嵐の向こうはきっと晴れ   作:華留奈羽流

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続いてます。


このばちあたりめ!

(……しくじった!)

 

駆逐艦・叢雲は後悔していた。

食堂のデザート付きお食事券に釣られて

島田の弟、純一に鎮守府内の案内をすることを引き受けたのだが

案内する純一は小生意気で何かと突っかかってくるし

行く先々で純一の素性を尋ねられてはそれに答えてと

面倒くさいことばかりだった。

 

それでも何とか一通りの案内を済ませ

あと案内が残っていたのは食堂だけになっていた。

 

ちょうど時刻も昼少し前。

食事をとるにはいい時間だ。

特に深く考えず、純一を連れて食堂に入ったのだが――

 

ほかの多くの艦娘にとっても、食事どきだということを

ついぞ忘れてしまっていた。

 

「あれー?叢雲ー誰ー、その子?」「かーわいー!」「え、何、叢雲の男?」

 

あっという間に、その場にいた艦娘十数人に一斉に囲まれてしまった。

慌てたのは叢雲だけではない。

純一も、不意に大勢に――しかも女性ばかり――取り囲まれドギマギしていた。

 

「叢雲ー、この子イクにも紹介してほしいのねー」

 

「なっ……お前なんで水着なんだよ!?」

 

「ねえ速い?この子速いの?」

 

「おま……!?パ、パンツ……!」

 

興味津々で近づいてくる艦娘の中には刺激の強い格好のものもおり

さらに体を密着させてくるものもいる始末で

そんな連中に男一人が取り囲まれるというのは

 

(まあ……ちょっと放っておくのは可哀そうかな)

 

苦笑いをしながら叢雲が純一に寄り添い少し大きな声をあげる。

 

「はい下がって下がって!

 この子は島田さんの弟で純一くん!私はただ案内してあげてるだけ!

 普通の男の子だから別に速くはない!あとイクは体押し付けるのやめなさい!

 ここには案内がてら食事に来ただけ!

 みんなもお昼食べに来たんでしょ?ほら、散った散った!」

 

鎮守府最古参の艦娘にして練度も最高レベル。前秘書官で今の提督とも懇意。

駆逐艦ながら鎮守府で一目置かれる叢雲の声に

後ろ髪を引かれながらも散っていく艦娘たち。

 

「た……助かった……」

 

「ま、アンタ見た目は悪くないからね」

 

と、一人艦娘がまだ残っていた。柔らかな笑みを浮かべて叢雲に声をかける。

 

「ご苦労じゃの」

 

「あら。帰ってたの、初春」

 

「うむ、つい先ほどにの。隣、よいかの?」

 

「ま、アンタ一人ならいいわ」

 

言われた艦娘がするりと叢雲の隣に腰掛ける。

駆逐艦・初春。叢雲のすぐ後に建造された艦娘であり

それからずっと叢雲とこの鎮守府で戦ってきた古参艦である。

 

「島田殿の弟御だそうじゃの。わらわは初春。よろしく頼みますぞ」

 

「あ、ああ、どうも……島田純一……です」

 

古風なしゃべり方をする初春に

まだ少し遠慮がちに純一が答える。叢雲が立ち上がり

 

「じゃ、私カウンターで食事貰ってくるから

 初春、この子の相手しててくれる?」

 

「いや、わらわも食事を取りに行くところなのじゃが」

 

「今日は私がおごるわよ。晴海から食事券貰ってるから」

 

「おお、そうであったか。では馳走になろうかの。純一殿の相手は任せよ」

 

「よろしくねー」

 

スタスタとカウンターに歩いていく叢雲の背中を見送ってから

おもむろに初春が口を開く。

 

「どうじゃな、この鎮守府は?なかなかに面白いところであろう?」

 

苦笑いを浮かべる純一。

 

「あー、うん……場所もそうだけど……艦娘って、けっこう変なのがいるんだな……」

 

すまし顔で初春が答える。

 

「そうじゃの。中には奇矯なものもおるゆえ、初対面では驚かされるやもしれぬが

 みな気のいい者ばかりじゃ。案ずることはありませんぞ?」

 

「いや、っていうか……初春?なんでそんな時代劇みたいな喋り方なんだ?」

 

純一の言った「変なの」には

外見とは裏腹な古風な話し方をする初春も含まれていたのだが

そうと気づいていないのか初春は落ち着き払ったまま

 

「む?……何故にと問われるとちと困るのじゃが……

 わらわは建造された初めからこのように喋っておるのでな。

 いわば生まれつき、じゃな」

 

「いや生まれつきって、言葉は少しずつ覚えるもんだろ」

 

「ああ……純一殿は、艦娘がどのように生まれるか

 よくわかっておらぬようじゃな?」

 

最初に訪れた工廠で、明石から受けた説明を思い返す。

 

「工廠……だっけ?あそこで生まれるってのは聞いたけど」

 

「そうじゃの。

 工廠で、鉄と油とボーキサイトと弾薬を形代に

 この世に呼び出されてくるのが我ら艦娘じゃ。

 生まれた時からずーっとこの姿……まあ、改装されれば多少変わるがの」

 

「生まれたときからその姿って……ずっと変わらないのか?

 大人になったりはしないのか?」

 

「わらわはもう大人であるぞ?まあ、見た目はちと若いが。

 そうじゃな、解体でもされれば変わるのやもしれぬ」

 

「解体!?」

 

飛び出した物騒な言葉に純一がたじろぐ。

 

「ああ、解体と言っても、艦娘をバラバラにするわけではないぞ?

 艤装……砲塔や機関部との繋がりを断つのじゃ。

 さすればその者は艦娘ではなくなる……

 艦娘でなくなって、人になれるのかはわからぬがの」

 

「その……お父さんとかお母さんって……いないの?」

 

「おらぬな。我らは見た目は人に似ていても、生まれは人とは違う。

 家族というものも知らぬ。それを寂しいとも思わぬ。

 そういう心のありようも、人とは違うのであろうな」

 

「そう、なんだ……なんか、寂しいね」

 

うなだれる純一を見て初春は目を細める。

 

「家族とは違うが、我らには仲間がおる。共に戦う友がおる。

 その仲間たちが、家族のようなものなのであろうな。

 だから決して孤独というわけではありませんぞ?

 じゃが……我らの身の上、案じてくれるのじゃな。

 その気持ち、うれしく思いますぞ」

 

「うん……ねえ、初春?」

 

「なんじゃな?」

 

「僕も、その……仲間になれるかな?」

 

「ふむ?……姉君の島田殿は、この鎮守府で様々な仕事をしておられる。

 とても有能で、我らも大変助けられておる。

 立派な、共に戦う我らの仲間じゃ。

 その弟というだけでは、不満かの?」

 

「うーん……それだとなんか姉ちゃんのオマケみたいな……」

 

と、三人前の昼食を器用に運んで叢雲が戻ってきた。

 

「お待たせー。何話してたの?」

 

「うむ、艦娘のことを、いろいろとな」

 

「ふーん?どう純一、少しは勉強になった?」

 

「え、ああ、うん……」

 

純一の視線が、叢雲を頭から足先まで注がれる。

 

「何よ、ジロジロと」

 

「いや、叢雲も艦娘なんだなぁって」

 

「はあ!?バッカじゃないのアンタ!?今さら何言ってんの?」

 

先ほどまでなら

口ごたえする純一と罵り合いが始まろうかという叢雲の罵声。

が、純一は落ち着いたまま、叢雲の目を見つめる。

 

「そうだね……生まれてからずっと戦ってきた叢雲からすれば、今さらなんだよね」

 

「……何よアンタ、気持ち悪い。初春、コイツに何言ったのよ?」

 

「わらわはたいしたことは言っておらぬぞ?ただ……本当のことしか言わなんだがの」

 

「それでなんでコイツがしおらしくなっちゃってるのかしらね?

 ま、いいわ、料理が冷める前に食べちゃいましょ」

 

食事もあらかた終わり、叢雲がデザートのアイスクリームを受け取りに行こうとしたとき。

 

「わっ!?何、何!?」

 

突然、サイレンの音が鳴り響いた。

ビクンとする純一。表情を険しくする叢雲と初雪。

続いて、構内放送。晴海の声だ。

 

『出撃中の第二艦隊が帰還する。報告では負傷者が出ている。

 救護班は発着ゲートに向かい受け入れ準備を急げ。

 予定のないもの、手すきのものは入渠ドック、工廠前の通路を整理しつつ待機』

 

叢雲がはあ、とため息をつく。

 

(行ってあげたいけど……そうするとコイツも連れてくことになる……)

 

叢雲が唇をかむ。

純一は民間人、それもまだ子供だ。

戦闘後の、傷ついた艦娘の姿を見せるのはためらわれた。

 

「では、わらわは行くぞ。純一殿、また会おうぞ」

 

立ち上がる初雪。それに続いて純一も立ち上がる。

 

「僕も行く」

 

「ちょ、何言ってんの!?……ア、アンタなんか行ったって何の役にも……」

 

「片付けぐらいはできる!」

 

慌てる叢雲。が、初雪は純一の目を見つめ

ほんの少し考えてから、純一に告げる。

 

「よかろう……ついてまいれ!遅れるでないぞ!」

 

「何考えてんの……ああもう!!」

 

走り出す初雪と純一。

そのあとを諦めて追いかけながら叢雲は思う。

 

(あの時と同じね……)

 

やれやれと首を振り、そして走る速度を上げた。




もうちょっと続きますよ。
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