嵐の向こうはきっと晴れ   作:華留奈羽流

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後半がちょっとシリアス。


何かあったらお姉さんに相談してね

戦艦娘たちと別れ、食堂を後にすると晴海は執務室へ向かう。

すでに島田が準備を整え、晴海が来るのを待っている……はずだったが

実際に執務室で待っていたのは、大和だった。

特に何をするでもなく、提督の執務机の脇から窓の外を眺めていたのだが

晴海が入ってくると、ピクリと少し身を震わせる。

 

「おはよー大和」

 

「お、おはようございます、提督」

 

部屋の中を見回すが、島田はいないようだ。

 

「島田さんは?」

 

「未提出の書類があるとかで、工廠に行きましたよ」

 

「了解。んじゃ仕事開始は島田さんが戻るの待ってからにしようか」

 

「はい。お茶でも淹れましょうか?」

 

「んー……まだいいや」

 

晴海が自分の椅子に座ろうと机に近づく。

と、大和がツッとわずかに距離をとる。

 

(あー……だいぶ警戒されちゃってるわね。こりゃ早々に謝ったほうがいいかな?)

 

「あのさ」「あのっ」

 

二人同時に話しかけようとして

 

「ああ、大和から言って」「提督、どうぞ」

 

今度は同時に譲ろうとして、黙ってしまう。

苦笑いしながらも晴海が口を開く。

 

「じゃあまあ、私から……その、昨日は驚かせちゃってゴメンね?」

 

「え……い、いえ、私のほうこそ、取り乱してしまって……スイマセン」

 

「大和が謝ることないよー。ちょっとやりすぎちゃったね、ほんとゴメン」

 

パンッと両手をあわせ、大和を拝むようにして詫びる。

 

「でも……あれが提督の望み、だったわけですよね?」

 

「ほい?」

 

「わ、私の体を、み、見たかったんですよ……ね?」

 

「うーん……まあ、その……大和は美人だしスタイルもいいしね」

 

何か雲行きの怪しさを感じつつも晴海が思ったままを答えると

顔を真っ赤にしながらも決然として大和は声をあげる。

 

「て……提督のお望みをかなえるのが秘書艦の役目ですから!

 ご、ご希望ならばこの大和!いつでもこの身を、さ、ささ、さささ捧げる覚悟は!」

 

「いやいやいやいや。待って待って待って待って」

 

左手でこめかみを押さえながら、押しとどめるように晴海が右手をあげる。

あげた右手が、ちょうどすぐ脇にまで近寄っていた大和の胸に触れる。

 

ぽよん

 

「あ、ごめん」

 

「!…………どうぞっ!」

 

晴海はすぐに手を引っ込めたのだが

大和は目をぎゅっとつぶり胸を突き出してくる。

 

やれやれと立ち上がり、大和の正面に立つと目をつぶったままの大和の肩に両手を置く。

 

「ちょっと落ち着いて大和」

 

大和は驚いたようにいったん目を開く。

その姿勢は今の大和からすれば

抱き寄せられるか唇を奪われるかといったところだった。

壁があったら壁ドン状態である。

ちなみに言葉のほうは耳に入っていない模様。

再び目を閉じると両手を胸の前で合わせ

 

「…………どうぞっ!」

 

(いやどうぞって言われても……何これ)

 

艦これ。

晴海も自分たちの体勢がキスシーン直前っぽくなっていることに

今さらながら気がついた。

 

(あれ……この体勢ってヤバくね!てかヤバイよね!?

 これヤっちゃわないとダメなパターン!?それともヤっちゃダメなパターン!?

 教えてエロい人!もしくは島田さん!)

 

心の中で島田にSOSを発信する。と

 

「これはヤっちゃったほうがいいパターンですね」

 

「うわあぁっ!?」

 

執務室の入り口で書類の束を抱えている島田が冷静に教えてくれた。

晴海は驚きで動きが止まってしまって大和の肩に手を置いたまま。

大和は島田が戻ってきたことにも気づかず、同じ姿勢で全力で王子様のキスを待っている。

 

「いっ、いつ戻ってきたの!?っていうか、心読むのやめて!?」

 

「つい今しがた。いちおうノックはしましたが、大和さんが『どうぞ』と仰ったので」

 

ノックの音に気づかないほど狼狽していたということか。

 

「いやどうぞって島田さんに言ったんじゃないけど」

 

「ちなみに、別に心を読まなくても、こんな風にキスシーン直前で固まって脂汗流してたら

 なに考えてるかぐらいわかります」

 

「……ソウデスカ」

 

「あと、私とエロい人を同列に並べるのはやめてください」

 

「やっぱ読まれてる!?」

 

「さ、どうぞ続けていただいて結構ですよ。仕事は私のほうで進めますから」

 

「そんなわけいくかー!ちょっと、大和ももう戻ってきなさいって!おーい!」

 

晴海がゆさゆさと大和の両肩を揺さぶるが

 

「ああん、そんな……いきなり、激しい……(ポッ)」

 

「どんなプレイだー!?」

 

 

「……轟沈してしまいたい」

 

我に返った大和はヘナヘナとその場に崩れ落ちると

両手で顔を覆ってしまい、立ち上がる気力もないようだった。

 

「いや……その、勘違いさせてゴメンというか何というか」

 

そんな大和の肩を……抱こうと思ったのだが

またぞろヤバイ状況になるのではと躊躇う晴海。

島田が察してか二人に声をかける。

 

「さあ、執務を始めますよ。提督、お座りください。

 大和さんは私の監督をお願いします」

 

「……はぁい」「……はい」

 

それぞれがポジションにつき、書類仕事を始める。

といっても、ほとんど島田が処理しているのだが。

秘書艦用の机に積まれた書類の山が、見る見るうちに平らかになっていく。

晴海は島田の処理済み書類に一応目を通し、ハンコを押していくだけである。

大和にいたっては殆どすることがない。

本来なら島田の書類への記入をチェックしているはずなのだが

 

(処理が早すぎて目が追いつかない……!)

 

「……思うのですが、紙の書類が多すぎませんでしょうか」

 

手を止めることなく島田がつぶやく。

 

「あー、そーねー。こんなの電子化しちゃったほうがいいよねー」

 

「大本営でもこうなのでしょうか」

 

「らしいよー。というか、大本営がこうなんで

 下部組織の鎮守府だけが電子化するわけにいかないんだって。

 研修先の鎮守府で秘書艦がボヤいてた」

 

(……提督と同じコト言ってる)

 

大和は思い出しながらクスリと笑う。

思い出したのは、前の提督。壁にかかった写真を見つめる。

 

その視線に気づき、晴海も壁の写真を見た。

 

「あ、これ……前任の……」

 

大和がしまった、という顔で

 

「あ、はい……前の提督さんの……スイマセン、片付け忘れてしまって……

 今外しますね?」

 

写真に歩み寄ろうとする大和を晴海が止める。

 

「ああ、いいのいいの。むしろ……飾っておいて」

 

「よろしいんですか?」

 

「……うん」

 

晴海が島田に、どうしよう?という視線を向ける。

チラリと見返した島田がパタンとファイルを閉じ

 

「さて……一段落つきましたし、お茶でもいれましょうか」

 

と言って立ち上がる。大和がハッとして

 

「あ、だったら私が……」

 

島田に声をかけたのだが

 

「いえ、茶葉のよいものを持参してきているのです。

 ちょっと部屋に戻って取ってまいります。

 ついでに茶菓子も用意いたしますので、しばしお待ちを」

 

と言って出ていってしまった。

それは、二人きりのほうが話しやすいだろうという島田の配慮だったのだろう。

彼女が退室したところで、晴海が切り出す。

 

「昨日……私が脱いで、大和も脱がせたのってね」

 

「は、はい!?」

 

「信頼関係を築くには、ハダカの付き合い?ってのが必要だってよく言わてれたから

 たぶん、それが頭に染み付いてたってことなのかなと思う」

 

「……そう言えば、前の提督も、よくそんなこと仰ってましたね。

 流石に、艦娘を脱がせはしませんでしたけど

 酔っ払うとすぐに服を脱ごうとして……」

 

「あはは、やーっぱ似ちゃったのかなー、私」

 

「……はい?」

 

「前任の嵐山提督は、私のお父さんなの」

 

「…………えっ?」

 

「お父さんの写真、残しておいてくれてありがとうね」

 

「でっ……でも苗字がっ……!?」

 

「お父さんの乗った飛行機が行方不明になって、死亡って判断されて

 養成校にいたときはまだ嵐山で通してたんだけど

 卒業してからは、藤村姓を名乗ることになってね」

 

大和は思い返す。

嵐山提督がすでに結婚していて、奥さんの家は裕福で

とても賢い娘さんが1人いることなどは聞いていた。

だが、その話に聞いていた一人娘と

今ここにいる晴海を結びつけることは考えも及ばなかったのだ。

 

提督の乗った軍用機が南西諸島沖で行方不明となり

必死の捜索にもかかわらず機体の残骸さえ見つけることもできず

おりからの深海棲艦の攻勢により

捜索は打ち切られ、提督も死亡したと判断された。

 

葬儀に出向いたのは一番付き合いの長かった前任の秘書艦の叢雲だった。

そこでも大和が晴海と出会う機会がなかったわけだ。

大本営からの通知を受けたときのあの思いは

大和にも、所属の艦娘全てにも深く刻まれている。

その思いがまた新たに胸の奥から沸きあがり

大和はギュッと口元を引き締めた。

 

おずおずと大和が尋ねる。

 

「では……やはり、仇討ちのために提督に?」

 

「あー……全然そういう意識がないって言ったらウソになるけどね。

 ただ、お父さんがああいうことになる前から

 私も提督になるんだ、ってのは決めてたの」

 

「そうなんですか」

 

晴海が潤んだ目を中空に向ける。

 

「この鎮守府ができて、お父さんが着任したばっかりの頃

 一度、私ここに来てるのよ。私がまだ12歳の夏休みにね。

 艦娘は初期艦のムラちゃん……叢雲と、あと駆逐艦の子が二人だけでね。

 2週間ぐらい、いたかなぁ。お父さんも、艦娘も……みんな必死に戦ってた。

 私には、そんな素振り見せないようにしてたみたいだけどね」

 

できたばかりの鎮守府の苦労は、大和は話に聞いているだけではあったが

その苦労の様子がどれだけ多感な少女に影響を与えたかは容易に想像できた。

 

「そのとき、お父さんと約束したのよ。

 私も提督になって、この鎮守府で、お父さんや艦娘の皆を助けてあげるって。

 ま、ちょっと……お父さんは、間に合わなかった……けど、ね」

 

声が途切れがちになる。

涙があふれ、頬を伝う。

それでも、晴海は胸を張る。

胸を張って、父の写真を涙を流しながら見つめる。

 

大和がそっと近寄り、晴海の肩を抱いた。

全てをさらけ出した晴海との、「ハダカの付き合い」が今日から始まる。




毎回一番悩むのは実はサブタイトル。
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