嵐の向こうはきっと晴れ   作:華留奈羽流

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終わらない導入部。


そんなにイジられると、私、混乱しちゃいます

工廠から資材倉庫、装備保管庫、入渠ドック、発着ゲートと

鎮守府の案内はこれといった事もなく進み

残る主な施設は食堂を残すのみとなっていた。

 

「ちょうど時間もよろしいようですし、このまま食堂で会食とさせていただきますね」

 

大淀の案内で食堂へと進む一行。

晴海が腕時計に目をやって

 

「もうお昼かー。言われてみればちょっとお腹すいてきたね」

 

「そういえば、特にプロフィールに記載がなかったのですが

 提督は苦手な食べ物とかありますか?」

 

大淀の問いかけに晴海が少し考えて

 

「んー、一般的な物で特に苦手ってのはないよ。

 和洋中華なんでも好きだけど、海産物が特に好きかな」

 

「それでしたら、ここは新鮮な海の幸に恵まれていますから

 きっとご満足いただけると思います」

 

「実を言うと、ここの食事ちょっと楽しみにしてたのよね」

 

と言ってえへへ、と笑う晴海。

 

やがて平屋建ての大きな木造の建物にたどり着く。

ここは言うなれば鎮守府の職員食堂なのだが

入り口には暖簾がかかっていたり鉢植えが置いてあったりで

幹線道路沿いの飲食店風な雰囲気になっていた。

 

「こちらが食堂になります。

 艦娘以外にも、妖精さんや軍属の職員さんたちがここで食事を摂ります。

 ここで食事を摂る以外にも、小さいですが売店もあって

 そこでパンやおにぎりを購入して自分の部屋や屋外で食べる人もいます」

 

「開いてるのは何時まで?」

 

「入り口は24時間開いていますが

 食事を摂れる時間は朝の7時から夜の11時までです。

 時間外には軽食や飲料などの自動販売機があり

 そういったものを利用することになります。

 ……もっとも、こっそり鎮守府を抜け出して

 近くのコンビニなどに行ってしまう人もいるんですが」

 

そう言いながら大淀が横目で大和を見る。

大和はそれに気づいていないのか

 

「そうそう、1年ぐらい前に、国道沿いの歩いて10分ぐらいのところに

 24時間のコンビニできたんですよ。けっこう助かっちゃってます」

 

「あら、大和さんそんなにしょっちゅう外出届けを出してましたっけ?」

 

基本的に、艦娘が任務以外で鎮守府から外に出るときには

外出届を司令部に提出することになっているのだ。

 

「ああ、いや、助かる人もいるだろうなーってことで?」

 

「……まあ、そういうことにしておきましょうか。

 さ、ここで立ち話もなんですから、どうぞ中へ」

 

中に入ると、昼時ということもあってすでに10人ほどの艦娘がいた。

中央には大きなテーブルが二列に並び

窓際には少し小さなテーブルが並べられている。

窓の反対側が料理の受け渡しカウンターで、その奥が厨房なのだろう。

奥では数人が忙しそうに動いている。

 

晴海たちが入ってきたのを見て、艦娘たちが立ち上がり敬礼をする。

 

「あー、そのままでいいよー。お食事邪魔しちゃってゴメンねー」

 

ヒラヒラと手を振って場を収めると、晴海は食堂を見回してみる。

 

「えーと、空いてる席は……」

 

「あ、会食はあちらの小部屋で」

 

大淀が奥の小さなドアを指し示す。

 

「そうなの?皆と一緒でもいいのに」

 

「まあ幹部会も兼ねてますので。さ、どうぞ」

 

言われて小部屋のドアを開けると

数名の艦娘が部屋の壁際で待機していた。

 

「こちら、鎮守府の各戦隊隊長になります。皆さん、自己紹介を」

 

大淀に促され、壁際の艦娘たちが端から敬礼とともに自己紹介していく。

 

「空母機動部隊隊長、正規空母飛龍です」

 

「支援艦隊隊長、重巡洋艦羽黒です」

 

「水雷戦隊隊長、軽巡洋艦神通です」

 

「司令部所属、工作艦明石です」

 

「私大淀も、同じく司令部所属になります」

 

「そして、私大和が水上打撃部隊の隊長です。

 以上6名が、この鎮守府の幹部職となっています」

 

「はい、みんなお疲れ様!じゃ、私も改めて自己紹介するね。

 藤村晴美です。階級はいちおう少将よ。生まれも育ちも東京だけど

 別荘は葉山にあったから海には慣れ親しんでるつもり。

 見ての通りの若輩者だけど、よろしくね!

 それから、こちらは私の秘書の島田さん」

 

「島田と申します。元は藤村家のメイドをさせていただいておりました。

 よろしくお願いいたします」

 

「さ、それじゃ皆席についてついて!……ほら島田さんも!」

 

「え、いえ、私はこれで退室させていただきます」

 

確かに、メイドが主人と同じ席で食事をするということはまずないのだが

晴海は納得しない。

 

「もー!ここじゃメイドじゃないんだし一緒にご飯食べようよー!」

 

「いえ、その……ケジメというものが……」

 

「島田さん、秘書艦は提督と一緒にご飯食べますよ?」

 

「ほらー」

 

困惑する島田に大和が告げ、晴海もそれに便乗する。

やがて諦めたように島田も席に着いた。

 

「……それでは、失礼してご同席させていただきます」

 

島田が席に着いたところで、厨房側の入り口から

女性が1人入ってきて、深々と頭を下げた。

大淀が彼女を見て

 

「こちら、この食堂の責任者で、給糧艦の間宮さんです」

 

「初めまして提督、間宮と申します。

 艦娘ではありますが、戦闘艦ではなく、皆さんのお食事を作るのが主な仕事です。

 そのほか、売店や自販機の商品管理も担当しています」

 

「よろしくね間宮さん!……それにしても、聞いただけでも仕事量多そうね」

 

晴海がふと漏らした感想に大淀が答えた。

 

「戦闘のない時は、いちばん大変なのは間宮さんかもしれません」

 

「一人で運営してるの?」

 

「いえいえ、パートで働きに来てくれている民間の方も何人かいますし

 手の開いている艦娘の方がお手伝いしてくれることもありますから。

 それでは、お料理をお持ちしますね」

 

晴海が期待を込めた眼差しで間宮に尋ねる。

 

「今日のメニューは?」

 

「シーフードフライ盛り合わせとシーザーサラダです。

 提督はライスとパン、どちらがよろしいですか?」

 

「あ、ライスで」「私もライスを」

 

「かしこまりました」

 

いそいそと間宮が厨房のほうへ戻っていく。

晴海は皆のほうに目を向け

 

「着任にあたって、お話しすることはいろいろあるんだけど……

 まずは食事を楽しみましょう!」

 

 

「ご馳走様でした!いやー、美味しかったー!」

 

和やかな雰囲気のまま食事が続き

今はデザートのコーヒーを楽しんでいる。

コーヒーをすすりながら、それまで終始笑顔だった晴海が

スーッとまじめな顔になっていく。

 

「それでは、提督としての私の基本方針を言っておきます。

 質問などあれば随時発言してもらってかまいません」

 

口調も、16歳の少女のそれではなく、鎮守府提督の口調に変わり

その言葉に、皆が居住まいを正す。

 

「これはここに集まる前に大和さんには言いましたが……

 なるべく艦娘の仕事を減らして、その負担を軽くすることを考えています。

 手始めに、大和さんの秘書艦業務を島田さんに代わってもらうことにしました」

 

大淀が驚いて尋ねる。

 

「え……それでは、解任、秘書艦職は空席、ということですか?」

 

「秘書艦という役職が名誉なものである以上、それはしません。

 ただ業務だけを島田さんに任せ、職務負担をなるべく肩代わりしようということです」

 

「なるほど……」

 

「それ以外にも、本来なら艦娘がやるべきではない、と思われる仕事は

 どんどん人間の職員に代わってもらうつもりです」

 

飛龍が小首を傾げてから質問をする。

 

「そうなると、私たちけっこう空き時間とかできますよね。そこはどのように?」

 

「こちらから、アレをやれ、コレをしろと命令するつもりはありません。

 休息にあてるもよし、何か好きなことをして英気を養うもよし。

 もちろん、訓練に励んでもらっても結構です」

 

と、神通が目を輝かせる。

 

「訓練!……訓練時間が増えるのはいいですね!」

 

飛龍が苦笑いしながら

 

「ほどほどにしないと、かえって提督が駆逐の子に恨まれるかもよ?」

 

「え、そうでしょうか?」

 

「神通ちゃんの訓練に参加するより、実戦のほうが楽だって皆言ってるからねー」

 

「ええ!?そんなことないですよー。

 訓練じゃ沈まないんだから、その分厳しくはしてますけど」

 

神通が反論するが、今度は羽黒が記憶を掘り起こしながら

 

「私も何度か参加させてもらいましたけど

 訓練用の模擬弾で大破する艦が出るってどうなんでしょう?」

 

「当たるから大破するんです。避ければいいんです。そのための訓練です」

 

皆がやれやれと苦笑いする中、晴海が念のためと釘をさす。

 

「……神通さん、訓練時間を増やすのは結構ですが

 追加の訓練は自主参加にしてあげてください。

 着任早々、恨まれたくないですからね」

 

「は、はい!了解いたしました!」

 

「まあそれも、実際に皆さんに空き時間を作ってあげられるようになってからですが。

 いちおう、こういう方針だということ、各隊で伝達しておいてください。

 ……今日のところはこんなところかなー」

 

最後のほうは、くだけた口調に戻っていた。

言い終わると晴海はパッと立ち上がり

 

「じゃあいったん解散ね!歓迎会、ヒトハチマルマルからだよね?

 散歩がてら、ちょっとコンビニでも行ってくるねー」

 

「え、あの、外出届を……」

 

「島田さん出しといてー!」

 

大淀が制止しかけたのだが

言うが早いか、部屋を飛び出していく。

 

(真面目なのかいい加減なのか……)(不思議な人だなぁ……)

 

ため息をついている島田以外の全員が呆気にとられ会食は終わったのだった。




なにしろお話始まってからまだ1日が終わってません。
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