嵐の向こうはきっと晴れ   作:華留奈羽流

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新シリーズです。


提督が鎮守府に着任シマシマ

朝。書斎風の室内に若い女性が一人。

重厚なマホガニーのデスクの乾拭きを済ませ、上体を起こしてふう、と一息つく。

背の高い彼女にとっては、ずっと屈んでの作業になり腰に来たのだろう

背筋を伸ばして、後ろ手でトントンと軽く叩く。

開け放たれた窓の外に目をやれば

差し込む日差しのまぶしさが目に沁みた。

 

(今日もいい天気でよかったわ)

 

続いて、部屋の中をぐるりと見回して

どこか手落ちがないか再度の確認を始めるうちに

壁に飾られた額縁の、1枚の写真に目が留まった。

 

軍服姿の一人の中年男性を中心に

十数人の若い女性が並んでいる、何かの記念写真。

 

(やっぱり、片付けたほうがいいのかしら)

 

部屋の調度品を整理している間、最後まで悩んだ結果残しておいたのだが

事ここに至ってまた悩みだしていた。

 

彼女は、戦艦大和。

正確には、過去の戦艦である大和の魂を受け継いだ娘、というべきか。

受け継いだのは魂だけではなく、戦艦として戦う力も受け継いでいる。

今はその戦う力の源である「艤装」の殆どを外しているのだが

それでも、髪飾りのようにも見える小さな艤装と、少し変わった衣服が

彼女の外見を際立たせていた。

 

軍艦のように戦い、人のように生きる者。

ここはそういった、「艦娘」と呼ばれる存在が集う「鎮守府」なる施設。

その中の、指揮官である「提督」の執務室である。

 

大和が壁の写真を前になおも悩み続けていると

コンコンと執務室のドアがノックされる。

 

「どうぞー」

 

大和の答えに、ドアが静かに開き

 

「失礼します」

 

とセーラー服に身を包んだ一人の女性が執務室に入ってくる。

 

「何かお手伝いしましょうか?」

 

「大丈夫、もうだいたい終わったわ。ありがと、大淀さん」

 

大淀、と呼ばれた女性が問いかけて

それに笑顔で答えてから

大和はまた壁の写真とにらめっこを始める。

 

大淀もまた、艦娘の一人である。

大和がいわずと知れた戦艦大和の魂を受け継ぐものなら

大淀は軽巡洋艦という艦種の軍艦の魂を受け継いでいた。

魂を受け継いだ艦の種類によって、艦娘としての能力はさまざまな物になるが

人としての性格や能力が何によって左右されるのかは

いま一つハッキリとはしていない。

とにかく、大淀は艦娘の中では几帳面なほうで

どちらかといえば真面目な大和とは気の合う間柄だ。

 

「まだその写真を気にされているのですか?」

 

大淀が背後から大和に声をかけると

ばつの悪そうに苦笑いを浮かべ大和が振り返る。

 

「うん……私としては飾っておきたいんだけど

 新しい提督には失礼になるんじゃないかな、って」

 

「意外に、全然気づかないかもしれませんよ?」

 

「だといいんだけど」

 

そう言いながらも、もう写真のほうに視線を送るのはやめていた。

結局、写真は残すことにしたようだ。

大淀はまだ写真を見ている。そして、ポツリと独り言のように声を漏らす。

 

「……いよいよ、ですね」

 

「……うん」

 

「大和さん……1年間の提督代行、お疲れ様でした!」

 

不意に大淀が大和に正対し、真顔で敬礼と共に声をあげる。

ハッとした大和も敬礼で答え

 

「大淀さんも、秘書艦代行、お疲れ様でした!」

 

そのまま直立不動で見つめあったあと

二人して声を出して笑い始める。

 

「1年かぁ……思ったより長かったなぁ」

 

「まあ、実際に提督が着任するまでは、まだ大和さんが提督代行ですけど」

 

「そろそろ到着予定の時間、だったかしら?」

 

大淀が部屋の壁にかけられた時計を見て

 

「予定ではヒトマルマルマルですから、あと15分ほどですね」

 

「なるほど……最後の15分ぐらい、好き勝手な命令とかしちゃおうかしら?」

 

ちょっと悪戯っぽく笑いながら大和が大淀を見る。

 

「たとえば?」

 

「そうね……軽巡大淀、バニーガール姿で提督を出迎えなさい!とかどう?」

 

ビシィッ!

効果音が出そうな勢いで、大和が両足を広げポーズを決めたのだが

大淀は無表情のまま、クルリとドアのほうに向きを変える。

 

「拒否します。そろそろ正門に行きましょう」

 

「……はぁい」

 

二人して部屋を出る間際、大和は再び壁の写真に目をやり

胸のうちで敬礼をした。

 

(行ってきますね、提督)

 

 

「……大丈夫なんでしょうか」

 

正門まで二人並んで歩く途中、大淀がふっと口にした。

 

「何が?」

 

「その……新任の、提督が、です。

 養成校を卒業して研修を終えたばかりの新人さんが

 いきなりウチの規模の鎮守府に提督として着任って、前例がないですよね」

 

「そうねー。普通は駆逐艦娘一人を連れて、最小規模のところから始めるらしいけど

 ウチは提督不在だったんだから文句は言えないし

 大本営が送り込んでくる人なんだから大丈夫……じゃない?」

 

「だといいのですが。艦隊運用とかちゃんとできるんでしょうか」

 

「送られてきたプロフィールは見たでしょ?成績は優秀よ。

 養成校をトップの成績で合格、そのまま2年間トップの座を維持して卒業。

 学問だけでなく、身体面でも超優秀だし

 研修先の鎮守府でも多大な戦果をあげてるわ」

 

「でも……まだ16歳なんですよ?」

 

うーん、と大和も考え込む。

提督たちの年齢は様々だが、若くても20代で

それなりに社会経験を積んでいるものが殆どだ。

しかし、新たに着任する提督のプロフィールでは

まだ16歳となっていたのだ。

 

「精神面とか、人格的なところで不安を感じませんか?」

 

「特例として養成校の受験を認められたそうだけど

 いわゆる天才ってヤツなんでしょうね。

 そういう子って、精神的にもオトナになってるんじゃないかな。

 それに、提督に至らない部分があれば、それを補うのも私たちの務めよ」

 

はあ、と一つため息をついてから大淀が

 

「……この際なのでブッチャケますけど

 16歳男子なんてヤリたい盛りじゃないですか」

 

大淀の言葉に大和が慌ててコケそうになり

あせりながらも反論を試みる。

 

「ヤリ……!?……またえらくブッチャケたわね!?

 ま、まあ、プロフィールの顔写真を見た感じ大人しそうだったし?

 ちょっと中性的で草食系みたいな?だ、だからダイジョウブ、かな?」

 

「周りは艦娘とはいえ可愛い女の子ばかりですよ?

 しかも、けっこうキワドイ格好の人もいるじゃないですか」

 

「私は陸奥さんみたいにオヘソ出てないもん!」

 

まだ動揺しているのか、大和の答えは的外れである。

 

「別に大和さんがそうとは言ってません。

 中にはそういう人がいる、ということです。

 陸奥さんとか雲竜さんとか祥鳳さんとか島風さんとか」

 

大淀が列挙する名前を聞くたびに、大和の顔も引きつっていく。

 

「あー……まあちょっとヤバイかも」

 

「ヤバイです。

 そんなところに16歳男子が放り込まれたら

 どんな草食系だって肉を食べたくなるんじゃないですか?」

 

「いや私16歳男子の気持ちとかわかんないし。

 まあ……その、そういう方面に暴走しそうになったら……

 ひ、秘書艦の私が身をもって、その……対処?してもいいかな?とか?」

 

顔を赤らめながらも何故かちょっと嬉しそうな大和。

 

(あ、大和さんああいうのが好みのタイプなんですね)

 

と思ったが、口にすると大和のほうが暴走しそうなので

それ以上は言わずにおく大淀だった。

 

 

正門前には、鎮守府所属の艦娘たちが隊列を組んで待機していた。

大和がその前に立ち、大淀がその少し斜め後ろに立つ。

 

(そろそろ、ね)

 

と大和が思ったそのタイミングで

黒塗りの大本営公用車が正門前に滑り込んできた。

門衛担当の艦娘がIDカードを確認し、後部座席のドアを開ける。

 

開いたドアからニュッと突き出される、白のストッキングに包まれた足。

履いているのも白のパンプス。

 

(……えっ?)(……あれっ?)

 

戸惑う大和と大淀――いや、その後ろに控えた艦娘もほぼ全員が戸惑っていた――の前に

ゆったりと人影が車から姿を現す。

肩の階級章からすれば、この人物が新任の提督なのだろう。

白の礼装のスカートの裾を払い、ピン、と背筋を伸ばすと

その胸の二つの膨らみが、重たげにゆさりと揺れた。

 

(草食系とか肉食系とかの前に……)(男子じゃなかったー!?)

 

降り立った彼女――そう、「彼女」が笑顔と共に敬礼をしたところで

不意に強い海風が吹き付けてくる。

慌てて彼女はスカートの裾を押さえるが……

 

(……シマシマだ)(シマシマパンツですね)(着任シマシマ)

 

えへへ、と笑って誤魔化した彼女が

元気な声で居並ぶ皆に告げる。

 

「藤村 晴海、着任しました!みんな、これからヨロシクネ!」




ゆっくりペースでの投稿になると思いますが
どうぞよろしくお付き合いください。
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