁ。正直全然勝った気がしねぇ。底が知れねぇ」
「うん。あの手札に残った最後のカード、たぶん」
「くぅ〜! 燃えてきたぜェッ!! 鴉、由希、バトルしようぜぇっ!!」
一方、その頃。
「よぉ」
「……」
バシンはひとりの男と対峙していた。
「店はいいのか?」
「弟子に任せてる。急に店空けるのは気が引けたけど、激突王とバトルするチャンスだしな」
「あんただってバトスピ王だろ。バトルできるなんて嬉しいぜ」
「へっ」
静かに、闘いの門が開く。
「「ゲートオープン界放!!」」
お読みいただきありがとうございます。多くの読者の方には久しぶりというべきだと思います。更新が大幅に遅れた、というかもう更新なんかしないだろこれって感じになってしまい、期待してくださっていた読者の方々には申し訳ないです。
更新が遅れたの理由はリアルが忙しくなったとかそういうよくあるヤツです。この小説をちゃんと完結させたいという気持ちが完全に消えてはいなかったからか、今回はなんとか書けました。この調子が続くよう努力します。
アルティメットが覚醒すると云々とかいう誰も覚えてなさそうな謎設定は正直なかったことにしたいですが、一応本編の中で補完したいとは思います。
最後に、お読みいただいて本当にありがとうございました。感謝します。そして、更新が遅れたこと、本当に申し訳ありませんでした。次に皆様に会える日を楽しみに執筆に努めますので、お見守りいただけたら幸いです。