本が紡ぐ”縁”    作:マヨネーズ撲滅委員長

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一話だけだったのに意外と伸びててびびったのは内緒()


ブシドーな少女が来店しました

人間は学習する生き物として有名だ。

まぁそんな事言い始めれば、噂をする生き物なんて人間以外誰がいるのかという話にはなるが、そこは重要では無いので今回は置いておこう。

 

学生なんてのがまさに典型的なそれだ。教材を片手に教師の授業を板書しつつ静聴し、知識を養っていく。

序盤は足し引きなんて易しい課題から始まり、高校に至れば関数なんてのを習ったりする。

その他にも社会、理科、英語と数多な分野に手を出していき、幅広い知性が求められる機会がだんだん増えていくのだ。

 

しかしそれも大学に進めば幾つかは不要と切り捨てられ、より専門的に学んでいくことになる。

つまりは、自分の可能性を理解するべく一通りの学問に手を出していくのだろう。

人間面倒くさい事は避けがちであるから、ある意味合理的とも呼べなくは無い。

 

何事にも通ずる真理だが、基盤となる基礎が適切に成り立たなければ、その上に積み重ねていく応用、発展といった技術はスカスカのこけおどしにしか成り下がらない。当然の帰結だ。

 

しかし極稀に基本がままならない、歪な骨子が形成されていくことがある。

それらを天才、馬鹿、非凡、狂人などと人は呼ぶ。

 

得てしてそういった人物は相互理解という言葉から無縁の存在に成り果て、孤立や孤独の二文字を背負わざるを得なくなるわけだ。

本人にその気があるないどちらにしろ、だ。

 

さて、ここまで中二病拗らせたような持論を語ったわけだが、ここから結論として述べたいことが大きく分けて二つほど存在する。

 

一つ目は、後悔。つい昨日終わったばかりの定期テストに対する感情、大半の学生が一度は考えたことがあるであろう『もっと前から勉強しておけば楽だったのに』という無意味なぼやきだ。

序盤から土台を固めておけばこうはならないのだろうが、如何せん数日前から徹夜するタイプの自分には無縁の行為だった。

 

実際に解いた感触からして結果が散々という事は無さそうだが、それでもテストに向けた対策は億劫以外の何物でもなかった。

ただひたすら数式を解き、延々と古典単語や世界史の用語を暗記し、がむしゃらに物理や化学の公式を活用していく。

勉強を面倒だと考える部類である自分には苦行この上なかった。

 

というか何故理系なのに古典とかふざけた単元を学ばなければならないのだろうか。

英語もよく『海外に行くかもしれないから』と全く理由になっていない詭弁で諭されるが、古典なんて存在意義皆無では無いか。

それとも『昔の時代に行くかもしれないから』とでもほざくのだろうか。一回学ぶ意義を考え直した方がいい気がするのは自分だけではない筈だ。

 

話を戻して、二つ目は驚愕。よく子煩悩な母親が語る『この子一体どういう育て方したらこんな風に育つのか』というやつだ。

普通に幼稚園や家庭で幼い頃から躾けられていたら当然のようにできる事なのに把握できていなかったりするのだ、彼らは。

 

実は、今回の本題はここにあったりする。

 

俺は嫌々ながら現実に意識を戻し、カウンター越しに仁王立ちして佇む少女を改めて見やる。

三つ編みにして束ねた銀髪をゆらゆら揺らしながら、此方を不敵な笑みで見つめる姿はとても凛々しく、様になっていたが、生憎見惚れている精神的余裕はなかった。

かれこれ数分間この状態のままだったりするが、流石にこのままでいる訳には行かないので自分から行動を起こすことにした。

 

「……で。自分の聞き間違いの可能性もあるから、もう一度最初から話して欲しいんだが」

「ですので、ドージョーヤブリというやつです。いざ、真剣にショーブしてください!」

「落ち着け。君は絶対、何かを勘違いしている」

「そんなことないです。古来より日本ではこうやって修行の一環として、道場に戦いを挑みに行くと聞きました!」

「いやここ道場じゃない、古本屋だから。……と言うかそれ、いつの時代の話だ、今、平成だぞ」

 

これまで考えていたことは、全てただの現実逃避に過ぎなかったりする。理解することを止めてしまった自分は悪くないと信じたい。

 

無理も無いだろう。普通本屋でバイトしてたら道場破りが来たことなどある筈が無い。

そのような経験がある店員なんて、世界広しと言えど自分ぐらいじゃないだろうか。いたらむしろ対処法を教えて欲しいくらいだ。

 

そんな数奇な経験をコミュ障に課すとか、お天道様の頭には何が詰まっているのだろうか。

一度真剣に話し合う必要がありそうだ。どうやって対談するかは一切知らないが。

 

「え!もしかしてあなたは師範ではないのですか!?」

「生憎、自分は武道の心得はないが?」

 

こんな本片手に店番しながらだらけている師範なんている訳がないと思うが、彼女にとって衝撃的だったようだ。

エメラルドのようにキラキラした瞳を涙に潤ませながら、彼女はがっくり肩を落とした。

 

「うぅ、申し訳ありませんでした。古めかしい木製の看板があったので、てっきりそうだと……」

「まぁ、理解してくれたなら良かった」

 

何とか事情を把握してもらえたようで、思わず安堵の溜息が零れる。

どうやら間違った知識を持っていただけで、意外と話が通じる人だったようだ。

 

確かに一昔の道場と言えばそういったイメージは無くは無いが、でかでかと書店の文字が書いてあるから一般的に間違わないと思うのだが。

やはりそこは彼女と感性が違うのだろう。そう納得するしかない。

 

「まぁ、折角だし座ったらどうだ?」

「はい。失礼いたします……」

 

こちらが促すと彼女は申し訳無さそうに、いそいそと椅子に座り込んだ。

しかしその直後周囲の古本に興味を引かれたのか、ちらちらと周囲を観察し始める。

 

その観返る姿もまた映画のワンシーンを見ているような見応えがあった。

顔型が美形なのも相まって男子特有の充足感があったが、やはり美人は何をしても得なものだ。

 

「それで、お名前は?」

「あ、申し遅れました。私の名前は若宮イヴです!今後ともどうぞよろしくお願いします!」

 

元気一杯な自己紹介に続いて綺麗なお辞儀を見せる彼女。中々どうして一緒にいて退屈しなさそうな性格だ。

 

そこからは先ほどの、一方的に意識していただけとは言え、剣呑だった雰囲気とは打って変わって和気藹々とした時間が流れていった。

 

話を聞く限り、どうやら若宮さんは日本人とフィンランド人のハーフらしく、日本の文化に前々から憧れを抱いていたらしい。

日本文化に魅せられた外人の典型というか、特に武士の生き様に惚れこんでいて、今回みたいに修行の日々を過ごしているとの事。

 

「それで最近修行が行き詰まり気味だから、それを打破しようとしたわけか……」

「はい。私は立派な武士になるために日々トックンに励んでいますが、限界を感じていて……」

「なるほど、事情は大体把握した。ちょっとここで待っていてくれ、直に戻る」

「……?分かりました!」

 

幼稚園児のように無垢な表情の返事に、思わず眼を背けたくなる感情が湧き上がって来た。

純粋すぎて自分が穢れた存在に思えてしまうくらいだ。

彼女の善意を無駄にしないべく、速やかに目的の物を見つけるべく商品棚の方へと足を向けた。

 

武士道の志を追い求めること自体、否定する気はさらさら無い。

今の日本人がいつしか彼方に忘却してしまった教訓を貪欲に学ぶ姿は、きっと何よりも尊いはずだ。外人が学ぶと言う事実に奇妙さを感じずにはいられないが、それでもきっと善い行いなのだろう。

 

だからこそ、その意志を尊重したいと思う事は間違いではないはずだ。

ならば、自分なりに彼女の道程を応援しようではないか。

 

「あった、これだ」

 

捜索する事数分、ようやく目的の品を発見した。

本来なら山ほど本が並んでいる場所から探し当てるのは至難の業であるはずだが、生憎自分は暇があれば片っ端から読み潰しているので大体は位置を把握しているのだ。

客が少なく配置がめったに変化しないのも要因の一つだが、そこは言わぬが花だろう。店長的に。

 

いつまでも待たせるのは申し訳ないので、片手にそれを携えやや早歩きで彼女の元に戻る。

 

「待たせたな。……何をしている?」

「あ、お帰りなさい!これはメイソーです。精神を統一する上でこの上ない方法だとマヤさんから聞きました!」

「そ、そうか。なんか邪魔してすまんな」

 

彼女、意外と逞しいな。自分ならまず初見の店で瞑想はしない。

この度胸こそが彼女の行動力の秘訣なのだろうか。是非このコミュ障に伝授していただきたいものだ。

 

「実は、これを君に渡したくてな」

「これは……随分と古びた一冊ですね?」

「まぁ、そういった本が置いてあるのが古本屋だからな。で、それは江戸時代辺りに活躍したとされる、戦国大名の一生を描いた作品だ」

「なるほど。これを読めばまた一歩ブシドーの道が歩めるかもしれません……」

 

本を手に取り、水を得た魚のように目を輝かせる彼女。

そう、自分が用意したのは歴史小説だ。

自分には本に関わることしか取り柄が無いが、それでもそれが彼女の成長の支えになるならば協力しようと考えたのだ。

過去の心得は、過去の偉人達から学ぶのが最適解だろう。

 

「それで、もしよければだが。また店に来てくれたら、君に合いそうな本を見繕って---」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「ふぁい!?」

 

思わず不可思議な声を発してしまったが仕方が無いと思う。

だって、勢い良く立ち上がったと思ったら自分の手をがしっと握りしめてきたのだから。

店員として女性と僅かながら会話することはあれど、こうして握手をするなど幼稚園児以来では無いだろうか。

……自分で言っていて悲しくなってきたのは気のせいだと信じたい。

 

「今後ともよろしくお願いしますね!」

「……ああ、よろしく」

 

彼女の眩しいまでの満面の笑みに答えるべく、出来る限り口元を意識して微笑ませる。

自分が無愛想なのは自覚しているので相手を不快にさせていないか心配だったが、彼女の表情からしてどうやら杞憂だったらしい。

最も、彼女の性格的にそのような些細なこと気にしないかもしれないが。

 

初対面の時にはどうなるかと思っていたが、何とか歓談できる程まで仲を深めることが出来て、内心安堵の息を溢した。

 

コミュ障的に自ら負担を増やした感が否めないが、既に交わした約束だ。

破ってしまったらそれこそ『ブシドー』に反するだろうから、必ず守らなければならない。でなければ彼女に申し訳がつかないから。

 

「ところで、さっきまで持っていた本はどこに?」

「あ!つい興奮して投げ出してしまいました!」

「おい!?」

 

前途多難そうだが、退屈しないことだけは保証されているのは確かみたいだ。

というか彼女と一緒にいると叫んでばかりで酸欠になりそうだが、本当に大丈夫だろうか?




主人公→意外と面倒見がいいタイプ。未だに中二病思考を引きづったりする模様だが、流石に表に出す年頃は脱却したらしい。
名前はまだ無い()

若宮イヴ→話にしやすそうだと思ったら意外と口調が難しかった子。ひらがなとカタカナの調和を取るのが大変だった。
主人公に口説かれて新たな顧客となった。この出会いが彼女のブシドーにどう影響していくのかはまだ誰にもわからない……
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