嵐の向こうはきっと晴れ   作:華留奈羽流

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ずいぶん間隔があいてしまいましたが私は元気です。


酸素魚雷を食らわせるわよ!

「え?……ちょ、待ちなさい!?……駄目ですよ?……ええ!?」

 

執務中の島田の携帯に着信があった。

どうも私用らしいということで、島田は少し隅のほうに行って話し始め

最初は小声で話していたのだが、不意に大きな声をあげたのだった。

 

「駄目って……ああもう!」

 

電話は向こうから切られたらしい。珍しく感情を表に出した島田に晴海が

 

「……どしたのー?」

 

と尋ねると、困惑した表情で

 

「いえ、その……あの、ちょっと正門まで行ってきてもよろしいですか?」

 

と答える。

 

「それはいいけど……誰か来るの?」

 

「え、ええ、まあ……では、ちょっと失礼します」

 

珍しく慌てて執務室を出て行く島田。

見送る晴海と大和。そしてたまたま手伝いに来ていて目撃した陸奥がつぶやく。

 

「あれは、男ね。どうやら島田さんに会いに鎮守府まで来ちゃったか」

 

「え……男?」

 

「そ、彼女なら彼氏ぐらいいておかしくないわ。

 たぶん鎮守府勤めでしばらく会ってないから様子を見に来た、とかでしょうね」

 

訝る晴海に訳知り顔で陸奥がフフンと笑う。

 

「そんな素振り全然なかったけどなー……でも島田さんに彼氏かぁ……

 どんな人だろうね?」

 

「……見に行っちゃおうか?」

 

悪戯っぽく笑う陸奥。晴海も

 

「そうね、私の秘書に彼氏がいるなら、確認しておかなきゃね!」

 

とノリノリである。大和がかろうじて

 

「あまりプライベートに立ち入るのは……それに仕事中ですよ?」

 

とたしなめるが

 

「ちょっとした息抜きよ、固いこと言わない言わない」

 

と晴海はまるで意に介さない。

 

「気づかれると隠そうとするかもしれないから、回り道して行きましょ」

 

「オッケー。それじゃ留守番お願いね、大和」

 

二人はソワソワしながら退出する。

 

(いいのかなぁ)

 

内心、大和も気にはなるのだが

好奇心を振り払うように頭を振ると

再び書類に集中し始めた。

 

 

ところ変わって鎮守府正門。

少し離れた物陰から晴海と陸奥が見つめる中

島田が落ち着かない素振りで外の様子をうかがっている。

と、何かを見つけたのか、門衛に何事か告げてから

門の外に小走りに出ていく。

 

(来たようね……!)

 

晴海たちも島田の様子がわかるところまで少し前進して

 

(いた!……けど……)

 

何か拍子抜けしたような顔になる。

 

(あれは男というか……)(男の子、ね……)

 

島田と何やら言い合っているのは

男には違いなかったが、まだ12、3歳といった感じの少年だった。

背丈は向かい合う島田と比べた感じ150センチちょっとだろうか

栗色の柔らかそうな巻き毛がそよ吹く風にかすかに揺れる。

淡いブルーのポロシャツに紺の半ズボンといういで立ちが

少年っぽさをより際立たせていた。

 

(なるほど……そういうシュミだったのね!)

 

顔を紅潮させる陸奥。

 

(いや違うと思う……それになんか見た覚えあるような?……あ)

 

晴海が物陰から島田たちのほうに歩きだす。

 

「ちょ、提督!?……ああもう、しょうがないなぁ」

 

陸奥も諦め顔でそのあとについてくる。

すぐに島田が二人に気づき、少年を背中に隠すように体を寄せるが

少年のほうが晴海に声をかけてきた。

 

「ひさしぶり、晴姉ぇ!」

 

「やっぱり純一くんかぁー。背ぇ伸びたねー!」

 

取り残された陸奥が怪訝な顔で晴海に尋ねる。

 

「え、何……知り合い?」

 

「前に何度か、藤村の屋敷に遊びに来たことがあるのよ」

 

島田が困り顔で頭を下げる。

 

「申し訳ありません。本当に言うことを聞かない子で」

 

「えーと……どういう関係?」

 

「純一といって、私の弟です。ほら、ちゃんとご挨拶しなさい」

 

「初めまして!島田純一です!……お姉さんは艦娘の人?」

 

ペコリと頭を下げた後、初めて見る陸奥に目をやって目を輝かせる。

 

「ええ、戦艦・陸奥よ。初めまして、純一クン」

 

「わぁ、こんなキレイなお姉さんが戦艦なんだ……おね……陸奥さんスゴイんだね!」

 

「あらあら、お上手ね?……お姉さん、火遊びしたくなっちゃうぞ?」

 

「?ひあそび……?」

 

火遊び云々はもちろん冗談なのだろうが

島田は眉をひそめて純一に向き合う。

 

「ゴホン!さあ、もういいでしょう純一?

 お目当ての艦娘にも会えたんだし、今日はもう帰りなさい。

 ここは遊びに来るところではないのよ?」

 

純一の背を押して追い返そうとする島田。

晴海が笑いながら

 

「あら、別にいいじゃない。

 せっかく『見学』に来てくれたんだから鎮守府を案内してあげたら?」

 

「……お言葉ですが、私たちは今執務中です。

 家族とはいえ、案内のために職務を放棄するなどできません」

 

「いやまあそれはそうなんだけど……陸奥は今日の予定は?」

 

「あー……残念ながら、午後から演習なのよね」

 

「うーん……誰か手の空いてる人に頼むしかないかな……

 あー……適任者がいたわ!」

 

 

「……で、私を呼び出したってわけ?」

 

とりあえず執務室に戻った晴海たちが

純一に鎮守府を案内させるために呼び出したのは

憮然とした表情で腕を組んで晴海を睨む駆逐艦・叢雲だった。

晴海がニコニコしながら叢雲をなだめる。

 

「ほら、前に私のことも案内してくれたじゃない?

 こういうのは向いてると思うんだけど」

 

「向いてないわよ!?アンタの人を見る目おかしいんじゃないの!?」

 

「でも、ムラちゃんが案内してくれたおかげで

 私は提督を目指すことにしたんだよ?」

 

「……つまりあの時が失敗の始まりだったということね」

 

純一はといえば、あまり自分と変わらない体格の叢雲を見ていたが

 

「ねえ、コイツも艦娘なの?なんか僕とあんまり年も背丈も変わらないじゃん?」

 

と晴海に尋ね、それを聞きつけた叢雲がムッとした顔で純一を睨む。

 

「失礼ね、これでもここの最古参なのよ!?

 あと『コイツ』じゃない、叢雲よ、む・ら・く・も!」

 

「なんだよサイコさんって?叢雲なのかサイコなのかわかんねーよ。

 両方でサイコ叢雲なのか?」

 

「異常者みたいな呼び方すんな!……まったく、いくら非番だからって

 子供のお守りするほどお人よしじゃないんだけど?」

 

同年代と見たのか純一の口調がちょっと気安い。

 

「……ですよね。申し訳ありません叢雲さん」

 

普段のキリリとした様子とは打って変わって弱腰な島田が頭を下げる。

 

「あ、いや、貴女に怒ってるわけじゃなくて……

 まあいいけど、ただ働きってわけじゃないわよね?」

 

叢雲がジロリと晴海を睨む。

苦笑いした晴海が引き出しを開け

 

「はい、食堂のデザート付きお食事券2枚。これで……」

 

チケットを差し出すが、叢雲はそれを受け取らず

 

「4枚。2枚じゃ今日二人で使ったらなくなっちゃうじゃない」

 

「ハイハイ、じゃあ4枚ね……これでいい?じゃ、よろしくねムラちゃん」

 

「だからムラちゃん言うなって言ってるでしょ……」

 

「お前、いろんな呼び方あるんだな」

 

 

それから、叢雲は純一を連れて鎮守府を巡ることになった。

 

「ここが工廠」

 

「こうしょう?何するとこなんだ?なんか工場っぽいけど」

 

「ま、そんな感じのところよ。じゃ次行くわよ」

 

その場を足早に立ち去ろうとする叢雲。

純一が慌てて呼び止める。

 

「え、ちょ、待てよ中も見せろよ」

 

(……アンタを連れてるところをあんまり見られたくないんだってば)

 

「工廠の中は秘密になってるし危険だから一般人は入れません」

 

「いや今なんかアッチの入り口からフツーのオッサンが入ってったぞ?」

 

「……あの人はここで働いているけっこうスゴイオッサンなのよ」

 

なおもこの場にとどまろうとする純一と

それを引っ立てようとする叢雲の前に

 

「あら、どうしたの叢雲?……その子は?」

 

工廠から工作艦・明石が出てきた。叢雲が思わず胸の内で舌打ちをする。

 

「あー……この子、島田さんの弟なんだって。

 私が鎮守府の案内をしてあげてるのよ」

 

「こんにちは!島田純一です!お姉さんも艦娘なんですか?」

 

「そうよー。ま、海に出るよりは

 ここで工廠関係の作業してることのほうが多いけどね」

 

「そうなんですか。艦娘さんにも、いろんな役割があるんですね!」

 

「お、わかってるねー?戦いではこういう後方支援も大事なのよ」

 

「中を見学させてもらってもいいですか?」

 

「あ、それは……」

 

止めようとする叢雲より早く

 

「いいわよー?ただ、いろいろ作業してるから、私のそばは離れないでね?」

 

「ありがとうございます!」

 

頭を下げた後、純一が横目で叢雲を見て

 

「入れるじゃん」

 

「アンタこそ、私と話してるときと態度全然違うんだけど?」

 

「……」「……」

 

二人は少しの間睨みあったあと

 

「「フンッ!」」

 

そっぽを向きあって、工廠に入っていった。




続きますー
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