本が紡ぐ”縁”    作:マヨネーズ撲滅委員長

1 / 8
他作品が進まないので息抜き作品その2(白目)。前々からバンドリは書いてみたかった。


~何気ない前触れ~
恥ずかしがり屋な少女が来店しました


 学生、いやそれに限らず人間と言う生物は誰もが何かしらの趣味嗜好を持ち合わせている。ある人は部活で仲間と共に汗水を垂らす事を、またある人は自宅でネットゲームに熱中する事を。

 きっと探せば幾らでもあるのだろうが、今回はそこが論点では無いので省かせてもらおう。

 

 では、何故皆はそれぞれの趣味に勤しむのか。

 それを自分は『性に合うから』だろうと考える。趣味が嫌いな類だと本末転倒な事をする輩は普通はいない。……筈だ。

 身体を駆使する事が好きだからこそ運動部へ入り、仮想だとしても銃で敵を撃破する事を望んだからこそゲームの世界に飛び込んだのだろう。

 

 かく言う自分も趣味と呼ぶに値する物を持ち合わせている。それは様々な本を読み漁る事だ。

 幼少期、運動が苦手な上に人見知りだった自分に、本はあらゆる夢を与えてくれた。

 時には勇者が誉れある冒険を繰り広げる英雄譚であったり、探偵が複雑怪奇な謎を紐解いていく推理物語であった。

 

 薄っぺらい紙束の中には広大な地球の大地に引けをとらない程、膨大な世界が展開されているのだ。

 その偉大さにいつしか自分は惹かれ、虜になっていた。それこそバイト先に古本屋を選択するほどには。

 

「ありがとうございました」

 

 僅かにやる気の削げた応対で会計を終えた客を見送る。このご時世、下手したら客から咎められる可能性もあったかもしれないが、案外気にするのは一部だけなものだ。

 建付けの悪く、古びた扉から最後の一人が出て行ったのを確認して、そのままレジの前に備え付けれている椅子に腰掛ける。

 再び静寂を取り戻したのを入念に再確認してから、読みかけの小説に視線を落とす。

 

 扉に嵌め込まれた正方形のガラスから差し込んでくる夕日が、活字しか載らない白紙を情熱的に染め上げる。

 何度も読み返したはずなのに、何処か感傷的に感じてしまうのだから不思議なものだ。

 

 今や高校生になるまで年を重ねた自分だが、それだけ月日が流れ行けば趣味嗜好もよりこだわりが現れる訳で。

 必ず新品の冊子を購入することや、風情のある静かな空間で読むことは最低条件。おまけに和菓子が手元にあると尚良い。

 

 一時、中二病を拗らせた影響かやや恥ずかしい拘りな気がするが、不思議と羞恥心はなかった。至高の作品を最高の環境で見て何が悪いと言う話だ。ようは開き直った上の自己満足に過ぎない。

 第一、その趣味を揶揄う厄介な人物とは友達になどそもそもなっていない。

 

 当然とはなるが、新作ばっかり買っていたら貯金が即尽きるのも自明だ。。

 だから、しょうがなく。本当にやむを得ず、コミュ障が重い腰を上げて働いているのだ。できる事なら自宅に引き篭もって延々と本を読み漁っているだろう。

 

 趣味が趣味なだけに、本屋で働きたい気持ちも当然あった。しかし、大手チェーン店で雇用でもされてしまったら、もれなく接客のストレスで精神的な死を迎えてしまうだろう。

 コミュ障にとって、それだけは避けねばならない事案だった。

 

 故に、この廃れた古本屋に白羽の矢が立ったわけだ。

 商店街からやや外れた所に位置するから大して客足も延びず、滅多に出会えないような本ものんびり閲覧できる。

その上、それなりに給料もよろしく、仕事さえ真面目にこなせばある程度自由に過ごして良いという大盤振る舞いだ。

 店主には若干失礼ではあるが、まさに一石二鳥とはこれを指すのだろう。

 

 基本的に放課後の四時から夕方の九時までの僅かな勤務時間だけだが、意外なことに客が来店しない日は存在しない。

 誰かしらがここを訪れ、琴線に触れる一冊を探し得ていくのだ。他の日は繁盛しているのかは知らないが、これも古本屋の未知な魅力なのかもしれない。

 

「できればこのまま静かであって欲しいんだがな」

 

 店主に聞かれたら軽く叱られそうな台詞を吐いていたが、どうやら神様とやらは自分を扱き使いたいらしい。

 何故なら、入り口の前に人影が差したと思えば、建付けの悪い引き戸がギシギシと音を響かせながら開かれたからだ。

 

 コツコツと此方へと向かう足音が静寂の中で響き、やがて目前でその張本人が姿を晒した。

 背中にギターケースを背負い、赤いメッシュで前髪の一部を染めている少女は何処か呆れた様子だった。

 

「……あんた、また性懲りもなくこんな所で本読んでるんだ」

「こんな店に来る君も、大概だと思うがね?」

「あっそ。……別に、どうでもいいけど」

 

 ぼそっと独り言のように呟いた後、彼女は近くに設置してあった踏み台を此方へと引きずってくる。そして、自分と対面するような位置に設置してそのまま座り込んだ。

 自分もそれに応じるように読書を継続しつつも、彼女に先を促す。

 

「今日も面白い話題を持ってきたのか?」

「昨日あった事なんだけどさ。バンドの練習の時に────」

 

 彼女は学校で褒められたことを親に自慢するかのように、夢中になって友人のことを語りだす。前回は学校の定期テストに関わる話題だったが、どうやら今回はバンドの練習に関することらしい。

 内容が何であれ、自分は聞き手側に徹して彼女の気が済むまで付き合うだけなのだが。

 

 こうして割と親しげに会話を交わしているが、実の所は互いに名前を知らない。自分は君と呼称し、彼女はあんたと大雑把に言う。

 かと言って仲が悪いかと問われればそうでもなく、会えば必ずと言っていい程皮肉を交わし合う奇妙な関係だった。

 彼女がこの店を訪れる度に、顔を合わせればこうして愚痴の聞き手として相槌を打つのだ。

 

 ただ、強いて苦労した点を挙げるならば、彼女もまたコミュ障だったことだろうか。まともに話せるようになるまで相応の時間が費やされたのは、今では良い思い出だ。

 

 正直、店員に尋ねようとしてもコミュ障スキルを如何なく発揮して、一時間も本棚を睨み続けていた彼女よりかは幾分かはマシだと思いたい。

 

 そんな仲なわけだが、彼女について知っている事は意外と多い。決して人脈を使って経歴を漁った訳ではなく、彼女の口から自ずと告げられただけだが。

 

 彼女が幼馴染達とバンドをやっている事や、バンド名は『夕焼け』を意味する英単語だと言う事。他にもクールなように見えて内心寂しがり屋である事など様々だ。

 最後のは本人が聞けば否定するだろうが、親しい者だったらきっと肯定するだろう。彼女が人一倍に別れや変化の類いを嫌悪しているのは、文庫の趣味からも察せれるほどだった。

 

「────で、ひまりが財布を無くしてたって慌てていたら、実は楽器と一緒にケースに入れてたってオチだったんだよね。全く、あれだけ大騒ぎしておいて何やってるんだか……」

「いつも上原さんはうっかりしてるな。その子と一緒にいたら毎日退屈しなさそうだ」

「ただいつも振り回されてると大変でさ……」

 

 呆れた口調で彼女は語っているが、口元は緩んでいてどれだけバンドメンバーに心を許しているかが窺えた。

 どうでも良い相手だったら、きっと無愛想な表情を崩す筈がないだろうから。

 

 それからも話題は転々としつつも、彼女のおしゃべりは途絶えることがなかった。華道の作品について語ったり、前回買った書物の感想を議論し合ったりと、心地良い時間が流れていた。

 運が良かったのか、新たに客が来店することもなく二人だけの空間が出来上がっていた。

 

 可能ならばもう少しこの話題を掘り下げたい所だったが、そろそろ潮時だった。友人の話に夢中の彼女には悪いが、そろそろ現実に帰ってきてもらおう。

 

「楽しそうな所申し訳ないんだが、そろそろ閉店の時間だ」

「……あ、本当だ。もうこんな時間が過ぎてたんだ」

 

 彼女は慌てて時間を確認するが、壁に掛けられた時計の針はきっかり九時を指していた。

 まだまだ語り足りないと不満げな表情だったが、流石に勤務時間外まで働く気は無い。さっさと戸締りをするべく、彼女にご帰宅願うこととした。

 

「また来ればいい。暇な時だったら長話程度、幾らでも付き合うさ」

「……ありがと」

 

 そっぽを向いて、ぼそっと消え入りそうな声で告げられる感謝の言葉。社交辞令ぐらいの感覚だったが、彼女からしたら嬉しかったのかもしれない。

 顔を横に向けられたことで、朱色に染め上げられた耳が丸見えな事に彼女は気がついているだろうか。

 

「……気づいてないんだろうな」

「何の話?」

「いや、別に。それより、いつものやつだ」

 

 つい、口から零れた呟きを誤魔化しつつも、彼女に一冊の小説を手渡す。これもまた昔から続いている習慣で、毎回自分が薦める本を彼女は買っていくのだ。

 この一連のやり取りも信頼を得ているような気がして、気に入っていたりする。

 

 彼女は壊れ物でも触れているかのようにそっと手に取る。彼女もまたこの行為を特別だと認識してくれているのだろうか。

 

「いつもありがと。これ、幾ら?」

「それは自分の家から持ってきた一冊でな。多分もう読まないだろうから、やるよ」

「いやいや。流石にタダで貰うのは気が引けるんだけど」

「別に気にしなくてもいいんだけどな。でもそうだな」

 

 もったいぶるように区切った後、意識して口元に笑みを浮かべる。

 

「次この店来た時に感想聞かせてくれ。この作者マイナーだからネットでもそんな話題に挙がらないんだ。だからそれで相殺ってのは、どうだ?」

「……そういう所、ズルイと思うんだけど」

「ならそれ諦めるか?」

「……これでいい」

 

 今度は真っ赤になった顔を隠す事無く俯いた。それなりに話す仲になっても、約束事といった類はまだまだ照れるらしい。

 まぁ、この照れ顔見たさに狙ってやったわけだが、バレると怖いから黙っておこう。

 恐らく話題で度々出てきている悪戯好きのモカさんなら、きっとこの気持ちを分かってくれるだろう。

 

 フランスパンを齧りながらサムズアップしている姿を、一度も会った事が無い筈なのに何故か容易に想像できた。

 

「じゃ、じゃあ、あたし帰るからっ!」

「ああ。またのご来店をお待ちしております」

 

 彼女は羞恥を誤魔化すように慌てて荷物を纏めて立ち上がった。そんな姿に投げかけるように定型文を告げて、その後ろ姿を見届ける。

 一度も此方を振り返る事無く出て行った所を鑑みるに、どうやら想像以上のダメージを与えていたらしい。相変わらず彼女をからかうと反応が良い。

 

「さて、さっさと戸締りを済ませるか」

 

 次のシフトでは誰が訪れるのだろうか。少し思案してみたが、当然の如くわからなかった。




主人公
→今作の主人公、名前はまだない。コミュ障を自称しているが普通に接客もできるのでそこまで重度ではない……?苦手ではあるが仕事だと割り切れるタイプ。

美竹蘭
→記念すべき第1話の登場キャラ。ツンデレ見たさだけに選ばれた。主人公にはそれなりに心を開いている模様。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。