「はい?……『月刊・艦娘』?の……記者の方?」
昼少し前の執務室。
晴海と島田、それに大和がそれぞれのデスクで書類仕事にいそしむ。
午前中の業務がほぼ片付き、そろそろ昼食をどうするかが頭の中を占め始めたとき。
珍しく鳴った電話を取った島田が、少しの間やり取りをしてから
怪訝な顔で晴海を見る。
(いないって言って!)
晴海は身振りで居留守を使うように指示……したつもりだったのだが
「はい、少しお待ちください」
と言うと、島田は電話を保留にして
「提督、大本営からで、月刊艦娘の記者で青葉さんという方のお電話です」
取り次いでしまった。
確かに、電話に表示された発信先を見れば大本営ではあるのだが
出る気のなかった晴海は島田を恨めしげに睨む。
「いないって言ってってサイン出したじゃん!」
「え?……あれはどう見ても『早くつなげ』のサインでしたよ?」
……晴海はジェスチャーは下手だった。
仕方がないと渋々ながらも受話器をとって保留を解除する。
「はい、藤村です」
『あっ、藤村晴美提督ですね?突然のお電話で申し訳ありません。
私、大本営監修の月刊誌、月刊・艦娘の記者の青葉と申しますー』
電話の向こうから、若い女性の明るい声が届く。
青葉。晴海の記憶では大本営所属の重巡洋艦の艦娘で
雑誌記者のようなことをしているとか。
「はい……お噂はかねがね伺ってます」
『恐縮です!このたびは最年少での提督就任、おめでとうございます!』
「ありがとうございます」
『それでですね、我が月刊艦娘でもこの美少女提督の就任を機に
もっと世間一般に艦娘や提督のことを知ってもらおうと
『特集・藤村晴美』という記事を組むことになったんです!」
(美少女提督って誰だ。私か。私なのか)
『つきましては、藤村提督やそちらの艦娘の皆さんにお話をお聞きしたいと思いまして
こうしてご連絡させていただいた次第なんですが
いかがでしょう、そちらにお伺いさせていただいてかまいませんでしょうか?』
月刊・艦娘のことは養成校にいたころから知っているし
何度か目を通したこともある。
まあ大本営の官報みたいなものなので
当たり障りのない記事が殆どなのだが
それでも根掘り葉掘り聞かれるのは何となくイヤな気がして
「えー……私、着任したばかりでして、何かと……」
忙しいので申し訳ありませんがお断りします、と言いたかったのだが
いきなりバァン!とドアが開き
「提督ー、ヒマー?駅前のバーガーショップ新メニューできたんだってー!
一緒に行こー!どーせヒマっしょー?」
と受話器の向こうにも確実に聞こえたであろう大きな声を出して
航空巡洋艦・鈴谷が飛び込んできた。頭を抱える晴海。
「あれ?ゴメン電話中だったー?」
「鈴谷さん、ドアはノックしてと何度も……!」
大和が小声でたしなめるが時すでに遅し。
「……何かと……不慣れなところもありますが、それでよろしければ」
『ありがとうございます!
それでは明後日の午後1時から1時間ほど、お時間よろしいでしょうか?』
「あー……ハイ、ダイジョウブです」
『了解です!それでは、明後日にお邪魔いたしますのでよろしくお願いします。
何かご都合で日時の変更などありましたら
大本営広報部の青葉か衣笠までご連絡ください!それでは失礼します!』
ため息をついて力なく受話器を置くと、晴海はキッと鈴谷を睨みつける。
苦笑いしながら大和が尋ねる。
「取材の申し込み、ですか?」
「うん……断り損ねた……誰かさんのせいで」
不穏な空気に少し後ずさりする鈴谷。
「あー……なんか忙しい?」
「そうね。たった今、忙しくなることになったわ」
「じゃ、じゃあ……バーガーのほうは村雨と行こうかな?」
ときびすを返して退出しようとしたが、晴海の声がそれを許さない。
「待った。私の分はテイクアウトしてきて。
モチロン…… ア ン タ の お ご り で ね 」
「えーっ!?ちょ、提督おーぼー!」
「……あー訓練メニュー見直そうかなー。
航巡だって雷激戦には参加するんだし、神通んとこに参加とかいいかもねー。
どーお鈴谷ー?」
「ぐぬぬ……あーもう!買ってくるよ!その、新メニューのバーガーでいい!?」
「どうせならチキンとサラダのセットで。ドリンクはジンジャーエールでお願い」
「私も同じものをお願いします」「じゃ、じゃあ私も頼んじゃおうかな?」
「容赦ないねみんな……」
鈴谷がうなだれて出て行った後、3人で対応策を話し合うことになった。
「さて……まず、歓迎会のことは漏らすわけにはいかないわね」
まず晴海が一番の懸念事項を口にする。
「そうですね。未成年が酔っ払ってストリップしたあげく
艦娘まで脱がせてセクハラ三昧とか、外部に知られるわけにはいきませんね」
ダメ押しする島田。
「……ハイ」
「まあ歓迎会そのものがなかった、ということにするのがよろしいでしょう。
それならつじつまが合わなくなる心配もありません」
「じゃあ、各隊長に伝達してこれを徹底ってことで」
なにしろ取材に来るのが明後日と時間がない。
通常業務そっちのけで考えられる対応策を練っていった。
そして、取材当日。
「どもー、初めましてー!月刊艦娘の青葉ですー」「カメラの衣笠でーす!」
執務室に現れた重巡二人。
応対するのは晴海と島田の二人。
「今日は取材に応じていただきありがとうございます!どうかよろしくお願いします!」
「どうも、藤村です。こちらこそよろしく」
ソファに座った二人の前に晴海も腰掛ける。
「それではまず……確認させていただきたいのですが
お父様である嵐山提督とのことは、記事にしてもよろしいでしょうか?」
そこまで調べていたか、と表情こそ変えなかったが、晴海もちょっと驚いた。
だが、よくよく考えれば相手は大本営の艦娘。知っていてもおかしくはない。
そして、記事にしてよいかをわざわざ確認している……
「……できれば、伏せておいていただきたいですね」
「そうですかー。了解しました、ではそこには触れずにすむように記事を構成しますね!」
晴海はなんとなく胡散臭そうな印象を持っていたのだが
どうやら信頼してもよさそうだと感じ始めた。
青葉が次の話題を切り出すまでは。
「それではですね……実はこちらにお伺いする前に
近隣の住人の方にお話を聞いてきたんですけども」
「……は?」
「何ですか、着任当日の歓迎会で、酔っ払ってストリップしたあげく
艦娘たちまで無理やり脱がせてセクハラし放題だったとか?」
晴海の顔から血の気が引いていく。
取材申し込みのあったその日に艦娘たちには緘口令をしいたが
歓迎会からそれまでは幾日かあった。
その間に、外出した艦娘からすでに情報は漏れていた……!
「あ、それと隣の漁港の漁師さんから伺ったんですが
つい先日、鎮守府内の砂浜であられもない格好で海水浴されてたとか?」
青ざめた晴海の顔に脂汗が浮かぶ。
まさかそんな情報まで聞きつけていたとは……!
「まあ未成年で飲酒というのも問題なんですが
これを取り上げると提督解任なんてことにもなりかねないんで
これもまあ伏せておくとして……
どうなんでしょう、アレですか、露出癖でもおありなんですかね?」
黙り込む晴海。助けを求めて島田をチラッと見るが
「ありますね。しかも他人まで露出させますからたちが悪いです」
島田はニッコリ笑って、裏切った。
「おおぉい!?」
「ははあ、なるほど。これはアレですね、読者の方の妄想も捗りますねー!」
「いや、あの……これも、伏せておいていただけない……ですか?」
「うーん、アレも伏せるコレも伏せるだと記事にならないですからねぇ」
懇願する晴海を見て青葉はニヤニヤしている。晴海も
(別に記事にしてくれとか頼んでないよ!)
とは思ったのだが、ここは下手に出るしかない。
「そこを何とかー!」
土下座でもし兼ねない晴海の勢いに押されたのか
青葉もやれやれとため息をついて
「わかりました。せっかくの面白いエピソードですが
この件は記事にはしないことにしましょう!
で、その代わりと言っては何なんですが……」
「……代わり?」
青葉が衣笠に目配せをする。
嫌な予感しかしない晴海だった。
しばらくして
「提督、先日取材のあった月刊・艦娘さんから見本誌が届きましたよ」
執務中の晴海のところに大和が大きめの封筒を持ってくる。
強張った顔で、目も向けずに晴海がボソリと答える。
「……捨てて」
「え?でも、提督が取材に応えた号なんですよね?」
「そうね。でも捨てて。焼き捨てて」
「そんな……あ、じゃあ捨てるぐらいなら私貰ってもいいですか?」
「……見終わったら焼き捨ててくれるなら、いいわ」
「?何をそんなに……」
そう言いながら大和は封筒から中身を取り出す。
その雑誌の表紙には
『巻頭カラー!前代未聞!?新任提督・藤村晴美水着グラビア!』
とデカデカと書かれた文字が重なる
かなりきわどい水着姿の晴海の写真があった。
「……これ、部屋に飾ってもいいですか?」
「やーめーてーよー!!」
まあでもそういう雑誌があってもおかしくはないですよね?