嵐の向こうはきっと晴れ   作:華留奈羽流

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今回で一区切り


いいぜ!俺とお前の仲じゃないか!

艦娘用発着ゲートに三人がたどり着く。

すでにそこは、ある種の「戦場」だった。

 

「消火器足りないわよ!?」「そこのボンベどかして!」

「ゲートの水位低くすぎない!?」「誰か工廠前のオイル拭き取ってくれ!」

 

多くの艦娘たちが怒声をあげながら慌ただしく

だがテキパキと動き回っていた。

ここで、ただの少年に何ができるというのか。

 

だが、純一は臆することなく一人の艦娘に駆け寄る。

 

「モップを貸してください。僕が工廠前のオイルを拭きます」

 

声をかけられた雷巡・木曾が一瞬驚いて

そしてすぐににっこりと笑う。

 

「モップは工廠に入ってすぐのロッカーだ!頼んだぞ!」

 

「はい!」

 

工廠からモップを持ち出し、こぼれたオイルを拭きとり始める純一。

その姿を見送って、叢雲と初雪も自分のなすべき作業に動き出した。

 

 

受け入れ態勢が整って間もなく

再び晴海の構内アナウンスが響く。

 

『間もなく艦隊が帰投します。

 被害状況は旗艦・愛宕が中破。軽巡矢矧、中破。軽空母祥鳳、小破。

 駆逐艦荒潮、中破。秋月、中破。如月……大破。

 如月さんは単独航行が不能な状態です。

 ドック入渠は如月さんを優先してください」

 

アナウンスの直後に誰かが叫ぶ。

 

「……見えました!……6名!」

 

艦娘たちの間に、さらに緊張が走る。

純一も固唾をのんで見守る中、艦隊が近づいてくる。

 

それは、平和な世界で生きてきた12歳の少年が見るにはあまりに悲惨な姿だった。

身に着けた艤装は無残にひしゃげ、黒煙をあげている。中にはまだチロチロと燃えているものもある。

艦娘たちはその衣服もボロボロで、むき出しになった皮膚は大小の傷だらけ。

もっとも被害が大きかった駆逐艦・如月は

頭から血を流し、左腕は不自然に折れ曲がっていた。

 

硝煙と、油と、そして血の匂いに包まれて

それでも、艦隊は全員戻ってきたのだった。

 

いつの間にか発着ゲート正面に来ていた晴海に向けて

艦隊の6人が――祥鳳に抱えられ、立っているのがやっとという有様の如月さえも――

敬礼をし、晴海もそれに答礼する。

 

「第二艦隊、ただいま帰投いたしました」

 

「ご苦労でした。報告は後でよいので、まずは傷を癒してください。救護班!」

 

再び慌ただしく艦娘たちが動き出す中

今度は……純一は動かない。

 

叢雲が純一に目をやる。

顔は青ざめ、ひざが笑っている。

ただ眼だけは、逸らすことなく帰投した艦娘たちを見つめていた。

 

(無理もないか……逃げ出さないだけでも、えらいわよアンタ)

 

大破した如月はタンカで、残りのものは歩いて入渠ドックに向かう。

が、6人すべてが損傷しているのにドックの数は4つ。

損傷の少ない祥鳳を後に回すとしても1つ足りない。

愛宕がドックの前で立ち止まり、すぐ後ろを歩いていた矢矧に

 

「矢矧さん、お先にどうぞ」

 

「え?ですが、損傷は愛宕さんのほうが……」

 

「私、いちおう旗艦だから提督に報告しないとね」

 

傷の痛みに耐えながら愛宕が無理にほほ笑む。

 

「わかりました。それでは、失礼してお先に入渠させていただきます」

 

「いってらっしゃーい」

 

ドックに入っていく矢矧を笑顔で見送って

それが愛宕の限界だった。

 

ゆらり、と体をふらつかせる。

周囲の艦娘が、あっと思う間もなく地に倒れこみ……

 

は、しなかった。

 

人ごみの中から、小さな人影が一つ走り出て

倒れかけた愛宕の体を下から抱きとめて支える。

純一だった。

 

「くっ!~~~~~~っ!!」

 

愛宕は、どちらかとえいば大柄な艦娘だ。

倒れかけた彼女を支えるのは

大人でもけっこう力がいる。

純一の小さな体のどこにそんな力があったのか

よろめきながら、ふらつきながら

それでも彼は歯を食いしばり、顔面を紅潮させて愛宕を抱きとめた。

 

意識の飛びかけていた愛宕が

純一に抱き留められてはっとする。

 

「あ……?あ、ありがとう……」

 

艦娘たちが、純一に代わって愛宕を支えようと

歩み寄ろうとした瞬間

叢雲が、初春が、晴海が、木曾が

両手を広げてそれを制する。

木曾が小声で、だがハッキリと告げる。

 

「ヤツにやらせろ。大丈夫だ」

 

愛宕は自分を受け止めた少年に目をやるが

出撃していた間に来訪した純一の素性は知らない。

 

「えっと……キミはだぁれ?」

 

「島田……純……一ッ……!」

 

重さに耐えながら純一が答える。

島田、という苗字であらかたの事情を察したのか

愛宕はほほ笑んだ。

 

「そう、ありがとう、純一クン。

 私、提督の執務室まで行かなきゃいけないんだけど……

 ちょっと一人では行けそうにないから……送ってもらえますか?」

 

「……はい!」

 

晴海が二人の前に立ち

 

「報告は急がないわ。ゆっくりでいいから……

 純一君、愛宕さんを執務室まで送り届けて、ね?」

 

そう言うと、二人の後ろに控えていた叢雲に目配せする。

叢雲は黙ったままうなずいて

執務室へよろめきながら歩き始めた二人のあとを

見守りながらついていった。

 

 

執務室前の廊下に

ぐったりとして座り込む純一。

何度も転びそうに、倒れそうに、膝まずきそうになりながら

それでもなんとか無事に愛宕を執務室に送り届け

ドアが閉まったところで力尽きたのか壁にもたれながら

ズルズルとその場に座り込んでしまったのだ。

廊下の手前から、声がする。

 

「体をもっと鍛えないとダメね」

 

「じゃが、よう頑張ったの」

 

「ああ、ガキにしちゃよくやったぜ」

 

叢雲が。初春が。木曾が。

純一に眼差しを向け、ほほ笑んでいた。

 

「ほら、そんなとこ座り込んでないで立ちなさい」

 

差し伸べられた叢雲の手を握り、純一がやっとという感じで立ち上がる。

 

「さ、行くわよ」

 

「え……どこへ?」

 

「食堂よ。デザートのアイス、まだだったじゃない」

 

「あー……そういえばそうだったっけ」

 

「サイレンが鳴ったのが、アイスを受け取る前でよかったのぅ。

 受け取ってからでは、今頃は溶けてしまっておるぞ」

 

ハハハ、と軽く笑いあう4人の前で、執務室のドアが開く。

 

「純一」

 

出てきたのは島田だった。

 

「おいで」

 

「何?」

 

近寄ってきた純一を、島田がしゃがみこんで抱きしめる。

 

「な、なんだよ急に」

 

「いいから」

 

しばらくの間、そうして抱きしめてから

体を離して純一を見つめ

 

「頑張ったね」

 

「うん」

 

「どうして、そんなに頑張ったの?」

 

「え……うーん……そう言われると、なんでかな……?

 夢中だったから、よくわかんないや」

 

「そう」

 

島田は立ち上がると、叢雲に向かって頭を下げる。

 

「叢雲さん、純一が大変お世話になりました。ありがとうございました」

 

「あ、ああ、いや、その……勝手に、妙な体験させちゃって申し訳ないというか」

 

晴海も、同じような体験を経たことがきっかけで

鎮守府提督を志すことになった。

それをまた繰り返してしまったかもしれない。

そんな思いが、島田に対する気まずさになって

叢雲はつい彼女から目を背ける。

 

「いえ、貴重な体験だったと思います。

 それをどう生かすかはこの子次第でしょう。

 それでも……何も知らないままよりは、ずっといい」

 

「……だといいんだけど。

 じゃあ、もう一度食堂に行って、それから戻ってきますね」

 

食堂に向かいながら純一が

 

「ねえ、初春」

 

「なんじゃ?」

 

「僕、いつかまた来るよ。で……みんなの仲間になれるように、頑張る」

 

「?何を言っておるのじゃ純一」

 

「何って、だから仲間になれるように……」

 

初春が手にした扇子を広げ、隠すように顔の前にかざす。

 

「……貴様はな、もう我らの仲間じゃ。

 食堂で、我らのために働くと決意して

 そして実際に行動して、我らを助け苦難を乗り越えた。

 これで仲間になれなんでどうするのじゃ」

 

「え……」

 

ポカンとする純一の肩を叢雲がポンと叩く。

 

「ま、臨時雑用係ってところかしらね?

 とすると支援艦隊所属?それとも司令部所属かな?」

 

「なんだ、俺の子分にしたかったんだがな」

 

「あらなに、そんな気にいったの?」

 

「ああ、気に入ったね!悪いか?」

 

「ちょ、こんなクソガキ気に入るとか頭大丈夫!?」

 

「そういう叢雲も、だいぶこやつを気に入ったようじゃが?」

 

「な!?」

 

(なんか変な状況になってる気がする……)

 

怪しくなってきた雲行きに、少々不安を感じる純一だった。

 

 

そして月日は流れ……

 

「確かに、いつかまた来るとは言うておったがの」

 

「こんなすぐ来るんなら、いつかまた、なんて言うんじゃないわよ!」

 

「あれ、なんかいきなり機嫌悪い?」

 

月日は……ちょっとしか流れていなかった。

次の土曜日に、またぞろ純一はやってきたのである。

鎮守府正門前で、呆れ顔で純一を出迎える叢雲と初春。

 

「てっきり……高校生ぐらいになってから来るのかな、とか思ってたのに」

 

「じゃのう……まあ、よいわ」

 

と、本棟から木曾がやってくる。

 

「よう、純一。手ぇ出しな」

 

「何?」

 

「どうせまた来週も来るんだろ?

 来るたびにいちいち入場許可とか面倒じゃねえか。

 だからホレ、職員バッジとパスカード」

 

そう言って、純一が差し出した手に金属製のバッジと一枚のカードを渡す。

 

「これで、正真正銘、俺たちの仲間ってこったな」

 

「うむ。純一、こき使ってやるぞ、覚悟せいよ?」

 

「まずは入り口の掃除でもさせとこうかしらね」

 

「仲間になると扱いが雑になるね!?」

 

「そういうものじゃ」「そういうものよ」「お客さん扱いのがよかったか?」

 

三人に小突き回されながら

純一はそれでも嬉しそうに鎮守府に入っていった。




純一くんは元々は主人公にするつもりだったキャラです
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